結論
稲葉製作所は、庭先の「イナバ物置」で知られる鋼製物置の国内トップ企業だ。ほかにオフィス用のスチール家具も手がける。愛知県の犬山工場、千葉の柏工場、群馬の富岡工場を持ち、連結の従業員は約1,070人。筆者の結論は、事業は安定しているが稼ぐ力が資本に見合わず、現金の厚みを足しても今の値段は割高、である。
稼ぎ方は単純だ。物置は代理店や販売店を通して売り、売上419億円の7割を占める。営業利益率は物置が8%台、オフィス家具が2〜3%と差が大きい。
財務は極めて強い。現金は約160億円で借入はゼロ。自己資本比率は74%、自己資本は440億円ある。だが、この厚みが利益率を押し下げている。ROEは過去10年の中央値で3.6%と、資本コストにまったく届かない。
ここで置いた前提が効く。物価は年3%で10年に1.34倍、為替は固定。価格の転嫁は進むが、住宅数の減少で数量は伸びない。中立の営業利益率は4.6%、純利益は19億円と置いた。
事業に要らない現金を90億円と見て、価値にそのまま足した。それでも、確率で重みを付けた本質価値は今の時価総額を4割近く下回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、稲葉は「堅実だが資本を遊ばせている会社」だ。
事業の持続力はある。物置は寡占で、買い替え需要があり、10年後も庭先から消えることはない。ただ、持続するのは需要であって、高い利益率ではない。オフィス家具はお荷物に近い。
オーナー利益で見ると、減価償却と設備投資はほぼ釣り合い、維持にお金がかからない点は良い。純利益16億円のほぼ全てが株主の手元に残せる。ただ、自己資本440億円に対して利益が少なく、ROE3.6%は資本コストの半分にも満たない。
経営は誠実で、借金を避け、還元性向も高い。一方、160億円の現金の使い道は示されず、買収も大型投資もしない。創業家の持株が27.69%に膨らみ、少数株主への還元はしてくれるが、資本効率の改善を急ぐ圧力は弱い。
安全域は、現金の厚みが与える。事業に要らない現金90億円を丸ごと価値に足しても、確率で重みを付けた本質価値は今の時価総額に届かない。割安ではなく、現金を足しても割高の程度は大きい。
何で稼ぐ会社か
売上の約7割が鋼製物置、約3割がオフィス家具だ。
鋼製物置事業(売上292億円、セグメント利益24.7億円)は、庭やベランダに置く物置を製造し、全国の代理店・販売店経由で売る。国内で最大手の一つで、市場は寡占的だ。主要な販売先はユアサ商事で、売上の28.7%(120億円)を占める。配送センターは全国に22か所あり、設置まで含めて届けるネットワークが強みになる。
オフィス家具事業(売上127億円、セグメント利益3.2億円)は、書庫・ロッカー・デスクなどのスチール製品だ。大手が並ぶ競争の激しい市場で、価格が上がりにくく、利益率は2.5%と物置の3分の1に満たない。
工場の土地は大きい。犬山が13.0万㎡(帳簿21.7億円)、柏が9.9万㎡(同34.7億円)、富岡が29.5万㎡(同11.5億円)。帳簿は安く、含み益があるとみられる。
全社費用は営業利益ベースで約9億円。セグメント利益の合計27.9億円から差し引くと、連結営業利益は約19億円になる。人員は物置668人、オフィス家具343人、全社62人。
優良さと弱いところ
堀は、物置の国内トップシェアと全国の配送・設置網にある。台風や降雪への耐久性、設置までの面倒を引き受ける販売店網は、新規の参入者が一朝一夕に作れない。物置の利益率が8%台を保つのは、この寡占と流通網のためだ。
ただ、堀の効き目は会社全体では薄い。営業利益率は過去12年で最高7.8%、最低1.2%(2018年7月期)。中央値は5%台にとどまる。オフィス家具は価格競争が激しく、利益率は2〜3%だ。
資本効率が最大の弱点になる。ROEは過去10年の中央値3.6%。自己資本の4割近い現金160億円を使わず積み上げているため、事業の稼ぐ力を薄めている。利益が出ても、資本コストを超える水準にならない。
需要は住宅の戸数と買い替えに結びつく。人口減で新築は減る一方、既存住宅の買い替えと台風・雪対策の需要が下支えする。価格は鋼材の値上がりを数年かけて転嫁できるが、遅れる年がある。
経営は慎重で、無借金を守る。総還元性向は年によって33.6%から82.6%まで振れ、直近の2025年7月期は76.5%だった。堅実だが、現金の使い道に積極性が欠ける。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
鋼製物置は、持ち家の庭やベランダに置く収納として定着した、成熟した市場だ。国内ではイナバのほか数社が主要な供給者で、寡占に近い。需要を左右するのは新築住宅の戸数、既存住宅の買い替え、そして台風や大雪などの災害だ。
追い風と逆風が混ざる。人口減で住宅の戸数は10年かけて緩やかに減るが、共働きの増加で宅配ボックスや自転車置き場といった付加品が伸びている。災害対策への関心も高い。数量はほぼ横ばいか、わずかに減るとみるのが妥当だ。
価格は鋼材(亜鉛めっき鋼板)と人件費の上昇を数年遅れで転嫁してきた。2022年から2024年にかけての値上げで利益率は回復した。ただし2025年7月期は営業利益が約19億円へ落ち、原価の上昇と販促費が響いた。
オフィス家具は、在宅勤務の定着で需要が減った後、オフィスの再整備で戻ったが、利益率は低い。競合はオカムラ、コクヨ、イトーキなどの大手で、価格競争が厳しい。鉄の収納家具は成熟分野で、稲葉は規模で劣る。
10年の構造は、数量が緩やかに減るなかで、物価上昇を価格へ移せるかどうかだ。物置の寡占が価格を守れるかが、全体の利益率を決める。
資本政策と M&A
還元は積極的だ。配当と自己株式の取得を合わせた総還元性向は、2025年7月期が76.5%、2024年7月期が57.3%、2021年7月期が82.6%。年によって振れるが、純利益の過半を戻す方針は続いている。自己株式は帳簿で約18億円ある。
投資は慎重だ。前期の設備投資は22.7億円で、減価償却の約20億円とほぼ同じ。成長のための大きな投資はなく、維持が中心だ。
財務は、現金約160億円、借入ゼロ。当座貸越枠が73.5億円あり、資金繰りは盤石だ。自己資本比率は74%で、純現金が時価総額の65%に相当する。
株主構成は、イナバホールディングス(創業家の資産管理会社とみられる)が27.69%を持ち、稲葉姓の個人が各2〜4%ずつ。創業家関連で4割を超える。10年前の19.9%から買い増しており、支配力は強まっている。取引先持株会が2.92%。
政策保有株は9銘柄で帳簿4.44億円と小さい。株主優待は確認できなかった。2025年8月1日に吸収合併による組織再編を行った。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
物置は国内で選ばれ続ける寡占の事業だ。台風・大雪・防犯への関心が高まり、買い替え需要は底堅い。値上げを複数年にわたって通せており、2024年7月期は営業利益が31億円、利益率7.2%に達した。この水準に戻れば、純利益は24億円に届く。
現金160億円という武器がある。事業に要らない90億円を、自社株買いや増配で戻せば、一株あたりの価値は大きく動く。総還元性向はすでに5〜8割あり、創業家の持株が高いため、少数株主を無視する動機も弱い。
オフィス家具のてこ入れ余地も大きい。利益率2.5%の事業が5%に上がれば、全体の営業利益は6億円ほど増える。吸収合併による組織再編(2025年8月)で、コスト構造も見直されるはずだ。
10年の価格上昇を物置が転嫁し、数量の減少を付加品が補えば、売上は585億円、営業利益は39億円まで伸びる。借金がなく、固定費の重さに潰されないため、悪い年でも赤字になりにくい。10年の積み上がりで還元は大きくなる。
慎重な見方
ROEが3.6%と資本コストの半分以下で、会社は価値を生んでいない。自己資本440億円のうち、現金160億円は何にも使われず、利益率を押し下げている。この状態が10年続いてきた。続く可能性が高い。
需要の構造が縮む。人口減で新築住宅は減る。買い替え需要があっても、数量が横ばいを保つのは簡単ではない。2018年7月期は営業利益4億円(利益率1.2%)まで落ち、2017年も7億円だった。住宅の波と鋼材の高騰が重なれば、再び本業が薄くなる。
オフィス家具は構造的に不利だ。大手のオカムラ・コクヨ・イトーキには規模で勝てず、利益率は2〜3%。需要は在宅勤務の定着で縮み、価格競争が厳しい。赤字になればグループ全体の足を引っ張る。
創業家関連で持株は4割を超え、イナバホールディングスは買い増しを続けている。支配が強まるほど、現金の使い道に外からの圧力は働かない。現金は90億円だけ価値に足したが、実際に株主に戻る保証はない。全社費用の約9億円の重さも、売上が減ると利益率を圧迫する。
どちらに重みを置いたか
中立を中心に、やや慎重な見方が勝つ。物置の寡占と現金の厚みは確かな支えだが、ROEが資本コストに届かない構造は10年変わらず、数量も増えない。強気の見方の最も強い点は、現金90億円の還元余地と値上げの実績だ。それは下値を支えるが、上値を押し上げるには事業の利益率の改善が要る。確率は中立を中心に置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/07 期)
確率で加重した株価時価総額 1,768 円278 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 543 円85 億円)。 今の値に割り戻すと 1,188 円187 億円、今との差 −24.7%、 期待の年率 +3.9%(資本コスト 8.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 2,886 円454 億円 | 802 円126 億円 | +133.7% | +8.9% | 295 円46 億円 |
| やや楽観 | 20% | 2,394 円377 億円 | 694 円109 億円 | +95.7% | +6.9% | 618 円97 億円 |
| 中立 | 38% | 2,048 円322 億円 | 606 円95 億円 | +68.2% | +5.3% | 1,008 円159 億円 |
| やや悲観 | 24% | 929 円146 億円 | 400 円63 億円 | −15.8% | −1.7% | 319 円50 億円 |
| 悲観 | 10% | 573 円90 億円 | 132 円21 億円 | −55.3% | −7.7% | 71 円11 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,768 円278 億円 | 543 円85 億円 | +46.4% | +3.9% | 2,311 円364 億円 |
今の株価時価総額 1,578 円248 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 楽観:値上げが通り、物置の利益率が10%に戻る 利益 30 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 2,886 円454 億円
台風・大雪・防犯への関心が高まり、物置の買い替えが堅調で、数量は10年で5%増える。値上げが通り、物置の営業利益率は2024年7月期に近い10%に戻る。オフィス家具は5%まで改善する。売上は585億円、営業利益は39億円に伸びる。現金は90億円を事業に要らない分とみて、そのまま価値に足す。総還元性向は55%で、自己株式の取得も続く。自己資本は10年で543億円に増え、純利益30億円のうち55%を戻しても厚みが保たれる。過去の最高水準(2024年7月期の営業利益31億円)を超える姿で、寡占の値決め力が最も効いた場合に当たる。
- 鋼製物置事業:数量 38.4(販売台数(万台、推定))× 価格 110,400(1台あたり平均単価(円、推定。名目))→ 売上 423 億円・営業利益 42 億円。営業利益率10.0%
- オフィス家具事業:数量 20.1(販売点数(万点、推定))× 価格 80,400(1点あたり平均単価(円、推定。名目))→ 売上 162 億円・営業利益 8 億円。営業利益率5.0%
倍率:事業の純利益 29 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.4% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)90 億円。全体の PER 12.5 倍、時価総額 454 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:値上げが通り、物置の利益率が2024年7月期の水準を超える筋書き。寡占と住宅の持ち直しが重なる必要があり、1割弱に置いた。
やや楽観 20% やや楽観:付加品が伸び、物置の利益率が9%台に 利益 24 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 2,394 円377 億円
物置は付加品(宅配ボックス・自転車置き場)が伸び、数量が10年で2%減にとどまる。値上げの転嫁が遅れず、物置の営業利益率は9.2%、オフィス家具は4%に改善する。売上は540億円、営業利益は30億円になる。吸収合併による組織再編のコスト削減も効く。余った現金は引き続き還元される。過去12年の高い年(2021年・2024年7月期)に近い水準で、純利益は24億円。自己資本は529億円に積み上がり、総還元性向は55%で続く。ただし数量の減少を価格が補う前提は崩れていない。オフィス家具の改善は組織再編後の費用削減が中心で、市場そのものが伸びるわけではない点に注意する。
- 鋼製物置事業:数量 35.8(販売台数(万台、推定))× 価格 108,800(1台あたり平均単価(円、推定。名目))→ 売上 389 億円・営業利益 36 億円。営業利益率9.2%
- オフィス家具事業:数量 19.0(販売点数(万点、推定))× 価格 79,200(1点あたり平均単価(円、推定。名目))→ 売上 151 億円・営業利益 6 億円。営業利益率4.0%
倍率:事業の純利益 23 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.2% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)90 億円。全体の PER 12.5 倍、時価総額 377 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:物置の付加品と値上げの転嫁がうまく進み、過去の高い年に近づく形。2021年・2024年に営業利益が28〜31億円まで達した実績があり、2割を置いた。
中立 38% 中立:数量は減るが価格転嫁で、利益率は現状並み 利益 19 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 2,048 円322 億円
物置の数量は住宅戸数の減少で10年で8%減るが、価格は物価と鋼材の転嫁で1.34倍になる。売上は約500億円。物置の営業利益率は8.5%で現在とほぼ同じ、オフィス家具は3%。全社費用は物価で膨らみ、営業利益は22.9億円、純利益は19億円になる。現金90億円は事業に要らないとみる。自己資本は518億円まで積み上がり、総還元性向は55%で配当と自己株式の取得に回る。過去12年の中央値(5%台)より営業利益率が低いのは、数量減と全社費用の上昇を織り込んだため。物置の寡占が価格を守る一方、オフィス家具は大手との競争で伸びず、全体では現状維持に近い姿になる。
- 鋼製物置事業:数量 33.6(販売台数(万台、推定))× 価格 107,200(1台あたり平均単価(円、推定。名目))→ 売上 360 億円・営業利益 31 億円。営業利益率8.5%
- オフィス家具事業:数量 18.0(販売点数(万点、推定))× 価格 78,000(1点あたり平均単価(円、推定。名目))→ 売上 140 億円・営業利益 4 億円。営業利益率3.0%
倍率:事業の純利益 18 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.3% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)90 億円。全体の PER 12.5 倍、時価総額 314 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業界の数量減と価格転嫁の見通しに沿う中心。物置の利益率が現状並みで、全社費用が物価で増える。
やや悲観 24% やや悲観:住宅の波と鋼材高で、物置の利益率が6%台に 利益 10 億円 · PER 4.3 倍 · 株価時価総額 929 円146 億円
住宅の波と鋼材の高騰が重なり、物置の数量は15%減り、価格の転嫁も追いつかず、物置の営業利益率は6.5%に落ちる。オフィス家具は在宅勤務で3割減り、利益率は1%。売上は425億円、営業利益は10億円にとどまる。現金は運転資金と配当に食われ、余った現金の戻りも細る。純利益は10億円弱まで落ち、総還元性向は50%に下がる。2017〜2018年7月期の営業利益4〜7億円に近い低迷期の再来で、無借金なので赤字には沈まないが、資本の稼ぐ力はほぼ消える。オフィス家具は需要の減少で採算が悪化し、全社費用の約12億円(物価調整後)が重く残る。
- 鋼製物置事業:数量 31.0(販売台数(万台、推定))× 価格 102,400(1台あたり平均単価(円、推定。名目))→ 売上 318 億円・営業利益 21 億円。営業利益率6.5%
- オフィス家具事業:数量 14.8(販売点数(万点、推定))× 価格 72,000(1点あたり平均単価(円、推定。名目))→ 売上 107 億円・営業利益 1 億円。営業利益率1.0%
倍率:ROE2.0%、RONIC5.0%、g4%、k8.0%で正当化PERは5.0倍。その85%の4.3倍。薄利の構造が続き、伸びても価値が増えない。余った現金は75%を足す。
確率:住宅の波と鋼材の高騰が重なり、利益率が落ちる形。2017〜2018年7月期に営業利益が4〜7億円まで落ちた実績があり、厚めに置く。
悲観 10% 悲観:住宅の構造的な減少でオフィス家具が赤字に 利益 −5 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 573 円90 億円
住宅着工が構造的に減り、物置の数量は3割減る。鋼材の上昇を転嫁できず、物置の利益率は4%に落ちる。オフィス家具は需要が半減して赤字になる。売上は305億円、営業赤字は8億円に転じる。全社費用の重さが赤字を深くする。現金が減り、資産の売却で値が付く姿になる。純利益は5億円の赤字に沈み、総還元性向は40%に下がる。借入がないため倒産は遠いが、事業の価値ではなく現金と土地を売った時の価値で値が付く。持株の4割が創業家に固まるため、買い手は限られる。全社費用の約12億円(物価調整後)は売上が減っても残り、赤字を深くする。
- 鋼製物置事業:数量 25.6(販売台数(万台、推定))× 価格 92,000(1台あたり平均単価(円、推定。名目))→ 売上 235 億円・営業利益 9 億円。営業利益率4.0%
- オフィス家具事業:数量 10.6(販売点数(万点、推定))× 価格 66,000(1点あたり平均単価(円、推定。名目))→ 売上 70 億円・営業利益 −6 億円。営業利益率-8.0%
倍率:営業赤字で稼ぐ力は測れない。床は現金と土地の売却額で測り、今の自己資本440億円に対するPBR0.205倍(時価総額90億円)に置いた。
確率:構造的な需要減とオフィス家具の赤字が重なる複合の筋書き。借金がなく倒産リスクは低いため、1割に置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
鋼製物置事業
庭やベランダに置く鋼製物置を、代理店・販売店経由で売る。国内トップ。売上の約70%。
| 数量販売台数(万台、推定) | 価格1台あたり平均単価(円、推定。名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/07 | 36.5 | 80,000 | 292 | 25 |
| 10 年後 中立 | 33.6 | 107,200 | 360 | 31 |
取り方:鋼製物置の売上292.2億円を、1台あたり平均8万円の物置が年36.5万台売れたと置いて分けた(推定。小型から大型まで含めた平均)。数量は、人口減による住宅戸数の減少と、買い替え・付加品の増加が拮抗し、中立は10年で0.92倍。価格は鋼材と人件費の上昇を転嫁し、10年1.34倍。市場の大きさ:国内の鋼製物置の市場規模は検索で取れず、推定しない。営業利益はセグメント利益24.7億円。全社費用約9億円は別に置いた。
オフィス家具事業
書庫・ロッカー・デスクなどのスチール製オフィス家具。売上の約30%。
| 数量販売点数(万点、推定) | 価格1点あたり平均単価(円、推定。名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/07 | 21.1 | 60,000 | 127 | 3 |
| 10 年後 中立 | 18.0 | 78,000 | 140 | 4 |
取り方:オフィス家具の売上126.9億円を、1点あたり平均6万円の書庫・ロッカー・デスクが年21.1万点売れたと置いて分けた(推定)。数量は、在宅勤務の定着とペーパーレス化で中立は10年で0.85倍。価格は鋼材の上昇を一部転嫁し、10年1.30倍(物置より低い)。営業利益はセグメント利益3.2億円。競合はオカムラ・コクヨ・イトーキなどの大手。
リスクと懸念
住宅戸数の減少と買い替えの鈍化
物置の需要は新築・買い替えに結びつく。人口減で住宅が減れば、数量は10年で1割近く減る。2018年7月期は営業利益4億円(利益率1.2%)まで落ちた。
鋼材価格と転嫁の遅れ
亜鉛めっき鋼板の値上がりを数年遅れで価格に移している。転嫁が遅れた年は利益率が落ちる。2025年7月期は営業利益が約19億円へ落ちた。
オフィス家具の低収益
売上127億円に対し、セグメント利益は3.2億円で利益率2.5%。大手が並び、価格競争が厳しい。赤字になれば全体の足を引っ張る。
現金の使い道が示されない
現金160億円、借入ゼロだが、買収や大型投資は見えない。創業家関連が4割を超え、資本効率の改善を急ぐ圧力は弱い。ROEは3.6%にとどまる。
販売先の集中
ユアサ商事が売上の28.7%(120億円)を占める。取引条件が変わると、販売網が揺れる。
創業家の持株の増加
イナバホールディングスの持株は10年で19.9%から27.69%へ増えた。少数株主の意見が通りにくくなる反面、買収は成立しにくい。
今後の分かれ目
- 営業利益率が物置で9%、全体で6%を2年続けて超えたら
- やや楽観・楽観に確率を移し、価値は今より上がる。
- 営業利益が10億円を割る期が出たら
- やや悲観・悲観に確率を移す。住宅の波と鋼材高の重なりを織り込む。
- 自己株式の大規模取得や特別配当が決まったら
- 現金の戻り方を1.0に近づけ、余った現金の価値を引き上げる。
- オフィス家具が売却・縮小されたら
- 低収益事業が外れるので、全体の利益率の前提を上げる。
- イナバホールディングスが株式公開買付けを提案したら
- TOBによる非上場化の確率を織り込み直す(同社の10年以内TOB確率は2割強)。
見ておくもの
- 物置の営業利益率(9%超えが続くか)
- オフィス家具の営業利益
- 総還元性向と自己株式の取得
- 現金・預金の残高(160億円の使い道)
- イナバホールディングスの持株比率
倍率と資本コストの決め方
物置は台数×1台あたりの単価、オフィス家具は点数×単価で積み、価格は物価を転嫁した水準に置いた(ともに推定)。為替は固定。過去は2024年7月期に営業利益31億円(利益率7.2%)まで上がったが、10年の中立は4.6%にとどまる。過去12年の中央値(5%台)より低いのは、数量が減る前提による。本来は利益ベースの正当化PERで(1−g÷RONIC)÷(k−g)の9割だが、ROEが資本コストより低いので1÷kが上限になる。株価の現在値(PER・PBR)は参考にとどめ、筋書きから出した。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10→12.5 倍・やや楽観 PER 8.9→12.5 倍・中立 PER 7.7→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%にqualityを足して決める。事業が傾いてはいないので上乗せは置かない。