結論
トーカロは、金属やセラミックスを溶かして部品の表面に吹き付ける「溶射」の最大手だ。主力は半導体製造装置の内部で使う部品で、削れや発塵を防ぐ皮膜をつける。
筆者の結論は「やや割高」である。事業は強く、営業利益率は24%に達した。ただ、その強さは今の時価総額にほぼ織り込まれ、10年後に見込める価値は1割台半ば下回る。
強みは、半導体装置メーカーの設計に組み込まれた皮膜の実績だ。装置が稼働するほど皮膜は消耗し、部品は何度も加工に戻ってくる。新しい工場を建てなくても、すでに出荷された装置が仕事を生む。
弱みは顧客の偏りだ。東京エレクトロン向けが売上の27%、アプライドマテリアルズ向けが10%を占める。両社が加工を自社に取り込んだり、価格を強く迫ったりすれば、利益率は急に下がる。
新しい中期計画は2031年3月期に売上900億円を掲げる。筆者は半導体の伸びを、計画よりやや低く見る。物価を含めた売上の伸びは年6%台だ。会社の資本配分は堅実で、純現金も残っている。高い倍率を払わなければ、長く持ちたい会社である。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、トーカロは「長く持ちたい種類の事業」に近い。顧客が装置の設計に組み込んだ皮膜は、価格だけで切り替えられない。稼ぎは、すでに出荷された装置の台数に支えられる。
オーナー利益、つまり株主が自由に使える利益は、見た目の純利益より少ない。設備投資が減価償却の2倍以上に膨らみ、稼いだ現金の半分近くが工場に回るからだ。筆者はこの点を割り引いて見ている。
心配は顧客の偏りだ。1社の購買方針で利益が大きく動く事業は、10年先の姿を言い切りにくい。だから倍率は上限まで使わない。
経営は約束を守る。前の計画を上回り、配当も増やし、無理な買収をしていない。借金に頼らず、危うい成長を急がない点も好ましい。
結論として、今の値段には安全域がない。10年で期待できる価値は今の時価総額を1割台半ば下回る。事業の質は高く、2割ほど安ければ、迷わず持ちたい種類の会社だ。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は単純だ。顧客の部品を預かり、表面に特殊な皮膜をつけて返す。仕事は受託加工で、1件ごとに加工賃を受け取る。
売上は3つの塊に分かれる。半導体・FPD(液晶・有機ELパネル)向けが約4割強で、最も利益率が高い。一般産業向けは鉄鋼、電力、産業機械、航空機などで約3割。海外子会社は米国・台湾・中国・シンガポールなどで、半導体装置向けを中心に約2割5分を占める。
半導体向けの中身は、エッチング装置や成膜装置の内部で使う部品だ。プラズマにさらされる部屋の壁や電極に、セラミックの皮膜をつける。皮膜が削れて粉になると、ウェハーに不良が出る。だから装置メーカーは、実績のある加工先を簡単には変えない。
一般産業向けは、製鉄所のロールや発電所のタービン部品など、傷みやすい部品を長持ちさせる仕事だ。景気に左右されるが、半導体より波は小さい。航空機部品では国際認証のNadcapを取り、数は少ないが単価の高い仕事を育てている。
加工は人手と設備の積み重ねである。拠点を増やすほど顧客の近くで速く納められ、これが大手の優位になる。
優良さと弱いところ
筆者がもっとも評価するのは、皮膜が顧客の装置の設計に入り込んでいる点だ。皮膜の仕様は、装置の性能と歩留まり(良品の割合)を左右する。性能が確認された加工先を替えるには、顧客側で再評価が要る。切り替えのコストが高く、堀は深い。
数字にも出ている。営業利益率は過去10年で17%から24%へ上がり、ROEは10年を通して11〜15%を保った。無借金に近く、自己資本比率は75%だ。景気の悪い年にも赤字は出していない。
弱点は3つある。まず顧客の偏りだ。上位2社で売上の3割台後半を占め、値下げ要求や内製化の動きに弱い。次に半導体向けの比率が上がる分、投資の波を受けやすい。最後に、設備と人手の重い事業であることだ。2027年3月期は設備投資が100億円と、減価償却の2倍を超える。
経営の資本の使い方は堅実だ。配当性向50%程度とDOE(自己資本に対する配当の率)5%以上の方針を続け、無理な買収には動いていない。前の中期計画は目標を上回って終えた。約束を守る会社だと筆者は見る。
独占ではない点も押さえたい。国内の受託溶射で4割強の最大手でも、競合は残る。世界でも、装置メーカーが自社で加工する例はある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
需要の中心は半導体製造装置だ。世界の装置投資は、AI向けのデータセンター需要で伸びている。装置が増え、稼働率が上がれば、消耗する部品の加工も増える。
部品の加工は、新しい装置の売上よりも波が小さい。すでに稼働している装置の台数に連動するからだ。ただし、装置メーカーの設計が変われば、使う皮膜も変わる。微細化が進むほど、皮膜の要求水準は上がり、技術力のある加工先に仕事が集まる。
一般産業向けは成熟した市場だ。国内の受託溶射市場は約700億円で、トーカロはその4割強を持つ。数量は人口と同様にほぼ横ばいで、伸びるのは航空機・エネルギー・脱炭素関連の新しい用途だ。
競合は、国内の中小の溶射業者、装置メーカー自身の加工部門、海外の専業だ。中国では半導体装置の国産化が進み、現地の加工業者も育っている。最先端工程では日米の装置が当面残るが、成熟した工程では価格競争になりやすい。
海外拠点の拡大は会社の次の課題だ。計画ではタイ・インドネシア・マレーシア・シンガポールを候補に、米国アリゾナでは工場を建てる。顧客の工場が移る先に出ていくことが、成長の条件になる。
資本政策と M&A
還元の方針は明快だ。連結配当性向50%程度とDOE5%以上を、前の計画から続ける。配当は前期から増やす予定で、増配の流れが続く。
新しい中期計画の5年間では、営業キャッシュフロー800〜900億円のうち、成長投資に400〜600億円、株主還元に250〜350億円を充てる。つまり、稼いだ現金の半分近くを工場と設備に回す計画だ。内部の資金で足り、借金に頼らない。
大型の買収は見当たらず、成長は自前の設備増設と海外拠点の新設が中心だ。買収で価値を壊す心配は小さい。自社株買いは主役ではない。
親会社だった日鐵商事から、経営陣と投資ファンドが株を買い取って非公開化し、その後に再上場した経緯がある。今は信託銀行と機関投資家が大株主で、特定の親会社はいない。外から買われる確率は、他社が見積もる10年で1割台半ばだ。
純現金は71億円と時価総額の4%にとどまり、余った現金として分ける額はない。現金は工場の投資に使われていく。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
半導体の装置投資は、AIの計算需要を背景に10年で1.5〜2倍に伸びる。トーカロの皮膜は、エッチングや成膜の装置の中で消耗する部品に使われるので、稼働する装置が増えるほど加工の仕事も増える。新しい装置の販売とは別に、すでにある装置の保守が積み上がる。
会社は2031年3月期に売上900億円、経常利益200億円を目標にする。前の計画は530億円の目標に対し、実績は584億円だった。計画を超える実行力は証明済みだ。半導体向けは2027年3月期で310億円、2031年に450億円と、5年で5割以上伸ばす。
皮膜の要求水準は、微細化とともに上がる。実績のある加工先に仕事が集まり、シェアは緩やかに上がる。利益率も、高付加価値の皮膜が増えれば27%台に近づく。
海外はこれから広がる。米国アリゾナの工場と東南アジアへの拠点は、顧客の工場の移転先に合わせた動きだ。一般産業でも、航空機・エネルギー分野の高単価の仕事が増える。
財務は無借金に近く、配当性向50%を続けられる。成長投資と還元を両立でき、ROE15%を保つ力がある。
慎重な見方
稼ぎの3割台後半は、東京エレクトロンとアプライドマテリアルズの2社に頼る。どちらかが加工を自社に取り込む、または複数の加工先に分けて価格を競わせれば、利益率は一気に下がる。装置メーカーは、部品を安く調達する圧力を常にかけている。
半導体の装置投資には、波がある。2023〜2024年の売上の足踏みが示すように、投資が止まれば加工の依頼も減る。いまの営業利益率24%は過去最高圏で、山にいる可能性を疑うべきだ。
設備投資は100億円と、減価償却の2倍を超える。工場を増やしたのに需要が戻らなければ、固定費が重くなる。海外の新拠点も、2027年3月期の海外子会社の売上は前期並みの計画で、伸びが一服している。
中国では、半導体装置の国産化とともに現地の加工業者が育つ。成熟した工程では、価格競争に巻き込まれる。一般産業は鉄鋼や産業機械の需要が横ばいで、数量が伸びない。
倍率も高くは置けない。顧客依存、投資の波、重い設備を考えれば、PERは10倍台前半が限度だ。
どちらに重みを置いたか
強気の見方は、数量の伸びと計画の実績に根拠がある。慎重な見方は、顧客の偏りと利益率の山という具体的な弱点を突いている。
筆者は、どちらも半分ずつ正しいと見る。中立の確率を最も厚くし、悲観の確率はやや多めに置いた。顧客2社の動き次第で利益が大きく変わる構造は、他の優良企業にはない弱さだ。
結果として、10年後の価値は今の時価総額を1割台半ば下回り、やや割高と出た。強気の筋書きが実現すれば今の値段を大きく超えるが、慎重な筋書きが当たれば下回る幅も広い。安全域は厚くない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,545 円2,703 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,290 円768 億円)。 今の値に割り戻すと 3,043 円1,810 億円、今との差 +11.4%、 期待の年率 +7.9%(資本コスト 7.8%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 8,456 円5,029 億円 | 1,676 円997 億円 | +271.0% | +14.0% | 1,013 円603 億円 |
| やや楽観 | 20% | 6,748 円4,014 億円 | 1,493 円888 億円 | +201.8% | +11.7% | 1,648 円980 億円 |
| 中立 | 35% | 5,214 円3,101 億円 | 1,379 円820 億円 | +141.4% | +9.2% | 2,307 円1,372 億円 |
| やや悲観 | 22% | 1,993 円1,185 億円 | 1,118 円665 億円 | +13.9% | +1.3% | 684 円407 億円 |
| 悲観 | 13% | 662 円394 億円 | 736 円438 億円 | −48.8% | −6.5% | 182 円108 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,545 円2,703 億円 | 1,290 円768 億円 | +113.7% | +7.9% | 5,835 円3,471 億円 |
今の株価時価総額 2,731 円1,624 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 10% AIの波に乗り、半導体向けが計画を超える 利益 272 億円 · PER 18.5 倍 · 株価時価総額 8,456 円5,029 億円
世界の装置投資は実質で2倍近くに伸び、トーカロの半導体向けは売上が3倍近くになる。微細化で皮膜の要求水準が上がり、高付加価値の皮膜が増える。顧客2社との関係も深まり、シェアが少し上がる。
海外では米国と東南アジアの拠点が顧客の工場に合わせて育ち、売上は2.5倍近くになる。一般産業でも、航空機・エネルギーの高単価の仕事が増える。
営業利益率は27%台後半に上がり、利益は今の約2.7倍になる。会社の2031年の計画を、その先も走り続ける姿だ。顧客の偏りは薄まり、東京エレクトロン以外の装置メーカーや海外の新規顧客が育つ。固定費は売上の伸びで吸収され、設備投資の回収も早い。ただし、ここまで揃う確率は高くない。
- 半導体・FPD:数量 2,340(世界WFE市場(億ドル・今の値段の実質、暦年))× 価格 31.8%(市場1億ドルあたりの売上(億円)=シェア × 150円 × 物価の倍率)→ 売上 744 億円・営業利益 231 億円。WFE 実質2.0倍・シェア1.12倍、営業利益率31%
- 一般産業:数量 1,250(国内外の産業向け受託溶射の市場(億円・今の値段の実質))× 価格 25.5%(市場1億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 319 億円・営業利益 70 億円。市場1.25倍・シェア1.03倍、営業利益率22%
- 海外子会社:数量 2,850(海外の半導体・産業向け受託溶射市場(億円・今の値段の実質))× 価格 13.5%(市場1億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 384 億円・営業利益 96 億円。市場1.9倍、営業利益率25%
倍率:事業の純利益 272 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 18.3% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.5 倍。全体の PER 18.49 倍、時価総額 5,029 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:装置投資が10年で2倍近くに伸び、顧客の工場の拡大に拠点が追いつき、シェアも上がるという連続した成功が必要で、確度は高くない。
やや楽観 20% 計画に近い成長、半導体が主役 利益 226 億円 · PER 17.8 倍 · 株価時価総額 6,748 円4,014 億円
半導体向けは世界の装置投資と同じ程度に伸び、売上は2.5倍になる。会社の2031年の計画線に近い成長で、その後も保守の仕事が積み上がる。
海外は東南アジアでも拠点を持ち、売上は2.2倍になる。一般産業は航空機とエネルギーの新しい用途で、数量が2割近く増える。
営業利益率は27%台前半を保ち、ROEは16%に届く。顧客の偏りは残るが、価格を迫られる局面は限定的だ。設備投資は計画どおりに稼働率が上がり、固定費は無理なくこなされる。顧客2社との取引は続くが、大きな値下げ要求は避けられる。筆者はこれを十分ありうる姿と見る。
- 半導体・FPD:数量 2,048(世界WFE市場(億ドル・今の値段の実質、暦年))× 価格 30.4%(市場1億ドルあたりの売上(億円)=シェア × 150円 × 物価の倍率)→ 売上 622 億円・営業利益 187 億円。WFE 実質1.75倍・シェア1.07倍、営業利益率30%
- 一般産業:数量 1,180(国内外の産業向け受託溶射の市場(億円・今の値段の実質))× 価格 25.0%(市場1億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 295 億円・営業利益 64 億円。市場1.18倍・シェア1.01倍、営業利益率21.5%
- 海外子会社:数量 2,475(海外の半導体・産業向け受託溶射市場(億円・今の値段の実質))× 価格 13.5%(市場1億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 334 億円・営業利益 80 億円。市場1.65倍、営業利益率24%
倍率:事業の純利益 226 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.2% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.8 倍。全体の PER 17.76 倍、時価総額 4,014 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の計画は前回も上回った実績がある。計画の線に近い成長は、現実的で筋が通る。
中立 35% 市場は伸びるが利益率は平常に戻る 利益 182 億円 · PER 17.0 倍 · 株価時価総額 5,214 円3,101 億円
世界の装置投資は実質で1.5倍に伸び、トーカロの半導体向けは売上が2倍強になる。シェアは小幅に上がる。
一般産業は数量が1割増える程度で、価格は物価並みに上がる。海外は1.4倍の数量で、売上が1.9倍になる。
営業利益率は24%を保ち、過去の山の水準の少し下で落ち着く。ROEは14%台に乗り、配当性向は6割弱で還元が進む。計画線よりはやや低めの、堅い成長だ。顧客の価格交渉は毎年のようにあり、値上げは物価に追いつく程度だ。海外の新拠点の立ち上がりも、計画よりやや遅れる。それでも、無借金に近い財務のおかげで、配当と投資は両立する。
- 半導体・FPD:数量 1,755(世界WFE市場(億ドル・今の値段の実質、暦年))× 価格 29.3%(市場1億ドルあたりの売上(億円)=シェア × 150円 × 物価の倍率)→ 売上 513 億円・営業利益 146 億円。WFE 実質1.5倍・シェア1.03倍、営業利益率28.5%
- 一般産業:数量 1,100(国内外の産業向け受託溶射の市場(億円・今の値段の実質))× 価格 24.8%(市場1億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 273 億円・営業利益 56 億円。市場1.1倍・価格は物価並み、営業利益率20.5%
- 海外子会社:数量 2,100(海外の半導体・産業向け受託溶射市場(億円・今の値段の実質))× 価格 13.5%(市場1億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 283 億円・営業利益 64 億円。市場1.4倍、営業利益率22.5%
倍率:事業の純利益 182 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.4% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.0 倍。全体の PER 17.04 倍、時価総額 3,101 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI投資の継続と、顧客の偏り・投資の波という弱点を足して割った中心の筋書き。最も厚くした。
やや悲観 22% 顧客の値下げ圧力で利益率が下がる 利益 113 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 1,993 円1,185 億円
装置投資は実質で15%増にとどまり、顧客に値下げを迫られて、半導体向けの価格は物価ほど上がらない。シェアは少し下がる。
一般産業は数量が減り、値上げも物価に届かない。海外の新拠点は立ち上がりが遅れ、固定費が重くなる。
営業利益率は15%前後まで下がり、利益は今より1割増にとどまる。ROEは10%台で、資本コストを少し上回る程度に落ちる。新工場の稼働が需要より先行し、減価償却の負担が重くなる。それでも赤字には落ちず、配当は維持される。事業は残るが、強い会社から普通の会社に近づく。顧客の価格交渉に押され、値上げが物価に届かない年が続く。
- 半導体・FPD:数量 1,346(世界WFE市場(億ドル・今の値段の実質、暦年))× 価格 27.6%(市場1億ドルあたりの売上(億円)=シェア × 150円 × 物価の倍率)→ 売上 371 億円・営業利益 89 億円。WFE 実質1.15倍・シェア0.97倍、営業利益率24%
- 一般産業:数量 970(国内外の産業向け受託溶射の市場(億円・今の値段の実質))× 価格 24.1%(市場1億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 233 億円・営業利益 40 億円。市場0.97倍・価格は物価に届かず、営業利益率17%
- 海外子会社:数量 1,650(海外の半導体・産業向け受託溶射市場(億円・今の値段の実質))× 価格 13.1%(市場1億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 216 億円・営業利益 39 億円。市場1.1倍・価格は物価に届かず、営業利益率18%
倍率:事業のROE 10.5%、k 7.75%。RONIC約9.4%、成長率4%から正当化PER 13.5倍。ここでは構造的に価格を押される筋書きなので、稼ぐ力から約7.4割の10倍に置いた。
確率:顧客2社の値下げ要求と半導体投資の波は、現実に起きている。慎重な見方の確率を厚めに置いた。
悲観 13% 内製化と価格競争で構造的に負ける 利益 46 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 662 円394 億円
装置メーカーが加工の一部を内製し、残りの加工先も複数に分けて価格を競わせる。中国では現地の加工業者が成熟工程を奪う。半導体向けの数量は減り、価格は物価の3分の1しか上がらない。
一般産業も、鉄鋼・産業機械の需要の縮みで数量が減る。海外の新拠点は稼働率が低く、固定費が利益を食う。
営業利益率は11%まで下がり、利益は今の半分以下になる。もう優良企業ではなく、設備を抱えた平凡な加工業になっている。設備投資で積んだ固定費が重くのしかかり、利益は大きく削られる。配当は純利益ではなく自己資本に応じた最低限の水準にとどまる。ここでは、時価総額は稼ぐ力から決まる。
- 半導体・FPD:数量 1,053(世界WFE市場(億ドル・今の値段の実質、暦年))× 価格 23.3%(市場1億ドルあたりの売上(億円)=シェア × 150円 × 物価の倍率)→ 売上 246 億円・営業利益 34 億円。WFE 実質0.9倍・シェア縮小、価格は物価の3分の1、営業利益率14%
- 一般産業:数量 850(国内外の産業向け受託溶射の市場(億円・今の値段の実質))× 価格 22.2%(市場1億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 189 億円・営業利益 23 億円。市場0.85倍・価格は物価に届かず、営業利益率12%
- 海外子会社:数量 1,350(海外の半導体・産業向け受託溶射市場(億円・今の値段の実質))× 価格 11.6%(市場1億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率)→ 売上 156 億円・営業利益 16 億円。市場0.9倍・価格は物価に届かず、営業利益率10%
倍率:稼ぐ力(純利益46億円)に、ROE5%がkを下回る分と価格を押される負けの筋書きを見込み、やや悲観(10倍)より低い8.5倍(上限1÷k=12.1倍の約7割)に置く。工場・土地などの売れる資産は、この水準と同程度とみて上乗せしない。
確率:顧客の内製化、中国勢の台頭、設備の重さの3つが重なる構造的な負け。起こる確度は低いが、無視できない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
半導体・FPD
半導体・液晶パネル製造装置の内部部品に、発塵防止や耐プラズマの皮膜をつける。最も利益率が高い。
| 数量世界WFE市場(億ドル・今の値段の実質、暦年) | 価格市場1億ドルあたりの売上(億円)=シェア × 150円 × 物価の倍率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,170 | 21.2% | 248 | 72 |
| 10 年後 中立 | 1,755 | 29.3% | 513 | 146 |
取り方:2026年3月期の半導体・FPD売上は約248億円(中期計画の目標から逆算)。2025年の世界WFE市場を約1,170億ドルとし、1億ドルあたり0.212億円(シェア換算で約0.14%、1ドル150円)とした。営業利益率29%は開示がなく、全社の141億円に合うように推定した。数量は実質の市場の大きさで、物価3%は価格の倍率に入れた。部品の加工は装置の稼働台数に連動するので、市場の伸びと完全には一致しない。 数量は世界の装置投資を実質(物価で割った値)で置いたもので、名目の伸びではない。
一般産業
鉄鋼・電力・産業機械・航空機・エネルギー向けの溶射と表面処理。
| 数量国内外の産業向け受託溶射の市場(億円・今の値段の実質) | 価格市場1億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,000 | 18.5% | 185 | 39 |
| 10 年後 中立 | 1,100 | 24.8% | 273 | 56 |
取り方:2026年3月期の一般産業売上は約185億円(中期計画の目標から逆算)。国内の受託溶射市場が約700億円で最大手が4割強を持つ(業種ノート)。海外の産業向けも合わせた対象市場を約1,000億円と推定し、シェア18.5%とした。営業利益率21%は推定。数量は市場の大きさで、物価3%は価格に入れた。
海外子会社
米国・台湾・中国・シンガポールなどの拠点。半導体装置メーカーの工場の近くで加工する。
| 数量海外の半導体・産業向け受託溶射市場(億円・今の値段の実質) | 価格市場1億円あたりの売上(億円)=シェア × 物価の倍率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,500 | 10.1% | 151 | 35 |
| 10 年後 中立 | 2,100 | 13.5% | 283 | 64 |
取り方:2026年3月期の子会社売上は約151億円(中期計画の目標から逆算。前期比+31.7%)。海外の対象市場を約1,500億円と推定し、シェア約10%とした。営業利益率23%は推定。物価3%は価格に入れた。
リスクと懸念
顧客2社への依存
東京エレクトロン向けが売上の27%、アプライドマテリアルズ向けが10%を占める。どちらかが加工を内製したり、加工先を分散して価格を競わせたりすれば、利益率は一気に下がる。
半導体投資の波
装置投資が止まれば、部品の加工依頼も減る。いまの営業利益率24%は過去最高圏で、山の上にいる可能性がある。設備投資が減価償却の2倍を超えているので、需要が落ちると固定費が重い。
中国の国産化と価格競争
中国は半導体装置の国産化を急ぎ、現地の加工業者も育つ。成熟した工程では価格競争になりやすい。輸出規制の強弱で、中国向けの数量の見通しが振れる。
成長投資の実行
5年で成長投資に400〜600億円を使い、北九州・東京の新棟や米国アリゾナ、東南アジア拠点を立ち上げる。需要が追いつかなければ固定費がのしかかる。海外子会社は2027年3月期に前期並みの計画で、伸びが一服している。
人件費と人手の確保
加工は職人と設備の積み重ねで、賃上げは年4%の方針だ。物価が上がる中、値上げが通らなければ利益率は削られる。人手不足で受けられる仕事の量が決まる面もある。
技術の置き換え
微細化の進展で皮膜の要求は上がるが、装置の設計が変われば、使う皮膜の種類も変わる。新しい工程で他社の皮膜が採用されると、既存の実績が生きない恐れがある。
今後の分かれ目
- 東京エレクトロン向けの売上比率がさらに高まったら
- 数量は伸びるが、価格を迫られる力が強まる。慎重な筋書きの確率を上げて見る。
- 2027年3月期の半導体向けが計画の310億円を上回り続けたら
- 中立よりも強気の筋書きの確率を上げてよい。ただし利益率が先に上がるかを必ず確かめる。
- 海外子会社の売上が2期続けて前期を下回ったら
- 海外拠点の拡大が需要に追いついていない。中立の数量の伸びを下げる。
- 装置メーカーが皮膜加工を内製化すると発表したら
- 悲観の構造的な負けに近づく。確率を引き上げ、倍率も下げる。
- 営業利益率が27%を超えて定着したら
- 皮膜の付加価値が上がった証拠。楽観側へ寄せる。
- 設備投資が続いても営業利益率が20%を割ったら
- 固定費の負担が表れている。中立の利益率を下げる。
見ておくもの
- 東京エレクトロン・アプライドマテリアルズ向けの売上比率(有価証券報告書)
- 半導体・FPD向けの四半期の売上と営業利益率
- 海外子会社の売上と新拠点(アリゾナ・東南アジア)の稼働
- 設備投資額と減価償却費の差、営業キャッシュフロー
倍率と資本コストの決め方
半導体は世界WFE市場×シェアで、一般産業・海外は市場×シェアで積み、物価3%は価格に入れた。倍率は資本コスト7.75%と成長率4%から出した利益ベースの正当化PERで、中立はその8.3割、強気側は8.5〜9割、慎重側は構造的な負けから別に置いた。今の株価・過去のPER・同業の倍率は使っていない。中立のPERは1÷k(12.1倍)を下回らせていない。10年後の数字は家賃を営業費用に入れる今の形のまま置いた(新リース会計基準の影響は小さい)。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14.8→18.49 倍・やや楽観 PER 13.46→17.76 倍・中立 PER 12.63→17.04 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に品質の調整+0.75%を足した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 7.75%。