結論
名村造船所は、佐賀県伊万里の工場でばら積み船を造る中堅の造船会社だ。国内では今治造船、ジャパンマリンユナイテッド、大島造船所に次ぐ4番手で、傘下に函館どつくを持つ。直近の営業利益率は17%台と、この会社の歴史では最高の水準にある。
筆者の結論は「割高」だ。いちばんの理由は、いまの利益が造船の好況の頂点にあることにある。過去10年のうち5年は赤字で、利益率が1割を超えたのは直近3年だけだ。新造船の価格は高値圏で、世界の建造量の6割を握る中国が値段を崩す力を持つ。
追い風もある。受注残は約4,200億円と1年半分以上あり、政府は2035年に国内の建造量を倍にする目標を掲げた。名村は10年で最大1,500億円を投じ、うち最大499億円は国の基金が助成する。能力が増えれば、数量は伸びる。
それでも、造船は設備に大金を縛られる商売だ。稼いだ利益の多くは次のドックに回り、株主に戻る分は少ない。自己資本が膨らむ一方で、利益は景気ごとに大きく振れる。10年後の中立の利益は、いまの水準を下回る。
純現金が約1,000億円あるのは安心材料だが、船主から先に受け取る前払い金に支えられた面が大きい。悲観の局面でも会社は潰れないが、株主の取り分は大きく目減りする。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「持ち続けたい事業」とは言いにくい。理由は、利益が景気に左右されやすく、しかも稼いだお金を次の設備に回し続ける必要があるからだ。
オーナー利益、つまり株主が自由に使える利益は、帳簿の純利益より小さい。ドックを維持し、環境対応の船を開発し続けなければ、数年で競争から落ちる。1,500億円の投資計画は、その必要性の表れだ。
堀は、ほとんど評価できない。中型ばら積み船は、船主が価格と納期で選ぶ商品であり、中国・韓国の造船所とほぼ同じ土俵で戦う。10年後も安定して稼いでいると、確信を持って言える事業ではない。
一方で、財務の安全性は評価できる。赤字が5年続いても会社が潰れなかったのは、現金が厚かったからだ。安全域、つまり価値と値段の差で見ると、いまの値段は好況の頂点の利益を前提にしており、余裕がない。好況の利益に高い倍率を掛けた値段を払うことに、バリュー投資家はもっとも慎重になる。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、船を造って船主に引き渡すことだ。中心はハンディ型やカムサマックス型といった中型のばら積み船で、鉄鉱石・石炭・穀物を運ぶ。2026年3月期から、大型船も手がける体制に切り替えた。船価の高い船種を増やし、1隻あたりの稼ぎを上げる狙いだ。
造船は前受金の商売だ。船主は契約時から引き渡しまで、数回に分けて代金を払う。受注残が積み上がるほど手元の現金は厚くなる。純現金は約1,000億円あるが、その大半は将来の工事に使うお金だと筆者は見ている。
生産拠点は伊万里に集まった。佐世保の新造船事業は2021年に休み、能力を伊万里へ寄せた。伊万里では総額231億円の設備投資が2030年3月まで続き、大型ドックの新設も検討中と報じられている。函館どつくは北海道で、中型船などを担う。
能力は年間の引き渡し隻数で決まり、一度埋まれば数年先まで売上が見える。数量は、伊万里の建造能力と、中国・韓国の造船所との受注競争で決まる。値段は、船種ごとの市況で決まる。名村は値段を自分で決められる立場にない。鋼材や人件費の上昇を、契約の値段に転嫁できるかが利益率を左右する。
優良さと弱いところ
優良さは「普通に良い、だが堀は浅い」と評価する。直近3年の利益率の高さは本物だが、堀、つまり他社がまねできない強みの裏付けは薄い。
強みは、中型ばら積み船で積み重ねた設計と建造の経験だ。省エネ船型を磨き、船主から繰り返し受注している。生産を伊万里に集め、無駄を削った。その成果が、売上は横ばいでも利益率が上がった直近の姿に出ている。
弱みは3つある。第1に、船種が限られ、中国・韓国の造船所と同じ船で競っている。船主にとって造船所の選び方は価格と納期が決め手で、切り替えの費用は低い。第2に、規模が小さい。世界の建造量のうち名村の取り分は1%にも満たない。第3に、過去10年のうち5年は赤字だった。景気の谷で、会社は何年も利益を出せなかった。
財務は強い。自己資本比率は5割を超え、純現金も厚い。ただし、造船の現金は前受金に支えられており、工事で損が出ると、すぐに減る。資本の使い方は、設備に厚く、配当は薄めだ。成長にお金を使う姿勢は理解できるが、株主への返し方は控えめだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
世界の新造船の建造量は2025年で約7,700万総トン。このうち中国が6割超を占め、韓国と日本がそれぞれ3割弱と1割強で続く。日本の取り分は縮み続けてきた。
いまは、環境規制による船の入れ替え需要が下支えしている。国際海事機関の脱炭素規制が強まるほど、古い船を新しい省エネ船に替える動きが続く。一方で、ばら積み船の発注は2025年に前年比5割減と大きく落ちた。引き渡しは2026年に6年ぶりの高水準になる。船が増える分、先の発注には逆風となる。
競争の形は単純だ。中国は国家の支援を背景に量で押し、韓国は液化天然ガス船などの高付加価値船を握る。日本は中型船や特殊な船で生き残りを図る。名村はばら積み船の中堅で、韓国のような技術の壁もなければ、中国のような規模もない。
政府は、日本の造船業を立て直すために、2035年までに官民で1兆円を投じ、建造量を倍にする方針だ。名村・函館どつくも、設備投資の一部の助成を受けることが決まった。国の後押しは、能力の増強を実現させる助けにはなる。ただし、助成は設備をつくるお金で、受注と船価を保証するものではない。
今治造船を軸にした国内の再編も話題に上る。国内4番手の名村は、再編の主役でも、買われる側でもありうる位置にいる。
資本政策と M&A
資本政策は、成長投資を優先する。配当は2027年3月期に前期比2割増やす予定だ。純利益に対する割合は3割に届かない。自社株買いはしていない。
買収では、2014年に佐世保重工業を株式交換で完全子会社にした。しかし、造船の需要が落ち込んだ2021年に新造船事業を休み、能力を伊万里へ移した。結果として、買収による規模拡大は、価値を生まなかった。
今後の資金の使い道は、伊万里の設備投資が中心だ。10年で最大1,500億円を投じ、助成が最大499億円ある。資金は、前受金と手元の現金で賄える水準だ。自社株買いを大きく増やす余地は小さい。
再編や株式の買収については、確かめられる材料がない。造船の国内再編は動いており、名村が当事者になる可能性は排除できない。ただ、確率の根拠は持たない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
国が本気で造船を立て直す。2035年に建造量を2倍にする目標があり、名村・函館どつくは設備の助成も受ける。能力が増えれば、数量はそのまま増える。受注残は約4,200億円と厚く、この先2〜3年の売上は見えている。
大型船の建造に踏み出した効果も大きい。船が大きいほど1隻の稼ぎは大きく、ケープサイズ型の船価は他の船型より底堅い。ここに伊万里の大型ドックが加われば、中型船専業という弱点が和らぐ。環境規制で古い船の入れ替えが10年続くなら、受注は途切れにくい。
財務の力も強気の材料だ。純現金は約1,000億円あり、設備投資を自己資金で賄える。赤字が5年続いても潰れなかったのは、この厚みがあったからだ。さらに、利益率は直近で17%台まで上がった。生産を伊万里に集め、無駄を削った成果が、数字に表れている。
中国の造船は世界の6割を占めるが、地政学の摩擦や貿易の制限が強まるほど、日本の造船所を選ぶ船主は増える。国の後押し、受注残、現金の厚みの3つがそろった今、10年で利益が今より大きくなる筋書きは十分ありえる。
慎重な見方
いまの利益は、好況の頂点だ。過去10年のうち5年は赤字で、利益率が1割を超えたのは直近3年だけである。景気の谷が来れば、受注が急に落ち、造船所の稼働が下がる。固定費の重い造船は、数量が落ちるだけで赤字になる。
ばら積み船の発注は2025年に前年比5割減となった。2026年には引き渡しが6年ぶりの高水準になる。船が増えれば、船主は新しい船を急がなくなり、受注が細る。そこへ、中国の造船所が国家の支援を背景に値段を下げれば、日本の中堅はひとたまりもない。
国の助成は設備のお金で、受注と船価を保証しない。設備だけ増えて、船が埋まらなければ、固定費が重くなるだけだ。10年で最大1,500億円の投資は、需要が弱い局面では重荷になる。
資本の使い方も気がかりだ。配当は純利益の3割に届かず、自社株買いはない。稼いだお金は設備に回り、自己資本は膨らむが、株主に戻らない。その結果、ROEは資本コストに届かない水準にとどまりやすい。いまの値段は、好況の頂点の利益が10年続くことを前提にしている。
どちらに重みを置いたか
事業が崩れる確率は低いが、いまの値段に見合うほど稼ぎ続ける確率はもっと低い。強気の言い分は、受注残の厚さと国の後押しという、2〜3年の確かさに強い。慎重な言い分は、10年で見たときの景気の波と、設備に縛られるお金の重さに強い。
10年の確率は、中立とやや悲観に厚く置いた。楽観は国の後押しが実を結ぶ道筋として1割、やや楽観は2割にとどめた。10年の中立は、設備投資が進み、利益率が景気の平均に戻る姿だ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,725 円2,591 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,060 円737 億円)。 今の値に割り戻すと 2,307 円1,605 億円、今との差 −44.7%、 期待の年率 +1.4%(資本コスト 8.8%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 8,032 円5,586 億円 | 1,803 円1,254 億円 | +135.9% | +9.0% | 984 円684 億円 |
| やや楽観 | 20% | 5,813 円4,043 億円 | 1,501 円1,044 億円 | +75.4% | +5.8% | 1,463 円1,017 億円 |
| 中立 | 32% | 3,727 円2,592 億円 | 1,196 円832 億円 | +18.1% | +1.7% | 1,576 円1,096 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,775 円1,235 億円 | 695 円483 億円 | −40.8% | −5.1% | 593 円412 億円 |
| 悲観 | 14% | 1,006 円700 億円 | 216 円150 億円 | −70.7% | −11.6% | 171 円119 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,725 円2,591 億円 | 1,060 円737 億円 | +14.8% | +1.4% | 4,786 円3,328 億円 |
今の株価時価総額 4,170 円2,900 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 国の立て直しが実り、大型船でも稼ぐ 利益 411 億円 · PER 13.1 倍 · 株価時価総額 8,032 円5,586 億円
国の造船再生が実を結ぶ。伊万里の大型ドックが動き、ケープサイズ型など大型船の比率が高まって、1隻あたりの稼ぎが上がる。引き渡しは年75万総トン換算まで増え、世界の建造量に占める割合は1%に近づく。環境規制による船の入れ替えが10年続き、受注は途切れない。
中国との価格差は縮まらないが、特殊な船種と納期の確かさで、船主の選択肢に残る。利益率は16%まで保たれる。配当も増える。ただ、それでも稼ぎは景気の波を免れず、堀は広がらない。造船所の稼働率は高く、受注残は数年先まで埋まる。この10年は、日本の造船が久しぶりに追い風を受けた期間として記憶される。
- 新造船事業(修繕・艦艇を含む):数量 75.0(引き渡し量(万総トン換算・推定))× 価格 45(1万総トンあたりの売上(億円・名目))→ 売上 3,339 億円・営業利益 534 億円。引き渡し75.0万総トン換算 × 1万総トンあたり44.52億円(今の1.40倍)、営業利益率16.0%
倍率:事業の純利益 411 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.1% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 10.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.1 倍。全体の PER 13.07 倍、時価総額 5,372 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国の支援と大型船の両方がそろい、さらに市況が崩れない必要があり、確率は1割にとどめた。
やや楽観 20% 能力増強が受注に結びつく 利益 306 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 5,813 円4,043 億円
伊万里の増強が予定どおり進み、受注も埋まる。引き渡しは年67万総トン換算まで増える。中型船の価格は鋼材と人件費の上昇を転嫁でき、10年で1.37倍まで上がる。
中国の価格攻勢は続くが、日本の船主や、中国を避ける海外の船主が名村を選ぶ。利益率は13.5%で、直近の17%台から下がる。景気の谷は浅く、赤字にはならない。配当は利益の4割まで増える。それでも、数量と船価の伸びは物価とほぼ同じで、実質の成長は小さい。大型船への展開は途上で、ケープサイズ型の受注は限られる。政府の再生策は能力を増やすが、世界の建造量に占める名村の取り分は1%に届かないままだ。
- 新造船事業(修繕・艦艇を含む):数量 67.5(引き渡し量(万総トン換算・推定))× 価格 44(1万総トンあたりの売上(億円・名目))→ 売上 2,941 億円・営業利益 397 億円。引き渡し67.5万総トン換算 × 1万総トンあたり43.57億円(今の1.37倍)、営業利益率13.5%
倍率:事業の純利益 306 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.9% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 9.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.45 倍、時価総額 3,810 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国の後押しが受注に結びつき、市況もほぼ崩れない。実現には条件が多いので、やや楽観に2割とした。
中立 32% 数量は伸びるが、利益率は景気の平均に戻る 利益 200 億円 · PER 11.5 倍 · 株価時価総額 3,727 円2,592 億円
国の後押しで能力が増え、数量は今の2割増に届く。船価は、鋼材と人件費の上昇を転嫁しきれず、10年で1.30倍にとどまる。名村の取り分は世界の建造量の0.8%前後だ。
直近の17%台の利益率は、好況の頂点だった。10年を通じた平均では、造船の利益率は1割ほどに落ち着く。利益は、いまの水準を下回る。設備投資の負担も続き、自己資本は膨らむが、利益が伸びないので、ROEは資本コストに届かない。受注が一巡しても大きく崩れず、会社は、景気の平均的な姿で10年を過ごす。大型船への展開は一部にとどまり、中国・韓国との価格差も縮まらない。国の助成で能力は増えるが、船価の上昇は鋼材と人件費の上昇に追いつかず、利益の伸びは物価に届かない。
- 新造船事業(修繕・艦艇を含む):数量 60.0(引き渡し量(万総トン換算・推定))× 価格 41(1万総トンあたりの売上(億円・名目))→ 売上 2,480 億円・営業利益 260 億円。引き渡し60.0万総トン換算 × 1万総トンあたり41.34億円(今の1.30倍)、営業利益率10.5%
倍率:事業の純利益 200 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.1% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 8.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.5 倍。全体の PER 11.54 倍、時価総額 2,308 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:10年の景気の波と、国の後押しの両方を織り込んだ中心の筋書き。確率の最大を置いた。
やや悲観 24% 中国の価格攻勢で取り分が減る 利益 106 億円 · PER 7.5 倍 · 株価時価総額 1,775 円1,235 億円
中国の造船所が増産し、ばら積み船の価格が下がる。名村は設備を増やしたものの、受注が埋まらず、引き渡しは年47万総トン換算に減る。船価は10年で1.22倍にとどまり、人件費と鋼材の上昇に追いつかない。
利益率は7.5%まで下がり、赤字の年も出る。配当は利益の3割に抑える。国の助成で設備はできたが、固定費の重さが残り、ROEは資本コストを大きく下回る。それでも、現金が厚いため、事業は続く。中国は日本が得意とする省エネ船型にも追いつき、船主は価格の安い中国の造船所を選ぶ場面が増える。株主にとっては、設備投資が回収できたかどうかが問われる10年になる。
- 新造船事業(修繕・艦艇を含む):数量 47.5(引き渡し量(万総トン換算・推定))× 価格 39(1万総トンあたりの売上(億円・名目))→ 売上 1,843 億円・営業利益 138 億円。引き渡し47.5万総トン換算 × 1万総トンあたり38.8億円(今の1.22倍)、営業利益率7.5%
倍率:ROE 4.3%がk 8.75%を大きく下回る。稼ぐ力から出す局面で、上限1÷k=10.5倍の7割強の7.5倍に置いた。
確率:中国の増産と発注の減少が重なる筋書き。造船の景気の波を考え、2割強を置いた。
悲観 14% 国内の造船が構造的に縮む 利益 10 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 1,006 円700 億円
中国の造船所が日本の得意だった中型船まで取り込み、日本の造船は縮小に向かう。名村の引き渡しは年33万総トン換算まで減り、船価は上がらない。10年かけて設備投資をしたドックは、半分も埋まらない。
利益率は1%に落ち、赤字の年が続く。純現金は設備と赤字で減り、前受金と工事損失への備えを除くと、残る資金は限られる。国の助成で整えた設備は、使い道の乏しい固定費として重くのしかかり、造船所の一部は休止か統合に追い込まれる。事業としては続くが、稼ぐ力は失われる。株主の価値は、手元の資金と売れる資産で支えられる程度になる。造船の再生策が結果として実らなかった10年として、後に振り返られることになる。
- 新造船事業(修繕・艦艇を含む):数量 32.5(引き渡し量(万総トン換算・推定))× 価格 32(1万総トンあたりの売上(億円・名目))→ 売上 1,034 億円・営業利益 12 億円。引き渡し32.5万総トン換算 × 1万総トンあたり31.8億円(今の1.00倍)、営業利益率1.2%
倍率:ROE がほぼゼロで、稼ぐ力(純利益÷k)は百億円台にとどまる。価値は純現金と売れる資産の税後に支えられる床で置いた。今の自己資本1,366億円に0.51倍を掛けた。
確率:造船は景気の谷と中国の拡大が同時に来ると、一気に悪化する。過去10年の5年が赤字で、1割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
新造船事業(修繕・艦艇を含む)
伊万里と函館どつくで、中型のばら積み船を中心に新造船を造って船主に引き渡す事業。
| 数量引き渡し量(万総トン換算・推定) | 価格1万総トンあたりの売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 50.0 | 32 | 1,590 | 281 |
| 10 年後 中立 | 60.0 | 41 | 2,480 | 260 |
取り方:引き渡し量は開示から取れないので、世界の建造量約7,700万総トンのうち約0.65%(年20隻前後・中型船中心)とみて50万総トン換算とし、売上1,590億円を割って1万総トンあたり31.8億円と置いた。数量は実質、物価3%と船種ミックスは価格に入れた。
リスクと懸念
造船の景気の波
過去10年のうち5年は赤字で、利益率が1割を超えたのは直近3年だけだ。固定費が重く、受注が落ちると稼働が下がり、数量が減るだけで赤字になる。いまの利益は好況の頂点にあり、谷で何年も利益が出ない局面が繰り返されてきた。
中国の価格攻勢
世界の建造量の6割超を中国が握り、国家の支援を背景に値段を下げる力がある。名村のばら積み中型船は、船主が価格と納期で選ぶ商品なので、中国と同じ土俵になる。船価が下がれば利益率はすぐに削られ、日本の中堅は耐えにくい。
船腹の過剰
ばら積み船の発注は2025年に前年比5割減となり、引き渡しは2026年に6年ぶりの高水準になる。船が増える分、船主は新しい船の発注を急がなくなる。受注残が厚い今は見えにくいが、数年後の受注が細る可能性がある。
設備投資の回収
10年で最大1,500億円の投資は、助成が最大499億円ある。しかし助成は設備のお金で、受注と船価は保証しない。需要が弱い局面で能力だけが増えれば、固定費が利益を食い、投資のお金を回収できない。
工事損失と前受金の見かけ
純現金は約1,000億円あるが、前受金に支えられた面が大きい。鋼材や人件費の上昇を契約に転嫁できず工事で損が出ると、現金は急に減る。自己資本比率が5割を超えていても、見かけほどの余裕はない。
株主還元の薄さ
配当は純利益の3割に届かず、自社株買いはない。稼いだお金が設備に回り続けると、自己資本が膨らんでROEは資本コストに届かない。株主の取り分が増えにくい構造は、倍率を押し下げる。
今後の分かれ目
- ばら積み船の新造船価格が下がり続け、受注が前年を大きく割り込んだら
- やや悲観・悲観の確率を上げる。受注残が減り始める時期が、利益の山を過ぎたサインになる。
- 伊万里の大型ドックの建設が決まり、大型船の受注が積み上がったら
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。ただし、利益率が景気の平均に戻る前提は崩さない。
- 鋼材や人件費の上昇を契約価格に転嫁できず、工事損失が出始めたら
- 利益率の前提を下げ、やや悲観に寄せる。前受金に支えられた現金が、見かけほど安全ではなくなる。
- 国内の造船再編に名村が加わる発表があったら
- 規模の面では前向きだが、条件次第で株主の価値が薄まる。筋書きの確率より、再編の条件を先に確かめる。
- 中国向けの輸出規制や貿易摩擦で、船主が日本の造船所を選ぶ動きが強まったら
- 数量と船価の両方が上がる筋書きに近づく。やや楽観の確率を上げる。
- 配当性向を引き上げ、自社株買いも始めたら
- 自己資本の膨らみが抑えられ、ROEが上がる。倍率の見方を見直す材料になる。
見ておくもの
- 新造船の月ごとの受注量と受注残高(金額・船種)
- クラークソンの新造船価格指数と、ばら積み船の船価
- 伊万里の大型ドックの建設決定と助成の金額
- 国内造船の再編の発表
- 配当性向と自社株買いの方針
倍率と資本コストの決め方
倍率は資本コスト8.75%(基本7.5%に品質+2%)と、事業のROEから出した。10年の中立はROE 7.7%でkを下回るため、PERの上限は1÷k=10.5倍で、その7.5割に置いた。今の株価や過去のPERは使っていない。今の利益は好況の頂点なので、中立の利益率は10.5%まで戻し、直近の17%台を引き伸ばしていない。リース会計の変更は、会社が自前のドックを持つため影響は小さく、10年後の数字は今と同じ形で置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 8.5→13.07 倍・やや楽観 PER 8.1→12.45 倍・中立 PER 7.9→11.54 倍)。
資本コスト 8.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。