結論
天龍製鋸は、超硬の丸鋸(チップソー)を作る静岡の専業メーカーである。住宅の資材、金属、製材木工向けの3品種を、日本・中国・タイなどで作る。連結売上は135億円、自己資本比率は91%で、借金はない。
筆者の結論は、事業の稼ぐ力に対して資産が厚く、値段はやや割高、というものだ。営業利益は17億円、ROE(自己資本利益率)は3.9%で資本コストに届かない。一方、時価総額200億円に対し、現預金が71億円、投資有価証券が124億円ある。この資産が値段を下支えしている。
2026年8月6日、会社は固定資産の譲渡で特別損失を出し、2027年3月期の純利益予想を14.8億円から6.7億円に下げた。売上と営業利益の予想は変えておらず、本業の崩れではない。ただし、資産を簿価より安く売った事実は、帳簿の価値を額面で見てはいけない合図でもある。
10年後の中立は、営業利益24億円、純利益19億円ほど。物価の分だけ数字はふくらむが、ROEは5〜6%で資本コストに届かない。配当性向は5割を超えるが、蓄えた現金と持ち合い株は積み上がり、それを使う道は見えていない。
見るべきは三つだ。主要顧客のマキタへの依存、海外工場の稼働、蓄えた現金と持ち合い株を株主に戻すか。いずれも利益の数字だけでは測れない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見ると、天龍製鋸は、堅い会社だが、資本を賢く使っているとは言いにくい。問いは三つある。10年後も事業は残り強いか。稼いだお金のうち、株主が自由に使えるのはいくらか。経営者は資本を賢く使うか。
事業は残る。木材や金属を切る刃は摩耗する限り買い替えが続く。ただ、国内の住宅は縮み、大口顧客に2割を預けているため、強くなるとは言い切れない。
稼ぐ力は中位だ。10年後の中立でも純利益は19億円ほどで、自己資本は460億円に届く。ROEは5〜6%。減価償却は年9億円ほどと推定するが、更新投資は物価で高くなり、会計の利益ほど現金は残らない。2026年から2028年は本社の建替えもある。
資本配分は、評価と不安が半々だ。配当性向を5割に上げ、自社株買いも実施した。その一方、投資有価証券は増え続け、持ち合い株の売却は進んでいない。8月の固定資産の譲渡は、簿価より安い値段で手放した。
安全域を測る。時価総額の7割強は、現預金と投資有価証券で説明がつく。倒れにくい。しかし、持ち合い株を売っても現金で株主に戻る保証はなく、事業の値段は小さいまま、安全域は資産の側にある。
何で稼ぐ会社か
天龍製鋸は1913年創業の鋸メーカーで、今は超硬チップを刃先に付けた丸鋸(チップソー)が中心だ。建築の木材を切る住宅資材用、鉄などを切る金属用(使い捨ての「TMT」が主力)、製材所や木工向けの3つが主な品種である。
売上は国内と海外で分かれる。2026年3月期の連結売上は135億円。地域別(社内の取引を含む)は、日本104億円、中国46億円、アジア21億円、アメリカ17億円、ヨーロッパ7億円だ(2025年3月期)。品種別の開示はなく、筆者は住宅資材用が5割、金属用が3割、製材木工用ほかが2割と推定した。
主要顧客はマキタで、売上の21.9%(29億円)を占める。電動工具メーカーにOEM(相手先ブランドでの供給)で納める分が多い。
海外は、中国(河北省の廊坊、遼寧省の大連、蘇州)とタイ(ラヨーン県)に生産拠点を持つ。米国・欧州・インドは販売会社だ。連結の従業員は970人、うち生産が834人を占める。
成長の仕込みは、刃先を薄くして歩留まりを上げる薄刃、コーティングで寿命を3.5倍にする金属用、騒音を抑えるスリット入り、梱包の脱プラ化。本社社屋は2026年11月から2028年5月まで建て替える。
優良さと弱いところ
優良さは、財務の堅さと海外の生産体制にある。ただし、利益の水準は資本コストに届かない。
強みは三つある。第一に、自己資本比率91%で借金のない財務。第二に、中国・タイに自前の工場を持ち、需要が戻れば稼働率で利益が伸びること。2025年3月期は海外の稼働率が上がり、営業利益が47%増えた。第三に、マキタという大口顧客と長く取引していること。
弱みも三つある。第一に、売上の2割強が1社に偏ること。調達を見直されれば数量が一気に動く。第二に、住宅資材用は国内の新設住宅着工に左右され、人口の減少で国内の需要は細る。第三に、超硬の原料と中国の低価格品に挟まれ、利益率が10〜19%の間で振れることだ。
資本効率は資本コストを下回る。過去10年のROEの中央値は4.2%。会社の中期計画も、営業利益21億円の目標を18.2億円に引き下げた。
筆者は、財務と技術は本物だが、経営が蓄えを使う道を持たず、資本効率が低いままだと見る。ガバナンスは、2025年6月の総会で監査等委員会設置会社へ移る計画を出し、執行役員制度を入れた。過去にスティール・パートナーズから敵対的TOBを受けた経緯もあり、株主の目は意識している。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
チップソーは、木材・金属・石材を切る丸鋸の刃先に超硬チップを付けた工具だ。電動工具の消耗品として、建築・住宅・製造業の現場で使われる。
国内の競合には兼房などがある。兼房は自社資料でチップソーの国内シェア90%超としており、他社を含めた市場の統計は見つからなかった。市場規模は推定の域を出ない。
需要は、国内の新設住宅着工と木材・金属加工の稼働で決まる。国内の住宅着工は人口の減少で長期に細る。一方、改修と補修、非住宅の木造、海外の建築は伸びる。中国・東南アジア・インドでは、電動工具の需要が増えている。
価格は、原料の超硬と鋼材の値段に連動する。超硬の主原料のタングステンは、中国の輸出管理で規制前の約10倍になったとの報道がある。工具大手のOSGは最大75%の値上げをしたと報じられた。天龍製鋸への影響は、会社の開示では確認できていない。
10年の見立ては、数量は国内で微減、海外で増加し、全体ではほぼ横ばいになる。価格は物価に原料の値上がりが乗る形で、中立は国内外を通じて1.5倍強とした(物価の1.34倍に原料分を足した)。
資本政策と M&A
配当は連結配当性向50%以上を方針とする(従来は30%以上)。2025年3月期の配当性向は50.2%、2026年3月期は50.3%。2025年2月には17万株、3.2億円の自社株買いを実施した。
会社は株価純資産倍率(PBR)の目標を2026年度で0.58倍とした。資本コストを意識した経営を掲げたが、2026年3月期末の自己資本は391億円で、時価総額200億円を大きく上回る。
資産は厚い。現預金71億円に加え、投資有価証券が124億円ある。そのうち上場株は128銘柄で簿価計上額87.7億円、非上場が5銘柄で5.6億円。方針は意義が薄れた株を売るとしているが、2026年3月期の投資有価証券は31.6億円増え、減らす方向ではない。
大株主は社員持株会7.4%、静岡銀行5.0%、遠鉄タクシー4.5%、河合楽器2.0%。個人も多い。株主数は1,776名(2025年3月)で、支配株主はいない。
2026年8月6日、会社は固定資産の譲渡で特別損失を計上し、2027年3月期の純利益予想を6.7億円に下げた。譲渡の中身は本文を取得できず確認できていない。損失が出た以上、簿価より安く売ったことになる。
TOB(株式公開買い付け)の確率は、kabufuの推計で10年以内に23.5%。価値には織り込まない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
天龍製鋸は、海外の稼働で利益が伸びる局面にある。2025年3月期は中国の売上が31.5%増、営業利益が3倍、アジアは売上が83%増と、住宅資材用の受注が戻った。営業利益は47%増の18億円になった。
財務は盤石だ。自己資本比率91%、借金なし、現預金71億円。投資有価証券は124億円あり、時価総額200億円の大半を資産が支えている。事業の値段は、実質で数十億円しか払っていない計算になる。
株主還元は強まった。配当性向は50%を超え、自社株買いも実施した。経営は資本コストを意識し、PBRの目標を掲げている。本社社屋の建替えで効率が上がり、薄刃や長寿命の金属用などの高付加価値品が利益を押し上げる。
2026年8月の特別損失は、純利益の予想を下げたが、売上と営業利益は変えていない。一時的な要因で、本業は崩れていない。
外から見れば、安全な土台の上に、海外の稼働という選択肢を持つ会社だ。強気の見方は、営業利益が中期計画の目標(18〜21億円)に届く年が続けば、再評価されると考える。
慎重な見方
利益が伸びない会社に、資産の厚みは救いにならない。営業利益は2015年3月期の13億円から17億円になったが、2022年3月期の28億円には戻らず、ROEは過去10年で4%前後に張り付いている。中期計画も営業利益21億円の目標を18.2億円に下げた。
売上の2割強をマキタに預けている。調達を見直されれば、数量は一気に動く。国内の住宅着工は人口の減少で長期に縮み、海外は中国の過剰供給と米国の関税に左右される。
資産が厚いといっても、現金と持ち合い株は株主に戻っていない。投資有価証券は増え続け、128銘柄の持ち合いは売却が進まない。2026年8月には固定資産を簿価より安く売り、純利益の予想を半分以下に下げた。帳簿の価値は、売る時に目減りする。
経営は資本コストを意識すると言うが、ROEは3.9%。蓄えを積み上げる限り、ROEは上がらない。
配当性向5割は評価できるが、現金は増え続けている。還元が追いつかず、事業の値段は時間とともに高くなる、と弱気の見方は考える。
どちらに重みを置いたか
強気の見方は、資産の厚みと財務の堅さについて正しい。だが、その資産が株主に戻る道は細く、事業が稼ぐ力は資本コストに届かない。事業の質では中位、資産では勝ち、資本効率では負ける、という整理になる。確率は、中立を最大の4割に置き、やや悲観を25%と、やや楽観の18%より厚くした。10年の中立でもROEは5〜6%で資本コストに届かず、蓄えた現金の戻り方は半分と見る。還元を足して割り引くと、今の値段をやや下回る、2割弱の割高と出た。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,352 円300 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,017 円91 億円)。 今の値に割り戻すと 2,289 円205 億円、今との差 +1.9%、 期待の年率 +6.9%(資本コスト 7.8%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 4,905 円439 億円 | 1,285 円115 億円 | +175.6% | +10.7% | 433 円39 億円 |
| やや楽観 | 18% | 4,349 円389 億円 | 1,174 円105 億円 | +145.9% | +9.4% | 994 円89 億円 |
| 中立 | 40% | 3,882 円347 億円 | 1,118 円100 億円 | +122.6% | +8.3% | 2,000 円179 億円 |
| やや悲観 | 25% | 2,115 円189 億円 | 894 円80 億円 | +34.0% | +3.0% | 752 円67 億円 |
| 悲観 | 10% | 1,442 円129 億円 | 447 円40 億円 | −15.9% | −1.7% | 189 円17 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,352 円300 億円 | 1,017 円91 億円 | +94.5% | +6.9% | 4,369 円391 億円 |
今の株価時価総額 2,246 円201 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 7% 海外の工場が満ちて、住宅資材用の数量が伸び続ける 利益 25 億円 · PER 13.0 倍 · 株価時価総額 4,905 円439 億円
中国・タイ・インドの工場に注文が集まり、稼働率が上がり続ける。2025年3月期に中国は売上31%増、アジアは83%増と伸びた。この勢いが2030年代まで続く姿だ。
金属用の使い捨てチップソー(TMT)が、脱プラ梱包や薄刃などの環境配慮型で売値を保ち、米国・インドで数量を伸ばす。主要顧客のマキタ向けも、海外の組み立て拠点の拡大で増える。
原料の超硬は値上がりするが、顧客は納期と品質を優先して価格を受け入れ、転嫁は通る。自動化投資が効き、営業利益率は13%台から維持される。
営業利益は30億円ほどになり、中期計画の目標(21億円)に物価の分を加えた水準だ。配当性向は5割を超え、自社株買いも続く。ただし、持ち合い株と現金の厚みは変わらず、ROEは7〜8%で資本コストに届かない。
- 住宅資材用チップソー:数量 700(出荷枚数(万枚、推定))× 価格 1,919(1枚あたりの売上単価(円、名目。原料費の転嫁を含む))→ 売上 134 億円・営業利益 17 億円。海外の稼働が満ちて数量増
- 金属用チップソー:数量 330(出荷枚数(万枚、推定))× 価格 2,559(1枚あたりの売上単価(円、名目。原料費の転嫁を含む))→ 売上 84 億円・営業利益 11 億円。金属用も輸出と国内で増
- 製材木工用ほか:数量 150(出荷枚数(万枚、推定))× 価格 3,071(1枚あたりの売上単価(円、名目))→ 売上 46 億円・営業利益 4 億円。木工は小幅増
倍率:事業の純利益 23 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.9% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.0 倍 + 余った現金(戻り方込み)142 億円。全体の PER 13.03 倍、時価総額 439 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の住宅着工が縮む中でも、海外の稼働と主要顧客の発注が10年そろって増える必要がある。会社の中期計画の目標も2期続けて届いていないので、1割を切る確率にした。
やや楽観 18% 海外で数量が伸び、国内の縮小を埋めて利益率も保つ 利益 22 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 4,349 円389 億円
国内の新設住宅着工は人口の減少で縮むが、改修と木造の非住宅は底堅い。海外では、中国とアジアの工場が国内向け以外の輸出も増やし、インドの販売会社が大きくなる。
原料の超硬は上がるが、顧客と話して値上げを通せる。数量は10年で1割ほど増え、営業利益率は13%台前半を保つ。
本社社屋の建替え(2028年5月に完了予定)は自己資金で賄い、現金は小さく減る。それ以外の設備投資は自動化が中心で、軽い。
営業利益は27億円ほど。配当は純利益の5割強、自社株買いも小さく続ける。蓄えた現金は積み上がり、ROEは6%台にとどまる。
- 住宅資材用チップソー:数量 660(出荷枚数(万枚、推定))× 価格 1,807(1枚あたりの売上単価(円、名目。原料費の転嫁を含む))→ 売上 119 億円・営業利益 15 億円。中国・アジア・インドで増
- 金属用チップソー:数量 300(出荷枚数(万枚、推定))× 価格 2,409(1枚あたりの売上単価(円、名目。原料費の転嫁を含む))→ 売上 72 億円・営業利益 9 億円。金属用は底堅い
- 製材木工用ほか:数量 145(出荷枚数(万枚、推定))× 価格 2,891(1枚あたりの売上単価(円、名目))→ 売上 42 億円・営業利益 4 億円。横ばい
倍率:事業の純利益 19 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.8% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)139 億円。全体の PER 12.9 倍、時価総額 389 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:足元の増益が続く姿に近い。海外の稼働率の改善が一巡しても、インドの販売が育つ。中期計画の営業利益目標が毎期届いていないため、2割を切る確率とした。
中立 40% 国内は縮み、海外が補い、売上は物価の分だけふくらむ 利益 19 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 3,882 円347 億円
国内の新設住宅着工は人口の減少で細り、国内向けの数量は減る。海外では、中国・アジア・米国の工場が稼働率を保ち、数量は10年でほぼ横ばいから微増になる。
チップソーの超硬の原料は値上がりしたまま落ち着く。顧客は価格改定を受け入れるが、数量は慎重に絞る。売上は物価の分だけふくらみ、営業利益率は11%台に下がる(転嫁分は利益率が低いため)。
営業利益は24億円ほど、純利益は19億円ほどだ。本社社屋の建替えと自動化で設備投資は増えるが、それでも現金は積み上がる。
配当は純利益の5割強、自社株買いは小さく続ける。蓄えた現金と持ち合い株は増える方向で、ROEは5〜6%にとどまる。経営は還元を強めるが、資本コストに届く水準にはならない。
- 住宅資材用チップソー:数量 620(出荷枚数(万枚、推定))× 価格 1,751(1枚あたりの売上単価(円、名目。原料費の転嫁を含む))→ 売上 109 億円・営業利益 13 億円。国内の住宅は縮むが海外が補う
- 金属用チップソー:数量 280(出荷枚数(万枚、推定))× 価格 2,334(1枚あたりの売上単価(円、名目。原料費の転嫁を含む))→ 売上 65 億円・営業利益 8 億円。微増
- 製材木工用ほか:数量 135(出荷枚数(万枚、推定))× 価格 2,801(1枚あたりの売上単価(円、名目))→ 売上 38 億円・営業利益 3 億円。国内の木工が細り微減
倍率:事業の純利益 17 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.8% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)131 億円。全体の PER 12.9 倍、時価総額 347 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:過去12年の営業利益率は10〜19%で、中央値は13%台。直近2年は13〜14%でほぼ変わらない。ここから大きく外れない姿を最も厚く置いた。
やや悲観 25% 国内の住宅が縮み、海外で安い品に押されて利益率が下がる 利益 14 億円 · PER 8.3 倍 · 株価時価総額 2,115 円189 億円
国内の新設住宅着工は想定より速く細り、住宅資材用の数量が減る。海外では、中国の同業が低価格のチップソーを出し、アジア・中東で価格競争になる。米国向けは関税で採算が悪化する。
原料の超硬が高くなる一方、値上げは通りにくく、営業利益率は9〜10%台に落ちる。2024年3月期の10.4%に近い水準だ。
主要顧客のマキタが調達先を分散し、発注が1割ほど減る。海外の工場は稼働率が下がって固定費が重くなる。
営業利益は17億円ほどと、今と同じ名目の額にとどまる(物価で見ると目減りする)。配当は純利益の5割、自社株買いは止まる。
- 住宅資材用チップソー:数量 560(出荷枚数(万枚、推定))× 価格 1,638(1枚あたりの売上単価(円、名目。原料費の転嫁を含む))→ 売上 92 億円・営業利益 9 億円。国内住宅の縮小と海外の価格競争
- 金属用チップソー:数量 255(出荷枚数(万枚、推定))× 価格 2,184(1枚あたりの売上単価(円、名目。原料費の転嫁を含む))→ 売上 56 億円・営業利益 6 億円。数量減
- 製材木工用ほか:数量 120(出荷枚数(万枚、推定))× 価格 2,621(1枚あたりの売上単価(円、名目))→ 売上 31 億円・営業利益 2 億円。木工の縮小
倍率:事業のROEは3.7%と資本コスト7.75%を大きく下回る。PERの上限は1÷k=12.1倍で、その約7割(8.3倍)に置いた。余った現金・有価証券は今の額の0.75倍(約112億円)を足した。
確率:国内の住宅着工の縮小は確実に進む。海外の稼働率の上昇は、中国の過剰供給と米国の関税で逆に働きうる。中期計画が2期続けて未達だった実績もあり、4分の1とした。
悲観 10% 主要顧客の調達見直しと関税・安値攻勢で、稼ぐ力が半分以下に落ちる 利益 5 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 1,442 円129 億円
マキタが電動工具の刃を内製や他社に切り替え、天龍製鋸への発注が大きく減る。同時に米国の関税が上がり、中国・タイ・インドの工場は輸出先を失って稼働率が落ちる。
中国の同業は、住宅資材用と金属用で安い品を大量に売り、国内の流通にも入ってくる。値下げ競争で営業利益率は数%に落ち、2〜3年は赤字の期も出る。
経営は海外の工場を統合し、リストラ費用を計上する。2026年8月の固定資産の譲渡で特別損失が出たように、資産の売却は簿価より安くなる。
営業利益は5億円ほどまで落ちる。配当は大きく減らすが、現金と持ち合い株が会社を支え、財務は崩れない。
- 住宅資材用チップソー:数量 470(出荷枚数(万枚、推定))× 価格 1,537(1枚あたりの売上単価(円、名目。原料費の転嫁を含む))→ 売上 72 億円・営業利益 3 億円。主要顧客の内製化・調達先変更で大きく減る
- 金属用チップソー:数量 220(出荷枚数(万枚、推定))× 価格 2,049(1枚あたりの売上単価(円、名目。原料費の転嫁を含む))→ 売上 45 億円・営業利益 2 億円。低価格品に押される
- 製材木工用ほか:数量 95.0(出荷枚数(万枚、推定))× 価格 2,459(1枚あたりの売上単価(円、名目))→ 売上 23 億円・営業利益 0 億円。縮小
倍率:稼ぐ力は消え、現預金と売れる資産の税後が支える床で値が付く。今の自己資本391億円に0.33倍を掛けた約129億円。少数株主は現金の使い方を決められず、持ち合い株の売却も進まないため、純資産を大きく下回る。内訳は床の資産の欄に書いた。
確率:単一顧客に2割を預け、海外工場の固定費を抱えた専業なので、顧客の調達見直し、関税、中国の低価格品が重なる複合の筋書き。頻度は低いが無視できない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
住宅資材用チップソー
建築の木材・ボード・サイディングを切る丸鋸。マキタなど電動工具メーカー向けのOEMと、流通向けの自社ブランド。国内の住宅着工と海外の建築に連動する。
| 数量出荷枚数(万枚、推定) | 価格1枚あたりの売上単価(円、名目。原料費の転嫁を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 600 | 1,125 | 68 | 9 |
| 10 年後 中立 | 620 | 1,751 | 109 | 13 |
取り方:品種別の開示は無く、筆者は売上135億円の5割(67.5億円)と推定した。枚数は年600万枚、1枚1.125千円と置いた(開示は無く、推定)。営業利益は全社17.35億円を、地域別の利益率(日本7%、中国14%、アジア11%)と品種の性格から配分した推定(8.9億円)。10年後の価格=(1−超硬の原料費の割合10%)×物価1.34倍+10%×超硬の原料価格の倍率。数量は、国内の縮小と海外の増加が相殺して中立でほぼ横ばい。
金属用チップソー
鉄・ステンレスなどを切る丸鋸。使い捨ての「TMT」が主力で、薄刃・コーティング・脱プラ梱包などの環境配慮型を拡販する。
| 数量出荷枚数(万枚、推定) | 価格1枚あたりの売上単価(円、名目。原料費の転嫁を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 270 | 1,500 | 41 | 6 |
| 10 年後 中立 | 280 | 2,334 | 65 | 8 |
取り方:売上135億円の3割(40.5億円)と推定した。枚数を年270万枚、1枚1.5千円と置いた(開示は無く、推定)。営業利益は配分で5.8億円。米国・欧州の販売会社がこの品種を多く扱う。価格は住宅資材用と同じ式で、数量は中立で10年1.04倍。
製材木工用ほか
製材所・木工場の大型丸鋸と、その他の工具・機械器具。国内の木材需要に連動し、緩やかに縮む。
| 数量出荷枚数(万枚、推定) | 価格1枚あたりの売上単価(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 150 | 1,800 | 27 | 3 |
| 10 年後 中立 | 135 | 2,801 | 38 | 3 |
取り方:売上135億円の2割(27億円)と推定した。枚数を年150万枚、1枚1.8千円と置いた(開示は無く、推定)。営業利益は配分で2.65億円(全社の合計が17.35億円になるよう調整)。国内の木材需要は人口の減少で縮むため、数量は中立で10年0.9倍。
リスクと懸念
主要顧客への依存
マキタ向けは売上の21.9%(29億円)で、前期の20.3%から上がった。調達の分散や内製化が進めば、数量と稼働率が同時に落ちる。
国内の住宅着工の縮小
住宅資材用は主力で、国内の新設住宅着工に連動する。人口の減少で長期に細り、国内の営業利益は2025年3月期に増収でも1.2%減った。
海外の稼働と関税・中国の低価格品
利益の増加は、中国・アジアの稼働率の上昇が支えた。米国の関税、中国の過剰供給、為替が逆に働けば、固定費が重くなる。
超硬の原料高
超硬の原料のタングステンは、中国の輸出管理で価格が大きく上がったと報じられる。転嫁が遅れれば利益が削られる。天龍製鋸の開示では影響の大きさを確認できていない。
資産の使い道と売却損
現預金71億円と投資有価証券124億円は、事業に要らない分が大きい。使い道がなければ、ROEは上がらない。2026年8月の固定資産の譲渡は損失になり、帳簿の価値が売る時に目減りすることを示した。
本社社屋の建替え
2026年11月から2028年5月まで、自己資金で建て替える。投資額は未定で、大きくなれば現金を取り崩す。
今後の分かれ目
- マキタ向けの売上比率が25%を超えたら、または下がり始めたら
- 依存の深まり、または調達の見直しとして、悲観の確率を上げる。
- 上場株128銘柄の売却を進め、売却益を配当や自社株買いに回したら
- 余った現金の戻り方を1.0に引き上げ、中立の値を上げる。
- 海外の営業利益率が国内を上回る状態が続いたら
- 海外の稼働が構造的に効いているとして、やや楽観の確率を厚くする。
- 2027年3月期の営業利益が18億円を下回ったら
- 中期計画の再修正を意味するため、やや悲観の確率を上げる。
- 本社社屋の建替え費用が大きく、現預金が60億円を下回ったら
- 余った現金の額を下げ、中立の時価総額を引き下げる。
見ておくもの
- 営業利益率と、地域別(日本・中国・アジア・米国)の利益
- マキタ向けの売上比率
- 現預金と投資有価証券の推移、持ち合い株の売却
- 配当性向、自社株買いの規模
- 国内の新設住宅着工と海外の稼働率
- 新しい中期経営計画(2027年度以降)の数値目標
倍率と資本コストの決め方
倍率は、10年後のROEと資本コスト7.75%から、利益ベースで置いた。余った現金・有価証券を除いた事業のROEは中立で5.8%と資本コストを下回るため、PERの上限は1÷k=12.1倍で、その8割に置いた。今の株価や自己資本に対する倍率には寄せていない。余った現金・有価証券は、現預金71億円から事業の必要分約25億円を引いた約46億円と、投資有価証券124億円の含み益への税などを引いた約105億円を足した150億円。10年後は蓄えが積み上がるとして中立で175億円とした。戻り方は0.5。営業利益率は過去の山(19%台)以下で、中立は直近2年の13%に近い水準から、転嫁分の低い利益率を混ぜて11%台。減価償却は取得時の値段のまま年9億円前後(EBITDAから逆算)で置き、更新投資は物価で高くなるため、会計の利益ほど現金は残らない。リースは借入と賃借が小さく、新リース会計基準の影響は小さい。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.9→13.03 倍・やや楽観 PER 10.4→12.9 倍・中立 PER 9.7→12.9 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%にqualityを足して決めた。事業が傾いているわけではないので上乗せ(extra)は置かない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 7.75%。