結論
イーグル工業は、機械の回転軸から液体や気体が漏れるのを防ぐメカニカルシールの専業大手だ。大型船の船尾管シールでは世界の 6 割以上を握る。筆者の結論は、今の値段は事業の力に見合っていて、割安とも割高とも言えない、というものだ。
稼ぎの柱は 5 つある。自動車・建機向けが売上の半分、一般産業のプラント向けが 2 割強、残りを舶用・半導体・航空宇宙が分ける。船尾管シールは利益率が高い。一方で内燃機関向けの部品は縮んでいく。EV 向けの新製品がどこまで穴を埋めるかが、10 年の分かれ目になる。
半導体向けは新工場に先行投資し、赤字が続いてきた。損失は縮み、会社は 2026 年度以降の黒字化を見込む。筆者はこれを中心の筋書きに置く。ただし黒字になっても利益率は 1 桁で、市況の波は避けられない。
10 月 1 日に NOK との経営統合が完了し、6486 は上場を終えた。株主は NOK Group の株を 1 対 1 で受け取っている。ここではイーグル単独の事業の価値を測った。
中立の筋書きでは、10 年後の純利益は今の 2 倍ほど、ROE は 9% 弱にとどまる。強気の筋書きは半導体と航空宇宙が同時に当たる必要があり、慎重な筋書きは自動車向けの縮みと値下げ圧力で利益が伸びない。両方の重みを合わせると、割り引いた価値は今の時価総額とほぼ同じになる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見ると、イーグルは「いい部分」と「普通の部分」が混ざった会社だ。船尾管シールのように世界の 6 割を持ち、交換需要が続く事業は、オーナーとして持ち続けたい。航空宇宙も、時間をかけて築いた実績が堀になる。
しかし売上の半分を占める自動車向けは、値段を自分で決められない上、内燃機関という縮む市場に依存している。半導体への投資は数年の赤字を生み、資本を食った。稼いだ利益を再投資して資本コストを超える稼ぎが出ているか、というと、過去 10 年の ROE の中央値は 6.5% で、答えは否だ。筆者はこの点を割り引いて見る。
ただし事業が壊れているわけではない。借金は小さく、営業のキャッシュフローは投資を賄い、半導体の赤字は縮み始めた。10 年後の中立の ROE は 9% 弱で、資本コストをわずかに超える。そこに十分な安全域があるかというと、今の値段にはほとんどない。割安でも割高でもない、というのが結論だ。
NOK との統合は、経営の規律の面では前向きな材料だ。ただし数字が出るまでは、筆者は確からしい分だけを評価に入れる。
何で稼ぐ会社か
主力はメカニカルシールだ。回る軸と固定された箱の隙間をぴったり塞ぎ、油や水、ガスの漏れを止める。1964 年に NOK のシール部門が独立して生まれた会社で、NOK がゴムなどの有機材を得意とするのに対し、イーグルは金属・カーボン・セラミックスなど無機材のシールに強い。
事業は 5 つに分かれる。自動車・建設機械向けは売上の 5 割強で、エンジンや変速機、足回りのシールやバルブ、軸受を作る。EV 向けのサスペンション用ソレノイドバルブが伸び、熱を管理するバルブやカーボン軸受も育てている。一般産業機械向けは石油・化学・電力などのプラントに納めるシールで、独ブルグマン社との提携を軸に、納めたあとの保守と交換で稼ぐ形を広げている。
舶用は大型船のプロペラ軸に付ける船尾管シールで、1 万トン以上の船では世界シェアが 6 割以上だ。航空宇宙は国産ロケットのエンジン部品が長い実績で、次期戦闘機のエンジンへの採用を狙う。半導体向けは製造装置に組み込む真空シールやベローズで、つくばの新工場が立ち上がりつつある。
海外売上が大きく、為替と関税の影響を受ける。2026/03 期の売上は約 1,775 億円、営業利益は約 135 億円だった。営業外では合弁などからの持分法の利益が利益を押し上げており、純利益は営業利益の 7 割強に収まっている。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねしにくい強みがはっきりしているのは舶用と航空宇宙だ。船尾管シールは世界シェアが 6 割を超え、船が壊れれば大事故になるため、実績のない会社から買う船主は少ない。ロケットや戦闘機のエンジン部品も、認証と長年の実績が参入を阻む。ただし 2 つ合わせても売上の 2 割に満たない。
稼ぎの中心の自動車・建機向けは堀が薄い。部品の値段は自動車メーカーの値下げ要求にさらされ、内燃機関向けは構造的に縮んでいく。会社は値上げで年 15 億円ほどの効果を出したが、関税と為替でその多くが消えた。ここを EV 向けのバルブやシールの新製品で作り替えられるかを、筆者はいちばん気にしている。
資本の使い方には課題がある。営業利益率は過去 10 年に 4% から 10% の間を動き、ROE の中央値は 6.5% と資本コストに届かない。会社自身も資本コストを 8〜9% と見て、ROE 9% を目標にしている。半導体への先行投資は、市況の悪化で数年、利益を押し下げた。投資が回収に向かうかどうかで評価が決まる。
財務は普通だ。自己資本比率は 58%、純有利子負債は 60 億円と小さく、利息は利益の 20 倍近い。借金で潰れる心配はない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
メカニカルシールの世界市場は 2024 年に約 47 億ドルで、2031 年に約 65 億ドルへ、年 4〜5% の成長とされる(調査会社の推計)。物価の 3% を除けば、実質ではほぼ年 1〜2% だ。プラントの新設よりも、すでに動いている設備の交換と保守が需要の中心で、景気に左右されにくい。上位 5 社で市場の 5 割強を占める。
競合はジョン・クレーン、フローサーブ、AESSEAL など。ブルグマンとの合弁である EagleBurgmann は、世界でも上位の一角だ。標準品では中国勢が値段で追い上げ、高温・高圧・有害物質といった難しい用途で差がつく。イーグルは日本・アジアに強く、石油化学の大型プラントで世界大手と競る。
自動車は大きな変わり目にある。内燃機関のシール、バルブ、軸受は電動化で減るが、EV には別のバルブ、熱管理部品、モーター軸受が要る。減る分と増える分の差し引きが、イーグルの 10 年を決める。2030 年度に次世代自動車向けで 250 億円以上という目標は、実現すれば大きな支えになる。
半導体は、製造装置の投資の波が大きい。2025 年に半導体の市況が悪化し、イーグルの半導体事業は赤字が膨らんだ。10 年を通せば AI 向けの投資で需要は伸びるが、年ごとの振れは大きい。航空宇宙は防衛費の増額と国産ロケットが追い風になる。
資本政策と M&A
最大の論点は NOK との統合だ。2026 年 10 月 1 日、共同株式移転で持株会社の NOK Group が発足し、イーグルは完全子会社になった。株主は NOK Group の株を 1 対 1 で受け取った。NOK はもともと議決権の 30% ほどを持つ筆頭株主で、実質的には親会社が兄弟会社を抱え込む形だ。両社でゴムなどの有機材から金属・セラミックスの無機材まで幅広いシールをそろえ、購買や金型の共同化を狙う。
ここでは統合前の単独の事業価値を測っている。統合後の株価は NOK 本体の事業も含む別の値段になるので、単独の評価をそのまま持ち分の価値とは読めない。シナジーは公表の数字がなく、筆者は確からしい分だけを中立に入れた。
株主還元は前の中計で総額 190 億円に増やした。配当は据え置きの方針だったが、2026/03 期は増配した。自社株買いは、株主構成と流動性を理由に総額の計画を取りやめた。PBR が 1 倍を割っていたことが、還元の見直しのきっかけだった。
設備投資は前の 3 年で約 350 億円、今期は 131 億円を計画する。半導体のつくばと自動車・航空宇宙の増強が中心で、営業のキャッシュフローの範囲に収まっている。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
船尾管シールで世界の 6 割を握り、修繕の需要が船の寿命の間ずっと続く。航空宇宙は戦闘機のエンジンとロケットで、長期の安定した売上になる。半導体は赤字を脱する手前まで来ており、つくばの新工場の固定費が吸収されれば、利益が一気に跳ねる。
自動車でも、EV のサスペンション用バルブと熱管理部品が育っており、内燃機関向けの縮みを埋めはじめた。NOK との統合で購買と金型の共同化が効き、会社が掲げる 2029 年の売上 2,000 億円と過去最高益は現実的だ。ためた利益の戻しが増えれば、ROE も 10% を超えられる。
半導体が黒字に転じる 2026 年度以降は、利益の伸びがはっきり見えてくる。自動車から他の事業への比重の移りが進むほど、利益の質は上がる。船と航空宇宙は景気の波が小さく、売上が積み上がるほど全社の利益の安定感が増す。統合で調達と金型が共通になれば、小さな会社に特有の規模の弱さも和らぐ。
慎重な見方
自動車・建機向けは売上の半分で、内燃機関の縮みは止まらない。EV 向けの新製品は期待先行で、量産と採算が見えるまでに時間がかかる。値上げは年 15 億円ほど出たが、関税と円高で多くが消えた。自動車メーカーの値下げ要求は今後も続く。
半導体は、前の中計で成長のエンジンと言いながら、市況の悪化で数年にわたり赤字を出した。つくばの固定費が増えた今、次に市況が崩れれば同じことが起きる。中国のシール会社は標準品で価格を崩し、アフターサービスの収益にも手を伸ばす。
ROE は過去 10 年の中央値が 6.5% で、直近 7 年は資本コストを下回り続けている。会社の ROE 9% の目標も、2025 年度の実績 4% から見て遠い。NOK との統合はシナジーの数字が示されず、統合直後は費用と混乱が先に来る。しかも自動車向けの部品は NOK と重なる分野があり、統合は顧客の側から見れば納入先の集約という脅威にもなりうる。売上の半分が、縮む市場と強い買い手に挟まれている。
どちらに重みを置いたか
事業の質では、舶用と航空宇宙に分があり、強気の見方が正しい。だが全体の利益は自動車向けで決まり、そこでは慎重な見方の指摘が重い。半導体の黒字化は会社が言うとおり進みそうだが、利益率が高くはならない。強気と慎重で、数字の重みはほぼ互角と見た。
確率は中立に最も重みを置き、強気側 3 割強、弱気側 3 割強とした。自動車向けの縮みは確実に来るので、慎重な筋書きにやや厚く置いている。結論は適正。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,634 円2,118 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,306 円597 億円)。 今の値に割り戻すと 2,976 円1,360 億円、今との差 −2.6%、 期待の年率 +6.9%(資本コスト 8.3%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 8,382 円3,830 億円 | 1,886 円862 億円 | +236.1% | +12.9% | 1,027 円469 億円 |
| やや楽観 | 22% | 6,534 円2,986 億円 | 1,635 円747 億円 | +167.4% | +10.3% | 1,797 円821 億円 |
| 中立 | 34% | 4,979 円2,276 億円 | 1,379 円630 億円 | +108.1% | +7.6% | 2,162 円988 億円 |
| やや悲観 | 23% | 2,266 円1,036 億円 | 1,116 円510 億円 | +10.7% | +1.0% | 778 円355 億円 |
| 悲観 | 11% | 1,313 円600 億円 | 295 円135 億円 | −47.4% | −6.2% | 177 円81 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,634 円2,118 億円 | 1,306 円597 億円 | +94.4% | +6.9% | 5,940 円2,715 億円 |
今の株価時価総額 3,055 円1,396 億円(2026-09-25)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 10% 半導体が黒字化し、シール 2 社の統合も効く 利益 288 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 8,382 円3,830 億円
つくばの半導体工場がフル稼働し、半導体向けは赤字から抜けて売上が今の 3 倍を超える。次期戦闘機のエンジンへの採用が決まり、航空宇宙も量産に入る。EagleBurgmann とのアフターサービスが育ち、一般産業は保守の売上で安定して伸びる。内燃機関向けの縮みは EV 向けのバルブと熱管理部品がほぼ埋める。会社が掲げる次世代自動車向け 250 億円の目標も、前倒しで届く。NOK グループとの購買・金型の共同化で原価も下がり、全社の営業利益率は 11% 台と過去最高を更新する。ためた利益の大半を配当と自社株買いで戻し、ROE も 12% 台まで上がる。
- 自動車・建設機械向け:数量 6.5(対象市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア = 当社の実質出荷額(億ドル))× 価格 1.34(値段の指数(今を 1。名目。物価の 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 1,302 億円・営業利益 117 億円。営業利益率9.0%
- 一般産業機械向け:数量 4.2(対象市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア = 当社の実質出荷額(億ドル))× 価格 1.34(値段の指数(今を 1。名目。物価の 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 852 億円・営業利益 128 億円。営業利益率15.0%
- 半導体向け:数量 3.2(対象市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア = 当社の実質出荷額(億ドル))× 価格 1.34(値段の指数(今を 1。名目。物価の 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 643 億円・営業利益 84 億円。営業利益率13.0%
- 舶用:数量 1.5(対象市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア = 当社の実質出荷額(億ドル))× 価格 1.34(値段の指数(今を 1。名目。物価の 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 293 億円・営業利益 76 億円。営業利益率26.0%
- 航空宇宙:数量 1.7(対象市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア = 当社の実質出荷額(億ドル))× 価格 1.34(値段の指数(今を 1。名目。物価の 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 348 億円・営業利益 42 億円。営業利益率12.0%
倍率:ROE 12.1%。今の利益は残り、先で薄れるのは新しく投じるお金の稼ぎだけとみて、RONIC = k 8.25% + 残る割合 1/2 ×(12.1 − 8.25)= 10.2%、g 4.0% から正当化 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g)= 14.3 倍。半導体と航空宇宙の利益は景気と国の予算で振れるので質は中の上とみて、上限の 9.3 割の 13.3 倍に置いた。
確率:半導体の立ち上がり、航空宇宙の量産、一般産業のアフターサービスの 3 つが同時に当たる必要がある。どれも会社が目標に掲げているが、実現した例はまだ少なく、確率は低めに置いた。
やや楽観 22% 半導体は黒字になり、本業の縮みも小さい 利益 237 億円 · PER 12.6 倍 · 株価時価総額 6,534 円2,986 億円
半導体向けの赤字は数年で消え、売上は今の 2 倍台後半に育つ。舶用は新造船の波に乗って船尾管シールの出荷が続き、修繕の売上が積み上がる。自動車向けは内燃機関の部品が減る一方で、EV のサスペンション用バルブとテクスチャーメカニカルシールが穴を埋め、数量はほぼ横ばいで済む。値上げは物価並みに通る。全社の営業利益率は 10% 台前半に乗り、純利益は今の 2.4 倍ほどになる。配当を中心に利益の半分弱を戻し、ROE は 10% 台半ばまで上がる。航空宇宙は国産ロケットの打ち上げが増え、戦闘機エンジンの部品も一部の採用にとどまりながら着実に量産が進む。会社は統合の効果を出し切れないが、致命的な失敗もない。
- 自動車・建設機械向け:数量 6.2(対象市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア = 当社の実質出荷額(億ドル))× 価格 1.34(値段の指数(今を 1。名目。物価の 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 1,240 億円・営業利益 105 億円。営業利益率8.5%
- 一般産業機械向け:数量 3.9(対象市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア = 当社の実質出荷額(億ドル))× 価格 1.34(値段の指数(今を 1。名目。物価の 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 780 億円・営業利益 109 億円。営業利益率14.0%
- 半導体向け:数量 2.7(対象市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア = 当社の実質出荷額(億ドル))× 価格 1.34(値段の指数(今を 1。名目。物価の 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 543 億円・営業利益 62 億円。営業利益率11.5%
- 舶用:数量 1.4(対象市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア = 当社の実質出荷額(億ドル))× 価格 1.34(値段の指数(今を 1。名目。物価の 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 275 億円・営業利益 69 億円。営業利益率25.0%
- 航空宇宙:数量 1.5(対象市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア = 当社の実質出荷額(億ドル))× 価格 1.34(値段の指数(今を 1。名目。物価の 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 295 億円・営業利益 31 億円。営業利益率10.5%
倍率:ROE 10.6%。RONIC = k 8.25% + 残る割合 1/2 ×(10.6 − 8.25)= 9.4%、g 4.0% から正当化 PER = 13.5 倍。自動車向けの比重が高く利益の質は普通とみて、上限の 9.3 割の 12.6 倍に置いた。
確率:半導体の黒字化は会社が 2026 年度以降と言っており、実現しやすい。一方、自動車向けの内燃機関の縮みは確実に進む。両方が収まる組み合わせとして、強気側では最も起きやすい筋書きとみた。
中立 34% 半導体は黒字化、自動車向けは横ばいで、統合は緩やかに効く 利益 185 億円 · PER 12.3 倍 · 株価時価総額 4,979 円2,276 億円
半導体向けは赤字を脱するが、市況の波に洗われて利益率は 1 桁にとどまる。自動車・建機向けは内燃機関部品の減少を EV 向けの新製品が打ち消し、数量は 5% ほど減る程度で収まる。値上げは物価並みだが、顧客からの値下げ要求と関税の負担で利益率は 7% 台に抑えられる。舶用は新造船と修繕で安定し、航空宇宙は売上が倍近くなる。NOK グループとの統合は購買と金型の共同化で効くが、大きな上振れにはならない。全社の営業利益率は 9% ほど、ROE は 9% 弱。配当は今の水準を物価に合わせて上げていく。大きな買収もなく、手元の資金は設備投資と配当に回る。
- 自動車・建設機械向け:数量 5.9(対象市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア = 当社の実質出荷額(億ドル))× 価格 1.34(値段の指数(今を 1。名目。物価の 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 1,178 億円・営業利益 88 億円。営業利益率7.5%
- 一般産業機械向け:数量 3.6(対象市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア = 当社の実質出荷額(億ドル))× 価格 1.34(値段の指数(今を 1。名目。物価の 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 714 億円・営業利益 93 億円。営業利益率13.0%
- 半導体向け:数量 2.2(対象市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア = 当社の実質出荷額(億ドル))× 価格 1.34(値段の指数(今を 1。名目。物価の 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 442 億円・営業利益 40 億円。営業利益率9.0%
- 舶用:数量 1.3(対象市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア = 当社の実質出荷額(億ドル))× 価格 1.34(値段の指数(今を 1。名目。物価の 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 255 億円・営業利益 61 億円。営業利益率24.0%
- 航空宇宙:数量 1.3(対象市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア = 当社の実質出荷額(億ドル))× 価格 1.34(値段の指数(今を 1。名目。物価の 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 255 億円・営業利益 23 億円。営業利益率9.0%
倍率:ROE 8.8%。RONIC = k 8.25% + 残る割合 1/2 ×(8.8 − 8.25)= 8.5%、g 4.0% から正当化 PER = 12.5 倍。ROE が k を上回るので下限は 1÷k = 12.1 倍で、その少し上の 12.3 倍に置いた(上限の 9.8 割。ROE が k をわずかに超えるだけなので、上限と下限がほぼ重なる)。
確率:会社の中計は強気の目標だが、前の中計は半導体の失速で目標を下げた。実績が示すとおり、計画より少し控えめな中心を置き、最も重い確率を与えた。
やや悲観 23% 内燃機関の縮みと値下げ要求で、利益が伸びない 利益 109 億円 · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 2,266 円1,036 億円
EV 向けの新製品の量産が遅れ、内燃機関向けの縮みを埋められない。自動車・建機向けは数量が 15% ほど減り、値上げも関税と値下げ要求で物価に届かない。中国のシール会社が一般産業向けの標準品で価格を崩し、一般産業の利益率は 1 割まで下がる。半導体は黒字化しても利益率は 5% にとどまる。舶用と航空宇宙は堅いが、全体を支えきれない。営業利益率は 6% 台で、今の水準を超えられない。ROE は 6% に届かず、資本コストを下回ったまま 10 年が過ぎる。NOK との統合も、組織の再編に費用がかかるばかりで、成果が見えない。会社は値上げと原価低減で粘るが、売上の伸びがないため利益が増えない。
- 自動車・建設機械向け:数量 5.2(対象市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア = 当社の実質出荷額(億ドル))× 価格 1.28(値段の指数(今を 1。名目。物価の 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 1,007 億円・営業利益 55 億円。営業利益率5.5%
- 一般産業機械向け:数量 3.1(対象市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア = 当社の実質出荷額(億ドル))× 価格 1.30(値段の指数(今を 1。名目。物価の 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 597 億円・営業利益 66 億円。営業利益率11.0%
- 半導体向け:数量 1.4(対象市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア = 当社の実質出荷額(億ドル))× 価格 1.25(値段の指数(今を 1。名目。物価の 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 263 億円・営業利益 13 億円。営業利益率5.0%
- 舶用:数量 1.1(対象市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア = 当社の実質出荷額(億ドル))× 価格 1.34(値段の指数(今を 1。名目。物価の 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 229 億円・営業利益 50 億円。営業利益率22.0%
- 航空宇宙:数量 1.0(対象市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア = 当社の実質出荷額(億ドル))× 価格 1.34(値段の指数(今を 1。名目。物価の 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 201 億円・営業利益 16 億円。営業利益率8.0%
倍率:ROE 5.9% が k 8.25% 以下で、ためた利益は額面を下回る価値。PER は 1÷k = 12.1 倍までで、稼ぐ力の弱さを見て約 8 割の 9.5 倍に置いた。需要が戻らず値下げ圧力が定着する筋書きなので、やや悲観の床は稼ぐ力で測り、帳簿の PBR からは置いていない。
確率:内燃機関向けの部品は構造的に縮み、自動車メーカーの値下げ要求は強い。EV 向けの新製品が間に合わないという下振れは十分に起こりうるので、強気側の筋書きとほぼ同じ重みを置いた。
悲観 11% 内燃機関部品が崩れ、半導体も立ち上がらない 利益 10 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 1,313 円600 億円
EV への移行が想定より速く、内燃機関向けのシールと軸受が急速に消える。自動車・建機向けの数量は 3 分の 2 に減り、値下げ要求で利益がほぼ消える。つくばの半導体工場は稼働率が上がらず、減価償却だけが残って赤字が続く。中国のシール会社が標準品の一般産業向けで追い上げ、アフターサービスも取られる。統合のシナジーは出ず、重複する工場や人員の整理に費用がかかる。残るのは舶用の船尾管シールと一部の航空宇宙で、全社の営業利益はほぼゼロになる。配当は利益に関係なく維持しようとするが、赤字の年は手元の資金と資産の売却で賄うことになり、還元の合計は純利益の合計を超える。会社は事業を絞り込み、普通の部品メーカーとして残る。
- 自動車・建設機械向け:数量 4.0(対象市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア = 当社の実質出荷額(億ドル))× 価格 1.15(値段の指数(今を 1。名目。物価の 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 691 億円・営業利益 7 億円。営業利益率1.0%
- 一般産業機械向け:数量 2.5(対象市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア = 当社の実質出荷額(億ドル))× 価格 1.15(値段の指数(今を 1。名目。物価の 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 424 億円・営業利益 30 億円。営業利益率7.0%
- 半導体向け:数量 0.9(対象市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア = 当社の実質出荷額(億ドル))× 価格 1.00(値段の指数(今を 1。名目。物価の 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 135 億円・営業利益 −7 億円。営業利益率-5.0%
- 舶用:数量 1.0(対象市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア = 当社の実質出荷額(億ドル))× 価格 1.20(値段の指数(今を 1。名目。物価の 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 171 億円・営業利益 24 億円。営業利益率14.0%
- 航空宇宙:数量 0.7(対象市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア = 当社の実質出荷額(億ドル))× 価格 1.25(値段の指数(今を 1。名目。物価の 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 125 億円・営業利益 4 億円。営業利益率3.0%
倍率:利益がほぼ消える筋書きで、稼ぐ力(純利益 ÷ k)はごくわずか。純現金はなく、床は売れる資産の税後とした。PBR はこの床(約 600 億円)を今の自己資本で割った値。
確率:内燃機関向けの崩れ、半導体の不発、中国勢の台頭、統合の混乱が重なる筋書きで、起きにくいが 10 年あれば無視できない。自動車向けが売上の半分を占める以上、1 割ほどの確率は要る。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
自動車・建設機械向け
自動車と建設機械のエンジン・変速機・足回りに使うシール、バルブ、軸受などの部品。会社の最大の事業だ。
| 数量対象市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア = 当社の実質出荷額(億ドル) | 価格値段の指数(今を 1。名目。物価の 10 年 1.34 倍が中立) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 6.2 | 1.00 | 925 | 74 |
| 10 年後 中立 | 5.9 | 1.34 | 1,178 | 88 |
取り方:自動車・建機向けのシール・バルブ・軸受部品の市場を約 200 億ドルと置き、当社のシェアを約 3.1% とみた(今の売上 925 億円を 150 円で割った額)。会社は 2026/03 期の事業別の数字を細かく出していないので、2025/03 期の売上 875 億円と営業利益 56 億円に、EV 向けバルブの伸びと値上げを足して推定した。
一般産業機械向け
石油・化学・電力・水処理などのプラントで回るポンプや圧縮機のメカニカルシール、およびその交換・保守。
| 数量対象市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア = 当社の実質出荷額(億ドル) | 価格値段の指数(今を 1。名目。物価の 10 年 1.34 倍が中立) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.7 | 1.00 | 410 | 52 |
| 10 年後 中立 | 3.6 | 1.34 | 714 | 93 |
取り方:産業用メカニカルシール市場を約 47 億ドル(調査会社の 2024 年推計 約 47.6 億ドル)と置き、当社の連結売上のシェアを約 5.8% とみた。独 Burgmann との合弁 EagleBurgmann の売上は持分法で連結売上に入らないため、ここは当社単独の分だけ。2025/03 期の売上 408 億円・営業利益 54 億円が出発点。
半導体向け
半導体製造装置に組み込む真空用のシール、金属ベローズ、特殊バルブなど。新しく育てている事業で、今は赤字。
| 数量対象市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア = 当社の実質出荷額(億ドル) | 価格値段の指数(今を 1。名目。物価の 10 年 1.34 倍が中立) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.0 | 1.00 | 150 | −12 |
| 10 年後 中立 | 2.2 | 1.34 | 442 | 40 |
取り方:半導体製造装置向けの真空・ベローズ・シール類の市場を約 25 億ドルと置き、シェアを約 4% とみた。2025/03 期は売上 125 億円で営業損失 38 億円。2026/03 期は損失が約 12 億円まで縮んだ(会社説明)。つくば事業場の稼働で固定費が先に乗っているのが赤字の原因。
舶用
大型船のプロペラ軸の水漏れを防ぐ船尾管シール。1 万トン以上の中大型船向けで世界シェアは 6 割以上(会社説明)。
| 数量対象市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア = 当社の実質出荷額(億ドル) | 価格値段の指数(今を 1。名目。物価の 10 年 1.34 倍が中立) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.3 | 1.00 | 190 | 50 |
| 10 年後 中立 | 1.3 | 1.34 | 255 | 61 |
取り方:船舶向けの船尾管シールと修繕の市場を約 2.5 億ドルと置き、シェアを約 5 割とみた(大型船だけなら 6 割超)。2025/03 期は売上 180 億円・営業利益 53 億円と利益率が高く、2026/03 期もほぼ同じ水準と置いた。
航空宇宙
ロケットエンジンと航空機エンジンに使うシール、バルブ、補機部品。国産ロケットに長く納めている。
| 数量対象市場(億ドル、推定、今の値段で測った実質)× 当社シェア = 当社の実質出荷額(億ドル) | 価格値段の指数(今を 1。名目。物価の 10 年 1.34 倍が中立) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.7 | 1.00 | 100 | 8 |
| 10 年後 中立 | 1.3 | 1.34 | 255 | 23 |
取り方:航空宇宙向けのシール・バルブ・補機の市場を約 40 億ドルと置き、シェアを約 1.7% とみた。2025/03 期は売上 91 億円・営業利益 10 億円。2026/03 期は売上 100 億円強、先行投資で利益は小さい。
リスクと懸念
内燃機関の縮み
自動車・建機向けは売上の半分を占める。内燃機関のシール、バルブ、軸受は電動化で減り、EV 向けの新製品が量産・採算ともに立ち上がるのが遅れると、全社の利益が伸びない。会社は 2030 年度に次世代自動車向け 250 億円以上を目標にするが、実績はまだ小さい。
半導体への投資の回収
つくば事業場への先行投資で固定費が先に乗り、2025/03 期は半導体事業が約 38 億円の営業損失だった。2026/03 期は損失が縮んだが、今期(2027/03)も若干の赤字を見込む。半導体市況が再び悪化すれば、黒字化がさらに遅れる。
値下げ要求・関税・為替
自動車メーカーからの値下げ要求が続き、米国の関税と円高が利益を削っている。会社の値上げの効果は年 15 億円ほどで、これらに食われやすい。為替は 150 円の前提で動かしていないが、実際には業績を揺らす。
中国勢の追い上げ
標準的なメカニカルシールでは、中国の会社が低価格で参入している。一般産業向けのアフターサービスは利益率が高いだけに、ここに食い込まれると利益が減る。難しい用途ほど守りやすいが、10 年の間には技術の差が縮む。
統合の混乱と見えにくい価値
NOK との統合直後は、組織や工場の再編に費用がかかる。シナジーの数字は示されておらず、実現が遅れれば株主の期待を裏切る。統合後は NOK Group の株として値がつくので、イーグル単独の事業価値は市場で見えにくくなる。
持分法の利益への依存
営業利益と経常利益の差は約 37 億円あり、合弁などの持分法の利益が占めると見られる(内訳は未確認)。この利益は連結の営業利益に入らず、合弁相手の経営判断や為替・市況で変わる。配当を受けられるかどうかも相手次第だ。
今後の分かれ目
- 半導体向けが通期で営業黒字になり、利益率が 1 割に近づいたら
- 強気側の筋書きの重みを上げてよい。つくばの稼働率と受注の質を確認する。
- EV 向けのバルブや熱管理部品の売上が 2030 年度の目標に向けて年 2 割以上伸びたら
- 自動車向けの数量が横ばいで済む前提が固まり、強気寄りの確率を上げる。
- 自動車・建機向けの営業利益率が 5% を割り込んだら
- 値下げ要求と関税が上回っているとみて、慎重側の筋書きの重みを上げる。
- NOK Group がシナジーの金額と時期を示したら
- 購買・金型の共同化の効果を中立に上乗せする。示されないまま 2 年たてば、効果を入れない前提を続ける。
- 次期戦闘機のエンジンへの採用が決まったら
- 航空宇宙の数量の見通しを上げ、強気側の確率をわずかに上げる。
- 中国のシール会社が石油・化学プラントの高機能品でも採用を伸ばしたら
- 一般産業の価格と利益率の見通しを下げ、慎重側の確率を上げる。
見ておくもの
- 半導体向けの営業損益の黒字化の時期と、つくばの稼働率
- EV 向けバルブ・熱管理部品の売上と、内燃機関向けの減り方
- NOK Group のシナジー目標(購買・金型・拠点)の金額と実現時期
- 船尾管シールの受注と、新造船・修繕の動向
- ROE と配当・自社株買いの方針(資本コスト 8〜9% に対する水準)
倍率と資本コストの決め方
自動車・建機、一般産業、半導体、舶用、航空宇宙の 5 事業を、市場規模 × 当社シェアの数量(実質)と物価の価格指数で 10 年積み上げ、営業利益率は事業の構造から置いた。倍率は利益ベースの正当化 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g)(k 8.25% = 基本 7.5% + quality 0.75%、g 4%、残る割合 1/2)の上限に対して、中立 9.8 割、やや楽観・楽観 9.3 割に置いた。中立は ROE が k をわずかに超えるだけなので、上限と下限(1÷k)がほぼ重なり、結果として上限に近くなった。やや悲観は稼ぐ力、悲観は売れる資産の床で測り、過去や今の PER・PBR は根拠にしていない。純現金はなく、余った現金は分けていない。NOK との統合(2026/10/1 発効)は、統合前の単独の事業で評価し、株価の寄せはしていない。新リース会計(2028/03 期から)で営業利益・純負債の形が変わるが、10 年後も今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality +0.75% = 8.25%。NOK との統合の混乱や半導体の立ち上がりの遅れは k に足さず、筋書きと確率で表す。