結論
ギリアド・サイエンシズは、HIV 治療薬ビクタルビ(2025 年 143 億ドル)と予防薬デスコビ、2025 年に発売した年 2 回の予防注射イェズトゥーゴを柱とする世界最大級の HIV 専業に近いバイオ医薬である。2025 年は売上 294 億ドル、営業利益 118 億ドル(営業利益率 40%)、純利益 85 億ドル。売上の約 7 割が HIV で、残りは肝疾患(リブデルジ・ヘプクルデックス)、がん(トロデルビー、細胞治療のイェスカルタ)である。
足元の事業は強い。2026 年 4〜6 月期は HIV が +12%、通期の HIV 成長は 9〜10% に上方修正された。ビクタルビの米国の後発薬は和解で 2036 年 4 月まで入れず、2033 年とみていた特許の崖が 3 年先送りされた。一方で 2026 年は買収費用が重く、アーセルクス(70 億ドル)・チュブリス(31 億ドル)などの研究開発費用で通期の GAAP 利益は赤字になる。
数量 × 価格で積み上げると、10 年後(2035 年)の中立は売上 486 億ドル・純利益 139 億ドルで、2025 年の売上の 1.65 倍にとどまる。数量は予防の裾野で伸びるが、2028 年から米国メディケアの薬価交渉がビクタルビに及び、ACA の補助縮小やメディケイドの縮小、途上国向けの低価格供給で 1 人あたり単価は物価に追いつかない。2036 年の崖は、正当化 PER に掛ける割合(7.5 割)と悲観側の確率に入れる。倍率は利益ベースの正当化 PER(10 年の中立で 20.5 倍。g 4.0%・ROE 21%・k 7.5%)の 7.5 割、15.4 倍に置いた。確率で重みをつけた本質価値は今の時価総額(1,960 億ドル)を約 31% 下回り、「割高」とみる。事業は堅く安全だが、値段に安全域はない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資家なら、まず「10 年後もこの事業は存在するか」を問う。HIV は一生続く治療で、薬の置き換えはあっても市場は消えない。ギリアドは世代交代を自社で続け、堀は狭まらず、2036 年までは後発薬も入らない。確信度は高い。
次にオーナー利益を見る。2025 年の純利益 85 億ドルに対しフリーキャッシュフローは 95 億ドルと厚いが、買収した研究開発費用(毎年 30 億ドル前後)は事実上の設備投資で、これを費用として見ると、株主に残る利益は 2026 年以降 100 億ドル前後になる。今の時価総額 1,960 億ドルに対しオーナー利益利回りは約 5%で、5% の長期金利と並ぶ水準だ。
安全域は薄い。利益の増える分は、買収の失敗(細胞治療)と薬価政策で相殺されやすく、2036 年の崖が見えているので、10 年後の倍率は、崖を見込んで正当化 PER の 7.5 割(中立で 15 倍)にとどめる。資本配分は、配当を守りながら買収にも使う堅実さがあるが、高い値段で買った事業(イムノメディクス)で価値を壊した過去もある。事業の質は高く、値段は高い。確率で重みをつけた本質価値は今の時価総額を約 3 割下回る。悲観では今の 2 割ほどになる。
何で稼ぐ会社か
売上の 7 割を占める HIV は、治療と予防に分かれる。治療の中心は 1 日 1 錠のビクタルビで、米国の治療市場で約 52% のシェアを持つ。2025 年の売上は 143 億ドル(+7%)で、米国が約 8 割。予防はデスコビ(米国の PrEP 市場の約 45%)に、2025 年に発売した年 2 回注射のイェズトゥーゴ(レナカパビル)が加わった。2026 年 4〜6 月期の PrEP の売上は初めて四半期 10 億ドルを超え、イェズトゥーゴは 2.3 億ドル、通期で約 10 億ドルを見込む。レナカパビルは治療にも使い、メルクと共同でイスラトラビルとの週 1 回の飲み薬(第 3 相成功)、ビクタルビとの合剤も開発し、1 日 1 錠の次の形へ移ろうとしている。
肝疾患(2025 年約 32 億ドル)は、C 型肝炎薬が減る一方、ベムリディ(B 型)、原発性胆汁性胆管炎のリブデルジ、D 型肝炎のヘプクルデックスが伸びる。がんは、乳がん薬トロデルビー(2025 年 14 億ドル弱、2026 年上半期 +31%、1 次治療の三重陰性乳がんで承認)と、細胞治療のイェスカルタ・テカータス(約 19 億ドル、競合に押され 2026 年は −13%)。2026 年 2 月に 78 億ドルで買ったアーセルクスの anito-cel(多発性骨髄腫の CAR-T、承認判断は 2026 年 12 月)で再び成長を狙う。
そのほかベクルリー(コロナ薬、急減)、旧来の抗真菌薬や特許料が約 23 億ドル。収益の源泉は HIV で、残りは新しい柱を育てる段階にある。
優良さと弱いところ
堀は 3 つ。第 1 は処方の習慣で、HIV は一生飲み続ける病気であり、医師も患者も効き目と安全性が実証された薬から変えにくい。ビクタルビは 1 日 1 錠で耐性が出にくく、米国の新規処方でも約 6 割を占める。第 2 は製品の更新力で、ビクタルビの前にトルバダ・ストリビルド・ゲンボヤを自社で世代交代させ、今はレナカパビル(年 2 回)という競合のヴィーブ・ヘルスケア(グラクソ・スミスクライン系)の長期注射より投与回数が少ない形で次に移ろうとしている。第 3 は粗利率 87%(非 GAAP)の収益力で、売上のうち研究開発と販売費を引いても営業利益率は 40% を超える。
資本効率は高いが、ROE は自社株買いと買収費用で大きく振れる(2024 年 2.5%、2025 年 37.5%)。経営はダニエル・オデイ氏の下、HIV の利益を使って肝疾患・がん・細胞治療へ分散するため、大型の買収を重ねてきた。イムノメディクス(2020 年、約 210 億ドル)は、トロデルビーが立ち上がったものの、その後の減損を伴い、価値を壊した例にあたる。
弱点は、利益の約 7 割が HIV 1 つの領域に偏ること、米国の薬価政策(IRA・最恵国待遇・ACA の変更)に左右されること、買収した事業(細胞治療)が競合のカーヴィクティ(ジョンソン・エンド・ジョンソンとレジェンド)に押され続けていること。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
HIV の市場は、世界で約 4,000 万人の感染者のうち治療を受けている人が約 3,000 万人、米国の治療患者は 100 万人弱で、数量の伸びは年 +2% 程度と成熟している。成長は予防(PrEP)にあり、米国の PrEP 市場は +14%(2026 年 4〜6 月期)、利用者はまだ対象者の数割にとどまる。循環でいえば、治療は成熟、予防は成長の序盤にいる。
価格は 2025 年から変わった。米国では 2028 年からメディケアの薬価交渉が始まり、ビクタルビは第 3 回の対象 15 薬に入った(メディケア支出 39 億ドル)。ACA の補助拡大の失効とメディケイドの縮小は、公的保険の加入者を減らす。さらに途上国には、イェズトゥーゴのジェネリック供給を認めて価格を大きく下げる。数量は増えても 1 人あたりの純単価は下がりやすい。
競合は、ヴィーブ・ヘルスケア(カボテグラビル・ドルテグラビル・長期注射 カベヌバ・アプレチュード)、メルク(ドラビリン+イスラトラビル。ギリアドと共同のものを除く)。ヴィーブの持つドルテグラビルの特許は 2029 年前後から切れ始める。分かれ目は、イェズトゥーゴが PrEP の標準になるか、週 1 回の飲み薬や合剤が許可されるか、ビクタルビの米国メディケア価格がどこまで下がるかである。
資本政策と M&A
還元は配当が中心で、2025 年は配当 40 億ドル、自社株買い 19 億ドル。配当は 10 年以上増え続け、株数は年 0.2% しか減らず、株式報酬による増加を打ち消す程度の正味の還元になる。
M&A は積極的で、2026 年 2 月のアーセルクス(78 億ドル、うち 70 億ドルを研究開発費用として計上)、チュブリス(31 億ドル)、ウーロ(10 億ドル)で 2026 年は 100 億ドル超を使い、現金等は 106 億ドルから 32 億ドルまで減って債券と短期借入で補った。純有利子負債は 2025 年末の 159 億ドルから 2026 年は 230 億ドル前後(推定)へ増える。財務は強く、利払いの増加は純利益を 2〜3 億ドル下げる程度で、返済も 3 年内にできる。
今後の鍵は、HIV の利益を買収で分散する戦略が回収に向かうかである。買収される側になる可能性は時価総額 1,960 億ドルで小さい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
HIV の予防は、対象者のごく一部にしか届いていない。PrEP 市場は年 +14% で伸び、デスコビは 2026 年 4〜6 月期に +48%、イェズトゥーゴは年 2 回の注射という使いやすさで初年度から 10 億ドルに達する。市場予想のピーク売上は 45 億ドルだが、週 1 回の飲み薬(2027 年 2 月承認判断)と治療用の合剤も加わり、HIV 全体は 2030 年代前半まで年 +6〜8% で伸びる。ビクタルビは特許が 2036 年まで守られ、今後 10 年は米国の標準治療であり続ける。
さらに、がんは anito-cel(2026 年 12 月に承認判断)とトロデルビー(1 次治療の三重陰性乳がんで承認)で年 150 億ドル規模へ育ち、肝疾患もリブデルジとヘプクルデックスで伸びる。粗利率 87% の高収益は変わらず、買収費用を除けば 10 年後の営業利益率は 45% を超える。金融面でも純負債は小さく、配当は増え続ける。HIV の安定した現金の厚みと、がん・肝疾患という新しい柱の両立は、PER 20 倍前後で評価されてよい。
慎重な見方
価格が構造的に下がる。2028 年からビクタルビがメディケアの価格交渉に入り(メディケア支出 39 億ドル)、ACA の補助縮小とメディケイドの縮小は米国の加入者を減らす。民間保険でも最恵国待遇を求められ、途上国向けのイェズトゥーゴの低価格供給は世界の単価を引き下げる。数量が増えても 1 人あたり単価は物価に追いつかない。2026 年 4〜6 月期には需要が ACA の変更で想定以上に鈍ったと会社自身が認めた。
競合は強い。ヴィーブ・ヘルスケアの長期注射と、メルクの飲み薬が出てくる。細胞治療はすでに 2026 年 −13% で、買収したアーセルクスは 78 億ドルを払ったうえに競合(カーヴィクティ・二重特異性抗体)に直面する。毎年 30 億ドル前後の買収費用が出る限り、GAAP の利益は増えない(2024 年の純利益は 5 億ドル、2026 年は赤字)。2036 年にビクタルビの後発薬が入れば、売上の 3〜4 割に当たる柱が崩れ、10 年後の倍率は成熟した製薬の下限へ縮む。今の PER 23 倍は、この先の崖を織り込んでいない。
どちらに重みを置いたか
事業の安定性は強気の見方が強く、確率は中立に厚く置いた(10 年の中立 32%)。ただし値段の議論では慎重な見方が強い:2028 年からの薬価交渉、毎年の買収費用、2036 年の崖が見える倍率の縮みが、成長を打ち消す。やや悲観 24%・悲観 12%(10 年)は、リリーより価格の下落が緩やかな分だけ、薄めに置いた。結論は「優良で堅い事業で、利益ベースの正当化 PER の 7.5 割で測ると値段は割高。安全域は薄い」。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 159.09 ドル1,997 億ドル(+ 配当配当と自社株買いの合計 45.08 ドル566 億ドル)。 今の値に割り戻すと 108.59 ドル1,363 億ドル、今との差 −30.9%、 期待の年率 +2.6%(資本コスト 7.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 299.99 ドル3,765 億ドル | 55.78 ドル700 億ドル | +126.3% | +8.5% | 35.58 ドル446 億ドル |
| やや楽観 | 22% | 227.24 ドル2,852 億ドル | 51.79 ドル650 億ドル | +77.5% | +5.9% | 61.39 ドル770 億ドル |
| 中立 | 32% | 170.23 ドル2,136 億ドル | 47.81 ドル600 億ドル | +38.7% | +3.3% | 69.77 ドル876 億ドル |
| やや悲観 | 24% | 90.37 ドル1,134 億ドル | 38.25 ドル480 億ドル | −18.2% | −2.0% | 30.87 ドル387 億ドル |
| 悲観 | 12% | 24.43 ドル307 億ドル | 30.28 ドル380 億ドル | −65.2% | −10.0% | 6.57 ドル82 億ドル |
| 加重平均 | 100% | 159.09 ドル1,997 億ドル | 45.08 ドル566 億ドル | +29.9% | +2.6% | 204.17 ドル2,562 億ドル |
今の株価時価総額 157.19 ドル1,973 億ドル(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 10% 楽観:予防注射と週 1 回の飲み薬が標準になり、がんも育つ 利益 216 億ドル · PER 17.4 倍 · 株価時価総額 299.99 ドル3,765 億ドル
2035 年、HIV の利用者は 270 万人(予防が 100 万人超)、純単価は 15,500 ドル、売上は 418 億ドル。レナカパビルの製品は特許が 2038 年以降まで残り、ビクタルビの米国後発薬(2036 年 4 月)の影響は小さい。がんは anito-cel とトロデルビーで 150 億ドル、肝疾患は 58 億ドル。売上は 640 億ドル(2025 年の 2.2 倍)、営業利益率は 43%、純利益は 216 億ドル。崖が目前でも、次の柱が立っている。この間の還元は、純利益の 3 分の 1 強を配当に、残りを買収と自社株買いに振り向け、配当は毎年増える。ビクタルビの米国後発薬が入る 2036 年以降も、レナカパビルの製品群が HIV の売上の過半を占めて利益の柱を保つため、崖は緩やかに済む。倍率は正当化 PER 20.5 倍の 8.5 割の 17.4 倍に置いた。
- HIV(ビクタルビ・デスコビ・イェズトゥーゴなど):数量 270(ギリアドの HIV 薬の年間利用者(治療と予防、万人))× 価格 15,500(1 人あたり年間の純売上(ドル。リベート後・世界平均))→ 売上 418 億ドル・営業利益 243 億ドル。予防が数量を押し上げる
- 肝疾患(ベムリディ・リブデルジ・ヘプクルデックス・C 型肝炎薬):数量 55.0(治療患者数(万人))× 価格 10,500(1 人あたり年間の純売上(ドル))→ 売上 58 億ドル・営業利益 29 億ドル。リブデルジ・ヘプクルデックス
- がん・細胞治療(トロデルビー・イェスカルタ・テカータス・anito-cel):数量 5.0(治療患者数(万人))× 価格 300,000(1 人あたり年間の純売上(ドル))→ 売上 150 億ドル・営業利益 57 億ドル。新しい柱
- その他(ベクルリー・旧来品・特許料):数量 140(投与件数(万件))× 価格 1,000(1 件あたりの純売上(ドル))→ 売上 14 億ドル・営業利益 6 億ドル。縮小
倍率:正当化 PER は 20.5 倍(g 4.0%、RONIC 14.2%。RONIC は k 7.50% に、事業の ROE 20.8% が k を超える分の 0.5 を足した値。moat は normal)。これに対し 17.4 倍(8.5 割)に置いた。堀は普通:HIV の柱(ビクタルビ)が強く堀は厚いが、特許切れ(2036 年)と薬価改革があり、HIV 以外の柱の育ち方が不確かで強い堀(2/3)とは見ない。HIV 以外の柱も育つ筋書き。上限の 8.5 割に置く。純利益は GAAP。
確率:10 年間 HIV の予防が年 +10% で伸び、薬価の下落が年 −1% 以内で、がんの新しい柱(anito-cel・トロデルビー)が 150 億ドルに育つ展開。10 年これが続く確率は 1 割。
やや楽観 22% やや楽観:HIV が年 +4%、がんが育つ 利益 174 億ドル · PER 16.4 倍 · 株価時価総額 227.24 ドル2,852 億ドル
2035 年、HIV の利用者は 250 万人、純単価は 14,800 ドル、売上は 370 億ドル。イェズトゥーゴは年 40 億ドル台。がんは anito-cel が骨髄腫の 2 次治療から広がり、トロデルビーも伸びて 122 億ドル。肝疾患は 52 億ドル。売上は 558 億ドル、営業利益率は 40%、純利益は 174 億ドル。売上のうちビクタルビが約 3 割で、2036 年の崖の後 2 年は利益が伸びない。この間は、配当を増やし続けながら自社株買いも続け、買収は年 30 億ドル前後に抑える。ビクタルビの崖は 2036 年に来るが、HIV の売上の半分近くはレナカパビルの製品群に移っており、利益の落ち込みは 3 割程度で済むと見る。倍率は正当化 PER 20.5 倍の 8 割の 16.4 倍に置いた。
- HIV(ビクタルビ・デスコビ・イェズトゥーゴなど):数量 250(ギリアドの HIV 薬の年間利用者(治療と予防、万人))× 価格 14,800(1 人あたり年間の純売上(ドル。リベート後・世界平均))→ 売上 370 億ドル・営業利益 209 億ドル。数量 +56%
- 肝疾患(ベムリディ・リブデルジ・ヘプクルデックス・C 型肝炎薬):数量 51.0(治療患者数(万人))× 価格 10,200(1 人あたり年間の純売上(ドル))→ 売上 52 億ドル・営業利益 25 億ドル。新薬が伸びる
- がん・細胞治療(トロデルビー・イェスカルタ・テカータス・anito-cel):数量 4.2(治療患者数(万人))× 価格 290,000(1 人あたり年間の純売上(ドル))→ 売上 122 億ドル・営業利益 41 億ドル。新しい柱
- その他(ベクルリー・旧来品・特許料):数量 145(投与件数(万件))× 価格 1,000(1 件あたりの純売上(ドル))→ 売上 15 億ドル・営業利益 6 億ドル。縮小
倍率:正当化 PER は 20.5 倍(g 4.0%、RONIC 14.1%。RONIC は k 7.50% に、事業の ROE 20.8% が k を超える分の 0.5 を足した値。moat は normal)。これに対し 16.4 倍(8 割)に置いた。堀は普通:HIV の柱(ビクタルビ)が強く堀は厚いが、特許切れ(2036 年)と薬価改革があり、HIV 以外の柱の育ち方が不確かで強い堀(2/3)とは見ない。上限の 8 割に置く。純利益は GAAP。
確率:業界ノートの楽観寄り。予防は伸び、薬価交渉の影響は 1 割程度、がんが年 120 億ドル規模に育つ。
中立 32% 中立:売上は 1.65 倍、崖を前に成熟した大手製薬として評価される 利益 139 億ドル · PER 15.4 倍 · 株価時価総額 170.23 ドル2,136 億ドル
2035 年、HIV の利用者は 235 万人、純単価は 14,000 ドルで、HIV の売上は 329 億ドル。イェズトゥーゴは年 30 億ドル台、デスコビは減る。ビクタルビは 2028 年からのメディケア価格で単価が下がったまま、2036 年 4 月の後発薬の参入を迎える。がんは anito-cel とトロデルビーで 95 億ドル、肝疾患は 47 億ドル。売上は 486 億ドル(2025 年の 1.65 倍、年 +5%)、営業利益は買収費用を含めて 182 億ドル(営業利益率 37%)、純利益は 139 億ドル。倍率は正当化 PER 20.5 倍の 7.5 割の 15.4 倍に置いた。
- HIV(ビクタルビ・デスコビ・イェズトゥーゴなど):数量 235(ギリアドの HIV 薬の年間利用者(治療と予防、万人))× 価格 14,000(1 人あたり年間の純売上(ドル。リベート後・世界平均))→ 売上 329 億ドル・営業利益 181 億ドル。数量 +47%・価格 +9%
- 肝疾患(ベムリディ・リブデルジ・ヘプクルデックス・C 型肝炎薬):数量 48.0(治療患者数(万人))× 価格 9,800(1 人あたり年間の純売上(ドル))→ 売上 47 億ドル・営業利益 21 億ドル。新薬で単価が上がる
- がん・細胞治療(トロデルビー・イェスカルタ・テカータス・anito-cel):数量 3.4(治療患者数(万人))× 価格 280,000(1 人あたり年間の純売上(ドル))→ 売上 95 億ドル・営業利益 29 億ドル。新しい柱が育つ
- その他(ベクルリー・旧来品・特許料):数量 150(投与件数(万件))× 価格 1,000(1 件あたりの純売上(ドル))→ 売上 15 億ドル・営業利益 6 億ドル。縮小
倍率:正当化 PER は 20.5 倍(g 4.0%、RONIC 14.2%。RONIC は k 7.50% に、事業の ROE 20.8% が k を超える分の 0.5 を足した値。moat は normal)。これに対し 15.4 倍(7.5 割)に置いた。堀は普通:HIV の柱(ビクタルビ)が強く堀は厚いが、特許切れ(2036 年)と薬価改革があり、HIV 以外の柱の育ち方が不確かで強い堀(2/3)とは見ない。中立は上限の 7.5 割に置く。純利益は GAAP。
確率:業界ノートの中立(リリー以外の 2031〜2036 年は年 +4%)より、HIV の予防の伸びで少し強め。数量は年 +4%、純単価は年 +0.9%(物価未満)。
やや悲観 24% やや悲観:薬価が下がり続け、競合がシェアを削る 利益 78 億ドル · PER 14.5 倍 · 株価時価総額 90.37 ドル1,134 億ドル
2035 年、ヴィーブの注射・メルクの飲み薬に治療でも予防でもシェアを失い、HIV の利用者は 215 万人、純単価は 12,000 ドル(今の 0.94 倍。物価の 1.41 倍より大きく下)で HIV の売上は 258 億ドル。細胞治療は競合に押され、がんは 60 億ドルにとどまる。売上は 368 億ドル、営業利益率は 29%、純利益は 78 億ドル。成長が止まった成熟製薬として、倍率は正当化 PER 19.4 倍の 7.5 割の 14.5 倍に置いた。この間、買収で補った細胞治療は競合に押され、アーセルクスの 78 億ドルの回収は届かない。配当は維持するが増配は止まり、2036 年の崖を前に、市場は成長を期待せず利益の安定だけを評価する。
- HIV(ビクタルビ・デスコビ・イェズトゥーゴなど):数量 215(ギリアドの HIV 薬の年間利用者(治療と予防、万人))× 価格 12,000(1 人あたり年間の純売上(ドル。リベート後・世界平均))→ 売上 258 億ドル・営業利益 129 億ドル。価格が下がり続ける
- 肝疾患(ベムリディ・リブデルジ・ヘプクルデックス・C 型肝炎薬):数量 42.0(治療患者数(万人))× 価格 8,800(1 人あたり年間の純売上(ドル))→ 売上 37 億ドル・営業利益 16 億ドル。新薬が伸びない
- がん・細胞治療(トロデルビー・イェスカルタ・テカータス・anito-cel):数量 2.4(治療患者数(万人))× 価格 250,000(1 人あたり年間の純売上(ドル))→ 売上 60 億ドル・営業利益 11 億ドル。競合に負ける
- その他(ベクルリー・旧来品・特許料):数量 140(投与件数(万件))× 価格 900(1 件あたりの純売上(ドル))→ 売上 13 億ドル・営業利益 4 億ドル。縮小
倍率:正当化 PER は 19.4 倍(g 4.0%、RONIC 12.4%。RONIC は k 7.50% に、事業の ROE 17.4% が k を超える分の 0.5 を足した値。moat は normal)。これに対し 14.5 倍(7.5 割)に置いた。堀は普通:HIV の柱(ビクタルビ)が強く堀は厚いが、特許切れ(2036 年)と薬価改革があり、HIV 以外の柱の育ち方が不確かで強い堀(2/3)とは見ない。HIV 以外の柱が育たない筋書き。上限の 7.5 割に置く。純利益は GAAP。
確率:薬価政策が民間にも広がり、ヴィーブの長期注射とメルクの飲み薬にシェアを失う展開。細胞治療の買収が回収できない。業界ノートの中立から外れる確率として 2 割台。
悲観 12% 悲観:構造的に負け、HIV 薬が低単価の薬になる 利益 23 億ドル · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 24.43 ドル307 億ドル
2035 年、薬価交渉と最恵国待遇が民間にも及び、途上国向けの低価格供給が先進国の価格にも波及して、HIV の純単価は 9,500 ドルに崩れ、利用者も 190 万人にとどまる。ヴィーブの注射と他社の飲み薬にシェアを失い、イェズトゥーゴは期待に届かない。アーセルクス・イムノメディクスの無形資産は減損になり、がんは赤字に近い。売上は 236 億ドル(2025 年の 8 割)、営業利益は 37 億ドル。時価総額は、ROE が k に届かず、ためた利益は額面より低い価値なので、純利益 23 億ドルを k 7.5% で割った稼ぐ力の約 307 億ドル(今の約 1.6 割)。還元は純利益の合計を上回るが、前半 5 年の高い利益と手元の資産から配当を維持して払う。
- HIV(ビクタルビ・デスコビ・イェズトゥーゴなど):数量 190(ギリアドの HIV 薬の年間利用者(治療と予防、万人))× 価格 9,500(1 人あたり年間の純売上(ドル。リベート後・世界平均))→ 売上 181 億ドル・営業利益 76 億ドル。価格 −26%
- 肝疾患(ベムリディ・リブデルジ・ヘプクルデックス・C 型肝炎薬):数量 32.0(治療患者数(万人))× 価格 7,000(1 人あたり年間の純売上(ドル))→ 売上 22 億ドル・営業利益 8 億ドル。縮小
- がん・細胞治療(トロデルビー・イェスカルタ・テカータス・anito-cel):数量 1.2(治療患者数(万人))× 価格 200,000(1 人あたり年間の純売上(ドル))→ 売上 24 億ドル・営業利益 0 億ドル。減損・失敗
- その他(ベクルリー・旧来品・特許料):数量 120(投与件数(万件))× 価格 800(1 件あたりの純売上(ドル))→ 売上 10 億ドル・営業利益 3 億ドル。縮小
倍率:事業の ROE 4.6% が k 7.50% 以下なので PER は 1÷k=13.3 倍まで。これに対し 13.3 倍(10 割)に置いた。堀は普通:HIV の柱(ビクタルビ)が強く堀は厚いが、特許切れ(2036 年)と薬価改革があり、HIV 以外の柱の育ち方が不確かで強い堀(2/3)とは見ない。構造的に負けた筋書き。ROE が k に届かず、ためた利益は額面より低い価値なので、稼ぐ力(純利益 ÷ k)を床にとる。自己資本に PBR を掛けない。純利益は GAAP。
確率:10 年の間に最恵国待遇・IRA・ジェネリック供給で価格が崩れ、買収した事業も育たず、ギリアドが優良ではなくなる展開。景気ではなく政策・競争・買収の失敗による構造的な負け。確率は 1 割強。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億ドル。
HIV(ビクタルビ・デスコビ・イェズトゥーゴなど)
治療のビクタルビ、予防のデスコビ・イェズトゥーゴ。売上の 7 割、利益の大半を占める柱。
| 数量ギリアドの HIV 薬の年間利用者(治療と予防、万人) | 価格1 人あたり年間の純売上(ドル。リベート後・世界平均) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 160 | 12,800 | 205 | 119 |
| 10 年後 中立 | 235 | 14,000 | 329 | 181 |
取り方:2025 年の HIV 売上 約 206 億ドルを、利用者 約 160 万人(推定:米国の治療患者 約 100 万人弱のうちギリアドが約 5 割、米国外の治療 約 60 万人、PrEP 約 30 万人は治療と重複しない別の人数に含めた概算)で割った平均の純単価。米国は純単価 約 2.5 万ドル、米国外は約 5 千ドル。価格は 3 年で物価の 1.11 倍より低い 1.05 倍、10 年で 1.09 倍(物価の 1.41 倍より下)。2028 年からのメディケア価格交渉、ACA・メディケイドの変更による払い手の構成の悪化、最恵国待遇、途上国向け低価格のイェズトゥーゴが理由。競合はヴィーブ・ヘルスケアで、治療の米国シェアはギリアド 52%。 10 年の中立 1.09 倍も同じ理由で、物価を大きく下回る。
肝疾患(ベムリディ・リブデルジ・ヘプクルデックス・C 型肝炎薬)
B 型・C 型・D 型肝炎、原発性胆汁性胆管炎。C 型は減少、残りは成長。
| 数量治療患者数(万人) | 価格1 人あたり年間の純売上(ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 40.0 | 8,000 | 32 | 16 |
| 10 年後 中立 | 48.0 | 9,800 | 47 | 21 |
取り方:2025 年の肝疾患の売上 約 32 億ドルを、治療患者 約 40 万人(推定)で割った平均。C 型の完治薬(単価高・患者減)と B 型のベムリディ、新薬のリブデルジ(2026 年 4〜6 月期 1.7 億ドル)の混合。価格は 10 年で 1.23 倍(物価未満):C 型の価格は下がり続けるが、新薬の割合が増えて平均が上がる。競合は C 型でアッヴィのマヴィレット、PBC でアイプセン。
がん・細胞治療(トロデルビー・イェスカルタ・テカータス・anito-cel)
乳がん薬トロデルビーと CAR-T。アーセルクス買収の anito-cel(骨髄腫)を加える成長候補。
| 数量治療患者数(万人) | 価格1 人あたり年間の純売上(ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1.5 | 220,000 | 33 | 3 |
| 10 年後 中立 | 3.4 | 280,000 | 95 | 29 |
取り方:2025 年のトロデルビー 約 14 億ドルと細胞治療 約 19 億ドルの合計 約 33 億ドルを、治療患者 約 1.5 万人(推定:トロデルビーの治療年数換算と CAR-T の 1 回治療を合算)で割った平均の純単価。CAR-T は 1 人 40 万ドル級、トロデルビーは年 10 万ドル級の混合。利益率は低い(細胞治療の落ち込み・販売費・トロデルビーの立ち上げ費用)。競合は乳がんでアストラゼネカ・第一三共のエンハーツ、骨髄腫でカーヴィクティ(ジョンソン・エンド・ジョンソン)。価格は物価並みに上がる(10 年 1.3 倍前後)が、単価の低いトロデルビーへ重心が移る。
その他(ベクルリー・旧来品・特許料)
コロナ薬ベクルリー(急減)、抗真菌薬などの旧来品、特許料収入。
| 数量投与件数(万件) | 価格1 件あたりの純売上(ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 230 | 1,000 | 23 | 11 |
| 10 年後 中立 | 150 | 1,000 | 15 | 6 |
取り方:売上 294 億ドルから HIV・肝疾患・がんの合計を引いた残り 約 23 億ドル(推定)を、投与 約 230 万件で割った平均(入院向けのベクルリーと旧来の薬の混合)。ベクルリーは 2026 年に約 3 億ドルへ急減し、旧来品は特許切れで縮む。価格は 3 年で 0.9 倍、10 年で 1.0 倍と物価に追いつかない:単価の高かったベクルリーの割合が下がり、残るのは単価の低い旧来品と特許料に偏るため。数量が減り続ける。
リスクと懸念
米国の薬価政策(IRA・最恵国待遇・ACA の変更)
ビクタルビは 2028 年のメディケア価格交渉の対象(メディケア支出 39 億ドル)に入った。ACA の補助拡大の失効とメディケイドの縮小は公的保険の加入者を減らし、会社自身も 2026 年 4〜6 月期に需要への下押しが想定以上と認めた。最恵国待遇が民間に広がれば、米国の純単価が 2 年で 1〜2 割下がる。
ビクタルビへの依存と 2036 年の崖
ビクタルビは売上の約 5 割(2025 年 143 億ドル)。米国の後発薬は和解で 2036 年 4 月まで入れないが、以降は低分子なので 3 年で 8〜9 割の売上を失う。レナカパビルの製品(年 2 回注射)で置き換えが間に合わなければ、利益の約 4 割が失われる。
買収事業の失敗と恒常的な研究開発費用
2026 年はアーセルクス 70 億ドル・チュブリス 31 億ドルなど 100 億ドル超を研究開発費用で落とし、GAAP は赤字になる。過去も 2024 年(シマベイ)で純利益 5 億ドル。イムノメディクス(約 210 億ドル)の無形資産は 17.5 億ドルの減損が続く。細胞治療は 2026 年 −13% で、買収の価値を壊すリスクが高い。
HIV 予防・治療の競合
ヴィーブ・ヘルスケアは長期注射のカベヌバ・アプレチュードを持ち、ドルテグラビルの特許が 2029 年前後から切れ始める。メルクの飲み薬(ドラビリン+イスラトラビル)も治療に参入する。イェズトゥーゴ(年 2 回)の優位が崩れれば、PrEP の価格と数量が同時に削られる。
途上国向けの低価格供給と世界の価格
イェズトゥーゴは途上国向けにジェネリック供給を認めている。世界の利用者は増えるが 1 人あたりの純単価は下がり、先進国との価格差が政治的な問題になれば、先進国の価格にも波及する。ギリアドの利益の 8 割は米国で稼いでいるため、米国の価格の下落が最も効く。
予防市場の伸びの不確実性
PrEP 市場は +14% だが、保険の払い戻し・ACA の補助・メディケイドの変更で利用が鈍る可能性がある。イェズトゥーゴの市場予想のピーク(約 45 億ドル)は、利用者の定着と注射の通院負担で届かないことがありうる。
今後の分かれ目
- イェズトゥーゴが PrEP の標準になり、週 1 回の飲み薬も 2027 年 2 月に承認されたら
- 予防の数量が楽観側に寄る。10 年の確率を楽観・やや楽観へ動かし、HIV の純単価の下落が緩やかになるとみる。
- ビクタルビのメディケア交渉価格が想定(1 割強の引き下げ)を超えて 3 割以上になったら
- やや悲観・悲観の確率を大きく上げる。HIV の利益率が 5〜8 ポイント下がる。
- anito-cel が 2026 年 12 月に承認され、骨髄腫の 2 次治療以降で広がったら
- がんの柱が育ち、10 年の中立から楽観側へ。逆に承認が遅れれば細胞治療の買収は減損の可能性が出る。
- 最恵国待遇が民間保険に広がり、米国の純価格が 2 年で 15% 以上下がったら
- 悲観側の確率を上げ、倍率を 2〜3 倍下げて見る。
- ヴィーブの長期注射が予防でシェアを伸ばし、デスコビの伸びが止まったら
- HIV の数量が中立を下回る。イェズトゥーゴの 2030 年のピーク売上を引き下げる。
- 年 30 億ドル前後の買収費用が続き、フリーキャッシュフローが純利益を下回り続けたら
- オーナー利益の質が悪化する。倍率を 1〜2 倍下げて見る。
見ておくもの
- HIV 売上の四半期の伸びと、ビクタルビの米国純価格
- イェズトゥーゴの四半期売上と PrEP 市場のシェア(デスコビ・ヴィーブ)
- メディケアの交渉価格の発表(ビクタルビ)と ACA・メディケイドの影響
- anito-cel の承認(2026 年 12 月)と細胞治療の売上
- 買収費用(IPR&D)の額とフリーキャッシュフロー
倍率と資本コストの決め方
今の PER 23 倍・時価総額 1,960 億ドルを見る前に、4 つの事業ごとに利用者 × 1 人あたり純売上を積み上げ、買収費用(毎年 30 億ドル前後)を営業利益に含めて純利益を置いてから倍率を決めた。倍率は利益ベースの正当化 PER の 7〜10 割に置いた。10 年の中立は上限 20.5 倍(g 4.0%・ROE 21%・k 7.5%)の 7.5 割で 15.4 倍。2036 年のビクタルビ後発薬の崖は、この割合と悲観側の確率に入れた。今の倍率にも寄せていない。最後に今の値段と比べた結果、重みをつけた本質価値は今を約 3 割下回った。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 5% + β — × 5%。k = 基本 8.0% + quality −0.5% = 7.5%。HIV への集中・薬価政策・特許切れ・買収の資本効率などの個別のリスクは k に足さず、やや悲観・悲観の確率(合計 36%)と悲観の深さで表した。存続は危うくないので上乗せ 0。