結論
エクセディは、クラッチとトルクコンバータ(エンジンの力を変速機に伝える部品)に特化した部品会社だ。世界シェアは手動変速機(MT)向けクラッチで 22.1%、オートマ(AT)向けトルクコンバータで 23.7%。どちらも 2 割を超える。筆者の結論は、今の値段は割高ということだ。いちばんの理由は、売上の約 3 分の 2 を占める AT が電動化で細っていくことにある。
会社は手を打っている。2025 年度に政策保有株を全株売り、アイシンとの資本関係も解消して、自社株買いと増配を厚くした。ROE(自己資本利益率)は 2030 年度に 10% を狙う。ただ、この数字は資本を株主に返して分母を小さくする効果が大きい。利益そのものが伸びる話ではない。
10 年先の中立の姿は、AT の台数が今の 5 割台まで減り、MT・補修品と二輪、新事業が穴を埋める形だ。営業利益は名目で 3 割ほど増えるが、物価が 3 割強上がる世界では実質の成長にならない。成長を信じるなら新事業の黒字化に賭けることになるが、その実績はまだ薄い。
資本コストは 8.25%と、寿命の短い AT を抱える分だけ厚めに見た。その下で、10 年後の中立の価値は今の時価総額に届かない。確率で重みづけした総合でも 3 割ほどの割高になる。それでも補修品の稼ぎと手元の純現金が下支えするので、悪い筋書きでも崖にはならない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社を「縮む本業から出るお金で、次の事業を探している会社」と見る。トルクコンバータとクラッチは、堅い技術で世界の 2 割強を握る良い事業だ。ただ、良い事業でも需要が減る方向にあれば、持ち続けるほど価値が目減りする。
オーナーが受け取れる利益は、見かけの利益より小さい。AT の工場は電動化に備えた入れ替えが要らない代わりに、台数減で固定費が重くなる。いまの 7% 台の営業利益率を守るには、毎年の値上げ転嫁と効率化が欠かせない。
経営の資本配分は、ここ数年で明らかに良くなった。政策保有株を手放し、借金を使わず、純現金のまま自社株を買い、配当を引き上げた。これは株主にとって正しい方向だ。しかし、返せる原資は縮む AT の稼ぎであり、使い道を新事業へ向けた時に価値が増えるかが、これからの試金石になる。
安全域は、今の値段にはない。楽観でも買値が見合うのは一部の筋書きだけで、中立では 10 年の年率リターンが資本コストに届かない。悪い筋書きでも純現金と補修品が下を支えるので、大きく失う会社ではないが、払う値段に余裕がある会社とも言えない。予測の難しさは、新事業の黒字化時期と AT の減り方の 2 点に集まる。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は、完成車メーカー向けの変速機部品だ。売上の約 65% が AT 向け、約 24% が MT 向けで、合わせて約 9 割になる。AT の主力はトルクコンバータで、エンジンの回転を滑らかに変速機へ伝える。MT の主力はクラッチで、ここに 22.1% の世界シェアがある。
顧客は完成車メーカー 59 社(うち日系 19 社)に広がる。取引先にはスズキ、トヨタ自動車、日産自動車などが並ぶ。有価証券報告書は、特定の 1 社に頼る形ではないと説明している。海外売上比率は 60.1% で、地域別では日本が約 4 割、米州と中国がそれぞれ 1 割台半ばを占める。
利益の質は、MT と補修品が高い。会社の説明では、MT の営業利益率は 14% 前後、AT は 7〜8% だ。補修品は整備工場など約 5,500 社に売る。新車の生産が落ちても、走っている車があるかぎり交換の需要は出る。景気の波を和らげる、小さいが大事な柱だ。
周辺に二輪車用クラッチがある。インドネシアとインドで作り、2026 年 3 月期は売上が 43 億円増えた。今後は電動 2・3 輪向けの駆動ユニットへ広げ、2030 年までに年 230 億円ほどを狙う。
新事業は、英 Protean 社のインホイールモーター(車輪の中に入れるモーター)、農業用ドローン、川俣精機や扶和ドローンの連結などが並ぶ。2030 年度に売上 1,000 億円、全体の 3 割を目標にするが、いまは立ち上げの費用が先行して赤字になっている。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、摩擦・振動・流体の 3 つの技術と、半世紀を超える量産の経験だ。トルクコンバータは設計も試験も難しく、新規参入が少ない。AT の市場が縮むことは業界の共通認識なので、競合も新しい投資をしない。シェアを守りやすい環境だが、堀が事業を広げてくれるわけではない。守りの堀と考えるのが実態に近い。
値決めの力は強くない。完成車メーカーは毎年のように値下げを求める。2027 年 3 月期の増益要因の単価分(約 52 億円)は、物価上昇の転嫁がようやく通った結果だ。例外は補修品で、整備工場に選ばれた銘柄は高い利益率を保てる。
資本効率は戻りつつあるが、まだ強くない。ROE は 2023 年 3 月期に 2%、2024 年 3 月期は AT の設備の減損で赤字に落ちた。直近は 7% 台に戻したが、過去 10 年の中央値は 6% 台だ。波は大きく、安定して稼ぐ会社とは言いにくい。
経営は資本の使い方を変えた。政策保有株を売り、アイシンの売出しと同時に自社株を買い、自己資本比率 60% を保ちながら還元を厚くしている。筆者はこの姿勢を評価する。一方、成長投資 300 億円枠は過去の設備投資と同じ失敗を繰り返さないかが問われる。商用 EV の売上計画を 289 億円から 80 億円へ下げたのは、素早い修正とも、見通しの甘さとも読める。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
AT の市場は、電動化で長く縮むことが決まっている。会社自身が、2019 年以降の中国の電気自動車(BEV)優遇でトルクコンバータの需要が冷え込んだと説明する。2025 年度の製造販売は 700 万台後半で、2026 年度は 100 万台強の減少を見込む。世界の新車に占める EV の比率は約 25% で、10 年後は 4〜5 割に上がるのが業種全体の前提だ。
ハイブリッド車は方式によってはトルクコンバータを使わない。BEV に至ってはそもそも変速機が要らない。ただし、内燃機関車は 10 年後も世界の新車の半分近くを占める。その中で AT 車の台数がどこまで減るかが、エクセディの利益を決める。
競合は、AT ではアイシン、MT クラッチではシェフラーやヴァレオが挙がる。AT については、市場が縮むとみなが認めており、実質的な競争は起きていないとの見方(野村證券)もある。つまり、価格競争で負けるより、需要が先に消えるリスクのほうが大きい。
MT は新興国と欧州の一部に残る。ここも EV の波は来るが、AT より遅い。補修品は車の保有台数が支えるので、新車の減少より緩やかに減る。
二輪は伸びる側だ。インドの二輪生産は年約 1,900 万台で、なお増えている。ただし中国・インドの地場勢が力をつけ、日系の取り分は削られやすい。電動 2・3 輪は変速機つきの駆動ユニットが新しい需要になりうるが、これからだ。
米国の関税は、2026 年 3 月期に約 6 億円の追加負担が出た(還付を申請中)。顧客経由の対米輸出は約 660 億円ある。売価への転嫁を進めているが、関税が受注の減少に及ぶことが本当の心配だ。
資本政策と M&A
還元は厚く、方針もはっきりしている。2025〜2026 年度の 2 年間で総還元性向 100%、自己資本比率は 60% を保つ。その後も DOE(自己資本配当率)5% を下限に安定配当を続け、必要なら自社株買いを足す。2027 年 3 月期は増配と 80 億円の自社株買いを決めた。
株主の顔ぶれも変わった。2024 年にアイシンが持分 34.5% を全株売却し、資本関係を解消した。エクセディは自己株式取得で応えた。その後は旧村上ファンド系の投資会社が 2 割ほどまで買い増したと報じられ、株探の 2026 年 3 月末の一覧では自己株が 24.7% を占める。物言う株主の目があるなか、経営は資本効率の改善を急いでいる。2026 年度に指名委員会等設置会社へ移り、取締役会の過半を独立社外取締役とする計画だ。
政策保有株は 2025 年度に全株売却済みで、含み益という隠れた資産はもう無い。M&A は小粒の買収と出資が続く。Protean、川俣精機、扶和ドローン、baibars、AileLinX などで、成長投資の枠は 300 億円。大型買収で価値を壊すリスクは小さいが、小粒を積み重ねて黒字にできるかは別の問題だ。
TOB(株式公開買い付け)の可能性は、10 年以内で 18% と kabufu の推計が示す。アイシンの離脱で、トヨタ系の再編に巻き込まれる線は薄れた。買われるなら、物言う株主が資本効率の改善を迫った先の話になる。
還元は方針(DOE5%を下限、必要なら自社株買い)に沿い、中立は純利益の合計の約82%。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AT は思ったほど減らない。世界の新車の半分以上は 10 年後も内燃機関を積む。ハイブリッドを含めた変速機つきの車は、新興国の中間層の拡大でむしろ台数が増える地域もある。エクセディは世界シェア 23.7% を持ち、競合は縮む市場から手を引く。残る需要を取り込めば、AT の台数は 5 割台を保てる。
MT と補修品は稼ぎ頭として残る。世界の車の保有台数は増え、平均車齢も上がる。整備工場向けの補修クラッチは、銘柄選びで長く選ばれる。アフターの売上は 2030 年度に 574 億円を目指しており、利益率も高い。
二輪と電動 2・3 輪は、インドの人口と所得で伸びる。変速つきの駆動ユニットは、電動化でも構造が似ており、クラッチの技術を使える。2030 年までに年 230 億円という目標は、インド市場の大きさを考えれば現実味がある。
そして資本効率だ。政策保有株の売却、自社株買い、DOE 5% の下限、物言う株主の圧力が重なり、ROE は 10% を超えて定着する。新事業が 2030 年前後に黒字化すれば、利益は営業利益率 10% 台で数百億円の上積みになる。この見方では、今の値段は割安になりうる。
慎重な見方
AT の縮みは、会社の見立てより速い。会社自身が 2026 年度に 100 万台強の減少を見込んでおり、これは前年から 1 割を超える落ち込みだ。BEV の普及は中国で先に進み、欧米でもハイブリッドからの置き換えが進む。台数が 4 割減れば、固定費の重い AT の営業利益率は 7% から 4% 台へ落ちる。
値決めの力が弱い点も痛い。完成車メーカーは、台数が減る部品ほど値下げを迫る。2027 年 3 月期の単価改善 52 億円は、物価の転嫁が通った例外にすぎず、台数減の穴はそれより大きい。
新事業は、見通しの下方修正が続いている。商用 EV の 2030 年度売上は 289 億円から 80 億円へ下げた。Protean の黒字化は 2029〜2030 年と見込むが、インホイールモーターは量産実績が乏しく、先行する大手との競争も重い。1,000 億円の目標は、投資家に見せる数字にとどまる懸念がある。
ROE の改善も、中身を疑える。10% への道のりは、純利益の増加より、自己資本を使い切る還元の効果が大きい。還元の原資が縮む AT の稼ぎなら、いずれ減配の圧力が来る。10 年の利益は名目で伸びても、実質では減る。この見方では、今の値段は先をあまりに楽に見ている。
どちらに重みを置いたか
AT の縮みは確実で、新事業の黒字化はまだ見えない。この 2 点を重く見て、確率は中立から慎重寄りに置いた。ただし MT・補修品の稼ぎと純現金、還元の厚さは本物なので、悲観の確率は 15% にとどめた。楽観は、AT が 5 割台を保ち新事業も育つ必要があり、起きにくい。結果として、10 年の価値は今の時価総額を下回る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 5,481 円1,962 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 3,209 円1,149 億円)。 今の値に割り戻すと 4,640 円1,661 億円、今との差 −17.4%、 期待の年率 +4.5%(資本コスト 8.3%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 11,187 円4,004 億円 | 5,309 円1,900 億円 | +193.5% | +11.4% | 990 円354 億円 |
| やや楽観 | 18% | 8,318 円2,977 億円 | 4,331 円1,550 億円 | +125.1% | +8.5% | 2,277 円815 億円 |
| 中立 | 34% | 6,723 円2,406 億円 | 3,632 円1,300 億円 | +84.3% | +6.3% | 3,521 円1,260 億円 |
| やや悲観 | 27% | 2,686 円961 億円 | 2,654 円950 億円 | −5.0% | −0.5% | 1,442 円516 億円 |
| 悲観 | 15% | 2,012 円720 億円 | 1,062 円380 億円 | −45.3% | −5.9% | 461 円165 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,481 円1,962 億円 | 3,209 円1,149 億円 | +54.6% | +4.5% | 8,690 円3,110 億円 |
今の株価時価総額 5,620 円2,011 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 6% 楽観:ATが5割台を保ち、補修と電動2・3輪、新事業が花開く 利益 272 億円 · PER 14.7 倍 · 株価時価総額 11,187 円4,004 億円
世界の新車の半分は 10 年後も内燃機関を積み、AT 車の台数は想定ほど減らない。エクセディはトルクコンバータで世界シェア 2 割強を保ち、競合が撤退するなかで残る需要を取り込む。
MT と補修品は、保有台数の増加と整備需要で堅調に伸びる。二輪はインドの所得向上で拡大し、電動 2・3 輪向けの駆動ユニットが事業として立ち上がる。
新事業はインホイールモーターと農業用ドローンが量産に乗り、営業利益率 10% で黒字になる。全社の営業利益は 4 百億円台に乗り、ROE は 13% に届く。配当と自社株買いも厚く続く。
- AT(トルクコンバータほか):数量 546(AT 製品の製造販売数量(万台))× 価格 3.35(1 台あたり単価(万円))→ 売上 1,829 億円・営業利益 155 億円。台数 5 割台を維持
- MT クラッチ・補修品:数量 665(MT クラッチ・補修用クラッチの販売数量(万組相当))× 価格 1.43(1 組あたり単価(万円))→ 売上 954 億円・営業利益 143 億円。台数 95% を維持、補修が伸びる
- 二輪・産機ほか:数量 6,000(二輪車用クラッチほかの販売数量(万個相当))× 価格 0.09(1 個あたり単価(万円))→ 売上 563 億円・営業利益 62 億円。インドで台数 1.5 倍
- 新事業(電動・ドローンほか):数量 14.0(電動駆動ユニット・モーター・ドローンなどの納入(万ユニット))× 価格 54(1 ユニットあたり平均単価(万円))→ 売上 750 億円・営業利益 75 億円。電動駆動・ドローンが量産に乗る
倍率:事業の純利益 272 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.1% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.7 倍。全体の PER 14.72 倍、時価総額 4,004 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:世界の内燃機関車が長く残り、AT の台数が 5 割台を守り、新事業も計画に近く育つ必要がある。条件が多く、起きにくいので 6% にとどめた。
やや楽観 18% やや楽観:ATは緩やかに縮み、新事業が黒字化する 利益 223 億円 · PER 13.4 倍 · 株価時価総額 8,318 円2,977 億円
AT の台数は緩やかに減り、今の 6 割ほどにとどまる。単価の転嫁が通り、利益率は 8% を保つ。MT・補修品は堅調で、営業利益率は 14% 台半ばを維持する。
二輪はインドを中心に伸び、電動 2・3 輪の駆動ユニットも立ち上がる。新事業は 2030 年前後に黒字化し、10 年後に売上 500 億円台、営業利益率 7% 台に育つ。
全社の営業利益は 350 億円ほどになる。ROE は 10% 台まで上がり、会社の目標に近い水準を実現する。
還元は DOE 5% の下限を守りつつ自社株買いも続く。ただし、利益の伸びより、自己資本を絞った効果が大きい点は変わらない。AT の縮みが穏やかで、補修と二輪が堅い、まず成功といえる 10 年だ。
- AT(トルクコンバータほか):数量 484(AT 製品の製造販売数量(万台))× 価格 3.35(1 台あたり単価(万円))→ 売上 1,621 億円・営業利益 130 億円。台数 6 割、単価は物価並み
- MT クラッチ・補修品:数量 630(MT クラッチ・補修用クラッチの販売数量(万組相当))× 価格 1.43(1 組あたり単価(万円))→ 売上 903 億円・営業利益 131 億円。台数 9 割
- 二輪・産機ほか:数量 5,600(二輪車用クラッチほかの販売数量(万個相当))× 価格 0.09(1 個あたり単価(万円))→ 売上 525 億円・営業利益 55 億円。台数 1.4 倍
- 新事業(電動・ドローンほか):数量 10.0(電動駆動ユニット・モーター・ドローンなどの納入(万ユニット))× 価格 54(1 ユニットあたり平均単価(万円))→ 売上 536 億円・営業利益 40 億円。2030 年前後に黒字化
倍率:事業の純利益 223 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.2% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.4 倍。全体の PER 13.35 倍、時価総額 2,977 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AT は想定内に縮み、MT・補修と二輪が堅調で、新事業が 2030 年前後に黒字化する。起こりうる良い筋書きで、18% を置いた。
中立 34% 中立:ATは半分近く減り、MT・補修と二輪が穴を埋める 利益 179 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 6,723 円2,406 億円
AT の台数は 10 年で半分近く減る。単価の転嫁は物価並みに通るが、固定費の重さで利益率は 7% に下がる。MT・補修品は台数が少し減るものの、補修が支えて営業利益率は 13% 台半ばを保つ。
二輪は新興国の需要で台数が 3 割ほど増える。新事業は会社の目標の 3 分の 1 ほどの売上にとどまり、黒字化は 2030 年以降にずれ込んで、10 年後の営業利益率は 5% 程度になる。
全社の営業利益は名目で 280 億円ほどになる。物価の 3 割強の上昇を考えると、実質では今と同じ水準だ。ROE は 8% に届く。還元は DOE 5% の下限を守り、純利益の 8 割ほどを返す。
- AT(トルクコンバータほか):数量 429(AT 製品の製造販売数量(万台))× 価格 3.35(1 台あたり単価(万円))→ 売上 1,437 億円・営業利益 101 億円。台数 55%、固定費で利益率 7%
- MT クラッチ・補修品:数量 595(MT クラッチ・補修用クラッチの販売数量(万組相当))× 価格 1.43(1 組あたり単価(万円))→ 売上 853 億円・営業利益 115 億円。台数 85%、補修が支える
- 二輪・産機ほか:数量 5,200(二輪車用クラッチほかの販売数量(万個相当))× 価格 0.09(1 個あたり単価(万円))→ 売上 488 億円・営業利益 49 億円。台数 1.3 倍
- 新事業(電動・ドローンほか):数量 7.0(電動駆動ユニット・モーター・ドローンなどの納入(万ユニット))× 価格 54(1 ユニットあたり平均単価(万円))→ 売上 375 億円・営業利益 19 億円。目標の 3 分の 1、赤字から脱する程度
倍率:事業の純利益 179 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.8% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.49 倍、時価総額 2,236 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業種ノートの中心的な見通し(世界の EV 比率が 4〜5 割へ)に沿う。AT の台数は半分近く減り、新事業は目標の 3 分の 1 ほどにとどまる。最も重みを置く筋書き。
やや悲観 27% やや悲観:ATが速く縮み、新事業は赤字が続く 利益 105 億円 · PER 7.5 倍 · 株価時価総額 2,686 円961 億円
AT の台数は 5 割以上減り、値下げ圧力で単価は物価ほど上がらない。固定費の負担で AT の営業利益率は 4% 台まで落ちる。MT の営業利益率も 11% 台に下がり、補修品が最後の支えになる。
新事業は立ち上げが遅れ、10 年たっても赤字から抜けきれない。二輪は伸びるが、地場勢との競争で利益率は落ちる。
全社の営業利益は 170 億円前後と、今より減る。ROE は 5% を割る。還元は減配こそしないが、自社株買いは続かず、配当が中心になる。
物価で名目の売上は保たれても、実質では 3 割近い縮みだ。成長投資の 300 億円枠は十分な成果を出せず、投資家の見る目は厳しくなる。構造的な負けが始まった 10 年と言える。
- AT(トルクコンバータほか):数量 351(AT 製品の製造販売数量(万台))× 価格 3.20(1 台あたり単価(万円))→ 売上 1,123 億円・営業利益 51 億円。台数 45%、値下げ圧力
- MT クラッチ・補修品:数量 525(MT クラッチ・補修用クラッチの販売数量(万組相当))× 価格 1.35(1 組あたり単価(万円))→ 売上 709 億円・営業利益 82 億円。台数 75%、単価は物価ほど上がらない
- 二輪・産機ほか:数量 4,600(二輪車用クラッチほかの販売数量(万個相当))× 価格 0.09(1 個あたり単価(万円))→ 売上 405 億円・営業利益 36 億円。台数 1.15 倍、利益率低下
- 新事業(電動・ドローンほか):数量 4.0(電動駆動ユニット・モーター・ドローンなどの納入(万ユニット))× 価格 50(1 ユニットあたり平均単価(万円))→ 売上 200 億円・営業利益 −4 億円。赤字が続く
倍率:ROE 5% は k を大きく下回る構造的な負け。PER の上限 1÷k = 11.1 倍に対し、稼ぐ力の細りを考えて 7.5 倍に置いた(上限の 6.8 割。7 割へ引き上げていない)。
確率:AT の減りが速く、値下げ圧力で利益率が落ち、新事業が赤字を続ける。売上の 3 分の 2 が縮む事業であることを重く見て、中立に近い 27% を置いた。
悲観 15% 悲観:ATが崩れ、新事業も失敗して構造的に稼ぐ力を失う 利益 8 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 2,012 円720 億円
電動化が想定より速く、AT の台数は 7 割近く減る。完成車メーカーは減った台数の部品ほど値下げを迫り、AT は営業赤字に陥る。AT 工場の減損と生産再編が続き、人員の削減も必要になる。
新事業は計画を大きく下回り、Protean を含む投資は回収できない。MT・補修品と二輪が黒字を保つが、全社の営業利益はほぼゼロまで落ちる。
配当は初めの数年で止まり、還元も細る。利益がほとんど出ないのに、初めの数年は手元の純現金と遊休地の売却で配当と自社株買いを続けるため、還元の合計は利益の合計を上回る。
優良な部品会社の面影は薄れ、残るのは純現金と、補修品などの売れる事業になる。AT の設備は減損で大きく目減りし、自己資本も細る。
- AT(トルクコンバータほか):数量 234(AT 製品の製造販売数量(万台))× 価格 2.80(1 台あたり単価(万円))→ 売上 655 億円・営業利益 −13 億円。台数 30%、営業赤字
- MT クラッチ・補修品:数量 420(MT クラッチ・補修用クラッチの販売数量(万組相当))× 価格 1.15(1 組あたり単価(万円))→ 売上 483 億円・営業利益 34 億円。台数 6 割、補修品が黒字を保つ
- 二輪・産機ほか:数量 4,000(二輪車用クラッチほかの販売数量(万個相当))× 価格 0.08(1 個あたり単価(万円))→ 売上 300 億円・営業利益 18 億円。台数横ばい
- 新事業(電動・ドローンほか):数量 1.5(電動駆動ユニット・モーター・ドローンなどの納入(万ユニット))× 価格 40(1 ユニットあたり平均単価(万円))→ 売上 60 億円・営業利益 −6 億円。投資が失敗し赤字
倍率:赤字に近い筋書きなので、稼ぐ力でなく売れる資産の税後で測る。純現金と補修品・MT 事業などの売却の税後を合わせた約 720 億円を床とし、今の自己資本 1,927 億円の 0.37 倍に置いた。
確率:AT が崩れ、新事業も失敗して稼ぐ力を構造的に失う。純現金と補修品、還元の厚さがあるため、同領域の標準(15%)と同じにした。寿命の理由は k で見たので確率はさらに上げていない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
AT(トルクコンバータほか)
オートマチック車の変速機につなぐ、エンジンの力を伝える部品。トルクコンバータとクラッチ板が中心で、売上の約 3 分の 2 を占める。
| 数量AT 製品の製造販売数量(万台) | 価格1 台あたり単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 780 | 2.50 | 1,950 | 146 |
| 10 年後 中立 | 429 | 3.35 | 1,437 | 101 |
取り方:決算説明で 2025 年度の製造販売は 700 万台後半。売上の約 65%(約 1,950 億円)を AT と見て、台数 780 万台で割って 1 台 2.5 万円とした。営業利益率は会社説明の 7〜8% の中ほど 7.5% で 146 億円と推定。単価は物価並みに上がるのが基本(10 年 1.34 倍)。
MT クラッチ・補修品
手動変速機のクラッチと、アフター市場(整備工場向け)の補修用クラッチ。利益率が高い稼ぎ頭。
| 数量MT クラッチ・補修用クラッチの販売数量(万組相当) | 価格1 組あたり単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 700 | 1.07 | 749 | 105 |
| 10 年後 中立 | 595 | 1.43 | 853 | 115 |
取り方:MT の売上は約 24%(約 730 億円)、補修は別に年 400 億円台と開示があり重なるため、合わせて約 750 億円とみた。MT の営業利益率は会社説明で 14% 前後なので 105 億円。OEM 向けは世界シェア 22.1% で、台数は推定。
二輪・産機ほか
東南アジア・インドの二輪車用クラッチと、産業機械向けなど。ホンダなど二輪大手に納める。
| 数量二輪車用クラッチほかの販売数量(万個相当) | 価格1 個あたり単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4,000 | 0.07 | 280 | 28 |
| 10 年後 中立 | 5,200 | 0.09 | 488 | 49 |
取り方:二輪の個別開示はなく、2026 年 3 月期に二輪の売上が 43 億円増えたとの説明のみ。AT・MT の残り約 280 億円をここに置いた。インドの二輪生産は年約 1,900 万台で、クラッチは 1 台に複数使う。営業利益率は 10% と推定し 28 億円。
新事業(電動・ドローンほか)
英 Protean 社のインホイールモーター、電動 2・3 輪の駆動ユニット、農業用ドローンなど。まだ赤字を出している。
| 数量電動駆動ユニット・モーター・ドローンなどの納入(万ユニット) | 価格1 ユニットあたり平均単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.5 | 40 | 60 | −57 |
| 10 年後 中立 | 7.0 | 54 | 375 | 19 |
取り方:開示は無く、2030 年度の売上目標(新事業全体で 1,000 億円、うち電動 6 件で 708 億円)から逆に、いまは約 60 億円と推定。製品ごとに単価の違う品の平均として 1 ユニット 40 万円とした。新事業関連コストの増加でその他の営業利益は大きく落ちており、57 億円の赤字と推定。
リスクと懸念
電動化が想定より速い
売上の約 3 分の 2 を占める AT は、中国や欧州の BEV 普及で台数が会社の見立てより速く減りうる。固定費の重い AT の利益率は、台数が 3 割落ちるだけで 7% から 4% 台へ落ちる。2027 年 3 月期の AT 数量の減少(約 37 億円の減益要因)は、その入り口にすぎない。
値決め力の弱さ
完成車メーカーは台数が減る部品ほど値下げを迫る。2027 年 3 月期の単価改善(約 52 億円)は物価転嫁が通った例外で、毎年続く保証は無い。補修品は別だが、全体に占める割合は小さい。
新事業の失敗
成長投資 300 億円枠で、Protean、ドローン、電動 2・3 輪を同時に立ち上げる。商用 EV の売上計画は 289 億円から 80 億円へ下がった。黒字化が 2030 年以降にずれ込むと、AT の稼ぎを使い果たして株主還元が細る。
米国の関税と需要
顧客経由の対米輸出は約 660 億円。2026 年 3 月期の追加負担は約 6 億円(還付を申請中)にとどまるが、関税が完成車の受注を押し下げれば、部品にも響く。転嫁は進めても、需要減は転嫁できない。
物言う株主とガバナンス
旧村上ファンド系の投資会社が 2 割ほど保有したと報じられ、自己株を含む株の保有構造は動きやすい。資本効率を急ぐ圧力は還元の追い風だが、新事業への投資を縮める方向にも働く。2026 年度に指名委員会等設置会社へ移る計画の実行も見たい。
人材と製造の再編
AT の生産再編では、米国子会社の清算や中国 2 拠点の人員削減がすでに行われた。さらなる減損や人員調整が、AT の縮みとともに続く可能性がある。海外従業員は約 8,800 人で、現地の労務費上昇も利益率を押し下げる。
今後の分かれ目
- AT の製造販売台数が 2027 年度に会社の見立て(100 万台強の減少)を超えて落ちたら
- 中立から悲観側へ確率を移す。固定費の重さで AT の利益率が 5% を割るか確かめる。
- 新事業(Protean・ドローン・電動 2・3 輪)の黒字化が 2029 年度までに実現したら
- 楽観・やや楽観側に重みを移す。売上 500 億円以上、営業利益率 7% 以上が目安になる。
- 商用 EV のように、新事業の売上計画がさらに下方修正されたら
- 中立から慎重側へ。投資の回収時期が遅れ、還元が細る可能性を織り込む。
- 2027 年度以降も、物価転嫁(単価改善)が毎年 50 億円規模で通り続けたら
- 値決め力の評価を上げ、利益率の下がり方を緩やかに見直す。
- 還元の方針が、DOE 5% の下限を割るなど後退したら
- ROE 改善の質が悪化したと見て、倍率を下げる。純現金の行き先も確認する。
- 米国関税が完成車の生産を押し下げ、受注が減ったら
- 数量の下振れとして、中立から悲観側へ重みを動かす。
見ておくもの
- AT 製品(トルクコンバータ)の製造販売台数と、完成車メーカーごとの受注の動き
- AT・MT 別の営業利益率と、固定費の重さによる AT 利益率の低下
- 新事業(Protean・ドローン・電動 2・3 輪)の売上と黒字化の時期
- 補修品(アフターマーケット)の売上と利益率
- 総還元性向・DOE 5% の維持と、自社株買いの継続
- 米国関税の影響額と、還付の進み具合
- 大株主の動き(旧村上ファンド系ほか)と、指名委員会等設置会社への移行
倍率と資本コストの決め方
倍率は利益ベースで置き、今の株価・過去や同業の PER は使っていない。中立は ROE が k 8.25% に届かないため、上限 1÷k の 8.1 割(ROE÷k×0.9)の 9.0 倍。楽観・やや楽観は RONIC 方式(g 4.0%)の上限の約 8.4 割。やや悲観は上限の 6.8 割、悲観は純現金と売れる事業の税後を今の自己資本に掛けた。k は基本 7.5% に quality +1.5%(寿命 +1.0 が主)。AT の縮みは k と筋書きの数量で表し、悲観の確率には上乗せしていない。政策保有株は全株売却済みで含み益は無く、純現金 199 億円は時価総額の 1 割未満のため余った現金は分けていない。新リース会計基準は工場が自社保有中心で影響は小さいが、10 年後の数字は今と同じ形でそろえた。結果は約 3 割強の割高だが、株価に寄せて直してはいない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.6→14.72 倍・やや楽観 PER 9.8→13.35 倍・中立 PER 9.02→12.49 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.5% を足した 9.0%。AT の縮みは k(寿命)で一度だけ見て、悲観の確率はさらに上げていない。ガバナンスや新事業の失敗は k に足さず筋書きで表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.00% → 8.75%。