結論
日東精工は京都府綾部市に本社を置く、ねじとねじ締め機のメーカーだ。売上の7割強が自動車や電子機器に使う小さな精密ねじで、残りがねじ締め機などの装置と計測機器になる。
筆者の結論は適正だ。今の値段は、10年後の中立の筋書きから割り引いた価値とほぼ重なる。派手な割安ではないが、割高でもない。
事業の質は堅い。営業利益率は過去12年、いつも4%を上回り、赤字の年がない。ねじ締め機は国内トップ、世界でも2位だ。借金は小さく、自己資本比率は6割を超える。
弱い点は、資本の効率と顧客の偏りだ。自己資本利益率(ROE)は6%前後で、資本コストの8%強に届かない。自動車とゲーム機への依存も大きい。会社は2028年に営業利益60億円、ROE9%を掲げるが、今期の計画は営業利益38億円で、道のりは遠い。
鍵はインドと装置事業だ。昨年買ったインドの部品会社を伸ばせるか。ねじ締め機で海外M&Aを成功させられるか。その成否が、10年後の利益を3割ほど動かす。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見れば、日東精工は「安心して持てるが、高い利回りは期待しにくい」会社だ。
オーナー利益は、営業キャッシュフローから維持に必要な投資を引いた分で見る。営業キャッシュフローは約29億円、設備投資は17億円で、差は12億円ほどだ。これは純利益22億円の半分強にすぎない。成長と海外の工場に利益の多くを再投資する会社なので、株主が自由に使える利益は、見かけの利益より小さい。
再投資が価値を生むかどうかは、ROEが資本コストを超えるかで決まる。今のROEは6%、資本コストは8%強。超えるには、営業利益率を2ポイント上げる必要がある。中期計画はそれを目指すが、過去の最高(9.9%)に近い水準だ。
安全域は、今の値段にはほとんどない。時価総額274億円に対し、10年後の中立の価値を割り引くと同じ水準になる。割安ではないが、悲観の床も堅い。純現金と在庫、設備の価値があり、事業が縮んでも、時価総額の半分強は残る。
経営の姿勢は誠実で、借金を増やして拡大に走ることもない。ただし、ROEを引き上げる具体的な手段は、まだ数字として見えない。
何で稼ぐ会社か
事業は4つある。2025年12月期の売上502億円の内訳は、ファスナーが371億円(74%)、産機が63億円、制御が67億円、メディカルが2億円だ。
ファスナー事業は、会社の稼ぎ頭であり、営業利益の3分の2を占める。主力は精密ねじ、つまり機器の中で使う小さなねじだ。自動車では、運転支援システム(ADAS)のカメラやセンサーを組み付けるねじが伸びた。ゲーム機向けも大きく、生成AI向けのデータセンターでは、特殊な締結部品「CPグリップ」の採用が増えている。昨年3月にはインドの冷間圧造(金属を型で打って成形する加工)会社、ヴァルカン・フォージを買い、第2四半期から連結した。インドの売上は1年で10億円ほど増えた。
産機事業は、自動ねじ締め機、リベットかしめ機、搬送コンベア、ロボットを作る。組み立て工場の自動化の装置だ。自動ねじ締め機は国内トップで、海外では2位だと会社は説明する。顧客は自動車(電池やモーターの組み立て)とデータセンター、そしてインドや米国の新工場だ。
制御事業は流量計、地盤調査機、分析装置、自動車部品の検査機を扱う。メディカルは医療用照明で、まだ赤字の小さな芽だ。
生産と販売は日本、アジア、米国、ドイツ、インドに広がる。連結従業員は2,267人で、うち1,768人がファスナーに属し、海外の比重が大きい。
優良さと弱いところ
優良な部類に入る。ただし堀(他社がまねできない強み)は、強くはない。
強みは、顧客の組み立てラインに食い込んだ技術と供給の信頼だ。精密ねじは、ねじ1本の不良が製品全体の不良につながるため、顧客は簡単に取引先を替えない。ねじ締め機も、同じ工場のねじと一体で売れる。
弱みは、値段を決める力が限られることだ。会社自身が、販売価格の下落圧力を事業のリスクに挙げている。自動車の大手は毎年の値下げを求め、原材料の鋼線の値上がりを転嫁するには時間がかかる。
数字はそれを裏付ける。営業利益率は2014年から2025年まで4.0%〜9.9%の間にあり、ここ3年は6〜7%台だ。ROEは5〜8%台で、10%を超えた年がない。会社の目標(ROE9%以上)はこの上限を超える水準だ。
財務は健全だ。現金が94億円、借入金が27億円で、純現金が約67億円ある。営業キャッシュフローは年30億円前後で、設備投資と配当を自前の金でまかなえる。経営は借金に頼らず、買収も小さな規模で積み重ねてきた。この慎重さは評価できるが、資本の効率を上げる手段に乏しい点が、株主の目には物足りない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
需要の源は3つに分かれる。
ひとつ目は自動車だ。電動化、運転支援、車載電子の増加で、車1台あたりの小さなねじの数は増える。ただし車の販売台数が増えるわけではなく、電気自動車(EV)の計画見直しと米国の関税が、2025年の産機の設備投資を押し下げた。
ふたつ目は電子機器だ。ゲーム機は新型機の発売で数量が大きく動く。今期の第2四半期後半は、生産調整から受注が戻りつつあると会社は話す。データセンターは生成AIの需要で、サーバー向けの締結部品が伸びている。
3つ目はインドを中心としたアジアの工場新設だ。日本の工場の自動化投資は頭打ちだが、インド、ベトナム、米国では新しい工場が建つ。ねじ締め機は、ここで売れる。
競争は、ねじと装置で形が違う。ねじは国内外に多数のメーカーがあり、価格競争が厳しい。装置は海外のアトラスコプコ、ボッシュ・レックスロス、国内のエスティックなどが競合になる。市場規模の公的な統計は確かめられなかった。
物価が年3%で上がる中、数量の伸びが緩やかでも、売上は名目で伸びる。問題は、コストの上昇を価格に載せられるかだ。ねじは載せにくく、装置は載せやすい。
資本政策と M&A
資本の使い方は堅実だが、効率はまだ低い。
配当は累進方針で、下限を年9億円弱としている。純資産に対する配当(DOE)は、中期計画の最終年度までに3%以上を目標にする。配当性向は4割弱だ。自己株式は発行済み株の1割近くある。
投資は大きく増える。中期計画の3年間で、設備投資、研究開発、M&Aを合わせて210億円規模を見込む。営業キャッシュフローで足りない分は借入で補う。設備投資は海外の拠点、特にインド、ベトナム、欧州に優先配分する。産機事業の海外M&Aも進めると説明している。
M&Aの実績は、昨年のインドのヴァルカン・フォージが最も大きい。買収にかかる費用3億円を一度に販売管理費へ計上し、前期の利益を押し下げた。買収後ののれんと、新工場の稼働率が、今後の評価点になる。
大株主は信託銀行が中心で、親会社はない。三菱UFJ系は今年6月、政策投資分の保有を5.7%から4.3%に減らした。政策保有株は少なく、縮減の方針だ。TOBの兆しは見えない。
株主優待は今年度から導入された。額は小さく、還元全体の中では大きくない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
データセンターと運転支援、そしてインドという3つの波が重なる。生成AIの投資が続き、サーバー向けの締結部品「CPグリップ」の採用は広がる。自動車では、運転支援のカメラとセンサーの数が車1台あたりで増え続け、精密ねじの使用量は伸びる。ゲーム機も新型機の発売で数量が戻る。
インドは、自動車と二輪、農業機械の巨大な市場だ。ヴァルカン・フォージを足場に、現地の冷間圧造部品をさらに取り込める。3つの工場を建て、日系企業にも拡販する計画は、すでに動き出している。
産機は、EVの計画見直しが一巡したあと、電池とモーターの組み立てで再び伸びる。海外シェア2位の地位を使い、米中依存を減らしてインド、欧州、ベトナムで新規を取る。M&Aで装置の品ぞろえも増える。会社は2028年に売上632億円、営業利益60億円を目指しており、その計画が1〜2年遅れで実現する。
営業利益率は過去の最高に近い9%台に上がる。ROEは10%を超え、DOE3%の配当も上回る。この筋書きなら、10年後の時価総額と還元を合わせた額は、今の時価総額の2倍を超える。
慎重な見方
自動車とゲーム機の2本足に頼りすぎている。EVの計画見直しと米国の関税で、産機の設備投資はすでに押し下げられた。ゲーム機の精密ねじは、新型機の発売で急増し、需要が一巡すれば急減する。前期も、下期は生産調整で受注が一時落ちた。
価格の弱さは構造的だ。自動車の大手は毎年の値下げを求める。中国やインドの現地メーカーが、品質を上げて低価格で攻めれば、日東精工の精密ねじも例外ではない。インドで買った会社は低単価で、売上が増えても利益率を引き下げる。
資本の効率も低い。ROEは6%前後で、会社が掲げる9%には遠い。今期の営業利益38億円の計画でも、中期計画が示す2028年の60億円には、年率16%で伸びる必要がある。これは過去12年に一度もない伸びだ。
買収も危うい。のれんの減損、新工場の稼働率の低迷、為替差損は、すべて利益を削る。前期は経常利益が営業利益を下回り、為替差損が響いた。今の値段は、こうした失敗のリスクを十分に織り込んでいない。
どちらに重みを置いたか
事業の堅さでは強気の見方に分がある。一方、資本の効率と価格の弱さでは慎重な見方が正しい。中立の筋書きは、売上が年5%弱で伸び、営業利益率は過去の中央値7.3%に戻る形とした。会社の中期計画よりは慎重だ。確率は中立を最も厚くし、やや悲観を楽観側より少し厚くした。悲観でも会社は黒字を保ち、純現金と在庫の価値が床になる。結論は適正で、今の値段は妥当な期待を織り込んでいる。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 1,398 円517 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 354 円131 億円)。 今の値に割り戻すと 944 円349 億円、今との差 +29.5%、 期待の年率 +9.2%(資本コスト 7.2%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 2,881 円1,065 億円 | 514 円190 億円 | +365.7% | +16.6% | 272 円100 億円 |
| やや楽観 | 22% | 2,009 円743 億円 | 433 円160 億円 | +235.0% | +12.9% | 537 円199 億円 |
| 中立 | 38% | 1,447 円535 億円 | 365 円135 億円 | +148.5% | +9.5% | 688 円255 億円 |
| やや悲観 | 25% | 591 円218 億円 | 270 円100 億円 | +18.1% | +1.7% | 215 円80 億円 |
| 悲観 | 7% | 406 円150 億円 | 162 円60 億円 | −22.1% | −2.5% | 40 円15 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,398 円517 億円 | 354 円131 億円 | +140.4% | +9.2% | 1,752 円648 億円 |
今の株価時価総額 729 円270 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 8% データセンター・運転支援・インドが重なる 利益 64 億円 · PER 16.6 倍 · 株価時価総額 2,881 円1,065 億円
生成AI向けのサーバー部品、運転支援の増加、インドの工場新設が重なり、ファスナーの数量は6割増える。ゲーム機も新型機で数量が戻る。産機はEVの調整が一巡し、電池とモーターの組み立てで再び伸び、海外M&Aも加わって台数は7割増える。
インドの低単価で平均単価の伸びは物価をやや下回るが、数量の伸びがそれを上回る。営業利益率は9.5%まで上がり、過去12年の最高(9.9%)の手前に達する。会社が2028年に掲げた営業利益60億円を、10年かけて100億円近くまで伸ばす形だ。配当は累進方針で増え、自社株買いも加わって、10年の還元は190億円になる。
- ファスナー:数量 237(出荷数量換算(億本・年、推定))× 価格 3.33(1本あたり平均売上(円・名目))→ 売上 790 億円・営業利益 67 億円。数量換算237億本、単価は今の倍率で上げ、営業利益率8.5%
- 産機:数量 816(出荷台数換算(台・年、推定))× 価格 0.18(1台あたり平均売上(億円・名目))→ 売上 147 億円・営業利益 24 億円。台数換算816台×1台0.180億円、営業利益率16%
- 制御・メディカル:数量 3,450(出荷台数換算(台・年、推定))× 価格 0.03(1台あたり平均売上(億円・名目))→ 売上 107 億円・営業利益 9 億円。台数換算3,450台×1台0.0311億円、営業利益率8%
倍率:事業の純利益 64 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.6% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.9%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.6 倍。全体の PER 16.59 倍、時価総額 1,065 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:データセンター、ADAS、インドの3つの波が10年続き、M&Aも成功する必要がある。会社の中期計画に近い成長だが、計画を何年も遅れずに達成する確度は高くない。
やや楽観 22% 自動車の運転支援とインドが伸びる 利益 49 億円 · PER 15.2 倍 · 株価時価総額 2,009 円743 億円
運転支援とデータセンター向けの数量が伸び、ファスナーは4割強増える。インドの売上は大きく伸びるが、単価は低めで平均価格の伸びは物価を下回る。産機は海外の新工場の需要で台数が4割増える。
営業利益率は8.4%まで上がる。直近の6〜7%台を超えるが、過去の最高には届かない。コスト上昇を価格に載せる遅れが少しずつ縮み、インドの工場が稼働率を上げて利益に寄与する。10年の還元は160億円で、DOE3%の目標を守る。ゲーム機は新型機の波で上下しても、均せば緩やかに伸びる。海外の新工場に向けた産機の受注も取り込めるが、大型のM&Aは起きず、会社の成長は自前の投資が中心になる。
- ファスナー:数量 210(出荷数量換算(億本・年、推定))× 価格 3.26(1本あたり平均売上(円・名目))→ 売上 685 億円・営業利益 51 億円。数量換算210億本、単価は今の倍率で上げ、営業利益率7.5%
- 産機:数量 672(出荷台数換算(台・年、推定))× 価格 0.18(1台あたり平均売上(億円・名目))→ 売上 119 億円・営業利益 17 億円。台数換算672台×1台0.178億円、営業利益率14.5%
- 制御・メディカル:数量 3,150(出荷台数換算(台・年、推定))× 価格 0.03(1台あたり平均売上(億円・名目))→ 売上 97 億円・営業利益 7 億円。台数換算3,150台×1台0.0309億円、営業利益率6.8%
倍率:事業の純利益 49 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.8% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.0%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.2 倍。全体の PER 15.19 倍、時価総額 743 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の中期計画の方向に近く、運転支援とインド、データセンターの伸びが続く筋書き。実現の可能性は十分あるが、計画の速さには届かない。
中立 38% 堅実に伸びるが、利益率は平常に戻る 利益 39 億円 · PER 13.8 倍 · 株価時価総額 1,447 円535 億円
ファスナーの数量は3割増える。運転支援やデータセンター、インドが引っ張るが、国内の自動車向けは横ばいだ。単価はインドの低単価の混ざりと値下げ圧力で、物価を少し下回る。産機は台数が25%増え、単価は物価並み。制御は台数が横ばいで、単価が物価で上がる。
営業利益率は7.3%に戻る。これは直近3年の6〜7%台と、過去12年の中央値(約7.4%)に近い。会社の目標(9.6%)は、実現しても10年かかると見る。純利益は39億円で、今の1.8倍だ。10年の還元は135億円。ROEは7%台にとどまる。M&Aは小さな案件を積み上げる程度で、大型の買収は起きない。インドの工場は稼働を上げるが、全体の利益率を大きく変えるほどではない。堅実だが、資本コストを超えるほどの稼ぎ力は得られない10年になる。
- ファスナー:数量 192(出荷数量換算(億本・年、推定))× 価格 3.21(1本あたり平均売上(円・名目))→ 売上 617 億円・営業利益 40 億円。数量換算192億本、単価は今の倍率で上げ、営業利益率6.5%
- 産機:数量 600(出荷台数換算(台・年、推定))× 価格 0.18(1台あたり平均売上(億円・名目))→ 売上 105 億円・営業利益 14 億円。台数換算600台×1台0.175億円、営業利益率13%
- 制御・メディカル:数量 3,000(出荷台数換算(台・年、推定))× 価格 0.03(1台あたり平均売上(億円・名目))→ 売上 92 億円・営業利益 6 億円。台数換算3,000台×1台0.0306億円、営業利益率6%
倍率:事業の純利益 39 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.3% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.8 倍。全体の PER 13.82 倍、時価総額 535 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:ファスナーは名目で伸び、産機は装置の需要が戻り、制御は横ばいという、会社の過去の成長の延長。利益率は過去12年の中央値に戻る。中期計画よりは慎重な、最も確率の高い筋書き。
やや悲観 25% 価格競争で利益率が頭打ちになる 利益 24 億円 · PER 8.8 倍 · 株価時価総額 591 円218 億円
ファスナーの数量は1割増えるが、単価は物価を大きく下回る。産機はEVの計画見直しが長引き、台数は横ばいにとどまる。制御は台数が1割減る。
営業利益率は5.5%と、2020年の谷(4.0%)に近い水準で推移する。研究開発費と人件費、海外の工場の償却が増え、売上の伸びを利益が追いつかない。会社は中期計画を修正し、ROEの目標を下げる。10年の還元は100億円。ROEは4〜5%にとどまる。国内の自動車向けは値下げ要求が続き、インドの低単価品の比率が上がるため、売上が伸びても利益の質は下がる。会社は存続し配当も守るが、成長の物語は色あせる。
- ファスナー:数量 166(出荷数量換算(億本・年、推定))× 価格 3.01(1本あたり平均売上(円・名目))→ 売上 499 億円・営業利益 25 億円。数量換算166億本、単価は今の倍率で上げ、営業利益率5%
- 産機:数量 480(出荷台数換算(台・年、推定))× 価格 0.16(1台あたり平均売上(億円・名目))→ 売上 78 億円・営業利益 8 億円。台数換算480台×1台0.163億円、営業利益率10%
- 制御・メディカル:数量 2,700(出荷台数換算(台・年、推定))× 価格 0.03(1台あたり平均売上(億円・名目))→ 売上 77 億円・営業利益 4 億円。台数換算2,700台×1台0.0286億円、営業利益率4.5%
倍率:事業のROEは5%前後で、資本コスト7.25%以下。PERの上限は1÷k=12.1倍。稼ぐ力が弱まるので上限の約73%の8.8倍に置いた。
確率:自動車の値下げ圧力と、インド・中国の現地メーカーとの価格競争で、利益率が伸びない筋書き。直近の6〜7%台さえ守れない可能性を織り込む。
悲観 7% 構造的に負け、利益が細る 利益 7 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 406 円150 億円
ゲーム機の数量が減り、自動車は電動化の遅れと関税で国内外の設備投資が止まる。ファスナーの数量は1割減り、単価は物価を大きく下回る。産機はEVと関税で台数が25%減る。
営業利益率は2%まで落ちる。インドの買収は期待ほど伸びず、のれんを減損する。それでも借金は小さく、現金の厚みで会社は続く。事業の価値は、稼ぐ力ではなく、純現金と在庫、設備という売れる資産で支えられる。10年の還元は60億円にとどまる。配当の下限は引き下げられ、累進方針は事実上止まる。産機の海外M&Aも、買収した会社が稼げず、減損に追い込まれる。株主にとっては、成長ではなく資産の下支えだけが残る10年になる。
- ファスナー:数量 133(出荷数量換算(億本・年、推定))× 価格 2.63(1本あたり平均売上(円・名目))→ 売上 351 億円・営業利益 7 億円。数量換算133億本、単価は今の倍率で上げ、営業利益率2%
- 産機:数量 360(出荷台数換算(台・年、推定))× 価格 0.14(1台あたり平均売上(億円・名目))→ 売上 52 億円・営業利益 3 億円。台数換算360台×1台0.144億円、営業利益率5%
- 制御・メディカル:数量 2,400(出荷台数換算(台・年、推定))× 価格 0.03(1台あたり平均売上(億円・名目))→ 売上 60 億円・営業利益 0 億円。台数換算2,400台×1台0.0252億円、営業利益率0%
倍率:事業は縮み、稼ぐ力ではなく売れる資産の価値まで下がる。内訳は floor_assets_why に書いた。
確率:自動車とゲーム機が同時に落ち込み、現地メーカーとの価格競争が重なる複合の筋書き。日東精工は黒字を保つが、稼ぐ力は大きく落ちる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ファスナー
精密ねじ、特殊冷間圧造部品、インドの冷間圧造部品。売上の74%、営業利益の約3分の2。
| 数量出荷数量換算(億本・年、推定) | 価格1本あたり平均売上(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 148 | 2.51 | 371 | 23 |
| 10 年後 中立 | 192 | 3.21 | 617 | 40 |
取り方:売上371.0億円、営業利益22.7億円(有価証券報告書)。数量は開示がないため、精密ねじ(自動車・電子機器向け)の平均単価を1本あたり数円と仮定して約148億本とした。インドの冷間圧造部品は単価が低い。数量は実質で、物価と高機能化は単価に入れた。
産機
自動ねじ締め機、リベットかしめ機、搬送コンベア、ロボット。売上の12%。
| 数量出荷台数換算(台・年、推定) | 価格1台あたり平均売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 480 | 0.13 | 63 | 8 |
| 10 年後 中立 | 600 | 0.18 | 105 | 14 |
取り方:売上62.7億円、営業利益7.6億円(有価証券報告書)。ねじ締め機は1台数百万円〜数千万円で、システムとしては1,000万円超になる。ねじ締め機、かしめ機、搬送装置を台数に換算し、約480台、1台あたり約1,300万円とした。数量は実質、物価は単価に入れた。
制御・メディカル
流量計、地盤調査機、分析装置、自動車部品の検査機、医療用照明。売上の14%。
| 数量出荷台数換算(台・年、推定) | 価格1台あたり平均売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 3,000 | 0.02 | 69 | 4 |
| 10 年後 中立 | 3,000 | 0.03 | 92 | 6 |
取り方:制御67.1億円(営業利益5.0億円)とメディカル1.5億円(営業損失1.0億円)の合計68.6億円・営業利益4.0億円。流量計や分析装置、検査機を台数に換算し、約3,000台、1台あたり約230万円とした。数量は実質、物価は単価に入れた。
リスクと懸念
自動車とEVへの依存
ファスナーも産機も、自動車向けの比重が大きい。EVの計画見直しや米国の関税で、自動車メーカーの設備投資が止まると、ねじ締め機の受注が減る。ねじも、自動車の生産台数に連動して動く。2025年は、この影響で産機が減収減益になった。
ゲーム機とデータセンターの波
ゲーム機向けの精密ねじは、新型機の発売の前後で数量が大きく変わる。前期の下期にも生産調整があった。データセンター向けも、投資が冷えれば急に落ちる。需要が伸びている今の利益を、そのまま続くと見るのは危ない。
価格の下落圧力
会社自身が事業のリスクに挙げているとおり、販売価格の下落圧力が強い。鋼線などの原材料の上昇を転嫁するのに時間がかかり、その間は利益率が削られる。インドの売上が増えると、平均単価が下がり、利益率の上げ幅が小さくなる。
買収後の統合
昨年買ったヴァルカン・フォージの工場増設と、日系企業への拡販が計画どおり進むかは、まだ確認できない。産機の海外M&Aも予定される。のれんの減損や、買収関連費用(前期は3億円)が利益を削る可能性がある。
為替と海外リスク
海外は日本、アジア、米国、ドイツ、インドに広がる。円高や現地通貨の下落は、利益を減らす。前期は経常利益が営業利益を下回り、為替差損が響いた。インドや中国の政治・規制の変化も、収益を揺らす。
ROEが改善しないこと
会社は2028年にROE9%以上を掲げるが、今期の見通しは6.6%にとどまる。投資を増やすほど資本は増え、利益が追いつかなければROEは下がる。目標を達成できない年が続くと、中期計画の信頼が損なわれる。
今後の分かれ目
- 2026年の営業利益が計画の38億円を超え、2027年に45億円を超えたら
- 中期計画が順調と判断し、やや楽観・楽観の確率を上げる。営業利益率が8%台に定着するかを見る。
- EVの計画見直しが長引き、産機の受注が前年を割り続けたら
- 産機の台数前提を下げ、やや悲観の確率を上げる。ねじの需要にも波及するか、自動車向けの受注残で確認する。
- ゲーム機の新型機が発売されず、精密ねじの受注が2期続けて落ちたら
- ファスナーの数量の前提を下げる。データセンターやADASの伸びで補えるかを見る。
- インドのヴァルカン・フォージの利益率が現地で期待を下回ったら
- のれんの減損リスクを見て、利益率の前提を引き下げる。インドの成長で補えるかを確認する。
- 自社株買いなど、ROEを引き上げる具体策が示されたら
- 資本効率の改善を前提に、やや楽観の確率を上げる。純現金の使い方が変わるかが分かれ目になる。
- 海外の同業を買収する大型のM&Aが出たら
- 買収の価格と統合の難しさを見て、確率を調整する。大型であるほど、悲観の筋書きの重みが増える。
見ておくもの
- ファスナーの営業利益率と、インド子会社の売上・利益の推移
- 産機の受注高と、自動車・データセンター向けの比率、海外M&Aの進捗
- ゲーム機向け精密ねじの受注の波と、データセンター向け「CPグリップ」の採用
- 中期計画(2028年に営業利益60億円・ROE9%)の達成度と、DOE・配当の推移
倍率と資本コストの決め方
今の株価や、ねじ・精密機器の同業の倍率には寄せていない。売上は台数換算(実質)×単価(名目)で積み、単価は物価の10年1.34倍を基本にした。ただしファスナーは、自動車の値下げ圧力とインドの低単価の混ざりで1.28倍に下げ、その理由を各筋書きの前提に反映した。利益率は過去12年の中央値(約7.4%)に戻る形を中立とし、最高(9.9%)を超えない。本社費・販管費も物価で増える前提で、製品別の利益率に含めた。純利益は営業利益の0.64倍(過去の中央値)に、金利上昇による受取利息の増加(約0.7億円)を足した。倍率は資本コスト7.25%(基本7.5%に循環+0.5%・値決め力+0.25%)で、事業のROEが7%台と資本コスト以下なので、PERの上限1÷k=12.1倍から、利益の質を見て7〜9割に置いた。会社の中期計画(2028年に営業利益60億円)は、実現に時間が余計にかかると見て数字には入れていない。新リース会計基準の影響は小さく、10年後も今と同じ形(家賃を営業費用に含む)で置いた。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。