結論
ほくほくフィナンシャルグループは、2004年に北陸銀行と北海道銀行が経営統合して発足した持株会社で、両行を100%子会社として持つ地方銀行である。富山・石川・福井3県で預金・貸出ともにトップシェアを握る北陸銀行と、道内2位の北海道銀行という、隣接しない2つの強固な地域基盤を併せ持つのが特徴である。2026年3月期は短期金利上昇の効果が一気に表面化し、北陸・北海道ともに過去最高・20年ぶりの高水準の純利益を記録、連結純利益は589億円・ROE8.1%まで急改善した。中期経営計画「NEXT STAGE」は2028年3月期に純利益650億円・ROE8.5%・自己資本比率10%台を掲げ、利ざやの拡大と非資金利益の強化を軸に据える。北海道では千歳市へのラピダス進出に伴う投融資需要の拡大が、北陸では能登半島地震の復興需要とともに、追加の押し上げ要因になる。ここでは北陸銀行・北海道銀行・非金利収益の3つを数量×価格で積み上げ、その時点のROEと資本コストから倍率を決めて株価を測った。中立では10年後にROE8.4%にとどまり、資本コスト8.5%をわずかに下回る緩やかな改善にとどまる。確率で重みづけた本質価値は、今の時価総額(約9,225億円)に対し10年で−33.5%、「割高」と見る(資本コスト8.5%、10年の筋書きだけで測る)。単純自己資本比率4.3%という資本の薄さと、県境を越えた広域再編から距離を置く独自路線が、他の地銀持株会社に比べて倍率を抑える要因になる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点でこの会社を見ると、北陸3県・北海道という地元で築いた顧客基盤の厚さは簡単には崩れない堀であり、短期金利の上昇という業界全体への構造的な追い風が、資本効率を長期にわたって押し上げる土台になる。一方で、2行の地域基盤が隣接せず、広域再編に加わらない単独路線は、再編に乗ったグループが得られるであろう規模の経済・システム統合効果を取りに行かない選択であり、再編先進グループに対して経費率・ROEの改善ペースで劣後し続けるリスクを抱える。経営が資本を上手に配分しているかという点では、自社株買い・消却を積極化し総還元性向を引き上げる姿勢は評価できるが、政策保有株・地方債という評価差額金への依存度の高さは、資本の質という点で安全域を狭める要因である。ラピダスの千歳進出・能登復興需要という固有の追い風は上振れ材料だが、いずれも一巡すれば平常の人口減少基調に戻る性質のものであり、永続する成長ドライバーとは見ない方がよい。資本コストをわずかに下回る程度のROEにとどまる中立の見通しに対し、今の値段はやや先の改善を織り込みすぎている面があり、安全域は広いとは言えない。
何で稼ぐ会社か
事業は持株会社の下、北陸銀行と北海道銀行という2つの地域銀行が独立したブランドを維持しながら、それぞれの地元で法人・個人向けの貸出・預金業務を担う構造である。北陸銀行は富山・石川・福井の3県で預金・貸出金ともにトップシェアを持ち、2026年3月期の貸出金残高は6.17兆円・預金8.26兆円、純利益385.57億円(前期比+59.5%、過去最高)と、2行の中で収益の中核を担う。北海道銀行は道内シェアで北洋銀行に次ぐ2位(資金量シェアでは北洋37.5%に対し道銀はそれに次ぐ規模)で、2026年3月期の貸出金残高4.50兆円・預金6.13兆円、純利益178.96億円(前期比+49.8%、20年ぶりの高水準)である。両行とも、短期金利の上昇局面で変動金利貸出の金利が先行して上がり、預金金利の追随が遅れることで利ざやが拡大する「金利のある世界」の恩恵を直接受ける構造にある。非資金利益の面では、投資信託・保険等の資産運用コンサルティング、法人向けのM&A・事業承継アドバイザリーを手掛ける専業子会社「ほくほくコンサルティング」(2024年設立)が、両行の顧客基盤を活かした手数料収入の強化を担う。グループ自体は2004年に北陸銀行・北海道銀行の経営統合(持株会社化)で発足し、現在両行とも100%子会社である。隣接しない2つの地域基盤を持つという構造上、システムの共通化・店舗統廃合による規模の経済は、同一地域内で再編する地銀グループに比べて働きにくい面がある。
優良さと弱いところ
優良さの中心は、北陸3県・北海道という各地域での圧倒的な顧客基盤の厚さにある。北陸銀行の3県シェア首位、北海道銀行の道内2位という立地は、地元企業・個人にとって乗り換えコストの高いメインバンク関係を築きやすい堀になっている。一方で、2行の基盤が地理的に隣接せず、県境を越えた広域再編が進む他の地銀グループ(千葉銀行と千葉興業銀行、しずおかフィナンシャルグループと名古屋銀行の経営統合など)とは異なり、ほくほくFGは単独で2行体制を維持する路線を取っており、システム統合や店舗効率化による規模の経済を追加で取り込みにくい。資本効率はROE8.1%まで急改善したが、単純自己資本比率4.3%という資本の薄さは銀行として通常の範囲にあるものの、政策保有株・地方債の評価差額金に自己資本の一部が依存する構造は、金利上昇や株式市場の下落時に資本を圧迫するリスクを抱える。経営面では、2026年2月に過去最大60億円の自社株買いを発表し2026年3月期累計で過去最高の約100億円規模まで買付・消却を進め、総還元性向を2028年3月期までに40%に引き上げる方針を示すなど、資本政策の規律は改善傾向にある。ラピダスの千歳進出・能登復興需要という固有の追い風はあるが、人口減少が全国平均より速い地域を基盤とする構造的な制約は変わらない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
銀行業は、長い低金利時代を経て2024年の政策金利解除以降「金利のある世界」の初期段階にある。短期金利が2%へ向かう過程で、変動金利貸出の金利が先行して上がり、預金金利の追随(預金ベータ)が遅れることで、業界全体として預貸ざやが構造的に拡大する局面にある。地方銀行にとっては、貸出の「量」は人口減少・地域経済の縮小で伸びが鈍い一方、利ざやの拡大がそれを補う構図が中心シナリオになる。地方銀行最大の構造要因は再編であり、「1県1行」体制への収束が進む中、千葉銀行と千葉興業銀行、しずおかフィナンシャルグループと名古屋銀行がそれぞれ経営統合で基本合意するなど再編ドミノが進行している。これに対しほくほくFGは、北陸3県・北海道という隣接しない2つの地域で単独路線を取り続けており、広域再編の波に直接は乗っていない。北海道では、千歳市へのラピダス進出という地域固有の追加需要があり、官民出資2676億円のうち道内からは北洋銀行・北海道銀行・北海道電力が参加、北洋銀行頭取は「ラピダス関連の投融資は増加ペースが速まる」と述べており、半導体クラスターの立地に伴う企業向け投融資の拡大が北海道銀行セグメントの上振れ要因になる。ただし道内では北洋銀行が資金量・貸出金ともに最大手で、北海道銀行はそれに次ぐ2位という競争環境にあり、ラピダス需要の取り込みでも競合が働く。北陸では能登半島地震(2024年1月)の復興需要が一時的な押し上げ要因になったが、これも一巡すれば平常の緩やかな人口減少基調に戻る。信用コストは歴史的低水準からの反転リスクを抱えており、景気循環や復興需要の一巡で正常化方向に動く可能性がある。
資本政策と M&A
総還元性向は2028年3月期までに40%を目途に引き上げる方針で、2026年2月に過去最大60億円の自社株買いを発表し、2026年3月期累計で過去最高の約100億円規模の買付・消却(2026年5月・11月にも消却発表)を進めている。政策保有株式についても他の地銀同様、段階的な縮減方針を取っているとみられるが、具体的な縮減目標の数値は確認できていない。M&Aでは、法人向けのM&A・事業承継支援を担う専業子会社「ほくほくコンサルティング」を2024年に設立し、顧客基盤を活かしたアドバイザリー収益の拡大を進めている。グループ自体が再編のターゲットになるという具体的な報道は確認できず、統計モデルが示す10年以内のTOB・買収確率16.2%は、具体的な観測ではなく推定値として受け止めるべきである。2026年10月1日付で1株を10株にする株式分割を実施し、株主優待制度も見直している。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
北陸銀行の3県シェア首位・北海道銀行の道内2位という顧客基盤の厚さに、短期金利2%への上昇という業界全体の構造的な追い風が重なる。預金ベータが40%にとどまる限り、変動金利貸出の金利が先行して上がる分だけ利ざやは確実に広がり、2026年3月期にすでに北陸+59.5%・北海道+49.8%という急速な増益を記録した勢いは、金利が定常化するまでの数年間続く余地がある。北海道では千歳市へのラピダス進出に伴う官民出資・関連投資が本格化し、半導体クラスターの立地は向こう10年の企業向け投融資需要を押し上げる構造要因になる。北陸では能登半島地震の復興需要が当面の押し上げ要因として働き、ほくほくコンサルティングによるM&A・事業承継アドバイザリーの強化も非資金利益を広げる。資本政策では、過去最大規模の自社株買い・消却を連続して実施し、総還元性向を40%まで引き上げる方針を示すなど、資本効率の改善に対する経営の意欲も明確である。自己資本比率10%台という中期計画の目標が達成されれば、資本の質も改善し、ROEが資本コストを上回る幅が広がるにつれてPBRが1倍を上回る水準へ再評価される可能性がある。再編に加わらない単独路線も、裏を返せば独自ブランドと地元の意思決定の速さを維持できるという強みであり、ラピダス特需を独自に取り込める立場にある。
慎重な見方
北陸3県・北海道という基盤は、どちらも全国平均を上回るペースで人口が減少している地域であり、貸出の「量」の伸びは年率0〜1%台にとどまる構造的な制約から逃れられない。2026年3月期の急速な増益は、金利上昇という一時的なフェーズの恩恵が大きく、短期金利が2%で定常化した後は利ざや拡大のペースも鈍る。北海道では北洋銀行が資金量・貸出金ともに道内最大手であり、ラピダス関連の投融資需要も競合との取り合いになる。ラピダスの投資計画自体も、半導体産業の投資サイクルや採算の不確実性を抱え、計画通りに進む保証はない。能登半島地震の復興需要も一時的なもので、一巡すれば北陸の貸出は平常の緩やかな人口減少基調に戻る。最大の構造的な弱みは、県境を越えた広域再編から距離を置く単独路線である。千葉銀行・千葉興業銀行、しずおかフィナンシャルグループ・名古屋銀行のように再編に動くグループはシステム統合・店舗統廃合で経費率を下げられるが、ほくほくFGは隣接しない2行体制のまま単独で規模の経済を追求せざるを得ず、再編先進グループに対して経費率・ROEの改善ペースで劣後し続ける可能性がある。単純自己資本比率4.3%という資本の薄さと、政策保有株・地方債の評価差額金への依存は、金利上昇や株式市場の下落時に資本を圧迫しやすく、信用コストが歴史的低水準から反転すれば、ROEの改善は腰折れしやすい。
どちらに重みを置いたか
短期金利上昇という業界全体の追い風は確実性が高く、北陸・北海道ともに実際に大幅増益を記録済みという事実は楽観側の主張を支える。一方で、人口減少という構造的な制約と、広域再編から距離を置く単独路線という慎重な見方も、他の地銀グループとの比較で説得力を持つ。両者を踏まえ、中立シナリオはROEが資本コストをわずかに下回る緩やかな改善にとどまると見て確率を最も重く置き、ラピダス・能登復興という固有の上振れ材料を楽観側にやや厚めに配分した。悲観は、信用コストの反転と資本の薄さを踏まえリーマン級の確率をやや厚めに見ている。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 884 円1.05 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 266 円3,167 億円)。 今の値に割り戻すと 568 円6,762 億円、今との差 −20.8%、 期待の年率 +4.8%(資本コスト 8.5%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 1,346 円1.60 兆円 | 374 円4,449 億円 | +139.9% | +9.1% | 172 円2,048 億円 |
| やや楽観 | 23% | 1,150 円1.37 兆円 | 324 円3,857 億円 | +105.6% | +7.5% | 339 円4,038 億円 |
| 中立 | 30% | 988 円1.18 兆円 | 273 円3,254 億円 | +76.0% | +5.8% | 378 円4,507 億円 |
| やや悲観 | 23% | 709 円8,448 億円 | 211 円2,519 億円 | +28.5% | +2.5% | 212 円2,522 億円 |
| 悲観 | 14% | 179 円2,131 億円 | 168 円2,000 億円 | −51.6% | −7.0% | 49 円578 億円 |
| 加重平均 | 100% | 884 円1.05 兆円 | 266 円3,167 億円 | +60.4% | +4.8% | 1,150 円1.37 兆円 |
今の株価時価総額 717 円8,537 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 10% 楽観:ラピダス特需が構造的な成長ドライバーに定着 利益 1,251 億円 · PER 12.8 倍 · 株価時価総額 1,346 円1.60 兆円
10年の間に短期2%・長期3%が定着し、北陸・北海道ともに貸出利ざやの拡大が中立シナリオを上回る水準で持続する。千歳のラピダス関連の半導体クラスターは稼働後も関連企業の集積が続き、北海道銀行の企業向け貸出は構造的に拡大する成長ドライバーとして定着する。北陸銀行は能登半島地震の復興需要が一巡した後も、3県での圧倒的なシェアを背景に安定した利ざや拡大を続け、ほくほくコンサルティングのM&A・事業承継アドバイザリーも地域の事業承継需要の高まりを取り込んで拡大する。信用コストは景気循環を経てもならした低水準にとどまる。自社株買い・消却は継続的に進み、総還元性向は50%前後まで引き上げられ、資本の質改善とROEの持続的な上昇が評価され、PBRは1.6倍台まで再評価される、地方銀行として上位に位置づけられる10年になる。
- 北陸銀行:数量 8.8(貸出金残高(兆円))× 価格 1.7%(貸出利ざや(%))→ 売上 1,494 億円・営業利益 1,091 億円。残高8.8兆円(名目)×利ざや1.70%、利益率73%
- 北海道銀行:数量 7.0(貸出金残高(兆円))× 価格 1.5%(貸出利ざや(%))→ 売上 1,021 億円・営業利益 653 億円。残高7.0兆円(名目)×利ざや1.46%、利益率64%・ラピダス特需が定着
- 非金利収益・資産運用:数量 5.7(預かり資産残高+アドバイザリー取扱高(兆円))× 価格 0.9%(実効手数料率等(%))→ 売上 485 億円・営業利益 223 億円。預かり資産等5.7兆円×率0.85%、利益率46%
倍率:事業の純利益 1,251 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.4% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.8 倍。全体の PER 12.82 倍、時価総額 16,035 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体クラスターの集積効果が10年続き、資本効率の再評価が進む確率。悲観側とおおむね対称に置いた。
やや楽観 23% やや楽観:ラピダス・非資金利益がやや強めに伸びる 利益 1,117 億円 · PER 12.3 倍 · 株価時価総額 1,150 円1.37 兆円
10年の間に金利は定常化し、北陸・北海道の貸出利ざやの拡大は中立シナリオよりやや強めに持続する。千歳のラピダス関連投資は計画どおり地域経済への波及効果をもたらし、北海道銀行の企業向け貸出をやや上振れさせる。北陸銀行は3県でのシェア首位を維持しながら、ほくほくコンサルティングの非資金利益もNEXT STAGEの目標線をやや上回るペースで拡大する。信用コストは景気循環を経てならした水準に戻る。自社株買い・消却と総還元性向45%前後への引き上げが続き、資本の質改善とROEの改善がやや強めに進む、標準的な10年の強めのケースになる。
- 北陸銀行:数量 8.5(貸出金残高(兆円))× 価格 1.7%(貸出利ざや(%))→ 売上 1,418 億円・営業利益 1,014 億円。残高8.5兆円(名目)×利ざや1.66%、利益率71.5%
- 北海道銀行:数量 6.7(貸出金残高(兆円))× 価格 1.4%(貸出利ざや(%))→ 売上 934 億円・営業利益 574 億円。残高6.7兆円(名目)×利ざや1.40%、利益率61.5%
- 非金利収益・資産運用:数量 5.4(預かり資産残高+アドバイザリー取扱高(兆円))× 価格 0.8%(実効手数料率等(%))→ 売上 446 億円・営業利益 196 億円。預かり資産等5.4兆円×率0.82%、利益率44%
倍率:事業の純利益 1,117 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.3% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.3 倍。全体の PER 12.26 倍、時価総額 13,698 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:金利定常化後も地域の構造改善がやや強めに続く確率。
中立 30% 中立:金利は定常化し単独路線のまま緩やかに改善 利益 1,001 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 988 円1.18 兆円
10年の間に短期2%・長期3%が定着し、北陸・北海道の貸出利ざやはNEXT STAGEの目標線に沿って緩やかに拡大する一方、両地域とも人口減少で貸出の量そのものの伸びは鈍いままである。千歳のラピダス関連投資は地域経済への波及効果をもたらすが、北洋銀行との競合も続き、北海道銀行の上振れ効果は限定的にとどまる。北陸銀行は能登半島地震の復興需要が一巡した後、3県でのシェア首位を維持しながら平常の緩やかな成長に戻る。広域再編から距離を置く単独路線のまま、システム統合による規模の経済は追加で取り込めない。信用コストは景気循環を1〜2周してならした水準に戻る。自社株買い・消却と総還元性向40%台への引き上げは続き、自己資本比率10%台という目標も達成されるが、資本の積み増しとの綱引きでROEの改善は資本コストをわずかに上回る程度にとどまる、特別な上振れも下振れもない10年になる。
- 北陸銀行:数量 8.3(貸出金残高(兆円))× 価格 1.6%(貸出利ざや(%))→ 売上 1,343 億円・営業利益 940 億円。残高8.3兆円(名目)×利ざや1.62%、利益率70%
- 北海道銀行:数量 6.4(貸出金残高(兆円))× 価格 1.3%(貸出利ざや(%))→ 売上 851 億円・営業利益 511 億円。残高6.4兆円(名目)×利ざや1.34%、利益率60%
- 非金利収益・資産運用:数量 5.2(預かり資産残高+アドバイザリー取扱高(兆円))× 価格 0.8%(実効手数料率等(%))→ 売上 414 億円・営業利益 174 億円。預かり資産等5.2兆円×率0.80%、利益率42%
倍率:事業の純利益 1,001 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.4% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 11,768 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:短期2%・長期3%が定着し、人口減少と広域再編から距離を置く路線が続く、最も重みを置く中心シナリオ。
やや悲観 23% やや悲観:単独路線の経費率改善が鈍く人口減が響く 利益 845 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 709 円8,448 億円
10年の間に金利は定常化するが、北陸・北海道の貸出利ざやの拡大は中立シナリオよりやや遅れ、北陸3県・北海道の人口減少が想定より速く進んで貸出の量の伸びも鈍る。千歳のラピダス関連投資の波及効果は想定より限定的にとどまり、北海道銀行では北洋銀行との競合も厳しさを増す。北陸銀行でも能登半島地震の復興需要が一巡した後、平常の人口減少基調への戻りが想定より速い。広域再編に加わらない単独路線のまま経費率の改善も鈍く、信用コストも歴史的低水準から想定よりやや強めに反転する。資本政策は維持されるが、ROEの改善は資本コストにわずかに届かない水準にとどまる、やや弱めの10年になる。
- 北陸銀行:数量 8.0(貸出金残高(兆円))× 価格 1.6%(貸出利ざや(%))→ 売上 1,262 億円・営業利益 833 億円。残高8.0兆円(名目)×利ざや1.57%、利益率66%
- 北海道銀行:数量 6.0(貸出金残高(兆円))× 価格 1.3%(貸出利ざや(%))→ 売上 772 億円・営業利益 440 億円。残高6.0兆円(名目)×利ざや1.28%、利益率57%
- 非金利収益・資産運用:数量 4.9(預かり資産残高+アドバイザリー取扱高(兆円))× 価格 0.8%(実効手数料率等(%))→ 売上 379 億円・営業利益 144 億円。預かり資産等4.9兆円×率0.77%、利益率38%
倍率:10年後のROE7.1%(純利益845億円÷自己資本11,925億円)は k8.5% 以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、PERは1÷k=11.8倍までが上限。競争や統合の遅れで稼ぐ力が鈍る姿。上限の8.5割に置き、10.00倍。今の自己資本7,275億円に対する倍率は1.16倍。稼ぐ力から出した値で、自己資本の何割という置き方はしていない。
確率:再編に加わらない路線のまま構造的な制約が強まる確率。
悲観 14% 悲観:再編に乗れず収益力が資本コストを下回り続ける 利益 240 億円 · PER 8.9 倍 · 株価時価総額 179 円2,131 億円
北陸3県・北海道の人口減少がさらに加速し、貸出需要そのものが縮小する一方、広域再編に加わらない単独路線のまま経費率の改善が進まず、収益力が資本コストを下回り続ける構造的な負け筋に陥る。北海道ではラピダス関連の投資計画が当初の期待ほど広がらず、北洋銀行との競合でシェアもじり貧になる。北陸でも能登半島地震の復興需要が一巡した後、新たな成長ドライバーが見つからない。信用コストも景気循環を経て恒常的に高めの水準で推移する。債券と政策保有株の評価損が重なり、自己資本は利益ほどには積み上がらない。減った利益のもとで配当は守るが、還元は10年で純利益の半分ほどにとどまる。ROEは資本コストを大きく下回って停滞する、再編に乗れなかった地方銀行の10年先の姿である。
- 北陸銀行:数量 6.5(貸出金残高(兆円))× 価格 0.9%(貸出利ざや(%))→ 売上 585 億円・営業利益 263 億円。残高6.5兆円(人口減加速で縮小)×利ざや0.90%、利益率45%
- 北海道銀行:数量 4.3(貸出金残高(兆円))× 価格 0.7%(貸出利ざや(%))→ 売上 301 億円・営業利益 105 億円。残高4.3兆円×利ざや0.70%、利益率35%・シェアじり貧
- 非金利収益・資産運用:数量 3.0(預かり資産残高+アドバイザリー取扱高(兆円))× 価格 0.6%(実効手数料率等(%))→ 売上 180 億円・営業利益 54 億円。預かり資産等3.0兆円×率0.60%、利益率30%
倍率:10年後のROE3.0%(純利益240億円÷自己資本8,000億円)は k8.5% 以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、PERは1÷k=11.8倍までが上限。構造的に負けて優良でなくなった姿。上限の7.6割に置き、8.89倍。今の自己資本7,275億円に対する倍率は0.29倍。稼ぐ力から出した値で、自己資本の何割という置き方はしていない。
確率:10年の構造的な負け筋(再編から脱落し規模の経済が働かず収益力が資本コストを下回り続ける)を、地方銀行の中でも広域再編に加わらない単独路線であることを踏まえやや厚めに置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
北陸銀行
富山・石川・福井3県で預金・貸出ともにトップシェアを持つ法人・個人向け貸出業務。
| 数量貸出金残高(兆円) | 価格貸出利ざや(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 6.2 | 1.2% | 753 | 500 |
| 10 年後 中立 | 8.3 | 1.6% | 1,343 | 940 |
取り方:2026年3月期の貸出金残高6.17兆円に、単体純利益385.57億円から逆算した概算利ざや1.22%を当てた。利益率66.7%は単体純利益から逆算。2026-10-18の直し:預金ベータ40%(地銀共通)。残高は名目で地元の人口減を入れて中立年率3.0%で伸ばす。(点検 2026-10-19:数量は名目で置き、率に物価は掛けていない。中立の率は10年で+33%(物価倍率1.34倍の掛け算ではなく、事業・金利の置き方)。二重がけなし)
北海道銀行
道内シェア2位(北洋銀行に次ぐ)の法人・個人向け貸出業務。千歳市のラピダス進出に伴う投融資需要の受け手。
| 数量貸出金残高(兆円) | 価格貸出利ざや(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 4.5 | 0.9% | 400 | 230 |
| 10 年後 中立 | 6.4 | 1.3% | 851 | 511 |
取り方:2026年3月期の貸出金残高4.50兆円に、単体純利益178.96億円から逆算した概算利ざや0.89%を当てた。北洋銀行との競合で北陸銀行より利ざや・利益率がやや低い。2026-10-18の直し:預金ベータ40%。残高は名目で中立年率3.5%(ラピダス関連投資のやや強めの伸びを含む)。(点検 2026-10-19:数量は名目で置き、率に物価は掛けていない。中立の率は10年で+51%(物価倍率1.34倍の掛け算ではなく、事業・金利の置き方)。二重がけなし)
非金利収益・資産運用
投資信託・保険等の資産運用コンサルティングと、ほくほくコンサルティングによるM&A・事業承継アドバイザリー等の非資金利益。
| 数量預かり資産残高+アドバイザリー取扱高(兆円) | 価格実効手数料率等(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.5 | 0.9% | 300 | 110 |
| 10 年後 中立 | 5.2 | 0.8% | 414 | 174 |
取り方:両行の預かり資産残高とアドバイザリー取扱高の合計を3.5兆円、実効手数料率を0.86%とおいた概算。預かり資産は名目で中立年率4.0%で伸ばす。手数料率は率なので物価では上がらず、デジタル化で緩やかに低下する分を含める。(点検 2026-10-19:数量は名目で置き、率に物価は掛けていない。中立の率は10年で-7%(物価倍率1.34倍の掛け算ではなく、事業・金利の置き方)。二重がけなし)
リスクと懸念
人口減少による量の制約
北陸3県・北海道とも人口減少が全国平均より速く、貸出の「量」の伸びは年率0〜1%台にとどまる構造的な制約がある。短期金利上昇による利ざや拡大は「価格」の押し上げにはなるが、地域経済そのものの縮小が続く限り、利ざや拡大だけで中長期の成長を支え続けるのは難しく、再編や広域展開への取り組みが遅れればこの制約がより重くのしかかる。
信用コストの反転
歴史的低水準にある与信費用が、景気循環の反転や能登半島地震の復興需要の一巡によって正常化方向に動くリスクがある。北陸3県・北海道の中小企業は規模が小さく、地域経済の局面変化の影響を受けやすいため、信用コストの反転のタイミングと規模が、10年の筋書きの振れ幅を大きく左右する要因になる。
政策保有株・地方債の評価リスク
自己資本の一部は、保有する政策保有株式・地方債のその他有価証券評価差額金(税引き後)に依存している。長期金利の上昇で保有債券の価格が下がったり、株式市場が下落すれば評価差額金が縮み、資本の質が低下する。単純自己資本比率4.3%という資本の薄さを踏まえると、この評価リスクはストレス時に自己資本比率10%台という中期目標の達成を遅らせる要因になりうる。
ラピダスの不確実性
千歳市への進出が決まったラピダスの半導体投資計画が、資金調達や採算の問題で遅延・縮小した場合、北海道銀行が期待する企業向け投融資需要の拡大が後ずれ・縮小する可能性がある。半導体産業自体が投資サイクルの影響を受けやすい業種であり、北海道銀行セグメントの成長見通しがラピダス単独の動向に左右されすぎる面がある。
地銀再編から距離を置くリスク
千葉銀行と千葉興業銀行、しずおかフィナンシャルグループと名古屋銀行のように県境を越えた広域再編が他グループで進む中、ほくほくFGは北陸・北海道という隣接しない2行体制の単独路線を続けている。再編先進グループがシステム統合・店舗統廃合で経費率を下げていく中、規模の経済を追加で取り込めず、経費率・ROEの改善ペースで劣後し続ける可能性がある。
2行体制の非効率
北陸銀行と北海道銀行という隣接しない2つの地域基盤を持つ構造上、2004年の経営統合から20年超を経ても両行は別ブランド・別システムのまま運営されている。同一地域内で店舗統廃合・システム統合を進める再編グループに比べ、経費率(OHR)の改善が構造的に進みにくく、NEXT STAGEが掲げるOHR40%台後半の実現ペースにも影響する。
資本の薄さ
単純自己資本比率4.3%というレバレッジの高さは銀行として通常の範囲だが、他の優良な地銀持株会社と比べても低めで、ストレス時の資本の脆さにつながりやすい。NEXT STAGEは自己資本比率10%台への改善を掲げるが、達成には純利益の内部留保と自社株買いのペースの綱引きが続き、還元の加速とのバランスが今後の資本政策を左右する。
今後の分かれ目
- 短期金利が計画より早く2%に到達する
- 利ざや拡大が前倒しになり、10年後のROEが中立シナリオを上回る方向に動く。
- ラピダスへの投資が加速し北海道の企業向け貸出が想定以上に伸びる
- 北海道銀行セグメントの成長が10年の楽観シナリオに近づく。
- 能登半島地震の復興需要が一巡し北陸の貸出が伸び悩む
- 北陸銀行の成長率が中立シナリオより下振れる。
- 大手地銀グループ(SBI系・りそな系等)から広域再編の打診が来る
- 再編プレミアムを伴う上振れ要因になる。
- 政策保有株・地方債の評価損が金利上昇で拡大する
- 自己資本の圧迫で自社株買い・還元の計画が後ずれする。
- 総還元性向40%の計画が前倒しで達成される
- 資本の質が改善し、ROEの改善ペースが中立シナリオより速まる。
- 北海道銀行が北洋銀行とのシェア差を縮められない
- 道内での価格競争力が弱まり、利ざや拡大のペースが鈍る。
見ておくもの
- 北陸銀行・北海道銀行それぞれの貸出残高・利ざやの四半期開示
- NEXT STAGE中期経営計画の進捗(2028年3月期ROE8.5%目標の達成度)
- ラピダス千歳工場の稼働・投資計画の進捗
- 自社株買い・消却の実施状況、総還元性向の推移
- 政策保有株式の縮減方針・開示
- 地銀再編(千葉・しずおか等)の動向とほくほくFGの対応
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価を見ずに決めた。楽観・やや楽観・中立は10年後のROEとk 8.5%(基本7.5%+quality)・g 4.0%から利益ベースの正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)の上限を出し、その8.7・8.4・9.0割に置いた(下限は1÷k=11.8倍。利ざや拡大とラピダス特需が人口減を補う)。やや悲観・悲観はROEがk以下なので、PERは1÷k=11.8倍が上限で、その8.5割・7.6割に置いた。悲観の利益は貸出の利ざやが競争で縮み与信費用が重い構造からROE約3%に置き、過去の底値や今の倍率は根拠にしていない。kが1%高い(9.5%)と10年の中立のPERは10.6倍から9.5倍ほどに下がる。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.17→12.82 倍・やや楽観 PER 10.22→12.26 倍・中立 PER 10.59→11.76 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β 0.76 × 5% + 規模 0.50%。基本7.5%に quality +1.0% を足して k 8.5%(決まり v2。β・規模は使わない。内訳と理由は quality_why)。銀行は預金が仕入れなので利払いの式は当てはめず、利ざやで扱う。個別のリスク(広域再編に加わらない単独路線)は k に足さず、確率と筋書きで表す。事業は傾いていないので上乗せ(extra)は 0。同じ地方銀行どうしで同じ物差しを使い、差は quality の4部品だけで出している。