結論
トマト銀行は、岡山市に本店を置く第二地方銀行だ。貸出は1.1兆円、預金は1.3兆円。筆者の結論は、10年で見ると今の値段は適正の範囲で、割安でも割高でもない、というものだ。
稼ぐ力は低い。2026年3月期の純利益は約20億円で、ROEは3%台にとどまる。預金の金利が貸出の金利より速く上がり、資金利益は前の期より減った。短期金利が2%へ上がっても、預金の取り合いで利ざやの改善は半分ほど消える、と筆者は見る。
独特なのは資本の中身だ。純資産574億円のうち100億円は、2021年に出した優先株式で、2031年12月には普通株へ一斉に変わる定めがある。会社は現金での買い戻しを目指すが、稼ぎが細れば転換せざるをえず、普通株主の取り分が大きく薄まる。
岡山県内では、メインバンクの比率で中国銀行が約46%、トマト銀行は約11%の2番手だ。筆者は、統合や買収の期待を値段に織り込まず、事業が稼ぐ力と優先株の影響だけで測っている。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この銀行は「普通株主の取り分が、優先株で削られる会社」と映る。
良い点は三つある。岡山という人口の減りが緩い市場で、県内2番手の地位がある。金利が上がるほど、薄い利ざやが厚くなる余地がある。経営が資本の充実に慎重で、優先株を現金で買い戻す方針を明言している。
気になる点も三つある。ROEが資本コストの半分ほどで、資本を食う側の銀行だ。預金の金利が貸出の金利より速く上がる局面で、利ざやが広がっていない。そして、優先株100億円が、普通株主の取り分を直接削る。
筆者が重く見るのは、優先株の出口だ。稼ぎが期待どおりに戻れば現金で買い戻せ、普通株主の取り分は守られる。戻らなければ、下限の取得価額で転換し、新しい株が今の株数を上回る。この二つの道で、普通株の価値が大きく分かれる。
今の値段は、利益が戻る前提を半分ほど織り込んでいる。安全域は厚くない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、岡山市と倉敷市を中心にした貸出だ。貸出残高は1.08兆円で、個人向けローンが4,200億円、中小企業向けが4,000億円、地方公共団体向けが1,200億円。預金は1.27兆円で、貸出に回らない分は債券や投資信託などで運用する。有価証券は1,600億円と、銀行としては小さい。
店舗は61。大半が岡山県内で、広島・兵庫・大阪・東京にも拠点がある。従業員は連結で746人。10年後の姿には「いつも会って話せるあなたのメインバンク」を掲げる。対面営業を軸に、住宅ローンと中小企業の事業支援に力を入れる。
手数料の稼ぎは小さい。役務の利益は約17億円で、銀行の粗利益の1割強だ。預かり資産は預金も含めて1.47兆円。投資信託・保険・公共債などの販売を伸ばす計画だが、利ざやに比べると規模は小さい。
経費の重さは悩みの種だ。経費が粗利益に占める割合は約77%で、会社の計画は75%程度。人件費とシステム投資が重く、中計の最終年度も、この目標に届くかどうかが焦点になる。
グループには、リースなどの小さな子会社がある。連結の従業員746人のうち、銀行以外は17人ほどで、稼ぎのほとんどは銀行本体から出る。
優良さと弱いところ
堀はある。ただ、薄い。
岡山県内の企業のメインバンクの比率では、中国銀行が約46%で、トマト銀行が約11%の2番手、おかやま信用金庫が約10%で3番手だ(帝国データバンクの2025年10月末の調査)。2番手の地位があるので、中小企業の相談では選ばれる。筆者は、対面で顔を合わせる営業が、小さい銀行の強みだと見る。
弱みは三つある。第一に、値段を自分で決められない。県内には、規模が3倍の中国銀行と、ネット銀行が重なる。第二に、経費が重い。経費が粗利益の約77%を食う。第三に、資本が薄い。単純な自己資本比率は4%台で、規制上の比率は連結で9.18%と、8%以上の目標を保っているだけだ。
資本の効率も低い。ROEは3.5%で、中計の最終目標でも、中長期に5%を目指すにとどまる。中計の純利益の目標も、前期の水準とほぼ同じ19億円だ。
株主の顔ぶれは地元の金融機関が中心で、中国銀行・朝日生命・もみじ銀行などが並ぶ。優先株の割当先にも、これらの会社が入っている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
銀行は「金利のある世界」の入口にいる。短期金利が2%へ上がる間、変動金利の貸出は利回りが上がり、預金は預金金利が付いていく分だけ遅れて上がる。ただし、トマト銀行の足もとの数字は、この教科書どおりに動いていない。2026年3月期は、貸出などの運用収益が約17億円増えたのに、預金などの調達費用が約20億円増え、資金利益は前の期より減った。
岡山は、地方では人口の減りが緩やかな県だ。県全体の人口は2050年に約151万人、2020年の約189万人から2割減る見通し。ただし岡山市は約1割の減少にとどまる。住宅ローンの需要は底堅いが、ネット銀行や中国銀行との金利競争が激しい。
県内の競争は、規模の差が大きい。中国銀行が貸出と預金の双方で圧倒的で、同行が割り当てを受けた優先株を持っていることは、競合と株主が重なる関係を意味する。県内には信用金庫も多く、中小企業向けの貸出は値引きで取り合いになる。
再編の波は、岡山にも届いている。同じ地域の銀行どうしの統合が全国で進むなか、トマト銀行は単独のまま次の中計に入る。次の中計では、資本の積み増しと優先株の扱いが、統合の選択肢と一体で議論される可能性が高い。
資本政策と M&A
資本政策の中心は、優先株式だ。第2回A種優先株式は、総額100億円(100万株)で、2021年12月に22の法人・金融機関に割り当てた。優先配当は年1.65%、議決権はない。第1回の優先株(70億円)は、この資金で償還した。
優先株には二つの出口がある。2026年12月11日以降、会社は現金で買い戻せる。2031年12月11日には、普通株に一斉に変わる。後者の取得価額は、直前30取引日の株価の平均で、発行時の株価の7割にあたる額が下限だ。今の株価の水準で転換すれば、新しい株は今の株数の約5割に達する。会社は、稼いだ利益を積み上げて現金で買い戻し、転換を避けたいと説明している。
普通株への還元は、年間配当を据え置く形で、配当性向は約32%。自社株買いの実績はない。優先株の買い戻しには100億円が要り、これは今の年間利益の5年分にあたるので、還元を増やす余裕は小さい。
株主優待は、QUOカードで、長期保有の株主に、保有株数に応じて少額を贈る。株数別の開示が無く費用は確かめられないが、年1億円には届かないと見る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
金利上昇の恩恵は、薄い利益の銀行ほど大きい。今のROEは3%台と低く、利ざやが少し広がるだけで純利益は大きく動く。2027年3月期の第1四半期は、経常収益が13%増え、通期の経常利益は9.7%増の31億円を見込む。短期金利が2%へ進めば、貸出の金利は上がり、預金の金利は遅れて追う。
経費の改善余地もある。経費が粗利益の約77%を占めるのは、店舗網と人員が低金利に合わせて重いからだ。人員は連結で746人と少なく、デジタル化と店舗の見直しで、物価が上がっても経費の伸びを抑えられる。
住宅ローンと中小企業の事業支援は、岡山市と倉敷市の需要が底堅い。岡山市の人口の減りは2050年に約1割と、県全体より小さい。個人向けローンは貸出の4割に達し、ここの量が伸びる。
そして、優先株の問題は、稼ぎの回復で解ける。純利益が倍になれば、100億円の買い戻しは5年の利益で足りる。普通株主の取り分は守られ、配当も増やせる。
慎重な見方
預金の金利が、貸出の金利より速く上がっている。2026年3月期は、運用収益が約17億円増えたのに、調達費用が約20億円増え、資金利益は減った。短期金利が2%へ進んでも、預金を守るための金利の引き上げが続けば、利ざやの改善は預金に食われる。個人預金は前の期から減っており、預金の取り合いが現実になっている。
県内には、メインバンクの比率で約46%の中国銀行がいる。トマト銀行は約11%の2番手で、優良な大口は中国銀行に行きやすい。経費が粗利益の約77%を占める構造も、10年たっても大きくは変わらない。
優先株は、時限爆弾だ。100億円は、今の年間利益の5年分で、買い戻しに回せば普通株への還元は止まる。稼ぎが戻らなければ、2031年12月に普通株へ変わり、今の株数の約5割に近い新しい株が出る。株価が下がるほど、新しい株は増える。
さらに、単純な自己資本比率は4%台と薄く、不況で与信費用が増えれば、買い戻しも配当も止まる。
どちらに重みを置いたか
金利の追い風という点では、強気の見方に分がある。ただ、足もとの預金の動きと優先株の重さは、慎重な見方のほうが具体的だ。
確率は、中立に3割、楽観側に3割、悲観側に4割を置いた。やや悲観を楽観側より厚くしたのは、預金金利の追随が足もとで速く、利益の戻りが遅れるうえ、優先株が悪い方向の傷を深くするからだ。悲観を軽くしなかった理由も同じで、稼ぎが戻らなければ転換の下限が効き、普通株主の取り分は半分以下になる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,471 円401 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 786 円91 億円)。 今の値に割り戻すと 2,099 円242 億円、今との差 +17.1%、 期待の年率 +9.0%(資本コスト 8.3%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 8,720 円1,007 億円 | 1,678 円194 億円 | +479.9% | +19.2% | 936 円108 億円 |
| やや楽観 | 21% | 5,739 円662 億円 | 1,236 円143 億円 | +289.0% | +14.5% | 1,465 円169 億円 |
| 中立 | 30% | 4,253 円491 億円 | 945 円109 億円 | +189.9% | +11.2% | 1,559 円180 億円 |
| やや悲観 | 26% | 542 円63 億円 | 318 円37 億円 | −52.0% | −7.1% | 224 円26 億円 |
| 悲観 | 14% | 457 円53 億円 | 64 円7 億円 | −71.0% | −11.6% | 73 円8 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,471 円401 億円 | 786 円91 億円 | +137.4% | +9.0% | 4,256 円491 億円 |
今の株価時価総額 1,793 円207 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 9% 経費改革と手数料が実り、優先株も現金で解ける十年 利益 84 億円 · PER 13.2 倍 · 株価時価総額 8,720 円1,007 億円
経費改革と手数料が実り、優先株も現金で解ける。預金金利の追随が想定より遅く、貸出の利ざやは今より0.5%ほど広い水準で落ち着く。住宅ローンは、岡山市・倉敷市の需要を取り込み、人口減の中でも物価をやや上回って伸びる。
手数料は、預かり資産と法人の事業支援が伸び、今の1.6倍になる。経費は、人員の減とデジタル化で、物価の伸びを下回る。与信費用は低位で、資本が積み上がる。
優先株は、2026年12月以降の買い戻しで現金に置き換わり、普通株への転換は起こらない。配当は増え、自社株買いも検討できる。岡山の2番手の地銀が、稼ぐ力を取り戻した十年だ。
- 法人・自治体貸出:数量 0.9(法人・自治体向け貸出残高(兆円))× 価格 1.6%(貸出利ざや(預金調達差引後・%))→ 売上 136 億円・営業利益 83 億円。残高0.88兆円(名目)× 利ざや1.55%
- 個人貸出:数量 0.5(個人ローン残高(兆円))× 価格 1.2%(貸出利ざや(%))→ 売上 65 億円・営業利益 29 億円。残高0.54兆円 × 利ざや1.20%
- 有価証券・市場運用:数量 0.4(運用残高(兆円))× 価格 1.3%(運用利回り-調達(%))→ 売上 47 億円・営業利益 44 億円。残高0.36兆円 × 運用ざや1.30%
- 手数料・預かり資産:数量 1.4(手数料の対象となる取扱高(兆円))× 価格 0.2%(実効手数料率(%))→ 売上 31 億円・営業利益 19 億円。取扱高1.4兆円 × 手数料率0.22%
倍率:事業の純利益 84 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.0% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.2 倍。全体の PER 13.24 倍、時価総額 1,112 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:預金の追随が遅く、利ざやの改善が厚く残り、優先株も現金で買い戻せる筋書き。2027年3月期の第1四半期に収益が伸びているが、足もとの預金金利の動きを考えると、確度は高くない。
やや楽観 21% 利ざやが定着し、優先株は現金で買い戻せる十年 利益 64 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 5,739 円662 億円
金利のある世界が定着し、利ざやが広がったまま残る。短期金利は2%で落ち着き、貸出の金利は上がり、預金の金利は5割ほど遅れて追う。この差が10年を通して利益を押し上げる。
貸出の量は、岡山の人口減のなかでも名目で物価に近い伸びを保つ。中国銀行と競り合う大口は取れないが、中小企業の事業支援と住宅ローンの需要は残る。手数料は、預かり資産の増加で緩やかに伸びる。
経費は物価と賃上げで増えるが、人員の減と店舗の見直しで、物価よりやや低い伸びにとどまる。与信費用は平均的な水準に戻る。優先株は、積み上げた利益で現金で買い戻され、普通株への転換は避けられる。派手な上振れはないが、薄かった稼ぎが資本コストの近くまで戻る十年だ。
- 法人・自治体貸出:数量 0.9(法人・自治体向け貸出残高(兆円))× 価格 1.5%(貸出利ざや(預金調達差引後・%))→ 売上 123 億円・営業利益 68 億円。残高0.85兆円 × 利ざや1.45%
- 個人貸出:数量 0.5(個人ローン残高(兆円))× 価格 1.2%(貸出利ざや(%))→ 売上 61 億円・営業利益 24 億円。残高0.53兆円 × 利ざや1.15%
- 有価証券・市場運用:数量 0.4(運用残高(兆円))× 価格 1.3%(運用利回り-調達(%))→ 売上 44 億円・営業利益 41 億円。残高0.35兆円 × 運用ざや1.25%
- 手数料・預かり資産:数量 1.3(手数料の対象となる取扱高(兆円))× 価格 0.2%(実効手数料率(%))→ 売上 27 億円・営業利益 15 億円。取扱高1.3兆円 × 手数料率0.21%
倍率:事業の純利益 64 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.9% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 776 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:短期2%・長期3%が定着し、利ざやが広がったまま残る筋書き。2026年3月期の収益と、2027年3月期の増益予想という実績もある。楽観側のなかでは最も起こりやすい。
中立 30% 利ざやは定着するが、預金競争に半分を取られる十年 利益 52 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 4,253 円491 億円
金利のある世界が定着するが、利ざやの改善の一部は預金に食われる。預金金利が付いていく割合は5割と、地銀の標準の4割より高めに置いた。2026年3月期に、運用収益より調達費用が速く増えた実績があるためだ。貸出の利ざやは、法人で今より0.35%、個人で0.30%ほど広がる。
貸出の量は、人口減と物価の上昇を合わせて、名目で年に2.4%ほど伸びる。手数料は、預かり資産の増加で伸びるが、率は上がらない。
経費は、人件費が物価と賃上げで増えるため、10年で1.3倍になる。システムの償却は、既存の分は取得時の値段のままで、更新の投資で新しい分が足される。与信費用は貸出の0.13%に戻る。優先株は、買い戻しに充てる利益の積み上げが間に合い、普通株への転換を避けられるが、還元の余裕は小さい。薄い資本が足かせとなる、中程度の十年だ。
- 法人・自治体貸出:数量 0.8(法人・自治体向け貸出残高(兆円))× 価格 1.4%(貸出利ざや(預金調達差引後・%))→ 売上 117 億円・営業利益 61 億円。残高0.84兆円(名目)× 利ざや1.40%
- 個人貸出:数量 0.5(個人ローン残高(兆円))× 価格 1.1%(貸出利ざや(%))→ 売上 58 億円・営業利益 20 億円。残高0.52兆円 × 利ざや1.10%
- 有価証券・市場運用:数量 0.3(運用残高(兆円))× 価格 1.2%(運用利回り-調達(%))→ 売上 41 億円・営業利益 38 億円。残高0.34兆円 × 運用ざや1.21%
- 手数料・預かり資産:数量 1.2(手数料の対象となる取扱高(兆円))× 価格 0.2%(実効手数料率(%))→ 売上 25 億円・営業利益 13 億円。取扱高1.24兆円 × 手数料率0.20%
倍率:事業の純利益 52 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.6% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 630 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:短期2%・長期3%が定着し、預金競争が続いて利ざやの改善の半分が消える筋書き。強い堀があるとは言えず、県内2番手の位置も変わらないので、中心の確率は3割にとどめた。
やや悲観 26% 預金競争が重く、優先株が普通株に変わる十年 利益 22 億円 · PER 6.2 倍 · 株価時価総額 542 円63 億円
預金競争が重く、利ざやが広がらない。短期金利が上がる間、預金金利が貸出金利と同じ速さで上がり、2026年3月期の資金利益の減少が続く。ネット銀行は住宅ローンの金利で攻め、中国銀行は優良な大口を押さえる。
貸出の量は、物価に届かない伸びにとどまる。手数料は競合との値引きで率が下がる。経費は賃上げで10年で1.3倍に増え、人員の減では追いつかない。与信費用は、景気の後退を一度挟んで貸出の0.18%まで上がる。
純利益は今とほぼ同じ水準で、ROEは3%台に張り付く。優先株の100億円を現金で買い戻す余力はなく、2031年12月に普通株へ変わる。株価が下限の取得価額を下回る水準なので、新しい株が今の株数を上回って出る。株主の取り分が、大きく薄まる十年だ。
- 法人・自治体貸出:数量 0.8(法人・自治体向け貸出残高(兆円))× 価格 1.3%(貸出利ざや(預金調達差引後・%))→ 売上 100 億円・営業利益 40 億円。残高0.78兆円 × 利ざや1.28%
- 個人貸出:数量 0.5(個人ローン残高(兆円))× 価格 1.0%(貸出利ざや(%))→ 売上 49 億円・営業利益 9 億円。残高0.49兆円 × 利ざや1.00%
- 有価証券・市場運用:数量 0.3(運用残高(兆円))× 価格 1.1%(運用利回り-調達(%))→ 売上 35 億円・営業利益 32 億円。残高0.31兆円 × 運用ざや1.14%
- 手数料・預かり資産:数量 1.1(手数料の対象となる取扱高(兆円))× 価格 0.2%(実効手数料率(%))→ 売上 21 億円・営業利益 9 億円。取扱高1.12兆円 × 手数料率0.19%
倍率:10年後のROE3.1%(純利益22億円÷自己資本703億円)。ROEはk8.25%を大きく下回るので、ためた利益は額面未満の価値になる。RONICは5.7%に薄まり、正当化PERは7.0倍。稼ぐ力は構造的に細り、上限の9割に届かない6.2倍に置いた。自己資本は約700億円あるが、ROEがkの4割に届かず、ためた利益は額面未満の価値になるので、PBRは約0.2倍になる。床は悲観の筋書きで置いた約115億円。
確率:預金競争で利ざやが広がらず、優先株を現金で買い戻せない筋書き。足もとの預金金利の動きは、すでに現実に起きており、起こりやすい。
悲観 14% 岡山の競争に負け、赤字寸前で優先株が転換される十年 利益 1 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 457 円53 億円
県内の競争に負け、稼ぐ力を失う。中国銀行とネット銀行に優良な取引先を取られ、残るのは採算の低い貸出と、貸倒れの危うい先だ。預金は流出し、金利を上げて守るため、利ざやは今から広がらない。
10年のどこかで景気が大きく悪化し、中小企業の倒産が増える。与信費用は貸出の0.26%まで膨らみ、債券にも評価損が出て、薄い自己資本が傷つく。配当は削られ、資本を守る経営になる。
店舗と人員を急いで減らして経費を抑えるが、収益の減少のほうが速い。優先株は、買い戻す力がなく、2031年12月に下限の取得価額で普通株へ変わる。新しい株が今の株数を上回り、株主の取り分は半分以下に薄まる。純利益がほぼゼロに近づく十年だ。
- 法人・自治体貸出:数量 0.6(法人・自治体向け貸出残高(兆円))× 価格 1.1%(貸出利ざや(預金調達差引後・%))→ 売上 69 億円・営業利益 16 億円。残高0.62兆円 × 利ざや1.12%(競争と預金金利で広がらず)
- 個人貸出:数量 0.4(個人ローン残高(兆円))× 価格 0.9%(貸出利ざや(%))→ 売上 37 億円・営業利益 2 億円。残高0.40兆円 × 利ざや0.92%
- 有価証券・市場運用:数量 0.3(運用残高(兆円))× 価格 1.1%(運用利回り-調達(%))→ 売上 27 億円・営業利益 25 億円。残高0.26兆円 × 運用ざや1.05%
- 手数料・預かり資産:数量 1.0(手数料の対象となる取扱高(兆円))× 価格 0.2%(実効手数料率(%))→ 売上 16 億円・営業利益 6 億円。取扱高0.95兆円 × 手数料率0.17%
倍率:10年後のROEは0.2%でk8.25%を大きく下回る。稼ぐ力(純利益1億円÷k)は約12億円で、床としては小さい。値は、含み益込みの今の純資産574億円(優先株100億円を含む)に、地銀の悲観の目安0.45から大きく割り引いた0.2を掛けた約115億円。この銀行は含み益の開示を確かめられず、資本も薄いため。やや悲観の6.2倍の時価総額より低い。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PBR 0.2 倍・時価総額 115 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:県内の競争に構造的に負け、景気の悪化と薄い資本が重なる筋書き。資本が薄い銀行は悪い方向の傷が深く、優先株の転換も重なるので、1割を超えて置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
法人・自治体貸出
岡山県内の中小企業・大企業・自治体向けの貸出。事業性の貸出全体を含む。
| 数量法人・自治体向け貸出残高(兆円) | 価格貸出利ざや(預金調達差引後・%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.7 | 1.1% | 69 | 28 |
| 10 年後 中立 | 0.8 | 1.4% | 117 | 61 |
取り方:連結貸出残高1.076兆円(2026年3月末、有価証券報告書)から個人ローン0.422兆円を引いた0.654兆円を、法人・自治体向けとした(中小企業向け4,010億円、地方公共団体1,219億円、残りは大企業など)。資金利益131億円(有価証券の運用を含む)を、貸出と運用に配分した推定で、貸出の利ざやは1.05%と置いた。経費配分は推定で、配分後の利益率は約41%。数量は残高なので名目。利ざやは率なので、物価は掛けていない。
個人貸出
住宅ローン、アパートローン、カードローンなどの個人向けローン。
| 数量個人ローン残高(兆円) | 価格貸出利ざや(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.4 | 0.8% | 34 | 6 |
| 10 年後 中立 | 0.5 | 1.1% | 58 | 20 |
取り方:個人ローン残高4,218億円(単体、2026年3月末、有価証券報告書)を使用。住宅ローンの競争が激しく、利ざやは法人より薄い0.80%と置いた。住宅ローンセンターなど対面の経費が重く、配分後の利益率は約18%と低い。数量は名目、率に物価は掛けていない。
有価証券・市場運用
預金のうち貸出に回らない分の運用。債券・投資信託・株式と、日銀への預け金。
| 数量運用残高(兆円) | 価格運用利回り-調達(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.3 | 1.1% | 29 | 27 |
| 10 年後 中立 | 0.3 | 1.2% | 41 | 38 |
取り方:有価証券1,587億円(債券997億円、投資信託などその他493億円、株式98億円、有価証券報告書)に、現預金1,067億円の一部を加え、運用残高を約0.27兆円と推定した。資金利益131億円から貸出分を引いた残りが運用の稼ぎで、運用ざやは約1.06%。有価証券関係損益は2026年3月期にほぼゼロで、損益に含めた。経費は小さい。
手数料・預かり資産
為替・ローンなどの役務、投資信託・保険・公共債の販売、リースなどのグループ会社。
| 数量手数料の対象となる取扱高(兆円) | 価格実効手数料率(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.0 | 0.2% | 19 | 10 |
| 10 年後 中立 | 1.2 | 0.2% | 25 | 13 |
取り方:役務取引等利益16.5億円とその他の収益を合わせて約19億円を、対象取扱高0.95兆円(預かり資産のうち預金以外の約2,000億円と為替・ローンの取扱高の推定)と実効手数料率0.20%に分けた。開示の内訳ではなく推定。人件費の比重が高く、経費配分後の利益率は約53%。
リスクと懸念
優先株の転換と買い戻し
第2回A種優先株式100億円は、2031年12月に普通株へ一斉に取得される。買い戻しは2026年12月以降に現金で可能だが、年間利益の5年分が要る。転換の取得価額には下限があり、株価が低いほど新しい株が増え、普通株主の取り分が薄まる。
預金金利の追随と預金の流出
2026年3月期は、運用収益が約17億円増えたのに、調達費用が約20億円増え、資金利益が減った。個人預金も前の期より減っている。短期金利が2%に向かう間、預金金利が付いていく割合が想定を上回ると、利ざやの改善は消える。
県内最大手との競争
岡山県内のメインバンクの比率で、中国銀行は約46%、トマト銀行は約11%。優良な大口は中国銀行に流れやすく、トマト銀行は金利を下げて量を確保する側に回る。住宅ローンでは、ネット銀行との金利競争も続く。
薄い資本
単純な自己資本比率は4%台で、規制上の比率は連結9.18%と、目標の8%以上をわずかに上回るだけ。景気の悪化で与信費用が増えれば、配当を削り、優先株の買い戻しを止めて資本を守ることになる。
経費の重さ
経費が粗利益に占める割合は約77%で、会社の計画は75%程度。賃上げは毎年続き、システム投資も地銀共通の負担になる。人員の減と店舗の見直しが遅れれば、利益の増加は経費に吸われる。
人口減と統合の行方
岡山県の人口は2050年に約2割減る見通しで、後継者不足も課題だ。同業の統合が全国で進むなか、単独のままだと投資の負担が重い。統合の話が出たとき、買われる側として条件が悪ければ、普通株主の取り分は小さくなる。
今後の分かれ目
- 日銀が短期金利を2%まで引き上げ、預金金利の追随が遅いまま推移したら
- 貸出利回りと預金利回りの差が広がるので、楽観側の確率を上げてよい。決算の資金利益の伸びで確かめる。
- 預金金利が付いていく割合が5割を超え、資金利益が2期続けて減ったら
- 利ざやの改善が目減りするため、中立の純利益を下げ、やや悲観側の確率を上げる。個人預金の残高の動きが目印になる。
- 2026年12月以降、優先株の一部または全部を現金で取得すると発表したら
- 転換による希薄化の心配が小さくなる。普通株主の取り分の係数を引き上げ、中立の価値を上げる。調達の方法(新しい優先株か、利益か)も確かめる。
- 優先株の買い戻しを、新しい優先株や増資で置き換えると発表したら
- 希薄化が先送りされるだけなら、価値は変わらない。普通株への転換の可能性が残る形なら、慎重な見方を保つ。
- 景気が悪化して与信費用が急増し、配当が削られたら
- 資本の薄さが現実の傷になる。悲観側へ重みを移し、買い戻しの前提を見直す。
- 次の中期経営計画(2027年4月開始)で、ROE目標と優先株の方針が示されたら
- ROEが5%を超える目標で、買い戻しの工程も具体的なら、中立の価値を押し上げる。控えめなら、今の見方を保つ。
- 他行からの統合や出資の提案が正式に出たら
- 条件次第で価値は大きく変わる。普通株の価値を上回る水準での提案なら楽観側へ、優先株の扱いを含めて薄まる形なら中立の価値を見直す。
見ておくもの
- 資金利益と、貸出利回り・預金利回りの差の推移
- 個人預金の残高と、預金金利の動き
- 経費が粗利益に占める割合(会社の計画は75%程度)
- 自己資本比率と、第2回A種優先株式の取得方針(2026年12月以降)
- 次の中期経営計画(2027年4月開始)のROE・還元の目標
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価を見ずに決めた。楽観・やや楽観・中立は、10年後のROEとk8.25%(基本7.5%+quality+0.75%)・g4.0%から、利益ベースの正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)を出し、その9.5・9・8割に置いた。やや悲観は稼ぐ力から6.2倍、悲観は今の純資産に掛け目を掛けて置いた。優先株は、会社全体の時価総額から100億円を引いた分だけが普通株主の取り分になる前提で、既存株主の取り分の係数に入れ、倍率には混ぜていない。今の株価が倍になっても半分になっても、この数字は動かない。リース会計(新リース会計基準)の影響は、店舗を借りる影響が銀行では小さいので、10年後の数字は今と同じ形でそろえた。同じ領域の大光銀行(新潟)と比べると、岡山は人口の減りが緩い分、kを0.25%低く置き、預金の追随(5割)はこの銀行の足もとの数字から高めに置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.5→13.24 倍・やや楽観 PER 10.7→12.12 倍・中立 PER 8.7→12.12 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%にquality+0.75%を足してk8.25%。銀行は預金が仕入れなので、利払いの式は当てはめず、利ざやで扱う。優先株の転換、薄い資本、統合の可能性などの個別のリスクはkに足さず、筋書きと確率、既存株主の取り分の係数で表した。同じ領域の北日本銀行・山形銀行(+0.8〜1.0%)より低いのは、岡山の人口の減りが緩いため。大光銀行(+1.0%)より低いのは、人口と地盤の違い。