結論
マックスは、建設現場で鉄筋を束ねる電動工具で世界の先頭を走る会社だ。ホッチキスの老舗という顔を持つが、いま利益の大半を生むのは鉄筋結束機と専用ワイヤである。
筆者の結論は「やや割高」だ。事業は強い。ただ、今の値段はその強さが 10 年続くことをかなり先取りしている。
稼ぎの源は、替えのきかない消耗品にある。機械を現場に置けば、ワイヤは使うたびに売れる。欧米で機械結束が占める割合はまだ 3 割ほどで、人手不足が普及を押す。中立でも、この工具の売上は 10 年で 2 倍を超えるとみる。
不安は二つある。利益がこの一本に偏ること、そしてマキタなど大手が同じ市場に入ってきたことだ。事務機器はペーパーレスで細り、住宅向けは新築の減少で伸びない。
財務は堅い。自己資本比率は 8 割を超え、純現金も厚い。株主還元も配当性向 50% と自社株買いへ強まった。それでも 10 年の価値の加重平均は、今の時価総額を下回る。良い会社を、安全域のある値段で持ちたい立場からは、まだ待ちたい水準である。
バリュー投資の観点から
まず、この会社は筆者が「持ち続けたい」と思える性質を備えている。顧客が一度慣れたら離れにくい消耗品、借金のない財務、事業に大きな投資が要らない軽さだ。株主のものになる利益の多くを、そのまま配当と自社株買いに回せる。
次に、堀の見方だ。鉄筋結束機は、10 年後も存在して今より大きい市場とみる。問題は、堀の幅が今のままか狭まるかだ。マキタや世界的な工具大手の参入で、先行者の利は削られる。専用ワイヤの囲い込みと現場の信頼がどこまで残るかが、価値の大半を決める。
経営の資本の使い方は、近年よくなった。配当を厚くし、自社株買いを増やし、買収は部品と販路に絞った。ためて眠らせる姿勢からは離れた。
安全域は薄い。今の値段は、利益が毎年伸び続けることを前提にしている。10 年の中立でも、利益は今の 1.8 倍にとどまる(物価の分を含む)。やや楽観の筋書きが続いて、ようやく今の値段に届く。事業の質は高いが、買い値が高いと、良い会社でも良い投資にならない。
わからない部分もある。鉄筋結束機の市場規模は公式に開示がなく、シェアも推定だ。確信度を割り引く必要がある。この事業の強さをいくらで買うかが、結局いちばん大事な問いだ。
何で稼ぐ会社か
収益の柱は三つある。
第一は鉄筋結束機とワイヤだ。建設現場では、鉄筋の交点を針金で縛る作業を人が手でやってきた。マックスはこれを機械に置き換えた。充電式で、引き金を引くと針金を巻いて一瞬で結ぶ。針金は専用品で、使うほど減る。2026 年 3 月期の関連売上は 427 億円で、全社の 4 割を超える。利益はさらに偏り、インダストリアル機器の利益 190 億円の大半を占めるとみる(筆者の推定)。
第二は国内の機工品と住環境機器だ。釘打機やコンプレッサなど木造建築の工具が中心で、浴室の暖房換気乾燥機「ドライファン」も売る。ドライファンは新築より、交換の需要で動く。
第三はオフィス機器だ。ホッチキス、ステープラ、ラベルプリンタを国内外で売る。営業利益率は 17% ほどと悪くないが、売上は 200 億円強で伸びない。ほかに車いすなどの介護機器(HCR 機器)が 30 億円ある。
売上の 5 割強は海外で、米国と欧州が中心だ。海外の鉄筋結束機は、米国の子会社に加え、2026 年に買ったスウェーデンの販売会社(現 MAX Scandinavia)が担う。部品では、主要部品を加工する藤工業を 2026 年 4 月に傘下へ入れた。壊れやすい供給の弱点を、自前で固める手だ。
会社は 2030 年の姿として、売上 1,100 億円・営業利益 200 億円・ROE 12% を掲げた。目標は前倒しで達成圏に入り、次の中期計画(2028 年 3 月期から)が注目される。
優良さと弱いところ
この会社の質は、一つの製品が際立って高いことで決まる。
鉄筋結束機は、特許と使い込んだ技術の蓄積に守られてきた。機械と専用ワイヤがセットで、現場の職人が一度慣れると他社へ乗り換えにくい。関連売上は 2017 年 3 月期の 8.8 億円から 2026 年 3 月期の 427 億円へ育った。営業利益率はこの工具の部分で 3 割を超えるとみる。
ただし、堀は無傷ではない。国内では 2018 年にマキタが参入し、海外でも 40V 級の新機種を発表した。海外の販路はマキタの方が厚いと、工具業界では見られている。堀は「単独で守る壁」から「先行者の利と消耗品の囲い込み」へ変わりつつある。
財務の質は高い。自己資本比率は 8 割を超え、借金はほぼない。ROE は 10 年前の 5% 前後から 12% へ上がったが、これは借金でなく利益の伸びで得た数字だ。筆者はこの点を評価する。
弱いのは偏りだ。鉄筋結束機以外の事業は、営業利益率が 1 割強か、それ以下にとどまる。事務機器と国内の工具は、人口とペーパーレスの流れで量が細る。事業の幅が広いというより、強い一本と、稼ぎの小さい残りでできた会社だ。
経営は資本政策の改善に動いている。配当を純資産の 6% に引き上げ、自社株買いも増やした。ためる経営から返す経営へ変わった点は、バリュー投資の目に好ましい。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
鉄筋結束機の需要は、世界の建設現場の人手不足で動く。
鉄筋の結束は、床や壁の筋を組むたびに数千か所を縛る単純で重い作業だ。国内では機械化が 6 割ほど進んだ。欧米は機械結束がまだ 3 割ほどにとどまる。人手不足と賃金の上昇で、手作業との費用の差は広がっている。筆者は、普及が 10 年かけて 5 割前後まで進むと中立に置く。
市場の大きさは調べても揃わない。調査会社の推計は 1 億ドル未満から 28 億ドルまでばらつき、使えない。そこで、マックス自身の売上 427 億円(約 2.9 億ドル)と、世界の半分強を握ると仮定した推計から、世界市場を 5 億ドル台と置いた。数字は荒いが、考え方の筋はこうだ。市場は機械の台数でなく、消耗品を含めた金額で見る。
競合は増えている。マキタは国内で 2018 年に参入し、海外では 40V 級の新機種を発表した。ヒルティを主要な競合に挙げる調査もある。米国の大手工具会社や香港の TTI のような巨大な販路を持つ会社が本気で入れば、価格と販路の争いになる。マックスは先行者と消耗品の囲い込みで守る形だ。
米国の関税は費用を押し上げた。マックスは値上げで吸収し、差し引きでは小さなプラスだった。為替は 1 ドル 155 円の想定で、円安が追い風だが、10 年の前提では 150 円で固定して見る。
事務機器と住宅向けは逆風だ。ペーパーレスでステープラは長く減る。新設住宅の着工減で、木造向けの釘打機の消耗品は弱い。ドライファンは交換需要で支えられる。
資本政策と M&A
還元は強まった。2026 年 4 月、配当の目安を純資産の 5% から 6% に上げ、配当性向 50% も目安にした。自社株買いは上限 400 万株・71 億円で、2026 年 5 月から 12 月に行う。2024 年から 2 年で 78 億円を買った実績もある。
純現金は 354 億円あり、時価総額の 1 割を超える。事業に必要な分を除いた余りは、還元の形で戻ってきた。筆者はこの点を信頼している。
買収は小さく、目的がはっきりしている。藤工業は主要部品の加工、スウェーデンの販売会社は欧州の販路の直営化で、どちらも鉄筋結束機の供給と販売を固める手だ。大型の買収で価値を壊す心配は小さい。
株主は安定している。第一生命、日本生命、日本マスタートラスト信託銀行、従業員持株会が上位を占める。第一生命は 2026 年 8 月に保有割合を減らす報告を出した。7 月末の自社株の市場外買付は 51 億円で、相手は確認できていない。持ち合い株の整理が進んでいるとみるが、中身は未確認だ。外部の者が TOB(株式の公開買付け)をかけるには、この株主構成が壁になる。
点検済み:中立の営業利益率20.3%は過去最高(17.6%)と会社予想(18.1%)を超えるが、事業別の利益率は鉄筋結束機33%・工具12%・事務機器15%と今以下で、超えは利益率の高い鉄筋結束機の構成比が上がる分。数字は据え置く。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
鉄筋結束機はまだ入口にいる。欧米の機械結束は 3 割ほどで、国内の 6 割に並ぶまでに市場は倍近くなる。マックスは工具の消耗品を握り、機械が増えるほどワイヤが売れる。この循環は、機械の台数が増えるほど強くなる。
実績がそれを示す。関連売上は 2017 年 3 月期の 9 億円から 427 億円に育ち、最新の四半期も前年同期を 3 割上回った。全社の増収 17% のうち、数量が 9% ほど、値上げは 1% ほどだ。押しているのは、売れる数そのものである。
新機種の大径対応や、スウェーデンの販売会社を取り込んだ欧州の直販は、まだ効き始めたばかりだ。藤工業を傘下に入れて主要部品を内製したことで、供給の詰まりも減り、原価の面でも強くなる。
マキタの参入は市場を広げる面もある。機械結束という手法自体が、現場に知られていく。先行者であるマックスは、現場の信頼と消耗品の囲い込みで、共存しながらシェアの半分強を守れる。
財務は無借金に近く、配当と自社株買いを厚くした。会社目標の営業利益 200 億円を前倒しで超えた実績を見れば、次の中期計画も保守的な数字で出して、上回る形になる公算が大きい。ペーパーレスで細るオフィス機器は、すでに利益の小さい部分だ。残りの事業が弱くても、鉄筋結束機の伸びが全体を引っ張る。
慎重な見方
利益の大半が一つの製品に乗っている会社は、その一点が崩れると全体が崩れる。鉄筋結束機はまさにそうだ。
マキタは 2018 年に国内で参入し、海外でも 40V 級の機種を出した。電動工具の販路と電池の資産を持つ大手が本気で押せば、専用ワイヤの囲い込みは崩れうる。工具は電池を共有できる方が現場で選ばれやすい。アジアの安価な互換ワイヤも出てくる。ワイヤの値崩れは、利益率を直撃する。
今の好調は、為替の円安に支えられた面もある。直近の増収の 7% ほどは為替だ。10 年の前提は 150 円固定で、これを超える追い風は織り込めない。米国の関税は費用を押し上げており、値上げで吸収できなくなる局面もありうる。
成長が長く続くとは限らない。機械結束が 3 割から 5 割に伸びる前に、米国の建設が減速すれば、普及は止まる。直近の高い伸びは、人手不足と販促が重なった結果で、そのまま 10 年続かない。
事務機器はペーパーレスで縮み、国内の木造向け工具は新築の減少で弱い。ドライファンは新築 OEM が減っている。鉄筋結束機以外には、成長の力が見当たらない。
しかも今の値段は、利益が 10 年伸び続けることを前提にしている。株式の評価は、期待が少しでも外れれば大きく動く。ROE が 12% まで来た今こそ、これ以上は上がりにくい。
どちらに重みを置いたか
鉄筋結束機の成長の太さと、無借金で返す姿勢は、強気の見方に説得力がある。他方で、利益の偏りと大手の参入を軽く見ることはできない。10 年の価値は、中立でも今の時価総額を下回る。
確率は中立を最も重く置いたうえで、やや悲観の側にも厚めの重みを残した。やや楽観以上は、鉄筋結束機が他社を寄せつけないまま欧米で普及し切る筋書きで、実現すれば大きいが、条件が多い。悲観は参入と値崩れで堀が薄まる形で、低めに置いた。
結果として、事業の質は高いが、今の値段は安全域が薄い。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,111 円5,394 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 847 円1,469 億円)。 今の値に割り戻すと 2,230 円3,866 億円、今との差 +16.8%、 期待の年率 +7.6%(資本コスト 6.8%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 6,370 円1.10 兆円 | 1,248 円2,164 億円 | +298.9% | +14.8% | 762 円1,321 億円 |
| やや楽観 | 25% | 4,621 円8,011 億円 | 1,042 円1,807 億円 | +196.5% | +11.5% | 1,416 円2,454 億円 |
| 中立 | 35% | 3,199 円5,546 億円 | 858 円1,488 億円 | +112.4% | +7.8% | 1,420 円2,462 億円 |
| やや悲観 | 22% | 812 円1,407 億円 | 616 円1,068 億円 | −25.3% | −2.9% | 314 円544 億円 |
| 悲観 | 8% | 259 円449 億円 | 323 円560 億円 | −69.5% | −11.2% | 47 円81 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,111 円5,394 億円 | 847 円1,469 億円 | +107.3% | +7.6% | 3,959 円6,862 億円 |
今の株価時価総額 1,910 円3,311 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 6.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 鉄筋結束機が欧米で国内並みに普及し、先行者が勝ち切る 利益 470 億円 · PER 23.2 倍 · 株価時価総額 6,370 円1.10 兆円
機械結束が欧米の標準になり、世界の市場は今の 2 倍をはるかに超えて育つ。マックスは消耗品の囲い込みで、シェアを半分強で保つ。2 本目の柱として、大径鉄筋向け機種の海外展開が当たる。藤工業を取り込んだ部品の内製が効き、原価も下がる。鉄筋結束機の営業利益率は 36% まで上がる。
事務機器はペーパーレスで細らず、ラベル機器のデータセンター向け用途が新しい柱になって横ばいを保つ。住宅向けも堅調で、全社の営業利益率は 25% 近くに達する。
配当と自社株買いは続き、現金は余る。ROE は 20% を超え、市場は『超過収益の長続きする会社』として高い評価を与える。
- 鉄筋結束機・専用ワイヤ(コンクリート構造物向け工具):数量 770(世界の鉄筋結束機・ワイヤ市場(百万ドル、今の値段で測った実質)× マックスのシェア)× 価格 210(1 ドルあたり 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍)。シェアは数量の側に入れた)→ 売上 1,616 億円・営業利益 582 億円。市場 2.7 倍、シェア維持、営業利益率 36%
- 国内機工品(木造建築向け釘打機ほか):数量 44.0(出荷台数(万台、推定))× 価格 6.53(1 台あたりの平均販売単価(万円))→ 売上 288 億円・営業利益 40 億円。数量 1.1 倍、利益率 14%
- 住環境機器(ドライファン):数量 18.9(出荷台数(万台、推定))× 価格 9.61(1 台あたりの平均販売単価(万円))→ 売上 182 億円・営業利益 22 億円。交換需要で 1.05 倍、利益率 12%
- オフィス機器:数量 35,700(出荷個数(万個、推定。機械と消耗品の混合))× 価格 80(1 個あたりの平均販売単価(円))→ 売上 287 億円・営業利益 49 億円。ラベル機器が補い横ばい、利益率 17%
- HCR 機器(介護機器・調整):数量 3.9(出荷台数(万台、推定))× 価格 13(1 台あたりの平均販売単価(万円))→ 売上 52 億円・営業利益 3 億円。数量 1.3 倍、黒字 5%
倍率:事業の純利益 467 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 27.9% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 17.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 23.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 23.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)200 億円。全体の PER 23.21 倍、時価総額 11,044 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:機械結束の普及と先行者の守りが同時にそろう必要があり、確度は高くない。実現すれば大きい。
やや楽観 25% 普及が進み、守りも大きく崩れない 利益 354 億円 · PER 22.2 倍 · 株価時価総額 4,621 円8,011 億円
機械結束は欧米で 5 割に近づき、世界の市場は 2 倍強になる。マキタなどの参入でシェアは半分近くまで下がるが、市場の拡大がそれを上回る。ワイヤの値は物価並みに上がり、鉄筋結束機の営業利益率は 35% を保つ。
事務機器は微減、ドライファンは交換で横ばい、国内の釘打機は新築の減少で緩やかに細る。本社費は事業の拡大に合わせて増える。
全社の営業利益率は 23%、ROE は 20% 前後に上がる。会社の 2030 年の目標を超えた勢いがその後も続き、次の中期計画も強気の数字が出る。ワイヤの安定供給と欧州の直販が足を引っ張らず、10 年を通して計画を上回る形になる。
- 鉄筋結束機・専用ワイヤ(コンクリート構造物向け工具):数量 627(世界の鉄筋結束機・ワイヤ市場(百万ドル、今の値段で測った実質)× マックスのシェア)× 価格 201(1 ドルあたり 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍)。シェアは数量の側に入れた)→ 売上 1,260 億円・営業利益 441 億円。市場 2.3 倍・シェア 52%、営業利益率 35%
- 国内機工品(木造建築向け釘打機ほか):数量 40.0(出荷台数(万台、推定))× 価格 6.53(1 台あたりの平均販売単価(万円))→ 売上 261 億円・営業利益 34 億円。数量横ばい、利益率 13%
- 住環境機器(ドライファン):数量 18.0(出荷台数(万台、推定))× 価格 9.61(1 台あたりの平均販売単価(万円))→ 売上 173 億円・営業利益 21 億円。横ばい、利益率 12%
- オフィス機器:数量 32,130(出荷個数(万個、推定。機械と消耗品の混合))× 価格 80(1 個あたりの平均販売単価(円))→ 売上 258 億円・営業利益 41 億円。数量 0.9 倍、利益率 16%
- HCR 機器(介護機器・調整):数量 3.3(出荷台数(万台、推定))× 価格 13(1 台あたりの平均販売単価(万円))→ 売上 44 億円・営業利益 1 億円。1.1 倍、黒字 3%
倍率:事業の純利益 351 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 22.6% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 14.7%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 22.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 22.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)200 億円。全体の PER 22.24 倍、時価総額 8,011 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:直近の勢いが大きく崩れない、会社の想定に近い筋書き。筆者はこれをやや高めの確率に置く。
中立 35% 普及は進むが、競争で利益率はじわりと下がる 利益 258 億円 · PER 21.0 倍 · 株価時価総額 3,199 円5,546 億円
機械結束は欧米で 5 割弱まで普及し、世界の市場は 1.9 倍ほどになる。マキタやヒルティなどの参入でシェアは 50% 前後まで下がる。ワイヤの価格は物価並みに上がるが、機械の値は競争で伸びにくい。鉄筋結束機の営業利益率は今の推定 35% から 33% へ下がる。
事務機器はペーパーレスで数量が 2 割減り、利益率は 15%。国内の釘打機は新築の減少で 1 割減。ドライファンは交換で微減にとどまる。
本社費は物価と事業の拡大で増える。全社の営業利益率は 20% と、今より 3 ポイント上がるが、売上が伸びる割に利益率の上がりは小さい。ROE は 15% 台で、配当と自社株買いは続く。
- 鉄筋結束機・専用ワイヤ(コンクリート構造物向け工具):数量 499(世界の鉄筋結束機・ワイヤ市場(百万ドル、今の値段で測った実質)× マックスのシェア)× 価格 201(1 ドルあたり 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍)。シェアは数量の側に入れた)→ 売上 1,003 億円・営業利益 331 億円。市場 1.9 倍・シェア 50%、営業利益率 33%
- 国内機工品(木造建築向け釘打機ほか):数量 36.0(出荷台数(万台、推定))× 価格 6.53(1 台あたりの平均販売単価(万円))→ 売上 235 億円・営業利益 28 億円。新築減で数量 0.9 倍、利益率 12%
- 住環境機器(ドライファン):数量 17.1(出荷台数(万台、推定))× 価格 9.61(1 台あたりの平均販売単価(万円))→ 売上 164 億円・営業利益 18 億円。微減 0.95 倍、利益率 11%
- オフィス機器:数量 28,560(出荷個数(万個、推定。機械と消耗品の混合))× 価格 80(1 個あたりの平均販売単価(円))→ 売上 230 億円・営業利益 34 億円。ペーパーレスで 0.8 倍、利益率 15%
- HCR 機器(介護機器・調整):数量 3.0(出荷台数(万台、推定))× 価格 13(1 台あたりの平均販売単価(万円))→ 売上 40 億円・営業利益 0 億円。横ばい、損益ゼロ
倍率:事業の純利益 255 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 17.6% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)200 億円。全体の PER 20.95 倍、時価総額 5,546 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:鉄筋結束機の成長は太いが、競争で伸びが鈍る。最も確度の高い見方として、最も大きく置いた。
やや悲観 22% 競合の参入で値下がりが始まり、成長が鈍る 利益 129 億円 · PER 9.8 倍 · 株価時価総額 812 円1,407 億円
マキタや米国の大手が販路の厚みで押し、欧米のシェアは 4 割台へ下がる。機械結束の普及そのものは進むが、市場は 1.6 倍ほどの伸びにとどまる。専用ワイヤの価格は物価に追いつかず、鉄筋結束機の営業利益率は 27% へ下がる。
米国の関税は値上げで吸収しきれず、費用が残る。事務機器は数量が 3 分の 1 減り、住宅向けも縮む。利益の大半を担う一つの事業が落ちると、全体の利益率は 13% 台まで下がる。
財務は堅いままで、配当は続く。ROE は 9% 前後に下がり、資本コストにわずかに届く程度になる。
- 鉄筋結束機・専用ワイヤ(コンクリート構造物向け工具):数量 371(世界の鉄筋結束機・ワイヤ市場(百万ドル、今の値段で測った実質)× マックスのシェア)× 価格 188(1 ドルあたり 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍)。シェアは数量の側に入れた)→ 売上 695 億円・営業利益 188 億円。市場 1.6 倍・シェア 45%、ワイヤ値下がりで営業利益率 27%
- 国内機工品(木造建築向け釘打機ほか):数量 32.0(出荷台数(万台、推定))× 価格 6.34(1 台あたりの平均販売単価(万円))→ 売上 203 億円・営業利益 18 億円。数量 0.8 倍、利益率 9%
- 住環境機器(ドライファン):数量 15.3(出荷台数(万台、推定))× 価格 9.32(1 台あたりの平均販売単価(万円))→ 売上 143 億円・営業利益 11 億円。0.85 倍、利益率 8%
- オフィス機器:数量 23,205(出荷個数(万個、推定。機械と消耗品の混合))× 価格 78(1 個あたりの平均販売単価(円))→ 売上 181 億円・営業利益 22 億円。0.65 倍、利益率 12%
- HCR 機器(介護機器・調整):数量 2.4(出荷台数(万台、推定))× 価格 13(1 台あたりの平均販売単価(万円))→ 売上 31 億円・営業利益 −1 億円。0.8 倍、赤字 3%
倍率:ROE 9.1% で k 6.75% をわずかに上回る。RONIC = 8.4%、g 4.0% から正当化 PER は 14.0 倍。大手の参入や値崩れで稼ぎが細る構造的な負けの筋書き。稼ぐ力を上限に、その 7 割の 9.8 倍に置いた。
確率:大手の参入は現実に進んでいる。鉄筋結束機の値崩れという下振れを重く見て、やや高めに置いた。
悲観 8% 消耗品の囲い込みが崩れ、先行者の利を失う 利益 40 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 259 円449 億円
マキタや米国の大手に加え、アジアの安価な互換ワイヤが出回る。ワイヤの囲い込みが崩れ、価格は物価の 3 割ほどしか上がらない。シェアは 3 割台へ下がり、鉄筋結束機の営業利益率は 22% まで落ちる。売上も今とほぼ変わらず、実質では縮む。
米国の建設の減速も重なり、事務機器と住宅向けも縮む。全体の営業利益率は 6% 台と、今の 3 分の 1 ほどに落ちる。
財務の強さと純現金があるので存続に疑いはないが、ROE は資本コストを大きく下回り、稼ぐ力は大きく損なわれる。余った現金の一部は、立て直しの費用や買収の失敗で目減りする。
- 鉄筋結束機・専用ワイヤ(コンクリート構造物向け工具):数量 257(世界の鉄筋結束機・ワイヤ市場(百万ドル、今の値段で測った実質)× マックスのシェア)× 価格 165(1 ドルあたり 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍)。シェアは数量の側に入れた)→ 売上 423 億円・営業利益 93 億円。シェア 35% 前後、互換ワイヤで営業利益率 22%
- 国内機工品(木造建築向け釘打機ほか):数量 28.0(出荷台数(万台、推定))× 価格 6.09(1 台あたりの平均販売単価(万円))→ 売上 171 億円・営業利益 9 億円。数量 0.7 倍、利益率 5%
- 住環境機器(ドライファン):数量 13.5(出荷台数(万台、推定))× 価格 8.96(1 台あたりの平均販売単価(万円))→ 売上 121 億円・営業利益 5 億円。0.75 倍、利益率 4%
- オフィス機器:数量 17,850(出荷個数(万個、推定。機械と消耗品の混合))× 価格 75(1 個あたりの平均販売単価(円))→ 売上 134 億円・営業利益 9 億円。0.5 倍、利益率 7%
- HCR 機器(介護機器・調整):数量 1.5(出荷台数(万台、推定))× 価格 13(1 台あたりの平均販売単価(万円))→ 売上 19 億円・営業利益 −2 億円。0.5 倍、赤字 8%
倍率:ROE 3.0% が k 6.75% 以下で、ためた利益は額面を下回る価値なので PER は 1÷k = 12.9 倍まで。大手の参入や値崩れで稼ぎが細る構造的な負けの筋書き。稼ぐ力を上限に、その 7 割の 9.0 倍に置いた。
確率:参入と値崩れが重なる構造的な負け。強い堀の会社が一気に崩れることは少ないので、低めに置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
鉄筋結束機・専用ワイヤ(コンクリート構造物向け工具)
鉄筋を針金で結ぶ電動工具と専用ワイヤ。会社の最重要事業で、国内と欧米で売る。
| 数量世界の鉄筋結束機・ワイヤ市場(百万ドル、今の値段で測った実質)× マックスのシェア | 価格1 ドルあたり 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍)。シェアは数量の側に入れた | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 285 | 150 | 428 | 151 |
| 10 年後 中立 | 499 | 201 | 1,003 | 331 |
取り方:世界市場は開示がなく、マックスの売上 427 億円(約 2.85 億ドル)を、推定シェア約 55% で割って約 5.2 億ドルと置いた(推定)。数量は、その市場の実質の大きさにシェアを掛けた、マックス分の実質の売上(百万ドル)。物価の分は価格に入れた。 数量は物価を除いた実質の市場×シェア(機械結束の普及率の上昇による実物の拡大)で、名目の市場予測を使っていない。物価は価格の倍率 1.34 倍にだけ入る。
国内機工品(木造建築向け釘打機ほか)
釘打機・コンプレッサなど木造建築・内装向けの工具と消耗品。
| 数量出荷台数(万台、推定) | 価格1 台あたりの平均販売単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 40.0 | 4.88 | 195 | 24 |
| 10 年後 中立 | 36.0 | 6.53 | 235 | 28 |
取り方:インダストリアル機器の売上 751 億円から、鉄筋結束機関連 427 億円と住環境機器 129 億円を除いた残り約 195 億円を、年約 40 万台(推定)と平均約 4.9 万円に分けて置いた。
住環境機器(ドライファン)
浴室の暖房換気乾燥機。新築 OEM と交換需要。
| 数量出荷台数(万台、推定) | 価格1 台あたりの平均販売単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 18.0 | 7.17 | 129 | 15 |
| 10 年後 中立 | 17.1 | 9.61 | 164 | 18 |
取り方:住環境機器の売上 129 億円を、年約 18 万台(推定)と平均約 7.2 万円に分けて置いた。台数は新築着工と交換の動きに沿う。
オフィス機器
ステープラ(ホッチキス)・ラベルプリンタ・文具。国内外で販売。
| 数量出荷個数(万個、推定。機械と消耗品の混合) | 価格1 個あたりの平均販売単価(円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 35,700 | 60 | 214 | 36 |
| 10 年後 中立 | 28,560 | 80 | 230 | 34 |
取り方:オフィス機器の売上 214 億円を、約 3.6 億個(推定)と 1 個あたりの平均単価に分けて置いた。消耗品の個数が大半を占める。rev_factor は万個 × 円 を億円にする係数。
HCR 機器(介護機器・調整)
車いすなどの介護機器。中国のレンタル向けが中心。
| 数量出荷台数(万台、推定) | 価格1 台あたりの平均販売単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.0 | 10 | 30 | 0 |
| 10 年後 中立 | 3.0 | 13 | 40 | 0 |
取り方:HCR 機器の売上 30 億円を、年約 3 万台(推定)と平均約 10 万円に分けて置いた。赤字が続く小さな事業。
リスクと懸念
利益が鉄筋結束機に偏る
鉄筋結束機とワイヤは売上の 4 割強で、営業利益の大半を稼ぐとみる。この一つの事業で、需要・価格・競争のいずれかが崩れれば、全社の利益が大きく動く。他の事業が補うだけの力は今はない。
マキタなど大手の参入
マキタは国内で 2018 年に参入し、海外でも 40V 級の新機種を発表した。電池と販路を持つ大手が本気で押すと、機械の値下がりと専用ワイヤの囲い込みの崩れが同時に起きうる。ワイヤ単価の下落は利益率に直撃する。
米国の景気と関税
海外売上の 5 割強のうち、米国が大きな部分を占める。米国の建設の減速や関税の引き上げは、数量と費用の両面で効く。2026 年 3 月期は値上げで関税を吸収したが、いつでも吸収できるとは限らない。
為替の追い風が戻る
直近の増収の 7% 前後は円安の効果だ。為替が円高に振れると、円換算の売上と利益は目減りする。10 年の見立ては 150 円固定だが、短期の決算はこの揺れで上下する。
事務機器と住宅向けの縮小
ペーパーレスでステープラは長く減る見通しで、会社も長期の減少を想定する。新設住宅の着工減は、木造向けの釘打機の消耗品とドライファン OEM を押し下げる。ここは成長でなく、ゆっくりした縮みとみる。
供給の弱点
鉄筋結束機の主要部品の加工は一部の協力会社に頼っていた。藤工業の取り込みで改善するが、中東情勢によるナフサなど原材料の不足や輸送費の上昇という外部要因は残る。部品が詰まれば出荷が止まる。
資本配分の逆戻り
純現金が厚く、還元方針は改善したが、方針は経営陣の判断で変わりうる。大型買収で余った現金を使い、価値を壊す可能性は、今は小さいが、ゼロとは言えない。
今後の分かれ目
- 米国・欧州の鉄筋結束機の売上が 2 年続けて 2 割以上伸びたら
- やや楽観・楽観の確率を上げる。機械結束の普及が会社の想定より速く進んでいる証拠になる。
- マキタや他社の新機種が欧米の主要な建設会社に採用され、ワイヤ単価が下がり始めたら
- やや悲観・悲観の確率を上げる。消耗品の囲い込みが崩れる最初のしるしとみる。
- 鉄筋結束機の営業利益率が 3 割を割り込んだら
- 堀の薄まりが始まったとみて、中立の利益率の前提を下げる。
- 米国の関税が引き上げられ、値上げで吸収できなくなったら
- やや悲観側に重みを移す。数量よりも利益率へ先に効く。
- 新しい中期計画で海外の鉄筋結束機に追加の増産投資や販路の買収が出たら
- 成長の確度が上がる面と、投資の効率が下がる面を分けて見る。投資の稼ぎが資本コストを超えるかを確かめる。
- 自社株買いや配当で、純現金が時価総額の 1 割を下回るまで還元が進んだら
- 余った現金を別に足す前提を外し、事業の利益だけで価値を測り直す。
見ておくもの
- 鉄筋結束機・コンクリート構造物向け工具の四半期売上(欧州・北米)と営業利益率
- マキタ・ヒルティなど競合の新機種とワイヤ単価の動き
- 新しい中期計画(2028 年 3 月期から)の目標値と投資の中身
- 米国の関税率と為替(円安の効果の大きさ)
倍率と資本コストの決め方
鉄筋結束機は市場を 5 億ドル台と推定し、普及率の伸びとシェアの低下から数量を置いた。他の事業は台数と単価で積み、物価の 1.34 倍を価格に入れた。倍率は利益ベースの正当化 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g)(k 6.75%、g 4.0%、残る割合 1/2)の上限の 7〜9 割に、偏りと競争の強さで置いた。今の PER や PBR、過去の倍率は使っていない。旧リース会計の形(家賃を営業費用に入れた形)のままで 10 年を置いており、2028 年 3 月期からの新リース会計で数字の形が変わる点は、価値には影響しない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 18.15→23.21 倍・やや楽観 PER 16.17→22.24 倍・中立 PER 14.04→20.95 倍)。
資本コスト 6.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality +0.25% = 7.75%。鉄筋結束機への偏りや大手の参入は k に足さず、やや悲観・悲観の筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.75% → 6.75%。