結論
東プレは、車の骨格を打ち抜いて曲げるプレス部品と、トラックの冷凍車を二本柱とする会社だ。売上の約 8 割はプレスで、日産・トヨタ・ホンダの 3 社が売上の約 7 割を占める。
筆者の結論は、本質価値は今の値段をやや下回る、である。財務は堅く、潰れる会社ではない。ただ、稼ぐ力が資本コストに届かない。自己資本が増えても、株主の取り分はそれほど増えない。
鍵を握るのは日産だ。最大の顧客で、売上の 35% を占める。国内工場の再編が進むなか、東プレの国内受注は今のままでは済まない。北米の増設投資と、利益率の高い冷凍車で穴を埋められるかが、10 年の分かれ目になる。
救いは冷凍車の存在だ。運転手不足と冷凍食品の増加が追い風で、全社の利益の 3 分の 1 強を稼ぐ。ここが育てば、全体の質は上向く。
見た目の割安さには注意がいる。時価総額は自己資本を大きく下回るが、稼ぐ力が資本コストを下回る会社の帳簿は、額面どおりの価値を持たない。筆者は、安さの理由が事業の質にあると見ている。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず「10 年後にこの会社が今より強いか」を問う。答えは微妙だ。プレス部品は車がある限り要るが、値段を決めるのは顧客であり、10 年の間に日産が小さくなる可能性が高い。
次に、株主のものになる利益を見る。薄い利益率の事業で、売上の 7 割が 3 社に依存する。しかも、稼ぐ力に比べて自己資本が厚く、ためた利益が事業の中で眠っている。これでは経営者に預ける資本の見返りは小さい。
良い点は財務の堅さと、冷凍車という本物の強みだ。経営が資本を意識し始めたことも評価できる。
払う値段の安全域は、今の値段では薄い。悲観の筋書きでも財産は残るが、中立でも今の値段をやや下回る。買ってよいのは、利益の質が上向く確かな兆しが見えた時だろう。
最後に、経営者の資本の使い方だ。自己資本の厚さに見合う稼ぎを出せていない会社が、設備に追加でお金を入れる。そのお金が資本コストを上回る見返りを生むか。北米の増設は、その試金石になる。
何で稼ぐ会社か
東プレの稼ぎは 3 つに分かれる。売上の 78% を占めるプレス関連製品、17% の定温物流関連、残る 5% の空調機器・電子機器だ。
プレスは、車の骨格やボディを形づくる鋼板部品である。売上の大半を日産(35%)、トヨタ(17%)、ホンダ(16%)の 3 社が占める。国内のほか、オハイオ州とテネシー州の工場が北米のトヨタ・ホンダ・日産に納める。利益率は 5% 台と薄く、値段は顧客が決める。
定温物流は、冷凍車の製造・販売と、冷凍冷蔵倉庫やコンテナまで含めた事業だ。冷凍機とコンテナを一体で開発できる点が特色で、小型・中型の冷凍車に強い。売上は前の期に 13% 伸び、利益率は 15% 近い。利益ではプレスの 6 割近くを、はるかに小さい売上で稼ぐ。
その他は、住宅向けの全館空調とビル空調、キーボード「REALFORCE」やタッチパネルなどの電子機器だ。キーボードは知名度こそ高いが、全社の売上に占める割合はわずかである。
つまり、東プレは自動車の生産台数に利益が連動する会社であり、冷凍車が景気や自動車とは別の動きで下支えする構図だ。顧客の偏りと、事業の組み合わせの両方を見ないと、会社の姿は読み誤る。
優良さと弱いところ
東プレは、規模で勝つ会社ではなく、取引先に必要とされて生きてきた会社だ。プレスは数量を取れても、値段を決める力は弱い。日産・トヨタ・ホンダのどこかが仕入れ先を絞れば、そのまま受注が減る。
堀、つまり他社がまねできない強みは、冷凍車に最も強い。冷凍機とコンテナの一体開発、全国の販売・整備網、物流センターまで手がける総合力で、利益率を 15% 近くに保っている。ただし全社の稼ぎに占める割合は 3 分の 1 強にとどまる。
資本効率は低い。自己資本利益率は過去 10 年の中央値で 7.7% で、資本コストを下回る年が多い。自己資本比率は 62% と厚く、純現金もあるが、それは安心材料であって稼ぐ力ではない。
経営は資本の使い方を見直し始めている。配当を 2 年で倍近くに増やし、自社株買いも入れ、自己資本利益率 10% 以上を 2030 年度の目標に掲げた。筆者は、この姿勢を評価する。ただし、掲げた目標が達成された年は少ない点を見ておく必要がある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
自動車部品のプレス事業は、国内の自動車生産がゆるやかに縮むなかで、顧客の再編に左右される。人口が減り、国内の新車需要は細る。日産は追浜工場を 2027 年度末に閉め、生産を九州に移す。関東の部品会社には逆風で、東プレも例外ではないと筆者は見る。
北米は別の風景だ。トヨタ・ホンダ・日産が現地生産を強めており、東プレはオハイオ・テネシーの工場に約 200 億円を投じて増設する。ただし電気自動車の販売が減速し、関税も重いため、需要の読みは難しい。車体を鋳造で一体成形する技術が広がれば、プレス部品の点数そのものが減る。これは長期の脅威だ。
冷凍車は、運転手不足と物流の効率化、冷凍食品や医薬品の輸送増で、数量の見通しが堅い。競合は日本フルハーフなどの架装メーカーで、冷凍機はデンソーや菱重コールドチェーンなどが供給する。東プレは冷凍機から車体まで自社で手がける点で差がある。
空調はビル向けが工事の延期で伸び悩み、住宅向けの全館空調が支える。電子機器は、キーボードの国内販売が減る一方、タッチパネルの受託が増えている。
資本政策と M&A
資本の使い方は、守りから攻めに動き始めている。配当は 2 年で倍近くに増え、自社株買いも 2024 年から継続している。中計では、3 年で約 100 億円規模の総還元強化と、配当性向の目標を掲げた。自己資本比率が 6 割を超え、純現金もあるため、さらに還元を厚くする余地はある。
一方で、北米の増設に約 200 億円を投じる。投資の見返りは、日産とトヨタ・ホンダの北米生産が順調に回るかにかかっている。
大型の M&A は目立たない。kabufu の推計では、10 年以内に買収の対象になる確率は 20% とされる。取引先持株会と生命保険会社が上位株主に並び、安定株主が厚い。外部からの買収や再編が動き出す姿は、今のところ見えにくい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
冷凍車という成長事業があり、全社の利益の 3 分の 1 強を稼ぐ。運転手不足で台数は伸び、倉庫・コンテナを海外に広げる余地もある。プレスも、北米の増設が実れば数量が戻る。電気自動車は高強度鋼板やバッテリー保護構造を必要とし、1 台あたりの部品が増える。
日産の再建が成功すれば、国内の受注が戻るだけでなく、北米の日産向けも追い風になる。会社が 2026 年度の目標に掲げたのは自己資本利益率 8〜10% で、達成できれば評価は大きく変わる。
財務は堅い。自己資本比率は 62% で、純現金も 168 億円ある。配当と自社株買いは増えており、中計は還元の強化を明言している。PBR が 0.5 倍前後という水準は、会社自身が改善を約束している状態でもある。
北米では、トヨタ・ホンダ・日産の 3 社に納める体制が整った。複数の顧客に分散しているので、1 社が崩れても他でカバーできる。
中計の最終年度である 2026 年度が過ぎれば、次の計画で目標が引き上げられる。経営が資本効率を掲げ続ける限り、利益の質は少しずつ上向く。これまでの低い評価が、見直される余地は十分にある。
慎重な見方
最大の顧客である日産が、売上の 35% を占める。同社は国内工場を閉め、生産を九州に移す。関東に工場を持つ部品会社の受注は、確実に減る。構造改革が成功しても、日産が昔の規模に戻る保証はない。
プレスの利益率は 5% 台で、しかも値段を顧客に決められる。材料費と人件費が上がっても、転嫁は遅れる。北米の増設投資 200 億円は、電気自動車の販売減速と関税で、回収の道筋が曖昧になっている。
さらに、車体を鋳造で一体成形するギガキャストが広がれば、プレス部品の点数そのものが減る。電動化が部品を増やすとは限らない。
冷凍車は優れた事業だが、全社の利益の 3 分の 1 強にとどまる。残りの大半を稼ぐプレスの質が変わらない限り、全体の自己資本利益率は資本コストに届かない。目標を掲げながら達成が少ないという実績が、それを物語っている。
最後に、自己資本の厚さは強みではなく重荷になりうる。稼ぐ力に比べて資本を抱え込んでいるため、増配や自社株買いで還元しても、自己資本利益率の水準は大きく変わらない。
どちらに重みを置いたか
どちらも根拠はあるが、慎重な見方のほうが筋が通る。冷凍車の強みは本物だが、全体の 8 割近くを占めるプレスが、日産依存と薄い利益率という構造を変えるのは難しい。ここ数年の自己資本利益率が資本コストに届いていないことも重い。確率は中立に最も厚く置いたうえで、日産の縮小が現実に進んでいることを重く見て、やや悲観に 28%、悲観に 12% を割り当てた。強気の筋書きは、成功すれば利益が 2 倍近くになるが、3 つの前提が揃う必要があり 6% にとどめた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 5,859 円2,834 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,723 円833 億円)。 今の値に割り戻すと 3,886 円1,880 億円、今との差 +18.7%、 期待の年率 +8.8%(資本コスト 8.0%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 10,835 円5,241 億円 | 2,865 円1,386 億円 | +318.3% | +15.4% | 822 円398 億円 |
| やや楽観 | 16% | 8,686 円4,202 億円 | 2,404 円1,163 億円 | +238.6% | +13.0% | 1,775 円858 億円 |
| 中立 | 38% | 6,848 円3,312 億円 | 1,929 円933 億円 | +168.0% | +10.4% | 3,335 円1,613 億円 |
| やや悲観 | 28% | 3,482 円1,684 億円 | 1,325 円641 億円 | +46.8% | +3.9% | 1,346 円651 億円 |
| 悲観 | 12% | 2,014 円974 億円 | 517 円250 億円 | −22.7% | −2.5% | 304 円147 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,859 円2,834 億円 | 1,723 円833 億円 | +131.5% | +8.8% | 7,581 円3,667 億円 |
今の株価時価総額 3,275 円1,584 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 6% 日産が持ち直し、北米と冷凍車が同時に伸びる 利益 369 億円 · PER 13.9 倍 · 株価時価総額 10,835 円5,241 億円
日産が再建に成功し、東プレは同社向けの国内・北米の受注を守りきる。北米のオハイオ・テネシー両工場は増設投資が実り、高強度鋼板やバッテリー保護構造など、電気自動車ほど 1 台あたりの部品が増える流れに乗る。プレスの価格は自動車会社に押されがちだが、軽量化の提案力で物価並みを確保する。
冷凍車は、物流の効率化と冷凍食品・医薬品の輸送増で数量が伸び、冷凍冷蔵倉庫とコンテナがインドネシア経由で海外へ広がる。空調と電子機器も安定して伸びる。
全社の営業利益率は 8% 台に乗り、自己資本利益率は資本コストを超える。配当と自社株買いも厚くなり、「安いだけの自動車部品会社」という見られ方が変わる 10 年になる。
- プレス関連製品:数量 540(顧客 3 社向けの搭載車(万台相当、推定))× 価格 8.33(1 万台相当あたり売上(億円・名目))→ 売上 4,498 億円・営業利益 306 億円。北米の増設が稼働、利益率 6.8%
- 定温物流関連(冷凍車ほか):数量 15.0(冷凍車換算の販売台数(千台、推定))× 価格 77(1 千台あたり売上(億円・名目、倉庫・コンテナを含む))→ 売上 1,153 億円・営業利益 173 億円。冷凍車と倉庫・コンテナの増加、利益率 15%
- 空調機器・電子機器ほか:数量 36.0(空調施工・電子機器の出荷件数相当(千件、推定))× 価格 7.00(1 千件あたり売上(億円・名目))→ 売上 252 億円・営業利益 25 億円。空調・電子機器が堅調、利益率 10%
倍率:事業の純利益 368 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.0% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)68 億円。全体の PER 13.88 倍、時価総額 5,176 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:日産の再建、北米の電動化需要、冷凍車の増加が 10 年のあいだ重なる必要があり、3 つ揃う確率は低い。成功すれば利益は今の 2 倍近くになるが、5% は割らない。
やや楽観 16% 北米が支え、日産の悪化は食い止める 利益 299 億円 · PER 13.1 倍 · 株価時価総額 8,686 円4,202 億円
日産の国内生産は縮むが、北米の受注と、トヨタ・ホンダ向けの増加でおおむね埋め合わせる。プレスの数量は今よりわずかに増え、価格は物価をやや下回る伸びにとどまる。完成車メーカーの値下げ要請は続くが、材料費の上昇分は時間差で転嫁できる。
冷凍車は小型から中型を中心に台数が伸び、定温物流は全社でいちばん利益率の高い事業として存在感を増す。空調はビル向けの落ち込みから戻り、電子機器はタッチパネルの受託が下支えする。
会社が掲げる自己資本利益率 8〜10% の目標には届かないが、資本コストの近くまでは上がる。配当は性向 30% 前後を守り、自社株買いは小粒で続く。
- プレス関連製品:数量 510(顧客 3 社向けの搭載車(万台相当、推定))× 価格 8.03(1 万台相当あたり売上(億円・名目))→ 売上 4,095 億円・営業利益 246 億円。北米の増加が国内の減少を上回る、利益率 6.0%
- 定温物流関連(冷凍車ほか):数量 13.8(冷凍車換算の販売台数(千台、推定))× 価格 75(1 千台あたり売上(億円・名目、倉庫・コンテナを含む))→ 売上 1,038 億円・営業利益 147 億円。冷凍車の台数増、利益率 14.2%
- 空調機器・電子機器ほか:数量 34.8(空調施工・電子機器の出荷件数相当(千件、推定))× 価格 6.85(1 千件あたり売上(億円・名目))→ 売上 238 億円・営業利益 21 億円。空調・電子機器とも伸びる、利益率 9%
倍率:事業の純利益 298 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.8% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)68 億円。全体の PER 13.09 倍、時価総額 3,969 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:北米の増設が計画どおり回り、冷凍車が堅調という「会社の計画どおり」に近い筋書き。日産の悪化が止まる前提は置くが、再建成功までは織り込まない。
中立 38% 日産の縮小を北米と冷凍車で埋める、平凡な10年 利益 229 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 6,848 円3,312 億円
自動車の数量は国内で細り、北米で増える。差し引きで今より 4% ほど減る。日産向けの受注は、国内工場の再編で少しずつ減っていく。プレスの価格は、材料費と人件費の上昇を転嫁しきれず、物価より小さい伸びにとどまる。利益率は 5% ほどで、ここ数年の水準が続く。
冷凍車は、運転手不足への対応で台数が緩やかに増え、利益率は 13% を保つ。定温物流が全社の利益の 4 割近くを稼ぐ姿になる。
全体の売上は物価並みに増えるが、利益の質は変わらない。自己資本利益率は 6% 台で資本コストに届かず、評価は「堅実だが割高にならない会社」に落ち着く。自己資本は積み上がるが、その上積みに高い値段はつかない。
- プレス関連製品:数量 480(顧客 3 社向けの搭載車(万台相当、推定))× 価格 7.74(1 万台相当あたり売上(億円・名目))→ 売上 3,715 億円・営業利益 186 億円。国内減・北米増で数量は微減、利益率 5%
- 定温物流関連(冷凍車ほか):数量 12.6(冷凍車換算の販売台数(千台、推定))× 価格 74(1 千台あたり売上(億円・名目、倉庫・コンテナを含む))→ 売上 927 億円・営業利益 121 億円。冷凍車は緩やかに増加、利益率 13%
- 空調機器・電子機器ほか:数量 33.8(空調施工・電子機器の出荷件数相当(千件、推定))× 価格 6.70(1 千件あたり売上(億円・名目))→ 売上 226 億円・営業利益 18 億円。物価並みの伸び、利益率 8%
倍率:事業の純利益 228 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.3% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)68 億円。全体の PER 12.5 倍、時価総額 2,919 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:日産依存・薄い利益率・北米の電動化の遅れという懸念と、冷凍車の好調・財務の堅さという強みが釣り合う筋書き。過去 10 年の利益率の動きに最も近く、確率を最も厚くした。
やや悲観 28% 日産の縮小が響き、北米も伸びない 利益 135 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 3,482 円1,684 億円
日産の国内生産が縮み、東プレの国内プレスの数量は 1 割以上減る。固定費の重い設備が余り、稼働率の低下が利益を削る。北米も電気自動車の需要が伸びず、増設した工場の償却が重くなる。プレスの利益率は 3% 台に落ちる。
冷凍車は健闘するが、景気後退局面では運送会社の設備投資が先送りされ、台数の伸びは止まる。空調・電子機器も伸びない。
全体の営業利益は今の 7 割ほどに減り、自己資本利益率は 4% 前後になる。配当は守るが、自社株買いは止まる。
経営は、国内工場の統廃合と人員の再配置を進めて固定費を削る。ただし、その効果は縮む数量に追いつかず、利益の回復は鈍いままとなる。
- プレス関連製品:数量 430(顧客 3 社向けの搭載車(万台相当、推定))× 価格 7.26(1 万台相当あたり売上(億円・名目))→ 売上 3,122 億円・営業利益 100 億円。日産向けの減少、稼働率の低下、利益率 3.2%
- 定温物流関連(冷凍車ほか):数量 11.8(冷凍車換算の販売台数(千台、推定))× 価格 70(1 千台あたり売上(億円・名目、倉庫・コンテナを含む))→ 売上 829 億円・営業利益 91 億円。冷凍車は横ばい、利益率 11%
- 空調機器・電子機器ほか:数量 32.0(空調施工・電子機器の出荷件数相当(千件、推定))× 価格 6.30(1 千件あたり売上(億円・名目))→ 売上 202 億円・営業利益 12 億円。低調、利益率 6%
倍率:資本コスト 8%。ROE 4.0% が k 以下なので PER の上限は 1÷k=11.8 倍で、その約 72% の 8.5 倍。稼ぐ力が落ち、純現金と売れる資産が支える水準まで。 持ち合い株の含み益(評価差額金68億円×戻り方0.5)を余り資産として足している。
確率:日産の国内工場閉鎖が現実に進み、北米も EV 需要の鈍化と関税で伸びない筋書き。日産向けが 35% を超える偏りを考えると、中立に次ぐ確率に置くのが自然。
悲観 12% 主要顧客を失い、プレス部品が構造的に縮む 利益 42 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 2,014 円974 億円
日産が大幅に縮小するか他社に吸収され、同社向けの国内・北米の受注が半分近くに減る。さらに、車体を鋳造で一体成形する技術が広がり、プレスと溶接で組む部品の点数が減る。数量は 4 割落ち、価格も押され、プレス事業はほぼ利益が出なくなる。
冷凍車は、運送業界の再編と景気後退で伸びが止まり、利益率は 8% に下がる。空調と電子機器も小さな黒字にとどまる。
工場の減損を計上し、人員と設備を整理する。株主に残るのは、現金と売れる資産だ。配当は絞られるが、財務が堅いので無配までは行かない。
北米工場の稼働率も落ち、増設投資の一部は回収できないまま残る。株主にとっては、事業の価値より、手元の資産の価値が評価の中心になる 10 年だ。
- プレス関連製品:数量 300(顧客 3 社向けの搭載車(万台相当、推定))× 価格 6.25(1 万台相当あたり売上(億円・名目))→ 売上 1,875 億円・営業利益 9 億円。顧客喪失・一体成形で数量 4 割減、利益率 0.5%
- 定温物流関連(冷凍車ほか):数量 10.5(冷凍車換算の販売台数(千台、推定))× 価格 66(1 千台あたり売上(億円・名目、倉庫・コンテナを含む))→ 売上 692 億円・営業利益 55 億円。冷凍車の伸び止まり、利益率 8%
- 空調機器・電子機器ほか:数量 28.0(空調施工・電子機器の出荷件数相当(千件、推定))× 価格 5.80(1 千件あたり売上(億円・名目))→ 売上 162 億円・営業利益 5 億円。小さな黒字、利益率 3%
倍率:構造的に稼ぐ力が落ち、純利益は 42 億円で利益では測れない。稼ぐ力(純利益÷k)は約 500 億円で、売れる資産の約 970 億円を下回るため、今の自己資本 2,435 億円の 40% にあたる資産の価値で測る。
確率:日産の経営がさらに悪化する可能性と、ギガキャストなど車体の作り方の変化が重なる最悪の筋書き。どちらも実際に起きている動きなので、10 年では無視できない確率を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
プレス関連製品
車の骨格・ボディを形づくる鋼板プレス部品。日産・トヨタ・ホンダ向けが大半。
| 数量顧客 3 社向けの搭載車(万台相当、推定) | 価格1 万台相当あたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 500 | 5.95 | 2,975 | 167 |
| 10 年後 中立 | 480 | 7.74 | 3,715 | 186 |
取り方:プレス関連の売上 2,975 億円を、1 台あたり約 6 万円のプレス部品の納入(推定)で割り、搭載車を約 500 万台相当と置いた。自動車会社が公表する売上高の内訳ではないため、台数は推定。国内の生産減と北米の増加は数量側、材料費の転嫁は価格側に入れる。
定温物流関連(冷凍車ほか)
冷凍車の製造・販売に加え、冷凍冷蔵倉庫・コンテナまで手がける事業。
| 数量冷凍車換算の販売台数(千台、推定) | 価格1 千台あたり売上(億円・名目、倉庫・コンテナを含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 12.0 | 55 | 659 | 98 |
| 10 年後 中立 | 12.6 | 74 | 927 | 121 |
取り方:定温物流の売上 659 億円を、1 台あたり約 550 万円(冷凍機・車体・倉庫・コンテナを含む平均、推定)で割り、冷凍車換算 1.2 万台と置いた。販売台数は開示がないため推定。物流需要と運転手不足の追い風は数量側、物価上昇は価格側に入れる。
空調機器・電子機器ほか
住宅・ビルの空調、キーボード「REALFORCE」・タッチパネルなどの電子機器、輸送。
| 数量空調施工・電子機器の出荷件数相当(千件、推定) | 価格1 千件あたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 33.8 | 5.00 | 169 | 16 |
| 10 年後 中立 | 33.8 | 6.70 | 226 | 18 |
取り方:その他の売上 169 億円を、1 件あたり約 500 万円(住宅用・ビル用・電子機器の平均、推定)で割り、3.38 万件相当と置いた。空調と電子機器の個別の金額は開示されないため推定。
リスクと懸念
日産への依存
日産は売上の 35% を占める最大の顧客だ。国内工場の閉鎖と九州への移管で、関東の取引先の受注は減る。経営再建が長引けば、東プレの稼働率が下がり、固定費の重さが利益を削る。
薄い利益率と価格の押し下げ
プレスの営業利益率は 5% 台で、値段は顧客が決める。材料費と人件費が上がっても転嫁が遅れる年が続けば、利益はさらに薄くなる。数量が横ばいでも、利益は減りうる。
北米の投資回収
オハイオ・テネシーの増設に約 200 億円を投じる。電気自動車の販売が鈍り、関税も重いなか、顧客の北米生産が計画を下回れば、新しい設備の償却だけが重く残る。
車体の作り方の変化
鋳造で車体を一体成形するギガキャストが広がれば、プレス部品の点数が減る。電動化が部品の需要を増やすという前提が、構造的に崩れるおそれがある。
冷凍車の景気連動
冷凍車は運送会社の設備投資に左右され、景気が悪化すれば台数が落ちる。全社の利益の 3 分の 1 強を稼ぐ柱だけに、ここが崩れると全体の質が悪化する。
目標が何度も未達
自己資本利益率の目標を過去の中計でも掲げながら、達成した年は少ない。資本効率の改善が口先にとどまれば、自己資本が増えるだけで、株主の取り分は増えない。
今後の分かれ目
- 日産が国内外の生産計画を引き上げ、再建が前進したら
- 数量の前提を上げ、やや楽観側に確率を寄せる。
- 北米の増設工場が計画どおり稼働し、利益率が上がったら
- プレスの利益率の前提を上方修正し、中立の筋書きの利益を見直す。
- 日産の国内工場閉鎖が計画より前倒しされたら
- 国内の数量前提を下げ、やや悲観側に確率を寄せる。
- 冷凍車の受注残が積み上がり、定温物流の利益率が 15% を超えて定着したら
- 全体の利益の質が上向いたと見て、倍率の置き方を上げてよい。
- 自己資本利益率 10% の目標が前倒しで達成されたら
- 資本効率の改善が本物と判断し、中立の ROE の前提を引き上げる。
- ギガキャストを採用した新型車が顧客の主力車種に広がったら
- プレス部品の数量前提を下げ、悲観側の確率を上げる。
見ておくもの
- 日産の国内・北米の生産計画と、東プレ向け受注の動き
- プレス事業の営業利益率(5% 台を維持できるか)
- 定温物流の営業利益率と冷凍車の受注残
- 北米工場の稼働率と償却の負担
- 自己資本利益率の推移と、自社株買いの継続
倍率と資本コストの決め方
数量は顧客 3 社向けの搭載車、冷凍車の台数、空調・電子機器の件数の推定で積み、物価の分は価格の欄に入れた。プレスの価格は材料費の転嫁が遅れる点から、物価の伸びを下回るよう置いた。倍率は資本コスト 8% と事業の ROE から式で出した上限を基準にした。ROE が k を下回る筋書きは、上限の 7〜8.5 割に置いた。今の株価・今の PER・過去の PBR は使っていない。10 年後の数字は、リース会計の新基準が適用される前と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。 持ち合い株の含み益(評価差額金68億円)は戻り方0.5で余り資産に足した。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.5→13.88 倍・やや楽観 PER 9.8→13.09 倍・中立 PER 8.8→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.0% を足した 8.5%。日本発條(5991)は HDD の代替リスクで寿命+0.5 としたが、東プレは車体の骨格と冷凍車が主力で寿命は 0 とした。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 8.00%。