結論
ジェイテクトは、電動パワーステアリング(EPS)で世界シェア約 25% を握る首位メーカーだ。ただ、首位の看板ほど、株価が示す優良さには届いていない。筆者の結論は、やや割高である。
事業は自動車部品(売上の 7 割)、産機・軸受、工作機械の三本柱で、稼ぎの大半は自動車が占める。EPS は世界一でも、買い手は自動車メーカーで、値段を決める力は弱い。産機・軸受では、世界 3 位の NSK と 4 位の NTN が経営統合に動き、規模で水をあけられる立場になった。工作機械も中国勢の追い上げを受ける。どの事業も看板は首位だが、価格を握る堀は薄い。
2026 年 3 月期の ROE は 1.5% で、資本コストの 8.75% に遠く及ばない。品質問題の後始末と、欧米の構造改革の費用が収益を押し下げた。会社は 2028 年 3 月期に営業利益 830 億円への回復を見込む。筆者はこの回復をおおむね信じる。ただそれでも、ROE が資本コストを安定して超える水準には届かない。
堀が薄いので、新しい投資の稼ぎは 3 分の 1 しか残らないと置いた。中立の 10 年後は、時価総額が今を 1 割弱上回るだけになる。確率で重ねて割り引くと、本質価値は今を 2 割ほど下回る。今の値段は、事業の回復をかなり先に払っている。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の目で見ると、ジェイテクトを優良企業と呼ぶには、資本効率の証明が足りない。EPS で世界シェア 25% を握る事実は立派だ。ただ、価格を握るのは顧客の自動車メーカーだ。シェアの高さが、そのまま高い投下資本収益率には変わらない。堀はあるように見えて、実は薄い。
筆者がいちばん気にするのは、過去 10 年の ROE が資本コストを安定して超えた年がほとんどない点だ。2026 年 3 月期の 1.5% は、一時的な要因が大きい。それでも平時で 9〜11% 台にとどまり、資本コストと同じ程度でしかなかった。売上の規模に比べ、株主に残るオーナー利益は小さい。
資本配分には改善の芽がある。政策保有株をゼロにする方針と、初めての自社株買いだ。ただ、NSK と NTN の統合という業界の変化に、軸受事業がどう応えるかは、まだ見えない。
安全域は薄い。今の株価は、品質問題からの回復をかなり先取りしている。回復が計画どおり進んでも、資本コストを安定して上回る会社に生まれ変わるまで、安全域はないと判断する。
何で稼ぐ会社か
主力は自動車部品で、電動パワーステアリング(EPS)とステアバイワイヤ(SbW)が中心だ。SbW は、ハンドルとタイヤを機械でつながない方式である。新商品「シンクステア」を軸に標準化を狙い、トヨタのレクサス RZ に採用された。駆動系部品も供給し、自動車部品は売上の 7 割近くを占める。顧客はトヨタを筆頭に、世界の自動車メーカーだ。トヨタは筆頭株主として 24% を持つ、グループの中核でもある。
産機・軸受は売上の 2 割弱。軸受(ボールベアリング、ローラーベアリング)を、工作機械、半導体装置、産業用ロボットに供給する。油圧機器やアクチュエータも扱う。自動車向けほど顧客への食い込みは深くなく、価格競争が激しい。
工作機械・システムは売上の 1 割強。円筒研削盤とマシニングセンタが主力で、円筒研削盤は高い精度で表面を仕上げる機械だ。北京、上海、佛山、重慶に拠点があり、無錫では現地企業に技術を貸している。設備投資の波に業績が直結し、三事業の中で最も振れが大きい。
三事業とも、自動車、半導体、産業機械という資本財の世界に根を張る。ひとつの業界の不調が、全社に響きやすい。
優良さと弱いところ
優良さの物差しで見ると、ジェイテクトは首位の看板ほど価格を握っていない。EPS の世界シェア 25% は本物だ。しかし買い手は巨大な自動車メーカーで、値段は毎年の原価低減の交渉で決まる。シェアが高くても、利益率は高くならない。
産機・軸受はさらに厳しい。NSK と NTN が 2027 年に経営統合し、規模で水をあけた競合が生まれる。近藤禎人社長は「競争力を選択的に見極める」と述べた。事業の絞り込みを迫られている。工作機械も、中国メーカーの技術向上で価格競争が強まる。
過去 10 年の ROE は、9〜11% 台から 1〜5% 台まで大きく振れた。資本コストを安定して超えた年は少ない。2026 年 3 月期は 1.5% まで落ちたが、品質問題の後始末と、北米・欧州の構造改革費用という一時的な要因が大きい。政策保有株をゼロにする方針を掲げ、資本効率への意識は改善している。
2025 年には、欧米のグループ会社がランサムウェアの攻撃を受け、顧客情報が流出した可能性がある。拠点を世界に広げた資本財企業に特有のリスクが、表に出た出来事だった。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
自動車部品、軸受、工作機械の三つの市場は、どれも循環の波を受けやすい。世界の自動車生産は年 9 千万台規模でほぼ横ばいと見る。EPS と SbW の搭載率はすでに 9 割超だ。成長の源は台数でなく、SbW の採用で 1 台あたりの単価が上がることにある。中国では、地場の EV メーカーが自前のステアリングを開発している。ジェイテクトのシェアを脅かす芽だ。
軸受の業界は、2027 年に姿を変える。NSK と NTN が共同持株会社をつくり、統合すれば世界首位級の規模になる。背景には、中国経済の減速、欧州製造業の不振、中国勢の台頭がある。ジェイテクトは単独で戦う立場になる。会社は 2028 年 3 月期に、産機・軸受の収支改善を目標に置いた。
工作機械は、中国の設備投資の強弱に業績が左右される。半導体後工程やデータセンター向けの投資は追い風だ。同時に、中国メーカーの技術向上という逆風も強まる。
第 2 期の中期経営計画(2024〜2026 年度)では、北米のコスト削減と欧州の構造改革を進めた。2027 年度からの第 3 期は「刈り取りと飛躍」を掲げ、SbW の標準化を軸に、ソリューション型の事業へ転換を目指す。この転換が実るかが、10 年の評価を決める最大の論点だと筆者は見る。
資本政策と M&A
トヨタ自動車が 24.24% を持つ筆頭株主で、ジェイテクトはトヨタグループの一員だ。グループ内の大きな資本の再編(TOB など)は、いまのところ話題になっていない。配当は 2024〜2026 年度の中計期間で、DOE(純資産配当率)2〜3% を目安とする。2024 年度の DOE は 2.2% だった。
資本効率への意識は強まっている。政策保有株は 2025 年 3 月期に 3 銘柄を売り、ゼロに向けて減らし続ける。ジェイテクトとして初めての自社株買いも、288 億円の規模で実施した。豊田通商などグループ内の持ち合いの解消も進み、資本を固定する流れは解けつつある。
大型の M&A は近年していない。欧州の NRB 事業の売却や、欧州顧客向け自動車事業の譲渡など、むしろ絞り込みを進めてきた。産機・軸受は、NSK・NTN の統合を受けて「競争力を選択的に見極める」としており、将来の売却や提携の可能性は残る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
強気の見方は、EPS の首位の地位が本物だと言う。1988 年に世界で初めて EPS を量産した技術の蓄積は、競合も簡単には追いつけない。新商品「シンクステア」の SbW は、レクサス RZ で採用済みだ。自動運転や高度運転支援の普及とともに搭載が広がれば、1 台あたりの単価は EPS より明確に上がる。ステアリングは安全に直結するため、新規参入の壁は高い。
品質問題や構造改革費用という重荷も、2026 年 3 月期で底を打ちつつある。会社は 2028 年 3 月期に営業利益 830 億円への回復を計画する。北米のコスト削減と欧州事業の整理は、実行の段階を終えつつある。産機・軸受は、NSK と NTN の統合を好機にできる。両社が統合作業に力を割く数年の間に、半導体やロボット向けの高付加価値軸受でシェアを拾う余地がある。
工作機械も、円筒研削盤の技術が評価されている。半導体後工程とデータセンターの投資が育てば、循環の山は高くなる。政策保有株ゼロと初の自社株買いは、経営が株主還元に向き合い始めた証拠だ。この流れが続けば、ROE は資本コストを安定して超える、という主張だ。
慎重な見方
慎重な見方は、ROE の実績を突く。過去 10 年のほとんどで、ROE は資本コストに届かなかった。2026 年 3 月期は 1.5% まで落ちた。一時的な要因を除いても、平時で 9〜11% 台にとどまる。EPS の世界シェア 25% は立派だが、顧客は巨大な自動車メーカーだ。毎年の原価低減の交渉で、利益の多くを持っていかれる。
産機・軸受はもっと厳しい。NSK と NTN が 2027 年に統合し、規模で大きく上回る競合が生まれる。近藤社長自身が、過当競争や中国勢の台頭を認めている。「競争力を選択的に見極める」とは、一部事業から退く可能性を排除しない、という意味でもある。工作機械も、中国メーカーに中低価格帯を奪われ続けている。
自動車部品でも、中国の EV メーカーが自前のステアリングを開発している。最大の成長市場で、足場を失う恐れが膨らむ。2025 年のランサムウェア攻撃も、統治の弱さを示した。トヨタグループの安定は、裏返せばトヨタの生産計画と価格交渉に、業績が左右される従属でもある。中期計画どおりに回復しても、資本コストを安定して上回る会社になるには、まだ距離がある、という主張だ。
どちらに重みを置いたか
技術力では、強気の見方に分がある。EPS の首位と SbW の先行は本物だ。しかし株価の正当性は、慎重な見方が重い。ROE が資本コストを安定して超えた実績はほぼなく、軸受は統合の変化の中で守りに入った。
中立の 10 年後は、時価総額が今を 1 割弱上回るだけだ。確率で重ねると、今を 2 割ほど下回る。資本効率の改善が定着する楽観で、ようやく今を大きく上回る。筆者は中立に最も重みを置いた。回復を今の株価がかなり先に払っているので、やや悲観にも相応の確率を残した。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,839 円1.22 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 598 円1,903 億円)。 今の値に割り戻すと 2,140 円6,811 億円、今との差 +5.0%、 期待の年率 +8.1%(資本コスト 8.3%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 11,827 円3.77 兆円 | 1,859 円5,918 億円 | +571.5% | +21.0% | 1,369 円4,357 億円 |
| やや楽観 | 22% | 5,884 円1.87 兆円 | 957 円3,046 億円 | +235.6% | +12.9% | 1,505 円4,791 億円 |
| 中立 | 34% | 3,065 円9,757 億円 | 509 円1,619 億円 | +75.3% | +5.8% | 1,215 円3,868 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,005 円3,200 億円 | 118 円377 億円 | −44.9% | −5.8% | 270 円859 億円 |
| 悲観 | 10% | 785 円2,500 億円 | 0 円0 億円 | −61.5% | −9.1% | 79 円250 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,839 円1.22 兆円 | 598 円1,903 億円 | +117.7% | +8.1% | 4,437 円1.41 兆円 |
今の株価時価総額 2,038 円6,488 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 10% SbWが標準化し、資本効率の改善が構造として定着する 利益 2,510 億円 · PER 15.0 倍 · 株価時価総額 11,827 円3.77 兆円
SbW が自動運転や高度運転支援の普及とともに、世界の主要メーカーで標準になる。ジェイテクトのシェアは 28% まで高まる。産機・軸受は、半導体やロボット向けの高付加価値軸受への転換が実り、NSK・NTN の連合とは別の土俵でシェアを伸ばす。
工作機械も、半導体後工程とデータセンター投資の拡大を取り込む。円筒研削盤の技術が評価される。
政策保有株のゼロ化と自社株買いの継続で、ROE は資本コストを明確に上回る。品質問題とサイバー攻撃の教訓を踏まえた統治の強化も実る。トヨタグループの安定した顧客を保ちながら、資本効率が構造として改善する 10 年になる。
- 自動車部品(EPS・SbW・駆動系):数量 27.9(ジェイテクトが世界で出荷するEPS・SbW搭載台数(百万台、世界生産台数×搭載率×シェアの推定))× 価格 9.88(出荷1台あたりの平均単価(万円、物価並みに上昇。rev_factor=100で億円に変換))→ 売上 27,587 億円・営業利益 2,069 億円。SbW標準化・シェア28%
- 産機・軸受:数量 3,422(世界の軸受・産業機械部品市場(億ドル、今の値段で測った実質))× 価格 3.90(市場1ドルあたりの当社売上(円)=シェア×150円×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍))→ 売上 13,366 億円・営業利益 1,069 億円。高付加価値軸受へ転換
- 工作機械・システム:数量 1,410(世界の工作機械市場(億ドル、今の値段で測った実質))× 価格 5.28(市場1ドルあたりの当社売上(円)=シェア×150円×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍))→ 売上 7,441 億円・営業利益 967 億円。半導体後工程・DC投資取り込み
倍率:事業の純利益 2,510 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.6% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 11.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.0 倍。全体の PER 15 倍、時価総額 37,650 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:SbWの世界的な標準化と産機・軸受の高付加価値シフトが10年続く必要があり、複数の好材料が揃わないと届かない。
やや楽観 22% 緩やかな資本効率改善とSbWの着実な拡大 利益 1,403 億円 · PER 13.4 倍 · 株価時価総額 5,884 円1.87 兆円
SbW は主要顧客を中心に着実に広がり、シェアは 26% まで緩やかに上がる。産機・軸受は、NSK・NTN の連合との規模の競争の中でも、高付加価値品に軸足を移して縮小を避ける。工作機械も、新興国の投資を取り込んで底堅く伸びる。
北米と欧州の構造改革は定着し、品質問題の後始末という重荷は過去のものになる。政策保有株の縮減も完了に近づく。トヨタグループの安定した受注に支えられ、自社株買いも続く。
ROE は資本コストを上回る水準で、おおむね安定する。資本効率の改善と事業の成長が、ともに進む 10 年だ。
- 自動車部品(EPS・SbW・駆動系):数量 24.9(ジェイテクトが世界で出荷するEPS・SbW搭載台数(百万台、世界生産台数×搭載率×シェアの推定))× 価格 9.28(出荷1台あたりの平均単価(万円、物価並みに上昇。rev_factor=100で億円に変換))→ 売上 23,135 億円・営業利益 1,388 億円。SbW拡大・シェア26%
- 産機・軸受:数量 2,582(世界の軸受・産業機械部品市場(億ドル、今の値段で測った実質))× 価格 3.49(市場1ドルあたりの当社売上(円)=シェア×150円×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍))→ 売上 9,001 億円・営業利益 540 億円。高付加価値品へ軸足移動
- 工作機械・システム:数量 1,165(世界の工作機械市場(億ドル、今の値段で測った実質))× 価格 4.61(市場1ドルあたりの当社売上(円)=シェア×150円×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍))→ 売上 5,375 億円・営業利益 538 億円。新興国投資取り込み
倍率:事業の純利益 1,403 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.3% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 9.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.4 倍。全体の PER 13.35 倍、時価総額 18,730 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:SbWの採用拡大が一部にとどまりつつも、産機・工作機械も緩やかに成長するという実現性の高い組み合わせ。
中立 34% 中立:事業は優良なまま、資本効率の改善は道半ば 利益 805 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 3,065 円9,757 億円
中立は、事業は優良なまま、資本効率の改善が道半ばで終わる 10 年だ。自動車部品は、SbW の採用がぽつぽつ広がる程度で、単価は物価並みに上がるにとどまる。産機・軸受は、NSK・NTN の統合の圧力の下で、シェアをほぼ保つのが精一杯だ。高付加価値化は限られる。
工作機械は、循環の中立の水準で推移する。中国の地場メーカーとの競争も、今と同じ程度で収まる。北米と欧州の構造改革は定着し、品質問題の重荷は消える。それでも資本コストを安定して上回るには至らない。
トヨタグループの安定した顧客は保たれ、配当は緩やかに増える。優良な事業ではあるが、特段の割安も割高もない 10 年になる。
- 自動車部品(EPS・SbW・駆動系):数量 23.3(ジェイテクトが世界で出荷するEPS・SbW搭載台数(百万台、世界生産台数×搭載率×シェアの推定))× 価格 8.59(出荷1台あたりの平均単価(万円、物価並みに上昇。rev_factor=100で億円に変換))→ 売上 19,972 億円・営業利益 959 億円。シェア25%でほぼ維持
- 産機・軸受:数量 2,346(世界の軸受・産業機械部品市場(億ドル、今の値段で測った実質))× 価格 3.12(市場1ドルあたりの当社売上(円)=シェア×150円×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍))→ 売上 7,309 億円・営業利益 329 億円。シェア1.55%でほぼ維持
- 工作機械・システム:数量 1,058(世界の工作機械市場(億ドル、今の値段で測った実質))× 価格 4.02(市場1ドルあたりの当社売上(円)=シェア×150円×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍))→ 売上 4,253 億円・営業利益 319 億円。循環の中立水準
倍率:事業の純利益 805 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.4% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 9,757 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:自動車・産機・工作機械のいずれも構造改革は進むが決定的な優位は確立できないという、トヨタグループの伝統的な資本財メーカーの実績を踏まえた中心シナリオ。
やや悲観 24% 資本効率が低いまま、中国勢との競争が強まる 利益 131 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 1,005 円3,200 億円
中国の EV メーカーや現地サプライヤーが、EPS と SbW の一部でシェアを伸ばす。ジェイテクトの世界シェアは 22% まで下がる。産機・軸受は、NSK・NTN の連合との規模の差が定着し、シェアは 1.3% まで縮む。工作機械も、中低価格帯を中国の地場メーカーに譲り続ける。
北米と欧州の構造改革は効果が出るが、事業の縮小分を打ち消す程度にとどまる。資本コストに届かない状態が 10 年続く。優良企業としての評価は薄れる。
配当は低い水準に抑えられる。政策保有株の縮減という資本効率の改善だけが、数字に残る 10 年になる。
- 自動車部品(EPS・SbW・駆動系):数量 19.6(ジェイテクトが世界で出荷するEPS・SbW搭載台数(百万台、世界生産台数×搭載率×シェアの推定))× 価格 8.16(出荷1台あたりの平均単価(万円、物価並みに上昇。rev_factor=100で億円に変換))→ 売上 16,014 億円・営業利益 480 億円。シェア22%に低下
- 産機・軸受:数量 1,840(世界の軸受・産業機械部品市場(億ドル、今の値段で測った実質))× 価格 2.48(市場1ドルあたりの当社売上(円)=シェア×150円×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍))→ 売上 4,567 億円・営業利益 69 億円。シェア1.3%に低下
- 工作機械・システム:数量 870(世界の工作機械市場(億ドル、今の値段で測った実質))× 価格 3.14(市場1ドルあたりの当社売上(円)=シェア×150円×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍))→ 売上 2,735 億円・営業利益 82 億円。中国勢にシェア流出
倍率:回復が遅れ、軸受も統合の劣勢で利益が細る筋書き。稼ぐ力は薄いので、純現金+売れる資産の税後を床にした。約 3,200 億円とみた。PBR はこの床を今の自己資本で割った値。
確率:NSK・NTN統合後の規模差が10年で定着し、中国地場勢がEPS・工作機械の両方でシェアを伸ばすという下振れが重なる想定。
悲観 10% 構造的にシェアを失い、普通の資本財メーカーになる 利益 −284 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 785 円2,500 億円
中国の現地サプライヤーが、EPS と SbW でも品質で追いつく。ジェイテクトの世界シェアは 15% まで下がる。産機・軸受は、NSK・NTN の連合と中国勢に挟まれて、シェアが 0.9% まで縮む。工作機械も、中国の地場メーカーに主要な市場を奪われる。
会社は資本政策でも目立った手を打てず、無配が続く。かつて「電動パワステの世界王者」と呼ばれた評価は失われ、競合がひしめく普通の資本財メーカーとして値が付く。
トヨタグループの受注だけが最後の下支えになり、事業の存続は保たれる。ジェイテクトにとって最も厳しい 10 年だ。
- 自動車部品(EPS・SbW・駆動系):数量 12.4(ジェイテクトが世界で出荷するEPS・SbW搭載台数(百万台、世界生産台数×搭載率×シェアの推定))× 価格 7.30(出荷1台あたりの平均単価(万円、物価並みに上昇。rev_factor=100で億円に変換))→ 売上 9,067 億円・営業利益 45 億円。シェア15%まで低下
- 産機・軸受:数量 1,751(世界の軸受・産業機械部品市場(億ドル、今の値段で測った実質))× 価格 1.54(市場1ドルあたりの当社売上(円)=シェア×150円×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍))→ 売上 2,694 億円・営業利益 −27 億円。シェア0.9%に縮小
- 工作機械・システム:数量 827(世界の工作機械市場(億ドル、今の値段で測った実質))× 価格 1.93(市場1ドルあたりの当社売上(円)=シェア×150円×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍))→ 売上 1,596 億円・営業利益 16 億円。中国勢に主要市場を奪われる
倍率:品質問題の再発と自動車向けの失注で赤字になる構造悲観。稼ぐ力では測れないので、純現金+売れる資産の税後を床にした。約 2,500 億円とみた。PBR はこの床を今の自己資本で割った値。
確率:EPS・軸受・工作機械の3事業すべてで中国・競合に構造的にシェアを失う複合的な下振れは10年という期間では起こりうるため相応の確率を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
自動車部品(EPS・SbW・駆動系)
電動パワーステアリング(EPS)・ステアバイワイヤ(SbW)・駆動系部品を世界の自動車メーカーに供給する。
| 数量ジェイテクトが世界で出荷するEPS・SbW搭載台数(百万台、世界生産台数×搭載率×シェアの推定) | 価格出荷1台あたりの平均単価(万円、物価並みに上昇。rev_factor=100で億円に変換) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 21.4 | 6.41 | 13,697 | 467 |
| 10 年後 中立 | 23.3 | 8.59 | 19,972 | 959 |
取り方:世界の乗用車生産約9,500万台×EPS搭載率約90%×ジェイテクトの世界シェア25%で出荷台数を推定。価格は自動車セグメント売上13,697億円(決算短信、構成比69.4%)を出荷台数で割った平均単価。
産機・軸受
ボール・ローラーベアリングなど軸受製品と油圧・アクチュエータ等の産業機械部品を工作機械・半導体製造装置・産業ロボットなどに供給する。
| 数量世界の軸受・産業機械部品市場(億ドル、今の値段で測った実質) | 価格市場1ドルあたりの当社売上(円)=シェア×150円×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,585 | 2.32 | 3,677 | 112 |
| 10 年後 中立 | 2,346 | 3.12 | 7,309 | 329 |
取り方:世界の軸受市場(2026年推定1,585億ドル、業種ノート)のうちジェイテクトのシェアを1.55%と推定。産機・軸受セグメント売上3,679億円(構成比18.6%)との整合で価格(シェア×150円)を逆算。
工作機械・システム
円筒研削盤・マシニングセンタなど、ものを作る機械(マザーマシン)を製造・販売する。
| 数量世界の工作機械市場(億ドル、今の値段で測った実質) | 価格市場1ドルあたりの当社売上(円)=シェア×150円×物価の倍率(3年1.09・10年1.34倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 787 | 3.00 | 2,361 | 174 |
| 10 年後 中立 | 1,058 | 4.02 | 4,253 | 319 |
取り方:世界の工作機械市場を約787億ドルと推定し、ジェイテクトのシェアを2.0%とした。工作機械セグメント売上2,361億円(構成比12.0%)との整合で価格(シェア×150円)を逆算。
リスクと懸念
軸受業界の再編
NSK と NTN が 2027 年に共同持株会社をつくり、統合する。世界首位級の規模になる。ジェイテクトは、産機・軸受で規模の差が広がった競合と、単独で戦う。価格と開発力の両面で劣る懸念がある。
EV 化と中国勢の台頭
中国の EV メーカーが、自前のステアリングを開発している。世界最大の自動車市場で、EPS と SbW のシェアが削られうる。EV 化で駆動系部品の構成も変わり、既存の強みがそのまま生きるとは限らない。
工作機械の価格競争
中国の地場メーカーが技術を高め、中低価格帯でシェアを広げている。円筒研削盤という得意分野でも、長期では価格競争を受けうる。受注の循環に加え、構造的な競争の圧力も強まっている。
サイバーセキュリティ
2025 年に欧米のグループ会社がランサムウェアの攻撃を受け、顧客情報が流出した可能性がある。拠点を世界に広げた企業として、統治の強化が課題だ。再発すれば、顧客の信頼をまた損なう。
トヨタグループへの依存
トヨタが筆頭株主として 24.24% を持ち、自動車部品の最大顧客でもある。受注の土台は安定する。一方、トヨタの生産計画と価格交渉に業績が左右される。独自に価格を決める力は限られる。
品質問題の後始末と再発
近年の品質問題の後始末が、業績を押し下げてきた。組織風土の改革と品質システムの点検を進めている。資本財企業の品質不正は業界全体の構造問題でもあり、再発すれば信頼と採算に再び響く。
資本コストに届かない収益性
過去 10 年の ROE は、資本コストを安定して超えた年がほとんどない。2026 年 3 月期は 1.5% まで落ちた。中期計画どおりに回復しても、資本コストを安定して上回る会社になれるかは、なお実績で確かめる必要がある。
今後の分かれ目
- NSK と NTN の統合が 2027 年 10 月に計画どおり実現し、産機・軸受のシェアが目に見えて縮んだら
- やや悲観の確率を上げ、産機・軸受の縮小や撤退の可能性を見直す。
- 産機・軸受が 2028 年 3 月期までに収支改善の目標を達成したら
- 楽観とやや楽観の確率を上げてよい。高付加価値軸受への移行の進み具合を確かめる。
- SbW が複数の自動車メーカーに採用され始めたら
- 楽観とやや楽観の確率を上げる。採用先の広がりと 1 台あたりの単価を確かめる。
- 中国の地場サプライヤーが EPS や SbW で量産の採用を取ったら
- 悲観側の確率を上げ、世界シェアの前提を見直す。
- サイバー攻撃や品質問題が再発したら
- やや悲観の確率を上げ、統治の強化が効いているかを見直す。
- 政策保有株のゼロ化が終わり、追加の自社株買いが発表されたら
- 楽観とやや楽観の確率を上げてよい。資本配分の規律が定着したかを確かめる。
見ておくもの
- NSK・NTN の統合の進み具合と、ジェイテクトの産機・軸受の収支改善
- 自動車部門の SbW の採用先の広がりと、中国での EPS・SbW のシェア
- 工作機械の受注と、中国地場メーカーとの価格競争の強さ
- 政策保有株を減らすペースと、自社株買いの実施状況
- 全社 ROE の四半期ごとの推移(資本コスト 8.75% との比較)
倍率と資本コストの決め方
自動車部品、産機・軸受、工作機械の 3 つに分け、実質の台数または市場規模にシェアと物価並みの価格を掛けて売上を積んだ。堀は薄いので、新しい投資の稼ぎが残る割合は 1/3 とし、楽観は上限の 8.5 割、やや楽観と中立は 8 割前後に置いた。やや悲観と悲観は稼ぐ力が薄いので、純現金と売れる資産の税後の床(約 3,200 億円と 2,500 億円)で測った。資本コストは基本 7.5% に quality +1.25%(価格を決める力が弱い、循環、電動化)を足した 8.75%。今の PER・PBR には寄せず、会社自身の 2028 年 3 月期の計画(営業利益 830 億円)を基準に、中立をほぼ同水準に置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.59→15 倍・やや楽観 PER 10.63→13.35 倍・中立 PER 9.14→12.12 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality +1.25% = 8.75%。品質問題・NSK と NTN の統合・サイバー攻撃は k に足さず、筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.75% → 8.25%。
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