結論
NOKは、オイルシールで世界首位級の部品会社だ。もう一つの柱であるスマートフォン向けの基板は、売上がシールと並ぶのに利益がほとんど出ない。筆者の結論は、事業の値段としてはやや割高、である。
稼ぎ頭はシール事業だ。車のエンジンや変速機の軸から油が漏れるのを防ぐ小さな部品で、国内の完成車メーカーのすべてが使う。2026年3月期の営業利益は279億円。値上げの転嫁が効き、今期はさらに増える見通しだ。
電子部品事業は対照的だ。売上は3,451億円でシールとほぼ同じなのに、営業利益は40億円しかない。大口顧客の機種の動きに振り回され、今期の第1四半期は赤字だった。
利益の実力は、見かけより小さい。2026年3月期の純利益463億円は、持ち合い株の売却益に支えられた。それを除くと270億円前後である。
一方、足元は厚い。純現金と持ち合い株が、時価総額の3割近くある。この分は事業とは別に、そのまま価値に足した。
確率を重ねた10年の期待は、配当を含めて年5%ほどだ。求める8.5%には届かない。電動化でエンジン向けのシールが減ること、基板の価格競争が続くことが重しになる。
NOKは2026年9月末に上場を廃止し、イーグル工業と共同の持株会社に移った。本稿はNOK単独の事業を評価する。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、NOKは守りが固く、攻めの利益が見えにくい会社だ。
良い点は二つある。一つは、シールという地味だが他社に替えにくい事業を持つこと。もう一つは、純現金と持ち合い株が厚く、払う値段に安全域が生まれることだ。この分は帳簿の値で価値に足した。
気がかりは、株主が自由に使える利益、つまり再投資に回さなくても残る利益が小さいことだ。稼ぐ力に対して資本が重く、事業だけで見たROEは5%台にとどまる。基板は、稼ぐ額より投じる設備の額が目立つ。この事業を持ち続ける理由を、経営はまだ数字で説明していない。
経営の姿勢は変わりつつある。持ち合い株の整理と累進配当は評価できる。ただ、売却で得た資金を利益の出る事業に回すのか、還元に回すのか。その答えが出るまで、事業の倍率は高く置けない。
オーナーとして持ち続けたいかと問われれば、シールだけの会社なら持ちたい、というのが筆者の答えだ。基板を抱えた今の姿では、値段次第である。
何で稼ぐ会社か
NOKは1941年にオイルシールの国産化から始まった会社で、今は二つの事業で成り立つ。
一つはシール事業で、2026年3月期の売上は3,674億円。オイルシール、Oリング、防振ゴム、化学品を作る。エンジンや変速機、建設機械、産業用ロボットの軸から油が漏れるのを防ぐ部品だ。国内の完成車メーカーのすべてと取引し、オイルシールの世界シェアは5割ともいわれる。自動車向けが中心だが、建設機械など車以外の需要も大きい。
もう一つは電子部品事業で、売上は3,451億円。薄く曲がるプリント基板(FPC)を、子会社の日本メクトロンが作る。用途はスマートフォンが売上のおよそ半分を占め、車載の電池監視用やハードディスク向けが続く。基板は顧客の新機種ごとに量が大きく動く。
このほかにその他事業があり、ロール製品の事業は2026年1月に売却した。収益の中身は偏っている。営業利益のほぼすべてをシールが稼ぎ、基板は薄利である。加えて、合弁や関連会社の持分法利益が約95億円あり、約32%を持つイーグル工業の分も含む。営業利益の3割近い額で、純利益の下支えになっている。
優良さと弱いところ
堀はシールにある。オイルシールは、完成車メーカーの認定を受けるまでに時間がかかる。一度採用されると、同じ部品が長く使われる。筆者は、この切り替えの重さがNOKのいちばん確かな強みだと見る。ドイツのフロイデンベルグ社との提携で技術を磨いてきた歴史もある。
弱みは二つある。一つは価格を決める力が弱いことだ。完成車メーカーは値下げを求めてくる。2023年度からの3年計画も、営業利益の目標に届かなかった。もう一つは電子部品だ。基板は顧客の機種サイクルで利益が大きく振れ、黒字に戻ったのは7期ぶりの2024年度だった。2026年3月期の営業利益率は1%ほどにとどまる。
財務は堅い。自己資本比率は65.7%で、純現金が942億円ある。ただROEは7%台で、資本コストを下回る年が長かった。PBRが0.7倍にとどまる理由はここにある。
経営は、資本政策の改善へ動いている。2025年5月に資金配分の方針を初めて公表し、累進配当と自社株買いを掲げた。2026年度から役員報酬に株主総利回りを入れた。変化は本物に見える。あとは利益で示す段階だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
自動車部品は、完成車の生産台数に左右される。世界の新車生産は2025年に約9,980万台で、これから10年は横ばいか小幅な増加と見る。先進国は成熟し、人口の伸びも見込めないからだ。
市場の中身は入れ替わる。電動化で、エンジンと変速機向けの部品は減り、モーターや電池、電子制御向けは増える。オイルシールは主にエンジンと変速機に使われるため、逆風を受ける。ただし駆動部の減速機や冷却系にもシールは要る。自動車用オイルシールの世界市場は年3%ほどの成長との調査もある。NOKは建設機械や産業用ロボットなど、車以外にも販売先を持つ。
競争は二層だ。シールではドイツのフロイデンベルグ、米国のパーカー・ハネフィン、スウェーデンのトレルボルグなどの外資が並び、国内にはジェイテクトもいる。中国メーカーは開発の速さと価格で迫る。NOKが中国に技術センターを置いたのは、このためだ。
基板は、台湾のZDTやフレキシウム、住友電工プリントサーキット、フジクラなどとの競争になる。世界市場の大きさは調査会社により154億〜265億ドルと開きがあり、価格は下がりやすい。スマートフォンの大口顧客の方針で、受注が大きく動く。
再編も進む。NOKは2026年10月にイーグル工業と共同持株会社をつくり、メカニカルシールを加えて、総合的なシール会社を目指す。
資本政策と M&A
資金の使い方は、ようやく株主の方を向き始めた。2025年5月に資金配分の方針を初めて公表し、成長投資を最優先に、累進配当と機動的な自社株買いを掲げた。2026年3月期には約150億円の自社株買いをした。
持ち合い株は減らしている。銘柄数は2023年3月末の82から、2026年3月末は51になった。2025年11月には原則として持たない方針を決め、3年以内に売却か売却計画を示すとした。2026年3月期は売却益が約360億円出て、純利益を押し上げた。この益は一度きりで、実力の利益には入れていない。
最大の出来事は、イーグル工業との統合である。NOKは同社の約32%を持つ筆頭株主だった。2026年10月1日に共同持株会社NOK Group(証券コード641A)をつくり、両社の株式は1対1で新会社の株式に替わる計画で、設立の開示も出ている。NOKは9月29日に上場を廃止した。目標は、2031年度のグループ売上1兆円と、2029年3月期に単純合算より営業利益を1割超増やすことだ。
M&Aも新しい中期計画の柱になる。ただ前の計画は目標に届かなかった。買う側として資本を上手に使えるかは、まだ証明されていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
シール事業の利益は、まだ伸びる。売価転嫁と原価低減で営業利益は2026年3月期に6%増え、今期の第1四半期は5割近い増益だった。中国の非日系メーカーへの拡販も、現地に技術センターを置いたことで軌道に乗った。電動化後も減速機や冷却系にシールは要り、建設機械や産業用ロボットなど車以外の需要もある。
基板は底を打った。2024年度に7期ぶりの黒字になり、翌年も黒字を守った。固定費は重いが、稼働が安定すれば利益は出る。車載の電池監視用の基板は、2026年にドイツのフォルクスワーゲンの電気自動車向けが量産に入る。
資本政策も追い風だ。持ち合い株は3年以内に整理する方針で、売却資金は成長投資と自社株買いに回る。PBRが0.7倍と低いことは、経営陣も最優先の課題と認めた。イーグル工業との統合で間接費と調達の削減が進めば、営業利益は2029年3月期に単純合算より1割超増える。純現金と持ち合い株は時価総額の3割近い。事業を高く評価しなくても、今の値段は割安だ。
慎重な見方
実力の利益は小さく、倍率は高い。2026年3月期の純利益463億円は売却益に支えられ、それを除くと270億円前後だ。時価総額から現金と持ち合い株を除いた事業の値段をこの利益で割ると、14倍近くになる。ROEが5%台の会社に払う倍率ではない。
電動化はシールの需要を削る。オイルシールの主な用途はエンジンと変速機だ。駆動部の新しい用途で取り返せる保証はなく、中国メーカーは低価格で迫る。2023年度からの計画が未達に終わったのは、需要の見立てが甘かったからだ。
基板は構造的に厳しい。売上の半分ほどをスマートフォンに頼り、大口顧客の機種サイクルで利益が動く。2020年3月期と2021年3月期は純損失で、今期も第1四半期は赤字だった。営業利益率は1%ほどしかない。
持ち合い株も安全域とは言い切れない。売却益は一度きりで、売れば配当収入も減る。統合も、イーグル工業の半導体向けの赤字を引き受けることになり、効果は実行次第である。
どちらに重みを置いたか
本業の利益の伸びは小さく、10年の期待は配当を含めても年5%ほどにとどまる。慎重な見方の方が強いとみて、確率をやや悲観の側に寄せた。一方、純現金と持ち合い株の厚みは強気の見方のとおり本物で、悲観の深さは浅くした。今の値段の多くは資産の価値で説明がつく。事業そのものには、まだ払い過ぎている。確率の寄せ方には、前の中期計画が未達だった実績と、基板の赤字の再発も織り込んだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,371 円5,380 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,959 円3,126 億円)。 今の値に割り戻すと 2,793 円4,458 億円、今との差 −8.6%、 期待の年率 +5.7%(資本コスト 8.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 7,072 円1.13 兆円 | 3,258 円5,200 億円 | +238.0% | +13.0% | 620 円989 億円 |
| やや楽観 | 17% | 5,263 円8,400 億円 | 2,631 円4,200 億円 | +158.3% | +10.0% | 1,342 円2,142 億円 |
| 中立 | 35% | 3,658 円5,839 億円 | 2,068 円3,300 億円 | +87.4% | +6.5% | 2,004 円3,199 億円 |
| やや悲観 | 27% | 2,052 円3,275 億円 | 1,566 円2,500 億円 | +18.4% | +1.7% | 977 円1,559 億円 |
| 悲観 | 15% | 1,449 円2,312 億円 | 1,128 円1,800 億円 | −15.7% | −1.7% | 386 円617 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,371 円5,380 億円 | 1,959 円3,126 億円 | +74.4% | +5.7% | 5,329 円8,506 億円 |
今の株価時価総額 3,056 円4,878 億円(2026-09-25)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 6% シールが新しい用途で伸び、基板が収益の柱に育つ 利益 824 億円 · PER 12.4 倍 · 株価時価総額 7,072 円1.13 兆円
電動化が進んでも、モーターと減速機、電池の冷却系にはシールが要る。NOKは中国メーカーでの採用を足がかりに、これらの新しい用途で数量を伸ばし、価格もミックスの改善で物価を上回る。建設機械や産業用ロボットなど、車以外の需要も育つ。電子部品事業は、車載の電池監視用の基板が柱に育つ。大口顧客への依存が薄れ、営業利益率は7%台半ばに届く。イーグル工業との統合の効果が営業利益を2桁%押し上げ、グループの売上は1兆円の目標を超える。持ち合い株の整理は終わり、累進配当と自社株買いが安定して続く。全体の営業利益率は9%台後半になり、資本効率は市場が求める水準に近づく。
- シール事業:数量 5,589(NOK製品が載る自動車の台数相当(万台。世界の自動車生産台数×カバー率の推定))× 価格 1.03(1台あたりのシール事業売上(万円/台。車以外の用途を台数換算に含む))→ 売上 5,761 億円・営業利益 663 億円。シール 営業利益率11.5%
- 電子部品事業(FPC):数量 29.9(世界のFPC市場(実質・億ドル)×NOKのシェアの推定)× 価格 1.25(ドル建ての単価指数(2026年3月期=1.00)。為替は150円で固定)→ 売上 5,606 億円・営業利益 421 億円。電子部品 営業利益率7.5%
倍率:事業の ROE 13.4% は k 8.5% を上回る。RONIC = k + 残る割合 1/2 ×(ROE − k)= 11.0%、g 4.0% から正当化 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g)= 14.1 倍。大口顧客の機種サイクルで電子部品が振れ、電動化でシールの中身も入れ替わるので、上限の 8.8 割の 12.4 倍に置いた。現金・持ち合い株は別に足した。
確率:電動化後の駆動部にもシールの需要が残り、基板も新しい顧客を取る、という二つの転換が同時に成功する必要がある。実現すれば大きいが、確度は高くない。
やや楽観 17% 値上げと中国向けで、シールが利益の柱を太くする 利益 636 億円 · PER 11.5 倍 · 株価時価総額 5,263 円8,400 億円
シール事業は、電動化でエンジン向けが減る分を、駆動部の新しい用途と、建設機械・産業用ロボットなど車以外の需要が埋める。価格転嫁の習慣が根づき、営業利益率は10%台に乗る。電子部品事業は、車載向けが育ち、営業利益率は5%台まで戻る。ただスマートフォン向けは頭打ちで、全体の伸びは限られる。イーグル工業との統合では、クロスセルと間接費の削減が計画に近い形で出る。資本政策では持ち合い株の売却が終わり、累進配当と自社株買いが安定して続く。目標の1兆円には届かないが、利益の質は着実に上がる。株主への還元も、利益の伸びに沿って増えていく。堅実に歩を進める10年になる。
- シール事業:数量 5,389(NOK製品が載る自動車の台数相当(万台。世界の自動車生産台数×カバー率の推定))× 価格 0.99(1台あたりのシール事業売上(万円/台。車以外の用途を台数換算に含む))→ 売上 5,317 億円・営業利益 558 億円。シール 営業利益率10.5%
- 電子部品事業(FPC):数量 27.6(世界のFPC市場(実質・億ドル)×NOKのシェアの推定)× 価格 1.15(ドル建ての単価指数(2026年3月期=1.00)。為替は150円で固定)→ 売上 4,761 億円・営業利益 262 億円。電子部品 営業利益率5.5%
倍率:事業の ROE 10.8% は k 8.5% を上回る。RONIC = k + 残る割合 1/2 ×(ROE − k)= 9.7%、g 4.0% から正当化 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g)= 13.0 倍。大口顧客の機種サイクルで電子部品が振れ、電動化でシールの中身も入れ替わるので、上限の 8.8 割の 11.5 倍に置いた。現金・持ち合い株は別に足した。
確率:足元のシールの値上げ転嫁と中国向けの拡販が10年続く、という延長線の筋書き。基板の改善は部分的にとどまる。
中立 35% 中立:電動化でシールの中身が入れ替わり、基板は薄利が続く 利益 468 億円 · PER 10.1 倍 · 株価時価総額 3,658 円5,839 億円
シール事業は、エンジンと変速機向けの減少を、モーター・減速機向けと車以外の需要で埋める。台数は微増にとどまり、価格は物価をやや下回る。営業利益率は9%台前半で安定する。電子部品事業は、スマートフォン向けが頭打ちのまま、車載向けが少しずつ伸びる。競争が厳しく、ドル建ての単価は物価ほど上がらないため、営業利益率は3%にとどまる。イーグル工業との統合の効果は、間接費の削減が中心で、売上面の効果は限られる。持ち合い株は整理が終わり、還元は利益のおよそ7割を保つ。10年たっても、NOKは安定しているが成長の遅い会社のままである。
- シール事業:数量 5,240(NOK製品が載る自動車の台数相当(万台。世界の自動車生産台数×カバー率の推定))× 価格 0.96(1台あたりのシール事業売上(万円/台。車以外の用途を台数換算に含む))→ 売上 5,015 億円・営業利益 466 億円。シール 営業利益率9.3%
- 電子部品事業(FPC):数量 25.8(世界のFPC市場(実質・億ドル)×NOKのシェアの推定)× 価格 1.08(ドル建ての単価指数(2026年3月期=1.00)。為替は150円で固定)→ 売上 4,173 億円・営業利益 125 億円。電子部品 営業利益率3.0%
倍率:事業の ROE 8.0% は k 8.5% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER の上限は 1÷k = 11.8 倍。大口顧客の機種サイクルで電子部品が振れ、電動化でシールの中身も入れ替わるので、上限の 8.6 割の 10.1 倍に置いた。現金・持ち合い株は別に足した。
確率:電動化で一部のシールは減るが、駆動部の新用途と値上げで埋め合わせる。基板は競争が続き、利益率は低いまま、という最も重みを置く筋書き。
やや悲観 27% 中国勢と電動化に押され、シールも基板も伸びない 利益 275 億円 · PER 8.8 倍 · 株価時価総額 2,052 円3,275 億円
電動化が想定より早く進み、エンジンと変速機向けのシールが減る。駆動部の新しい用途は取れるが、中国メーカーの低価格品との競争で、単価は物価に届かない。シール事業の営業利益率は7%台半ばに下がる。電子部品事業は、スマートフォン向けの受注を失い、工場の統廃合を進めても利益が出ない。イーグル工業との統合も、効果の多くは間接費の削減にとどまる。M&Aで新しい柱を買う試みは成果が薄く、資本の効率は低いまま続く。持ち合い株の売却資金は、還元よりも赤字の事業の維持に使われがちになる。市場は、成長のない会社として評価を下げ続ける。シェアの低下は緩やかだが、利益の水準は10年前に逆戻りする。
- シール事業:数量 4,840(NOK製品が載る自動車の台数相当(万台。世界の自動車生産台数×カバー率の推定))× 価格 0.92(1台あたりのシール事業売上(万円/台。車以外の用途を台数換算に含む))→ 売上 4,455 億円・営業利益 334 億円。シール 営業利益率7.5%
- 電子部品事業(FPC):数量 21.9(世界のFPC市場(実質・億ドル)×NOKのシェアの推定)× 価格 1.00(ドル建ての単価指数(2026年3月期=1.00)。為替は150円で固定)→ 売上 3,278 億円・営業利益 0 億円。電子部品 営業利益率0.0%
倍率:事業の ROE 4.9% は k 8.5% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER の上限は 1÷k = 11.8 倍。大口顧客の機種サイクルで電子部品が振れ、電動化でシールの中身も入れ替わるので、上限の 7.5 割の 8.8 倍に置いた。現金・持ち合い株は別に足した。
確率:電動化でエンジン向けのシールの減りが想定より早く、中国の部品メーカーの低価格攻勢と基板の価格下落も重なる。前の中期計画が未達だった実績を踏まえ、確率を厚くした。
悲観 15% 電動化で本業が細り、大口顧客も失って構造的に負ける 利益 58 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 1,449 円2,312 億円
電動化が加速し、エンジンと変速機向けのシールが大きく減る。新しい用途での採用は限られ、価格競争で単価も下がる。電子部品事業は、大口顧客が調達先を替えて売上が4割減り、工場の閉鎖が相次いで赤字が続く。M&Aでの穴埋めも失敗に終わる。イーグル工業との統合も、効果が出る前に外部環境の悪化に飲み込まれる。持ち合い株の売却資金は、赤字の補填と構造改革に回る。優良な部品会社という評価は外れ、市場は持ち合い株と現金の価値だけを見るようになる。それでも財産が厚く、PBRの底は0.45倍にとどまる。ただ、株主の取り分は大きく目減りする。
- シール事業:数量 4,242(NOK製品が載る自動車の台数相当(万台。世界の自動車生産台数×カバー率の推定))× 価格 0.81(1台あたりのシール事業売上(万円/台。車以外の用途を台数換算に含む))→ 売上 3,435 億円・営業利益 137 億円。シール 営業利益率4.0%
- 電子部品事業(FPC):数量 13.8(世界のFPC市場(実質・億ドル)×NOKのシェアの推定)× 価格 0.85(ドル建ての単価指数(2026年3月期=1.00)。為替は150円で固定)→ 売上 1,760 億円・営業利益 −70 億円。電子部品 営業利益率-4.0%
倍率:営業利益がほぼゼロで稼ぐ力は約 700 億円にとどまる。純現金 942 億円に、持ち合い株とシール事業の売却を税引き後に足した 2,300 億円を床とし、今の自己資本の約 0.37 倍に置いた。
確率:エンジン向けシールの急減、中国勢への敗北、基板の大口顧客の離脱が同時に起きる、構造的な負けの筋書き。純現金があるため全滅は想定しないが、確率は厚く見た。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
シール事業
オイルシール・Oリング・防振ゴム・化学品。エンジン・変速機・建設機械・産業用ロボットなどの軸の漏れを防ぎ、振動を抑える。事業の収益の柱。
| 数量NOK製品が載る自動車の台数相当(万台。世界の自動車生産台数×カバー率の推定) | 価格1台あたりのシール事業売上(万円/台。車以外の用途を台数換算に含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4,990 | 0.74 | 3,674 | 279 |
| 10 年後 中立 | 5,240 | 0.96 | 5,015 | 466 |
取り方:2026年3月期のシール事業は売上3,674億円・営業利益279億円(決算短信)。世界の自動車生産は2025年に約9,980万台。NOKは国内の完成車12社すべてと取引し、オイルシールの世界シェアは5割とされる(古い資料)ことから、台数のカバー率を5割と推定して4,990万台相当とした。建設機械・産業用ロボットなど車以外の需要は、台数換算の1台あたり売上に織り込んだ。価格は物価並みに上がるのが基本(3年1.09倍・10年1.34倍)だが、電動化でエンジン向けの量が減る分を、実質の1台あたり売上の低下として見込む。
電子部品事業(FPC)
子会社の日本メクトロンが作るフレキシブルプリント基板。スマートフォン向けが売上のおよそ半分で、車載の電池監視用なども手がける。
| 数量世界のFPC市場(実質・億ドル)×NOKのシェアの推定 | 価格ドル建ての単価指数(2026年3月期=1.00)。為替は150円で固定 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 23.0 | 1.00 | 3,450 | 40 |
| 10 年後 中立 | 25.8 | 1.08 | 4,173 | 125 |
取り方:2026年3月期の電子部品事業は売上3,451億円・営業利益40億円。世界のFPC市場は調査会社により154〜265億ドル(2024年)と開きが大きいため、250億ドルの前後とみてNOKのシェアを約9%と推定し、23億ドル相当とした(×150円で3,450億円)。ドル建ての単価は競争で物価ほど上がらないのが普通で、実質では下がる前提を置く。
リスクと懸念
電動化でエンジン向けシールが減る
オイルシールの主な用途はエンジンと変速機だ。電動車が増えると、この需要は構造的に縮む。駆動部の減速機や冷却系などで新しい需要を取れても、1台あたりの売上が元に戻る保証はない。電動化の速度が想定を超えれば、シール事業の稼ぐ力が弱まる。
基板の大口顧客と価格下落
電子部品事業は、売上のおよそ半分をスマートフォンに頼る。大口顧客の新機種の数量や調達方針で、受注が大きく動く。ドル建ての単価は競争で下がりやすく、固定費の重さと現地通貨高も加わる。今期の第1四半期は赤字で、利益率は1%ほどと薄い。
完成車メーカーの値下げ要求と世界の生産
部品会社は、完成車メーカーのコスト要求を受けやすい。足元は価格転嫁が効いているが、需要が弱まると巻き戻されやすい。米国の関税や日系メーカーの国内生産の減少も数量に響く。2009年3月期のように、不況では営業利益率が1%台まで落ちた例がある。
中国メーカーの台頭
中国の自動車メーカーは開発が速く、部品も安く調達する。NOKは中国の非日系向けの拡販で伸びてきたが、現地の部品会社が追い上げれば、単価と採用の両方が圧迫される。電池用の基板でも、中国勢の低価格品が増える懸念がある。
統合の実行と過去の計画未達
イーグル工業との統合は、間接費の削減と相互の販売で、2029年3月期に営業利益を1割超上積みする計画だ。ただNOKは前の中期計画で目標に届かなかった。イーグル工業は半導体向けが赤字で、統合後の費用や人材の調整が想定より重くなる可能性がある。
持ち合い株の売却益は一度きり
2026年3月期の純利益は、売却益が約360億円乗って膨らんだ。この益は続かない。株を売れば配当収入も減る。売却資金を利益の出る事業や株主還元に回せなければ、現金が積み上がるだけで資本効率は改善しない。
資本配分とM&Aの失敗
新しい中期計画は、M&Aで新しい柱を買うことを掲げる。買収で価値を壊した企業は多い。手元の現金が多いほど、割高な買い物をする誘惑も強まる。ロール製品事業の売却で約90億円の損失を出した例もあり、事業の見極めが問われる。
今後の分かれ目
- シール事業の営業利益率が2期続けて9%を超えたら
- 価格転嫁が定着したとみて、やや楽観・楽観の確率を上げる。10年の中立も利益率を上げる方向で見直す。
- 電子部品事業が黒字を保ち、利益率が3%を超えたら
- 基板が薄利を抜けたとみて、利益と倍率の両方を見直す。大口顧客への依存度が下がった確認も合わせて行う。
- 電動車の比率が想定より早く上がり、エンジン向けシールの受注が減り始めたら
- 10年の筋書きをやや悲観・悲観の側に寄せる。シールの数量と単価の前提を下げる。
- 持ち合い株の売却資金が、自社株買いや利益の出る投資に使われたら
- 資本の使い方の評価を上げ、余った現金に付ける評価の割引をなくす方向で見直す。
- イーグル工業との統合の効果が、2028年度に計画どおり出始めたら
- 統合後の営業利益を上乗せして、やや楽観の確率を厚くする。計画未達なら、その分を下げる。
- 世界の新車生産が2〜3割落ちる不況が来たら
- 悲観の筋書きの実現として、現金と持ち合い株が床になるかを確かめ、床の高さを見直す。
見ておくもの
- シール事業と電子部品事業の営業利益率の四半期の推移
- 基板の大口顧客の新機種の量と、車載・電池向けの売上の伸び
- 持ち合い株の銘柄数と売却額、売却資金の使い道(自社株買いか投資か)
- イーグル工業との統合の効果額と、新しい中期計画の数値目標
- 電動車の世界販売の比率と、駆動部向けシールの採用の進み方
倍率と資本コストの決め方
今の株価やPERから逆算せず、シールと基板の数量×価格を積み、事業の純利益に倍率を当てた。資本コストは基本7.5%に quality +1.0%(循環+0.5・値決め+0.25・寿命+0.25)を足した8.5%。事業ROEが資本コスト以下のため、上限は1÷kの11.8倍。中立は10.1倍で、その86%に置いた(楽観・やや楽観8.8割、やや悲観7.5割)。余った現金と持ち合い株は、純現金942億円のうち640億円と政策保有株の税引き後の推定約660億円を、1,300億円として足した(内訳は推定)。実力の純利益は270億円前後で、為替差益と売却益は除いた。悲観は純現金と持ち合い株・シール事業の売却の税後 2,300 億円を床にし、過去のPBRは使っていない。結果は10年で約 −9% の適正。リースは小さく影響しない。上場廃止とイーグル工業との統合は、NOK単独の評価に含めた(株式は1対1で、イーグルの価値は見合う前提)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.0% を足した 8.5%。大口顧客への依存やイーグル工業との統合の実行は k に足さず、筋書きと確率で表した。