結論
テイ・エス テックはホンダ系の自動車シートメーカーだ。四輪シートが売上の大半を占め、ホンダ向けが約9割とされる。筆者の結論は「やや割高、下値は現金が支える」。割安と言い切れる材料は乏しい。
稼ぐ力が落ちているのが最大の問題だ。2026年3月期の営業利益率は2%台で、かつての9%台から大きく後退した。米州は売上の6割近くを占めるのに、利益はほとんど残らない。人件費と材料費が上がり、値上げで吸収できなかった。
一方、財務は厚い。純現金は時価総額の4割を超える。配当と自社株買いも、利益を上回る額を戻している。ここは評価できる。
10年で見ると、北米の採算がどこまで戻るかが全てだ。中立では営業利益率が5%台に戻る程度で、資本コストを上回る稼ぎにはならない。倍率は低くなり、余った現金を足しても、価値は今の値段をやや下回る。
筆者がいちばん気にしているのは、顧客がほぼ1社である点だ。ホンダの四輪が不振になれば、値決めの力が弱い部品会社は逃げ場が少ない。インドでスズキ向けを伸ばす動きはあるが、まだ規模が小さい。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、持ち続けたいと思える事業ではない。理由は単純で、稼ぐ力が資本コストに届いていないからだ。
事業の質を見ると、堀は薄く、値決めは顧客に握られている。10年後もシートは作られているだろうが、利益の大半を取るのは車を売る側だ。部品会社に残る利益は薄いままだと見る。
良い点は安全域だ。純現金が時価総額の4割強あり、赤字の期もほとんどない。最悪の場合でも、現金と売れる資産が下値を支える。これは大きい。
経営の資本の使い方は前向きに評価できる。配当と自社株買いを積極的に実施している。ただし、本業の利益がそれを賄えていないのは気になる。
余った現金は、戻す実績があるので価値に足してよい。足したうえで見ると、10年後の価値は今の値段をやや下回る。筆者は「やや割高」と見る。割安と言い切るには、北米の利益率が戻る証拠が足りない。
見極めるべきは1点。北米の営業利益率が5%に戻るかどうかだ。戻れば見方は一段階上がる。戻らなければ、現金だけの会社になる。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、車1台ごとに入るシートの代金だ。シートはフレーム、クッション、表皮を組み合わせた完成品で、車の中でも単価が高い部品である。ホンダの四輪シートのうち、約2/3を供給する(2026年3月期、会社資料の要約による)。
事業の中身を3つに分けて見る。1つ目はホンダ向けの四輪シート。売上の8割以上を占める本体だ。2つ目はホンダ以外の四輪。インドのスズキ向けや中国の現地メーカーなどで、小さいが伸ばしたい部分である。3つ目は二輪シートと内装などのその他。規模は小さいが、利益率は四輪より安定している。
地域では米州が売上の6割近くを占める。北米のホンダ工場の近くで作り、ジャストインタイムで納める。日本は売上の2割だが、利益の大半はここで出る。中国は売上の1割強で、利益率は高い。ただし日系の販売減で縮んでいる。
新事業として、車内空間をまとめて設計するキャビンコーディネート機能を掲げる。シートだけでなく内装全体で受注を取り、1台あたりの金額を増やす狙いだ。まだ収益への寄与は小さい。電動化で内装の部品が減る流れの中で、シート単体から守りを固める意味もある。
優良さと弱いところ
堀は広くない。シートはホンダの新型車ごとに共同開発で入り込むため、切り替えにくさはある。しかし値段は完成車メーカーが握る。毎年の原価低減要請を受け、材料費や人件費の上昇は価格に乗せにくい。
世界のシート大手には、米国のアディエントとリア、トヨタ紡織、フランスのフォルヴィアなどがいる。規模では上位に入るが、利益率は自慢できる水準ではない。過去10年の営業利益率は、最高でも9%台、直近は2%台だ。
資本効率は低い。自己資本利益率は直近で2%台、過去10年の中央値でも5%である。厚い現金と自己資本が収益を薄めている。
良い点は財務の堅さと、赤字の期がほとんどないことだ。リーマン期でも黒字を保った。経営は還元に積極的で、配当は自己資本に対する比率(DOE)3.5%以上を掲げる。
弱い点は2つある。顧客がホンダに偏っていること、そして北米の利益率が戻らないことだ。会社自身、中期計画の目標が届かないと認めている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
自動車シートの需要は、世界の新車生産台数にほぼ比例する。2025年の世界新車販売は約9,980万台で、伸びは緩やかだ。日本国内は人口減で細り、成長は新興国に偏る。
車の電動化は、シートにとって大きな害にはならない。EVでも座席は要るからだ。むしろ軽量化と内装の質感が競争の軸になり、1台あたりの金額は上がる余地がある。ただし、顧客が新型EVの計画を見直せば、受注の量が先に崩れる。ホンダは電動化の計画を見直しており、この影響が直撃している。
価格は完成車メーカーが決める。部品点数が減れば単価も下がる。人件費と鋼材・樹脂の上昇は部品側が先にかぶる。
競争の形は2つに割れている。トヨタ系はトヨタ紡織が握り、ホンダ系は当社が握る。系列の外にいる米国勢は、日産や欧米の各社に深く入っている。中国では地場のシート会社が育ち、日系の販売減と合わせて当社の中国事業を圧迫している。
再編の動きもある。系列の部品会社を統合する流れが続いており、ホンダ系で再編が起きれば当社も無関係ではない。ただし具体的な計画は確認できていない。
資本政策と M&A
資本政策は株主向きだ。中期計画(2024〜26年3月期)で、3年間の総還元500億円規模を掲げた。うち自社株買いは200億円で、2025年3月期に約150億円を実行した。1株配当も毎期増やしてきた。
ただし、利益を超える還元は長くは続かない。2026年3月期の配当性向は約150%で、純現金の取り崩しで賄う形だ。
筆頭株主はホンダで、保有は約2割とされる(大量保有報告書ベースの二次情報)。親会社とまでは言えないが、顧客と大株主が同じである。
M&Aの実績は目立たない。インドでスズキ向けのサプライヤーと合弁を作ったのが最近の動きだ。TOBの可能性は、データ上は10年で2割強とされる。ホンダ系の再編が起きれば、あり得る話ではある。
政策保有株を減らす明確な方針は確認できなかった。
還元は累進配当の積み上げが中心で、中立は純利益の合計を約170億円上回る。超える分は余った現金から配るので、中立の余った現金は500億円から330億円に減らした。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
北米はこれ以上悪くならない。自動化設備の導入と生産ロスの改善で、2025年3月期の米州は2期連続の増益だった。2026年3月期の落ち込みは、主要顧客の減産と一時的な経費増による部分が大きい。生産が戻れば利益は反発する。
ホンダはハイブリッドを軸に北米で販売を伸ばしている。ホンダの四輪の約2/3を供給する当社は、この伸びを直接受ける。EVの投資計画の見直しも、むしろシートには追い風だ。
インドが育つ。スズキ向けの主要サプライヤーとの合弁で工場を増やしており、ホンダ以外の売上は数倍になりうる。顧客の偏りは時間とともに薄まる。中国でも現地メーカーの商権を取りに動いており、日系の落ち込みを補える。
財務は鉄壁だ。純現金は時価総額の4割強あり、還元も厚い。利益が戻るまでの時間を買える。利益率が2%台から過去の中間値の6〜7%に戻れば、利益は倍以上になる。今の値段は、その回復をまったく織り込んでいない。厚い現金を持ちながら、市場は事業に値段をつけていない状態だ。
慎重な見方
利益が戻る根拠は、願望に近い。過去3年、会社は北米の「V字回復」を掲げ続けたが、米州の営業利益率は1%以下だ。材料費と人件費は物価で上がり、顧客は値上げを認めない。構造の問題である。
顧客はほぼ1社だ。ホンダの四輪が世界で伸び悩めば、当社は代わりの売り先を持たない。中国では日系の販売が崩れ、当社の中国事業も縮んでいる。インドは魅力的だが、規模はまだ小さい。
資本効率が低すぎる。自己資本利益率は2%台で、資本コストの半分にも届かない。厚い現金は価値ではなく、ためこんだ利益だ。ためた利益は、額面どおりの価値を持たない。
還元も長続きしない。配当性向は150%で、現金の取り崩しだ。このまま続ければ、安全域は削られる。
シートは単価が高いため、電動化で部品点数が減り、他社にまとめて持っていかれる危険もある。10年後に今より強い会社になっているとは考えにくい。値上げの力を持たない部品会社に、厚い現金だけを評価するのは危うい。
どちらに重みを置いたか
強気の言い分も弱気の言い分も、半分ずつ当たっていると見る。北米の回復は、自動化の成果から見て起こり得る。ただし利益率が過去の9%台に戻るほどの構造の変化は、確認できない。
中立は、営業利益率が5%台に戻る筋書きとした。顧客の偏りと、値決めの弱さは重い。この点でやや慎重な見方を採用し、悲観寄りの確率に15%を置いた。ホンダ以外の売上が伸びる上振れは、小さい確率にとどめた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,130 円2,489 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,090 円1,274 億円)。 今の値に割り戻すと 1,667 円1,948 億円、今との差 −5.7%、 期待の年率 +6.2%(資本コスト 8.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 5% | 5,161 円6,030 億円 | 1,883 円2,200 億円 | +298.5% | +14.8% | 352 円411 億円 |
| やや楽観 | 18% | 3,580 円4,183 億円 | 1,541 円1,800 億円 | +189.7% | +11.2% | 922 円1,077 億円 |
| 中立 | 35% | 2,199 円2,569 億円 | 1,284 円1,500 億円 | +97.0% | +7.0% | 1,219 円1,424 億円 |
| やや悲観 | 27% | 1,107 円1,293 億円 | 856 円1,000 億円 | +11.1% | +1.1% | 530 円619 億円 |
| 悲観 | 15% | 1,061 円1,240 億円 | 257 円300 億円 | −25.4% | −2.9% | 198 円231 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,130 円2,489 億円 | 1,090 円1,274 億円 | +82.2% | +6.2% | 3,220 円3,763 億円 |
今の株価時価総額 1,768 円2,065 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 5% ホンダ回復とインドで北米が立ち直る 利益 391 億円 · PER 14.4 倍 · 株価時価総額 5,161 円6,030 億円
ホンダがハイブリッドを軸に北米で台数を伸ばし、当社の供給も増える。北米工場の自動化が定着し、人件費の上昇を吸収して、米州の営業利益率は5%を超える。
インドではスズキ向けに加え、複数の新規顧客を得る。ホンダ以外の四輪売上は今の数倍に伸び、顧客の偏りは大きく薄まる。
全社の営業利益率は10%に近づき、過去の高い時期に並ぶ。株主還元は利益の範囲で安定して続き、余った現金も還元に回る。それでも、シートの値段を握るのは顧客で、堀が広がるとまでは言えない。ホンダとの関係はむしろ深まり、系列の中での地位は固まる。
- 四輪シート(ホンダ向け):数量 237(ホンダ向けシート供給台数(万台))× 価格 24(1台あたりシート売上(万円/台))→ 売上 5,775 億円・営業利益 462 億円。ホンダ向け 営業利益率 8.0%
- 四輪シート(ホンダ以外):数量 88.0(ホンダ以外向けシート供給台数(万台、推定))× 価格 14(1台あたりシート売上(万円/台))→ 売上 1,232 億円・営業利益 111 億円。ホンダ以外 営業利益率 9.0%
- 二輪・その他:数量 600(二輪シート等の供給数(万個、推定))× 価格 0.64(1個あたり売上(万円))→ 売上 382 億円・営業利益 38 億円。二輪・その他 営業利益率 10.0%
倍率:事業の純利益 384 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.2% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)500 億円。全体の PER 14.4 倍、時価総額 6,030 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:悲観より楽観を薄くした。顧客の偏りと値決めの弱さが重く、北米の利益率が過去の高さまで戻る確率は低いとみた。ただし自動化の成果とインドの伸びで、5%は置く。
やや楽観 18% 北米が緩やかに戻り、ホンダ以外が育つ 利益 297 億円 · PER 12.7 倍 · 株価時価総額 3,580 円4,183 億円
北米の生産が安定し、自動化の効果で米州の営業利益率は4%台まで戻る。ホンダの四輪台数は小幅に増える。
インドと中国の現地メーカー向けが伸び、ホンダ以外の売上は2倍近くになる。ただし規模はまだ全体の1割強で、顧客の偏りは残る。ホンダとの関係は安定し、新型車の受注も続く。中国は現地メーカーとの取引を増やし、日系の落ち込みを一部補う。
全社の営業利益率は6%台に回復する。過去の高水準には届かないが、資本コストに近い稼ぎになる。還元は利益の範囲内に収まり、現金は緩やかに減る。北米の自動化投資の効果が出そろうまでに数年かかり、回復は階段状に進む。
- 四輪シート(ホンダ向け):数量 226(ホンダ向けシート供給台数(万台))× 価格 24(1台あたりシート売上(万円/台))→ 売上 5,356 億円・営業利益 348 億円。ホンダ向け 営業利益率 6.5%
- 四輪シート(ホンダ以外):数量 76.0(ホンダ以外向けシート供給台数(万台、推定))× 価格 14(1台あたりシート売上(万円/台))→ 売上 1,034 億円・営業利益 78 億円。ホンダ以外 営業利益率 7.5%
- 二輪・その他:数量 600(二輪シート等の供給数(万個、推定))× 価格 0.62(1個あたり売上(万円))→ 売上 371 億円・営業利益 33 億円。二輪・その他 営業利益率 9.0%
倍率:事業の純利益 290 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.2% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)500 億円。全体の PER 12.7 倍、時価総額 4,183 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:楽観より厚くした。自動化と生産ロス改善の成果は2期連続の増益で確認できており、緩やかな回復は十分にありうる。
中立 35% 北米は5%手前まで戻り、資本コストには届かない 利益 195 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 2,199 円2,569 億円
ホンダの四輪台数は横ばいから小幅増で、物価分の値上げはほぼ価格に反映される。北米は自動化で採算が少し戻るが、材料費と人件費の上昇で、米州の営業利益率は4%台にとどまる。
インドのホンダ以外は育ち、台数は1.6倍に伸びる。中国は現地メーカーとの競争で横ばいにとどまる。
全社の営業利益率は5%台に戻る。過去の高さには届かず、自己資本利益率は資本コストを下回ったままである。厚い現金は戻す方針が続き、株主には配当を中心に還元される。ホンダとの関係は安定し、大きな再編も起きない。10年たっても、会社の姿は今とあまり変わらない。
中立では10年の還元が純利益の合計を約170億円上回るので、その分は余った現金から配るものとし、余った現金を500億円から330億円に減らして置く。
- 四輪シート(ホンダ向け):数量 219(ホンダ向けシート供給台数(万台))× 価格 23(1台あたりシート売上(万円/台))→ 売上 5,126 億円・営業利益 231 億円。ホンダ向け 営業利益率 4.5%
- 四輪シート(ホンダ以外):数量 64.0(ホンダ以外向けシート供給台数(万台、推定))× 価格 13(1台あたりシート売上(万円/台))→ 売上 858 億円・営業利益 52 億円。ホンダ以外 営業利益率 6.0%
- 二輪・その他:数量 600(二輪シート等の供給数(万個、推定))× 価格 0.61(1個あたり売上(万円))→ 売上 366 億円・営業利益 29 億円。二輪・その他 営業利益率 8.0%
倍率:事業の純利益 190 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.0% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)330 億円。全体の PER 11.76 倍、時価総額 2,569 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:確率は3つの筋書きの中心に置いた。回復の兆しはあるが、顧客の値決めの強さと偏りが重いため、強気より慎重に寄せた。
やや悲観 27% ホンダの減産が続き、北米は薄利のまま 利益 123 億円 · PER 7.8 倍 · 株価時価総額 1,107 円1,293 億円
ホンダの四輪が北米と日本で伸びず、台数は1割ほど減る。材料費と人件費は上がる一方、値上げは通らず、価格は物価を下回る。
米州は黒字を保つが、営業利益率は2%台にとどまる。中国は日系の販売減が続いて縮む。インドは伸びるが、全体を支えるほど大きくならない。
全社の営業利益は今の水準をやや上回る程度にとどまる。自己資本利益率は4%台で、還元は配当を中心に減らさざるを得ない。純現金は取り崩しが進み、安全域は薄まる。中国の利益も、日系の販売減で目減りする。ホンダ系の再編が議論に上がるが、具体的な動きには至らない。
- 四輪シート(ホンダ向け):数量 194(ホンダ向けシート供給台数(万台))× 価格 23(1台あたりシート売上(万円/台))→ 売上 4,388 億円・営業利益 154 億円。ホンダ向け 営業利益率 3.5%
- 四輪シート(ホンダ以外):数量 52.0(ホンダ以外向けシート供給台数(万台、推定))× 価格 13(1台あたりシート売上(万円/台))→ 売上 676 億円・営業利益 27 億円。ホンダ以外 営業利益率 4.0%
- 二輪・その他:数量 600(二輪シート等の供給数(万個、推定))× 価格 0.59(1個あたり売上(万円))→ 売上 355 億円・営業利益 21 億円。二輪・その他 営業利益率 6.0%
倍率:事業の ROE 4.6% は k 8.5% 以下で正当化 PER の上限は 1÷k = 11.1 倍。利益が薄く値は顧客が決めるので、上限の 7 割の 7.8 倍に置いた。余った現金は0.75倍の 375 億円で足した。
確率:慎重な見方が強いとみて、中立に近い厚さを置いた。顧客の偏りと値決めの弱さで、悪い方に振れる確率は高い。
悲観 15% ホンダ向けが構造的に縮み、赤字に沈む 利益 −90 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 1,061 円1,240 億円
ホンダが調達先を絞り、四輪の世界生産も縮む。当社の供給台数は3割減り、値下げ要請で価格は物価に追いつかない。北米工場は稼働が落ち、固定費が重くのしかかる。
中国は日系の撤退で事業が大きく縮み、インドの伸びでは穴を埋められない。北米の工場に減損が出て、全社は赤字に転じる。
配当は大きく減らされる。それでも、純現金と売れる資産が下値を支える。工場の統廃合を進め、事業の規模を縮めながら生き残る筋書きだ。ホンダが筆頭株主として残っても、シートの発注は他社に分散し、当社は系列の中で存在感を失う。還元は減配と自社株買いの停止で絞られ、配当は純現金の取り崩しと遊休資産の売却で払い、現金は工場の整理費用に消える。
- 四輪シート(ホンダ向け):数量 151(ホンダ向けシート供給台数(万台))× 価格 20(1台あたりシート売上(万円/台))→ 売上 3,019 億円・営業利益 −30 億円。ホンダ向け 営業利益率 -1.0%
- 四輪シート(ホンダ以外):数量 40.0(ホンダ以外向けシート供給台数(万台、推定))× 価格 12(1台あたりシート売上(万円/台))→ 売上 460 億円・営業利益 0 億円。ホンダ以外 営業利益率 0.0%
- 二輪・その他:数量 540(二輪シート等の供給数(万個、推定))× 価格 0.52(1個あたり売上(万円))→ 売上 282 億円・営業利益 9 億円。二輪・その他 営業利益率 3.0%
倍率:赤字の筋書きなので稼ぐ力でなく売れる資産で測る。売れる資産の税引き後 約1,300億円を床とし、今の自己資本 約3,100億円の0.4倍に置いた。
確率:顧客がほぼ1社で、値決めも弱い構造から、15%と厚めに置いた。資本コストの理由とは別に、この筋書きの確率で顧客の偏りを表した。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
四輪シート(ホンダ向け)
ホンダ向けの自動車シート。ホンダの四輪の約2/3を供給する主力。
| 数量ホンダ向けシート供給台数(万台) | 価格1台あたりシート売上(万円/台) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 215 | 17 | 3,750 | 55 |
| 10 年後 中立 | 219 | 23 | 5,126 | 231 |
取り方:ホンダ向け供給は215万台(2026年3月期、会社資料の要約)。売上は連結4,423億円から二輪・その他273億円とホンダ以外の四輪約400億円を引いた3,750億円と推定し、台数で割って1台あたり17.4万円を逆算した。営業利益は米州が15億円まで落ちたことを踏まえ、全社103億円を55億円・25億円・23億円に割り振った推定。価格は物価並み(10年1.34倍)が基本。
四輪シート(ホンダ以外)
インドのスズキ向け、中国の現地メーカー向けなど、ホンダ以外の四輪シート。
| 数量ホンダ以外向けシート供給台数(万台、推定) | 価格1台あたりシート売上(万円/台) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 40.0 | 10 | 400 | 25 |
| 10 年後 中立 | 64.0 | 13 | 858 | 52 |
取り方:ホンダ依存が最終販売ベースで約9割という資料から、非ホンダの四輪を売上の1割弱の約400億円と推定。インドは小型車中心で単価が低いので1台10万円と置き、台数40万台を逆算した。営業利益率は6%台とみた推定。価格は物価並みが基本。 数量は実物(供給台数)。インドのホンダ以外の受注が育ち 1.6 倍。価格は物価並み。
二輪・その他
二輪車のシートと、内装・樹脂部品などその他。
| 数量二輪シート等の供給数(万個、推定) | 価格1個あたり売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 600 | 0.46 | 273 | 23 |
| 10 年後 中立 | 600 | 0.61 | 366 | 29 |
取り方:四輪以外の売上を273億円と推定。二輪シートは1個あたり数千円が相場なので0.455万円と置き、600万個を逆算した。利益率は8%台とみた推定。開示が乏しいため根拠は粗い。価格は物価並みが基本。
リスクと懸念
ホンダ依存
売上のほぼ9割がホンダ向けとされる。ホンダの四輪が世界で不振になったり、シートの発注先を変えたりすれば、当社には代わりの売り先が少ない。顧客の戦略変更がそのまま業績に響く。
北米の採算が戻らない
米州は売上の6割近くを占めるのに、営業利益は2026年3月期に15億円まで落ちた。人件費と材料費の上昇を価格に乗せられない状態が続くと、全社の利益は戻らない。
中国事業の縮小
中国は日系メーカーの販売減で売上が縮み、利益率は高いが金額は減っている。現地EVメーカーの台頭が続けば、日系向けの供給は一段と細る。現地メーカーの商権獲得も途上である。
電動化と新機種の見直し
ホンダはEVを含む新機種の計画を見直している。シートは新型車ごとに開発するので、計画の変更はそのまま受注と生産台数の減少につながる。開発費だけ先に出る危険もある。
還元の持続性
配当性向は約150%で、利益を超えて純現金から払っている。利益が戻らなければ、還元の水準を下げるか、現金を減らし続けるかの二択になる。市場の評価にも響く。
品質問題とリコール
シートは安全に直結する部品で、リコールの費用は大きい。2026年3月期にも関連の費用が出た。品質問題は費用だけでなく、顧客の信頼にも傷がつく。
ホンダ系の再編
系列の部品会社を統合する動きが業界で続く。ホンダが調達を絞り込んだり、他の部品会社と組ませたりすれば、当社の立場は変わりうる。確認できる具体策は今のところ無い。
今後の分かれ目
- 北米の営業利益率が3年以内に4%を超える
- 全社の利益が倍以上に戻る道が開け、見方は一段上がる。顧客の偏りを差し引いても、強気の筋書きの確率を高めてよい。
- ホンダが北米・日本で四輪の減産を続ける
- 固定費の重いシート工場の稼働が落ち、営業利益は数十億円に縮む。やや悲観の筋書きが中心になる。
- インドでスズキ以外の顧客を数社獲得する
- ホンダ以外の売上が育ち、顧客の偏りが薄まる。寿命の評価が改善し、資本コストの見方も変わる。
- 配当を利益並みに下げ、現金を自社株買いと投資に回す
- 還元の持続性の不安は消えるが、市場の期待は一時的に下がる。余った現金の戻り方の評価には影響しない。
- ホンダ系の部品再編で当社が統合される、または買収される
- 売却価格はTOBで上乗せされる可能性がある。ただし条件次第で、少数株主に不利な形もありうる。
見ておくもの
- 米州の営業利益率(四半期ごと)
- ホンダ四輪の世界生産台数と新機種の計画
- インド合弁の工場の稼働と新規顧客の獲得
- 配当と自社株買いの額、現金残高
- 中国の売上と現地メーカー向けの商権の進捗
倍率と資本コストの決め方
倍率は式で決めた。10年中立の ROE は6%台で資本コスト8.5%を下回るので、倍率の上限は 1÷k = 11.1 倍とし、その9割の 10.0 倍に置いた。楽観側は ROE が k を超える分を RONIC 方式で上限を出し、その9割強にとどめた。悲観は構造的な負けで赤字とし、純現金と売れる資産の税後を床に今の自己資本へ掛けた。余った現金は戻す実績があるので帳簿の額を足した。過去・同業の PER と PBR は使っていない。今の株価に合わせて数字を直してはいない。新リース会計基準(2028年3月期から)で純負債と営業利益の形が変わるが、10年後の数字は今と同じ形に揃えて置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.5→14.4 倍・やや楽観 PER 10.5→12.7 倍・中立 PER 10→11.76 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.5%(循環 +0.5・値決め +0.5・借金 0・寿命 +0.5)を足した 9.0%。北米の不振やホンダ依存は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.00% → 8.50%。