結論
山梨中央銀行は、山梨県内で貸出・預金とも5割を超えるシェアを持つ地方銀行である。貸出の半分以上は、すでに県外、主に東京で貸している。筆者の結論は、事業は堅いが、10年後の利益で測ると今の値段はやや高い、というものだ。
利益は増える。短期金利が2%まで上がれば、貸出の利ざやが広がるからだ。2026年3月期の純利益は99億円で、10期ぶりに過去最高を更新した。会社は中期経営計画の最終年度の目標を140億円以上に引き上げ、ROE10%以上を新たに掲げた。筆者は10年後の純利益を240億円前後とみる。
ただ、自己資本が厚くないことが効く。BS上の自己資本比率は5%台で、貸出が物価並みに増えるたびに資本を積み増さなければならない。利益の半分を還元に回しても、ROEは7%台後半にとどまり、資本コスト8%に届かない。資本コストを下回る会社の倍率には、頭打ちがある。
県内の人口は減っていく。県内の貸出だけでは量が伸びず、伸びしろは東京と、手数料・資産運用にある。この二つが計画どおり育つかが分かれ目だ。割高の主因は、事業の弱さではなく、資本効率の低さである。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見る点は三つある。一つ目は、事業が10年後も残るか。県内5割のシェアと公金の預かりがあり、存続の心配は小さい。
二つ目は、残した利益で、資本コスト以上に稼げるか。この銀行は、利益を残して貸出を増やしても、増えた貸出から得る利益が資本コストを下回りやすい。利益を残すほど価値が増えるタイプではない。
三つ目は安全域だ。自己資本が薄く、含み益のある政策保有株がその一部を支えている。株や債券が大きく下がれば、自己資本はすぐ削られる。
だから、払う値段には余裕がほしい。利益が今の倍以上になる筋書きでも、ROEは資本コストにやっと届く程度である。ROEが資本コストを超えて続くなら、話は変わる。会社が掲げたROE10%以上が実現すれば、この見立ては上へ直す。
オーナーとして持ち続けたいかと問われれば、今の値段ではまだ早い、というのが筆者の答えだ。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は、預金を集めて貸し出し、その利ざやを得る伝統的な銀行業である。預金は3.8兆円、貸出は3.0兆円。預金の余りは、国債や株式、投資信託などの有価証券で運用している。
山梨県内の貸出は1.5兆円。県外の貸出はそれを上回る1.6兆円で、ここがこの銀行の特徴だ。本店は甲府にあるが、都内に19店を構え、東京の中堅企業向け融資、不動産、ストラクチャードファイナンス(案件ごとに資金を組み立てる融資)を取りにいっている。山梨で集めた預金を、人口の減らない東京で貸す形である。
もう一つの柱が、県と市町村の金庫番としての役割だ。山梨県と県内27市町村のうち23市町村の指定金融機関を務め、公金の預かりと決済が、安定した預金と手数料の土台になる。
貸出以外の収益は、投資信託・保険の販売、相続や事業承継の相談、企業のM&A支援から生まれる。会社はこれを「山梨強靭化」と呼び、取引先の企業価値を高めることで、手数料を増やす考えだ。
店舗は県内79、東京19、神奈川1で、出張所を含めて99か所。従業員は約1,700人。経費の重さを示すOHR(業務粗利益に占める経費の割合)は58.8%で、中期経営計画の最終年度は58%以下を目指している。
優良さと弱いところ
堀の本体は、県内で5割を超えるシェアそのものだ。県内企業のメインバンク比率は53%で首位を守っているが、前年の53.6%からわずかに下がった。信用金庫・信用組合、県外の地銀、メガバンクが県境を越えて取りにきている。堀は深いが、広がってはいない。
値決め力は普通である。貸出の金利は競争で決まる。ただ、預金の側には、公金や給与振込といった粘り強い資金がある。金利が上がっても預金金利を一気に上げずに済む点が、利ざやの広がる源泉になる。
弱点は資本の薄さと規模だ。BS上の自己資本比率は5%台で、大手の地銀に見劣りする。規制上の自己資本比率は9%台で、国内基準の4%は大きく上回る。ROEは過去10年の中央値で2%台と低かった。2026年3月期に4.5%まで上がったのは、利ざやが広がり、経費率が下がったからで、構造が変わり始めたとは言える。
経営は、政策保有株の圧縮、株主優待の導入、1対5の株式分割と、株主に向いた動きを増やしている。前の中期経営計画は、純利益60億円の目標を超えて終えた。今の計画は、1年で目標を上方修正した。実行力は確かめられつつある。創業150周年を前に、ROE10%以上と言い切った点は評価できる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
地方銀行は、金利のある世界に入って、ようやく本業で稼げるようになった。貸出の金利は先に上がり、預金の金利は遅れて付いてくる。この時間差が利ざやを押し上げる。本分析は、短期金利2%・10年国債3%が定着する前提を置く。
一方で、量は伸びない。山梨県の人口は80万人前後で、減少と高齢化が続く。県内企業の数も減る。県内の貸出は、実質ではほぼ横ばいか微減が普通だ。山梨中央銀行が量を増やせるのは県外、とりわけ東京である。都内は山梨の数倍の市場規模があり、メガバンクとぶつからない中堅・中小企業向けの融資や不動産、ストラクチャードファイナンスなら、地銀にも入る余地がある。
競争の形は二つに分かれる。県内は寡占に近く、信用金庫・信用組合が中小企業の取引を分け合う。県外では、横浜銀行など神奈川・東京の地銀、メガバンクが相手になる。県内で守り、東京で攻める二正面の戦いだ。
再編も無視できない。しずおかFGと名古屋銀行、千葉銀行と千葉興業銀行など、統合が各地で進んでいる。山梨は東京・神奈川・静岡に隣接し、統合の相手を探す側にも、探される側にもなりうる。相手と時期は読めない。
リニア中央新幹線の山梨県駅が開業すれば、人の動きは変わりうる。ただ、時期が読みにくいので、中立の筋書きでは織り込まない。
資本政策と M&A
還元は拡大の途上にある。2026年3月期の配当性向は40%で、自社株買いは大きくは使っていない。政策保有株は減らしており、連結純資産に対する比率は2026年3月末で22.8%。2028年3月末までに15%未満、中長期で10%未満にする方針だ。
資本の制約が最大の論点である。貸出が毎年3%近く増えるなら、規制上の自己資本比率を9%台に保つだけで、自己資本も同じ速さで増やさなければならない。利益の半分を還元に回しても、ROEは7%台後半で止まる。還元を8割に上げればROEは10%近くになるが、資本比率が下がる。その余裕は、政策保有株の売却と、債券・株式の評価差額の動きで決まる。
M&Aで自ら買う側に回る見込みは薄い。むしろ、再編の受け皿や相手方になる可能性がある。kabufuの推定では、10年以内の買収・TOBの確率は19%である。相手と時期は読めない。
2026年10月に1対5の株式分割を実施し、株主優待も導入した。個人株主を増やす狙いがうかがえる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
利ざやの追い風は、まだ半分しか利益に出ていない。2026年3月期の純利益99億円に対し、会社は2027年度に140億円以上へ引き上げ、長期ビジョンの200億円を3年前倒しで達成する見通しを示した。この上方修正は、計画の策定時に織り込んでいなかった政策金利の引き上げを受けたものだ。短期金利が2%まで上がれば、法人貸出の利ざやは広がり、有価証券の利回りも上がる。さらに上振れる余地がある。
量の面でも、東京の貸出が県内を上回り、成長の軸が県外に移った。人口の減る山梨だけの銀行ではもうない。東京の営業店と山梨の情報を結びつけ、ストラクチャードファイナンスの手数料を取る仕組みは、前の計画の期間で手数料の大幅な増加という成果を出した。
資本の面でも、政策保有株の圧縮が進めば、売却益と自社株買いの原資が増える。経費率は58.8%まで下がり、店舗の見直しとデジタル化でさらに下がる。県内シェア5割強と公金の預かりという土台は揺らがない。ROE10%以上を会社が掲げた以上、10年あれば射程に入る。
慎重な見方
利益は増えるが、資本が足りない。BS上の自己資本比率は5%台、規制上の比率は9%台で、貸出を毎年3%増やすなら、利益の大半を資本の積み増しに使わなければならない。還元を厚くすれば資本比率が下がり、薄くすればROEが上がらない。どちらに転んでも、ROEは資本コストに届かない。
県内の事業は縮む。人口は減り、企業も減る。県内のメインバンク比率は53%台で、前年から下がった。信用金庫や県外の銀行に、少しずつ取引を取られている。残る貸出でも、利ざやの広がりを預金金利の引き上げ競争で吐き出しやすい。
東京の貸出は、メガバンクや都内の地銀が相手で、利ざやは薄い。ストラクチャードファイナンスは案件ごとの信用リスクが重く、景気が悪化すれば損失がまとめて出る。債券の含み損も、金利が3%まで上がる世界では自己資本を削る。政策保有株が下がっても同じだ。会社の目標は、金利上昇の追い風が続く前提でできている。追い風が止まれば、ROEは4%台に戻る。
どちらに重みを置いたか
利ざやの拡大で利益が増える点は、強気の見方が正しい。ただ、利益が増えても、薄い自己資本のまま貸出を伸ばせばROEは7%台にとどまる、という慎重な見方の指摘が重い。確率は中立を中心に置き、会社が掲げた高いROE目標は、楽観の側にだけ織り込んだ。東京の貸出が不調に終わる場合と、県内シェアが崩れる場合の両方が10年のどこかで起こりうるため、悲観の尾も残した。県内シェア5割強と公金の預かりが下支えになるので、悲観の確率は、同じ領域の人口減の厳しい県の銀行と同程度に抑えた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,680 円2,579 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 514 円789 億円)。 今の値に割り戻すと 1,127 円1,731 億円、今との差 −9.7%、 期待の年率 +5.8%(資本コスト 8.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 2,794 円4,290 億円 | 721 円1,107 億円 | +181.6% | +10.9% | 351 円540 億円 |
| やや楽観 | 23% | 2,292 円3,519 億円 | 630 円968 億円 | +134.2% | +8.9% | 672 円1,032 億円 |
| 中立 | 30% | 1,954 円3,000 億円 | 554 円850 億円 | +100.9% | +7.2% | 752 円1,155 億円 |
| やや悲観 | 23% | 1,080 円1,658 億円 | 417 円641 億円 | +20.0% | +1.8% | 344 円529 億円 |
| 悲観 | 14% | 276 円423 億円 | 246 円377 億円 | −58.2% | −8.4% | 73 円112 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,680 円2,579 億円 | 514 円789 億円 | +75.7% | +5.8% | 2,193 円3,367 億円 |
今の株価時価総額 1,248 円1,916 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 東京と手数料が育ち、ROEが10%近くまで届く10年 利益 318 億円 · PER 13.5 倍 · 株価時価総額 2,794 円4,290 億円
短期金利2%・長期金利3%が定着し、預金金利の追随が遅れて、貸出の利ざやは高い水準で安定する。東京の貸出は、中堅・中小企業向けの融資と不動産、ストラクチャードファイナンスで着実に伸び、県内の縮みを大きく上回る。山梨の営業店が持つ地元企業の情報と、東京の営業店の案件が結びつき、手数料も相続・事業承継・M&Aの支援で厚みを増す。貸出に頼らない収益が育ち、金利が下がる局面にも強くなる。
政策保有株の売却が計画より早く進み、浮いた資金は貸出に伴う資本の積み増しと自社株買いに回る。経費率は、デジタル化と店舗の見直しでさらに下がる。会社が掲げたROE10%以上に迫る、地銀として最も理想的な10年になる。
- 法人・公共貸出:数量 3.0(法人・事業性・公共向け貸出残高(兆円))× 価格 1.5%(貸出から得る利ざや(%、経費を除く粗利))→ 売上 457 億円・営業利益 206 億円。残高 3.0 兆円(名目)× 利ざや 1.50%、利益率 45%
- 個人貸出:数量 1.3(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.3%(貸出から得る利ざや(%、経費を除く粗利))→ 売上 166 億円・営業利益 61 億円。残高 1.2 兆円(名目)× 利ざや 1.33%、利益率 37%
- 有価証券運用・預かり資産・手数料:数量 3.2(有価証券運用残高+預かり資産残高の合計(兆円))× 価格 1.1%(実効収益率(%、経費を除く粗利))→ 売上 364 億円・営業利益 175 億円。残高 3.2 兆円(名目)× 収益率 1.14%、利益率 48%
倍率:事業の純利益 318 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.4% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.5 倍。全体の PER 13.49 倍、時価総額 4,290 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:金利が2%で定着し、東京の貸出と手数料が計画を上回り、政策保有株の売却で自社株買いも進む。すべてが10年間そろう前提で、確度は高くない。
やや楽観 23% 計画どおりに進み、ROEは8%台 利益 276 億円 · PER 12.8 倍 · 株価時価総額 2,292 円3,519 億円
金利の定着で利ざやが広がり、経費率は58%水準で安定する。東京の貸出は県内を上回るペースで伸び続け、手数料も計画どおりに積み上がる。ストラクチャードファイナンスでは、大きな損失を出さずに残高を積み、東京の営業店が県内の営業店と同じ程度の稼ぎを出せるようになる。
政策保有株は2028年3月末に連結純資産比15%未満となり、その後も圧縮が進む。還元は配当を中心に、自社株買いを加えて総還元性向5割強を保つ。県内のシェアは53%前後を守り、人口減は東京の伸びで吸収する。会社が目標に掲げたROE8%には届くが、10%には届かない。堅実に伸びる10年になる。
- 法人・公共貸出:数量 2.9(法人・事業性・公共向け貸出残高(兆円))× 価格 1.5%(貸出から得る利ざや(%、経費を除く粗利))→ 売上 425 億円・営業利益 178 億円。残高 2.9 兆円(名目)× 利ざや 1.45%、利益率 42%
- 個人貸出:数量 1.2(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.3%(貸出から得る利ざや(%、経費を除く粗利))→ 売上 158 億円・営業利益 54 億円。残高 1.2 兆円(名目)× 利ざや 1.29%、利益率 34%
- 有価証券運用・預かり資産・手数料:数量 3.0(有価証券運用残高+預かり資産残高の合計(兆円))× 価格 1.1%(実効収益率(%、経費を除く粗利))→ 売上 335 億円・営業利益 151 億円。残高 3.0 兆円(名目)× 収益率 1.10%、利益率 45%
倍率:事業の純利益 276 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.3% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.7 倍。全体の PER 12.75 倍、時価総額 3,519 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中期経営計画の方向性がおおむね10年続き、東京の貸出が県内の縮みを補う。会社の目標に近い想定で、業界見通しの上位レンジに当たる。
中立 30% 中立:利ざやで稼ぎ、資本の薄さがROEを抑える 利益 240 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 1,954 円3,000 億円
短期金利2%・長期金利3%が定着し、貸出の利ざやは中程度に広がって落ち着く。県内の貸出は人口減でほぼ横ばいで、東京の貸出が増加分の大半を担う。与信費用は、景気循環を1〜2周してならした水準に戻る。
政策保有株は計画どおり減り、売却で得た資金は貸出の増加を支える資本の積み増しに使う。自社株買いと配当で利益の半分を還元する。手数料は、NISAや相続の需要で標準的に伸びる。県内のシェアは53%前後から緩やかに下がる程度にとどまる。
特別な上振れも下振れもなく、利益は2倍以上に増える。一方で、薄い自己資本のためROEは7%台にとどまる。増益と資本効率の低さが同居する10年になる。
- 法人・公共貸出:数量 2.8(法人・事業性・公共向け貸出残高(兆円))× 価格 1.4%(貸出から得る利ざや(%、経費を除く粗利))→ 売上 395 億円・営業利益 158 億円。残高 2.8 兆円(名目)× 利ざや 1.40%、利益率 40%
- 個人貸出:数量 1.2(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.3%(貸出から得る利ざや(%、経費を除く粗利))→ 売上 149 億円・営業利益 48 億円。残高 1.2 兆円(名目)× 利ざや 1.25%、利益率 32%
- 有価証券運用・預かり資産・手数料:数量 2.9(有価証券運用残高+預かり資産残高の合計(兆円))× 価格 1.1%(実効収益率(%、経費を除く粗利))→ 売上 305 億円・営業利益 128 億円。残高 2.9 兆円(名目)× 収益率 1.05%、利益率 42%
倍率:事業の純利益 240 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.4% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 3,000 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:金利が定着し、県内の与信費用も景気循環を経て平均的な水準に戻る、最も重みを置く中心の筋書き。会社の目標より、利益の伸びをやや低めにみる。
やや悲観 23% 県内の縮みが東京の伸びを上回る 利益 170 億円 · PER 9.8 倍 · 株価時価総額 1,080 円1,658 億円
金利は定着するが、預金の取り合いが続き、利ざやの広がりは小さくなる。県内の人口と企業数は想定より速く減り、メインバンク比率も下がる。信用金庫や県外の銀行が、県内の取引を少しずつ取っていく。
東京の貸出は、メガバンクや都内の地銀に阻まれ、残高は伸びても利ざやが薄い。与信費用は、ストラクチャードファイナンスで損失が出て、平均を上回る年が続く。債券の含み損で自己資本の増えが鈍り、還元も抑える。
会社の目標には届かず、ROEは5%台にとどまる。県内シェア5割強の強みは残るが、成長の軸が育たない10年になる。
- 法人・公共貸出:数量 2.6(法人・事業性・公共向け貸出残高(兆円))× 価格 1.3%(貸出から得る利ざや(%、経費を除く粗利))→ 売上 326 億円・営業利益 111 億円。残高 2.6 兆円(名目)× 利ざや 1.25%、利益率 34%
- 個人貸出:数量 1.1(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.1%(貸出から得る利ざや(%、経費を除く粗利))→ 売上 123 億円・営業利益 33 億円。残高 1.1 兆円(名目)× 利ざや 1.11%、利益率 27%
- 有価証券運用・預かり資産・手数料:数量 2.7(有価証券運用残高+預かり資産残高の合計(兆円))× 価格 1.0%(実効収益率(%、経費を除く粗利))→ 売上 269 億円・営業利益 91 億円。残高 2.7 兆円(名目)× 収益率 1.00%、利益率 34%
倍率:10年後のROE5.5%(純利益170億円÷自己資本3,114億円)は k8% 以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、PERは1÷k=12.5倍までが上限。筋書きは「県内の縮みが東京の伸びを上回る」。上限の7.8割に置き、9.75倍。今の自己資本2,331億円に対する倍率は0.71倍。稼ぐ力から出した値で、自己資本の何割という置き方はしていない。
確率:県内の人口減が想定より速く、東京の貸出も競争で思うように伸びない。10年という期間では、停滞する年が相応に混ざる。
悲観 14% 構造的に負け、県内も東京も稼げない10年 利益 51 億円 · PER 8.3 倍 · 株価時価総額 276 円423 億円
10年のどこかで景気が大きく悪化し、県内の中小企業の貸倒れが増える。東京のストラクチャードファイナンスでも、大きな損失が出る。県内の人口は想定を超えて減り、信用金庫や県外の銀行に取引を取られる。預金の取り合いで、利ざやも薄くなる。
債券・株式の評価損で自己資本が目減りし、成長のための貸出も絞らざるをえない。還元も細り、東京の事業は縮小を迫られる。県内シェアという強みだけでは、資本効率の低さを補えない。地方銀行としての存在意義が問われる、苦しい10年になる。
金利が定着しても、追い風は預金の取り合いに食われる。会社が掲げた目標は、長期ビジョンの200億円も含めて、金利上昇が利益に残る前提でできている。その前提が崩れた時、費用の重い99か所の店舗網と、東京に広げた貸出が、固定費として残る。利益は今の半分近くまで落ち、資本を積み増す余力もなくなる。
- 法人・公共貸出:数量 2.3(法人・事業性・公共向け貸出残高(兆円))× 価格 1.1%(貸出から得る利ざや(%、経費を除く粗利))→ 売上 239 億円・営業利益 33 億円。残高 2.3 兆円(名目)× 利ざや 1.05%、利益率 14%
- 個人貸出:数量 0.9(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 0.9%(貸出から得る利ざや(%、経費を除く粗利))→ 売上 88 億円・営業利益 9 億円。残高 0.9 兆円(名目)× 利ざや 0.93%、利益率 10%
- 有価証券運用・預かり資産・手数料:数量 2.3(有価証券運用残高+預かり資産残高の合計(兆円))× 価格 0.9%(実効収益率(%、経費を除く粗利))→ 売上 209 億円・営業利益 29 億円。残高 2.3 兆円(名目)× 収益率 0.90%、利益率 14%
倍率:10年後のROE2.1%(純利益51億円÷自己資本2,437億円)。ROEはk8%以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、PERは1÷k=12.5倍までが上限。筋書きは「構造的に負け、県内も東京も稼げない10年」。上限の6.6割に置き、8.3倍。還元を会社の方針(50%)に合わせたため自己資本が厚くなった。
確率:金利が下がり、信用収縮で与信費用が増え、県内シェアの低下、東京での損失、債券・株式の評価損が10年のどこかで重なる想定。10年という期間では相応の確率を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
法人・公共貸出
山梨県内の中堅・中小企業と地方公共団体への貸出、東京都内の事業性貸出(ストラクチャードファイナンスを含む)。
| 数量法人・事業性・公共向け貸出残高(兆円) | 価格貸出から得る利ざや(%、経費を除く粗利) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.1 | 1.0% | 200 | 58 |
| 10 年後 中立 | 2.8 | 1.4% | 395 | 158 |
取り方:貸出残高3.03兆円(2026/3期末)のうち、法人・事業性・公共向けを約7割の2.1兆円と推定し、利ざやを0.95%とした(開示が無いため推定。県外の貸出1.56兆円は主に東京の事業性貸出)。営業利益は銀行のため経常利益の配分で、経費と与信費用を引いた後の姿。預金ベータ(政策金利の上げに預金金利が付いていく割合)を40%とすると、短期金利が1%前後から2%へ上がる間に、中立の利ざやは10年で+0.45%広がる(利ざやは率なので物価では上がらない)。残高は名目で伸び、中立で年3.0%(物価3%+実質0%。県内の縮みを東京の伸びが埋める)。 【2026-10-19 確認】数量は名目、率は物価を掛けていない(率は金利・手数料などの事業の理由でだけ動かす)。
個人貸出
住宅ローンを中心とする個人向け貸出。山梨県内と東京・神奈川の店舗で取り扱う。
| 数量個人向け貸出残高(兆円) | 価格貸出から得る利ざや(%、経費を除く粗利) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.9 | 0.9% | 79 | 20 |
| 10 年後 中立 | 1.2 | 1.3% | 149 | 48 |
取り方:貸出残高の残り約3割を個人向け0.93兆円と推定し、住宅ローン等の利ざやを0.85%とした(開示が無いため推定)。預金ベータ40%で、中立の利ざやは10年で+0.40%広がる。残高は名目で伸び、中立で年2.5%(物価3%に、山梨の人口減を含む)。 【2026-10-19 確認】数量は名目、率は物価を掛けていない(率は金利・手数料などの事業の理由でだけ動かす)。
有価証券運用・預かり資産・手数料
債券・株式・投資信託などの有価証券運用と、投信・保険・相続などの預かり資産、コンサルティング・M&A・ストラクチャードファイナンスの手数料。
| 数量有価証券運用残高+預かり資産残高の合計(兆円) | 価格実効収益率(%、経費を除く粗利) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.0 | 0.9% | 188 | 60 |
| 10 年後 中立 | 2.9 | 1.1% | 305 | 128 |
取り方:有価証券と預かり資産の合計を約2.0兆円、実効収益率を0.94%と推定した(開示が無いため推定)。2026年3月期は債券の入れ替えに伴う損失などで利益率が低い。有価証券は金利上昇で利回りが上がり、預かり資産は名目で伸びる。中立で残高は年3.8%、収益率は10年で+0.11%。 【2026-10-19 確認】数量は名目、率は物価を掛けていない(率は金利・手数料などの事業の理由でだけ動かす)。
リスクと懸念
信用コストの上昇
金利が上がる過程では、県内の中小企業の資金繰りが苦しくなり、与信費用が増えやすい。人口減で県内の事業所が減れば、貸倒れも出やすい。今の低い与信費用が続くと見るのは危うい。東京で組むストラクチャードファイナンスは、案件ごとの信用リスクが重く、景気が悪化すれば損失がまとめて出る。
債券・株式の評価損で自己資本が削られる
自己資本の厚さは、債券と政策保有株の評価差額に左右される。金利が3%へ上がれば債券の含み損が増え、株が下がれば含み益が消える。BS上の自己資本比率は5%台と薄く、評価損は自己資本にすぐ響く。規制資本の余裕も9%台と大きくはない。
県内の人口減とシェアの低下
山梨県の人口は80万人前後で、減少と高齢化が続く。県内企業のメインバンク比率は53%台で、前年からわずかに下がった。信用金庫・信用組合や県外の銀行に、少しずつ取引を取られると、県内の貸出と預金が縮み、手数料も減る。
預金金利の引き上げ競争
貸出の金利が先に上がっても、預金の取り合いが激しくなれば、預金金利を上げざるをえない。ネット銀行や県外の銀行が高い金利を出せば、預金ベータ(預金金利が政策金利に付いていく割合)が想定より高くなり、利ざやの広がりが小さくなる。
資本の薄さと還元の板挟み
貸出が名目で増えれば、自己資本も同じ速さで増やす必要がある。還元を厚くすれば資本比率が下がり、薄くすればROEが上がらない。政策保有株の売却は資本の余裕を生むが、売れる株には限りがある。成長と還元を両立する余地は小さい。
東京への拡大の実行
東京の貸出は県内を上回ったが、市場には横浜銀行などの地銀とメガバンクがいる。利ざやの薄い案件を取って残高だけ増やせば、資本を食うだけで稼ぎにならない。審査の目と人材の確保が追いつかなければ、貸出の質が落ちる。
再編・株主構成の変化
地銀の統合は各地で進み、山梨も周辺の県と隣り合う。統合は規模の経済を生む一方、システム統合の費用や、条件次第で既存株主の持ち分が薄まる恐れがある。相手が誰になるか、いつになるかは読めない。
今後の分かれ目
- 短期金利が2%を超えて上がり、貸出の利ざやが計画以上に広がったら
- 楽観・やや楽観の筋書きの確率を上げてよい。ただし預金金利の追随の速さも同時に確かめる。
- 県内の与信費用が2期続けて大きく増えたら
- やや悲観・悲観に重みを移す。どの業種で増えているかを確認する。
- 政策保有株の売却が計画より早く進み、自社株買いが始まったら
- 資本の余裕が広がる。ROEの上振れ余地を確認し、やや楽観の確率を少し上げる。
- 東京の貸出が県内の3倍に近づくペースで伸び、利ざやも保たれたら
- 成長の軸が県外に移ったと確認できる。法人貸出の数量を上げて見直す。
- 他の銀行との経営統合が正式に決まったら
- 統合の条件と、システム統合の費用を確認する。持ち分の薄まる幅によって評価が変わる。
- 債券・株式の評価損で連結の自己資本が大きく減ったら
- 資本比率の余裕を確認し、還元の抑制と悲観側への重みの移動を検討する。
見ておくもの
- 日銀の政策金利と、山梨中央銀行の法人・個人の貸出利ざやの推移
- 県内の与信費用と、東京のストラクチャードファイナンスの残高・損失
- 政策保有株の売却の進み具合(連結純資産比15%未満が2028年3月末)
- 県内の預金・貸出シェアと、メインバンク比率の推移
- 連結ROE(2027年度の目標は5.8%以上)と、純利益の目標140億円以上の達成度
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価を見ずに決めた。楽観・やや楽観は10年後のROEとk 8%(基本7.4%+quality +0.5%)・g 4.0%から利益ベースの正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)の上限を出し、その9.6・8.9割に置いた(下限は1÷k=12.5倍)。中立・やや悲観・悲観はROEがk(8%)以下なので、PERは1÷k=12.5倍が上限で、その8.5・7.8・6.6割に置いた。悲観の利益は貸出の利ざやが競争で縮み与信費用が重い構造から、自己資本に対するROE約2%に置き、過去の底値や今の倍率は根拠にしていない。kが1%高い(9%)と10年の中立のPERは10.6倍から9.4倍に下がる。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.99→13.49 倍・やや楽観 PER 11.33→12.75 倍・中立 PER 10.59→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に quality +0.5% を足して k 8%(決まり v2。β・規模は使わない。内訳と理由は quality_why)。銀行は預金が仕入れなので利払いの式は当てはめず、利ざやで扱う。自己資本の薄さ・東京での貸出・再編といった個別のリスクはkに足さず、筋書きと確率で表す。事業は傾いていないので上乗せ(extra)は0。同じ地方銀行どうしで、人口減の厳しい県の富山第一銀行・大垣共立銀行と同じ+0.8%とした。