結論
阿波銀行は徳島市に本店を置く地方銀行である。県内の貸出シェアは5割近い。ただ、人口減の強い県で、自己資本が厚く、資本の使い方が遅れている。筆者の結論は、今の値段は割高寄りということだ。稼ぎは伸びるが、10年後でもROEが資本コストに届かないからである。
稼ぎが伸びる理由は金利にある。短期金利が2%まで上がれば、貸出の利ざやが広がり、積み上げた債券の利回りも切り上がる。純利益は10年で2倍を超える姿になる。
それでも資本が重い。連結の純資産は約4,000億円あり、純利益155億円で割ったROEは4%を切る。会社は27年度に単体で純利益200億円以上、長期でROE7%以上を掲げる。筆者は、中立でもこの7%には届かないと見る。自己資本が稼ぎと同じ速さで膨らむからだ。
徳島の盟主という強みは本物だ。関西の法人貸出を積み上げて、県内の縮みを埋めている点も評価できる。ただ、県外の貸出は景気の悪化で傷みやすい。県内の人口減と合わせると、悲観側の確率は低く置けない。
中立の値付けは、稼ぎを10倍強で評価する水準になる。確率をかけた10年後の価値は、今の時価総額を下回る。
筆者がいちばん気にしているのは、県外に伸ばした貸出の質だ。景気が良い間は見えないが、悪くなった時に与信費用が増えやすい。県内の首位という守りの強さと、県外という攻めの不確かさが同居している。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、阿波銀行は事業としては悪くないが、買い値次第の会社である。
良い点から言う。県内に5割近いシェアを持つ首位行で、徳島という狭い市場では代わりの利かない存在だ。預金を安く集められ、貸出も値段で競わなくてすむ。経営は堅実で、リスクの取り方も保守的である。
気になる点は、資本の使い方だ。連結の純資産は4,000億円ある。純利益155億円に対して、稼ぎが小さい。筆者は、株主のお金をもっと効率よく使ってほしいと考える。余った資本が経営の緊張感を緩める。政策保有株の縮減も遅い。
もう1つ、人口の減る県で、県外に貸出を広げている点は割り引いて見る。県外は競合が多く、景気が悪くなると傷みやすい。
10年後の中立の姿は、純利益が今の2倍強になり、ROEは6%台前半まで上がる。それでも資本コストの8%に届かない。ためた利益が額面未満の価値しか持たない会社に、高い倍率は払えない。
安全域は薄い。確率をかけた10年後の価値が今の時価総額を下回るなら、買う理由にならない。計算はそうなった。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、貸出の利ざや、債券の運用、手数料の3つである。
貸出は2026年3月末で約2.5兆円。県内の企業と個人が中心で、県内の貸出シェアは5割近い。ただ人口が減る県なので、1896年の創業以来の地盤だけでは先がない。そこで関西・関東・四国の他県へ店を出してきた。105店舗のうち、徳島県内が83、大阪が7、東京が5、兵庫が3で、残りは岡山・香川・愛媛・高知・神奈川に広がる。貸出の4割台は県外向けとみられ、関東向けは10年で2倍強に増えた。中小企業向けの貸出が全体の4分の3を占める。
預金は約3.4兆円で、県内の預金シェアは4割前後である。預金の集め方は店舗網と地元の信頼に頼る。金利で他行と競うことは少ない。
有価証券は約1.2兆円と、貸出の半分近い。国債・地方債・社債・株式などを持ち、利息と配当が収益を支える。低い利回りで買った債券が満期を迎え、高い利回りへ入れ替わる過程で、収益が上がっていく。
手数料は、投資信託や保険などの預かり資産、事業承継やM&Aの仲介、ファイナンスの組成から得る。収益全体に占める割合は小さいが、人口減の県で貸出が伸びにくい分を補う柱として育てている。
グループ会社は6社で、証券、リース、信用保証、ベンチャーキャピタルなどを抱える。2023年度以降は、関西と愛媛・今治に法人営業部を開設し、阿波銀キャピタルを設立して、事業承継ファンドと未来創造ファンドを組成した。人材とデジタルへの投資も3年で各20億円を割り当てている。県内の預金を集め、県内外の貸出と債券へ回す。この単純な仕組みが事業の中心にある。
優良さと弱いところ
最大の強みは、徳島県内の貸出シェアが5割近いことだ。県内の中小企業の多くが阿波銀行をメインにしている。値段を競わなくても貸出が集まる。預金の調達にもやや強みがある。この地盤が、金利の上昇局面で預金金利の上がりを抑える力になる。
次の強みは、地盤の外へ出る力である。関西・関東の法人営業部を開設し、県外で貸出を積み上げてきた。県内の貸出が減る分を、県外が穴埋めしている。
弱みは3つある。1つめは人口減だ。徳島は人口の縮みが速い県で、県内の貸出需要は減り続ける。2つめは資本効率である。自己資本が厚いわりに稼ぎが小さく、ROEは4%前後にとどまる。3つめは県外貸出の質だ。景気が悪化すると、遠い地域の貸出ほど目が届かず、傷みやすい。
経営は堅実で、会社は目標をたびたび引き上げている。24年度の単体純利益は当初目標の120億円を超え、目標は180億円、さらに200億円へ上がった。配当性向40%以上を明文化した点も前向きだ。一方で、資本の余裕を成長か還元に使い切る姿勢はまだ弱い。
県内シェアが高いことは、そのまま利益率の高さにはつながっていない。経費率の目安である修正OHRは、24年度に約62%だったが、27年度に57%未満を目標にしている。経費をさらに絞れるかが、利益率と資本効率の改善を左右する。県内の店舗網を維持しながら、県外の拠点も増やすため、経費は重い。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
地方銀行は今、金利のある世界の初期にいる。長く続いた低金利が終わり、短期金利が2%へ向かう。貸出の金利は先に上がり、預金の金利は後から上がる。この差が利ざやの拡大をもたらす。地銀にとっては、貸出の量が伸びない中で、数少ない追い風である。
一方で、地方の貸出需要は人口減で細る。特に徳島は、人口が全国でも速く減る県のひとつだ。地方銀行は県内だけでは稼げず、県外に出るか、再編で規模を取るか、どちらかを迫られている。県外に出れば競合が増え、貸出の金利競争にさらされる。
再編も進んでいる。千葉銀行と千葉興業銀行、しずおかFGと名古屋銀行など、基本合意が相次ぐ。徳島では、徳島大正銀行がトモニホールディングスのもとにあり、県内の競合になっている。県外では百十四銀行などの広域の地銀や、メガバンク、ネット銀行とも貸出を争う。
預かり資産の分野は追い風である。新NISAで投資信託の残高が伸びている。ただし、手数料率は低コスト商品へ向かうので下がる。
循環の位置としては、与信費用が歴史的に低い水準にある。景気が悪化すれば、費用は大きく増える。10年という期間では、景気の山谷を1〜2回経験すると見るのが自然だ。
地方銀行の経営には、貸出の量・利ざや・経費・与信費用・有価証券の運用という5つの変数がある。人口減の県では、最初の量が逆風になり、残りの4つで稼ぐほかはない。阿波銀行は、有価証券の厚みが大きく、金利の動きに利益が敏感に反応する点が特徴だ。金利が上がる局面では追い風になるが、急な上昇では含み損の形で重荷になる。
資本政策と M&A
還元の方針は、2026年5月に変わった。それまでの、配当と自社株買いを合わせた総還元性向40%以上から、配当性向40%以上と増配をめざす形へ移った。自社株買いは資本効率と市況を見て柔軟に行う。
資本は厚い。連結自己資本比率は10.5%で、会社は2028年3月末に10.2%まで下げる計画を示している。累積利益による上積みが約2%、貸出の伸びによる資本の消費が約2%、還元が約1%という内訳だ。
政策保有株は、上場分の簿価を27年度末までに40億円減らす。減らした資金は、人材とデジタルへの成長投資に20億円ずつ回す。縮減の額は小さく、速度は遅い。
再編については、報じられた動きは見当たらない。県内で貸出の半分近くを握る首位のため、買収される側になる可能性は低いとみる。むしろ地域の再編が進めば、受け皿の役を担う立場にある。ただし買う側に回る実績もなく、当面は単独で規模を取る道を選んでいる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
金利のある世界は、阿波銀行にとって大きな追い風になる。短期金利が2%へ上がれば、貸出の利ざやが広がる。会社自身が、2027年度に単体の純利益200億円以上という目標を掲げ、すでに過去最高益を更新している。これは入り口に過ぎない。
貸出は、県内に5割近いシェアがあり、価格競争に巻き込まれにくい。預金の調達でも優位で、金利が上がっても預金金利の上がり方が抑えられる。有価証券の約1.2兆円は、低利回りで買った債券が高利回りへ入れ替わる過程にある。入れ替えが進むほど、収益は上がっていく。
県外の貸出も強い。関西の7店舗を足がかりに法人貸出を積み上げており、関東向けは10年で2倍強になった。県内の縮みを県外で穴埋めする戦略は、すでに結果が出ている。
資本政策も動いた。配当性向40%以上が明文化され、自己資本比率は10%まで下げる余地がある。政策保有株が減れば、その分を成長投資か還元に回せる。ROEは会社の長期目標である7%以上へ上がる。
阿波銀行の純利益は、10年で3倍に近づく。この収益力なら、倍率も高く評価されてよい。
今の阿波銀行は、資本が厚いぶん、増配や自社株買いの余地も大きい。経営が資本を効率よく使う方向へ舵を切れば、ROEと倍率の両方が変わる。
慎重な見方
人口の減る県の地銀に、高い倍率を払う理由はない。徳島は人口の縮みが速く、県内の貸出需要は構造的に減る。県外に出ても、競合は大阪・東京の銀行で、貸出金利の競争は激しい。利ざやが広がるのは最初だけで、競争で薄れていく。
金利上昇の恩恵は、預金の調達コストの上昇でも削られる。短期金利が2%に上がれば、預金を守るために金利を引き上げざるをえない。債券の入れ替えは、金利上昇による含み損を抱えたまま進めるため、思うほど利回りは上がらない。
資本の効率も悪い。連結純資産は約4,000億円、純利益は155億円で、ROEは4%前後にとどまる。会社が掲げる長期の7%も、足元の資本の厚みを考えると、達成には自己資本を減らす決断が要る。政策保有株の縮減は40億円と小さく、遅い。
県外貸出は、景気が悪くなると傷みが表に出る。遠い地域の中小企業の貸出ほど、目が届かない。与信費用は今、異常な低水準にある。
純利益が2倍になっても、ROEが資本コストに届かないなら、倍率は低く置くしかない。今の値段は、そこに期待を乗せすぎている。
さらに、関西・関東の店舗は少数で、競合の大手銀行と戦うには規模が足りない。県内の首位という看板が、県外では通用しない。
どちらに重みを置いたか
県内の首位という強みと、金利の追い風は本物だ。ただ、強気の見方の核である倍率の高さは、ROEが資本コストを下回るなら成り立たない。慎重な見方の方が強い。確率は、やや悲観と悲観に寄せた。県内の縮みと県外の貸出の傷みは、10年で十分に起こりうる。一方で、県内のシェアの厚みと金利の追い風が簡単には崩れないため、悲観に寄せすぎず、中立の確率は3割にとどめ、楽観は1割に抑えた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,867 円3,630 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 573 円1,113 億円)。 今の値に割り戻すと 1,255 円2,439 億円、今との差 −33.4%、 期待の年率 +2.6%(資本コスト 8.0%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 3,060 円5,949 億円 | 812 円1,579 億円 | +105.5% | +7.5% | 387 円753 億円 |
| やや楽観 | 22% | 2,591 円5,038 億円 | 711 円1,382 億円 | +75.3% | +5.8% | 727 円1,412 億円 |
| 中立 | 30% | 2,199 円4,275 億円 | 614 円1,194 億円 | +49.3% | +4.1% | 844 円1,641 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,139 円2,213 億円 | 472 円918 億円 | −14.5% | −1.6% | 387 円751 億円 |
| 悲観 | 14% | 416 円808 億円 | 267 円519 億円 | −63.8% | −9.7% | 96 円186 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,867 円3,630 億円 | 573 円1,113 億円 | +29.5% | +2.6% | 2,440 円4,743 億円 |
今の株価時価総額 1,884 円3,662 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 県外の法人貸出と運用の利回り改善が噛み合う10年 利益 464 億円 · PER 12.8 倍 · 株価時価総額 3,060 円5,949 億円
関西・関東の法人貸出が計画どおり積み上がり、県外の貸出が県内の減りを十分に埋める。短期金利は2%で落ち着き、貸出の利ざやは広がる。低い利回りで買った債券を高い利回りへ入れ替える作業も、思った以上に早く進む。経費は物価の分だけ増えるが、システムの共同化や店舗の絞り込みで増加を抑える。政策保有株は縮減が進み、浮いた資金が成長投資に回る。還元は配当性向40%に自社株買いを足し、自己資本の積み上がりは抑えられる。この姿なら純利益は今の3倍に届き、ROEは8%台前半へ上がる。ただし徳島県内の人口減は止まらず、強気の前提が10年続くことが条件になる。この筋書きでは、会社が掲げる単体純利益200億円の目標は通過点になる。県外の取引先が増えれば、手数料や事業承継の仲介も伸びる。人口が減る県の銀行でも、外へ出る力があれば成長できることを示す10年になる。
- 法人・事業性貸出:数量 2.4(法人・事業性貸出の平均残高(兆円・実質))× 価格 2.5%(残高あたりの粗利益率(利ざや+手数料、%)× 物価指数)→ 売上 601 億円・営業利益 361 億円。残高 2.4 兆円(実質)。県外の法人貸出が伸びる。利ざや拡大は大きい
- 個人貸出:数量 0.4(個人向け貸出の平均残高(兆円・実質))× 価格 2.9%(残高あたりの粗利益率(利ざや+手数料、%)× 物価指数)→ 売上 107 億円・営業利益 49 億円。個人は横ばい。住宅ローンの利ざやが広がる
- 預かり資産・手数料:数量 1.7(預かり資産残高+取扱高(兆円・実質))× 価格 1.1%(基礎残高あたりの手数料率(%)× 物価指数)→ 売上 187 億円・営業利益 86 億円。資産形成の流れに乗り残高が 1.5 倍強
- 有価証券運用:数量 1.3(運用資産の平均残高(兆円・実質))× 価格 1.9%(残高あたりのキャリー収益率(調達費用控除後、%)× 物価指数)→ 売上 245 億円・営業利益 216 億円。債券の入れ替えが進み、運用の利回りが大きく切り上がる
倍率:事業の純利益 464 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.4% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.8 倍。全体の PER 12.82 倍、時価総額 5,948 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:県外貸出の拡大、短期金利2%の定着、債券の入れ替えによる利回り改善がそろう前提。人口減の強い県の地銀なので、全部がそろう確度は高くない。
やや楽観 22% 会社計画を上回る利ざやで、ROEが7%台へ 利益 403 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 2,591 円5,038 億円
徳島県内の貸出は人口減でじわじわ細るが、関西の法人貸出が毎年積み上がり、全体では実質で小さく増える。短期金利が2%に定着し、貸出の利ざやは広がる。有価証券は金利の上昇に合わせて入れ替えが進み、収益の柱としての厚みが増す。経費は物価に沿って増えるものの、共同のシステムや店舗の見直しで伸びを抑える。与信費用は景気の山谷をならした水準に戻るが、県外の貸出が増える分だけ少し重い。還元は配当性向40%に機動的な自社株買いが乗り、自己資本比率は10%強に保たれる。会社が掲げる長期ROE7%以上に近い姿である。一方で、徳島県内の縮みは止まらず、伸びの多くは金利の追い風に頼る。経営が資本を使い切る努力を続けるかどうかが、ROEを7%台に乗せられるかの分かれ目になる。
- 法人・事業性貸出:数量 2.3(法人・事業性貸出の平均残高(兆円・実質))× 価格 2.5%(残高あたりの粗利益率(利ざや+手数料、%)× 物価指数)→ 売上 564 億円・営業利益 324 億円。残高 2.3 兆円(実質)。県外が県内の減りを上回る
- 個人貸出:数量 0.4(個人向け貸出の平均残高(兆円・実質))× 価格 2.8%(残高あたりの粗利益率(利ざや+手数料、%)× 物価指数)→ 売上 100 億円・営業利益 43 億円。個人は緩やかに減る
- 預かり資産・手数料:数量 1.5(預かり資産残高+取扱高(兆円・実質))× 価格 1.1%(基礎残高あたりの手数料率(%)× 物価指数)→ 売上 165 億円・営業利益 71 億円。預かり資産の残高が実質で 4 割増
- 有価証券運用:数量 1.2(運用資産の平均残高(兆円・実質))× 価格 1.8%(残高あたりのキャリー収益率(調達費用控除後、%)× 物価指数)→ 売上 222 億円・営業利益 192 億円。運用の利回りが着実に上がる
倍率:事業の純利益 403 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.4% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 5,038 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:経営計画の方向が10年おおむね維持され、利ざや拡大が予想をやや上回る想定。会社自身が長期のROE目標を7%以上に置いており、手が届く範囲。
中立 30% 中立:利ざやは広がるが、ROEは資本コストに届かない 利益 342 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 2,199 円4,275 億円
短期金利2%、長期金利3%が定着し、貸出の利ざやは今より広がる。徳島県内の貸出は人口減で実質の量が減るが、大阪・東京の法人貸出が増え、全体は横ばいを保つ。有価証券は低利回りの債券が高利回りへ入れ替わり、収益の下支えになる。ただし経費は物価と賃上げで同じように増える。与信費用も今の異常な低さから平均的な水準へ戻る。この結果、利益は物価と利ざやの分だけ伸びるが、自己資本が厚いため、ROEは6%台にとどまる。政策保有株の縮減は進み、還元は配当性向40%に自社株買いを足した水準で続く。会社の長期目標である7%には届かない。県外に出る戦略は続くが、競合が多く、利ざやの伸びは県内ほど大きくない。10年たっても、徳島の首位という地位と、ROEの低さという2つの特徴は、ほぼ今のまま残る。
- 法人・事業性貸出:数量 2.2(法人・事業性貸出の平均残高(兆円・実質))× 価格 2.4%(残高あたりの粗利益率(利ざや+手数料、%)× 物価指数)→ 売上 528 億円・営業利益 290 億円。残高 2.2 兆円(実質)。県内の減りを県外で埋めて横ばい
- 個人貸出:数量 0.4(個人向け貸出の平均残高(兆円・実質))× 価格 2.7%(残高あたりの粗利益率(利ざや+手数料、%)× 物価指数)→ 売上 94 億円・営業利益 38 億円。人口減で実質は 5% 減
- 預かり資産・手数料:数量 1.4(預かり資産残高+取扱高(兆円・実質))× 価格 1.0%(基礎残高あたりの手数料率(%)× 物価指数)→ 売上 144 億円・営業利益 58 億円。預かり資産の残高が実質で 25% 増、手数料率は低下
- 有価証券運用:数量 1.2(運用資産の平均残高(兆円・実質))× 価格 1.7%(残高あたりのキャリー収益率(調達費用控除後、%)× 物価指数)→ 売上 199 億円・営業利益 169 億円。運用の利回りが上がり、残高は実質で横ばい
倍率:事業の純利益 342 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.4% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 4,275 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:短期2%・長期3%が定着し、県外貸出が県内の減りを埋める中心の筋書き。会社の計画は純利益200億円(単体)で、そこから金利の追い風と物価の分が上乗せされる姿を最も重く見る。
やや悲観 24% 人口減が計画より速く、利ざやの追い風が相殺される 利益 227 億円 · PER 9.8 倍 · 株価時価総額 1,139 円2,213 億円
徳島県の人口と事業所の減少が想定より速く、県内の貸出は実質で大きく細る。関西の貸出は伸びるが、競合との金利競争で利ざやが薄い。徳島大正銀行や県外の地銀、ネットの金融サービスが貸出金利を下げてくるため、短期金利が上がっても利ざやの拡大は途中で頭打ちになる。預金は金利を引き上げざるをえず、調達コストが想定より早く上がる。経費は物価で増え続けるので、利益率は低下する。有価証券の入れ替えは含み損を抱えて遅れる。ROEは4%台で、資本コストを大きく下回る。還元は配当性向40%に絞られ、自社株買いは小さくなる。県外の貸出も、競争のなかで条件が厳しくなり、量は伸びても稼ぎは増えにくい。政策保有株の縮減や自社株買いも小幅にとどまり、資本の厚みが重荷として残る。
- 法人・事業性貸出:数量 2.1(法人・事業性貸出の平均残高(兆円・実質))× 価格 2.2%(残高あたりの粗利益率(利ざや+手数料、%)× 物価指数)→ 売上 453 億円・営業利益 208 億円。残高 2.1 兆円(実質)。県内の縮みが県外の増加を上回る
- 個人貸出:数量 0.3(個人向け貸出の平均残高(兆円・実質))× 価格 2.5%(残高あたりの粗利益率(利ざや+手数料、%)× 物価指数)→ 売上 81 億円・営業利益 27 億円。個人は実質で 1 割強減る
- 預かり資産・手数料:数量 1.2(預かり資産残高+取扱高(兆円・実質))× 価格 1.0%(基礎残高あたりの手数料率(%)× 物価指数)→ 売上 120 億円・営業利益 41 億円。預かり資産は伸びるが手数料率が下がる
- 有価証券運用:数量 1.2(運用資産の平均残高(兆円・実質))× 価格 1.4%(残高あたりのキャリー収益率(調達費用控除後、%)× 物価指数)→ 売上 162 億円・営業利益 133 億円。運用の利回りの改善が遅れ、残高も縮む
倍率:10年後のROE4.5%(純利益227億円÷自己資本5,023億円)。ROEはk8%以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、PERは1÷k=12.5倍までが上限。上限の7.8割に置き、9.75倍。還元を会社の方針(48%)に合わせたため自己資本が厚くなった。
確率:徳島県の人口減が加速し、競合が貸出金利を下げて利ざやの拡大が想定の半分にとどまる想定。この県は地銀の中でも人口の縮みが速く、10年ならありうる範囲として厚めに置く。
悲観 14% 構造的に負け、県内の縮小に県外の失敗が重なる10年 利益 86 億円 · PER 9.4 倍 · 株価時価総額 416 円808 億円
徳島県の人口減が加速し、県内の貸出は実質で2割減る。関西・関東で積み上げた法人貸出は、景気の悪化局面で焦げ付きが増え、与信費用が利益を食う。短期金利が上がっても、競争で貸出金利を上げられず、預金金利だけが先に上がって利ざやは縮む。債券は金利上昇で含み損を抱え、売ると損が出るので入れ替えも進まない。持ち合い株の価格下落が資本を削る。経費は物価で増えるのに収益が伸びず、ROEは2%を割る。県内の首位という地位だけでは、資本効率は戻らない。優良な地銀ではなくなり、再編の相手としても足元を見られる。この筋書きでは、経費を抑えるための統合も、条件の悪い相手との話になりやすい。会社は存続するが、株主にとって魅力のある投資先ではなくなる。
- 法人・事業性貸出:数量 1.7(法人・事業性貸出の平均残高(兆円・実質))× 価格 1.8%(残高あたりの粗利益率(利ざや+手数料、%)× 物価指数)→ 売上 321 億円・営業利益 109 億円。残高 1.7 兆円(実質)。県内の縮みと県外の焦げ付きで量も利益も落ちる
- 個人貸出:数量 0.3(個人向け貸出の平均残高(兆円・実質))× 価格 2.2%(残高あたりの粗利益率(利ざや+手数料、%)× 物価指数)→ 売上 61 億円・営業利益 13 億円。個人は 2 割強減る
- 預かり資産・手数料:数量 1.0(預かり資産残高+取扱高(兆円・実質))× 価格 0.9%(基礎残高あたりの手数料率(%)× 物価指数)→ 売上 90 億円・営業利益 20 億円。預かり資産が伸びず手数料率も低い
- 有価証券運用:数量 1.1(運用資産の平均残高(兆円・実質))× 価格 0.9%(残高あたりのキャリー収益率(調達費用控除後、%)× 物価指数)→ 売上 100 億円・営業利益 75 億円。債券の評価損と低い利回りの固定で運用の稼ぎが細る
倍率:10年後のROE1.9%(純利益86億円÷自己資本4631億円)はk8%以下で、PERは1÷k=12.5倍までが上限。構造的に負けて優良でなくなった姿として、上限の約7.5割の9.4倍に置いた。今の自己資本3,996億円に対する倍率は約0.2倍で、稼ぐ力から出した値であり、自己資本の何割という置き方はしていない。
確率:リーマン級の信用収縮に、徳島県内の急速な縮み、県外の法人貸出の焦げ付き、政策保有株と債券の評価損が10年のどこかで重なる想定。積み上げた県外貸出が逆に重荷になる筋書きとして、やや厚く置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
法人・事業性貸出
徳島県内の中小企業向けと、関西・関東など県外の法人向け貸出、地方公共団体向けを含む。
| 数量法人・事業性貸出の平均残高(兆円・実質) | 価格残高あたりの粗利益率(利ざや+手数料、%)× 物価指数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.2 | 1.3% | 289 | 133 |
| 10 年後 中立 | 2.2 | 2.4% | 528 | 290 |
取り方:貸出残高 2.52 兆円(2026年3月末)から、個人ローンと思われる約 0.37 兆円を除いた約 2.15 兆円を法人・公共向けとおいた(開示の内訳ではなく推定)。預金の運用益込みの粗利益率を 1.33%、経費の割り振りと与信費用を引いた営業利益率を 46% とし、営業利益 133 億円とした。残高は今の値段のままの実質で置き、物価の分は価格の指数(10 年 1.34 倍)に入れる。 【2026-10-19 確認】数量は実質、価格は率×物価指数(1.34倍)で置く。物価は数量でなく価格側にだけ入れ、二重がけなし。 (R23c 点検:率の上昇の理由)短期金利が今の1%前後から2%へ+1ポイント上がる前提。貸出金利は先に上がり、預金金利は預金ベータ換算で約55%だけ追うので、中立の率は10年で1.33%→1.78%(+0.45ポイント)。住宅ローンは固定が多く広がりは遅い。物価の分は価格の指数(1.34倍)に別に入れてあり、ここは物価を除いた率の動き。
個人貸出
住宅ローン、カードローンなど個人向けの貸出。
| 数量個人向け貸出の平均残高(兆円・実質) | 価格残高あたりの粗利益率(利ざや+手数料、%)× 物価指数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.4 | 1.6% | 59 | 19 |
| 10 年後 中立 | 0.4 | 2.7% | 94 | 38 |
取り方:個人向け貸出を約 0.37 兆円と推定した(個人の分析記事の約 3,448 億円に近い額。開示の内訳は確かめていない)。住宅ローンの粗利益率を 1.60%、営業利益率を 32% とし、営業利益 19 億円。徳島の人口減で、残高は実質で縮む前提。 【2026-10-19 確認】数量は実質、価格は率×物価指数(1.34倍)で置く。物価は数量でなく価格側にだけ入れ、二重がけなし。 (R23c 点検:率の上昇の理由)短期金利が今の1%前後から2%へ+1ポイント上がる前提。貸出金利は先に上がり、預金金利は預金ベータ換算で約60%だけ追うので、中立の率は10年で1.60%→2.00%(+0.40ポイント)。住宅ローンは固定が多く広がりは遅い。物価の分は価格の指数(1.34倍)に別に入れてあり、ここは物価を除いた率の動き。
預かり資産・手数料
投資信託・保険などの預かり資産、事業承継・M&A、ファイナンスの組成から得る手数料。
| 数量預かり資産残高+取扱高(兆円・実質) | 価格基礎残高あたりの手数料率(%)× 物価指数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.1 | 0.8% | 88 | 30 |
| 10 年後 中立 | 1.4 | 1.0% | 144 | 58 |
取り方:役務の収益は決算の内訳を確かめていない。そこで基礎残高 1.10 兆円に率 0.80% を当て、粗利益約 88 億円、営業利益率 34% で約 30 億円と推定した(開示の数字ではない)。会社は27年度に本業支援手数料を 10 億円、預かり資産手数料を 3 億円増やす計画を示している。 【2026-10-19 確認】数量は実質、価格は率×物価指数(1.34倍)で置く。物価は数量でなく価格側にだけ入れ、二重がけなし。
有価証券運用
国債・地方債・社債・株式・投資信託などの運用。預貸の差を運用するキャリー収益。
| 数量運用資産の平均残高(兆円・実質) | 価格残高あたりのキャリー収益率(調達費用控除後、%)× 物価指数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.2 | 0.9% | 107 | 86 |
| 10 年後 中立 | 1.2 | 1.7% | 199 | 169 |
取り方:有価証券残高 1.19 兆円(2026年3月末、有価証券報告書の要約)に、調達費用を引いた後の収益率 0.90% を当て、粗利益約 107 億円。営業利益率 80% で約 86 億円。政策保有株の売却益など一度きりの利益は、全社の調整に含める。会社は 24〜27 年度で有価証券利息が 59 億円増える計画を示している。 【2026-10-19 確認】数量は実質、価格は率×物価指数(1.34倍)で置く。物価は数量でなく価格側にだけ入れ、二重がけなし。
リスクと懸念
人口減の加速
徳島県は人口の減り方が速く、県内の貸出需要が構造的に細る。県内の首位という地位は、市場が縮めば価値も縮む。10年のうちに、想定より速い縮みが起きれば、貸出の量と利益の両方が落ちる。
県外貸出の傷み
貸出の4割台は県外向けとみられ、関西・関東で積み上げた法人貸出が成長の柱になっている。景気が悪化すると、遠い地域の貸出ほど目が届かず焦げ付きが増える。与信費用が今の低水準から大きく跳ね上がる恐れがある。
預金金利の上昇
短期金利が2%へ上がると、預金の金利も引き上げざるをえない。想定より預金の上がり方が早ければ、利ざやの拡大は予想より小さくなる。預金が他行やネット銀行へ流れる懸念もある。
債券と株式の評価損
有価証券は約1.2兆円と大きい。金利が急に上がると債券に含み損が出て、入れ替えが進まず、利回りの改善が遅れる。持ち合い株の価格が下がれば、純資産も削られる。
資本の使い方の遅れ
純資産が厚いわりに稼ぎが小さく、ROEが低い。政策保有株の縮減は40億円と小さく、還元も配当性向40%と標準的。経営が資本を使い切る姿勢を見せなければ、ROEは資本コストに届かないままになる。
競合と再編の波
徳島大正銀行、百十四銀行などの競合に加え、再編で規模を取った広域の地銀が県外の貸出を狙ってくる。阿波銀行が再編の外にとどまれば、システム費の分担や経費率で劣後するおそれがある。
今後の分かれ目
- 短期金利が2%へ、計画より速く上がったら
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。ただ預金金利の上がり方も同時に見ること。貸出と預金の差が実際に広がるかを、決算の利回りの動きで確かめる。
- 景気が悪化し、県外の法人貸出の与信費用が急に増えたら
- やや悲観・悲観の確率を上げる。県外貸出の積み上げ戦略が、成長の柱から重荷に変わる分かれ目になる。
- 政策保有株の縮減を大きく加速し、自社株買いを増やしたら
- ROEが上がる道が開ける。10年後の自己資本が減り、中立のROEが7%を超えれば、倍率を引き上げて考えてよい。
- 他の地銀と経営統合の協議に入ったら
- 経費率の改善が見込める一方、持ち分が薄まる可能性もある。統合比率と統合後の資本政策を見て判断する。
- 徳島県内の貸出残高が、実質で減り始めたら
- 県内の縮みが想定より速い兆しである。県外で穴埋めできているかを確かめ、できていなければ悲観側に寄せる。
見ておくもの
- 短期金利の水準と、貸出・預金・有価証券の利回りの推移
- 県外(関西・関東)の貸出残高と与信費用の推移
- 政策保有株の縮減の進み方と、自社株買いの規模
- 27年度の単体純利益200億円以上の達成度と、次期経営計画(2028年4月〜)のROE目標
- 徳島県内の人口と貸出残高の動き
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価を見ずに決めた。楽観・やや楽観・中立は10年後のROEとk8%(基本7.5%+quality)・g4%から、利益ベースの正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)の上限を出した。ROEがk以下の筋書きは1÷k=12.5倍が上限で、その9割・8.5割に置いた。やや悲観・悲観はROEがk以下なので、同じ上限の約8割・7.5割にとどめ、悲観の利益は県外貸出の傷みと競争による利ざやの縮みから置いた。過去の底値や今の倍率は根拠にしていない。kが1%高い9%だと、10年の中立のPERは10.6倍から9.4倍に下がる。悲観の倍率は稼ぐ力から置いた値で、売れる資産(政策保有株・不動産)の額は開示から確かめられなかったので、床には使っていない。有価証券の評価差額金は自己資本にすでに入っている。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.56→12.82 倍・やや楽観 PER 11.25→12.5 倍・中立 PER 10.6→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に quality +0.5% を足して k 8%(決まり v2。β・規模は使わない。内訳と理由は quality_why)。銀行は預金が仕入れなので利払いの式は当てはめず、利ざやで扱う。個別のリスク(県外貸出の傷み、資本の使い方の遅れ)は k に足さず、確率と筋書きで表す。事業は傾いていないので上乗せは 0。同じ地方銀行どうしで同じ物差しを使い、差は quality の4部品だけで出している。