結論
アドバネクスは、細い金属線から精密なばねを作る会社だ。自動車、医療機器、航空機、事務機器と、用途は広い。売上は 300 億円弱で、規模は小さい。
筆者の結論は「割高」だ。医療と航空機のばねは伸びるが、売上の半分を占める自動車の利益率は薄く、会社全体の営業利益率は 5% にとどまる。過去 10 年の ROE の中央値は 0.8% で、資本コストを稼げた年のほうが少ない。
救いは構造改革が実を結びはじめたことだ。2026 年 3 月期の営業利益は 13 億円と、前の期の 3 倍近くに増えた。メキシコ工場の黒字化とシンガポール工場の整理が進めば、会社は営業利益を 9 億円ほど押し上げるとみる。
株主に残る利益は薄い。ただ、純有利子負債は 98 億円と自己資本とほぼ同じで、利払いが利益を削る。10 年の中立でも ROE は資本コストに届かず、株価は期待を先取りしている。
筆者が見るのは、医療と航空機が売上の 3 割に達し、赤字の海外工場が黒字に変わる 2〜3 年後の姿だ。そこまで進んでから判断しても遅くはない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見るのは、稼ぐ力と資本の使い方だ。当社は 10 年の大半で資本コストを稼げていない。小さな利益に対して設備と運転資金が重く、株主に残る現金は少ない。
それでも、医療と航空機という良い事業が育っている点は評価する。この 2 つが売上の 3 割に達すれば、全体の利益率は 6% 前後に上がる。ここまでは会社の計画の延長線上にある。
ただ、その姿でも ROE は 8% 台にとどまり、資本コストの 9% に届かない。資本コストを稼げない会社の自己資本は、帳簿の額面では評価できない。今の時価総額は、改善の多くを先取りしている。
安全域は見当たらない。借金が減り、赤字の海外工場が黒字に変わり、それが 2〜3 期続くまで、買うかどうかの判断は待つのが筋だと筆者は考える。小さな会社ほど、数字の改善が続くかを見極める時間が要る。
何で稼ぐ会社か
事業の中身は、ばねとその周辺部品の製造販売だ。線材を巻く、曲げる、熱処理で形を固める。顧客の機器の中で、押す、戻す、支えるという小さな仕事をする部品を作る。
用途の最大は自動車で、売上の半分ほどを占める。医療機器は 1 割台から伸び、オートインジェクター(自己注射器)やドライパウダー吸入器に使うばねが成長の中心だ。航空機向けはコイルスレッド(ねじ穴を補強する線状の部品)で、航空機の整備にも使われる。
事務機器、精密機器、情報通信、家電向けは、売上の 2〜3 割を占める。ここは用途が縮みやすく、会社も重点を医療、航空機、自動車、インフラへ移している。
工場は日本のほか、米国、メキシコ、英国、ベトナム、中国(東莞)にある。顧客の近くで作る体制だが、拠点が多く、赤字の工場が利益を削ってきた。メキシコ工場は立ち上げから赤字が続き、シンガポール工場は生産を止めて売却を進めている。
価格は、ばねの設計と材料費を積み上げて顧客と決める。材料の鋼線は物価並みに上がるため、転嫁の遅れが利益率の振れの源になる。
優良さと弱いところ
技術力は評価できる。医療向けは薬の量を正確に押し出すばね、航空機向けは高い信頼性が求められる品で、一度認証を取ると簡単には切り替えられない。この 2 分野は利益率も高い。
しかし堀(他社がまねできない強み)は部分的だ。自動車向けのばねは、日本発條や中央発條など大手との競争で、値段は顧客が決める。売上の半分を占めるこの分野が全体の利益率を押し下げている。
経営の弱点は、拠点が多すぎることと、海外の立ち上げが遅いことだ。メキシコは何年も赤字で、海外子会社の損失が純利益をしばしば赤字にした。過去 10 年に純損失の期が 4 期ある。
改善の兆しも確かにある。2026 年 3 月期の営業利益率は 4.5% で、10 年で最も高い水準だ。ただ、過去 10 年の中央値は 1% 台で、長く続いた薄さが一度の改善で消えたと見るのは早い。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
ばねの世界市場は自動車の生産に連動しつつ、医療機器と航空機が成長を引っ張る。自動車は電動化でエンジン用のばねが減るが、車体、座席、ブレーキ、電装品のばねは残る。筆者は自動車向けの数量を、10 年で 5% ほど減ると見る。
医療はもっとも明るい。注射薬の自己投与と吸入薬は、慢性病の増加で世界の需要が伸びる。部品は小さいが、精度と清潔さの要求が高く、新規参入が難しい。当社の医療売上は会社目標の 60 億円へ向かい、筆者は 10 年で 1.6 倍を中立に置く。
航空機は整備需要が堅い。コイルスレッドは機体のねじ穴の補強に使われ、旅客機の保有機数の増加が追い風になる。関税の影響で一時苦戦したが、2026 年 3 月期に回復した。
競争の形は用途で違う。自動車は大手との価格競争、医療と航空機は認証を持つ少数の会社が分け合う。鋼線の値上がりを転嫁できるかが、どの分野でも利益率を分ける。
景気の波も受ける。事務機器と家電向けは、需要の縮小が続く。医療と航空機は景気に左右されにくく、この比率が高まるほど、会社全体の利益の振れは小さくなる。
資本政策と M&A
借金が資本政策の中心だ。純有利子負債は 98 億円で、自己資本の 1 倍近い。会社は有利子負債を 90 億円以下に減らし、自己資本比率を 30% 以上に保つことを目標にしている。
還元は小さい。配当の目標は総額で年 2 億円ほどだ。自社株買いの実績は乏しい。筆者は 10 年の還元を総額 28 億円と置いた。
2027 年 3 月期の純利益予想 20 億円は、シンガポール工場の売却益を含む。一過性の益で、将来の利益には数えない。売却で借金は少し減る見込みだ。
小さな会社で、時価総額は 121 億円ほどだ。TOB(公開買付け)の観測はなく、直近の発表もない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
医療と航空機のばねは、認証と精度で守られた良い事業だ。医療売上は会社目標の 60 億円へ向かい、オートインジェクターと吸入器の成長はまだ序盤にある。航空機の整備需要は旅客機の増加で広がる。
構造改革の効果は大きい。メキシコとシンガポールの黒字化で営業利益が 9 億円強改善するという会社の説明は、1 つずつ金額で示されている。2026 年 3 月期に営業利益 13 億円を出し、実行力を示した。
自己資本の 1.2 倍という時価総額は、改善が全部実現した姿を織り込んでいない。工場を整理して拠点が減れば、利益率は 8% の水準まで戻る余地がある。
加えて、これまで赤字を出していた拠点が黒字に変われば、純利益は営業利益の 6 割近くまで戻る。過去 10 年の純利益が営業利益を大きく下回ったのは、海外の赤字と税の負担のせいで、これが消えれば利益の質も改善する。小さな会社の改善は、実行できれば大きな倍率を生む。
慎重な見方
過去 10 年の営業利益率は 1% 台が普通で、4.5% は例外にすぎない。会社は何度も黒字化を約束してきたが、メキシコは赤字が長引いた。実績に裏づけのない計画は割り引くべきだ。ROE 7% 以上という目標も、過去 10 年の大半で届かなかった。1 期の改善で、構造が変わったと断じるのは危うい。
売上の半分は自動車で、値段は顧客が決める。鋼線の値上がりを転嫁しきれず、利益が削られる年がある。電動化でエンジン周りのばねは減り、数量の逆風も続く。
純有利子負債は自己資本の 1 倍近い。借り換えの金利が 3.5% に上がると、利払いが 3 億円を超え、営業利益の 2 割を食う。小さな会社には、景気の谷を耐える余力がない。
医療と航空機は魅力的でも、売上に占める割合はまだ 3 割に満たない。しかも両方とも、顧客の発注の遅れや認証の遅れで、売上が数期ずれることがある。残りの自動車や事務機器の弱さを埋めるには、時間がかかる。会社が掲げる自己資本比率 30% 以上という目標は、ようやく達成圏にあるだけだ。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方が少し強い。改善の方向は正しいが、10 年の中立でも ROE は資本コストに届かない。そのため、中立の確率を 35% とし、楽観側は 3 割、悲観側は 3 割台半ばに置いた。医療と航空機の伸びは、中立の数量に織り込んである。改善の実績が 1 期だけで、海外工場の黒字化が確認できていない点も、確率に反映した。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,581 円147 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 603 円25 億円)。 今の値に割り戻すと 1,905 円78 億円、今との差 −29.8%、 期待の年率 +4.4%(資本コスト 9.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 8,086 円332 億円 | 1,096 円45 億円 | +238.2% | +13.0% | 918 円38 億円 |
| やや楽観 | 20% | 5,745 円236 億円 | 853 円35 億円 | +143.0% | +9.3% | 1,319 円54 億円 |
| 中立 | 35% | 3,788 円156 億円 | 682 円28 億円 | +64.7% | +5.1% | 1,565 円64 億円 |
| やや悲観 | 23% | 918 円38 億円 | 365 円15 億円 | −52.7% | −7.2% | 295 円12 億円 |
| 悲観 | 12% | 721 円30 億円 | 0 円0 億円 | −73.4% | −12.4% | 87 円4 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,581 円147 億円 | 603 円25 億円 | +54.1% | +4.4% | 4,184 円172 億円 |
今の株価時価総額 2,715 円111 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 医療と航空機が柱になり、利益率が 8% に届く 利益 27 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 8,086 円332 億円
医療のばねは注射薬と吸入薬の世界的な伸びを取り込み、10 年で数量が 2 倍を超える。航空機のコイルスレッドも整備需要で伸びる。この 2 つで売上の 4 割に迫り、全体の利益率を引き上げる。
メキシコは黒字になり、シンガポールの整理は終わる。拠点が減って固定費が軽くなり、自動車向けも 5% の利益率に届く。
借金は 50 億円台まで減り、利払いの負担が軽くなる。配当も増え、10 年で 45 億円を株主へ返す。小さな会社が認証と精度で守られた分野を広げ、利益率の高い部品メーカーに変わる最良の姿だ。
- 自動車向けばね・部品:数量 1.0(当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段)= 搭載車の生産 × 当社の採用)× 価格 1.34(値段の指数(2026 年=1.0、物価と値上げを含む))→ 売上 201 億円・営業利益 10 億円。自動車:数量 1.00 倍 × 価格 1.34 倍、営業利益率 5.0%
- 医療機器向けばね:数量 0.8(当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段)= 世界の自己注射・吸入薬の市場 × 当社の採用)× 価格 1.34(値段の指数(2026 年=1.0))→ 売上 153 億円・営業利益 23 億円。医療:数量 2.20 倍 × 価格 1.34 倍、営業利益率 15.0%
- 航空機向けコイルスレッド:数量 0.4(当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段)= 民間機の整備・製造の需要 × 当社のシェア)× 価格 1.34(値段の指数(2026 年=1.0))→ 売上 77 億円・営業利益 10 億円。航空機:数量 2.40 倍 × 価格 1.34 倍、営業利益率 13.0%
- 事務機器・精密機器・情報通信・家電・インフラ向け:数量 0.4(当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段))× 価格 1.30(値段の指数(2026 年=1.0))→ 売上 83 億円・営業利益 3 億円。その他:数量 0.90 倍 × 価格 1.30 倍、営業利益率 3.0%
倍率:事業の純利益 27 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.3% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 10.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.07 倍、時価総額 324 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:医療・航空機の拡大と構造改革の完全な成功が重なる筋書き。過去に 8% 台の営業利益率があり、不可能ではないが、実績が乏しいので低く置いた。
やや楽観 20% 計画に近い形で改善が進む 利益 20 億円 · PER 11.6 倍 · 株価時価総額 5,745 円236 億円
医療が 10 年で 1.9 倍に伸び、航空機も 2 倍になる。自動車は数量がわずかに減るが、値上げで売上を保つ。
赤字のメキシコが黒字になり、営業利益率は 7% 台まで上がる。借金は 70 億円ほどに減る。
小さな会社が 10 年かけて、堅実な部品メーカーの利益率に近づく姿だ。シンガポール工場の売却で借金が減り、赤字拠点の固定費も下がる。配当は年 2 億円台から少しずつ増え、10 年で 35 億円になる。自動車の利益率は 4.5% まで上がる。10 年後の営業利益は 34 億円ほどで、2026 年 3 月期の 2.6 倍にあたる。
- 自動車向けばね・部品:数量 1.0(当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段)= 搭載車の生産 × 当社の採用)× 価格 1.32(値段の指数(2026 年=1.0、物価と値上げを含む))→ 売上 194 億円・営業利益 9 億円。自動車:数量 0.98 倍 × 価格 1.32 倍、営業利益率 4.5%
- 医療機器向けばね:数量 0.7(当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段)= 世界の自己注射・吸入薬の市場 × 当社の採用)× 価格 1.32(値段の指数(2026 年=1.0))→ 売上 131 億円・営業利益 18 億円。医療:数量 1.90 倍 × 価格 1.32 倍、営業利益率 13.5%
- 航空機向けコイルスレッド:数量 0.3(当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段)= 民間機の整備・製造の需要 × 当社のシェア)× 価格 1.34(値段の指数(2026 年=1.0))→ 売上 68 億円・営業利益 8 億円。航空機:数量 2.10 倍 × 価格 1.34 倍、営業利益率 12.0%
- 事務機器・精密機器・情報通信・家電・インフラ向け:数量 0.4(当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段))× 価格 1.28(値段の指数(2026 年=1.0))→ 売上 80 億円・営業利益 2 億円。その他:数量 0.88 倍 × 価格 1.28 倍、営業利益率 2.5%
倍率:事業の純利益 20 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.4% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.5 倍。全体の PER 11.55 倍、時価総額 233 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の計画(営業利益 2027 年 3 月期 15 億円、2028 年 3 月期 22 億円)にほぼ沿う筋書き。2026 年 3 月期の改善が実績で裏づけられている。
中立 35% 医療と航空機が伸び、全体で 6% 近くまで上がる 利益 14 億円 · PER 11.1 倍 · 株価時価総額 3,788 円156 億円
自動車は電動化で数量が 5% ほど減り、値段は物価並みに上がる。利益率は 3.5% にとどまる。医療は 1.6 倍、航空機は 1.8 倍に伸びる。
全体の営業利益率は 5.8% で、2026 年 3 月期の 4.5% からの改善は、赤字工場の黒字化と医療・航空機の比率上昇による。
借金は 80 億円ほどに減るが、借り換えで金利は 3.5% に上がる。利払いは年 3 億円強で、純利益は営業利益の 5 割台半ばになる。自動車向けの値下げ要請は続くが、医療の拡大が利益を支える。配当は年 2 億円台で、10 年の還元は 28 億円ほどになる。
- 自動車向けばね・部品:数量 1.0(当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段)= 搭載車の生産 × 当社の採用)× 価格 1.30(値段の指数(2026 年=1.0、物価と値上げを含む))→ 売上 185 億円・営業利益 7 億円。自動車:数量 0.95 倍 × 価格 1.30 倍、営業利益率 3.5%
- 医療機器向けばね:数量 0.6(当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段)= 世界の自己注射・吸入薬の市場 × 当社の採用)× 価格 1.30(値段の指数(2026 年=1.0))→ 売上 108 億円・営業利益 13 億円。医療:数量 1.60 倍 × 価格 1.30 倍、営業利益率 12.0%
- 航空機向けコイルスレッド:数量 0.3(当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段)= 民間機の整備・製造の需要 × 当社のシェア)× 価格 1.34(値段の指数(2026 年=1.0))→ 売上 58 億円・営業利益 6 億円。航空機:数量 1.80 倍 × 価格 1.34 倍、営業利益率 11.0%
- 事務機器・精密機器・情報通信・家電・インフラ向け:数量 0.4(当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段))× 価格 1.28(値段の指数(2026 年=1.0))→ 売上 77 億円・営業利益 2 億円。その他:数量 0.85 倍 × 価格 1.28 倍、営業利益率 2.0%
倍率:事業の純利益 14 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.5% が k 9.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.1 倍。全体の PER 11.11 倍、時価総額 156 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:医療と航空機の伸びを認める一方、自動車は薄いままという中心の筋書き。会社が予想する 2028 年 3 月期の 6.9% よりやや低く置いた。
やや悲観 23% 自動車が足を引っ張り、利益率は 3% 台 利益 6 億円 · PER 6.5 倍 · 株価時価総額 918 円38 億円
自動車向けの数量が 15% 減り、鋼線の値上がりも転嫁しきれず、利益率は 2% に落ちる。医療と航空機は伸びるが、規模が小さく全体を支えきれない。
メキシコの黒字化は遅れ、営業利益は 13 億円ほどで足踏みする。利払いと税で純利益は 6 億円ほどになる。2026 年 3 月期の改善は一時の追い風だったことになり、会社が掲げた ROE 7% 以上の目標にも届かない。
配当は維持するが、借金はなかなか減らない。新しい設備投資は償却の範囲に抑えるが、借り換えの金利は 3.5% に上がり、利払いは年 4 億円ほどになる。
- 自動車向けばね・部品:数量 0.9(当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段)= 搭載車の生産 × 当社の採用)× 価格 1.25(値段の指数(2026 年=1.0、物価と値上げを含む))→ 売上 159 億円・営業利益 3 億円。自動車:数量 0.85 倍 × 価格 1.25 倍、営業利益率 2.0%
- 医療機器向けばね:数量 0.5(当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段)= 世界の自己注射・吸入薬の市場 × 当社の採用)× 価格 1.28(値段の指数(2026 年=1.0))→ 売上 87 億円・営業利益 9 億円。医療:数量 1.30 倍 × 価格 1.28 倍、営業利益率 10.0%
- 航空機向けコイルスレッド:数量 0.2(当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段)= 民間機の整備・製造の需要 × 当社のシェア)× 価格 1.30(値段の指数(2026 年=1.0))→ 売上 44 億円・営業利益 4 億円。航空機:数量 1.40 倍 × 価格 1.30 倍、営業利益率 8.0%
- 事務機器・精密機器・情報通信・家電・インフラ向け:数量 0.4(当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段))× 価格 1.20(値段の指数(2026 年=1.0))→ 売上 64 億円・営業利益 0 億円。その他:数量 0.75 倍 × 価格 1.20 倍、営業利益率 0.0%
倍率:ROE 4.6% は k 9.0% を大きく下回る。構造的に負けた側の筋書きで、1÷k=11.1 倍の 6 割弱の 6.5 倍に置いた。
確率:自動車の値下げ要請と電動化で数量が減り、改善が途中で止まる筋書き。過去の 10 年の大半が 1% 台だったことを考えると、起こりうる。
悲観 12% 自動車を失い、小さな医療だけが残る 利益 −5 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 721 円30 億円
電動化と顧客の内製化で、自動車向けは数量が 35% 減る。値下げ要請も続き、赤字に落ちる。医療と航空機は伸びが鈍り、規模が足りないまま固定費を負う。
借金の借り換えは条件が厳しくなり、利払いが重くのしかかる。工場の閉鎖で一時の費用も出る。取引先の信用が下がれば、受注にも響き、悪循環に入る。
残るのは医療の小さな事業と、売れる資産だ。株主の取り分は、その資産から借金を引いた額まで縮む。減損で自己資本も削られ、配当は止まる。この筋書きでは、時価総額は今の自己資本の 3 割ほどにとどまる。医療の事業を売って借金を返す選択も、現実味を帯びる。
- 自動車向けばね・部品:数量 0.7(当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段)= 搭載車の生産 × 当社の採用)× 価格 1.15(値段の指数(2026 年=1.0、物価と値上げを含む))→ 売上 112 億円・営業利益 −1 億円。自動車:数量 0.65 倍 × 価格 1.15 倍、営業利益率 -1.0%
- 医療機器向けばね:数量 0.3(当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段)= 世界の自己注射・吸入薬の市場 × 当社の採用)× 価格 1.20(値段の指数(2026 年=1.0))→ 売上 63 億円・営業利益 4 億円。医療:数量 1.00 倍 × 価格 1.20 倍、営業利益率 6.0%
- 航空機向けコイルスレッド:数量 0.1(当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段)= 民間機の整備・製造の需要 × 当社のシェア)× 価格 1.20(値段の指数(2026 年=1.0))→ 売上 26 億円・営業利益 1 億円。航空機:数量 0.90 倍 × 価格 1.20 倍、営業利益率 3.0%
- 事務機器・精密機器・情報通信・家電・インフラ向け:数量 0.3(当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段))× 価格 1.10(値段の指数(2026 年=1.0))→ 売上 43 億円・営業利益 −1 億円。その他:数量 0.55 倍 × 価格 1.10 倍、営業利益率 -3.0%
倍率:赤字で稼ぐ力がなく、価値は売れる資産と借金の差で決まる。今の自己資本 102 億円に PBR 0.29 を掛けた額(約 30 億円)を、売れる資産の税後 30 億円に合わせて置いた。
確率:自動車の主要顧客の離脱、海外工場の赤字の長期化、借り換えの悪化が重なる筋書き。小さな会社で借金があるため、無視できない確率とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
自動車向けばね・部品
自動車のブレーキ、座席、電装品などに使うばねと部品。
| 数量当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段)= 搭載車の生産 × 当社の採用 | 価格値段の指数(2026 年=1.0、物価と値上げを含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.0 | 1.00 | 150 | 5 |
| 10 年後 中立 | 1.0 | 1.30 | 185 | 7 |
取り方:開示は売上全体 297 億円で、用途別は 2022 年 3 月期の自動車 53% を基に推定した(売上 150 億円)。出荷額を 150 円で割った億ドル相当を数量とした。営業利益は自動車の低い利益率を 3% 台と見て配分した推定。
医療機器向けばね
オートインジェクターとドライパウダー吸入器に使うばね。
| 数量当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段)= 世界の自己注射・吸入薬の市場 × 当社の採用 | 価格値段の指数(2026 年=1.0) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.3 | 1.00 | 52 | 6 |
| 10 年後 中立 | 0.6 | 1.30 | 108 | 13 |
取り方:会社目標の医療売上 60 億円(2027 年 3 月期)から、2026 年 3 月期を 52 億円と推定した。営業利益率は 12% 前後と見て配分した推定。
航空機向けコイルスレッド
航空機のねじ穴を補強する線状の部品と整備用品。
| 数量当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段)= 民間機の整備・製造の需要 × 当社のシェア | 価格値段の指数(2026 年=1.0) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.2 | 1.00 | 24 | 3 |
| 10 年後 中立 | 0.3 | 1.34 | 58 | 6 |
取り方:会社目標のコイルスレッド売上 30 億円(2027 年 3 月期、2024 年 3 月期比 1.66 倍)から、2026 年 3 月期を 24 億円と推定した。利益率は 12% 前後と推定。
事務機器・精密機器・情報通信・家電・インフラ向け
事務機器、精密機器、情報通信、家電向けのばねと、住設向けのヒーター。
| 数量当社の出荷額(億ドル、2026 年の値段) | 価格値段の指数(2026 年=1.0) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.5 | 1.00 | 71 | 1 |
| 10 年後 中立 | 0.4 | 1.28 | 77 | 2 |
取り方:売上全体から上の 3 つを引いた残り(71 億円)。全体の営業利益 13.2 億円から調整(本社費など -1.8 億円)を除いて配分した推定。
リスクと懸念
海外工場の黒字化が遅れる
メキシコ工場は立ち上げから赤字が続く。会社は 2027 年 3 月期の黒字化を掲げるが、遅れれば営業利益の改善 9 億円強の大半が消える。
自動車の電動化と顧客の値下げ要請
売上の半分が自動車向けで、値段は顧客が決める。電動化でエンジン周りのばねが減り、数量と利益率の両方が圧迫される。
鋼線の値上がりを転嫁できない
鋼線は物価並みに上がる。転嫁が遅れると、利益率が 1 年で数ポイント動く。薄い利益の会社には打撃が大きい。
借金と金利
純有利子負債は 98 億円で、自己資本の 1 倍近い。借り換えの金利が 3.5% になると、利払いが営業利益の 2〜3 割を食う。
一過性の益を実力と見誤る
2027 年 3 月期の純利益予想 20 億円はシンガポール工場の売却益を含む。売却が遅れれば予想も崩れ、実力の利益は 8 億円ほどにすぎない。
小さな会社の流動性
時価総額が 121 億円と小さく、株の売買は薄い。業績の知らせで株価が大きく動きやすい。
今後の分かれ目
- メキシコ工場が 2 期続けて黒字になる
- やや楽観の確率を引き上げる。営業利益 9 億円強の改善が裏づけられる。
- 医療売上が会社目標の 60 億円に届く
- 医療の数量の見通しを引き上げる。全体の利益率も 6% を超える道が開ける。
- 営業利益率が 4% を割り込む
- やや悲観の確率を引き上げる。2026 年 3 月期の改善が一時のものだった可能性が出る。
- シンガポール工場の売却が決まり、借金が 90 億円を下回る
- 財務の不安が一段薄れる。やや悲観と悲観の確率を少し下げる。
- TOB(公開買付け)が発表される
- 小さな会社なので、買い手の価格と条件を確かめる。
見ておくもの
- 営業利益率の推移(2026 年 3 月期 4.5%、2028 年 3 月期予想 6.9%)
- 医療売上とコイルスレッド売上の金額
- メキシコ工場とシンガポール工場の損益
- 有利子負債の水準(目標 90 億円以下)と借り換えの金利
倍率と資本コストの決め方
倍率は式から置いた。ROE が資本コスト(k=9.0%)に届かない筋書きでは、上限は 1÷k=11.1 倍で、利益の質が並以下なので上限の 6〜9 割に置いた。今の株価や過去の PER・PBR は見ていない。数量は用途別売上の推定、価格は物価並みの 1.34 倍を基本に、鋼線の転嫁の遅れを利益率で表した。悲観の床は自己資本の PBR でなく、売れる資産と借金の差から置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11→12.07 倍・やや楽観 PER 10→11.55 倍・中立 PER 9.5→11.11 倍)。
資本コスト 9.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。