結論
HCA ヘルスケアは、米国 19 州と英国で 190 の病院と約 2,600 の外来拠点(独立の外来手術センター 118 か所を含む)を運営する米国最大の営利病院チェーンである。2025 年は売上 756 億ドル、営業利益 120 億ドル(営業利益率 15.8%)、純利益 68 億ドルで、2026 年の会社見通しは売上 770〜795 億ドル、純利益 63〜67 億ドルと、保険の無保険化(ACA 取引所の補助拡大の失効)で 10〜12 億ドルの減益要因を抱えながらも、州のメディケイド追加支払いで一部を埋める形になっている。
強みは地域ごとの寡占と規模である。州ごとに 1〜2 位の病院網を持ち、商業保険との価格交渉、購買、人材の配置で非営利の病院や小さな営利病院にない効率を出し、営業利益率は 2008 年以降 10〜16% の範囲を保ってきた。一方で、自己資本はマイナス、純有利子負債は約 487 億ドル(時価総額の約半分、利払い前の利益の約 3 倍)と、自社株買いで資本を使い切った形で、景気や制度の揺れが利益に増幅されて出る。
数量 × 価格で 10 年を積むと、中立の筋書きは換算入院件数が年 2%、1 件あたり収入が年 3%(物価 3.5% より低い。無保険と州のメディケイドの比率が上がり平均を押し下げるため)、営業利益率が 15.8% から 15% 前後へ縮み、2036 年の純利益は 100 億ドル強になる。借金の重さは quality の debt(+0.25%)で資本コストを 8.25%(基本 8.0% + quality +0.25%)に上げて表し、倍率は利益ベースの正当化 PER(10 年の中立で 18.8 倍)の 8 割、15.1 倍に置いた(長期の g は制度への依存で物価並みの 3.5%。事業の ROE は ROIC の式で出した)。10 年後の時価総額は今の約 1.5 倍で、配当と自社株買いを加えると確率加重の価値は今を 3 割弱上回る「やや割安」。前の版は倍率を借入と制度で 15〜25% 割り引いていたが、借入は資本コストと利払い、制度は g に入れたので二重に下げない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資家なら、まず 10 年後も存在するかを問う。答えは、ある。人口の高齢化で入院・手術は増え、病院は地域に根ざす事業で、新しい競合が入りにくい。堀は価格を決める力というより、保険者が地域の病院網を外せないという形の「防ぐ堀」である。
オーナー利益は、純利益 65 億ドルから、成長以外に要る設備投資(減価償却を超える分)を引き、株式報酬を費用として見ても、年 60 億ドル前後と見る。今の時価総額 1,012 億ドルに対する利回りは約 6% で、名目の国債 5% を少し上回り、病院の収入も物価とともに上がるので、利回りは物価に合わせて伸びる。ただし負債が重く、純有利子負債が時価総額の約半分あるので、事業の価値は同じでも株主の価値は景気で大きく動く。
経営の資本配分は、投資の採算を比べながら規律を保ち、自社株買いを借入で続ける点が評価の分かれ目になる。割安な時に買えば価値を増やすが、割高な時や不況の前に買うと株主の安全域を削る。事業は分かりやすいが、制度の変更(ACA の補助、メディケイド)は会社が決められず、確信度は中にとどめる。安全域は、確率加重で今の値段を 3 割弱上回る程度で、借金が重く悲観では 5 割ほど下がることから、厚くはない。
何で稼ぐ会社か
収益の大半は病院事業である。入院・救急・手術・分娩・病院内の外来診療を、米国の 190 の急性期病院(認可病床 50,550 床)で提供し、収入は保険ごとの交渉で決まる。収入の主な払い手は、商業保険(収入の約 5 割、価格が最も高い)、メディケア(高齢者、約 3 割)、メディケイド(低所得者、州が払う。連邦と州が追加の「指定支払い」を病院に足す)、ACA 取引所(個人向けの補助つき保険)、無保険の患者である。
病院の外側に、独立の外来手術センター(118 か所)、救急クリニック、診療所、画像診断などの外来網がある。外来は利益率が病院より高く、入院手術を外来へ移す業界の流れの受け皿として伸びている。英国では私立病院をいくつか運営するが規模は小さい。
価格は保険者との契約で決まり、年に商業で 4〜5% の上げを交渉するが、メディケアは法律の枠で毎年 2〜3% しか上がらない。コストの最大の項目は人件費(収入の約 4 割)で、看護師の賃金と派遣の費用が価格より速く上がると利益率が削られる。もう 1 つの特徴は、州ごとの追加支払い(フロリダ・テキサスなど)が利益の一部を占めることで、2026 年は 4〜6 月だけで売上に 13.7 億ドルが入った(うち過去分が約 9.8 億ドル)。この収入は州と連邦の政策に左右される。
資本は、年 50〜55 億ドルの設備投資(病床の増設・外来拠点・ITの更新)に使い、営業キャッシュフローは年 120〜130 億ドル。残りを配当と自社株買いに回し、借入で自社株買いの規模を保っている。
優良さと弱いところ
堀は 3 つある。第 1 は地域の寡占で、HCA は主要な市場(フロリダ・テキサス・テネシーなど)で病院網を面で押さえ、商業保険は HCA の病院を外せないため、価格を毎年上げる力が強い。第 2 は規模で、購買・人材紹介・IT・ベストプラクティスの横展開で、同じ病床あたりの利益が競合より高い。営業利益率 15〜16% は、上場の競合であるテネット・ヘルスケア(Tenet)やユニバーサル・ヘルス・サービシズ(UHS)、コミュニティ・ヘルス・システムズを上回る。第 3 は資本の配分の規律で、買収に偏らず、病院の増設・外来の拡大・自社株買いを投資の採算で比べる。
資本効率の指標としては、投下資本(純有利子負債と自己資本の合計)に対する税引き後の営業利益が 20% を超える。ただし自己資本はマイナスで、ROE という数字は使えない。経営は安定しており、CEO のサム・ハゼン氏の下で、業績の見通しと実績のずれは近年小さい。
弱点は 4 つ。価格を最終的に決めるのは保険者と政府で、堀は「防ぐ堀」である。人件費が重く、賃金の上昇が価格を超える年は利益率が縮む。借入が重く、利益の 5 割強が金利と自社株買いの原資で消える。そして制度への依存で、ACA の補助、メディケイドの州補助金、無保険率という、会社が決められないものが利益に直結する。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
米国の国民医療費は年 5.8% で伸び(GDP は 4.3%)、病院の支出は 2026〜2033 年に年 5.4% の見通しで、需要の量は確かである。高齢化で入院・手術が増え、HCA の長期の数量の伸びは年 2〜3% と見ている。2026 年 4〜6 月は同一施設の入院が 2.5% 増、換算入院が 2.7% 増、救急が 3.6% 増で、手術は入院が 2.3% 減・外来が 3.4% 減と、足元は軟調である。
2026 年の最大の逆風は無保険化である。ACA 取引所の補助拡大が 2025 年末に失効し、2025 年成立の包括法(OBBBA)によるメディケイドの資格見直しも重なって、保険を失った患者の受診が無保険の診療に切り替わった。HCA は 2026 年の減益要因を 4 月に 6〜9 億ドルと見ていたが、7 月に 10〜12 億ドルへ引き上げ、4〜6 月だけで約 4 億ドルの税引き前の損失が出た。他方、フロリダの指定支払いの承認で、メディケイドの追加支払いは前年比で 3〜5 億ドルの増収に転じた(4 月は 0.5〜2.5 億ドルの減収を見込んでいた)。
競争は、急性期では上場の競合であるテネット・ヘルスケア、UHS、コミュニティ・ヘルス・システムズに加え、各地の非営利の大病院が過半を占める。透析・検査などほかの領域との競争は少ない。病院は商業保険の支払い(ユナイテッドヘルスなど)の抑制に直面するが、地域の寡占があるため、価格の交渉力は保たれている。
循環のどこにいるかといえば、2021〜2025 年の「数量の戻りと値上げ」の局面から、制度の逆風を迎える谷の手前〜初期で、2027〜2028 年に補助が復活するかが分かれ目になる。
資本政策と M&A
還元は自社株買いが主役である。2025 年は約 100 億ドルを自社株買いに使い、2026 年 1 月に 100 億ドルの新しい枠を承認、上半期の買い戻しは 36 億ドルで、残りの枠は 72 億ドル。配当は小さく年 7〜8 億ドルである。株数は年 5〜9% 減ってきたが、これは自己資本をマイナスにし、有利子負債を 497 億ドルまで積んだ結果でもある。純有利子負債の利払い前の利益に対する倍率は約 3.1 倍で、会社は 3〜3.5 倍を保つ方針と見られる。
M&A は、病院の大型買収より、地域の病院・外来拠点・診療所を足していく形が中心で、2010 年代後半の急性期病院の統合では他社に先行した。今後も大型の買収は反トラストで難しく、買われる側になる可能性は時価総額 1,000 億ドル超では現実的でない。
注意する点は、金利が上がった環境での借り換えである。有利子負債の約 6 割は 3 年で新しい金利(米国債 5% + 1%)に変わり、利払いは 2026 年の約 24 億ドルから徐々に増える。借入で自社株買いを続ける方針が、景気後退期に弱みになりうる。
2026 年に決算期末後すでに実行した自社株買い 35.7 億ドル(10-Q・2026 年 1〜6 月・資本の部の合計)は、今の株数(時価総額)に反映済みなので、10 年の還元には数えず、自己資本の起点(-96.0 億ドル)からも外した。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
無保険化は一過性である。ACA 取引所の補助拡大は失効したが、保険を失った患者の多くは雇用や州の制度で再び保険に入り、無保険の比率の上昇は 2026 年が山になる。HCA は 2026 年の減益要因 10〜12 億ドルのうち約 4 億ドルを、効率化の「回復力の計画」で自力で埋める。フロリダの指定支払いの承認で、メディケイドの追加支払いは前年比で増収に転じ、制度の逆風の一部はすでに相殺された。
数量は確かに伸びる。国民医療費は年 5.8% で伸び、高齢者が入院・手術・救急を増やす。外来への移行も、独立の外来手術センター 118 か所を持つ HCA の外来網が受け止める。州ごとに 1〜2 位の病院網は、保険者が外せないため、商業の年 4〜5% の値上げが続く。営業利益率は 2021 年の 16.5% を再び超える。
資本の使い方も株主向きである。営業キャッシュフロー年 120〜130 億ドルから設備投資 50〜55 億ドルを引いた残りが、配当と自社株買いに回り、株数が年 5% 前後減る。純利益が年 6〜8% 伸び、倍率が 14〜15 倍に保たれれば、10 年後の時価総額は今の 2 倍に届く。
慎重な見方
無保険化は一過性ではなく、構造である。OBBBA によるメディケイドの資格見直しは段階的に効き、ACA の補助が復活する見込みは薄い。2026 年の減益要因は 4 月の 6〜9 億ドルから 7 月の 10〜12 億ドルへ 1 回の決算で引き上げられ、4〜6 月の手術は入院も外来も減った。数量の伸びが年 2〜3% というのは、ACA の患者が数量の約 8%・収入の 1 割超を占めるという構成が崩れた後の数字として、強気すぎる。
メディケイドの州の追加支払いも、政策で決まる収入にすぎない。2026 年は過去分の約 9.8 億ドルを含み、下期は 1〜3 億ドルの逆風が見込まれている。連邦政府が州の財政を締めれば、翌年以降は減る。商業保険は、ユナイテッドヘルスなどが支払いの抑制と審査の強化で病院の価格を抑える圧力を強めている。人件費は年 4% で、価格の上げ(メディケアは年 2〜3%)を超える。
そして借入である。純有利子負債が時価総額の約半分で、自己資本はマイナス、利払いは借り換えで増える。景気後退で利益が 3 割落ちれば、1 株あたりの効果が増幅される。今の PER 約 15 倍は、これらを割り引いていない。
どちらに重みを置いたか
無保険化と州の追加支払いは 2026 年の決算ですでに数字に出ており、会社が 1 度見通しを下げた事実は軽くない。一方で、地域の寡占と 15% 台の営業利益率は 2008 年以降一度も崩れていない。10 年は、構造的な悲観(メディケイドの縮小・保険者の圧力)を 12% とやや厚く、楽観 10%、やや楽観 22%、中立 33%、やや悲観 23% とした。借入の重さは quality の debt(+0.25%)で資本コスト 8.25% に入れ、制度のリスクは長期の g と悲観の確率で表した。結論は「やや割安」で、安全域は厚くない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/12 期)
確率で加重した株価時価総額 687.52 ドル1,516 億ドル(+ 配当配当と自社株買いの合計 393.90 ドル869 億ドル)。 今の値に割り戻すと 576.18 ドル1,271 億ドル、今との差 +23.3%、 期待の年率 +8.8%(資本コスト 8.3%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 1,137 ドル2,507 億ドル | 550.61 ドル1,214 億ドル | +261.1% | +13.7% | 168.74 ドル372 億ドル |
| やや楽観 | 22% | 922.74 ドル2,035 億ドル | 482.59 ドル1,064 億ドル | +200.7% | +11.6% | 309.17 ドル682 億ドル |
| 中立 | 33% | 711.12 ドル1,568 億ドル | 419.11 ドル924 億ドル | +141.9% | +9.2% | 372.98 ドル823 億ドル |
| やや悲観 | 23% | 465.91 ドル1,028 億ドル | 319.36 ドル704 億ドル | +68.0% | +5.3% | 180.61 ドル398 億ドル |
| 悲観 | 12% | 241.73 ドル533 億ドル | 174.26 ドル384 億ドル | −11.0% | −1.2% | 49.92 ドル110 億ドル |
| 加重平均 | 100% | 687.52 ドル1,516 億ドル | 393.90 ドル869 億ドル | +131.4% | +8.8% | 1,081 ドル2,385 億ドル |
今の株価時価総額 467.31 ドル1,031 億ドル(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 10% 楽観:補助が戻り、数量・価格・利益率がそろって伸びる 利益 144 億ドル · PER 17.4 倍 · 株価時価総額 1,137 ドル2,507 億ドル
2036 年、換算入院は年 3%(高齢化と補助の復活)、価格は年 3.5%、病院の営業利益率は 15.8%、外来手術センターは年 5% で増え利益率 33%。連結の営業利益は約 258 億ドル(17.2%)、純利益は 144 億ドル。HCA は州ごとに 1〜2 位を保ち、買収で外来網を厚くする。競合と比べると、テネット・ヘルスケアが利益の過半を外来手術に依存する戦略は有力だが、HCA は病院の寡占の基盤が 3〜4 倍大きい。この筋書きがうまくいけば純利益は 2026 年の 2.2 倍、競合に外来の分野で負け続ければ 1.8 倍に下がる。買収は大型でなく外来拠点の積み上げにとどまる。倍率は正当化 PER 19.3 倍の 9.0 割にあたる 17.4 倍に置いた。
- 急性期病院(入院・救急・病院の外来):数量 6.6(換算入院件数(百万件))× 価格 21,018(1 件あたり収入(ドル))→ 売上 1,384 億ドル・営業利益 219 億ドル。換算入院と 1 件あたり収入
- 外来手術センター・診療所・救急クリニック・英国ほか:数量 10.6(外来の件数(百万件・推定))× 価格 1,128(1 件あたり収入(ドル・推定))→ 売上 119 億ドル・営業利益 39 億ドル。外来の件数と 1 件あたり収入
倍率:上限の正当化 PER 19.3 倍に対し、17.4 倍(9.0 割)に置いた。中立の 8.0 割に、利益の質がよい分を上乗せした(楽観 +1.0 割)。上限の中身は g 3.5%、RONIC 43.2%(k 8.25% + 残る割合 0.50 ×(事業の ROE − k))、moat は 普通。式は (1−g÷RONIC)÷(k−g)。事業の ROE 78.1%(帳簿の自己資本 ROE は 40% 超か自己資本が負・極小なので使わず、ROIC 41%(税引き後営業利益 ÷(その筋書きの自己資本+今の純負債))+(ROIC − 税引き後の借入金利 4.4%)× 業界並みの負債の比 1.0(純負債 ÷(自己資本+純負債)。1 まで)で出した値)。時価総額は、書いた純利益 144 億ドル × 17.4 倍で 2507 億ドル。純負債と利払いは純利益に入っているので、借金はさらに引かない。g の根拠:自社の長期 g 3.5%(物価並みかそれ以下。制度への依存を長期の g に入れた)。上限の g もこの 3.5%(k − g = 4.75%)。
確率:ACA の補助が復活し、州の追加支払いも続き、人件費の転嫁も効く展開。10 年で 1 割。
やや楽観 22% やや楽観:年 6% 台で伸び、利益率は 15% で安定 利益 125 億ドル · PER 16.3 倍 · 株価時価総額 922.74 ドル2,035 億ドル
2036 年、換算入院は年 2.5%、価格は年 3.3%。病院の営業利益率は 15.0%、外来は 32%。連結の営業利益は約 230 億ドル(16.4%)、純利益 125 億ドル。外来手術へ移行する流れを自前の外来網が受け止め、自社株買いは借入で保たれる。競合との比較では、非営利の大病院が価格面で追随しにくく、HCA は上場の競合より高い利益率を保つ。外来分野でテネット・ヘルスケアやオプタムに負ければ、この筋書きより利益は 1 割下がる。うまくいけば純利益は 2026 年の約 1.9 倍になる。倍率は正当化 PER 19.1 倍の 8.5 割にあたる 16.3 倍に置いた。
- 急性期病院(入院・救急・病院の外来):数量 6.3(換算入院件数(百万件))× 価格 20,615(1 件あたり収入(ドル))→ 売上 1,293 億ドル・営業利益 194 億ドル。換算入院と 1 件あたり収入
- 外来手術センター・診療所・救急クリニック・英国ほか:数量 10.1(外来の件数(百万件・推定))× 価格 1,107(1 件あたり収入(ドル・推定))→ 売上 112 億ドル・営業利益 36 億ドル。外来の件数と 1 件あたり収入
倍率:上限の正当化 PER 19.1 倍に対し、16.3 倍(8.5 割)に置いた。中立の 8.0 割に、利益の質がよい分を上乗せした(やや楽観 +0.5 割)。上限の中身は g 3.5%、RONIC 38.7%(k 8.25% + 残る割合 0.50 ×(事業の ROE − k))、moat は 普通。式は (1−g÷RONIC)÷(k−g)。事業の ROE 69.2%(帳簿の自己資本 ROE は 40% 超か自己資本が負・極小なので使わず、ROIC 37%(税引き後営業利益 ÷(その筋書きの自己資本+今の純負債))+(ROIC − 税引き後の借入金利 4.4%)× 業界並みの負債の比 1.0(純負債 ÷(自己資本+純負債)。1 まで)で出した値)。時価総額は、書いた純利益 125 億ドル × 16.3 倍で 2035 億ドル。純負債と利払いは純利益に入っているので、借金はさらに引かない。g の根拠:自社の長期 g 3.5%(物価並みかそれ以下。制度への依存を長期の g に入れた)。上限の g もこの 3.5%(k − g = 4.75%)。
確率:地域の寡占が保たれ、人件費の転嫁がほぼできる展開。
中立 33% 中立:成熟した病院として年 5% で伸び、利益率は縮む 利益 104 億ドル · PER 15.1 倍 · 株価時価総額 711.12 ドル1,568 億ドル
2036 年、換算入院は年 2%(5.97 百万件)、1 件あたり収入は年 3%(物価 3.5% より低い。無保険・メディケイドの比率と州の支払い)、病院の営業利益率は 13.9%。外来は年 4% で伸び利益率 30%。連結の営業利益は約 197 億ドル(15.2%)、利払いは約 41 億ドルまで増え、純利益 104 億ドル。ACA の補助は戻らず、メディケイドの縮小は緩やかに進み、HCA は州ごとの寡占で耐える。競合と比べると、HCA の営業利益率 15% 台はテネット・ヘルスケアの病院部門(10% 台後半の EBITDA 率)やユニバーサル・ヘルス・サービシズ(営業利益率 11% 台)を上回り、この差は 10 年後も保たれる。商業保険との交渉で競合に価格を負ければ、純利益は 1 割以上下がり、やや悲観の筋書きに近づく。中立では、純利益は 2026 年の約 1.6 倍で、年 4.7% の伸び。倍率は正当化 PER 18.8 倍の 8.0 割にあたる 15.1 倍に置いた。
- 急性期病院(入院・救急・病院の外来):数量 6.0(換算入院件数(百万件))× 価格 20,024(1 件あたり収入(ドル))→ 売上 1,196 億ドル・営業利益 166 億ドル。換算入院と 1 件あたり収入
- 外来手術センター・診療所・救急クリニック・英国ほか:数量 9.6(外来の件数(百万件・推定))× 価格 1,075(1 件あたり収入(ドル・推定))→ 売上 103 億ドル・営業利益 31 億ドル。外来の件数と 1 件あたり収入
倍率:上限の正当化 PER 18.8 倍に対し、15.1 倍(8.0 割)に置いた。新しく投じる資本の稼ぎは先で薄れるので 8.0 割に置いた。上限の中身は g 3.5%、RONIC 33.4%(k 8.25% + 残る割合 0.50 ×(事業の ROE − k))、moat は 普通。式は (1−g÷RONIC)÷(k−g)。事業の ROE 58.6%(帳簿の自己資本 ROE は 40% 超か自己資本が負・極小なので使わず、ROIC 31%(税引き後営業利益 ÷(その筋書きの自己資本+今の純負債))+(ROIC − 税引き後の借入金利 4.4%)× 業界並みの負債の比 1.0(純負債 ÷(自己資本+純負債)。1 まで)で出した値)。時価総額は、書いた純利益 104 億ドル × 15.1 倍で 1568 億ドル。純負債と利払いは純利益に入っているので、借金はさらに引かない。g の根拠:自社の長期 g 3.5%(物価並みかそれ以下。制度への依存を長期の g に入れた)。上限の g もこの 3.5%(k − g = 4.75%)。
確率:業界ノートの中立(数量 年 2〜2.5%、価格 年 3%、営業利益率 15% へ縮む)に沿う。
やや悲観 23% やや悲観:人件費と制度の逆風が重なり、利益率が 12% 台へ 利益 75 億ドル · PER 13.7 倍 · 株価時価総額 465.91 ドル1,028 億ドル
2036 年、換算入院は年 1.2%、価格は年 2.5% にとどまる。病院の営業利益率は 12.2%、外来は 27%。連結の営業利益は約 153 億ドル(13.4%)、純利益は 75 億ドルと 2026 年の約 1.15 倍。借入は重いまま、自社株買いは抑えられる。HCA は優良な運営会社のままだが、ROIC は下がる。PER は式どおりの 13.5 倍(g 3%・増分の収益率 15%)。競合との比較では、テネット・ヘルスケアなどの外来分野の拡大で収益が一部移り、HCA は病院の価格交渉でも競合並みに押される。利益率は 12% 台でも UHS(11% 台)よりは上で、事業の質は保たれるが、利益額は 2026 年の約 1.15 倍にとどまる。うまくいけば中立、競合に負ければ悲観へ近づく。倍率は正当化 PER 18.3 倍の 7.5 割にあたる 13.7 倍に置いた。
- 急性期病院(入院・救急・病院の外来):数量 5.5(換算入院件数(百万件))× 価格 19,073(1 件あたり収入(ドル))→ 売上 1,053 億ドル・営業利益 128 億ドル。換算入院と 1 件あたり収入
- 外来手術センター・診療所・救急クリニック・英国ほか:数量 8.7(外来の件数(百万件・推定))× 価格 1,024(1 件あたり収入(ドル・推定))→ 売上 89 億ドル・営業利益 24 億ドル。外来の件数と 1 件あたり収入
倍率:上限の正当化 PER 18.3 倍に対し、13.7 倍(7.5 割)に置いた。中立(8.0 割)より 0.5 割低くした。利益の質が悪い筋書きだからだ。上限の中身は g 3.5%、RONIC 26.4%(k 8.25% + 残る割合 0.50 ×(事業の ROE − k))、moat は 普通。式は (1−g÷RONIC)÷(k−g)。事業の ROE 44.5%(帳簿の自己資本 ROE は 40% 超か自己資本が負・極小なので使わず、ROIC 24%(税引き後営業利益 ÷(その筋書きの自己資本+今の純負債))+(ROIC − 税引き後の借入金利 4.4%)× 業界並みの負債の比 1.0(純負債 ÷(自己資本+純負債)。1 まで)で出した値)。時価総額は、書いた純利益 75 億ドル × 13.7 倍で 1028 億ドル。純負債と利払いは純利益に入っているので、借金はさらに引かない。g の根拠:自社の長期 g 3.5%(物価並みかそれ以下。制度への依存を長期の g に入れた)。上限の g もこの 3.5%(k − g = 4.75%)。
確率:メディケイドの縮小と無保険の増加、人件費の上昇が同時に進む展開で、2026 年の逆風の延長に近い。
悲観 12% 悲観:メディケイドの縮小と保険者の圧力で、優良な病院でなくなる 利益 39 億ドル · PER 13.7 倍 · 株価時価総額 241.73 ドル533 億ドル
2036 年、メディケイドの指定支払いが縮み、無保険率が 2025 年より 3〜4 ポイント高く、商業保険は審査と支払いの抑制を強める。換算入院はほぼ横ばい、価格は年 1.8% で、病院の営業利益率は 9.5%、外来は 22%。連結の営業利益は約 98 億ドル、純利益は 39 億ドルまで下がる。借入が重く自社株買いは止まり、自己資本のマイナスは残る。成長が止まった病院として、増分の収益率 11%・g 2.5% の式どおりの PER 12 倍。競合との比較では、テネット・ヘルスケアやコミュニティ・ヘルス・システムズは借入がさらに重く、この筋書きでは業界全体が傷む。HCA は規模と地域の寡占で最後まで残るが、利益率は 9.5% と過去の最低 10.3%(2006〜2008 年)を下回り、優良な病院とは呼びにくくなる。純利益は 2026 年の 6 割。 10 年の純利益の累計は約 506 億ドル。2025 年の 67.8 億ドルから 2035 年の 39 億ドルへ、毎年同じ割合で下がる道筋の足し算(年 −5% 前後)。
- 急性期病院(入院・救急・病院の外来):数量 4.9(換算入院件数(百万件))× 価格 17,810(1 件あたり収入(ドル))→ 売上 873 億ドル・営業利益 83 億ドル。換算入院と 1 件あたり収入
- 外来手術センター・診療所・救急クリニック・英国ほか:数量 7.2(外来の件数(百万件・推定))× 価格 956(1 件あたり収入(ドル・推定))→ 売上 69 億ドル・営業利益 15 億ドル。外来の件数と 1 件あたり収入
倍率:式どおり:g 1.5%(g はこの筋書きの数量と価格から置いた)、ROE 24.8%(帳簿の自己資本 ROE は 40% 超か自己資本が負・極小なので使わず、ROIC 15%(税引き後営業利益 ÷(その筋書きの自己資本+今の純負債))+(ROIC − 税引き後の借入金利 4.4%)× 業界並みの負債の比 0.9(純負債 ÷(自己資本+純負債)。1 まで)で出した値)、k 8.25%。(1−g÷RONIC)÷(k−g) の値は来年の利益に対する倍率なので、10 年目の利益には ×(1+g) で 13.7 倍。RONIC = k + 残る割合 0.50 ×(事業の ROE − k)= 16.5%。上限の正当化 PER 17.8 倍の 7.7 割で、上限の内側。10 年目の利益の伸びは年 10% 未満なので 1 段。時価総額は、書いた純利益 39 億ドル × 13.7 倍で 533 億ドル。
確率:連邦がメディケイドと追加支払いを大きく削り、無保険が増え、商業保険が支払いを強く抑える構造的な悪化。借入の重さがこれを増幅する。10 年で 12%。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億ドル。
急性期病院(入院・救急・病院の外来)
米国 19 州の 190 の病院で、入院・救急・手術・分娩・院内の外来を提供する。収入は保険ごとの交渉で決まる。
| 数量換算入院件数(百万件) | 価格1 件あたり収入(ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/12 | 4.9 | 14,900 | 730 | 105 |
| 10 年後 中立 | 6.0 | 20,024 | 1,196 | 166 |
取り方:2026 年の見通し売上 770〜795 億ドル(中央 782)のうち約 93% を病院とした。換算入院件数 4.9 百万件・1 件あたり収入 約 14,900 ドルは開示から割り戻した推定(外来の分は換算入院に含まれる)。営業利益 105 億ドル(14.4%)は、連結の見通し(調整後 EBITDA 154〜161 億ドルから減価償却 約 35 億ドルを引いて約 122 億ドル)を病院と外来に分けた推定。競合は上場のテネット・ヘルスケア、UHS、コミュニティ・ヘルス・システムズと、各地の非営利の大病院。単価は物価(3.5%)より低い年 3%(10 年で 1.34 倍)を中立とする。商業は年 4〜5%、メディケアは年 2.5〜3% で、無保険・メディケイドの比率の上昇が平均を押し下げるため。
外来手術センター・診療所・救急クリニック・英国ほか
独立の外来手術センター 118 か所、救急クリニック、診療所、英国の病院など、病院の外の拠点。
| 数量外来の件数(百万件・推定) | 価格1 件あたり収入(ドル・推定) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/12 | 6.5 | 800 | 52 | 17 |
| 10 年後 中立 | 9.6 | 1,075 | 103 | 31 |
取り方:開示が無く、売上の約 7% を外来・英国ほかとした推定。外来手術は入院手術より利益率が高く(推定 33%)、営業利益 17 億ドル。入院手術を外来へ移す業界の流れで、数量は年 4〜5% で伸びる。競合は外来手術センターの専業、ユナイテッドヘルスのオプタム、地域の医師グループ。1 件あたりは物価並みの年 3%。
リスクと懸念
無保険化の長期化
ACA 取引所の補助拡大の失効と OBBBA のメディケイドの資格見直しで、保険を失う患者が増えている。HCA は 2026 年の減益要因を 10〜12 億ドルと見て、4〜6 月だけで約 4 億ドルの損失が出た。補助の復活がなければ、2027 年以降も数量の伸びと平均価格を押し下げる。ACA の患者は数量の約 8%・収入の 1 割超である。
メディケイドの州の追加支払い
フロリダなどの指定支払いは、州と連邦の政策で決まる収入で、2026 年上半期は過去分を含めて大きく膨らんだ。下期は 1〜3 億ドルの逆風が見込まれる。連邦が州の財政を締めれば翌年以降は減り、利益の質(繰り返せる利益かどうか)を落とす。
人件費の上昇
人件費は収入の約 4 割で、看護師の賃金と派遣の費用が年 4% 前後で上がる。メディケアの支払いは年 2〜3% しか上がらず、商業保険の値上げ(年 4〜5%)で埋めきれなければ、営業利益率は 15% から 13% 台へ縮む。
商業保険の支払い抑制
ユナイテッドヘルス、エレバンス、CVS ヘルス(エトナ)、シグナなどが審査の強化や支払いの遅れで病院の収入を抑える。保険者の利益率が 2025 年に悪化したことで、この圧力は 2026 年以降強まる可能性がある。HCA の交渉力は地域の寡占で保たれるが、上限がある。
借入の重さと金利
純有利子負債は約 487 億ドル(時価総額の約半分)、自己資本はマイナス。有利子負債の約 6 割は 3 年で借り換えで約 5.75% になり、利払いは年 24 億ドルから増える。景気後退で利益が落ちる局面でも、自社株買いを続ければ余力が減る。
景気後退と選択的な手術の先送り
リーマン期の HCA は数量が 2〜3% 減り、不良債権の増加で利益が約 2 割落ちた。失業で商業保険が減り、無保険・メディケイドが増え、手術が先送りされる。借入の重さで株主の価値の落ち幅は事業より大きくなる。
今後の分かれ目
- 2027 年に ACA の補助が復活し、取引所の加入者が戻れば
- 減益要因 10〜12 億ドルの半分以上が戻り、換算入院の伸びは年 3% に近づく。楽観・やや楽観の確率を上げ、10 年の中立の純利益を 1 割上げて見てよい。
- 無保険の患者の比率が 2027 年も上がり続け、4〜6 月の約 4 億ドルの損失が通年で 15 億ドルを超えそうなら
- 営業利益率は 14% 台へ下がる道が見え、やや悲観・悲観の確率を上げ、中立の PER を 1 倍下げて見る。
- 連邦がメディケイドの指定支払いを大幅に制限したら
- 州ごとの追加の収入が数億〜十数億ドル減り、純利益は 1 割以上減る。10 年の悲観の確率を引き上げる。
- 看護師の賃金の上昇が年 5% を超えたら
- 営業利益率は 1 ポイント以上縮み、10 年の純利益が 8% 減る。価格交渉でどこまで転嫁できるかが見どころになる。
- 借入で続ける自社株買いが、株価の高い局面で急拡大したら
- 資本配分の評価を下げ、レバレッジの重さが景気後退時の悲観の深さに響く。倍率を 1 倍下げて見る。
- メディケア・アドバンテージや商業保険の支払いの審査が強まり、病院の収入が 2% 以上減ったら
- 営業利益が 1 割近く減り、保険者との力関係の変化が構造的かどうかを見直す。
見ておくもの
- 四半期の換算入院件数・手術・救急の伸びと、無保険・ACA 取引所の患者の比率
- 年間の見通し(売上・純利益・調整後の EBITDA)の上下と、ACA・メディケイドの影響額の更新
- メディケイドの州の追加支払いの承認・繰り返せる額
- 営業利益率と、人件費(賃金・派遣)の上昇
- 純有利子負債の利払い前の利益に対する倍率と、自社株買いの規模
- ACA の補助の延長・OBBBA の実施の連邦の動き
倍率と資本コストの決め方
今の PER 14.9 倍や HCA の 10 年平均の期末の PER 約 13 倍を見る前に、病院と外来を数量(換算入院件数・外来の件数)× 1 件あたり収入で積み、人件費の上昇で利益率が縮む分と利払いの増加を引いた純利益を置いた。倍率は利益ベースの正当化 PER の 7〜10 割に置いた。自己資本がマイナスなので、事業の ROE は ROIC の式で出した。中立の 10 年は上限 18.8 倍(g 3.5%・k 8.25%)の 8 割で 15.1 倍。借入は quality(debt)と利払い、制度は g と悲観の確率に入れ、倍率は割り引いていない。業界の 11〜15 倍や今の倍率には寄せていない。結果として 10 年の中立は今の 1.5 倍の時価総額になり、結論は「やや割安」。悲観の確率(10 年 12%)と深さ(利益率 9.5%)で借入と制度のリスクを表した。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 5% + β 1.22 × 5%。資本コスト k = 基本 8.0% + quality +0.25% = 8.25%(v2。株価の揺れ(β)は使わない)。救急・入院の需要は安定しているが、料金は公的保険と保険者が決め、純負債は EBITDA の約 3 倍と普通より重い。補助の縮小・人件費・訴訟などの個別のリスクは k に足さず、筋書きと確率で表した。事業は傾いていないので extra は 0。