結論
山王は、コネクタやスイッチの接点に金を薄く付ける、めっきの受託加工の会社だ。筆者の結論は「ほぼ適正」で、割安と呼べる余地は無い。2026年7月期は生成AIのデータセンター向けで売上が4割増え、利益は過去最高に並んだ。だが、この会社は顧客であるコネクタ大手の設計と発注に従って動く立場にあり、値段を自分で決める力は弱い。
過去10年の自己資本利益率(ROE)の中央値は3%台にとどまる。好調の年は数年に1度来るが、長く続いたことはない。会社自身も次の期は減益を見込み、新しい設備の償却が重くなると説明している。
筆者は、AIと車載の配線が増える流れ自体は本物だと見る。プレス・めっき・樹脂成形を一貫で受けられる点も、小さな同業との差になる。ただし大口顧客の日本航空電子工業のフィリピン工場が売上の2割近くを占め、その発注が細れば利益は一気に薄くなる。
10年後の中立で、利益は今の水準に近いところで落ち着く。資本コストに届かないROEの会社に、高い倍率は付かない。今の時価総額は、その中立の姿に、好調が続く望みを少し上乗せした値段だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「良い年の利益で値段を測ると誤る」典型に見える。2026年7月期の利益で割れば株価は安く見える。だが、その利益はAI向けの急な増産と金の値上がり、償却の方法の変更が重なった年のものだ。
筆者が知りたいのは、ならした年の稼ぐ力である。過去の利益率と、次の期の会社の見通しを合わせて考えると、営業利益率は5%前後が実力だろう。その利益の質は、顧客に値段を決められ、大口の1社に寄りかかる下請けの利益だ。
自己資本は80億円あるが、ROEは資本コストに届かない年が多い。ためた利益が、その額以上の価値を生むとは言いにくい。配当と自社株買いを増やしたのは正しい方向で、株主に現金を戻す姿勢は評価できる。
オーナーとして10年持ちたいかと問われれば、筆者の答えは慎重だ。安全域があるのは、利益が今の半分になっても事業が続き、自己資本が厚い点だけだ。払う値段としては、安全域の無い、ほぼ見合った水準だ。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は単純だ。コネクタ大手から、打ち抜いた金属の端子をリールのまま預かり、接点の部分だけに金やニッケルを薄く付けて返す。めっきの加工賃に、使った金の代金が上乗せされて売上になる。金の値段が上がると売上はふくらむが、加工の利益はそれほど増えない。
強みは一貫加工にある。端子を打ち抜く精密プレスと金型、部分めっき、樹脂で包むインサート成形を1社で受けられる。顧客から見れば、工程ごとに業者を分けるより手間が少なく、品質の責任もはっきりする。
拠点は横浜の本社工場、東北の工場、フィリピンの子会社の3つだ。報告上は日本とフィリピンの2つに分かれる。2026年7月期の売上は日本が115億円、フィリピンが41億円だった。
主な顧客はヒロセ電機・SMK・イリソ電子工業・日本航空電子工業といったコネクタ大手と、商社の鈴木だ。山王はこうした顧客の株を少しずつ持ち、取引の関係をつないでいる。日本航空電子工業のフィリピン工場向けは29億円で、全体の2割近い。
用途はパソコン・スマートフォン・車載・産業機器・通信機器と幅広い。足元で伸びているのは、AIサーバーとデータセンターの設備、それに運転支援(ADAS)の車載向けだ。
優良さと弱いところ
優良さの点で、この会社は弱い側にいる。加工賃は顧客であるコネクタ大手が決め、山王はそれを受ける。値上げは原料の金や銅、電気代が上がった分を後から転嫁するのが精一杯で、物価を超えて値段を上げる力は乏しい。
薄い強みはある。微細な部分めっきの技術、金型からの一貫加工、そして顧客の工場の近くにあるフィリピンの拠点だ。顧客は一度決めた加工先を簡単には替えない。品質の認定を取り直す手間がかかるからだ。
一方で、利益の振れは大きい。過去12年で営業利益率が8%を超えたのは直近の1期だけで、赤字の期も4回ある。2026年7月期の利益には、償却の方法を変えた効果1.5億円も含まれる。
資本の使い方は改善している。配当を倍に増やし、2億円の自社株買いも進めた。ただし有価証券報告書の中期の目標は売上109億円・営業利益5億円で、直近の実績はそれを大きく超えた。目標を置き直さない限り、経営が何を目指すのかは読みにくい。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
コネクタの世界市場は、2025年に約990億ドルまで伸びたと業界の調査会社は見ている。前年からの伸びは1割を超えた。データセンターの中では、AIの計算機どうしをつなぐ高速の配線とコネクタの数が増えている。車も、運転支援のカメラやセンサーが増えるほど接点が増える。
筆者は、この数量の伸びは10年続くと見る。ただし実質の伸びは年2〜3%程度で、毎年1割の伸びが続くわけではない。2025年から2026年の伸びには、在庫の積み増しと、金の値段の上昇による売上のかさ上げが混じっている。
山王の取り分はこの市場の0.1%ほどにすぎない。勝負を決めるのは市場の大きさより、顧客の工場がどこにあり、めっきを外に出すか自社でやるかだ。コネクタ大手は生産を中国・東南アジアへ移してきた。国内で受けていた仕事は、そのたびに細ってきた。
めっきは環境の規制が厳しい業種でもある。シアンを使わない液への切り替え、排水や土壌の管理に費用がかかる。小さな同業が廃業すれば残る会社に仕事が回るが、規制の費用は残る会社にも重くのしかかる。
資本政策と M&A
還元は増えている。2026年7月期の配当は1株あたり倍以上に増え、総額で1.9億円になった。配当性向は16%と低く、有価証券報告書は株主資本に対する配当の割合2%を目標に掲げる。2026年3月には上限2億円の自社株買いを決め、10月まで続けている。
買収は小さい。2024年11月に樹脂成形の明王化成を完全子会社にし、2026年7月期に本体へ取り込んだ。
大株主に親会社はいない。時価総額は70億円台と小さく、コネクタ大手や同業から買われる可能性は残る。ただし、そうした噂や発表は見当たらない。
政策保有株はヒロセ電機やSMKなど顧客の株で、合計5億円弱と小さい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AIの計算機は、つなぐ部品の塊だ。サーバーの中でも外でも、高速で信号を送るコネクタが増え、1つのコネクタに使う接点の数も多くなる。金めっきは信号の通りを良くするために欠かせず、置き換える技術は見当たらない。データセンターへの投資が10年続けば、山王の加工量は市場の伸びを上回って増える。
車も同じ方向に動く。運転支援と電動化でカメラ・レーダー・電池の配線が増え、車載のコネクタは数も単価も上がる。鈴木を通じた車載の仕事は、すでに国内の柱の1つになっている。
山王は、プレスから成形まで一貫で受けられる数少ない中堅だ。小さなめっき業者は後継ぎ不足と環境規制で減っており、残った会社に仕事が集まる。東北の新しいラインが動けば、増えた仕事を受ける余力もある。
利益率も、前の山より高い水準に定着しうる。価格の見直しを進め、原料の値上がりを転嫁する仕組みも整ってきた。営業利益率8〜9%が続けば、純利益は20億円を超え、今の時価総額は安すぎることになる。
慎重な見方
直近の好調は、構造の変化ではなく山の一つだ。過去にも利益が跳ねた年はあったが、どれも数年で元に戻った。会社自身が次の期に営業利益の4割減を見込んでいるのが、その証拠になる。
いちばんの弱さは顧客の側にある。日本航空電子工業のフィリピン工場だけで売上の2割近い。顧客がめっきを内製に切り替えるか、別の国の業者へ移せば、フィリピンの子会社の仕事は大きく減る。有価証券報告書も、コネクタ大手の内製化を最初のリスクに挙げている。
国内も楽ではない。コネクタ大手は生産を海外へ移し続け、国内で受けられる仕事は長い目で細る。人手も、熟練した技能者の確保が難しい。
売上の伸びには金の値上がりが混じっている。金の値段が落ち着けば、売上はしぼみ、在庫の評価で損も出うる。加工賃の値上げは原価の転嫁が中心で、利益率を押し上げる力は弱い。ROEは長く資本コストを下回ってきた。資本コストを稼げない会社の利益に、高い倍率は付かない。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうが強い。AIと車載の追い風は本物だが、山王はその流れの中で値段を決める側にいない。過去の利益の山が数年で消えてきた記録と、次の期の会社の減益の見通しが、それを裏づける。大口顧客への寄りかかりも、10年の間に一度は試される。確率は中立を4割の中心に置き、やや悲観の側を厚めにし、楽観は1割未満にとどめた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/07 期)
確率で加重した株価時価総額 3,416 円145 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 668 円28 億円)。 今の値に割り戻すと 1,877 円80 億円、今との差 +18.5%、 期待の年率 +9.9%(資本コスト 9.0%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 7,826 円332 億円 | 1,155 円49 億円 | +467.0% | +18.9% | 718 円30 億円 |
| やや楽観 | 20% | 5,411 円230 億円 | 912 円39 億円 | +299.2% | +14.8% | 1,265 円54 億円 |
| 中立 | 40% | 3,302 円140 億円 | 681 円29 億円 | +151.5% | +9.7% | 1,593 円68 億円 |
| やや悲観 | 22% | 1,496 円63 億円 | 441 円19 億円 | +22.3% | +2.0% | 426 円18 億円 |
| 悲観 | 10% | 573 円24 億円 | 236 円10 億円 | −49.0% | −6.5% | 81 円3 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,416 円145 億円 | 668 円28 億円 | +157.8% | +9.9% | 4,084 円173 億円 |
今の株価時価総額 1,584 円67 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.0% を下回るほど割高。
楽観 8% AI の配線が太り続け、加工の柱になる 利益 25 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 7,826 円332 億円
データセンターの投資が10年続き、AIの計算機をつなぐ高速の配線とコネクタが増え続ける。車載も運転支援の装備が標準になり、接点の数が増える。山王は東北の新ラインで国内の仕事を受け、フィリピンでも日本航空電子工業以外の顧客を増やす。
小さなめっき業者の廃業が続き、残った山王に仕事が集まる。価格の見直しも定着し、加工賃は物価をやや上回って上がる。営業利益率は日本で8%台半ば、フィリピンで10%に乗る。
コネクタ大手は品質の安定を重んじ、一貫加工の山王を手放さない。配当と自社株買いを続けながらも利益が積み上がり、ROEは資本コストを上回る。
- 日本(めっき・プレス・成形):数量 1.2(世界のコネクタ市場(今の値段・億ドル)× 山王の国内の取り分)× 価格 207(1 ドル相当の加工あたりの売上(150 円 × 単価の指数))→ 売上 248 億円・営業利益 21 億円。国内の加工量(コネクタ市場の取り分)×単価指数 1.38、営業利益率 8.5%
- フィリピン(めっき):数量 0.5(世界のコネクタ市場(今の値段・億ドル)× 山王のフィリピンの取り分)× 価格 207(1 ドル相当の加工あたりの売上(150 円 × 単価の指数))→ 売上 94 億円・営業利益 9 億円。フィリピンの加工量×単価指数 1.38、営業利益率 10.0%
倍率:事業の純利益 25 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.6% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍。全体の PER 12.91 倍、時価総額 322 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI向けの配線の伸びが10年続き、顧客の内製化も起きない筋書き。過去に利益の山が続いた例が無いので小さく置く。
やや楽観 20% データセンターと車載で加工量が伸びる 利益 18 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 5,411 円230 億円
AIのデータセンターと車載の配線が伸び、山王の加工量は10年で4割近く増える。国内は顧客の海外移管で一部の仕事を失うが、データセンターの設備と車載の新しい仕事で埋める。フィリピンは日本航空電子工業の増産に合わせて伸びる。
価格は原料と人件費の転嫁が進み、物価をわずかに上回る。営業利益率は日本で7%、フィリピンで8%台半ばと、直近の好調に近い水準が残る。
還元は配当性向3割ほどで続く。ROEは資本コストをわずかに上回るところで落ち着く。買収や大きな失敗は起きない。
金の値段は高いまま横ばいで、売上の見かけのふくらみは残るが、利益への効きは小さい。東北の新ラインの償却は増えるが、増えた仕事でまかなえる。
- 日本(めっき・プレス・成形):数量 1.1(世界のコネクタ市場(今の値段・億ドル)× 山王の国内の取り分)× 価格 204(1 ドル相当の加工あたりの売上(150 円 × 単価の指数))→ 売上 215 億円・営業利益 15 億円。国内の加工量(コネクタ市場の取り分)×単価指数 1.36、営業利益率 7.0%
- フィリピン(めっき):数量 0.4(世界のコネクタ市場(今の値段・億ドル)× 山王のフィリピンの取り分)× 価格 204(1 ドル相当の加工あたりの売上(150 円 × 単価の指数))→ 売上 82 億円・営業利益 7 億円。フィリピンの加工量×単価指数 1.36、営業利益率 8.5%
倍率:事業の純利益 18 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.3% が k 9.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 219 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:データセンターと車載の伸びが続き、利益率が直近並みに残る筋書き。追い風は本物なので2割は置ける。
中立 40% 市場並みに伸び、利益率は山と谷の間に落ち着く 利益 12 億円 · PER 11.1 倍 · 株価時価総額 3,302 円140 億円
コネクタ市場は実質で年2〜3%伸び、山王の加工量もほぼそれに沿う。国内は顧客の海外移管で取り分が少しずつ減り、フィリピンは横ばいからやや増える。価格は原料・人件費の転嫁で物価並みに上がるが、それ以上には上がらない。
営業利益率は日本で5%、フィリピンで7%に落ち着く。直近の8%台はAI向けの急な増産と金の値上がりが重なった山で、次の期の会社の見通しが示すとおり続かない。新しい設備の償却も重くなる。
配当と自社株買いで利益の3割を戻し、残りは自己資本に積み上がる。ROEは8%前後で資本コストに届かない。会社は小さな中堅のめっき業者のまま、10年後も存在している。
- 日本(めっき・プレス・成形):数量 0.9(世界のコネクタ市場(今の値段・億ドル)× 山王の国内の取り分)× 価格 201(1 ドル相当の加工あたりの売上(150 円 × 単価の指数))→ 売上 183 億円・営業利益 9 億円。国内の加工量(コネクタ市場の取り分)×単価指数 1.34、営業利益率 5.0%
- フィリピン(めっき):数量 0.4(世界のコネクタ市場(今の値段・億ドル)× 山王のフィリピンの取り分)× 価格 201(1 ドル相当の加工あたりの売上(150 円 × 単価の指数))→ 売上 71 億円・営業利益 5 億円。フィリピンの加工量×単価指数 1.34、営業利益率 7.0%
倍率:事業の純利益 12 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.5% が k 9.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.1 倍。全体の PER 11.11 倍、時価総額 129 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:市場並みの数量の伸びと、過去の山と谷の間の利益率。過去の記録と会社の次期見通しにいちばん合う。
やや悲観 22% 国内の仕事が海外と内製へ流れる 利益 5 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 1,496 円63 億円
コネクタ大手が国内の生産をさらに海外へ移し、めっきの一部を自社の工場で済ませるようになる。国内の加工量は10年で1割ほど減り、フィリピンも日本航空電子工業の発注が細る。
加工賃は顧客の値下げの要求に押され、物価の上昇に追いつかない。人件費と環境の対応費は上がり続け、営業利益率は日本で3%弱、フィリピンで4%台半ばまで下がる。
会社は配当を細らせながら事業を続ける。ROEは4%前後で、ためた利益は価値を生まない。時価総額は稼ぐ力に見合う水準まで下がる。
東北の新ラインは仕事が埋まらず、償却だけが重く残る。金の値段は横ばいで、売上の見かけも助けにならない。株主に戻す現金は細り、自社株買いは止まる。
- 日本(めっき・プレス・成形):数量 0.7(世界のコネクタ市場(今の値段・億ドル)× 山王の国内の取り分)× 価格 188(1 ドル相当の加工あたりの売上(150 円 × 単価の指数))→ 売上 129 億円・営業利益 4 億円。国内の加工量(コネクタ市場の取り分)×単価指数 1.25、営業利益率 2.8%
- フィリピン(めっき):数量 0.3(世界のコネクタ市場(今の値段・億ドル)× 山王のフィリピンの取り分)× 価格 188(1 ドル相当の加工あたりの売上(150 円 × 単価の指数))→ 売上 50 億円・営業利益 2 億円。フィリピンの加工量×単価指数 1.25、営業利益率 4.5%
倍率:ROE 3.9% は k を大きく下回る。価値はこの筋書きの稼ぐ力(純利益 4.8 億÷k≒52 億)まで。上限 1÷k=10.8 倍の 8.3 割の 9.0 倍で 43 億とし、稼ぐ力の内側に置いた。
確率:顧客の海外移管と内製化が続き、国内の仕事が細る筋書き。過去20年に何度も起きた形なので厚めに置く。
悲観 10% 大口顧客を失い、加工賃の勝負に沈む 利益 0 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 573 円24 億円
日本航空電子工業がフィリピンのめっきを内製に切り替え、子会社の売上は半分以下になる。国内では大口の顧客が生産を中国と東南アジアへ移し、残った仕事も価格の入札にかけられる。
金の値段が反落し、売上はさらにしぼむ。原料の在庫では評価の損も出る。営業利益はほぼゼロになり、配当は大きく減る。
会社は清算されず、土地と工場を持ったまま細々と続く。少数株主は、その資産の使い道を決められない。価値は今の自己資本の3割ほどにとどまる。
国内の工場は一部を閉じ、人員も減らす。環境の対応費と土壌の管理費は、仕事が減っても残る固定費だ。
- 日本(めっき・プレス・成形):数量 0.4(世界のコネクタ市場(今の値段・億ドル)× 山王の国内の取り分)× 価格 173(1 ドル相当の加工あたりの売上(150 円 × 単価の指数))→ 売上 76 億円・営業利益 0 億円。国内の加工量(コネクタ市場の取り分)×単価指数 1.15、営業利益率 0.0%
- フィリピン(めっき):数量 0.1(世界のコネクタ市場(今の値段・億ドル)× 山王のフィリピンの取り分)× 価格 173(1 ドル相当の加工あたりの売上(150 円 × 単価の指数))→ 売上 22 億円・営業利益 0 億円。フィリピンの加工量×単価指数 1.15、営業利益率 1.0%
倍率:利益がほぼ出ないので PBR で測る。価値は約 24 億で、短信の今の自己資本 80.4 億の 0.30 倍、検査が使う facts の自己資本 67.5 億(2025/07 期)に対しては 0.36 倍にあたる。稼ぐ力はほぼゼロで、床は売れる資産(floor_assets_oku の内訳)から置き、それを下回らせた(清算されない限り少数株主は資産の使い道を決められない)。EV(時価総額+純有利子負債)÷営業利益は利益がほぼ無いので意味を持たず、資産の側で見た。
確率:大口顧客の内製化と金価格の反落が重なる筋書き。起きうるが、一貫加工の強みで仕事が全部消えるとは見ない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
日本(めっき・プレス・成形)
横浜本社と東北の工場で、コネクタ端子の精密プレス・部分金めっき・インサート成形を一貫で受ける。顧客はヒロセ電機・SMK・イリソ電子工業や商社の鈴木など。
| 数量世界のコネクタ市場(今の値段・億ドル)× 山王の国内の取り分 | 価格1 ドル相当の加工あたりの売上(150 円 × 単価の指数) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/07 | 0.8 | 150 | 115 | 9 |
| 10 年後 中立 | 0.9 | 201 | 183 | 9 |
取り方:数量の開示は無いので推定。2025 年の世界のコネクタ市場を約 990 億ドル(Bishop & Associates の推計を GII が紹介)とし、日本のセグメント売上 114.7 億円を 150 円で割った 0.765 億ドルを国内の取り分(市場の約 0.077%)とした。売上には原料の金の代金が含まれ、金の値段が動くと単価が動くが、10 年は金の実質価格を横ばいとし、物価 3% だけを単価の指数に入れた。
フィリピン(めっき)
フィリピンの子会社 SPMC で、現地に工場を持つコネクタ大手の端子にめっきを付ける。日本航空電子工業のフィリピン工場が最大の顧客。
| 数量世界のコネクタ市場(今の値段・億ドル)× 山王のフィリピンの取り分 | 価格1 ドル相当の加工あたりの売上(150 円 × 単価の指数) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/07 | 0.3 | 150 | 41 | 4 |
| 10 年後 中立 | 0.4 | 201 | 71 | 5 |
取り方:日本と同じく推定。フィリピンのセグメント売上 40.6 億円を 150 円で割った 0.271 億ドルを取り分(市場の約 0.027%)とした。うち 29.2 億円が日本航空電子工業のフィリピン工場向け。
リスクと懸念
大口顧客の内製化と海外移管
日本航空電子工業のフィリピン工場向けで売上の2割近い。コネクタ大手がめっきを内製に切り替えるか別の国の業者へ移せば、フィリピンの子会社の仕事は半分以下になりうる。有価証券報告書も内製化を最初のリスクに挙げる。
好調の山が続かない
2026年7月期の利益はAI向けの急な増産、金の値上がり、償却の方法の変更(1.5億円の押し上げ)が重なった。会社は次の期の営業利益を4割減と見込む。過去にも利益の山は数年で元に戻ってきた。
金の値段の反落
原料のシアン化金カリウムは金の値段で決まる。金が値上がりした年は売上がふくらみ、反落すれば売上がしぼむ。原料の在庫は29億円あり、急な反落では評価の損も出うる。
環境規制と土壌汚染
めっきはシアンや重金属を扱い、排水・大気・土壌の規制が厳しい。本社の敷地の一部では土壌の基準値を超える測定が続いている。対応の費用は利益を削り、土地を売る時の値段も下げる。
人手と技能の継承
めっきとプレスの品質は熟練した技能者に頼る。国内の人手は細り、賃金は物価以上に上がる。自動化が進まなければ、人件費が利益率を押し下げる。
今後の分かれ目
- 2027年7月期の営業利益が会社の見通し(8億円)を大きく上回る
- 直近の利益率が山ではなく実力に近いと見直し、やや楽観の確率を上げる。
- 日本航空電子工業のフィリピン工場向けの売上が2割以上減る
- 顧客の内製化か移管が始まったと見て、やや悲観と悲観に寄せる。
- 中期の目標を置き直し、利益率や資本効率の数値を掲げる
- 経営の目指す姿が見え、還元の方針も読みやすくなる。目標の中身次第で中立の利益率を見直す。
- 金の値段が大きく反落する
- 売上はしぼむが、加工の利益への影響は小さいはず。利益率が保たれるかで転嫁の仕組みの強さを確かめる。
- コネクタ大手や同業から買収の提案が出る
- 一貫加工の拠点としての値段が付く。本質価値の見立てとは別の上振れとして扱う。
見ておくもの
- 日本航空電子工業のフィリピン工場向けの売上(有価証券報告書の主な相手先)
- 日本・フィリピンのセグメントの営業利益率
- 東北の新ラインの稼働と減価償却費
- 原材料の在庫と金の値段
- 配当と自社株買いの続き方
倍率と資本コストの決め方
数量は世界のコネクタ市場(実質)× 山王の取り分で積み、物価 3% は単価の指数に入れた(金の実質価格は横ばい)。k は基本 7.5% に quality +1.75% で 9.25%。中立の ROE 7.8% は k に届かないので PER の上限 1÷k(10.8 倍)の 8 割に置いた。強気側は ROE が k を上回るので正当化 PER と下限 1÷k の間に置いた。慎重側は稼ぐ力と売れる資産から置き、今の株価・過去の PER・PBR は使っていない。2026/07 期の短信が facts にまだ無いので、自己資本の起点は短信の 80.4 億にした。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11→12.91 倍・やや楽観 PER 10.9→12.12 倍・中立 PER 8.6→11.11 倍)。
資本コスト 9.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に品質の調整+1.75%を足した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.25% → 9.00%。