結論
日本航空電子工業(JAE)は、スマホ・車載・産業機器向けのコネクタが売上の約 9 割を占める電子部品メーカーだ。航空機・防衛向けの電子機器も持つ。筆者の結論は、今の値段はやや割高、というものだ。最大の理由は、利益の薄さに比べて値段が先を行っていることにある。
2026 年 3 月期は売上 2,279 億円で増えたのに、営業利益は 156 億円から 89 億円へ落ちた。スマホ用の小型コネクタが売れず、新製品の立ち上げ費用がかさんだ。営業利益率は 3.9% で、過去 10 年で最も低い部類だ。会社の計画でも 2027 年 3 月期の営業利益は 95 億円にとどまる。
2025 年 10 月、筆頭株主だった NEC が持ち株の約 3 分の 1 を京セラに譲った。京セラは株主として販路と生産を貸す立場で、経営は JAE の自主性に任せるという。筆者はこれを事業の追い風と見る。ただ、利益を倍にするような材料ではない。
10 年後の中立は、営業利益率 7% 前後の「普通の部品メーカー」だ。この時の利益に妥当な倍率を掛けると、価値は今の時価総額より少し低い。車載や防衛の伸びに賭ける人でも、スマホの穴を埋めるまでが長い。
バリュー投資の観点から
事業の本質は、他社に替えにくい部品を作り続けることにある。ただ、JAE のコネクタは値段を自分で決められるほど強くない。バリュー投資の観点では、利益の質と資本の使い方を見る。
オーナー利益は小さい。最新期の純利益は 71 億円で、増産や新製品への投資を引くと、株主に残る分は限られる。堀は、車載での採用の定着と防衛の信頼性にあるが、スマホ向けでは効かない。
資本配分は評価が分かれる。財務は堅いが、2024 年に親会社側の事情で自己資本を大きく減らした。京セラが株主になって販路は広がるが、持分法の 3 分の 1 の株主は、経営の主導権を握らない。
安全域は薄い。10 年後の中立の利益に妥当な倍率を掛けた価値は、今の時価総額をやや下回る。自己資本の利益率が資本コストを安定して超えるまでは、払う値段に余裕があるとは言えない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、機器の中で電気信号を通す部品、コネクタである。2026 年 3 月期の売上のうちコネクタが約 87%、航空機・防衛向けの電子機器(航機)が約 9%、タッチパネル周りなどのインタフェース・ソリューションが約 3% を占める。
コネクタの用途は 3 つある。スマホなど携帯機器向けの超小型品、車載のカメラや運転支援(ADAS)向けの高速品、産業機器・通信機器向けの品だ。顧客はスマホの組み立て大手、自動車メーカーと一次部品メーカー、機器メーカーに分かれる。スマホ向けは数が出るが単価が低く、値下げ要求が強い。車載向けは認証に時間がかかるぶん、一度採用されると長く売れる。
航機は慣性センサーなどの飛行制御機器を持つ。防衛予算の拡大で需要が伸びており、会社も防衛・宇宙を第 4 の重点市場として育てている。売上は小さいが、利益率はコネクタより高いと筆者はみる(セグメントごとの利益は開示から確認できなかったため推定)。インタフェース・ソリューションは売上 77 億円の小さな事業で、収益への影響は小さい。
2026 年 3 月期の営業利益 89 億円のうち、大半はコネクタが稼いでいる。コネクタの景気に利益が左右される構造だ。
優良さと弱いところ
JAE の強みは、車載や携帯機器向けの超小型・高速コネクタの設計力と、航空・防衛で培った信頼性の高い製品づくりにある。車載のカメラや運転支援向けでは、一度採用されると数年は他社に替わりにくい。財務は堅い。自己資本比率は 62%、純有利子負債はマイナスで、借金で苦しむことはない。
弱みは、値段を自分で決められないことだ。コネクタは世界の大手(TE、アンフェノール、モレックス、ヒロセ電機など)がひしめき、中国の現地メーカーも追い上げる。スマホ向けは顧客の値下げ要求が強い。営業利益率は過去 10 年で 4% から 13.5% の間を行き来し、最新期は 3.9% だった。同じコネクタのヒロセ電機が 20% 前後を保つのと比べると、差は大きい。
資本効率も低い。自己資本の利益率は過去 10 年の中央値が 8.6% で、最新期は 4.9% だ。資本コストの 8.5% に届かない年が多い。堀は「普通」で、強いとは言えない。
もう 1 つ、資本の使い方に注意が要る。2024 年 3 月期に自己資本が約 450 億円減っており、NEC 保有分の株式を買い取った影響とみられる(一次資料は未確認)。親会社の都合に合わせた動きで、少数株主のための資本配分とは言いにくい。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
コネクタの世界市場は 800 億ドル台とされ、TE コネクティビティ、アンフェノール、モレックスが上位を占める(市場規模は推定。出典は確認できず)。JAE の売上は 13 億ドル規模で、世界の 1〜2% にとどまる。日本勢ではヒロセ電機、日本圧着端子製造(JST)、京セラ(旧 AVX を含む)が競合する。
今の逆風は、スマホ向けの需要の弱さだ。台数が伸びない上に、部品点数を減らす設計が進み、超小型コネクタの出番が減っている。2026 年 3 月期はこの影響で、海外の車載向けも含めて売上が減った。一方で追い風もある。車載はカメラやセンサーの数が増え、高速で大量のデータを流すコネクタが要る。AI データセンターの伝送向けも伸びる。防衛は日本の予算拡大が数量を押し上げる。
中国勢の追い上げは、スマホ向けでまず価格に出て、車載の現地調達に広がりつつある。京セラの傘下に入った後も、この競争は変わらない。筆者は、10 年で数量は伸びるが、単価が物価に追いつく程度にとどまり、利益率は 7% 前後に戻るのが中心とみる。
2027 年 3 月期は、4〜6 月期の営業利益が 3 億円まで落ちた。売上は 13% 増えたのに利益が出ない形で、新製品の立ち上げ費用と部材高が重い。
資本政策と M&A
最大の論点は、京セラとの関係だ。2025 年 10 月に NEC が持ち株の大半を京セラへ譲り、JAE は京セラの持分法適用会社になった。譲渡前の NEC の議決権割合は 33.5% だった。京セラは米国の子会社の販売網とチェコ工場を生かし、JAE の製造委託と欧州での販売を広げる考えだ。取締役の派遣権も得たが、経営の自主性は尊重するとされる。
親会社に近い大株主の入れ替えは、買収の可能性を残す。ただ、京セラは持分法のままで関与する形を選んだ。完全子会社化の公開買付けが出るかは見えない。筆者は、10 年以内の買収の確率を低くはみないが、価格が大きく跳ねる前提では価値を置かない。
還元は、連結配当性向 30% 以上が方針だ。2026 年 3 月期の配当は性向 57% で、27 年 3 月期は減配の予想だ。自社株買いは直近は出していない。手元は純現金で、時価総額の 4% 弱と小さく、余った現金を分けて評価するほどではない。
2024 年の NEC 保有分の買い取りで自己資本が減った経緯を踏まえ、筆者は還元より事業の立て直しを優先してほしいと見ている。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
車載のカメラ・運転支援向けと、AI データセンターの高速伝送向けで、コネクタの出番は構造的に増える。JAE は車載の高速コネクタで実績があり、一度採用されれば数年は替わりにくい。防衛予算の拡大で、航機の数量も 10 年で 5 割は増えるとみる。
直近の営業利益率 3.9% は谷だ。新製品の立ち上げ費用が先に出ているだけで、これが収益に変わると 7〜8% は回復できる。2018 年前後に 8% 台を出した実績がある。
京セラが株主に入ったことも大きい。京セラの米国拠点とチェコ工場を使うと、欧州と北米の顧客に届く。製造の委託先が増え、自社の工場の稼働も安定する。親会社の NEC の都合で止まっていた投資の判断も、京セラの下で動きやすくなる。
純現金で借金はなく、自己資本比率も 62% ある。谷でも財務が傷まないので、投資を続けられる。市場が成熟するスマホ依存を減らす 10 年だと考えれば、利益の底は見えている。
慎重な見方
JAE の利益率は 10 年のうち 9 年が 8% 未満で、最新期は 3.9% だ。会社の予想でも 2027 年 3 月期の営業利益は 95 億円と、さらに低い。谷ではなく、構造の問題を疑うべきだ。
スマホ向けの小型コネクタは数が伸びず、部品点数を減らす設計が進む。顧客の値下げ要求は強く、中国の現地メーカーも迫る。車載でも世界の大手と中国勢に挟まれ、価格の主導権はない。ヒロセ電機が 20% 前後の営業利益率を保つのに対し、JAE は 4〜7% にとどまる。堀が違うことの表れだ。
京セラの出資は経営の主導権を渡さない 3 分の 1 の持分法で、利益を押し上げる直接の仕組みがない。2024 年 3 月期には NEC 保有分の買い取りで自己資本が約 450 億円減り、少数株主よりも親会社の都合が優先された形跡がある。
自己資本の利益率は資本コストの 8.5% を安定して超えたことがない。ためた利益は額面未満の価値しかなく、今の値段に安全域はない。
どちらに重みを置いたか
車載・防衛・京セラとの協業という強気の材料は、どれも利益率を元の 7% に戻す方向で働く。ただ、慎重な見方の指摘も重い。利益率が 10 年のうち 9 年で 8% を下回り、最新期は 4% まで落ちている。ヒロセ電機との差は、堀の弱さの表れだ。
10 年後の中立は営業利益率 7% 前後に置いた。強気側の材料には確かさが足りず、確率は中立に 35% を置き、残りを慎重側に少し厚くした。価値は今の時価総額をやや下回る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,234 円2,856 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,057 円713 億円)。 今の値に割り戻すと 2,681 円1,808 億円、今との差 +2.5%、 期待の年率 +7.3%(資本コスト 8.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 10,886 円7,343 億円 | 1,705 円1,150 億円 | +381.7% | +17.0% | 1,007 円679 億円 |
| やや楽観 | 22% | 6,808 円4,592 億円 | 1,297 円875 億円 | +210.1% | +12.0% | 1,783 円1,203 億円 |
| 中立 | 35% | 4,259 円2,873 億円 | 1,142 円770 億円 | +106.6% | +7.5% | 1,890 円1,275 億円 |
| やや悲観 | 26% | 1,311 円884 億円 | 801 円540 億円 | −19.2% | −2.1% | 549 円370 億円 |
| 悲観 | 9% | 371 円250 億円 | 311 円210 億円 | −73.9% | −12.6% | 61 円41 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,234 円2,856 億円 | 1,057 円713 億円 | +102.4% | +7.3% | 5,291 円3,569 億円 |
今の株価時価総額 2,614 円1,763 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 車載とデータセンターで主力に育つ 利益 434 億円 · PER 16.9 倍 · 株価時価総額 10,886 円7,343 億円
車載のカメラ・ADAS 向けと、データセンターの高速伝送向けが、スマホの穴を埋めて余りある。コネクタの出荷は 10 年で 6 割増え、高付加価値品の比率が上がって単価は物価を上回る。防衛予算の拡大で航空・防衛向けの機器も大きく伸びる。京セラの米国拠点とチェコ工場を使った販売と生産の連携が、欧州と北米の顧客を広げる。新製品の立ち上げ費用は一巡し、営業利益率は 10% を超える。2015 年の 13.5% には届かないが、過去 10 年で最も高い水準に近い。自己資本の利益率も 15% 台まで戻る。ここまで行く確率は低いが、事業の筋は通っている。
車載・データセンター・防衛の 3 つが同時に当たる必要がある。うまく行く道は細い。
- コネクタ:数量 128(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 35(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 4,462 億円・営業利益 469 億円。出荷 1.60 倍・単価 1.40 倍・営業利益率 10.5%
- 航空機・防衛向け機器(航機):数量 4.5(出荷台数相当(万台、便宜的な推定))× 価格 140(1 台相当あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 631 億円・営業利益 107 億円。出荷 2.20 倍・単価 1.40 倍・営業利益率 17.0%
- インタフェース・ソリューション:数量 0.8(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 134(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 103 億円・営業利益 7 億円。出荷 1.00 倍・単価 1.34 倍・営業利益率 7.0%
倍率:事業の純利益 434 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.7% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.9 倍。全体の PER 16.92 倍、時価総額 7,343 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:車載・データセンター・防衛の 3 つが同時に当たる必要があり、細い道。直近の利益率 4% からの回復幅も大きいため、1 割に届かない 8% に置く。
やや楽観 22% 車載・防衛が伸び、利益率が緩やかに回復 利益 298 億円 · PER 15.4 倍 · 株価時価総額 6,808 円4,592 億円
スマホ用コネクタは縮むが、車載と産業機器、航空・防衛向けが伸びて穴を埋める。コネクタの出荷は 10 年で 45% 増える。単価は物価並みか、少し上に出る。新製品の立ち上げ費用が落ち着き、営業利益率は 8% 台に戻る。これは 2018 年前後の水準だ。京セラとの協業は販路の拡大と生産の補完にとどまり、利益を劇的に押し上げるほどではない。配当は利益の半分ほどを続ける。自己資本の利益率は 13% 前後で、資本コストを安定して上回る。値上げが通る品が増え、スマホの比率が下がることで、利益の質が少しずつ上がる 10 年になる。
車載と防衛の伸びが続く一方、スマホの落ち込みが想定より大きいことも考えられるため、中立より少し上に置く。
- コネクタ:数量 116(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 34(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 3,957 億円・営業利益 336 億円。出荷 1.45 倍・単価 1.37 倍・営業利益率 8.5%
- 航空機・防衛向け機器(航機):数量 3.9(出荷台数相当(万台、便宜的な推定))× 価格 138(1 台相当あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 537 億円・営業利益 75 億円。出荷 1.90 倍・単価 1.38 倍・営業利益率 14.0%
- インタフェース・ソリューション:数量 0.7(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 134(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 92 億円・営業利益 6 億円。出荷 0.90 倍・単価 1.34 倍・営業利益率 6.0%
倍率:事業の純利益 298 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.9% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.4 倍。全体の PER 15.41 倍、時価総額 4,592 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:車載と防衛が伸び、スマホの落ち込みを埋める筋。ただし利益率が 8% 台まで戻るには新製品の立ち上げ費用が落ち着く必要があり、22% に置く。
中立 35% 伸びるが、利益率は元の 7% 前後に戻る 利益 207 億円 · PER 13.9 倍 · 株価時価総額 4,259 円2,873 億円
10 年後も事業の姿は大きくは変わらない。コネクタが売上の 9 割近くを占め、車載と産業機器の比率がゆっくり上がる。数量は 10 年で 3 割増え、単価は物価並みの 1.34 倍になる。航空・防衛向けは数量が 5 割増える。営業利益率は 7% 前後で、2022〜2023 年の水準に戻る。かつての 10% 超には届かない。顧客の値下げ要求が強く、新製品の開発費が絶えず出ていくからだ。京セラとの協業は成果を出すが、持分法適用の 3 分の 1 の株主にとどまり、利益の構造は変えない。
最も起こりやすいのは、この「普通の部品メーカー」としての 10 年だ。
- コネクタ:数量 104(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 33(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 3,470 億円・営業利益 243 億円。出荷 1.30 倍・単価 1.34 倍・営業利益率 7.0%
- 航空機・防衛向け機器(航機):数量 3.1(出荷台数相当(万台、便宜的な推定))× 価格 134(1 台相当あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 411 億円・営業利益 49 億円。出荷 1.50 倍・単価 1.34 倍・営業利益率 12.0%
- インタフェース・ソリューション:数量 0.6(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 134(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 83 億円・営業利益 4 億円。出荷 0.80 倍・単価 1.34 倍・営業利益率 5.0%
倍率:事業の純利益 207 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.0% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.9 倍。全体の PER 13.88 倍、時価総額 2,873 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:過去 10 年の営業利益率の中央値に近い 7% 前後へ戻る筋を中心に置く。強気と慎重の議論の落としどころで、最も重い 35% にした。
やや悲観 26% 価格競争で利益率が低く張り付く 利益 104 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 1,311 円884 億円
スマホ用の小型コネクタは中国勢との値下げ競争が続き、数量も価格も伸びない。車載でも欧米・中国の大手に押されて、単価は物価ほど上がらない。数量の伸びは 1 割ほどにとどまる。営業利益率は 4% 台で、直近の 4% に近いまま動かない。研究開発と新製品の立ち上げ費用は下がらず、固定費が重い。京セラとの協業は販路の拡大にはなるが、利益を押し上げるまでは行かない。配当は利益の 6 割ほどを出し続ける。自己資本の利益率は 6% 前後で、資本コストに届かない年が続く。売上は伸びても、稼ぐ力がつかない 10 年になる。航空・防衛向けだけは堅調で、全体の下支えになる。
直近の利益率が 4% まで落ちた事実があるため、このまま低位に張り付く確率は小さくない。
- コネクタ:数量 89.6(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 32(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 2,856 億円・営業利益 129 億円。出荷 1.12 倍・単価 1.28 倍・営業利益率 4.5%
- 航空機・防衛向け機器(航機):数量 2.6(出荷台数相当(万台、便宜的な推定))× 価格 130(1 台相当あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 333 億円・営業利益 33 億円。出荷 1.25 倍・単価 1.30 倍・営業利益率 10.0%
- インタフェース・ソリューション:数量 0.5(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 125(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 68 億円・営業利益 1 億円。出荷 0.70 倍・単価 1.25 倍・営業利益率 2.0%
倍率:純利益 104 億円は ROE 5.8% で k 8% を下回る。ためた利益は額面未満の価値なので、稼ぐ力(純利益÷k、PER の上限は 1÷k=11.8 倍)の 72% を置いた。自己資本や市場の倍率は根拠にしない。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 8.5 倍・時価総額 884 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:直近 3 年のうち 2 年は利益率が 7% を割り、最新期は 3.9%。値下げ競争と固定費の重さが続く筋を、中立より少し軽い 26% に置く。
悲観 9% 構造的にシェアを失い、小さな会社になる 利益 31 億円 · PER 8.1 倍 · 株価時価総額 371 円250 億円
スマホ用コネクタで大口顧客を失い、車載でも中国の現地部品メーカーに価格で負けて、数量が 15% 減る。単価は物価に遠く及ばない 1.12 倍にとどまる。営業利益率は 2% 台まで下がり、インタフェース・ソリューション事業は赤字が続いて縮小する。航空・防衛事業だけが安定して稼ぎ、全体の利益を支える。京セラとの協業も、顧客を失う流れを止められない。配当は積み上げた純現金とこの事業の利益から出し続けるが、増配はできない。事業が崩れるわけではないが、優良企業ではなくなる。
大口顧客の離脱と中国勢の台頭が重なった時の姿だ。優良企業の評価は外れるが、無借金に近い財務は残る。
- コネクタ:数量 68.0(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 28(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 1,897 億円・営業利益 47 億円。出荷 0.85 倍・単価 1.12 倍・営業利益率 2.5%
- 航空機・防衛向け機器(航機):数量 2.1(出荷台数相当(万台、便宜的な推定))× 価格 120(1 台相当あたり平均単価(万円・名目))→ 売上 246 億円・営業利益 15 億円。出荷 1.00 倍・単価 1.20 倍・営業利益率 6.0%
- インタフェース・ソリューション:数量 0.4(年間出荷個数(億個、推定))× 価格 115(1 個あたり平均単価(円・名目))→ 売上 45 億円・営業利益 −2 億円。出荷 0.50 倍・単価 1.15 倍・営業利益率 -5.0%
倍率:悲観の純利益 31 億円は ROE 2.0% で、ためた利益は額面未満の価値しかない。やや悲観の時価総額÷純利益 8.5 倍より悲観ほど低く置くので、その約 95% の 8.1 倍(時価総額 250.3 億円)とした(稼ぐ力 純利益÷k も超えない)。自己資本の厚さや市場の倍率は根拠にしない。
確率:大口顧客の離脱と中国勢のシェア拡大が同時に来る筋。10 年で起きるには条件が重いが、2009 年の赤字や最新期の急落の前例があり、1 割弱の 9% を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
コネクタ
スマホなど携帯機器向けの超小型品、車載のカメラ・ADAS 向けの高速品、産業機器・通信機器向けのコネクタ。売上の約 87%。
| 数量年間出荷個数(億個、推定) | 価格1 個あたり平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 80.0 | 25 | 1,992 | 70 |
| 10 年後 中立 | 104 | 33 | 3,470 | 243 |
取り方:出荷個数は開示がなく、80 億個と推定した。スマホ用の超小型品は数円、車載・産業用は数十円から 1 百円を超える水準なので、加重平均で 1 個あたり約 0.25 百円とみて売上 1,992 億円に合わせた。営業利益 70 億円は、全社の 89 億円から航機・インタフェース・調整を引いた推定(セグメント利益は未確認)。単価は名目。物価 3% の 10 年 1.34 倍が中立の基準で、車載・高速品への構成の変化と値下げ要求が釣り合うとして中立は 1.34 倍に置いた。
航空機・防衛向け機器(航機)
慣性センサーなどの飛行制御機器と、航空・防衛向けのコネクタ。売上の約 9%。
| 数量出荷台数相当(万台、便宜的な推定) | 価格1 台相当あたり平均単価(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.1 | 100 | 205 | 25 |
| 10 年後 中立 | 3.1 | 134 | 411 | 49 |
取り方:台数の開示がないため、売上 205 億円を 2.05 万台相当に 1 台あたり 100 万円の単価を掛けた形とした便宜的な置き方(推定)。防衛予算の拡大が数量に効く。営業利益 25 億円(利益率 12%)は推定。単価は物価並みの 1.34 倍が中立。
インタフェース・ソリューション
タッチパネルや入力機器など。売上の約 3% と小さい。
| 数量年間出荷個数(億個、推定) | 価格1 個あたり平均単価(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.8 | 100 | 77 | 3 |
| 10 年後 中立 | 0.6 | 134 | 83 | 4 |
取り方:個数の開示がないため、売上 77 億円を 0.77 億個に 1 個あたり約 1 百円の単価を掛けた形と推定した。営業利益 3 億円は推定。単価は物価並みの 1.34 倍が中立。数量は用途が小さく、横ばいから減るとした。
リスクと懸念
スマホ向けの需要と値下げ
売上の相当部分を占めるスマホ向け超小型コネクタは、台数が伸びず、顧客の値下げ要求も強い。部品点数を減らす設計が進めば、出番そのものが減る。最新期の減益の主因でもある。
利益率の低さと固定費
営業利益率は最新期 3.9%、2027 年 3 月期の会社計画も 4% だ。新製品の立ち上げ費用と研究開発費が先に出る構造で、売上が伸びても利益が出ない形が続くと、資本コストを稼げない期間が長引く。
中国勢と世界の大手との競争
コネクタは世界の大手が多く、中国の現地メーカーも追い上げる。車載でも現地調達が広がれば、価格で負ける。ヒロセ電機のような高い利益率を出せていない点が弱みだ。
京セラとの関係の不確かさ
京セラは持分法の 3 分の 1 の株主で、経営の自主性を尊重するとされる。協業の成果が出るかは未知で、公開買付けが出るかも見えない。買収を前提に価値を置かない。
資本配分への懸念
2024 年 3 月期に NEC 保有分の株式の買い取りなどで自己資本が約 450 億円減った。2027 年 3 月期は減配の予想だ。少数株主にとって、資本の使い方の方針が読みにくい。
車載の投資の回収
車載のカメラ・ADAS 向けは採用まで時間がかかる。電動化の速度が鈍れば、先行投資の回収が遅れる。顧客の一社への依存が強いと、採用の可否で売上が大きく動く。
為替と部材高
海外売上が大きく、円高になれば円換算の利益が減る。部材と人件費の高騰は、値上げが通らなければそのまま利益率を削る。
今後の分かれ目
- 車載・データセンター向けの高速コネクタの受注が、スマホの減少を明確に上回って伸びたら
- やや楽観・楽観の確率を上げ、利益率の前提を 8% 台へ引き上げる。
- 新製品の立ち上げ費用が落ち着いても営業利益率が 5% を超えなかったら
- やや悲観の確率を上げ、中立の利益率を 5〜6% へ下げる。
- 京セラが追加で株を取得し、完全子会社化の公開買付けを出したら
- 買付けの価格が本質価値を超えるかを見て、売却益の機会として別に評価する。
- 京セラの米国拠点・チェコ工場を使った製造委託の売上が数字に出始めたら
- 中立の確率を厚くし、数量の前提を上方に修正する。
- 防衛予算の拡大で航機の受注が計画を大きく上回ったら
- 航機の数量と利益率を上げ、全社の利益の下支えとして評価する。
- 中国勢が車載でも JAE の主要顧客を奪い、数量が減り始めたら
- 悲観の確率を上げ、数量の前提を大きく下げる。
見ておくもの
- 営業利益率が 4% から 6% を超えて回復するか
- 車載・データセンター向けの受注と売上比率の推移
- 京セラとの協業の具体的な成果(製造委託・販売)
- 航機の受注残と防衛関連の売上
- 配当方針と自己資本の流れ(還元の見直し)
倍率と資本コストの決め方
コネクタ・航機・インタフェースを出荷(実質)×単価(名目)で積み、倍率は資本コスト 8%(基本 7.5% に quality +1.0%)と g 4.0%、事業の ROE から正当化 PER を計算して置いた。中立は ROE が k を上回るので 1÷k の 11.8 倍を下回らせず、上限の 94% にした。悲観は稼ぐ力(純利益÷k)を上限に、倍率をやや悲観の約95%に置いた。過去の倍率や自己資本の厚さは根拠にしていない。今の株価・PER・過去の倍率は根拠にしていない。純現金は 68 億円で時価総額の 4% 弱なので余った現金は分けない。セグメントの数量・利益は開示が無く推定である。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14→16.92 倍・やや楽観 PER 12.8→15.41 倍・中立 PER 11.9→13.88 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.0% を足して 8.5%。同じ領域のヒロセ電機(0%)より高く、マブチモーター・スタンレー電気(+1.0%)と並ぶ。値決めの弱さと循環の分だけ高い。京セラの出資や買収の可能性は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 8.00%。