結論
阪神内燃機工業は、国内の沿岸を走る貨物船やタンカーの主エンジンを作る会社だ。世界初のメタノール専焼の低速エンジンを世に出した。筆者の結論は「割高」である。事業は良いが、利益が小さく、今の値段はその先まで織り込んでいる。
2026 年 3 月期の売上は 140 億円、営業利益は 8 億円。売上の 6 割はエンジン本体、4 割は部品と修理だ。修理は船が動く限り続く稼ぎで、質が高い。
受注は強い。受注残は 120 億円と、1 年で 7 割増えた。会社は 28 年 3 月期に売上 197 億円、営業利益 12 億円を見込む。
ただ、資本の効率は低い。ROE は 4.7%で、10 年の中央値も 4.1%だ。無借金で現金が厚いほど、この数字は薄まる。しかも内航の船は長期で減っている。
中立の 10 年後は営業利益 12 億円、時価総額 103 億円。確率で重みをつけた本質価値は、今より 7 割ほど低い。
バリュー投資の観点から
この会社を、長く持ちたいか。筆者の答えは「事業は持ちたい。ただし、いまの値段では持たない」だ。
事業は存続する。内航の船が動く限り、エンジンと保守は必要だ。修理の収入が続く構造は、バリュー投資家が好む性格を持つ。借入もなく、財務は堅い。
しかし、儲けの絶対額が小さい。営業利益 8 億円は、純利益 7 億円。ROE は 5% を超えたことがほとんどない。経営者が株主のお金を預かって殖やす力は、限られている。
受注残が増えた今は、強気になりやすい時期だ。だが、受注は船の発注の波で動く。2008 年 3 月期の営業利益率 12.8% も、5 年後には 4% 台に戻った。波の頂点の数字を、10 年先まで続くものとして払うのは危うい。
安全域は、悲観の床にある。現金と持ち合い株の税引き後で約 44 億円。今の時価総額の 4 分の 1 に満たない。無借金で倒産は遠いが、今の値段に安全域はない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎ方は 2 本だ。エンジン本体と、部品・修理である。会社は単一の事業で報告し、2026 年 3 月期の売上は主機関が 84 億円(60%)、部分品・修理が 56 億円(40%)だった。
エンジン本体は、内航船向けの低速 4 サイクルディーゼルだ。船のスクリューを回す心臓部である。年産は 40 台から 50 台程度で、1 台数億円。国内の 4 サイクルの舶用機関は 5 社が競い、当社は内航の主機関で上位のシェアを持つ。可変ピッチプロペラやサイドスラスターも手がける。
部品・修理は、エンジンが動く限り続く。定期の整備、部品の交換、緊急の修理。エンジンを売った後に続く、利益の厚い部分だ。鋳造と金属加工を担うCMR事業も、第二の柱として育てている。
社員は 302 人(有期 70 人を含む)。平均年齢は 42 歳、平均勤続は 19 年と長い。小さな製造会社だが、熟練の職人が支える。播磨工場に、メタノールなど新燃料の試験をする研究棟(約 5 億円)を 2023 年に建てた。
買い手は、国内の造船所と船主だ。内航船は中小の船主が多く、造船所を通じて発注される。エンジンは船の設計の初期に決まるので、造船所との長い付き合いが受注の土台になる。主機関の売上は受注から引き渡しまで 1 年以上かかり、受注残が売上の先行指標になる。
外から見えにくいのは利益の中身だ。会社は単一のセグメントで報告し、主機関と部品・修理の利益を分けない。筆者は、修理や部品のほうが利益率が高いと見ている。エンジン本体の売上が急に増える年は、利益率が薄まりやすい。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねしにくい強みは、船のエンジンの信頼と保守の網にある。ただ、深くはない。
内航の船主は、エンジンの故障を何より嫌う。長年の運転実績と、全国の港の保守網は、新規の参入者が一朝一夕にそろえられない。エンジンを売ると、30 年にわたる部品と修理の収入が続く。これが利益の土台だ。
新燃料でも先行している。メタノール専焼の LA28M は、2024 年 6 月に日本海事協会の型式承認を得た。低速 4 サイクルでは世界初だ。商船三井のメタノールタンカーが、最初の搭載船になった。
弱点は 3 つある。第 1 は、規模が小さいこと。年産は 50 台に届かず、競合のダイハツインフィニアース、ヤンマーに比べて開発費を回しにくい。第 2 は、買い手が少数の造船所と船主に偏ること。第 3 は、資本効率の低さだ。ROE は 10 年の中央値で 4.1%、最高の年でも 5% 台だった。
経営は堅実で、無借金。ただ、成長に見合う資本の使い方はまだ見えない。
筆者は事業の質を「堅実だが小さく、資本効率は低い」と見る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
内航船の需要は、船の更新で決まる。日本の沿岸の貨物船は、船齢が長いものが多い。国は 2000 年代から代替建造を政策課題にしてきた。ただ、船主は中小・零細が多く、新造のたびに資金の壁がある。
長期の隻数は減る。荷主の産業が縮み、船員の高齢化も進む。一方、環境規制は代替を促す。国内の船は、IMO(国際海事機関)の脱炭素の流れで、いずれ燃料の切り替えを迫られる。
ここで当社の強みが出る。メタノール、アンモニア、水素と、燃料の選択肢が広がる中、実機を載せた実績は大きい。デュアルフュエル機関 LA28M-DF の試験機は、2027 年 3 月までに完成する予定だ。
競争は、国内 5 社の勝負だ。ダイハツインフィニアース、ヤンマーなどが競う。発注者の造船所は、価格を強く迫る。受注は船の発注の波で振れ、利益率は 4.6% から 8% を行き来してきた。
海外では、中国と韓国が造船の過半を握る。内航向けの特殊な低速機関は、国内の造船所とつながる小さな市場で、外からは入りにくい。ただ、電動推進の登場は、長期の脅威だ。
資本政策と M&A
資本の使い方は、堅実で、動きは遅い。
配当は、性向 40% か純資産配当率 1.5% の高いほうを下限とする。2026 年 3 月期の年間配当は、前期から増えた。27 年 3 月期から中間配当も始めた。自社株買いはほとんどやらない。
現金は 40 億円で、借入はない。上場の持ち合い株は 14 銘柄で約 20 億円。三井住友 FG と上野トランステックなどだ。時価総額に対して、資産の厚みは中程度だ。
投資は 2025〜2029 年に総額 40 億円。生産体制に 17 億円、CMR事業に 15 億円、新燃料機関の開発に 4.5 億円を回す。FY2026 の設備投資は 4.7 億円なので、今後は一気に増える。
中計(2025〜27 年度)は、最終年度に売上 150 億円、営業利益率 8%、ROE 6%、PBR 1 倍を掲げる。売上は予想で超える見込みだが、利益率は届かない可能性がある。
M&A の実績は目立たない。TOB の可能性は、時価総額が小さいぶん無視できない(kabufu の試算で 10 年以内に 18%)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
底を打ち、これから伸びる。受注残は 120 億円と、前年から 7 割増えた。27 年 3 月期の売上は 172 億円、28 年 3 月期は 197 億円と、会社自身が今期の 1.4 倍を見込む。生産体制に 17 億円を投じ、納期の壁も崩れる。
新燃料の先行者でもある。メタノール専焼の LA28M は世界初の型式承認を得て、商船三井の船に載った。IMO の脱炭素規制が強まるほど、内航の更新に新燃料の需要が重なる。デュアルフュエルの試験機も、2027 年 3 月に完成する。
部品と修理の収入は、エンジンの台数が増えるほど積み上がる。鋳造のCMR事業には 15 億円を投じ、外販を広げる。
財務も強い。借入はなく、現金は 40 億円。配当は性向 40% か DOE 1.5% の高いほうを下限とし、PBR 1 倍を目標に掲げる。小さな会社は、TOB の対象にもなりやすい。受注の好循環が続けば、営業利益率 8% の中計は達成できる。
慎重な見方
受注の波に乗っているだけだ。受注は船の発注の波で動く。2008 年 3 月期の営業利益率 12.8% も、5 年後には 4% 台まで落ちた。今期の受注残の増加も、一時の更新ラッシュの可能性がある。
中計の最終年度は売上 150 億円、営業利益率 8%。売上は予想で超えるが、27 年 3 月期の営業利益率は 5.2%と、目標に届かない。エンジン本体の利益率が低く、売上が伸びるほど利益率は薄まる。
国内の内航は、長期で縮む。船の隻数が減り、船主も荷主も高齢化する。電動推進が登場すれば、ディーゼルそのものが置き換わる恐れもある。年産が 50 台に届かない当社は、開発費を回しにくい。
資本効率も低い。ROE は 10 年の中央値で 4.1%、資本コストの 7〜8% を大きく割る。現金を抱え、生産への投資が 5 年で 40 億円に増える。回収が遅れれば、償却だけが残る。
PER は今 26 倍だ。株価は、ここまでの受注の好循環をすでに織り込んでいる。
どちらに重みを置いたか
数字の勝負では、慎重な見方がやや強い。利益の絶対額が小さく、ROE は資本コストを大きく割り、受注は波で動く。一方で、受注残の積み上がりと新燃料の先行は事実で、台数が伸びる余地はある。そこで、中立に 4 割弱を置き、やや悲観に 3 割を寄せた。楽観は 5%、悲観は 12%とした。確率は、慎重な側の合計(4 割強)が強気の側(2 割)の 2 倍になる形だ。強気の見方で最も強い、新燃料機関の先行は、楽観とやや楽観の台数の伸びで反映した。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,609 円117 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 994 円32 億円)。 今の値に割り戻すと 2,443 円79 億円、今との差 −57.9%、 期待の年率 −2.3%(資本コスト 7.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 5% | 8,125 円264 億円 | 2,158 円70 億円 | +77.3% | +5.9% | 514 円17 億円 |
| やや楽観 | 15% | 6,056 円196 億円 | 1,542 円50 億円 | +31.0% | +2.7% | 1,140 円37 億円 |
| 中立 | 38% | 4,523 円147 億円 | 1,110 円36 億円 | −2.9% | −0.3% | 2,141 円69 億円 |
| やや悲観 | 30% | 1,492 円48 億円 | 678 円22 億円 | −62.6% | −9.4% | 651 円21 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,064 円35 億円 | 247 円8 億円 | −77.4% | −13.8% | 157 円5 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,609 円117 億円 | 994 円32 億円 | −20.6% | −2.3% | 4,603 円149 億円 |
今の株価時価総額 5,800 円188 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 5% 新燃料エンジンが売れ、内航の更新を一手に引き受ける 利益 17 億円 · PER 13.8 倍 · 株価時価総額 8,125 円264 億円
内航船の代替建造が進み、受注残 120 億円は始まりにすぎなくなる。世界初のメタノール専焼機関 LA28M の実績が効き、新燃料機関で国内の過半を取る。出荷は年 62 台まで増える。
価格は物価を上回り、10 年で 1.45 倍だ。新燃料機関は高価で、台数の増加と値上がりの両方が効く。部分品・修理は、搭載機関の増加と、鋳造のCMR事業の拡大で 1.25 倍の活動量になる。
全社の営業利益は 22 億円、純利益は 17 億円。営業利益率は 8% を超えるが、2008 年 3 月期の山(12.8%)には届かない。
還元は純利益の 4 割強を保つ。余った現金は 35 億円までたまる。
小さな会社が、この規模の利益を稼げば、ROE は 7% 近くまで上がる。それでも資本コストには届かない。事業の質は上がるが、資本の効率は劣るままだ。
- 主機関(舶用ディーゼルエンジン):数量 62.0(主機関の出荷台数(台/年))× 価格 2.72(1 台あたりの売上(億円))→ 売上 169 億円・営業利益 11 億円。年 62 台 × 1 台 1.45 倍の値段、利益率 6.5%(推定)
- 部分品・修理工事(保守・部品・鋳造のCMR):数量 125(部品・修理の活動量(2026/03 を 100 とした指数))× 価格 1.40(活動量 100 あたりの売上の指数(今を 1.0))→ 売上 98 億円・営業利益 11 億円。活動量 125(今 100)× 価格 1.40 倍、利益率 11.0%
倍率:事業の純利益 17 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.0% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)35 億円。全体の PER 13.84 倍、時価総額 264 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:内航船の更新の波、メタノール・アンモニアの新燃料機関の先行、部品・修理(保守と鋳造)の伸びが 10 年のあいだに重なる形。国内の需要が縮む事実があり、5% にとどめる。
やや楽観 15% 受注残が売上になり、新燃料機関の実績が積み上がる 利益 13 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 6,056 円196 億円
受注残が売上に変わり、年産は 55 台に増える。価格は物価を少し上回る 1.40 倍。新燃料機関が標準仕様に入りはじめる。
部分品・修理は活動量が 1.12 倍になる。鋳造のCMR事業は、5 年で 15 億円の投資が実り、外販が伸びる。
営業利益は 16 億円、純利益は 13 億円。会社の中計(営業利益率 8%)には届かないが、ROE は 6% に近づく。
還元は純利益の 4 割。余った現金は 30 億円ほどで、新工場への投資が続く。
内航の船は隻数が減るが、1 隻あたりのエンジンは高度になり、価格が上がる。台数の伸びは限られ、価格と部品の収入で利益が伸びる形だ。ここまで来ても、強気の見方が描く大きな成長にはならない。
- 主機関(舶用ディーゼルエンジン):数量 55.0(主機関の出荷台数(台/年))× 価格 2.62(1 台あたりの売上(億円))→ 売上 144 億円・営業利益 8 億円。年 55 台 × 1 台 1.40 倍の値段、利益率 5.5%(推定)
- 部分品・修理工事(保守・部品・鋳造のCMR):数量 112(部品・修理の活動量(2026/03 を 100 とした指数))× 価格 1.38(活動量 100 あたりの売上の指数(今を 1.0))→ 売上 86 億円・営業利益 9 億円。活動量 112(今 100)× 価格 1.38 倍、利益率 10.0%
倍率:事業の純利益 12 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.6% が k 7.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)30 億円。全体の PER 13.33 倍、時価総額 196 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社が見込む受注残の消化(27 年 3 月期の売上 172 億円、28 年 3 月期の 197 億円)が、そのまま 10 年の水準になる形。内航の更新が続くが、台数は大きくは増えない。中立よりやや強い。
中立 38% 受注は戻るが、国内の需要は伸びず、利益率は平らになる 利益 9 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 4,523 円147 億円
内航船の更新は続くが、船の隻数は減る。年産は 48 台と、今よりわずかに多い程度だ。価格は物価並みの 1.34 倍。新燃料機関は少しずつ増えるが、価格競争もある。
部分品・修理は活動量が横ばいで、価格が 1.34 倍になる。搭載機関が増えない限り、保守の量は伸びない。
営業利益は 12 億円、純利益は 9 億円。売上は 195 億円で、営業利益率は 6.2%。ROE は 4.5% にとどまる。
配当は性向 40% か DOE 1.5% の高いほうを守る。余った現金は、5 年 40 億円の投資の後も 28 億円ほど残る。
- 主機関(舶用ディーゼルエンジン):数量 48.0(主機関の出荷台数(台/年))× 価格 2.51(1 台あたりの売上(億円))→ 売上 121 億円・営業利益 5 億円。年 48 台 × 1 台 1.34 倍の値段、利益率 4.5%(推定)
- 部分品・修理工事(保守・部品・鋳造のCMR):数量 100(部品・修理の活動量(2026/03 を 100 とした指数))× 価格 1.34(活動量 100 あたりの売上の指数(今を 1.0))→ 売上 75 億円・営業利益 7 億円。活動量 100(今 100)× 価格 1.34 倍、利益率 9.0%
倍率:事業の純利益 9 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.0% が k 7.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)28 億円。全体の PER 13.33 倍、時価総額 147 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:27〜28 年 3 月期の会社予想(売上 172〜197 億円、営業利益 9〜12 億円)を、物価の分だけ伸ばし、台数は横ばいに置く形。最も厚く置く。
やや悲観 30% 国内の船が減り、台数が落ちる 利益 5 億円 · PER 6.7 倍 · 株価時価総額 1,492 円48 億円
国内の内航貨物が細り、船主は新造を先送りする。年産は 38 台に減り、価格も物価に届かず、10 年で 1.25 倍にとどまる。
部分品・修理は、船の稼働が減って活動量が 1 割減る。価格は 1.25 倍。鋳造のCMR事業は、外販が伸びない。
営業利益は 7 億円、純利益は 5 億円。生産体制への投資 17 億円の稼働が低く、償却が重い。
配当は DOE 1.5% の下限を守るが、純利益を上回る年が出る。
会社の中計は、ここまで届かない。利益率は 2.5% と、4.6% の過去の下限も下回る。投資の回収が遅れ、現金の山は徐々に取り崩される。ただ財務は無借金で、事業の縮小に耐える体力は残る。
- 主機関(舶用ディーゼルエンジン):数量 38.0(主機関の出荷台数(台/年))× 価格 2.34(1 台あたりの売上(億円))→ 売上 89 億円・営業利益 2 億円。年 38 台 × 1 台 1.25 倍の値段、利益率 2.5%(推定)
- 部分品・修理工事(保守・部品・鋳造のCMR):数量 90.0(部品・修理の活動量(2026/03 を 100 とした指数))× 価格 1.25(活動量 100 あたりの売上の指数(今を 1.0))→ 売上 63 億円・営業利益 5 億円。活動量 90(今 100)× 価格 1.25 倍、利益率 7.5%
倍率:事業の純利益 5.2 億円(全社の純利益から余った現金の利息 0.2 億円を除く)、事業の自己資本 162 億円で、事業の ROE 3.2%。k 7.5%、残る割合 1/2 から RONIC 5.7%、正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g) は g 4.0% で 7.0 倍弱。利益の質が落ちる筋書きなので、やや悲観は稼ぐ力から置き、上限の 96% の 6.7 倍とした(7 割へ引き上げない)。余った現金は今の 18 億円の 0.75 倍の約 13.5 億円に、戻り方 1.0 を掛けて足す。
確率:内航の船の隻数は長期で減る。国の更新の政策があっても、船主の高齢化と荷主の減少が重い。10 年のうちに受注が谷に入ることを織り込み、中立に次ぐ厚さにする。
悲観 12% 船が減り中国勢と電動化に負け、工場が余る 利益 −3 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 1,064 円35 億円
構造的な負けになる。内航の船は急減し、年産は 24 台まで落ちる。電動推進や外国製の機関が入り、価格は物価に届かず、10 年で 1.10 倍にとどまる。
新燃料機関の開発費がかさみ、受注は取れない。部分品・修理も船の減少で 25% 縮む。
生産体制への投資で増えた償却が重くのしかかり、営業損益は 3 億円の赤字になる。工場の整理と減損で自己資本が 20 億円ほど減る。
それでも無借金で、現金と持ち合い株が残る。配当は大きく削る。事業は小さくなるが、資産は残る。
新燃料機関の先行者という立場も、市場が小さければ意味を失う。開発の成果が売上に結びつかないまま、研究棟や新工場が重荷になる。株主が手にするのは、事業の稼ぎでなく、売れる資産の残りだけだ。
- 主機関(舶用ディーゼルエンジン):数量 24.0(主機関の出荷台数(台/年))× 価格 2.06(1 台あたりの売上(億円))→ 売上 50 億円・営業利益 −2 億円。年 24 台 × 1 台 1.10 倍の値段、利益率 -3.0%(推定)
- 部分品・修理工事(保守・部品・鋳造のCMR):数量 75.0(部品・修理の活動量(2026/03 を 100 とした指数))× 価格 1.10(活動量 100 あたりの売上の指数(今を 1.0))→ 売上 46 億円・営業利益 2 億円。活動量 75(今 100)× 価格 1.10 倍、利益率 5.0%
倍率:赤字の筋書きなので PBR で置く。売れる資産(現金から運転資金と前受金の相当分を除いたもの、持ち合い株の税引き後)が床で、今の自己資本 156 億円に対し、約 4 分の 1 の約 34 億円とした。
確率:内航船の需要が縮む中で、新燃料への転換が遅れて技術で置いていかれる形。無借金と現金が歯止めで、倒産は見ないが、単一の事業なので 1 割強に置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
主機関(舶用ディーゼルエンジン)
内航船(国内の沿岸を走る貨物船・タンカー)の主エンジンを作る。可変ピッチプロペラなど周辺機器も売る。
| 数量主機関の出荷台数(台/年) | 価格1 台あたりの売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 45.0 | 1.87 | 84 | 3 |
| 10 年後 中立 | 48.0 | 2.51 | 121 | 5 |
取り方:主機関の売上 84.4 億円。年産は 40 数台〜50 台程度(2023 年の取材)とされ、45 台と推定して割った。セグメントは単一で開示が無く、利益は部分品より低い利益率(約 4%)と推定し、全社の営業利益 8.2 億円に合わせて配分した。
部分品・修理工事(保守・部品・鋳造のCMR)
エンジンの部品、修理、保守工事と、鋳造・金属加工のCMR事業。船が動く限り続く稼ぎ。
| 数量部品・修理の活動量(2026/03 を 100 とした指数) | 価格活動量 100 あたりの売上の指数(今を 1.0) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 100 | 1.00 | 56 | 5 |
| 10 年後 中立 | 100 | 1.34 | 75 | 7 |
取り方:部分品・修理の売上 55.9 億円。台数の開示が無く指数で置く。利益率は主機関より高いと見て約 8.7% と推定した(配分は推定である)。
リスクと懸念
受注の波と利益率の薄まり
受注は船の発注の波で動く。2008 年 3 月期の営業利益率 12.8% は、5 年後に 4% 台へ戻った。27 年 3 月期の予想は売上が 2 割増えても、営業利益率は 5.2% に下がる。エンジン本体の比重が上がると、利益率は薄まる。
国内の内航船の長期縮小
内航の船は、荷主の産業の縮小、船員の高齢化、船主の零細化で、長期で隻数が減る。国の代替建造の支援があっても、船主の資金は細い。更新の需要が一巡すれば、受注は大きく落ちる。
新燃料への転換と電動化
メタノール、アンモニア、水素と、燃料の選択肢が広がるが、どれが主流になるかは不透明だ。開発費をかけた燃料が採用されなければ、投資は回収できない。電動推進の登場は、ディーゼルそのものを置き換える。
規模が小さい
年産は 50 台に届かず、従業員は 302 人。競合のダイハツインフィニアース、ヤンマーに比べて開発費を回しにくい。大型の不具合や事故が一度起これば、小さな会社には重い。
生産投資の回収
5 年で総額 40 億円の投資は、2026 年 3 月期の設備投資 4.7 億円の約 2 倍の速度で進む。稼働が低ければ、償却だけが増え、利益を食う。
買い手が少数
エンジンの買い手は、国内の少数の造船所と船主だ。造船所の統合が進めば、価格交渉は強まる。特定の造船所に受注が集中する年は、取引の減少が打撃になる。
今後の分かれ目
- 28 年 3 月期の営業利益率が 7% 以上で着地し、受注残が実になったら
- やや楽観の確率を上げる。エンジン本体の利益率が改善した証拠になる。
- 受注残が減りはじめ、年間の受注が 150 億円を割ったら
- やや悲観・悲観の確率を上げる。更新の波が一巡した可能性がある。
- LA28M-DF の試験機が完成し、複数の船主・造船所から採用が決まったら
- 新燃料機関の台数と価格を上に直す。楽観の確率を上げる。
- 電動推進の内航船が実用化の規模で出てきたら
- 低速ディーゼルの需要が縮む筋書きで、悲観の確率を上げる。
- 次の中計で、現金の使い道(自社株買い・投資)が数字で示されたら
- 余った現金の戻り方と額を見直す。ROE の改善が見えれば倍率を上げる。
- 大手造船・重工による TOB や資本提携が発表されたら
- 小さな時価総額の会社は対象になりやすい。事業の値打ちでなく資産の価値が評価される。
見ておくもの
- 受注高と受注残(四半期)
- 主機関の営業利益率(開示があれば)
- LA28M-DF の完成と採用の発表
- 国交省の内航船の代替建造の政策と、船腹量の統計
- 現金・持ち合い株の残高と、配当・自社株買い
倍率と資本コストの決め方
今の株価から逆算せず、先に主機関の年産台数 × 1 台の値段、部品・修理の活動量 × 価格で積んだ。セグメントは単一なので利益率は推定で配分し、全社の営業利益 8.2 億円に合わせた。倍率は事業の ROE(中立で 5% 前後、k を下回る)から式で出し、中立は上限の 9 割、やや悲観は稼ぐ力から置いた。持ち合い株は配当を純利益に残して余り資産に足していない。余った現金は 18 億円とし、運転資金と投資を引いた後に限った。今の時価総額と比べたのは最後で、市場の PER 26 倍に寄せていない。リースは小さく、新リース会計の影響は大きくない。形は今と同じ家賃を費用に入れた形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.76→13.84 倍・やや楽観 PER 9.25→13.33 倍・中立 PER 8.42→13.33 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。