結論
ちゅうぎんフィナンシャルグループは、岡山県の中国銀行を中核とする地方銀行グループだ。筆者の結論は、10 年で見ればほぼ適正である。いまの利益が小さく、伸びしろが大きいからだ。
稼ぎの土台は、岡山での圧倒的な顧客基盤にある。県内企業の主取引銀行としてのシェアは 45% を超え、2 位のトマト銀行の 4 倍だ。貸出は 6.8 兆円、グループの資産は 11.3 兆円に達する。
利益は 6 期連続で増え、2026 年 3 月期は 397 億円になった。金利が上がるほど貸出の利ざやが広がる構造で、会社は次の中期経営計画で純利益 800 億円以上、ROE 10% 以上を狙う。
ただし、ROE はいま 6% 台と低い。自己資本の厚みに、稼ぎがまだ追いついていないためだ。筆者は 800 億円に 10 年かけて近づくとみる。会社が掲げる速さほどは楽に見ない。
重しは二つある。岡山の人口減と、外へ広げた船舶金融の市況だ。それでも名目の貸出残高と利ざやの伸びが、この重しを上回る。中立の 10 年後は ROE が 9% 台、PER は 10.8 倍になる。確率で重みづけた本質価値は、今の時価総額(約6,267億円)に対し10年で−1.9%、「適正」と見る(資本コスト8.25%、10年の筋書きだけで測る)。
バリュー投資の観点から
オーナー利益の面では、岡山での基盤が、金利上昇の利ざや拡大をそのまま利益へ運ぶ道になる。貸出を増やすのに、新しい工場も大きな設備も要らない。バリュー投資の観点では、この事業の「持ち続けやすさ」を評価できる。
堀は広い。主取引銀行シェアが 45% を超える地域は、全国でも多くない。10 年先も、県内の中堅・中小企業の財布はこの銀行を通る。堀が狭まる芽は、人口減の中で若い起業家が県外へ出ることだ。ただ、10 年では致命傷にならない。
経営の資本配分は、改善の途中だ。ROE が低いまま自己資本を積み上げた過去から、政策保有株を減らし、配当性向 40% と自己株買いへ向かっている。この転換が続くかどうかが、ROE 10% へ届く分かれ目になる。筆者がいちばん気にしているのは、貸出を積み上げる局面で、船舶などの市況に引きずられて資本を傷めないかどうかだ。
安全域は厚くない。確率で重みを付けた本質価値は、今の時価総額とほぼ同じ(+0.3%)で、安全域は薄い。払う値段に見合う見込みはあるものの、悲観の筋書き(景気の谷や構造的な負け)が来たときの落ち込みは大きい。わかりやすい事業だが、読みやすい利益ではない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は、中国銀行による岡山県内の法人・個人向け融資だ。県内企業の主取引銀行としてのシェアは 45.6%(帝国データバンク、2025 年 10 月末)。2 位のトマト銀行は 11.3%、3 位のおかやま信用金庫は 10.1% で、県内に並ぶ銀行はない。預金も単体で約 8 兆円と厚く、貸出の元手に困らない。
法人貸出は、地元の中堅・中小企業が相手だ。事業承継や起業の支援にも力を入れ、投資子会社のちゅうぎんキャピタルパートナーズが、事業承継の過半出資やスタートアップへのファンド出資を手がける。融資だけでなく、株主として企業に入る形を増やしている。
貸出の伸びを引っぱるのは、岡山の外へ出た戦略分野だ。船舶金融の残高は 4,600 億円超で、貸出全体の約 7%。年 20% 超のペースで増え、シンガポール支店が拡大を支える。不動産、航空機、LBO(買収資金)向けのストラクチャードファイナンスも、同じ戦略分野に含まれる。
個人向けは住宅ローンが中心で、預かり資産(投資信託・保険)の販売と合わせて手数料を稼ぐ。グループにはリース、証券、カード、コンサルティングなど 13 社が並ぶ。銀行の外で稼ぐ力は、まだ小さいが育てている途中だ。
競争相手は、広島を地盤とする広島銀行(ひろぎんホールディングス)や山陰合同銀行などだ。ただ、岡山県内で正面からぶつかる相手は少ない。中国 5 県の企業全体で見ても、中国銀行の主取引シェアは 15.8% で、広島銀行に次ぐ 2 位に入る。
優良さと弱いところ
最大の堀、つまり他社がまねできない強みは、岡山県内での圧倒的な顧客基盤だ。県内企業の半数近くが主取引銀行に選んでいる。このシェアは 2024 年の 46.2% から 45.6% へ小さく動いただけで、揺らいでいない。融資の価格交渉で強く出られるのは、この基盤があるからだ。
一方で、資本効率はまだ弱い。ROE は 6% 台で、同じ地方銀行の上位が目指す 9〜10% との差が大きい。バリュー投資家が地方銀行に求めるのは、基盤の強さより、その基盤を稼ぎに変える力だ。ここは改善の途中にある。
改善の中身は具体的だ。貸出残高の積み上げ、地元貸出の利ざやの引き上げ、資産の入れ替えで ROE を上げる方針を掲げ、純利益は 6 期続けて伸びた。政策保有株(取引先の株)は 2022 年 3 月末から 48% 減らし、2026 年度中に 50% 減を目指す。資本を遊ばせない姿勢が見える。
弱みは三つある。自己資本比率が 5% 台と薄く、信用コストが急に増えると傷みやすい。船舶金融のように、地元の外で貸出を伸ばす分野は、市況の波を受ける。そして経費率は 51% 台と、まだ重い。人件費と施策投資の増加は、利ざや拡大の恩恵を一部食う。
ガバナンスは監査等委員会設置会社で、2025 年 6 月末の取締役 9 名のうち 5 名が社外だ。大きな不祥事の兆しは、調べた範囲で見当たらなかった。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
地方銀行は、長い低金利の時代を抜け、金利のある世界の初期段階にいる。短期金利が 2% へ向かう間、貸出の金利は先に上がり、預金の金利は遅れて追う。この時間差が利ざやを広げる。中国銀行の単体の総資金利鞘は 2025 年 9 月中間期で 0.19% と、前年同期から 0.04 ポイント広がった。
広がり方は、まだ途中だ。会社は 2026 年度の予想に、6 月と 12 月の 2 回の利上げを織り込んでいる。短期金利が 2% で落ち着くまでの間、利ざやの拡大は数年続く。ここが最大の追い風になる。
逆風は、地元の人口減と貸出需要の伸び悩みだ。岡山の貸出は、増えても名目で年 3% 前後が限度とみる。これに対し、船舶や不動産などの戦略分野は、地元の外で量を取りにいく。量の伸びを地元だけに頼らないのが、中国銀行の特徴だ。
再編の波は、岡山にも近い。千葉銀行と千葉興業銀行、しずおかフィナンシャルグループと名古屋銀行は、統合へ動いた。岡山県は中国銀行の一強で、県内に統合の相手になる銀行がない。再編の主役になる可能性は低い。会社は、各地域のトップ地銀が集まる TSUBASA アライアンスに加わり、システムや商品を共同で磨く道を選んでいる。
中国地方では広島銀行が最大手で、ひろぎんホールディングスとは山陽地域の連携協定を結んだ。ATM 手数料の相互無料化など、競争より協調で動く関係だ。県境をまたいだ大型の経営統合は、可能性として残るが、いまは材料が出ていない。
資本政策と M&A
還元は、配当性向 40% 程度に、機動的な自己株式取得を組み合わせる方針だ。2026 年 3 月期の配当総額は約 160 億円で、増益に合わせて配当も大きく上げてきた。自己株買いは、資本の水準を見ながら必要な時に出す。普通株式等 Tier1 比率(評価差額を除く)は 11% 前後で、会社は 11〜12% の範囲で管理している。
筆者は、この水準が資本の使い道を決めていると見る。稼ぎが増えるほど、貸出へ回すか、株主に返すかの選択になる。貸出を伸ばせれば ROE は上がるが、自己資本比率は 5% 台と薄い。返しすぎれば景気の谷で傷む。この釣り合いが、これからの経営の腕の見せどころだ。
政策保有株は、2022 年 3 月末比で 48% 減った。簿価で純資産の 4.2% まで下がっており、売却益は資本の厚みとして残る。買収は大きな案件がなく、投資子会社を通じた小口の出資と事業承継が中心だ。大型買収で価値を壊すリスクは小さい。
買収される側になる確率は、kabufu の試算で 10 年以内 14.5% と低めだ。岡山に並ぶ競合がなく、規模の面でも大手の標的になりにくい。TOB(株式公開買付け)が起きても、プレミアムの大きさは見通せない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
金利が上がるほど、貸出の利ざやは広がる。中国銀行の単体の総資金利鞘は、2025 年 9 月中間期で 0.19% と、前年から 0.04 ポイント広がった。短期金利が 2% へ向かう道のりは、まだ途中だ。利益は 6 期連続で増え、2027 年 3 月期の会社予想は 450 億円。次の中計では 800 億円以上、ROE 10% 以上を狙う。
岡山県内の主取引シェアは 45% を超え、2 位の 4 倍だ。金利の上乗せを通しやすいのは、この基盤があるからだ。船舶金融は年 20% 超で伸び、シンガポールの拠点が量を取りにいく。貸出を地元の外へ広げる力は、人口減を補ってなお余りある。
さらに、ROE の低さは伸びしろの裏返しだ。自己資本比率が 5% 台と薄いのに、利益率はまだ低い。貸出の積み上げと政策保有株の圧縮で資本の使い方を変えれば、同業の上位並みの ROE 10% は届く。配当性向 40% に自己株買いを足す方針が続けば、1 株の価値も上がる。いまの値段は、この改善をまだ織り込んでいない。
慎重な見方
利益が伸びる局面ほど、落とし穴は深い。信用コストはいま 61 億円と歴史的な低さで、2027 年 3 月期も 75 億円の予想だ。景気が一巡すれば、この倍以上になってもおかしくない。金利が上がる過程は、地元の中小企業の資金繰りを苦しくする。
成長の柱にした船舶金融は、海運市況の波をそのまま受ける。残高は貸出の 7% 程度でも、年 20% の伸びは、貸出の質への注意を緩める。外へ広げた分が、地元貸出より先に傷む恐れがある。
経費も重い。経費率は 51% 台で、人件費は 2026 年度に 30 億円、施策投資は 25 億円増える。利ざやの拡大分を、賃上げと投資が先に吸い上げる。ROE 10% という目標は、まだ検討段階の水準にすぎない。
さらに、岡山の人口減は止まらない。県内の貸出需要は名目でも伸びが鈍く、主取引シェア 45% は、これ以上増やしにくい天井でもある。広島銀行など県外の大手が岡山へ攻め込めば、地元の価格交渉力は落ちる。自己資本比率が 5% 台と薄い以上、景気の谷では株式の評価損も重なる。PBR がいま 1 倍前後にあるのは、安全域のある値段とは言えない。
どちらに重みを置いたか
強気の見方が、10 年では上回る。利ざやの拡大は構造的で、地元の基盤は岡山で圧倒的だからだ。一方、信用コストの反転と船舶の波という懸念は、確率に残した。
確率は同業の標準に近い置き方にした。自己資本が薄く、会社の ROE がまだ低いことを踏まえ、10 年では悲観側の合計を 36% と、楽観側の 34% よりわずかに厚くした。その結果、10 年の本質価値は今の時価総額を2%弱下回る「適正」になる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 5,195 円9,238 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,751 円3,113 億円)。 今の値に割り戻すと 3,529 円6,276 億円、今との差 +6.7%、 期待の年率 +7.7%(資本コスト 8.3%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 11% | 7,936 円1.41 兆円 | 2,314 円4,115 億円 | +210.0% | +12.0% | 1,127 円2,005 億円 |
| やや楽観 | 23% | 6,807 円1.21 兆円 | 2,081 円3,701 億円 | +168.9% | +10.4% | 2,044 円3,636 億円 |
| 中立 | 30% | 5,759 円1.02 兆円 | 1,865 円3,317 億円 | +130.6% | +8.7% | 2,287 円4,068 億円 |
| やや悲観 | 23% | 3,570 円6,350 億円 | 1,514 円2,693 億円 | +53.8% | +4.4% | 1,169 円2,080 億円 |
| 悲観 | 13% | 1,593 円2,832 億円 | 843 円1,500 億円 | −26.3% | −3.0% | 317 円563 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,195 円9,238 億円 | 1,751 円3,113 億円 | +110.1% | +7.7% | 6,945 円1.24 兆円 |
今の株価時価総額 3,306 円5,879 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 11% 自力で ROE 11% 台へ。船舶金融が 2 倍超に 利益 1,022 億円 · PER 13.8 倍 · 株価時価総額 7,936 円1.41 兆円
10 年のあいだに、短期金利 2%・長期金利 3% が定着し、地元貸出の利ざやは高い水準で安定する。船舶金融は 2 倍超に育ち、不動産・航空機にも広がる。経費の改善と資産の入れ替えが進み、会社が掲げる ROE 10% を超えて 11% 台に届く。
岡山の人口減は続くが、法人貸出の名目の伸びは年 4% 近くを保つ。地元の外で稼ぐ力が証明され、純利益は 1,000 億円の大台に乗る。市場はこの会社を、再編に頼らず自力で ROE を上げた地方銀行として見直す。
個人向けの資産形成ニーズを取り込み、預かり資産の手数料も大きく伸びる。ひろぎんホールディングスなど近隣の地銀との連携が、システムの共通化と経費の抑制につながる。10 年の終わりには、地方銀行の中でも ROE の高い部類に入る。
- 地元法人貸出:数量 5.5(地元法人・事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.6%(貸出利ざや(%))→ 売上 861 億円・営業利益 430 億円。残高 5.45 兆円(名目)× 率 1.58%、貢献利益率 50%
- 船舶・ストラクチャードファイナンス:数量 2.2(戦略分野の貸出残高(兆円))× 価格 1.6%(貸出利ざや(%))→ 売上 341 億円・営業利益 205 億円。残高 2.20 兆円(名目)× 率 1.55%、貢献利益率 60%
- 個人貸出:数量 3.1(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.4%(貸出利ざや(%))→ 売上 421 億円・営業利益 210 億円。残高 3.05 兆円(名目)× 率 1.38%、貢献利益率 50%
- 資産運用・手数料・グループ事業:数量 4.0(預かり資産+グループ事業の取扱高(兆円))× 価格 1.4%(実効手数料率(%))→ 売上 545 億円・営業利益 245 億円。残高 3.95 兆円(名目)× 率 1.38%、貢献利益率 45%
倍率:事業の純利益 1,022 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.1% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.8 倍。全体の PER 13.81 倍、時価総額 14,114 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:再編に頼らず自力で ROE 10% 超を達成する想定。実績がまだ足りず、確率は 11% にとどめた。
やや楽観 23% 利ざや拡大が順調で ROE が 10% 超 利益 913 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 6,807 円1.21 兆円
利ざやの拡大は想定どおり進み、貸出も名目で年 3.5% 前後伸びる。船舶金融は市況の波をこなして安定した収益源になり、グループ事業の手数料も育つ。経費の増加を利ざやの拡大が上回り、純利益は 900 億円台に達する。
還元は配当性向 40% に自己株買いを加えて続き、ROE は 10% を超える。政策保有株は計画どおり減り、資本の質は改善する。
個人向けでは預かり資産の販売が伸び、手数料が利益の厚みになる。県内の主取引シェアは 45% 台を保ち、信用コストも景気の山と谷をならせば平均的な水準に収まる。会社が描く目標を、10 年かけて超える流れだ。
- 地元法人貸出:数量 5.3(地元法人・事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.5%(貸出利ざや(%))→ 売上 808 億円・営業利益 388 億円。残高 5.25 兆円(名目)× 率 1.54%、貢献利益率 48%
- 船舶・ストラクチャードファイナンス:数量 2.0(戦略分野の貸出残高(兆円))× 価格 1.5%(貸出利ざや(%))→ 売上 296 億円・営業利益 172 億円。残高 1.95 兆円(名目)× 率 1.52%、貢献利益率 58%
- 個人貸出:数量 3.0(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.3%(貸出利ざや(%))→ 売上 395 億円・営業利益 190 億円。残高 2.95 兆円(名目)× 率 1.34%、貢献利益率 48%
- 資産運用・手数料・グループ事業:数量 3.8(預かり資産+グループ事業の取扱高(兆円))× 価格 1.3%(実効手数料率(%))→ 売上 503 億円・営業利益 216 億円。残高 3.75 兆円(名目)× 率 1.34%、貢献利益率 43%
倍率:事業の純利益 913 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.1% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍。全体の PER 13.26 倍、時価総額 12,106 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:利ざやの拡大と戦略分野の成長がおおむね順調にいく想定。
中立 30% 中立:利ざやが定着し純利益は 800 億円台 利益 809 億円 · PER 12.7 倍 · 株価時価総額 5,759 円1.02 兆円
10 年の間に利ざやは高い水準で定着し、地元貸出の残高は人口減を名目の伸びが上回る形で増える。船舶金融は市況の波を受けつつ、貸出の 1 割台後半まで育つ。経費は物価並みに増え、経費率は 3 年後の水準で落ち着く。純利益は 800 億円台に届き、会社の目標に近づく。
還元は純利益の 6 割ほどを続け、自己資本比率は 5% 台で保つ。ROE は 9% 台前半になる。県内シェアは 45% 前後で動かない、強みが静かに続く 10 年だ。
個人向けは、住宅ローンの伸びが緩い一方、預かり資産の手数料が補う。信用コストは景気の山と谷をならした平均的な水準に戻り、悲観の材料も楽観の材料も出ない。会社が 2031 年 3 月期に描く 800 億円という目標へ、10 年かけて届く形だ。
- 地元法人貸出:数量 5.1(地元法人・事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.5%(貸出利ざや(%))→ 売上 761 億円・営業利益 350 億円。残高 5.07 兆円(名目)× 率 1.50%、貢献利益率 46%
- 船舶・ストラクチャードファイナンス:数量 1.7(戦略分野の貸出残高(兆円))× 価格 1.5%(貸出利ざや(%))→ 売上 256 億円・営業利益 143 億円。残高 1.71 兆円(名目)× 率 1.50%、貢献利益率 56%
- 個人貸出:数量 2.9(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.3%(貸出利ざや(%))→ 売上 373 億円・営業利益 172 億円。残高 2.87 兆円(名目)× 率 1.30%、貢献利益率 46%
- 資産運用・手数料・グループ事業:数量 3.6(預かり資産+グループ事業の取扱高(兆円))× 価格 1.3%(実効手数料率(%))→ 売上 461 億円・営業利益 184 億円。残高 3.55 兆円(名目)× 率 1.30%、貢献利益率 40%
倍率:事業の純利益 809 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.1% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.7 倍。全体の PER 12.66 倍、時価総額 10,242 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:利ざやが定着し、貸出が名目で伸び続ける標準的な想定。
やや悲観 23% 人口減と県外大手との競争で伸びが鈍る 利益 582 億円 · PER 10.9 倍 · 株価時価総額 3,570 円6,350 億円
再編に乗れない地方銀行の弱みが出る。岡山の人口減が貸出需要を削り、残高の伸びが名目でも年 2% 台に落ちる。利ざやは広がるが、広島銀行など県外の大手が岡山へ入り、価格を競う場面が増える。
船舶金融の一部で損失が出て、戦略分野の拡大は止まる。信用コストは平均で今の 2 倍台となり、純利益は 600 億円に届かない。ROE は 7% 台にとどまる。
個人向けは住宅ローンの競争が強まり、利ざやが薄くなる。預かり資産の手数料でも、低コスト商品へ流れが進んで率が落ちる。経費は物価並みに上がるのに、利益の伸びがそれに追いつかず、ROE が資本コストをかろうじて上回る程度で止まる。
- 地元法人貸出:数量 4.6(地元法人・事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.4%(貸出利ざや(%))→ 売上 644 億円・営業利益 258 億円。残高 4.60 兆円(名目)× 率 1.40%、貢献利益率 40%
- 船舶・ストラクチャードファイナンス:数量 1.3(戦略分野の貸出残高(兆円))× 価格 1.4%(貸出利ざや(%))→ 売上 182 億円・営業利益 91 億円。残高 1.30 兆円(名目)× 率 1.40%、貢献利益率 50%
- 個人貸出:数量 2.6(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.2%(貸出利ざや(%))→ 売上 312 億円・営業利益 125 億円。残高 2.60 兆円(名目)× 率 1.20%、貢献利益率 40%
- 資産運用・手数料・グループ事業:数量 3.1(預かり資産+グループ事業の取扱高(兆円))× 価格 1.2%(実効手数料率(%))→ 売上 378 億円・営業利益 136 億円。残高 3.10 兆円(名目)× 率 1.22%、貢献利益率 36%
倍率:10年後のROE7.2%(純利益582億円÷自己資本8,107億円)。ROEはk8.25%以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、PERは1÷k=12.1倍までが上限。競争や統合の遅れで稼ぐ力が鈍る姿。上限の9.0割に置き、10.91倍。還元を会社の方針(55%)に合わせたため自己資本が厚くなった。
確率:人口減と競争で貸出の伸びが落ち、信用コストが平均で高止まりする想定。ROE が低いまま自己資本を積んだ過去を踏まえ、23% に厚くした。
悲観 13% 構造的な負け:貸出が縮み ROE が 4% 台に 利益 292 億円 · PER 9.7 倍 · 株価時価総額 1,593 円2,832 億円
構造的な負けの筋書きだ。岡山の人口減が加速して貸出需要が縮み、県外の大手と他の地方銀行との競争で価格が崩れる。船舶金融の大きな損失で、戦略分野は縮小に転じる。
経費が重いまま利ざやが縮み、純利益は今の水準を下回る。ROE は 4% 台で、もう優良な地方銀行とは呼べなくなる。自己資本の評価損と信用コストで資本も傷み、PBR は 0.4 倍台に沈む。
主取引シェアは 40% を割り込み、基盤の強さという最大の堀が痩せる。再編の相手にも選ばれず、広域の統合が進んだ他地域の銀行との経費の差が開く。自己資本比率が 5% 台と薄いまま利益が細るため、増資や統合の話が出やすい状態になる。
- 地元法人貸出:数量 4.0(地元法人・事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.2%(貸出利ざや(%))→ 売上 454 億円・営業利益 136 億円。残高 3.95 兆円(名目)× 率 1.15%、貢献利益率 30%
- 船舶・ストラクチャードファイナンス:数量 0.8(戦略分野の貸出残高(兆円))× 価格 1.3%(貸出利ざや(%))→ 売上 100 億円・営業利益 35 億円。残高 0.80 兆円(名目)× 率 1.25%、貢献利益率 35%
- 個人貸出:数量 2.2(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.0%(貸出利ざや(%))→ 売上 220 億円・営業利益 62 億円。残高 2.20 兆円(名目)× 率 1.00%、貢献利益率 28%
- 資産運用・手数料・グループ事業:数量 2.6(預かり資産+グループ事業の取扱高(兆円))× 価格 1.1%(実効手数料率(%))→ 売上 280 億円・営業利益 78 億円。残高 2.55 兆円(名目)× 率 1.10%、貢献利益率 28%
倍率:10年後のROE4.5%(純利益292億円÷自己資本6,500億円)は k8.25% 以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、PERは1÷k=12.1倍までが上限。構造的に負けて優良でなくなった姿。上限の8.0割に置き、9.70倍。今の自己資本6,206億円に対する倍率は0.46倍。稼ぐ力から出した値で、自己資本の何割という置き方はしていない。
確率:構造的に負ける想定。人口減・県外大手の攻勢・船舶金融の損失が重なる。自己資本の薄さと、会社の ROE の低さを考えて 13% に置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
地元法人貸出
岡山県を中心とする法人・事業性融資。事業承継や起業の支援と組み合わせて取り込む。
| 数量地元法人・事業性貸出残高(兆円) | 価格貸出利ざや(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.7 | 1.1% | 388 | 155 |
| 10 年後 中立 | 5.1 | 1.5% | 761 | 350 |
取り方:貸出 6.8 兆円(2026 年 3 月末)のうち、船舶・ストラクチャード(約 0.9 兆円)と個人(約 2.2 兆円)を除いた残りを地元法人 3.7 兆円と置いた(内訳は開示が粗いため推定)。利ざやは預金の運用価値を含めて 1.05% とし、経費・信用コスト後の貢献利益率を約 40% と置いた。2026-10-18 の決まりで、預金ベータ 40%・中立の利ざや拡大は 3 年で +0.27%、10 年で +0.45%。残高は名目で中立の年 3.2%(人口減を含む)。 【2026-10-19 確認】数量は名目、率は物価を掛けていない(率は金利・手数料などの事業の理由でだけ動かす)。
船舶・ストラクチャードファイナンス
船舶金融(シンガポール支店を含む)と、不動産・航空機・LBO 向けのストラクチャードファイナンス。
| 数量戦略分野の貸出残高(兆円) | 価格貸出利ざや(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.9 | 1.3% | 117 | 64 |
| 10 年後 中立 | 1.7 | 1.5% | 256 | 143 |
取り方:船舶金融の残高 4,600 億円超(貸出の約 7%)に、不動産・航空機・LBO などを足して 0.9 兆円と推定した。利ざやは地元貸出より厚い 1.30% とおいたが、変動金利のドル建て貸出が多く、金利上昇で広がる幅は地元貸出より小さい(3 年 +0.10%、10 年 +0.20%)。貢献利益率は約 55%。残高は年 20% 超の今の伸びから、中立で 3 年 +25%・10 年 +90% まで落ち着かせた(市場の飽和と、信用の質を重んじる前提)。 【2026-10-19 確認】数量は名目、率は物価を掛けていない(率は金利・手数料などの事業の理由でだけ動かす)。
個人貸出
住宅ローンを中心とする個人向け貸出。
| 数量個人向け貸出残高(兆円) | 価格貸出利ざや(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.2 | 0.9% | 198 | 75 |
| 10 年後 中立 | 2.9 | 1.3% | 373 | 172 |
取り方:貸出 6.8 兆円のうち個人向けを約 2.2 兆円(住宅ローン中心)と推定した。利ざやは 0.90%。預金ベータ 40% で、中立の利ざや拡大は 3 年 +0.24%、10 年 +0.40%(住宅ローンは固定が多く、変動金利が効くのは遅れる)。残高は名目で中立の年 2.7%(物価 3% + 地元の人口減)。 【2026-10-19 確認】数量は名目、率は物価を掛けていない(率は金利・手数料などの事業の理由でだけ動かす)。
資産運用・手数料・グループ事業
投資信託・保険などの預かり資産の販売手数料、法人向けソリューション、リース・証券・カードなどグループ会社の稼ぎ。
| 数量預かり資産+グループ事業の取扱高(兆円) | 価格実効手数料率(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.4 | 1.3% | 300 | 114 |
| 10 年後 中立 | 3.6 | 1.3% | 461 | 184 |
取り方:預かり資産残高とグループ会社の取扱高の合計を 2.4 兆円、実効の手数料率を 1.25% と推定した。貢献利益率は約 38%。預かり資産はお金の量なので名目で伸ばす(中立で年 4%)。手数料率は率なので物価では上がらず、低コスト商品への流れで緩く下がる分を、法人ソリューションの伸びが補うとして 10 年で 1.30% まで。 【2026-10-19 確認】数量は名目、率は物価を掛けていない(率は金利・手数料などの事業の理由でだけ動かす)。
リスクと懸念
信用コストの反転
信用コストは 2026 年 3 月期に 61 億円と歴史的な低さで、2027 年 3 月期の会社予想も 75 億円にとどまる。景気が一巡すれば、この倍以上に増えても不思議はない。地元の中小企業は金利上昇で資金繰りが苦しくなる。利ざやの拡大分が、信用コストの増加で消える恐れがある。
船舶金融の市況の波
船舶金融は残高が 4,600 億円超で、貸出の約 7%、年 20% 超のペースで増えている。海運市況は景気と運賃に左右され、船価が下がれば担保の価値も落ちる。ドル建ての貸出も多く、為替の変動も影響する。地元貸出より先に傷むのは、この外へ広げた分だ。
自己資本の薄さと評価損
自己資本比率は 5% 台と薄い。金利が上がると債券の評価損が自己資本を削り、景気の谷では株式の評価損も重なる。政策保有株を減らすほど、評価益のクッションは薄くなる。資本が傷むと自己株買いが止まり、株主還元の筋書きが崩れる。
岡山の人口減
岡山県の人口は減り、貸出需要の伸びは鈍る。県内の主取引シェアは 45% を超え、これ以上は増やしにくい天井でもある。名目では貸出が伸びても、人口減の分だけ実質の量は縮む。若い起業家や企業が県外へ出れば、堀の中身が痩せる。
経費の重さ
経費率は 51% 台と重く、2026 年度は人件費が約 30 億円、施策投資が約 25 億円増える予定だ。賃上げが続けば、利ざやの拡大の恩恵を人件費が食う。システム投資や TSUBASA アライアンスへの対応費用も、利益を押し下げる。
県外の大手との競争
広島銀行を中心とする中国地方の大手は、岡山へ入る動きを強める可能性がある。県内の主取引シェアは中国銀行が圧倒的だが、融資の価格を競われれば、利ざや拡大の効果が薄れる。広域の経営統合で規模を伸ばす他地域の銀行が、融資の入札で動く場面もあり得る。
今後の分かれ目
- 日銀が短期金利を 2% へ想定より速く引き上げたら
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。地元貸出の利ざやが決算でどの速さで広がっているかを確かめる。
- 信用コストが四半期で急増したら
- やや悲観・悲観に重みを移す。中小企業のどの業種で、船舶金融のどの船種で増えたかを確認する。
- 船舶金融で大きな損失か延滞が出たら
- 戦略分野の成長の前提を見直し、悲観側の確率を上げる。外へ広げた貸出の質を洗い直す。
- 次期中計で純利益 800 億円以上、ROE 10% 以上が正式な数字として出たら
- 前倒しなら、楽観寄りに重みを移す。到達の時期が 2031 年 3 月期より遅ければ、中立のままとする。
- 自己株買いの規模が配当を上回って出たら
- 資本の使い方が株主寄りに変わった合図。ROE の改善が速まる前提で、楽観側をやや上げる。
- 広島銀行など県外の大手が岡山で攻勢に出て、県内のシェアが下がったら
- 堀が狭まる兆しとして、悲観側と、10 年のやや悲観側の確率を上げる。
- 地銀の再編で、岡山を含む広域の統合話が出たら
- システムや店舗の効率化で経費率が下がる前提で、10 年の楽観側を上げる。ただし統合の費用と持ち分の薄まりは別に見る。
見ておくもの
- 日銀の政策金利と、中国銀行の総資金利鞘(単体)の推移
- 信用コストの四半期の動き
- 船舶金融の残高の伸びと延滞の動き
- 岡山県内の主取引シェア(帝国データバンクの年次調査)
- 次期中期経営計画の発表(純利益 800 億円以上・ROE 10% 以上の目標の時期)
- 普通株式等 Tier1 比率(評価差額を除く)と自己株買いの規模
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価を見ずに決めた。楽観・やや楽観・中立は10年後のROEとk 8.25%(基本7.5%+quality)・g 4.0%から利益ベースの正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)の上限を出し、その9.5・9・8.5割に置いた(下限は1÷k=12.1倍。利ざや拡大と貸出の積み上げが続く)。やや悲観・悲観はROEがk以下なので、PERは1÷k=12.1倍が上限で、その9割・8割に置いた。悲観の利益は貸出の利ざやが競争で縮み与信費用が重い構造からROE約2%に置き、過去の底値や今の倍率は根拠にしていない。kが1%高い(9.25%)と10年の中立のPERは10.8倍から9.2倍に下がる。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.12→13.81 倍・やや楽観 PER 12.9→13.26 倍・中立 PER 12.12→12.66 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β 0.72 × 5% + 規模 0.50%。基本7.5%に quality +0.75% を足して k 8.25%(決まり v2。β・規模は使わない。内訳と理由は quality_why)。銀行は預金が仕入れなので利払いの式は当てはめず、利ざやで扱う。個別のリスク(船舶金融の市況と自己資本の薄さ)は k に足さず、確率と筋書きで表す。事業は傾いていないので上乗せ(extra)は 0。同じ地方銀行どうしで同じ物差しを使い、差は quality の4部品だけで出している。
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