結論
東京エレクトロンは成膜・エッチング・洗浄・熱処理・コータデベロッパを束ねる日本最大の半導体製造装置会社で、コータデベロッパでは世界シェア9割を握る。顧客はTSMC・サムスン・SKハイニックス・マイクロン・インテルという世界の最先端ファウンドリ・メモリ各社で、AIデータセンター向けの最先端ロジックとHBMを含むメモリ投資がWFE(ウェハー製造装置)市場を押し上げている。会社自身も2027年3月期に売上高3兆円・営業利益1兆円視野という過去最高の計画を掲げ、GAA(ゲートオールアラウンド)トランジスタや裏面給電(バックサイド・パワー・デリバリー)という次世代の構造転換が新たな装置更新需要を生んでいる。
かつて2014〜2015年にアプライドマテリアルズ(AMAT)との経営統合を試みたが、米司法省の独占禁止法上の懸念で破談になった。以後は単独での技術深化路線を貫いている。この自前主義は堀を守る一方、M&Aで事業の裾野を広げる選択肢を自ら狭めてもいる。
筆者の結論は「割高」だ。10年後の中立でも、時価総額は今の8割弱にとどまる。今の値段を超えるのは、やや楽観より上の筋書きだけだ。確率で重みを付けた本質価値は、今の時価総額を4割ほど下回る。中国向けが34%という地政学リスク、ASML・Lam Research・KLA・SCREENという工程ごとの競合、WFE市場そのものの循環を考えると、今の値段は好調の持続をかなり強く前提にしている。
バリュー投資の観点から
オーナー利益の面では、東京エレクトロンは稼いだ利益の多くを研究開発と株主還元に回しており、GAAや裏面給電といった工程転換に追随するための再投資負担が今後も続く。無借金で現金を生み出す力自体は強いが、再投資を怠れば数年でシェアを失う性質の事業であり、株主が自由に使える利益は見た目の純利益より慎重に見積もるべきだとバリュー投資家は考えるだろう。
堀の幅と持続については、コータデベロッパでの9割シェアという堀の強さを高く評価するはずだが、その堀はASMLの露光装置という他社の技術進化に従属している側面があり、自社だけで完全にコントロールできる堀ではない点に注意を払うはずだ。需要が数量×単価で大きく揺れる資本財企業であり「10年後の収益を自信を持って予測できるか」という一次審査でまず慎重になる。
資本配分については、2015年のアプライドマテリアルズとの統合破談を自ら受け入れ、無理な拡大策を取らなかった規律を評価するだろう。一方で、安全域(支払う値段と本質価値の差)という最後の判断軸では、現在の株価は直近の実績利益に対して非常に高い倍率で評価されており、AIブームの持続を前提にした値段だと見抜くはずだ。堀はあるが、今払う値段に対する安全域は今は乏しいという判断になりやすい。
何で稼ぐ会社か
収益の9割超を半導体製造装置(SPE)が占め、成膜(CVD/ALD)、ドライエッチング、枚葉洗浄、熱処理、コータデベロッパの5分野で世界トップクラスのシェアを持つ。顧客はTSMC・サムスン・SKハイニックス・マイクロン・インテルなど世界の最先端ファウンドリ・メモリ各社で、装置を売った後の保守・部品・改造(アフターサービス)も安定収益源になっている。コータデベロッパはEUV露光の前後工程を担う装置で、露光装置を握るASMLのすぐ隣の工程に位置するため、ASMLの投資サイクルとほぼ同じタイミングで需要が立つ。
残りの一部はFPD(フラットパネルディスプレイ)製造装置で、有機ELパネル向け投資の波に連動する小さな事業。地域別では中国が売上の3割強を占め、台湾・韓国・米国が続く。地域構成の偏りは、輸出規制のたびに収益構造そのものが揺らぐ要因になっている。
研究開発費は売上高の重要な部分を占め、GAA(ゲートオールアラウンド)トランジスタ、裏面給電(バックサイド・パワー・デリバリー)、HBM4に対応する先進パッケージング、EUV周辺工程向けの新製品開発に充て続けている。これらはいずれも「今までの装置をそのまま使えない」工程転換であり、転換点ごとに顧客が装置を入れ替える需要(単価の上昇を伴う買い替え)を生み出す点が、同社の数量×単価の伸びの源泉になっている。
優良さと弱いところ
コータデベロッパでの9割シェアは、露光後の現像・成膜を一体で最適化する技術と顧客との共同開発の蓄積が堀になっており、簡単には崩れない。顧客の生産ラインに深く組み込まれているため、装置を入れ替えるコスト(スイッチングコスト)も高い。ASMLの露光装置と一体で工程が組まれる構造上、競合のアプライドマテリアルズやSCREENが同じ地位を奪うには、単に装置を作るだけでなく顧客の生産ラインごと置き換える必要があり、参入障壁は技術以上に顧客との関係性にある。
ROEは20〜30%台で推移し、無借金・高い自己資本比率という財務の強さも併せ持つ。GAAトランジスタや裏面給電といった構造転換のたびに、既存シェアを持つ会社が新工程でも選ばれ続けられるかが問われるが、東京エレクトロンはこれまでの転換点(プレーナー型からFinFETへの移行など)でシェアを落とさずに乗り越えてきた実績がある。
弱点は需要が数量×単価で増減する半導体投資サイクルそのものに業績が強く連動する点と、中国売上比率が高く輸出規制の影響を受けやすい点である。経営陣は資本配分を保守的に行い、2014〜2015年のアプライドマテリアルズとの経営統合破談以降、大型M&Aで価値を壊した経験がない代わりに、事業領域を大きく広げる動きも乏しく、既存の強みを深掘りする一本足打法とも言える。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
WFE市場は2025年の1,170億ドル前後から、会社自身の説明で2026年に1,500億ドル超、2027年に1,900億ドル超という急拡大が見えている。AIデータセンター向けの先端ロジックとHBM4を含むDRAM投資が牽引役で、SEMIも2028年のWFE市場を2,200億ドル規模に上方修正した。東京エレクトロンはこの中でシェア13〜15%程度を持つ3番手級のプレーヤーで、露光装置を握るASML、成膜・エッチングで競合するアプライドマテリアルズ・Lam Research、検査・計測のKLA、国内では成膜・洗浄で競合するSCREENホールディングスが並ぶ構図にある。
技術面では、トランジスタ構造がFinFETからGAA(ゲートオールアラウンド)へ移行し、さらに裏面給電という電源配線を裏面に移す新構造が重なることで、既存装置の単純な増設では対応できない工程転換が続く。これは単価の高い新規装置の受注機会である一方、顧客が装置選定をやり直すタイミングでもあり、シェアが入れ替わるリスクとチャンスが同時に生まれる局面でもある。
中国は「国産化」を国家戦略として進めており、Naura・AMECといった国内装置メーカーが成熟工程(レガシーノード)を中心にシェアを奪う構図が指摘され、猶予は5年程度との見方もある。最先端工程では依然日欧米装置への依存が続くが、米国の対中輸出規制が強化・緩和を繰り返すたびに、東京エレクトロンの中国向け売上の見通しも振れる。業界は歴史的に2〜4年周期で山と谷を繰り返してきたため、現在の強気相場がどこまで続くかが最大の論点になる。
資本政策と M&A
配当性向50%を目処とする業績連動型の配当に加え、自社株買いを組み合わせ、2026年3月期は配当と自社株買いの合計が過去最高となり純利益の約8割を株主に還元した。米国の競合アプライドマテリアルズの株主還元姿勢を意識した還元強化だとする報道もあり、海外投資家の目を意識した資本政策になっている。
2014〜2015年にはアプライドマテリアルズとの経営統合を発表したが、両社を合わせるとエッチング・成膜・洗浄で過度に高いシェアになるとして米司法省が懸念を示し、統合は白紙撤回された。この経験以降、大型M&Aで事業領域を広げる動きは取らず、オーガニック(自前の研究開発)での強みの深掘りに資本を使う方針が続いている。
今後も還元強化が進む一方、半導体サイクルの谷では研究開発投資・増産投資と株主還元のバランスが問われる。無借金経営を維持しているため、谷が来ても財務面で行き詰まる心配は小さいが、谷の間も研究開発費を維持し続けられるかどうかが、次の山での競争力を左右する。
10年の還元は、配当性向50%を目処とする配当に自社株買いを足し、2026年3月期並みの純利益の約8割を保つ形で、中立は純利益の合計の約82%に置いた。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AIデータセンター向けの投資はまだ序盤で、WFE市場は2027年に1,900億ドル超、その先2,000〜2,500億ドル規模への構造的な拡大が視野にある。東京エレクトロンはコータデベロッパで9割、成膜やエッチングでも高いシェアを持ち、次世代のGAAトランジスタ、裏面給電、HBM4に対応する先進パッケージングでも装置の採用が広がっている。これらの技術転換は単なる数量の増加ではなく、1台あたりの単価そのものを引き上げる効果があり、過去のFinFET移行期に単価が大きく伸びた前例を踏まえれば、今回の転換でも同様の単価上昇が期待できる。
会社自身が売上高3兆円・営業利益率35%以上・ROE30%以上という過去最高水準の計画を掲げ、実際に直近の決算でも上方修正が続いている。中国の国産化はNaura・AMECなどによる低〜中位工程が中心で、最先端工程では依然ASML・東京エレクトロン・アプライドマテリアルズ・Lam Research・KLAという日欧米連合に依存する構造がすぐには崩れない。SKハイニックス・マイクロンのHBM4投資、TSMC・サムスンの2nm世代投資という複数の需要の波が重なっており、一つの顧客・一つの技術にすべてを依存しているわけではない。
無借金で自己資本比率も高く、増産投資と株主還元を同時に進める余力がある。2015年のアプライドマテリアルズとの統合破談以降、無理な拡大をせず自己資本を積み上げてきたことが、今のAI投資サイクルで機動的に増産投資できる財務基盤になっている。この循環はこれまでのサイクルと違い、AIという長期の構造的需要に支えられているため、循環の「谷」が来ても浅く短くなる可能性が高い。
慎重な見方
WFE市場はこれまでも好況の後に必ず深い谷を作ってきた(2001年のITバブル崩壊、2008年のリーマンショックではいずれも需要が数十%単位で消えた)。AIデータセンター投資も、NVIDIAを中心とするAIチップの需要先読みが先行しすぎれば、TSMC・サムスン・SKハイニックス・マイクロンの資本支出がメモリ・ロジックともに過剰設備となり急失速するリスクがある。実際、HBM4のような新世代メモリへの投資は各メモリメーカーの判断に依存し、一社でも投資計画を凍結すれば装置受注への跳ね返りは大きい。
中国売上比率は34%超と高く、輸出規制の強化や中国の国産装置(Naura・AMECなど)の性能向上が進めば、特に成熟工程でシェアを奪われる。GAAや裏面給電という工程転換も、裏を返せば顧客が装置の選定をやり直す機会であり、アプライドマテリアルズやLam Researchが新工程で先行すれば、東京エレクトロンの既存シェアがそのまま新世代に引き継がれるとは限らない。
現在の株価は直近実績に対して非常に高い倍率を付けており、トレーリングで見てもここ数年の平均より大幅に高い水準にある。これは「今回は違う」という期待が強く乗った値段であり、過去の東京エレクトロンの投資家も2000年のITバブル期や2017〜2018年の半導体ブーム期に同じことを言って、その後の谷で大きく株価が下がった経験を繰り返してきた。2015年のアプライドマテリアルズとの統合破談も、結局は単独で戦う道を選ばされた結果に過ぎず、規模の経済でAMATに劣る構造は今も残っている。倍率そのものが縮む(PERの圧縮)リスクを市場は過小評価している。
どちらに重みを置いたか
事業の堀と財務の強さでは強気の見方が優勢だが、倍率(株価の高さ)の議論では慎重な見方の指摘が的を射ている。コータデベロッパでのシェアやGAA・裏面給電への対応力は本物だが、ASMLの露光サイクルへの従属性や中国リスクという構造的な脆さも同時に抱えており、どちらか一方だけが正しいわけではない。本質価値の計算では、中立(ベース)の筋書きでは10年後に今の時価総額の8割弱にとどまり、10年のやや楽観より上の筋書きでようやく今の値段を超える結果になった。これは会社の実力を否定するものではなく、今の値段がすでに強気の将来を相当に織り込んでいることを示す。確率は楽観・やや楽観側にも相応の重みを置きつつ、中立をやや悲観に寄せて置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 12,303 円27.83 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 3,231 円7.31 兆円)。 今の値に割り戻すと 8,387 円18.97 兆円、今との差 −11.3%、 期待の年率 +5.1%(資本コスト 7.2%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 15% | 23,539 円53.25 兆円 | 4,976 円11.26 兆円 | +201.7% | +11.7% | 4,277 円9.68 兆円 |
| やや楽観 | 24% | 16,906 円38.24 兆円 | 3,913 円8.85 兆円 | +120.3% | +8.2% | 4,996 円11.30 兆円 |
| 中立 | 32% | 11,799 円26.69 兆円 | 3,187 円7.21 兆円 | +58.6% | +4.7% | 4,796 円10.85 兆円 |
| やや悲観 | 19% | 4,467 円10.10 兆円 | 2,303 円5.21 兆円 | −28.4% | −3.3% | 1,286 円2.91 兆円 |
| 悲観 | 10% | 904 円2.04 兆円 | 877 円1.98 兆円 | −81.2% | −15.4% | 178 円4,029 億円 |
| 加重平均 | 100% | 12,303 円27.83 兆円 | 3,231 円7.31 兆円 | +64.4% | +5.1% | 15,534 円35.14 兆円 |
今の株価時価総額 9,450 円21.38 兆円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 15% シェアを広げながら市場も拡大 利益 21,948 億円 · PER 24.2 倍 · 株価時価総額 23,539 円53.25 兆円
10年間でAI・先進パッケージング・次世代メモリの複数の投資波が重なり、WFE市場は3,400億ドル規模に拡大する。GAA世代、裏面給電、さらにその先の2次元材料トランジスタといった複数の技術転換が連続して起き、東京エレクトロンはそのたびにコータデベロッパ・成膜・エッチングで新規採用を獲得し、シェアを17%まで広げる。TSMC・サムスン・インテルの最先端ロジック投資とSKハイニックス・マイクロンのHBM世代更新投資がともに10年間途切れず続き、営業利益率35%の計画を10年間維持する。中国はNaura・AMECを中心に装置の国産化を進めるが、最先端では依然ASML・アプライドマテリアルズ・Lam Research・KLAという日欧米連合に依存する構図が続く。無借金の財務を生かして自社株買いも継続し、ROEは40%前後の高水準を10年間保つ、同社にとって最も理想的な10年になる。
- 半導体製造装置(SPE):数量 2,537(世界WFE市場(億ドル・今の値段で測った実質、暦年))× 価格 34(実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 86,700 億円・営業利益 30,345 億円。市場 3,400 億ドル(名目)× シェア 17.0%、営業利益率 35%
- FPD製造装置・その他(サービス含む):数量 290(FPD 製造装置の出荷台数(台・年、推定。保守・部品は台数に比例))× 価格 8.62(1 台あたり平均売上(億円・名目、保守・部品を含む))→ 売上 2,500 億円・営業利益 300 億円。290 台 × 1 台 8.62 億円(今の 1.40 倍)、営業利益率 12%
倍率:事業の純利益 21,920 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 41.8% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 24.5%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 24.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 24.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)2,000 億円。全体の PER 24.2 倍、時価総額 532,464 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:10年の間にGAA・先進パッケージング・次世代メモリの複数の波で装置更新需要を取り切る必要があり、実現すれば非常に強いが連続成功の確度は高くない。
やや楽観 24% AI主導の成長が主軸として定着 利益 16,120 億円 · PER 23.6 倍 · 株価時価総額 16,906 円38.24 兆円
WFE市場は3,000億ドルまで拡大し、シェアは15.5%に改善。営業利益率32%は現状からさらに伸び、過去最高圏を10年近く維持する。TSMC・サムスンの最先端ロジック投資とSKハイニックス・マイクロンのHBM投資が主軸として定着し、裏面給電やGAAといった工程転換でもアプライドマテリアルズ・Lam Researchとの競争に競り勝ち続ける。中国向け比率は輸出規制の強化と国産化の進展で低下するが、米国・台湾・インド・欧州での新設工場向け需要の取り込みでその分をカバーする。AI関連の投資は学習向けの一つの波で終わらず、推論向けやエッジ向けなど複数の需要の波が重なって、成長の裾野が広がる10年になる。
- 半導体製造装置(SPE):数量 2,239(世界WFE市場(億ドル・今の値段で測った実質、暦年))× 価格 31(実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 69,750 億円・営業利益 22,320 億円。市場 3,000 億ドル(名目)× シェア 15.5%、営業利益率 32%
- FPD製造装置・その他(サービス含む):数量 276(FPD 製造装置の出荷台数(台・年、推定。保守・部品は台数に比例))× 価格 8.33(1 台あたり平均売上(億円・名目、保守・部品を含む))→ 売上 2,300 億円・営業利益 230 億円。276 台 × 1 台 8.33 億円(今の 1.35 倍)、営業利益率 10%
倍率:事業の純利益 16,092 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 36.2% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 21.7%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 23.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 23.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)2,000 億円。全体の PER 23.64 倍、時価総額 382,415 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AI関連投資が業界の主役として定着するという、多くの業界団体見通しの上位レンジに近い想定。
中立 32% 中立:WFE市場は構造的に大きくなるが倍率は平常化 利益 11,755 億円 · PER 22.6 倍 · 株価時価総額 11,799 円26.69 兆円
10年後のWFE市場は2,600億ドル規模に構造的に拡大するが、シェアは14.5%で現状からの改善は小幅にとどまる。TSMC・サムスン・インテルの最先端ロジック投資は続くが、GAA・裏面給電という工程転換のたびにアプライドマテリアルズ・Lam Research・KLAとのシェアの奪い合いが起き、東京エレクトロンが得るものと失うものが相殺し合う。営業利益率29%は過去の最良期に近い水準で、過去ほど極端な高倍率は付かない。中国向け比率はNaura・AMECの国産化でさらに低下し、代わりに米国・インドなどの新規拠点需要が補う。業界の循環はなくならないが、AI関連需要が下支えとなって谷が浅くなり、会社の優良さ(堀・資本効率)は維持されるものの、特別な超過成長は一巡した「普通に強い優良企業」としての評価に収まる10年になる。
- 半導体製造装置(SPE):数量 1,940(世界WFE市場(億ドル・今の値段で測った実質、暦年))× 価格 29(実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 56,550 億円・営業利益 16,400 億円。市場 2,600 億ドル(名目)× シェア 14.5%、営業利益率 29%
- FPD製造装置・その他(サービス含む):数量 260(FPD 製造装置の出荷台数(台・年、推定。保守・部品は台数に比例))× 価格 8.46(1 台あたり平均売上(億円・名目、保守・部品を含む))→ 売上 2,200 億円・営業利益 176 億円。260 台 × 1 台 8.46 億円(今の 1.37 倍)、営業利益率 8%
倍率:事業の純利益 11,727 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 28.6% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 17.9%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 22.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 22.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)2,000 億円。全体の PER 22.59 倍、時価総額 266,913 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業界団体・会社の長期見通しの中心値と、過去の循環を踏まえた倍率の平常化を組み合わせた中心シナリオ。
やや悲観 19% シェアがじわり侵食される 利益 7,136 億円 · PER 14.0 倍 · 株価時価総額 4,467 円10.10 兆円
中国の装置国産化がNaura・AMECを中心に中位工程まで広がり、東京エレクトロンのシェアは13%まで低下。WFE市場自体も2,200億ドルにとどまり、TSMC・サムスンの最先端投資は続くもののペースが鈍り、営業利益率は24%まで低下する。AIデータセンター投資も一段落し、成長の勢いは過去10年ほど強くない。GAAや裏面給電への対応はアプライドマテリアルズ・Lam Researchにも先行される場面が増え、かつてのような独走状態ではなくなる。それでも技術の核心(コータデベロッパ・最先端成膜)では優位を保ち、事業自体が崩れるわけではなく、配当・自社株買いによる株主還元も規模を縮小しつつ継続される10年になる。
- 半導体製造装置(SPE):数量 1,642(世界WFE市場(億ドル・今の値段で測った実質、暦年))× 価格 26(実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 42,900 億円・営業利益 10,296 億円。市場 2,200 億ドル(名目)× シェア 13.0%、営業利益率 24%
- FPD製造装置・その他(サービス含む):数量 230(FPD 製造装置の出荷台数(台・年、推定。保守・部品は台数に比例))× 価格 8.26(1 台あたり平均売上(億円・名目、保守・部品を含む))→ 売上 1,900 億円・営業利益 57 億円。230 台 × 1 台 8.26 億円(今の 1.34 倍)、営業利益率 3%
倍率:ROE 22.3%(事業の純利益÷自己資本)。k 7.25%。今の利益はそのまま残り、先で薄れるのは新しく投じるお金の稼ぎだけとみて、RONIC=k+残る割合 1/2×(ROE−k)=15.1%、長期の成長率 g 4.5% から正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=20.1 倍。やや悲観は伸びと堀の持ちを低く見て、上限の 7.0 割の 14.0 倍に置いた。余った現金2,000億円は帳簿の値のまま足した。
確率:中国の国産化が中位工程まで広がり、WFE市場の伸び自体も鈍化する想定。SEMIの長期見通しのうち弱めのレンジに相当。
悲観 10% 構造的に優良さを失う 利益 1,859 億円 · PER 10.5 倍 · 株価時価総額 904 円2.04 兆円
Naura・AMECをはじめとする中国の国産装置メーカーが最先端工程にも食い込み、東京エレクトロンの世界シェアは8%まで低下する。TSMC・サムスンが中国国内生産の一部を国産装置に切り替え、SKハイニックス・マイクロンのHBM投資も米中対立の激化で不透明になる。同時にAI投資の反動とメモリの供給過剰が重なり、WFE市場自体も2,500億ドルにとどまる中でシェア損失が業績を直撃。アプライドマテリアルズ・ASMLも同様の打撃を受けるが、東京エレクトロンは中国依存度が高かった分だけ相対的に傷が深い。営業利益率は10%まで落ち込み、研究開発投資は維持するため利益を圧迫する。コータデベロッパでの技術優位は残るが、かつての「独占的な堀」という評価は市場から外れ、普通の資本財企業として評価されるようになる10年になる。
- 半導体製造装置(SPE):数量 1,866(世界WFE市場(億ドル・今の値段で測った実質、暦年))× 価格 16(実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍))→ 売上 30,000 億円・営業利益 3,000 億円。市場 2,500 億ドル(名目)× シェア 8.0%、営業利益率 10%
- FPD製造装置・その他(サービス含む):数量 190(FPD 製造装置の出荷台数(台・年、推定。保守・部品は台数に比例))× 価格 8.42(1 台あたり平均売上(億円・名目、保守・部品を含む))→ 売上 1,600 億円・営業利益 −160 億円。190 台 × 1 台 8.42 億円(今の 1.36 倍)、営業利益率 -10%
倍率:ROE 5.2% が k 7.25% 以下なので、伸びても価値は増えず(ためた利益は額面未満)、正当化 PER は 1÷k=12.5 倍。優位を失った後は、ROEが資本コストを下回るので、市場の倍率ではなく稼ぐ力(純利益÷k)から出し、上限の 8.5 割の 10.5 倍に置いた。余った現金2,000億円は帳簿の値のまま足した。
確率:中国の国産化が最先端工程にまで及び、かつ循環の谷が同時に来るという複合シナリオ。技術優位の喪失は一度始まると10年で後退しやすいため低頻度だが無視できない確率を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
半導体製造装置(SPE)
成膜・エッチング・洗浄・熱処理・コータデベロッパなど、ウェハー工程向けの主力装置群。
| 数量世界WFE市場(億ドル・今の値段で測った実質、暦年) | 価格実質の市場 1 ドルあたりの売上(円)=シェア × 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09・10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,170 | 20 | 23,166 | 6,255 |
| 10 年後 中立 | 1,940 | 29 | 56,550 | 16,400 |
取り方:2025年のWFE市場を1,170億ドル(SEMI・会社資料から逆算)とし、東京エレクトロンの売上がその13.2%に相当するとして、1ドル150円で億円に換算。WFE 市場の見通しはドル建ての名目なので、数量は今の値段で測った実質の市場(中立で 3 年 1.56 倍・10 年 1.66 倍)に直し、物価 3% は価格(シェア × 150 円 × 物価の倍率)に入れた。実質の市場が年 5% 前後伸びるのは、AI 向けの先端ロジックと HBM で、1 枚のウェハーにかかる工程数(成膜・エッチングの回数)が世代ごとに増えるため。今の価格はシェア 13.2% × 150 円。
FPD製造装置・その他(サービス含む)
有機EL・液晶パネル向け製造装置と、装置売却後の保守・部品・改造などのアフターサービス。
| 数量FPD 製造装置の出荷台数(台・年、推定。保守・部品は台数に比例) | 価格1 台あたり平均売上(億円・名目、保守・部品を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 200 | 6.18 | 1,235 | −6 |
| 10 年後 中立 | 260 | 8.46 | 2,200 | 176 |
取り方:有機 EL・液晶向けのコータデベロッパ・エッチング装置の出荷を年約 200 台と推定し、FPD・その他の売上 1,235 億円を 1 台あたり約 6.2 億円(保守・部品込み)とした。台数は実質の数量、物価 3% と大型・高精細化による値上がりは 1 台あたり売上に入れる。
リスクと懸念
中国の国産化と輸出規制の板挟み
中国向け売上は3割強を占め、米国の輸出規制が強化されればその分が直接失われる一方、規制を避けようと中国政府がNaura・AMECなど自前の装置産業を国家戦略として急速に育てており、規制が緩んでも強まっても中国関連の収益は長期的に縮んでいく板挟みの構図にある。
WFE市場のサイクル性
過去にも2001年のITバブル崩壊、2008年のリーマンショックで半導体投資が数十%単位で消える局面が繰り返されており、AI投資という新しい需要の柱ができても、資本財の受注が需要の先読みと在庫調整で大きく揺れる循環そのものが消えたわけではない。
倍率の圧縮
現在の株価は直近実績に対して高い倍率で評価されており、AI投資への期待が少しでも後退すれば、業績そのものが落ちる前に倍率の圧縮だけで株価が下がる場面が起こりやすい。2000年のITバブル後、2017〜2018年の半導体ブーム後にも同様の圧縮が起きた。
次世代技術への対応遅れ
GAAトランジスタ、裏面給電、先進パッケージングなど工程が複雑化する中、競合(ASML・アプライドマテリアルズ・Lam Research・KLA)のいずれかが新工程での採用を先に獲得すれば、東京エレクトロンが個別工程でシェアを落とすリスクがある。
ASMLへの構造的な従属
コータデベロッパ事業はASMLの露光装置の投資サイクルと一体で動くため、ASMLの納入遅延や次世代露光(High-NA EUV)移行の計画変更が、東京エレクトロン自身の経営判断とは関係なく、同社の受注タイミングにも直接伝わってしまう構造的な弱さがある。
顧客の投資判断への依存
TSMC・サムスン・SKハイニックス・マイクロン・インテルといった少数の大口顧客の投資計画に業績が直結しており、どの1社の投資計画の変更(延期・前倒し・縮小)も、装置受注全体に大きく影響する顧客集中リスクを抱えており、分散が効きにくい収益構造になっている。
今後の分かれ目
- WFE市場の見通しが会社計画(2027年1,900億ドル超)を上回る形で上方修正され続けたら
- 楽観・やや楽観の筋書きの確率を上げてよい。ただし倍率そのものが既に高いため、価値の伸び以上に株価が先行していないかは別に確認する。
- 中国向け売上比率が輸出規制強化で急低下したら
- やや悲観・悲観側の筋書きに重みを移す。特に中位工程でのシェア損失が定着するかを見る。
- 次の決算で営業利益率が35%を超えて定着したら
- 中立の筋書きの利益率前提を上方修正し、価値を見直す。
- 半導体投資の世界的な過熱が急に冷めて受注が前年割れしたら
- やや悲観・悲観の筋書きが近づいていると見て、倍率の圧縮も合わせて想定する。
- GAAや裏面給電の新工程でアプライドマテリアルズ・Lam Researchが先行採用を獲得したら
- シェア前提を下方修正し、技術転換点でのシェア損失リスクとして悲観側にやや寄せる。
- SKハイニックス・マイクロンのHBM4投資計画が相次いで延期されたら
- メモリ向け需要の前提を下方修正し、やや悲観の確率を上げる。
見ておくもの
- 四半期ごとの受注高(BB レシオ)と中国向け売上比率の推移
- 会社の中期計画の上方修正・下方修正のタイミング
- SEMI・会社資料によるWFE市場見通しの更新
- 中国国内装置メーカー(Naura・AMECなど)のシェア動向
倍率と資本コストの決め方
WFE市場の見通し(ドル建ての名目)を今の値段で測った実質の市場に直し、物価3%はシェア×150円×物価の倍率という価格の側に入れて売上を積み上げた(二重に物価を掛けない)。倍率は資本コスト7.25%(基本7.5%に、循環+0.75%・値決め力−0.25%)と長期の成長率4.5%(半導体の数量が10年より先も実質で伸びる領域)から、利益ベースの正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)で決めた。RONICは新しく投じるお金の稼ぎで、資本コストを超える分が先で半分薄れる値(10年中立は事業のROE 28.6%→RONIC約18%)。上限すれすれにはせず、循環の深さを見て中立はその7.5割に置いた。高成長はその時点までの利益に入れ、倍率のgには入れていない。中立のPERは10年16.1倍で、今のPER40倍台には寄せていない。悲観は谷の利益に谷の倍率を重ねず、稼ぐ力(純利益÷k)から出した。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 19.88→24.2 倍・やや楽観 PER 18.18→23.64 倍・中立 PER 16.12→22.59 倍)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。