結論
三菱自動車は、ASEAN とオフロード車に軸足を置く小さな完成車メーカーだ。年間の販売は約 80 万台で、トヨタの 8 分の 1 にも届かない。筆者の結論は、今の値段は安い側にあるが、その安さは利益が底から戻ることに頼っている、というものだ。10 年で割安と出る。
稼ぎの本拠は ASEAN だ。ピックアップのトライトンと 3 列シートのエクスパンダーが柱で、フィリピンは世界で 3 番目に大きい市場になっている。ただ、その足元に中国の BYD が入り込み、フィリピンのシェアは 1 年で 1.2 ポイント下がった。
もう 1 つの逆風は米国だ。自前の工場を持たないため、2026 年 3 月期は関税で営業利益が 474 億円削られた。営業利益は 755 億円、利益率は 2.6% まで落ちている。
会社は 2029 年度に営業利益 1,600 億円、ROE 10% を掲げる。新型パジェロの投入と、プラットフォームの集約による開発費の圧縮が柱だ。筆者の中立は、台数が 86 万台前後で頭打ちになり、利益率は過去の中央値と同じ 4.6% に落ち着く姿だ。会社の目標には届かない。それでも今の利益は底に近く、戻るだけで見える景色は変わる。
支えは財務の安全性だ。純現金が 807 億円あり、自己資本比率は 38% を保つ。底の年でも、会社が崩れる姿は描きにくい。一方で、日産の持ち株売却を縛る契約が 2026 年 10 月に切れる。再編の材料にはなるが、価値を押し上げるとは限らない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、三菱自動車は「安く買えたら持てる会社」にすぎない。持ち続けたい事業とは言いにくい。
理由は 3 つある。第 1 に、稼ぐ力が景気と為替に左右される。過去 12 年のうち 3 回、営業利益率が 1% を割った。第 2 に、堀が浅い。値付けの力がなく、中国勢が参入すれば価格で負ける。第 3 に、オーナーの手に残る利益が小さい。投資を続けても、ROE は資本コストを下回る年が多い。
ただ、悪い点ばかりではない。純現金があり、自己資本比率は 38%。深い谷が来ても、財務で潰れる姿は描きにくい。時価総額は自己資本の 0.5 倍で、資産の面から見た安全域はある。
問題は、その安全域が利益で裏づけられていないことだ。底の利益が戻れば安く見えるが、戻らなければ安さは幻になる。会社の 2029 年度の目標が実現すれば、時価総額は今より大きく上がる。ただ、筆者の中立は、台数が足元の会社見通し(86 万台弱)で頭打ちとなり、利益率も過去の中央値にとどまる姿だ。前の計画は台数も利益も届かなかった。10 年後の ROE も資本コストをやや上回る程度にとどまる。
経営は、前計画の台数偏重を反省し、価値に軸を移した。筆者はこの反省を評価する。ただ、実績で証明されるまでは、確度を割り引いて見る。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、車を売って得る代金だ。2026 年 3 月期の小売は 79.7 万台で、地域別ではアジアが 25.6 万台と最も多い。北米 16.5 万台、日本 12.2 万台が続き、オセアニア、欧州、中東・中南米が残りを占める。
主力はピックアップのトライトンだ。ASEAN、豪州、中東、中南米で売れ、荷台つきの頑丈な車を求める市場で一定の評価を持つ。MPV のエクスパンダーはインドネシアとフィリピンの家族需要を取り込み、フィリピンでは 2025 年に販売 1 位の車種になった。
日本では軽自動車を日産との合弁で作り、水島で次の世代の軽 EV と軽ガソリン車を共同で出す。欧州ではルノー車をもとにした小型車を売る。北米ではアウトランダーとそのプラグインハイブリッドが中心で、自社工場を持たない。
地域別の損益は、2026 年 3 月期に ASEAN が 229 億円の黒字、日本が 178 億円の黒字、北米が 191 億円の黒字、豪州・ニュージーランドが 75 億円の赤字だった。北米はなお稼ぎ頭だが、1 年で 769 億円から 191 億円へ細った。
同社は大きな金融子会社を持たない。販売金融・中古車・部品などの周辺事業を、1 台あたりの収益を上げる手段として育てる方針だ。
優良さと弱いところ
堀は浅い。三菱自動車の強みは、悪路に強い SUV とピックアップという個性、それに ASEAN の販売網である。規模の経済も、ブランドの値付け力も、トヨタやホンダの水準には遠い。
利益率がそれを示している。営業利益率の最高は 2023 年 3 月期の 7.8% で、赤字の年も 2017 年、2020 年、2021 年と何度もあった。景気や為替の風が変わると、利益は大きく動く。
資本の効率は低い。ROE は直近で 1.1% まで下がり、2015 年 3 月期の 17.9% の面影はない。ここ数年は関税、為替、ASEAN の販売減で稼ぐ力が削られた。
経営の方向は変わりつつある。前の計画は台数を追って豪州の強みを失い、販売店のブランド力も下がったと、加藤隆雄 CEO 自身が認めた。新計画は台数より価値に切り替え、開発する車種を絞り、足りない車種は提携で補う。筆者は、この割り切りを好意的に見る。
それでも、日産・ルノーとの提携、鴻海との EV、北米での日産工場の活用と、頼る相手は多い。独り立ちした強さとは言いにくい。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
三菱自動車の市場は、ASEAN を中心とする新興国の車と、先進国の SUV の 2 つに割れる。世界の新車販売は 2025 年に約 9,980 万台。成長は新興国が担い、先進国は買い替えが中心だ。
ASEAN は主戦場だ。主要国の新車市場は合わせて約 300 万台と見え、三菱はそのうち 8% 前後を持つ。フィリピンだけで 49 万台ほどの市場があり、三菱は 17.6% を握る。ただ、そこへ BYD が 1% から 5.3% まで一気に食い込んだ。価格で戦う中国勢の電気自動車とプラグインハイブリッドが、日本車の牙城を削り始めている。
競合はトヨタ、いすゞ、ホンダ、フォード、そして中国勢だ。ピックアップではトヨタのハイラックス、いすゞのDマックス、フォードのレンジャーが三菱と同じ客を取り合う。
米国は関税が重い。日本から運ぶ車に追加の関税がかかり、現地生産に切り替えるまで利益を削る。三菱は日産の北米工場でピックアップを作る道を選んだが、実を結ぶのは数年先だ。
豪州も課題だ。かつての強みがアジア向けの開発で薄れ、2026 年 3 月期は営業赤字に落ちた。鴻海が作る EV を今年投入して立て直しを図る。
業界の悲観は、中国勢が ASEAN と中東で価格を壊し、日本勢の利益率を数ポイント削るという筋書きだ。楽観は、HEV とピックアップの需要が底堅く、新興国の車の普及が早まる筋書きになる。
資本政策と M&A
資本政策は、守りから攻めへ動き始めた。新ビジョンは 4 年で約 1 兆円の成長投資と、約 1,000 億円規模の株主還元を掲げる。配当は今の水準を 2 期続ける予定で、利益の水準を考えれば無理のない額だ。
大株主は日産(26.7%)と三菱商事(22.2%)。日産は 2024 年に保有株の一部を三菱自動車へ売り、持ち分は 34% から下がった。2026 年 10 月には、主要株主の売却を縛る約束が 10 年の期限を迎える。
この満了で再編の思惑は出たが、2026 年 9 月の報道では、日産は軽の共同開発など協業が再建に要るため出資を当面維持し、三菱商事を含む三菱グループ 3 社も保有を続ける意向とされる。日産・ルノーの提携が薄まっても、三菱自への直接の影響は、欧州向け小型車の供給や軽の共同開発の枠にとどまる。
2025 年 2 月には、ホンダと日産の統合協議が破談になり、三菱を含む 3 社の覚書も解約された。筆者は、日産が自社の立て直しを優先する間、三菱への関与は細っていくとみる。
現金は純額で 807 億円と、時価総額の 17% にあたる。ただ、粗利の薄い事業で、車種の更新に 1 兆円を使う計画の中では、余剰とは言いにくい。
点検済み:起点の 2026/03 は純利益 100 億円の谷で山ではなく、中立の営業利益率 4.6% は過去 12 年の中央値 4.5%(平均 3.5%)と同じで、台数は会社見通しの 86 万台に抑えた(旧は 95 万台)。株数は発行済から自己株を除いた値と一致。関税・中国勢・ASEAN の価格競争はやや悲観・悲観の筋書きと確率(合わせて 45%)で表した。
還元の点検(P4 2026-10-19):開示は「4年で約1,000億円」と「キャッシュ・フロー・財務・業績を見て安定的に維持」のみで、配当性向の目標は見つからなかった(今期予想の性向53.5%は10円据え置きの結果)。中立の10年の還元4,000億円は、4年で1,000億円とその後6年を純利益の約5割(今期予想の性向に近い)に置いた形と同じ水準で、方針の範囲。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
三菱自動車の利益は、いま底にある。米国関税の 474 億円と為替の 374 億円という、一時的な逆風を除けば、営業利益は 1,600 億円近くまで戻る力がある。2026 年 3 月期の四半期の営業利益は 56 億円、117 億円、143 億円、439 億円と、年度の終わりへ向けて立ち上がってきた。
新型パジェロとデスティネーターなど、新型車が立ち上がる。13 車種を 6 年で出す計画の中身は、ASEAN とオフロードという自社の得意分野に集中しており、散らばっていない。プラットフォームを 5 つから 3 つに絞り、開発期間を 45 か月から 36 か月に縮めれば、固定費の負担は確実に軽くなる。
ASEAN の新車市場は人口の増加と所得の上昇で、10 年かけて広がる。三菱はフィリピン、ベトナム、日本を重点に据え、ここで 1 台あたりの利益を上げる。純現金が厚いので、投資を続けながら配当も出せる。
日産の売却制限が 2026 年 10 月に切れる。ホンダや鴻海のような資本の相手が出れば、規模の弱さが解消し、再評価が進む。利益が 2029 年度に目標どおり立ち上がれば、時価総額は今の 2 倍にも届く。
慎重な見方
利益の回復を信じるには、材料が足りない。2026 年 3 月期の営業利益率は 2.6%、ROE は 1.1% で、資本コストの 8.75% には遠く及ばない。会社が描く 2029 年度の 1,600 億円は、過去の計画が何度も未達に終わった実績の上に立つ。前の計画も台数と利益の両方で届かなかった。
ASEAN は三菱の稼ぎの中心だが、中国勢が最も激しく攻める市場でもある。フィリピンでは BYD が 1 年で 5.3% を取った。価格を下げて対抗すれば、利益率は 1 台ごとに削られる。ピックアップでも、トヨタ、いすゞ、フォードに加えて、中国勢の新型が来る。
米国の関税は、自前の工場がない三菱にとって構造的な弱点で、日産の工場に頼る解決は数年先になる。豪州も赤字に落ちた。中東の情勢は 2027 年 3 月期の利益を 300 億円削る。
さらに、頼る相手が多すぎる。日産とルノー、鴻海、そして北米の日産工場に依存し、いずれも相手の事情に左右される。日産自身が再建中で、三菱を支える余裕は小さい。売却制限の満了は再編の材料でもあるが、買い手がつく保証はなく、持ち分の売却が株価の重しになる恐れもある。
どちらに重みを置いたか
強気の指摘は的を射ているが、利益の立ち上がりを数字で裏づけるには、実績が足りない。慎重な指摘のほうが重い。ROE が資本コストを下回る年が続き、ASEAN での BYD の追い上げは足元の事実だからだ。
そのため、確率は中立と悲観に寄せた。それでも、底に近い今の利益が戻るだけで、総合では割安と出る。10 年はやや悲観を 29%、悲観を 16% と厚くした。台数も、2020 年度以降の 6 年が 74〜84 万台に収まっており、中立は会社見通しの水準を保つ置き方にとどめた。ただ、純現金と自己資本比率の厚みがあるので、悲観でも会社が崩れる筋書きにはしていない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 976 円1.31 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 238 円3,184 億円)。 今の値に割り戻すと 578 円7,740 億円、今との差 +67.5%、 期待の年率 +13.4%(資本コスト 8.8%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 2,351 円3.15 兆円 | 486 円6,500 億円 | +722.0% | +23.4% | 170 円2,278 億円 |
| やや楽観 | 17% | 1,749 円2.34 兆円 | 381 円5,100 億円 | +517.1% | +20.0% | 362 円4,846 億円 |
| 中立 | 32% | 1,235 円1.65 兆円 | 299 円4,000 億円 | +344.6% | +16.1% | 491 円6,572 億円 |
| やや悲観 | 29% | 379 円5,074 億円 | 142 円1,900 億円 | +51.0% | +4.2% | 151 円2,022 億円 |
| 悲観 | 16% | 202 円2,706 億円 | 45 円600 億円 | −28.4% | −3.3% | 40 円529 億円 |
| 加重平均 | 100% | 976 円1.31 兆円 | 238 円3,184 億円 | +251.7% | +13.4% | 1,214 円1.62 兆円 |
今の株価時価総額 345 円4,619 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.8% を下回るほど割高。
楽観 6% ASEAN で中国勢をしのぎ、価値重視が成功する 利益 2,340 億円 · PER 13.5 倍 · 株価時価総額 2,351 円3.15 兆円
ASEAN の市場は 400 万台近くへ広がり、三菱はピックアップと MPV の強みを守って 9% の持ち分を維持する。世界の小売は 104 万台と、直近 6 年の最高を大きく超える。新型パジェロからの小型 SUV まで広がるシリーズが、ブランドの価値を引き上げる。
HEV と PHEV の自社開発が当たり、プラットフォームの集約で固定費の重さも消える。営業利益は 3,300 億円弱、利益率は 6% を超え、会社が 2030 年代前半に掲げる 2,000〜2,500 億円を上回る。日産や鴻海などとの提携も生き、規模の弱さを補う。
筆者は、この筋書きの鍵を固定費に見る。13 車種を 6 年で出し、プラットフォームを 3 つに絞る計画が、台数が増えても人も設備も増えない構造を作る。それが利益率を 6% 台へ押し上げる。
- 先進国(北米・日本・欧州):数量 38.0(小売販売台数(万台))× 価格 560(平均販売単価(万円/台、名目))→ 売上 21,280 億円・営業利益 1,383 億円。営業利益率 6.5%
- 新興国・豪州・中東(アジア・オセアニア・その他):数量 66.0(小売販売台数(万台))× 価格 480(平均販売単価(万円/台、名目))→ 売上 31,680 億円・営業利益 1,901 億円。営業利益率 6.0%
倍率:事業の純利益 2,340 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.7% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 11.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.5 倍。全体の PER 13.45 倍、時価総額 31,473 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:新型車の当たり、関税の緩和、ASEAN での中国勢の抑え込みが同時に要る。台数 104 万台は、直近 6 年の最高(約 84 万台)を 2 割超える水準で、前の計画が未達だった実績から 6% にとどめた。
やや楽観 17% 新ビジョンの 2030 年代前半の目標に届く 利益 1,820 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 1,749 円2.34 兆円
ASEAN の市場の広がりに乗って台数を 96 万台まで伸ばし、ピックアップでは中国勢にシェアを少し譲りつつ、単価は物価並みに上げる。北米はピックアップの現地生産で関税の負担が軽くなり、日本では軽 EV が堅調に売れる。
営業利益は 2,500 億円ほど、利益率は 5.3% で、会社の目標に近い。ROE は 13% と資本コストを上回り、株主還元も増える。ただ、ブランドの価値が大きく高まるところまでは行かない。
豪州では鴻海が作る EV が補完の役に立ち、赤字の地域が黒字に戻る。HEV と PHEV の自社開発も一定の成果を出し、規制が厳しい欧州や日本で値付けを守れる。会社の新ビジョンが、ほぼ描いたとおりに実る姿だ。
- 先進国(北米・日本・欧州):数量 36.0(小売販売台数(万台))× 価格 545(平均販売単価(万円/台、名目))→ 売上 19,620 億円・営業利益 1,118 億円。営業利益率 5.7%
- 新興国・豪州・中東(アジア・オセアニア・その他):数量 60.0(小売販売台数(万台))× 価格 465(平均販売単価(万円/台、名目))→ 売上 27,900 億円・営業利益 1,423 億円。営業利益率 5.1%
倍率:事業の純利益 1,820 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.3% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 10.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍。全体の PER 12.86 倍、時価総額 23,405 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:2030 年代前半の目標(営業利益 2,000〜2,500 億円)に届く筋書き。台数 96 万台は、直近 6 年のどの年も超えていない水準で、成功すれば自然な姿だが、未達の実績から 17% にとどめた。
中立 32% 台数は足元の見通しの水準を保ち、利益率は 4% 台半ばで落ち着く 利益 1,360 億円 · PER 12.2 倍 · 株価時価総額 1,235 円1.65 兆円
最も重みを置く筋書き。回復の方向と ASEAN の市場の伸びは認めつつ、中国勢の価格圧力と台数の頭打ちで、会社目標には届かないとみた。
世界販売は 86 万台前後で、2027 年 3 月期の会社見通し(85.7 万台)を保つ姿だ。2020 年度以降の 6 年は 74〜84 万台で動いており、これより一段高い。ASEAN の市場は 400 万台近くへ広がるが、三菱は BYD などに取られて持ち分を 8% 弱へ下げ、アジアの小売は 25.6 万台から 30 万台ほどにとどまる。北米は日産の工場でのピックアップが立ち上がり、日本は軽の共同開発が支える。
営業利益は 1,900 億円、利益率は 4.6% と、過去 12 年の中央値(4.5%)と会社が 2029 年度に掲げる水準に並ぶ。会社の 2030 年代前半の目標(5.5% 以上)には届かない。HEV・PHEV と提携車で車種はそろい、ROE は 11% 近くになる。単価は物価並みに上がるが、それ以上の値付けの力は持たない。
日産は持ち分を保ち、三菱商事も安定した大株主として残る。配当と自社株買いは利益の 6 割弱で、自己資本はゆっくり積み上がる。
- 先進国(北米・日本・欧州):数量 33.5(小売販売台数(万台))× 価格 534(平均販売単価(万円/台、名目))→ 売上 17,876 億円・営業利益 894 億円。営業利益率 5.0%(北米は関税が残り、日本は軽が支える)
- 新興国・豪州・中東(アジア・オセアニア・その他):数量 53.0(小売販売台数(万台))× 価格 454(平均販売単価(万円/台、名目))→ 売上 24,078 億円・営業利益 1,035 億円。営業利益率 4.3%
倍率:事業の純利益 1,360 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.9% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.2 倍。全体の PER 12.16 倍、時価総額 16,538 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:台数は 2027 年 3 月期の会社見通し(85.7 万台)の水準を保つ姿で、10 年を通した最頻の筋書き。利益率は過去 12 年の中央値と、会社が 2029 年度に掲げる 4.5% に並べた。
やや悲観 29% 中国勢の価格攻勢で、新興国の単価が実質で下がる 利益 590 億円 · PER 8.6 倍 · 株価時価総額 379 円5,074 億円
BYD をはじめとする中国勢が、ASEAN と中東で価格を壊す。ピックアップと MPV の単価は物価に追いつかず、実質で 1 割近く下がり、台数も落ちる。三菱は台数を守るため値引きに付き合い、利益率が 2% 台まで下がる。
北米では関税が長引き、日産の工場でのピックアップも期待に届かない。世界販売は 77 万台前後と今より縮み、営業利益は 900 億円弱、ROE は 5% 台にとどまる。それでも純現金と自己資本の厚みで配当は守る。
筆者は、この筋書きがもっとも起こりやすい悪い姿だと見る。ASEAN の中国勢は電気自動車の価格を年ごとに下げ、日本車の値付けの力を削る。会社の努力が追いつかず、利益率が伸びない 10 年になる。
- 先進国(北米・日本・欧州):数量 31.0(小売販売台数(万台))× 価格 515(平均販売単価(万円/台、名目))→ 売上 15,965 億円・営業利益 479 億円。営業利益率 3.0%
- 新興国・豪州・中東(アジア・オセアニア・その他):数量 46.0(小売販売台数(万台))× 価格 420(平均販売単価(万円/台、名目))→ 売上 19,320 億円・営業利益 386 億円。営業利益率 2.0%
倍率:事業の ROE 5.5% は k 8.8% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER の上限は 1÷k = 11.4 倍。規模が小さく ASEAN に偏り、為替・関税で利益が振れる。上限の 7.5 割の 8.6 倍に置いた。
確率:ASEAN の中国勢の値下げはすでに進み(フィリピンで BYD が 1 年で 1% から 5.3%、2026 年 4〜6 月期の ASEAN 販売は 7% 減)、台数が 77 万台に縮み単価も実質で下がる姿は、起こりやすい。約 3 割を置く。
悲観 16% 構造的に負け、優良ではなくなる 利益 40 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 202 円2,706 億円
中国勢が ASEAN と中東で支配的になり、三菱は規模の小ささから値下げに耐えられない。ピックアップの優位は崩れ、新型車への投資も回収できず、工場の稼働率が下がって固定費が重くなる。
小売は 62 万台まで縮む。度重なる減損と構造改革の費用で自己資本は 8,200 億円まで減り、営業利益は損益ぎりぎりの水準になる。配当は大きく削られ、日産などとの再編の話も、買い手に有利な条件で進む。
配当は手元の現金と保有資産の売却で払うが、純利益の合計を上回る還元になる。この姿では、三菱は ASEAN の強みを失い、他社の傘下に入るか、小さな専業として生き残る選択を迫られる。
- 先進国(北米・日本・欧州):数量 24.0(小売販売台数(万台))× 価格 480(平均販売単価(万円/台、名目))→ 売上 11,520 億円・営業利益 115 億円。営業利益率 1.0%
- 新興国・豪州・中東(アジア・オセアニア・その他):数量 38.0(小売販売台数(万台))× 価格 380(平均販売単価(万円/台、名目))→ 売上 14,440 億円・営業利益 0 億円。営業利益率 0%
倍率:純利益 40 億円の稼ぐ力は約 470 億円にとどまる。ASEAN の強みも失った姿で、純現金 807 億円に、ASEAN の工場・販売会社の売却と保有株・遊休地を税引き後に足した 2,700 億円を床とし、床と同じ 2,706 億円(今の自己資本の約 0.29 倍)に置いた。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PBR 0.33 倍・時価総額 2,706 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:10 年のうちに中国勢のコスト優位と提携先の方針転換が重なり、独立した完成車メーカーとして成り立たなくなる筋書き。過去 12 年に赤字は 4 期あり、16% を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
先進国(北米・日本・欧州)
アウトランダー、軽自動車、欧州向けの小型車など。北米は輸入、日本は日産との合弁の軽が柱になる。
| 数量小売販売台数(万台) | 価格平均販売単価(万円/台、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 32.9 | 398 | 13,100 | 440 |
| 10 年後 中立 | 33.5 | 534 | 17,876 | 894 |
取り方:2026 年 3 月期の小売は北米 16.5 万・日本 12.2 万・欧州 4.2 万台で計 32.9 万台。売上は地域別の開示が無いので、北米を単価 480 万円前後、日本 240 万円前後、欧州 350 万円前後と推定し、全社の売上 2 兆 8,965 億円に合うよう按分して 1 兆 3,100 億円とした(単価は推定で約 398 万円)。営業利益は地域別開示の北米 191 億・日本 178 億・欧州 71 億の合計 440 億円。単価は物価並みに上がるのが基本(3 年 1.09 倍・10 年 1.34 倍)。台数は実質。
新興国・豪州・中東(アジア・オセアニア・その他)
トライトン、エクスパンダー、パジェロスポーツなど。ASEAN が主力で、豪州・中東・中南米へもピックアップを輸出する。
| 数量小売販売台数(万台) | 価格平均販売単価(万円/台、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 46.8 | 339 | 15,865 | 315 |
| 10 年後 中立 | 53.0 | 454 | 24,078 | 1,035 |
取り方:2026 年 3 月期の小売はアジア 25.6 万・オセアニア 7.1 万・その他 14.1 万台で計 46.8 万台。売上は上の先進国との残りで 1 兆 5,865 億円(単価は推定で約 339 万円。部品・KD 輸出・他社向け供給などの売上を含む)。営業利益は地域別開示の ASEAN 229 億・豪州ニュージーランド -75 億と、中南米・中東・その他と調整の 161 億(残り)で、合計して全社の 755 億円に合わせた 315 億円。ASEAN の市場は主要国で約 300 万台と見え、三菱のシェアは 8% 前後。フィリピンは 8.7 万台で市場約 49 万台の 17.6%。台数は実質、単価は名目。
リスクと懸念
BYD など中国勢の ASEAN 攻勢
フィリピンでは BYD が 2025 年に 1% から 5.3% へ一気に伸び、三菱のシェアは 18.8% から 17.6% に下がった。三菱の稼ぎの中心は ASEAN だから、中国勢が価格を下げて攻めれば、台数だけでなく 1 台あたりの利益が削られる。ピックアップにも新型が出れば、いまの強みが薄れる。
米国関税と自前工場の不在
2026 年 3 月期は関税が営業利益を 474 億円削った。三菱は米国に自前の工場がなく、車をすべて運び込む。日産の北米工場でピックアップを作る計画はあるが、立ち上がるのは数年先で、その間の負担は続く。関税が下がらなければ、北米の黒字は一段と細る。
新計画の未達
前の計画は台数も利益も当初の目標に届かなかった。新計画は 2029 年度に営業利益 1,600 億円を掲げるが、現在の 755 億円から倍以上の水準で、新型車の売れ行きに頼る部分が大きい。パジェロや 13 車種が思った以上に売れなければ、計画は崩れる。
提携先への依存
軽自動車は日産との合弁、欧州の小型車はルノーの車、EV は鴻海、北米のピックアップは日産の工場と、足りない部分を提携先に頼る。相手の事情で供給や開発が止まれば、自力で補う手段が乏しい。日産は自身の再建で手一杯だ。
中東情勢と為替
2027 年 3 月期の会社予想には、中東の影響として約 300 億円の減益が含まれる。為替は 2026 年 3 月期に 374 億円の悪化で、特にタイバーツが効いた。ASEAN 通貨の変動は、円換算の利益を直接動かす。
豪州の立て直し
豪州・ニュージーランドは、2026 年 3 月期に 252 億円の黒字から 75 億円の赤字へ落ちた。会社自身が、アジア向けの開発に偏って豪州で弱ったと認める。鴻海が作る EV の投入で立て直す計画だが、成功の保証はない。
日産の売却と株価への影響
日産・三菱商事らの売却制限は 2026 年 10 月に切れる。報道では日産・三菱商事とも当面は保有を続ける意向だが、日産は自社の再建中で、方針が変われば需給の重しになる恐れがある。逆に、新しい資本の相手が現れれば再評価の材料にもなる。
今後の分かれ目
- BYD など中国勢が ASEAN のシェアをさらに奪ったら
- 10 年のやや悲観・悲観の確率を上げる。新興国の単価と利益率の前提を下げる。
- 米国の関税が下がる、または日産の北米工場でのピックアップ生産が前倒しで始まったら
- 北米の利益が戻る道が開く。10 年の中立と楽観の営業利益を引き上げる。
- 新型パジェロとデスティネーターが計画を超えて売れたら
- 会社の 2029 年度目標が現実味を帯びる。やや楽観・楽観の確率を上げる。
- 日産が三菱自動車の保有株を大きく売る、または新しい資本の相手が決まったら
- 需給の悪化と再評価のどちらにも動く。新しい相手の規模と、供給や開発の条件を見て判断する。
- 2027 年 3 月期の営業利益が 900 億円を大きく割り込んだら
- 回復の遅れを重く見て、10 年の中立の利益を下げ、悲観の確率を厚くする。
- 豪州で鴻海の EV が立ち上がり、赤字から脱したら
- 豪州の黒字化で新興国セグメントの利益率の前提を引き上げる。
- 世界不況で販売が 3 割以上落ちたら
- 悲観の筋書きに入る。純現金と自己資本比率で耐えられる期間を確認する。
見ておくもの
- 四半期ごとの ASEAN の販売台数とフィリピンのシェア
- 米国関税の税率と北米の営業利益
- 新型パジェロの受注と立ち上がり
- 日産・三菱商事の持ち株の動き(売却制限の満了後)
- 会社予想の営業利益 900 億円の進み具合
倍率と資本コストの決め方
セグメントごとの台数×単価で10年の売上と利益を積み、その時点の ROE・資本コスト・成長から倍率を決めた。資本コストは基本7.5%に quality +1.25%(循環+0.5・値決め+0.25・寿命+0.5)を足した8.75%。倍率は利益ベースの正当化PERの上限(ROE が k を上回る筋書きは RONIC から、下回る筋書きは1÷k)の、楽観8.8割・やや楽観・中立8.5割、やや悲観7.5割に置いた。悲観は純現金に ASEAN の工場・販売会社と保有株の売却を税引き後に足した 2,700 億円を床にし、今の自己資本に掛けた。過去の PBR は使っていない。今の値段は最後に比べただけで、筋書きは今の値段から作っていない。中立の台数は、会社見通し(2027 年 3 月期 85.7 万台)を保つ 86 万台で、直近 6 年の 74〜84 万台より一段高い。結果は10年で約 +48% の割安。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.8→13.45 倍・やや楽観 PER 10.9→12.86 倍・中立 PER 10.3→12.16 倍)。
資本コスト 8.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.25% を足した 8.75%。ガバナンスや提携先への依存は k に足さず、筋書きと確率で表した。