結論
日産車体は、日産自動車の車を代わりに組み立てる会社だ。売上の 98% が日産向けで、自前のブランドは持たない。筆者の結論は、今の値段は割高というものだ。現金が厚いので安く見えるが、その現金は株主の手元に戻りにくいと見る。
稼ぎの中心は九州工場だ。子会社の日産車体九州が、海外向けの大型 SUV「パトロール」「アルマーダ」と商用バンのキャラバンを造る。2026 年 3 月期は大型 SUV の増産が効き、営業利益が 142 億円と前の期の 2.8 倍になった。
悩みは湘南工場だ。日産は小型バンの生産委託を 2026 年度末で打ち切る。完成車の生産は終わり、2027 年度からは補修部品の工場に変わる。ミニバンのエルグランドも、栃木へ移す計画が出ている。
現金の置き場所にも注意が要る。純現金は約 870 億円で、時価総額の 7 割に当たる。だが日産が 50% を握る親子上場で、配当は 9 期続けて同額に据え置かれた。物言う株主は 2 割台を持って還元を迫るが、決めるのは親だ。
10 年先は、台数が今より減り、利益も今の水準を大きく上回れないと筆者は見る。現金が株主に戻る道はあるが、戻らない筋書きのほうが重い。10 年後の価値は今の時価総額を 3 割ほど下回った。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、日産車体は「通行料を取る橋」に似ている。通る車は日産の車だけで、料金は日産が決める。橋は丈夫で借金もないが、橋を使うかどうかは相手の気持ち次第だ。
オーナーとして持ち続けたいかを問うと、筆者の答えは慎重になる。理由は 3 つある。第一に、稼ぎの源泉が 1 社に握られている。第二に、湘南の終了のように、数年で事業の形が変わることがある。第三に、ためた現金が株主に回る保証がない。
オーナー利益、つまり株主が自由に使える利益は、今の営業利益 142 億円より小さい。工場の設備は毎年更新が要り、余った現金の利息は薄い。ためた利益がそのまま同じ額の価値にならない会社の現金は、割り引いて考えるのが筋だ。
安全域はどうか。現金の厚さは確かな支えだが、時価総額の 7 割を占める現金のうち、株主に戻ると言い切れるのは半分程度だ。残る事業は、日産の再建に運命を預けている。払う値段に安全域があるとは言いにくい。
安く買えるのは、日産が現金ごと買い取る場面か、大株主の要求が通って大きな還元が出る場面だ。どちらも起こりうるが、起こると決めて買うのは投資ではなく賭けになる。
何で稼ぐ会社か
日産車体の仕事は、日産の車の車体づくりから組み立てまでを引き受けることだ。車をいくつ造り、いくらで日産に渡すかは、日産が決める。2026 年 3 月期の受注は 154,668 台で、売上を台数で割ると 1 台あたり約 260 万円になる。
造る場所は 2 つある。神奈川県平塚市の湘南工場と、福岡県苅田町にある子会社・日産車体九州の工場だ。九州では、海外向けの大型 SUV であるパトロールとアルマーダ、インフィニティの QX80、商用バンのキャラバンを造る。2026 年 4 月には新型エルグランドの生産も始まった。
湘南工場は年 15 万台の能力を持つが、今はバネット(小型バン)が最後の主力だ。同じ小型バンの AD は 2025 年 10 月に終わり、バネットも 2026 年度末で終わる。工場は閉じずに、2027 年度から車の修理に使うサービス部品を造る拠点に変える。日産車以外の部品も取る方針だ。
もう一つの顔が特装車だ。消防車や救急車のような、車を一台ずつ仕立てる仕事で、量は小さいが経験は長い。従業員は連結で 1,786 人(2025 年 3 月末)。
この会社の売上は、台数と 1 台あたりの金額で決まる。台数は日産の割り当て、金額は車の大きさと中身で決まる。大型 SUV は 1 台の金額が大きく、小型バンは小さい。湘南が抜け九州が残ると、台数は減っても 1 台あたりの金額は上がる。この組み替えが、これからの 10 年の形を決める。
優良さと弱いところ
この会社の強みは、重い車を正確に造る腕と、財務の厚さだ。大型のフレーム車(骨組みが車体と別になった頑丈な車)は造りが難しく、九州工場は日産の海外向けの柱を預かる。開発から生産まで一貫して手がける点も、日産が簡単には手放せない理由になる。財務は借金がほとんどなく、純現金は約 870 億円ある。
一方で、堀と呼べるほどの強みはない。堀とは、他社がまねできない稼ぐ仕組みのことだ。この会社は、発注先も価格も日産に握られている。日産が別の工場に車を回せば、仕事は消える。実際に湘南の車両生産は、日産の再建計画の都合で止まる。
利益率の低さも、受託の宿命だ。営業利益率は過去 10 年の多くの年で 2% を下回り、2026 年 3 月期の 3.5% は例外的に高い。大型 SUV の増産と、工場の効率化が重なった結果だ。
資本の使い方は、守りに寄りすぎている。現金をためる一方、配当は 2017 年 3 月期から 2025 年 3 月期まで 9 期続けて同額だった。経営の舵は親会社が握り、少数株主の取り分は後回しになりやすい。筆者がこの会社でいちばん気にするのは、この点だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
この会社の需要は、日産が日本で何台造るかで決まる。世界の新車販売は 2025 年に約 9,980 万台(前年比 +4.7%)と伸びたが、日産の国内生産は 2025 年度で約 56 万台にとどまる。日産は 2026 年 9 月、国内生産を 100 万台規模へ戻す再編を発表した。
再編の中身は、日産車体にとって悲喜こもごもだ。追浜工場は 2028 年 3 月に完成車の生産を終え、湘南も 2026 年度末で終わる。九州の日産車体九州は、フレーム車と商用バンの拠点として強化される。パトロール、アルマーダ、QX80、キャラバンが残る。一方で、エルグランドとセレナは栃木に集約する計画だ。
つまり、日産は「稼げる大型車は残し、小型・ミニバンは自社の工場に寄せる」方向にある。日産車体に残るのは、日産が自社で抱えきれない難しい車と、海外向けの車だ。
懸念は日産本体の力だ。日産は 2026 年度の世界販売の見通しを 330 万台から 315 万台へ下げた。中国の不振が理由だ。親が弱れば、受託の台数も細る。大型 SUV は海外向けなので、米国の関税や中東情勢にも左右される。パトロールには、中東情勢による減産の報道もあった。
競争相手は、同じ日産グループの工場と、他の自動車メーカーの受託会社だ。日産車体は、この中で日産の大型車に特化することで居場所を保っている。
資本政策と M&A
日産が議決権の 50.00% を持つ上場子会社で、実質的に親の意向が通る。大株主のエフィッシモ・キャピタル・マネージメントは 2 割台を保ち、長く還元と親子上場の解消を求めてきた。2026 年の株主総会には、別の株主から特別配当の提案も出た。分配できる額の全部を配当に回せという内容だ。
会社は反対した。配当性向 30% 以上を目安にし、長期の操業停止に備えて内部留保が要る、という理由だ。今期は小幅な増配を提案した。採決の結果は確かめられていない。
買収の面では、日産による TOB(公開買い付け)や完全子会社化の観測が絶えない。だが、そうした発表は確認できていない。日産が再建中で資金に余裕がないことは、TOB の動機にもなれば、実行の壁にもなる。
湘南工場の転換にも、お金がかかる。従業員の配置換えや設備の入れ替えの費用が、これから出てくる。純現金が厚いのは、こうした備えのためでもある。ただ、備えを超えて余る分が株主に戻るかどうかは、親と大株主の綱引きで決まる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
日産車体の価値は、帳簿の現金が示している。純現金は約 870 億円あり、時価総額の 7 割を占める。残りの事業が 2027 年 3 月期に純利益 140 億円を稼ぐなら、事業の値段は 340 億円ほどでしかない。ほぼ無料で事業が付いてくる計算だ。
稼ぎも改善している。大型 SUV のパトロールとアルマーダは世界で人気が高く、九州工場の稼働は高い。日産は国内生産を 100 万台へ戻す方針で、九州はフレーム車と商用バンの拠点として強化される。湘南の跡地は補修部品の工場になり、他社の部品も取れる。受託の種類が増えれば、日産一本足から抜け出せる。
株主の圧力も強い。エフィッシモは 2 割台を持ち、特別配当の提案まで出た。日産は再建で資金が要る。親が子会社の現金に目を付ければ、TOB で少数株主に割増の値段が付く可能性もある。10 年のうちにどこかで現金が株主に回る確率は低くない。回れば、価値は今の値段を大きく上回る。
慎重な見方
現金は多いが、株主のものになる保証がない。日産が 50% を握る以上、配当も特別配当も親の同意なしには出ない。2017 年 3 月期から 9 期続けて配当が同額で、純現金は利益ほど減らなかった。ためた現金の利息は 2% 程度で、資本コストを大きく下回る。10 年置けば、現金の価値は目減りする。
事業も楽ではない。湘南の車両生産は 2026 年度末で終わり、エルグランドも栃木へ移る計画だ。残る九州の稼ぎは、パトロールとアルマーダに偏る。これらは海外向けで、関税や中東情勢の影響を受け、モデルの寿命も来る。2027 年 3 月期の営業利益 210 億円は、ピークに近い数字だ。
さらに、売上の 98% が日産向けという偏りは変わらない。日産の世界販売は見通しが引き下げられ、再建の途中にある。親の都合で台数を減らされても、拒む力はない。TOB が出ても、親が決める値段になる。1 社依存の受託会社に、高い倍率を払う理由はない。
どちらに重みを置いたか
どちらの言い分にも根拠がある。現金の厚さは本物で、大型 SUV の稼ぎも当面は続く。だが 10 年という長さで測ると、湘南の終了で台数が減り、現金は戻らない側の重みが増す。ためた現金は、戻らなければ資本コストを大きく下回る利息しか生まない。
筆者は慎重な見方のほうが強いと判断し、確率をやや悲観側に寄せた。ただし現金が大きな還元に回る道は塞がっておらず、楽観にも 1 割を置いた。筋書きの幅が広いので、結論は「割高」でも、確信の強さは中くらいにとどまる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,238 円1,677 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 332 円450 億円)。 今の値に割り戻すと 753 円1,021 億円、今との差 −14.9%、 期待の年率 +5.9%(資本コスト 8.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 1,903 円2,577 億円 | 960 円1,300 億円 | +223.5% | +12.5% | 286 円388 億円 |
| やや楽観 | 20% | 1,615 円2,188 億円 | 517 円700 億円 | +140.9% | +9.2% | 426 円578 億円 |
| 中立 | 34% | 1,529 円2,070 億円 | 281 円380 億円 | +104.4% | +7.4% | 615 円833 億円 |
| やや悲観 | 25% | 611 円827 億円 | 111 円150 億円 | −18.5% | −2.0% | 180 円244 億円 |
| 悲観 | 11% | 475 円643 億円 | 89 円120 億円 | −36.4% | −4.4% | 62 円84 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,238 円1,677 億円 | 332 円450 億円 | +77.4% | +5.9% | 1,570 円2,127 億円 |
今の株価時価総額 885 円1,199 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 親離れが進み、現金が株主に戻り、受託の幅が広がる 利益 178 億円 · PER 12.6 倍 · 株価時価総額 1,903 円2,577 億円
株主の圧力と日産の資金事情が噛み合い、10 年のうちに特別配当や自社株買いで現金の大半が株主に戻る。日産が国内生産 100 万台を目指す中で、九州工場はパトロール・アルマーダ・QX80 を安定して造り続け、台数は 13.8 万台まで保つ。大型車の割合が高まり、1 台あたりの売上は大きくなる。
湘南は補修部品の工場として軌道に乗る。日産車に加えて他社の部品も取り、従業員 700 人規模で売上 460 億円まで育つ。受託先が増えることで、日産一本足の弱さが和らぐ。
営業利益率は 4% に上がる。日産が発注の単価を無理に絞らず、九州の稼働が高いまま続く場合だ。純利益は 180 億円近くになり、還元は 10 年で 1,300 億円に届く。
- 車両受託生産:数量 13.8(受託台数(万台))× 価格 372(1 台あたり売上(万円/台。車の大きさと中身で変わる))→ 売上 5,134 億円・営業利益 205 億円。台数 13.8 万・1 台 372 万円・営業利益率 4.0%
- 特装車・補修部品・他社受託:数量 700(従事する人員(人))× 価格 6,600(1 人あたり売上(万円/人))→ 売上 462 億円・営業利益 28 億円。700 人・1 人 6600 万円・営業利益率 6.0%
倍率:事業の純利益 172 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.5% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 10.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)400 億円。全体の PER 12.63 倍、時価総額 2,577 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:10% を置いた。親が現金を手放す動機(日産の再建資金・TOB)と、大株主の圧力が同時に働く筋書きで、起こりうるが、実績のない分だけ重くは見ない。
やや楽観 20% 大型 SUV が続き、現金も一部戻る 利益 140 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 1,615 円2,188 億円
パトロール・アルマーダの人気がモデルの寿命いっぱいまで続き、九州は高い稼働を保つ。台数は 13 万台、利益率は 3.6% に乗る。エルグランドの栃木移管で台数は少し減るが、1 台あたりの金額が高い車の割合が増えて、売上は 4,700 億円台になる。
補修部品の工場は、日産車の部品を中心に 300 億円ほどの規模になる。他社の受託は少しずつ増える程度だ。
株主還元は、配当性向が 30% を超えて 4 割台に高まり、10 年で 700 億円ほど出る。現金はそれでも残るが、一部は事業の備えとして使われる。大株主の声が通り、親が還元の拡大に折れる形だ。
- 車両受託生産:数量 13.0(受託台数(万台))× 価格 365(1 台あたり売上(万円/台。車の大きさと中身で変わる))→ 売上 4,745 億円・営業利益 171 億円。台数 13.0 万・1 台 365 万円・営業利益率 3.6%
- 特装車・補修部品・他社受託:数量 500(従事する人員(人))× 価格 6,000(1 人あたり売上(万円/人))→ 売上 300 億円・営業利益 15 億円。500 人・1 人 6000 万円・営業利益率 5.0%
倍率:事業の純利益 130 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.7% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)700 億円。全体の PER 11.43 倍、時価総額 2,188 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:20% を置いた。大型 SUV の需要は強く、株主還元の改善も既に動き始めている(増配の提案)。ただし日産の都合に左右されるため、中立より軽くした。
中立 34% 湘南が抜け、九州の大型車に絞った中堅の受託会社になる 利益 115 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 1,529 円2,070 億円
湘南の車両生産が終わり、エルグランドも栃木へ移る。日産車体は九州の大型 SUV と商用バンに絞った受託会社になる。台数は今より 2 割ほど少ない 12.5 万台で、1 台あたりの売上は大型車の割合が増えて上がる。
利益率は 3.2% と、過去の多くの年を上回る。湘南の低稼働が消えるぶん固定費が軽くなるが、日産が単価を絞る力は残るため、2027 年 3 月期の予想ほどは高くならない。補修部品などは 170 億円ほどの小さな事業にとどまる。
純利益は 115 億円。金利が 2% まで上がるので、現金の利息収入は今より増える。還元は 10 年で 380 億円(利益の 4 割)で、現金は積み上がる。親の同意がある範囲で少しずつ戻るが、ためた分の半分は株主に届かない。
- 車両受託生産:数量 12.5(受託台数(万台))× 価格 362(1 台あたり売上(万円/台。車の大きさと中身で変わる))→ 売上 4,525 億円・営業利益 145 億円。台数 12.5 万・1 台 362 万円・営業利益率 3.2%
- 特装車・補修部品・他社受託:数量 300(従事する人員(人))× 価格 5,600(1 人あたり売上(万円/人))→ 売上 168 億円・営業利益 7 億円。300 人・1 人 5600 万円・営業利益率 4.0%
倍率:事業の純利益 102 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.9% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)900 億円。全体の PER 11.43 倍、時価総額 2,070 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:最も重い 34%。日産の国内再編という既に決まった事実に沿った見通しで、悲観・楽観のどちらにも大きな根拠がない。
やや悲観 25% 日産が台数を絞り、現金は事業の備えに消える 利益 36 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 611 円827 億円
日産の再建が思うように進まず、九州への割り当ても減る。台数は 10 万台まで落ち、単価の絞り込みで利益率は 1.5% に下がる。補修部品は日産以外の受注が伸びず、小さいままだ。
湘南の転換には人員の配置換えや設備の入れ替えの費用がかかり、現金が減る。遊休になった工場の維持費も重い。純利益は 36 億円前後で、配当は据え置きが精いっぱいになる。
ここでの価値は、稼ぐ力ではなく、純現金と売れる資産の税後が支える。純現金から再編の費用を引き、工場用地の売却益を足した額を、床の資産と見た。
大型 SUV の割り当ては日産の都合で動き、一度減った台数が戻る保証はない。それでも借金のない会社なので、事業が痩せても、財務が傷む前に手を打てる余地は残る。
- 車両受託生産:数量 10.0(受託台数(万台))× 価格 345(1 台あたり売上(万円/台。車の大きさと中身で変わる))→ 売上 3,450 億円・営業利益 52 億円。台数 10.0 万・1 台 345 万円・営業利益率 1.5%
- 特装車・補修部品・他社受託:数量 200(従事する人員(人))× 価格 5,000(1 人あたり売上(万円/人))→ 売上 100 億円・営業利益 1 億円。200 人・1 人 5000 万円・営業利益率 1.0%
倍率:稼ぐ力は(純利益 36 − 余った現金 375×1.4%)÷ k + 余った現金 375×0.5 ≒ 520 億円で、床より小さい。床は純現金と売れる資産の税後 830 億円で、今の自己資本 1,838 億円に対し 0.45 倍。ROE が k 以下なので、床の資産で価値を置いた。
確率:25% を置いた。日産の再建の不確実さと、1 社依存の脆さを考えると、軽くはできない。親が弱るほど子会社の台数も削られやすい。
悲観 11% 構造的に負け、受託の仕事が細る 利益 −45 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 475 円643 億円
日産が国内工場の集約を進め、九州の車種も自社工場へ寄せる。または日産の経営が再び傾き、委託を大きく絞る。日産車体の台数は 6.5 万台まで落ち、工場の固定費が稼働の低下で重くのしかかる。営業利益は赤字になる。
補修部品の事業は、日産の補修部品の内製化や価格の引き下げで育たない。雇用維持の費用や遊休設備の減損も出て、純損失は 45 億円ほどになる。
配当は大きく減り、現金は構造改革の費用に回る。価値の下支えは、純現金から改革の費用を引き、工場用地の売却を加えた税後の額(約 640 億円)だけだ。筆者が最も恐れるのは、日産が再建のために子会社の仕事を引き上げる展開である。
- 車両受託生産:数量 6.5(受託台数(万台))× 価格 330(1 台あたり売上(万円/台。車の大きさと中身で変わる))→ 売上 2,145 億円・営業利益 −21 億円。台数 6.5 万・1 台 330 万円・営業利益率 -1.0%
- 特装車・補修部品・他社受託:数量 120(従事する人員(人))× 価格 4,500(1 人あたり売上(万円/人))→ 売上 54 億円・営業利益 −1 億円。120 人・1 人 4500 万円・営業利益率 -2.0%
倍率:ROE はマイナスで、稼ぐ力は価値を支えない。床は純現金から改革の費用を引き、工場用地の売却益(税後)を足した 640 億円で、今の自己資本 1,838 億円に対し 0.35 倍。自己資本は赤字と減損で 1,500 億円に減るとみる。
確率:11% を置いた。1 社依存・工場の縮小という構造で説明できる筋書きで、10 年という長さを考えると 1 割程度は見ておく必要がある。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
車両受託生産
日産が決めた車種と台数を、日産車体(湘南)と日産車体九州で組み立てて日産へ渡す。大型 SUV・商用バン・ミニバンなど。
| 数量受託台数(万台) | 価格1 台あたり売上(万円/台。車の大きさと中身で変わる) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 15.5 | 257 | 3,978 | 139 |
| 10 年後 中立 | 12.5 | 362 | 4,525 | 145 |
取り方:2026/03 期の受注 154,668 台。特装車・補修部品の推定 60 億円を除いた売上 3,978 億円を台数で割り、1 台あたり 257 万円を逆算した。台数の内訳は開示を確認できず、九州が約 13 万台、湘南が約 2 万台と推定(バネットの国内販売が年 1.4 万台前後であることからの見立て)。営業利益は全社 142 億円から下のセグメントの推定 3 億円を引いた。
特装車・補修部品・他社受託
消防車・救急車などの特装車と、2027 年度から本格化する車の修理用サービス部品、他社の部品の受託。
| 数量従事する人員(人) | 価格1 人あたり売上(万円/人) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 150 | 4,000 | 60 | 3 |
| 10 年後 中立 | 300 | 5,600 | 168 | 7 |
取り方:特装車や補修部品の売上は開示されていない。連結従業員 1,786 人のうち 150 人ほどがこの仕事に就くと推定し、1 人あたり 4,000 万円(部品加工の受託として一般的な水準の見立て)で売上 60 億円と置いた。推定なので、10 年の筋書きでも小さな割合にとどめた。 数量は実物(担当人数)で、名目の市場の伸びは根拠にしていない。増員は特装車の受注拡大を見込む推定で小さな割合。
リスクと懸念
日産 1 社への依存
売上の 98% が日産向けで、台数も単価も日産が決める。日産が国内工場の集約や自社生産の拡大を進めれば、委託は削られる。湘南の車両生産が止まるのは、その実例だ。日産の再建が思うように進まなければ、受託会社の仕事は真っ先に調整される。
湘南工場の転換
バネットの生産は 2026 年度末で終わり、2027 年度から補修部品の工場になる。人員の配置換え、設備の入れ替え、遊休期間の固定費が先に出る。補修部品の受注規模は未発表で、他社からの受託がどこまで取れるかも見えない。
大型 SUV の一本足
九州の稼ぎは、新型パトロールとアルマーダ(海外向け)に偏る。米国の関税、中東情勢(パトロールには減産の報道もあった)、モデルの寿命が重なれば、2026 年 3 月期の利益水準は保てない。エルグランドも栃木へ移る計画だ。
現金が戻らない
純現金 870 億円は時価総額の 7 割にあたるが、親子上場のため株主に戻る保証がない。2026 年の株主総会で出た特別配当の提案に、会社は反対した。ためた現金は利息が資本コストを大きく下回るので、置いた年数だけ価値が目減りする。
親の資金事情と利益相反
日産は再建の途中で、子会社の現金に目が向きやすい。TOB や完全子会社化の観測はあるが、条件は親が決める。少数株主に不利な値段で決着しても、止める手段は限られる。親から借りる、預けるといった資金のやり取りの詳細は確かめられていない。
受託の利益率の薄さ
営業利益率は過去 10 年の多くの年で 2% を下回り、赤字の年もあった。2026 年 3 月期の 3.5% は、大型 SUV の増産と効率化が重なった例外だ。単価の交渉は日産が握るので、台数が減る局面では、固定費が利益を直ちに削る。
今後の分かれ目
- 日産が日産車体への完全子会社化の TOB を発表したら
- 条件が現金の価値を反映しているかが分かれ目になる。反映するなら楽観に近づくが、反映しなければ少数株主には中立以下の結果になる。
- 補修部品や他社部品の大型の受託が決まったら
- 日産一本足の弱さが和らぐので、中立から楽観へ確率を移す。受注額と利益率が開示されるかを見る。
- パトロール・アルマーダの台数が大きく減ったら
- 九州の稼働が落ち、やや悲観に寄せる。海外向けの需要か、日産の割り当ての変更かを切り分ける。
- 株主総会で特別配当や自社株買いの提案が大きな賛成を集めたら
- 親が還元を受け入れる可能性が高まり、現金の戻り方を 0.5 より上へ見直す余地が出る。
- 日産が九州の車種をさらに栃木など自社工場へ移すと発表したら
- やや悲観・悲観の確率を上げる。台数の減り方と雇用の扱いが焦点になる。
- 日産の世界販売が見通しをさらに下回ったら
- 受託台数が削られる側に寄せる。日産の国内生産 100 万台の計画の進み具合も合わせて見る。
見ておくもの
- 日産の国内生産台数と、日産車体九州の車種の割り当て
- パトロール・アルマーダ・QX80 の生産台数(四半期の売上台数)
- 補修部品・他社受託の受注額の開示
- 株主総会の議決結果と、配当性向・自社株買いの方針
- 日産の資金繰りと、日産車体への TOB・完全子会社化の観測
- 湘南工場の転換に伴う特別損失の額
倍率と資本コストの決め方
倍率は式で決めた。事業の ROE が資本コスト 8.75% に届かない筋書きが多く、その場合の PER は 1÷k の約 10.8 倍が上限で、中立はその 88%(9.5 倍)に置いた。今の株価や過去の倍率は見ていない。余った現金 500 億円は、親子上場なので戻り方 0.5 で足した。結果は割高で、今の時価総額が現金を厚く見ていることが原因だ。悲観の床は純現金から再編の費用を引き、用地の売却益を足して置いた。リース会計の変更は、受託の工場の賃借が小さいので影響は限られ、10 年後の数字は今と同じ形で置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.8→12.63 倍・やや楽観 PER 9.8→11.43 倍・中立 PER 9.5→11.43 倍)。
資本コスト 8.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.75% を足して 9.25%。自社は純現金で傾いていないので上乗せ(extra)は付けない。日産の再建リスクは k に足さず、やや悲観・悲観の筋書きと確率で表した。同じ領域の 7211 三菱自(k 8.8%)7261 マツダ(k 8.5%)より高いのは、1 社依存と事業の寿命の差による。