結論
川岸工業は、ビルや鉄塔、橋に使う鉄骨を設計・製作・施工する、1906 年創業の鉄骨専業メーカーだ。筆者の結論は、今の値段はやや割高というものだ。理由は、帳簿の厚さと稼ぐ力の落差にある。
自己資本は 290 億円と、時価総額 122 億円の 2 倍以上ある。自己資本比率は 8 割を超え、借金はない。それでも ROE(自己資本利益率)は 5% 前後だ。厚い資本が、鉄骨の売掛金と工事の途中の在庫に縛られているためで、現金を除けば株主の自由になる額は小さい。
利益は 2025 年 9 月期の営業利益 19 億円から、2026 年 9 月期は 13 億円へ減る見通しだ。プレキャストコンクリートの受注が減り、工場の稼働が落ちた。
悪い会社ではない。難しい鉄骨を手がける技術と、商社系の安定株主がある。ただ、割安と呼べるほどの余地は見いだしにくい。難しい鉄骨の技術が収益に結びつくまで、株主は待たされる。値段は、堅実な会社に妥当な水準をやや上回っていると、筆者は見る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、川岸工業は「堅実だが、安く買える会社とまでは言えない」と映る。
鉄骨は、建物が建つ限り必要とされる。借金がなく、難しい工事の技術がある点は評価できる。
ただし、事業の経済性は強くない。同じ鉄骨を多くの会社が作り、値段は入札で決まる。利益率は景気で大きく振れ、資本の効率は 5% 前後と低い。厚い自己資本は、稼ぐ力に結びついていない。
資本の使い方も物足りない。稼いだ利益の 7 割を内部にためるが、ためた資本が新しい稼ぎを生んでいない。自社株買いなどの還元に踏み込めば、評価は変わる。
筆者は、中立の筋書きで 10 年後の株主の取り分が、今の時価総額に届かないと見る。悲観でも、現金と工場、運転資本が下値を支える。損をしにくいが、安全域はあまり厚くない。資本の使い方が変われば、見方も変わる。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、鉄骨を中心にした鋼構造物の設計・製作・現場の組み立てである。2025 年 9 月期の売上 242 億円のうち、大半が鉄骨と橋梁などの鋼構造物で、残りが建築用のプレキャストコンクリート(工場で作る部材)だ。セグメントは分けて開示されていない。
鉄骨は、ビルや放送局の鉄塔、鉄道橋など、板厚の厚い難しい工事を得意とする。鉄骨製造の最高位であるSグレードの認定を持つ会社だ。東京スカイツリーや国立競技場の建設にも関わった。主な顧客は、ゼネコンとデベロッパーである。
工場は首都圏の柏を中心に、山口・岡山・大阪にも拠点がある。生産能力は鉄骨で月に約 8,500 トン、プレキャストで月に約 1,500 立方メートル。2026 年は稼働率の低下が目立ち、能力を使い切れていない。
販売は、案件ごとの入札や交渉で決まり、受注残が数か月から数年先の売上になる。工事は、自社で詳細な図面を描き、部材を工場で作り、現場の高所で組み立てる流れだ。人手と大型の機械を使うため、固定費が重い。原材料の鋼材は商社を通じて仕入れ、大株主の中にも鋼材商社が並ぶ。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねしにくい強みは、難しい鉄骨を手がける技術と実績にある。厚板の溶接や大型の部材は参入が難しい。ただし、普通の建築鉄骨は多くの会社が同じ品物を作り、値段はゼネコンの入札で決まる。
利益率は景気の波が大きい。営業利益率は 2017 年 9 月期に 14.5% まで上がったが、2022 年 9 月期は 5.6%、今期は 5% 前後に落ちる。赤字の期も過去に 3 回ある。
資本の効率は低い。過去 10 年の ROE の中央値は 5.1% で、資本コストに届いていない。現金は 32 億円と手厚いが、自己資本の大半は売掛金・工事の途中の在庫・工場に投じられている。
経営は堅実で、配当性向を 3 割前後に保つ。ただし資本の効率を引き上げる明確な数値目標は見当たらない。商社系の安定株主が多く、市場の圧力は弱い。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
鉄骨の需要は、建築の着工と連動する。業界全体の鉄骨需要は 2 年連続で 400 万トンを下回る低い水準にあり、建築費の高騰で計画が先送りされる案件が増えている。10 年で見れば、人口が減る国内の新築は縮み、中立で数量は 5% ほど減るとみる。
一方、更新の需要がある。老朽化した橋や鉄塔、物流倉庫やデータセンターの需要は残り、大型で難しい工事ほど、技術のある会社に集まる。
値段は鋼材価格に左右される。中国の過剰生産が価格の天井を抑える一方、人件費と物流費は物価並みに上がる。転嫁が遅れると、利益率が圧迫される。
競争は、全国の鉄骨ファブリケーターと、橋梁大手の横河ブリッジや宮地エンジニアリング、川田テクノロジーズがある。川岸工業は、橋梁の専業ではなく建築鉄骨が中心だ。プレキャストは、工場稼働率の維持が課題で、受注の波が利益を大きく動かす。
施工の人手不足と労務費の上昇は、業界全体の利益を削る構造的な要因だ。ゼネコンが施工の安全と工期を優先する流れも、中小の鉄骨会社には負担になる。公共工事の予算が横ばいでも、更新の需要が下支えになる。
資本政策と M&A
資本政策は、配当が中心だ。配当性向は 3 割前後で、2025 年 9 月期は期中に増額した。2026 年 9 月期は減益に合わせて減配の予想を出した。自社株買いの実績は目立たず、現金は積み上がる傾向にある。
借金はなく、現金が 32 億円ある。ただし鉄骨は、鋼材を先に買い、代金は工事の進みに応じて入る。現金の大半は運転資金として必要だ。事業に要らない余った現金は、大きくないとみる。
株主構成は、鋼材商社の伊藤忠丸紅住商テクノスチールとエムエム建材が各 17% 前後、川岸興産が 5% 前後と、安定株主が厚い(数字は古い開示による)。親会社はなく、持ち合いに近い関係だ。買収の話は表には出ていない。
M&A は行っていない。株主優待は実施していない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
川岸工業の資産の厚さは、割安さの裏づけになる。自己資本は 290 億円、借金はなく、現金が 32 億円ある。時価総額 122 億円は、その 4 割ほどにすぎない。難しい鉄骨を作る会社が少ない中、老朽化した橋や鉄塔、データセンターなどの大型案件で、技術のある会社に仕事が集まる。
利益は底に近い。2026 年 9 月期の営業利益 13 億円は、プレキャストの一時的な受注減と工場稼働の低下が響いたもので、会社も通期の予想を上方修正した。受注残が積み上がる局面では、固定費の負担が薄まり、利益が急に戻りやすい。稼働が戻れば、営業利益は 2025 年 9 月期の 19 億円に回復する。
商社系の安定株主が厚く、経営は落ち着いている。資本の効率を上げる圧力が高まれば、現金の還元や自社株買いに動く可能性がある。
配当性向を 3 割から 5 割に上げるだけでも、株主の取り分は大きく変わる。取引所が資本効率の改善を求める流れも追い風になる。鉄骨の受注も、首都圏の再開発が続く間は底堅い。
慎重な見方
資産が厚く見えても、稼ぐ力は弱い。ROE は 5% 前後で、資本コストに届いていない。自己資本 290 億円の大半は、売掛金や工事の途中の在庫、工場に投じられており、株主が自由に使える額ではない。現金も運転資金として必要で、余ってはいない。
利益は減っている。2026 年 9 月期の営業利益は 13 億円と前期より 3 割減り、第 1 四半期は営業赤字だった。プレキャストの受注が減り、工場の稼働率が落ちた。鉄骨の需要も 400 万トンを割る低水準が続く。
10 年で見れば、人口が減る国内の新築は縮む。建築費の高騰で計画が止まる案件が増える中、鋼材の値上がりを転嫁できなければ、利益率は 5% を割りうる。商社系の安定株主は、還元の圧力をかけにくい。割安なまま放置される構造だ。株価が低くても、株主が動かない構造が続くかぎり、価格は評価されにくい。
加えて、プレキャスト事業は稼働率の維持が難しく、能力を持て余す期間が長引くと、減損や撤退の費用が出る恐れもある。
どちらに重みを置いたか
資産の厚さと技術には根拠がある。ただし稼ぐ力が資本コストに届かず、利益も下り坂のため、中立でも価値は今の時価総額を下回る。確率は中立 37%、やや悲観 27%、悲観 12% とし、楽観側は合計 24% にとどめた。悲観でも現金と工場が値段の下を支える。ただ、割安と言い切るには、稼ぐ力の裏づけが足りない。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/09 期)
確率で加重した株価時価総額 6,092 円168 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,556 円43 億円)。 今の値に割り戻すと 3,943 円109 億円、今との差 −11.1%、 期待の年率 +5.6%(資本コスト 7.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 11,691 円322 億円 | 2,761 円76 億円 | +225.9% | +12.5% | 867 円24 億円 |
| やや楽観 | 18% | 9,130 円251 億円 | 2,144 円59 億円 | +154.2% | +9.8% | 2,029 円56 億円 |
| 中立 | 37% | 6,848 円189 億円 | 1,671 円46 億円 | +92.1% | +6.7% | 3,152 円87 億円 |
| やや悲観 | 27% | 3,277 円90 億円 | 1,235 円34 億円 | +1.7% | +0.2% | 1,218 円34 億円 |
| 悲観 | 12% | 2,739 円75 億円 | 436 円12 億円 | −28.4% | −3.3% | 381 円10 億円 |
| 加重平均 | 100% | 6,092 円168 億円 | 1,556 円43 億円 | +72.4% | +5.6% | 7,648 円211 億円 |
今の株価時価総額 4,435 円122 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 6% 大型案件が続き、稼働が満たされて利益率が 9% 台に戻る 利益 25 億円 · PER 12.8 倍 · 株価時価総額 11,691 円322 億円
10 年後、老朽化した橋や鉄塔、データセンターの大型案件が続き、難しい厚板の鉄骨を作れる会社として受注を集める。鉄骨の数量は今より 5% 増え、工場の稼働率は 6 割から 7 割近くに上がる。値段は物価より少し速く上がり、営業利益率は 9.5% に戻る。プレキャストも、物流倉庫の需要で数量を 3 割増やし、黒字が定着する。営業利益は 33 億円、純利益は 25 億円に達する。配当は利益の 4 割に上がり、自社株買いも始まる。ただし建築需要に左右される事業であることは変わらず、ROE は 6% 台にとどまる。
- 鉄骨・橋梁(鋼構造物):数量 57.8(鋼構造物の製作量(千トン))× 価格 5.52(1 千トンあたりの売上(億円))→ 売上 319 億円・営業利益 30 億円。数量 ×1.05・単価指数 ×1.38・利益率 9.5%
- プレキャストコンクリート:数量 14.3(製作量(千立方メートル))× 価格 2.68(1 千立方メートルあたりの売上(億円))→ 売上 38 億円・営業利益 2 億円。数量 ×1.30・単価指数 ×1.34・利益率 6.0%
倍率:事業の純利益 25 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.2% が k 7.80% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.8 倍。全体の PER 12.82 倍、時価総額 322 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:老朽橋・鉄塔・データセンターなど大型案件が続き、2017 年 9 月期に近い利益率に戻る姿。過去 10 年で 9% を超えたのは 3 回だけで、10 年続くとは見にくい。
やや楽観 18% 稼働が戻り、利益率が 8% に回復 利益 20 億円 · PER 12.8 倍 · 株価時価総額 9,130 円251 億円
数量は今の水準を保ち、値段は物価並みに上がる。プレキャストは物流倉庫などで稼働が戻り、わずかな黒字になる。営業利益率は 8% に回復し、2025 年 9 月期の水準が続く。営業利益は 25 億円、純利益は 20 億円。配当性向は 3 割台後半で、現金は少しずつ積み上がる。大型の橋梁や鉄塔の案件を取れる会社の強みが生き、競合との値下げ競争から距離を置ける。成功ではあるが、過去最高の利益を超えるほどではない。ROE は 5% 近くにとどまる。会社は設備を更新しつつ、現金を少しずつ戻す。受注残は十分で、鋼材の値上がりも数か月遅れで転嫁できる。
- 鉄骨・橋梁(鋼構造物):数量 55.0(鋼構造物の製作量(千トン))× 価格 5.44(1 千トンあたりの売上(億円))→ 売上 299 億円・営業利益 24 億円。数量 ×1.00・単価指数 ×1.36・利益率 8.0%
- プレキャストコンクリート:数量 12.1(製作量(千立方メートル))× 価格 2.68(1 千立方メートルあたりの売上(億円))→ 売上 32 億円・営業利益 2 億円。数量 ×1.10・単価指数 ×1.34・利益率 4.5%
倍率:事業の純利益 20 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.0% が k 7.80% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.8 倍。全体の PER 12.82 倍、時価総額 251 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:稼働率と転嫁が回復し、2025 年 9 月期の水準が続く姿。2026 年 9 月期の減益が一時的なものだったとする落としどころ。
中立 37% 数量は小さく縮み、利益率は 6% 台で落ち着く 利益 15 億円 · PER 12.8 倍 · 株価時価総額 6,848 円189 億円
鉄骨の数量は人口の減少と建築費の高騰で 5% ほど減る。値段は物価並みに上がるが、鋼材と労務費の上昇を完全には転嫁できない。営業利益率は 6.5% で、2025 年 9 月期の 7.7% よりやや低い。プレキャストは稼働が戻らず、ほぼ収支均衡にとどまる。営業利益は 19 億円、純利益は 15 億円。配当性向は 3 割台前半を保ち、利益の残りは内部にたまる。自己資本は 380 億円近くに積み上がるが、新しい稼ぎは生まず、ROE は 4% 前後に下がる。堅実だが、株主の取り分は増えにくい姿だ。中期的に資本の効率を高める策が打たれなければ、この状態が続く。
- 鉄骨・橋梁(鋼構造物):数量 52.2(鋼構造物の製作量(千トン))× 価格 5.36(1 千トンあたりの売上(億円))→ 売上 280 億円・営業利益 18 億円。数量 ×0.95・単価指数 ×1.34・利益率 6.5%
- プレキャストコンクリート:数量 11.0(製作量(千立方メートル))× 価格 2.68(1 千立方メートルあたりの売上(億円))→ 売上 30 億円・営業利益 1 億円。数量 ×1.00・単価指数 ×1.34・利益率 3.0%
倍率:事業の純利益 15 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 3.9% が k 7.80% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.8 倍。全体の PER 12.82 倍、時価総額 188 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:新築は小さく縮み、更新の需要が補う。転嫁は遅れ気味で、利益率は直近の 6% 台にとどまるという落としどころ。
やや悲観 27% 価格競争で利益率が 4% 台に落ち、稼働も下がる 利益 8 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 3,277 円90 億円
新築が縮み、建築費の高騰で計画が先送りされる。鉄骨の数量は 15% 減り、値段も物価に追いつかない。工場の稼働率は 5 割を割り、固定費が重くのしかかる。営業利益率は 4.5% に下がり、プレキャストは慢性的な赤字になる。営業利益は 11 億円、純利益は 8 億円まで減る。会社は配当を縮め、現金は運転資金で目減りする。事業は残るが、株主の取り分は細る。構造的に負けた姿で、優良な会社とは言えなくなる。大手ゼネコンとの取引は続くが、価格交渉の力は弱まる。受注の確保を優先して利益を削る局面が長引く。人手不足で労務費も上がり、利益率の回復は見込みにくい。
- 鉄骨・橋梁(鋼構造物):数量 46.8(鋼構造物の製作量(千トン))× 価格 5.12(1 千トンあたりの売上(億円))→ 売上 239 億円・営業利益 11 億円。数量 ×0.85・単価指数 ×1.28・利益率 4.5%
- プレキャストコンクリート:数量 9.3(製作量(千立方メートル))× 価格 2.50(1 千立方メートルあたりの売上(億円))→ 売上 23 億円・営業利益 0 億円。数量 ×0.85・単価指数 ×1.25・利益率 0.0%
倍率:稼ぐ力(純利益 8 億円 ÷ k)は約 100 億円で、床の売れる資産(約 100 億円)と並ぶ。今の自己資本 290 億円に 0.30 倍を掛けて 90 億円に置いた。自己資本の積み上げには掛けていない。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PBR 0.311 倍・時価総額 90 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:建築鉄骨の価格競争が激しくなり、稼働率が下がる姿。直近の営業利益の減少が示す方向と一致するため、中立に次ぐ厚みを置いた。
悲観 12% 受注が干上がり、赤字と減損で資産が目減りする 利益 −2 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 2,739 円75 億円
建築の着工が急減し、鋼材の高騰も転嫁できない。鉄骨の数量は 3 分の 1 減り、受注残が細る。工場の稼働は 4 割に落ち、固定費を賄えない。2012〜2013 年のような赤字が再び起き、営業損失は 2 億円を超える。プレキャストは撤退を迫られ、工場の減損が出る。配当は大きく縮み、自己資本も痩せる。借金はなく、現金と売掛金の回収が会社を守る。それでも株主が受け取れる額は、運転資本の目減りと減損で、自己資本の帳簿の 3 割以下に落ち込む。ただし、2013 年の赤字のあとも会社は存続し、鉄骨の需要が戻れば立ち直った実績がある。
- 鉄骨・橋梁(鋼構造物):数量 35.8(鋼構造物の製作量(千トン))× 価格 4.60(1 千トンあたりの売上(億円))→ 売上 164 億円・営業利益 −2 億円。数量 ×0.65・単価指数 ×1.15・利益率 -1.0%
- プレキャストコンクリート:数量 6.6(製作量(千立方メートル))× 価格 2.20(1 千立方メートルあたりの売上(億円))→ 売上 15 億円・営業利益 −1 億円。数量 ×0.60・単価指数 ×1.10・利益率 -5.0%
倍率:営業赤字なので PBR で置く。床は現金の戻り分・売掛金と在庫の回収・土地と工場の売却を合わせた約 100 億円。今の自己資本 290 億円に 0.26 倍を掛けて 75 億円に置いた。清算されない限り現金の使い道は少数株主が決められないため、床の一部だけを数える。
確率:建築需要の急減と鋼材高が重なる姿。2011〜2013 年の 3 期連続赤字(最悪の営業利益率 −11.9%)の実例があるため、悲観の確率は 5% を超えて置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
鉄骨・橋梁(鋼構造物)
ビル・鉄塔・体育館・橋などの鉄骨の設計・製作・現場の組み立て。難しい厚板の工事を得意とする。
| 数量鋼構造物の製作量(千トン) | 価格1 千トンあたりの売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 55.0 | 4.00 | 220 | 18 |
| 10 年後 中立 | 52.2 | 5.36 | 280 | 18 |
取り方:会社はセグメントを分けて開示していない。売上 242 億円のうち、プレキャスト以外を約 9 割の 220 億円と推定し、設計・組み立てを含む平均単価を 1 トンあたり約 40 万円(推定)として製作量を約 5.5 万トンとした。月産 8,500 トン(年約 10 万トン)の能力に対して稼働は約 55% の計算。数量は製作量、価格は 1 トンあたりの売上で物価の分を持つ。推定である。
プレキャストコンクリート
工場で作る建築用のコンクリート部材。倉庫やマンションなどに使う。
| 数量製作量(千立方メートル) | 価格1 千立方メートルあたりの売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 11.0 | 2.00 | 22 | 1 |
| 10 年後 中立 | 11.0 | 2.68 | 30 | 1 |
取り方:月産 1,500 立方メートル(年約 1.8 万立方メートル)の能力に対して稼働を約 6 割の 1.1 万立方メートル、1 立方メートルあたり約 20 万円(推定)で売上 22 億円と置いた。会社の開示にセグメントの内訳はない。2026 年 9 月期は受注減で赤字になる見通し。推定である。
リスクと懸念
新築需要の縮小と建築費の高騰
業界の鉄骨需要は 2 年連続で 400 万トンを下回っている。建築費の高騰で計画が先送りされる案件が増えれば、受注残が細り、工場の稼働率が下がる。固定費が重く、利益が大きく振れる。
プレキャストの稼働率
プレキャストは受注の波が大きい。2026 年 9 月期の第 1 四半期は、受注減と稼働の低下で営業赤字になった。能力を使い切れないと、全社の利益を押し下げる。
鋼材価格・労務費の転嫁遅れ
鋼材と人件費の上昇を、受注済みの案件の値段に転嫁するのは難しい。入札で決まる値段のため、上がった費用の一部を会社が負う局面がある。
施工の人手不足
現場で鉄骨を組み立てる職人が減り、工期の遅れと労務費の上昇につながる。大型案件ほど、人手の確保が採算を左右する。
資本効率の低さと放置
ROE は 5% 前後で、資本コストに届かない。安定株主が厚く、還元や資本効率を求める圧力が弱い。割安なまま放置されやすい。
今後の分かれ目
- 営業利益が 2 年続けて 18 億円を超える
- 稼働率の回復と転嫁が進んだ証拠になる。楽観側の確率を上げてよい。
- 自社株買いや配当性向の引き上げが示される
- 資本の使い方が変わる。余った現金の戻り方を見直し、価値の見方を引き上げる。
- プレキャストの赤字が 2 期続く
- 事業の縮小や撤退の可能性が高まる。やや悲観の確率を上げる。
- 老朽化した橋や鉄塔、データセンター向けの大型案件の受注が続く
- 難しい鉄骨の技術が効いている印。中立の数量を上げる余地が出る。
- 大株主の商社の持ち株が動く、または買収提案が出る
- 資産の厚さが値付けに反映される。提案の価格が事業の価値を映しているかを別に確かめる。
見ておくもの
- 鉄骨の受注残と受注単価
- プレキャストの稼働率と損益
- 営業利益率(8% 台に戻るか、5% を割るか)
- 鋼材価格と労務費の転嫁の進み具合
- 配当・自社株買いなど資本政策の変化
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価・PER を見ず、鉄骨とプレキャストを数量×価格で積んだ利益から置いた。資本コストは基本 7.5% に循環 +0.5%・値決め +0.3% を足した 8.3%。中立の ROE は約 3.9% で k を大きく下回り、式の PER は約 8.0 倍。やや悲観・悲観は構造的な負けとして、稼ぐ力と売れる資産の税後を床にし、自己資本の積み上げや過去の PBR の底は根拠にしていない。中立の営業利益率は 6.2% で、過去 12 年の最高 14.5% より低い。家賃を営業費用に入れた形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.5→12.82 倍・やや楽観 PER 9.5→12.82 倍・中立 PER 8→12.82 倍・やや悲観 PBR 0.3→0.311 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。