結論
東京きらぼしフィナンシャルグループは、東京に本店を置く唯一の地方銀行グループだ。貸出は5.3兆円、預金は6.2兆円。筆者の結論は、稼ぐ力に比べて今の値段はやや安い、というものだ。
今期は利ざやの拡大で純利益が424億円と3割伸びた。金利が上がる局面では、貸出の利息が先に増え、預金の利息は遅れて増える。この時間差が首都圏の中堅行には追い風になる。短期金利が2%で落ち着いたあとも、貸出の利ざやは今より広いままだと見る。
弱点は資本の薄さだ。東京都が持っていた公的資金400億円を2026年5月に返し、自己資本は約3,800億円まで減った。単純な自己資本比率は5%台で、還元に回せる余裕は大きくない。貸出の量で勝つ道も、メガバンクと信金・信組が並ぶ東京では細い。
もう一つの変数は再編だ。投資ファンドのありあけキャピタルが株の8%近くを持ち、社長も他行との統合を選択肢から外していない。統合が実れば経費は下がるが、失敗すれば資本が痛む。筆者は再編への期待を値段に織り込まず、事業が稼ぐ力だけで測っている。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この銀行を「利ざやが追い風の中堅行」として持てるかが問題になる。
良い点は、東京という人口の減りにくい市場に、他に代わりのない地銀として立っていることだ。金利が上がるほど稼ぎが増える構造も、資本をあまり食わずに利益が伸びる点で好ましい。経営は、公的資金を3年早く返すなど、自ら課題を片づける動きを見せた。
気になる点は三つある。自己資本が薄く、不況で与信費用が増えたとき、配当を削る余裕が小さいこと。東京では値段を自分で決められないこと。そして、株主の働きかけで再編の話が進んだとき、払う側になるのか、払われる側になるのかが見えないことだ。
筆者は、稼ぐ力の見立てを保守的にし、再編の期待は価値に入れない。その上で、今の値段は適正の範囲で、安全域は小さい、という見方だ。強い堀があるわけではないので、確率の重みは中立に置いた。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心はきらぼし銀行の貸出だ。東京都内の中小企業、不動産業、事業承継を迎えた会社が主な取引先になる。貸出残高は5.3兆円で、預金の85%ほどを貸出に回している。
個人向けは住宅ローンを中心とする貸出だ。首都圏は人口が減りにくく、地方の銀行より需要が崩れにくい。ただし住宅ローンは競争が激しく、利ざやは薄い。
銀行の外には、証券・コンサルティング・フィンテックなどのグループ会社がある。デジタル専業のUI銀行も抱える。投資信託や保険の販売、法人向けの手数料が、利ざやに次ぐ第2の柱だ。
預金のうち貸出に回らない分は、国債や地方債などで運用する。金利が上がれば運用益は増えるが、保有債券の評価損という逆風も同時に受ける。次期の中期経営計画では、グループ会社の機能の再編も検討されている。
成り立ちも押さえておきたい。2018年に東京都民銀行、八千代銀行、新銀行東京の3行が合併して生まれた。旧3行の取引先は都内に広く散らばっており、これが店舗網と顧客基盤の土台になっている。一方で、旧行ごとに仕組みや文化が違い、本部と店舗の効率化は今も途中にある。会社が掲げるコア業務の経費率(OHR)は50%台半ばで、都市型の銀行としては高い水準だ。
優良さと弱いところ
堀はある。ただ、広くはない。
東京都内に最大級の店舗網を持ち、東京に本店を置く唯一の地銀というブランドがある。社長は、合併後も東京でのシェアは1割に届かないと語ってきた。顧客の中心は、メガバンクが手を伸ばしにくい中堅・中小企業と、手厚い対応を望む個人だ。筆者は、ここで貸出金利に上乗せを取れることが強みだと見る。
資本の効率は急速に良くなった。ROEは10%に届き、第3次中計が掲げた7%台後半を超えている。ただし、金利上昇と薄い自己資本の掛け算でもある。自己資本が薄い銀行は、少ない利益でもROEが高く出る。
弱みは三つある。第一に、値段を自分で決められない。東京の貸出はメガバンク・信金・ネット銀行との競り合いで、金利は競争が決める。第二に、規模が小さく、システム投資の負担が重い。第三に、株主との関係が不安定だ。2026年6月の総会で、定款変更の賛成は67.75%と、特別決議の基準をわずかに上回っただけだった。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
銀行は「金利のある世界」の入り口にいる。短期金利が2%に向けて上がる間、変動金利の貸出はほぼそのまま利回りが上がり、預金は預金金利が付いていく分だけ遅れて上がる。この差が預貸ざやを広げる。短期2%・長期3%で落ち着けば、広がった利ざやは定着する。
東京の貸出市場は、全国で最も競争が厳しい。メガバンク3行が都内の取引の過半を握るとされ、信用金庫・信用組合も数多い。そこへネット銀行や、不動産ファンドなど銀行以外の貸し手も加わる。貸出残高は物価とともに伸びるが、利ざやを守るには、顧客ごとに事情に合わせた融資で応える力がいる。
首都圏は、人口が減りにくい数少ない地域だ。住宅ローンや事業承継の需要は、地方より底堅い。一方で、預金を集める競争も激しい。預金金利を上げて顧客をつなぎとめる必要があり、預金の付いていく割合が想定より高くなれば、利ざやの拡大は目減りする。
最後に再編だ。千葉銀行と千葉興業銀行、しずおかFGと名古屋銀行が統合で基本合意するなど、地銀の統合は加速している。首都圏で規模を取りたい銀行にとって、東京に拠点を持つきらぼしは数少ない相手になる。ただ、統合はシステムの統合費用が先に出て、効果は数年あとに出る。
資本政策と M&A
資本政策の山は越えた。東京都が出資していた第二種優先株400億円は、2026年5月に前倒しで取得・消却された。三井住友信託銀行が持つ第一種優先株150億円は普通株に転換され、同行は5月に市場で株を売り出している(新株の発行はない)。
その結果、公的資金はゼロになったが、自己資本は約400億円減り、次の中期経営計画の達成に向けた資本の積み増しが課題になった。普通株への還元は、償還の準備を優先してこれまでは控えめだった。今期の配当は前期比で4割増の計画で、還元の姿勢は変わりつつある。
もう一つの動きが株主だ。ありあけキャピタルは2026年6月に5%超、7月には約8%を保有した。同社は千葉興業銀行の株を買い増したあと千葉銀行に売却し、統合の道筋を付けた実績がある。社長は、他行との統合を検討の選択肢から排除しないと述べている。株主の圧力と薄い資本の間で、経営は難しい舵取りを迫られる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
金利上昇の恩恵は、きらぼしのような首都圏の中堅行にまっすぐ届く。貸出の大半は変動金利で、短期金利が1%から2%へ上がる間、預金金利は遅れて付いていく。今期の貸出利息は前期比で100億円以上増えたが、これは入り口にすぎない。利ざやの拡大はまだ途中だ。
自己資本が薄いことも、見方を変えれば強みになる。同じ利益でROEが高く出るので、貸出を増やす余力を使いやすい。公的資金の償還で、優先株の配当負担も消えた。普通株の取り分は純利益の増加以上に増える。
さらに、再編の選択肢がある。東京に拠点を持つ地銀は数が少なく、首都圏に出たい他行にとっては貴重な相手だ。ありあけキャピタルの動きも、その可能性を示す。統合が実れば、システムと本部の費用が下がり、東京の取引基盤が一段と厚くなる。
資産運用と法人手数料も伸びる。投資信託の残高は過去最高を更新し続けており、相続で都心へ集まる資産を取り込める。利ざやと手数料の両方が揃えば、10年後のROEは12%に届き、PBRも1倍を大きく超える。
慎重な見方
今期の純利益424億円は、一時的に追い風が重なった数字だ。会社自身が、来期は経常利益を3%減の586億円と見ている。貸出利息の伸びに、預金金利の上昇と経費の増加がすぐに追いつく。
東京では、貸出の金利は競争で決まる。メガバンクは大企業だけでなく中堅企業にも降りてきており、信金・信組・ネット銀行も加わる。きらぼしが東京で持つシェアは1割に届かず、価格を決める力はない。利ざやの拡大は、競合に取られるか、預金金利の引き上げで消える。
資本の薄さは致命傷にもなりうる。公的資金を返した今、単純な自己資本比率は5%台だ。景気が悪化して与信費用が増えたり、保有債券の評価損が出たりすれば、配当を削って資本を守るしかない。かつて新銀行東京を抱えた経験のある銀行として、信用リスクの怖さは軽く見られない。
再編も、良い話ばかりではない。統合の相手が見つからなければ、規模の小さな東京の銀行が単独で投資負担を抱える。総会で定款変更が薄氷で通ったことは、株主との信頼が揺らいでいる表れだ。アクティビストの提案が、資本や経営の計画をかき回す恐れもある。
どちらに重みを置いたか
金利の追い風と東京の底堅い需要という点では、強気の見方に分がある。一方、資本の薄さと価格を決められない弱みは、慎重な見方のほうが具体的だ。確率は、中立に3割を置き、楽観側をやや厚く、悲観側を1割余り残した。
悲観を軽くしなかった理由は、資本の薄さが景気の悪化と重なったときの傷の深さだ。楽観を大きくしなかった理由は、東京での価格競争が利ざやの拡大を目減りさせるからだ。両者を合わせて、ほぼ適正で、安全域は厚くない、という判断になる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,650 円7,586 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 830 円2,374 億円)。 今の値に割り戻すと 1,751 円5,011 億円、今との差 +19.2%、 期待の年率 +9.0%(資本コスト 8.3%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 4,175 円1.20 兆円 | 1,068 円3,057 億円 | +256.9% | +13.6% | 629 円1,801 億円 |
| やや楽観 | 24% | 3,571 円1.02 兆円 | 958 円2,743 億円 | +208.3% | +11.9% | 1,087 円3,111 億円 |
| 中立 | 30% | 3,006 円8,605 億円 | 857 円2,452 億円 | +163.0% | +10.2% | 1,159 円3,317 億円 |
| やや悲観 | 22% | 1,570 円4,495 億円 | 722 円2,067 億円 | +56.0% | +4.6% | 504 円1,444 億円 |
| 悲観 | 12% | 375 円1,073 億円 | 463 円1,324 億円 | −43.0% | −5.5% | 100 円288 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,650 円7,586 億円 | 830 円2,374 億円 | +136.9% | +9.0% | 3,480 円9,960 億円 |
今の株価時価総額 1,469 円4,205 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 12% 首都圏の再編で中核に座り、利ざやと手数料が噛み合う十年 利益 850 億円 · PER 14.1 倍 · 株価時価総額 4,175 円1.20 兆円
10年のうちに、首都圏の再編でひとつの中核に座る。きらぼしは信金や他行との統合に踏み出し、東京の店舗網と顧客基盤が一段と厚くなる。システムと本部機能が一本化され、費用の伸びは物価より低く抑えられる。
短期金利は2%で定着し、東京の中堅・中小企業向け貸出は、他行から借り換える需要を取り込んで伸びる。預貸ざやは広がったまま保たれる。資産運用では、都心へ集まる相続資産を取り込み、手数料収入が貸出と並ぶ柱に育つ。
与信費用は景気の山と谷を経ても、平均では低い水準に収まる。資本は十分に積み上がり、還元も厚くなる。株主との対話も落ち着き、東京唯一の地銀として評価が高まる、うまくいった十年だ。
- 法人貸出:数量 5.0(事業性貸出残高(兆円))× 価格 2.0%(貸出利ざや(預金調達差引後・%))→ 売上 967 億円・営業利益 638 億円。残高 5.0 兆円(名目)× 利ざや 1.95%
- 個人貸出:数量 2.9(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.6%(貸出利ざや(%))→ 売上 469 億円・営業利益 263 億円。残高 2.9 兆円 × 利ざや 1.60%
- 有価証券・市場運用:数量 2.4(運用残高(兆円))× 価格 0.9%(運用利回り-調達(%))→ 売上 211 億円・営業利益 169 億円。残高 2.4 兆円 × 運用ざや 0.88%
- 手数料・資産運用・グループ:数量 5.0(預かり資産+取扱高(兆円))× 価格 1.3%(実効手数料率(%))→ 売上 655 億円・営業利益 295 億円。預かり・取扱高 5.0 兆円 × 手数料率 1.30%
倍率:事業の純利益 850 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.9% が k 8.30% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.1 倍。全体の PER 14.06 倍、時価総額 11,951 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:首都圏の再編が実り、利ざやと手数料が噛み合う筋書き。再編の仕掛け人が株主にいるため、他の地銀より可能性は高いが、実現には統合の相手と費用の壁があり、確度は高くない。
やや楽観 24% 東京の貸出が伸び、統合の効果が着実に出る十年 利益 756 億円 · PER 13.5 倍 · 株価時価総額 3,571 円1.02 兆円
東京の貸出が着実に伸び、統合や機能の再編が、費用の面で効果を出す。きらぼしは大きな統合までは行かないが、グループ会社の再編とシステムの集約で、費用の伸びを物価より低く抑える。
短期金利が2%で定着し、法人・個人の貸出ざやは広がったまま保たれる。住宅ローンは競争が厳しいが、都内の根強い需要で量は物価並みに伸びる。手数料収入は預かり資産の増加で伸び、貸出に次ぐ柱になる。
与信費用は平均的な水準に落ち着く。還元は着実に増え、公的資金を返した後の資本も、利益で積み増せる。派手な上振れはないが、東京の中堅行として安定した利益を積み上げる十年だ。
- 法人貸出:数量 4.7(事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.9%(貸出利ざや(預金調達差引後・%))→ 売上 901 億円・営業利益 568 億円。残高 4.7 兆円 × 利ざや 1.90%
- 個人貸出:数量 2.9(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.6%(貸出利ざや(%))→ 売上 450 億円・営業利益 243 億円。残高 2.9 兆円 × 利ざや 1.58%
- 有価証券・市場運用:数量 2.4(運用残高(兆円))× 価格 0.9%(運用利回り-調達(%))→ 売上 202 億円・営業利益 162 億円。残高 2.4 兆円 × 運用ざや 0.86%
- 手数料・資産運用・グループ:数量 4.6(預かり資産+取扱高(兆円))× 価格 1.3%(実効手数料率(%))→ 売上 575 億円・営業利益 242 億円。預かり・取扱高 4.6 兆円 × 手数料率 1.25%
倍率:事業の純利益 756 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.8% が k 8.30% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.5 倍。全体の PER 13.52 倍、時価総額 10,221 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:利ざやが定着し、グループ再編の効果が出る筋書き。公的資金の返済や今期の増益という実績があり、楽観側のなかでは最も起こりやすい。
中立 30% 利ざやは定常化し、東京の中堅行として稼ぎ続ける十年 利益 666 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 3,006 円8,605 億円
10年のうちに短期金利2%・長期金利3%が定着し、貸出の利ざやは今より広い水準で安定する。東京の人口は減りにくいが、貸出の量は物価をやや上回る程度にとどまる。メガバンク・信金・ネット銀行との競り合いで、広がった利ざやの一部は預金金利の引き上げと値引きに消える。
手数料と資産運用は預かり資産とともに伸びるが、手数料率は緩やかに下がる。経費は物価と賃金の上昇で伸び、システム投資も続く。統合は大きなものはなく、グループ内の再編が中心になる。
与信費用は景気の山と谷を平均した水準に戻る。公的資金の償還で減った資本は利益で積み増し、還元も少しずつ増える。東京の中堅行として、可もなく不可もない稼ぎを続ける十年だ。
- 法人貸出:数量 4.5(事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.8%(貸出利ざや(預金調達差引後・%))→ 売上 834 億円・営業利益 500 億円。残高 4.5 兆円(名目)× 利ざや 1.85%、経費配分後の利益率 60%
- 個人貸出:数量 2.8(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.6%(貸出利ざや(%))→ 売上 432 億円・営業利益 225 億円。残高 2.8 兆円 × 利ざや 1.55%
- 有価証券・市場運用:数量 2.3(運用残高(兆円))× 価格 0.9%(運用利回り-調達(%))→ 売上 196 億円・営業利益 157 億円。残高 2.3 兆円 × 運用ざや 0.85%
- 手数料・資産運用・グループ:数量 4.1(預かり資産+取扱高(兆円))× 価格 1.2%(実効手数料率(%))→ 売上 497 億円・営業利益 189 億円。預かり・取扱高 4.1 兆円 × 手数料率 1.20%
倍率:事業の純利益 666 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.7% が k 8.30% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍。全体の PER 12.92 倍、時価総額 8,605 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:短期2%・長期3%が定着し、東京の中堅行として平均的な稼ぎを続ける中心の筋書き。強い堀があるとは言えないので、確率の重みは3割にとどめた。
やや悲観 22% 東京の競争が重く、利ざやが思ったほど残らない十年 利益 495 億円 · PER 9.1 倍 · 株価時価総額 1,570 円4,495 億円
東京の競争が重く、利ざやが思ったほど残らない。メガバンクは中堅企業向けの貸出へ降りてきて、ネット銀行は住宅ローンの金利で攻める。きらぼしは貸出の量を確保するために金利を譲り、預金金利も追随を迫られる。
貸出の量は物価に届かない伸びにとどまる。手数料は、競合との値引き競争と手数料率の低下で伸び悩む。システム統合や人件費の上昇で、経費は売上より速く増える。
統合の話は進まず、単独で投資負担を背負う。景気の後退で与信費用も一度は膨らむ。資本は積み上がりにくく、還元も増やせない。株主からの圧力が強まる一方、打てる手が少ない苦しい十年だ。
- 法人貸出:数量 4.2(事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.7%(貸出利ざや(預金調達差引後・%))→ 売上 707 億円・営業利益 382 億円。残高 4.2 兆円 × 利ざや 1.70%
- 個人貸出:数量 2.6(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.4%(貸出利ざや(%))→ 売上 364 億円・営業利益 167 億円。残高 2.6 兆円 × 利ざや 1.40%
- 有価証券・市場運用:数量 2.1(運用残高(兆円))× 価格 0.8%(運用利回り-調達(%))→ 売上 168 億円・営業利益 131 億円。残高 2.1 兆円 × 運用ざや 0.80%
- 手数料・資産運用・グループ:数量 3.6(預かり資産+取扱高(兆円))× 価格 1.2%(実効手数料率(%))→ 売上 414 億円・営業利益 137 億円。預かり・取扱高 3.6 兆円 × 手数料率 1.15%
倍率:10年後のROE7.7%(純利益495億円÷自己資本6,388億円)。ROEはk8.3%以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、PERは1÷k=12.0倍までが上限。9.5倍。上限の7.5割に置き、9.08倍。還元を会社の方針(45%)に合わせたため自己資本が厚くなった。
確率:東京の競争で利ざやが目減りし、統合も進まない筋書き。メガバンクの中堅開拓とネット銀行の攻勢は、すでに現実に起きており、起こりやすい。
悲観 12% メガとネットに挟まれ、統合も実らず稼ぐ力が細る十年 利益 165 億円 · PER 6.5 倍 · 株価時価総額 375 円1,073 億円
東京でメガバンクとネット銀行に挟まれ、統合も実らず、稼ぐ力が細る。きらぼしは貸出の金利競争に負け、優良な顧客を大手に取られ、残るのは採算の低い貸出ばかりになる。預金の流出を止めるために預金金利を上げ、利ざやは今より薄くなる。
10年のどこかで景気が大きく悪化し、中小企業の倒産が増えて与信費用が膨らむ。保有する債券と株式にも評価損が出て、薄い自己資本が傷つく。配当は削られ、資本を守る守りの経営になる。
アクティビストの提案や統合交渉は、条件が折り合わずに頓挫する。システムと人件費の負担だけが残り、収益力は資本コストを下回り続ける。東京唯一の地銀という看板が、価値を支えなくなった十年だ。
- 法人貸出:数量 3.4(事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.2%(貸出利ざや(預金調達差引後・%))→ 売上 403 億円・営業利益 141 億円。残高 3.4 兆円 × 利ざや 1.20%(競争と預金金利で利ざやが縮む)
- 個人貸出:数量 2.1(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 0.9%(貸出利ざや(%))→ 売上 187 億円・営業利益 56 億円。残高 2.1 兆円 × 利ざや 0.90%
- 有価証券・市場運用:数量 1.7(運用残高(兆円))× 価格 0.7%(運用利回り-調達(%))→ 売上 119 億円・営業利益 83 億円。残高 1.7 兆円 × 運用ざや 0.70%
- 手数料・資産運用・グループ:数量 2.8(預かり資産+取扱高(兆円))× 価格 1.0%(実効手数料率(%))→ 売上 280 億円・営業利益 56 億円。預かり・取扱高 2.8 兆円 × 手数料率 1.00%
倍率:10年後のROE3.8%(純利益165億円÷自己資本4,306億円)。ROEはk8.3%以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、PERは1÷k=12.0倍までが上限。6.5 倍に置いた。やや悲観の 9.5 倍より低い。構造的に負けて、収益力が資本コストを下回る姿。上限の5.4割に置き、6.5倍。還元を会社の方針(45%)に合わせたため自己資本が厚くなった。
確率:景気の悪化と資本の薄さが重なり、統合も失敗する筋書き。自己資本が薄く、株主との関係も不安定なため、悪い方向の傷が深くなりやすく、1割余りを置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
法人貸出
きらぼし銀行の事業性融資。都内の中小企業・不動産業向けと、都心のM&A・事業承継向けが中心。
| 数量事業性貸出残高(兆円) | 価格貸出利ざや(預金調達差引後・%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.2 | 1.4% | 448 | 246 |
| 10 年後 中立 | 4.5 | 1.8% | 834 | 500 |
取り方:貸出残高5.28兆円(2026年3月末、決算短信)のうち、事業性貸出を約6割の3.2兆円と推定した(開示の内訳ではない)。預金調達を差し引いた貸出の利ざやを1.4%と置いた。経費配分後の利益率55%で、4つのセグメントの利益の合計を経常利益605億円に合わせた。2026-10-18の直しの方針に沿い、預金ベータ(預金金利が政策金利に付いていく割合)は40%とし、10年で変動金利の貸出のざやが広がる分を価格に入れた。 【2026-10-19 確認】数量は名目、率は物価を掛けていない(率は金利・手数料などの事業の理由でだけ動かす)。
個人貸出
住宅ローン・アパートローン・カードローンなど個人向けの貸出。
| 数量個人向け貸出残高(兆円) | 価格貸出利ざや(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.1 | 1.2% | 239 | 115 |
| 10 年後 中立 | 2.8 | 1.6% | 432 | 225 |
取り方:残りの約4割を個人向け貸出2.08兆円と推定した(開示の内訳ではない)。住宅ローン中心で競争が厳しいため利ざやは1.15%と、事業性より薄く置いた。経費配分後の利益率は48%。預金ベータ40%で、10年のざやの広がりは事業性よりやや小さくした。 【2026-10-19 確認】数量は名目、率は物価を掛けていない(率は金利・手数料などの事業の理由でだけ動かす)。
有価証券・市場運用
国債・地方債・外債・投信などの運用と市場取引。預金のうち貸出に回らない分の運用先。
| 数量運用残高(兆円) | 価格運用利回り-調達(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.8 | 0.8% | 144 | 115 |
| 10 年後 中立 | 2.3 | 0.9% | 196 | 157 |
取り方:預金のうち貸出に回らない分と市場運用で、国債・地方債・外債・投資信託などの運用残高を1.8兆円、運用利回りから調達コストを引いた運用ざやを0.8%と推定した(開示の内訳ではない)。利益率は経費が小さいため80%。金利が上がれば再投資の利回りは上がるが、預金金利も付いていくため、10年のざやの広がりは小さく置いた。 【2026-10-19 確認】数量は名目、率は物価を掛けていない(率は金利・手数料などの事業の理由でだけ動かす)。
手数料・資産運用・グループ
投信・保険の販売、法人の手数料、証券・信託・リース・キャピタルなどグループ会社の収益。
| 数量預かり資産+取扱高(兆円) | 価格実効手数料率(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.8 | 1.3% | 364 | 127 |
| 10 年後 中立 | 4.1 | 1.2% | 497 | 189 |
取り方:投資信託・保険の預かり資産、法人向けの手数料取引、証券・コンサルティング・リースなどグループ会社の取扱高を合わせて2.8兆円、実効手数料率を1.3%と推定した(開示の内訳ではない)。2026年3月期は手数料収入が約46億円増えた(決算短信)。預かり資産はお金の量なので名目で伸び、手数料率はデジタル化と低コスト商品の広がりで緩やかに下がるとした。利益率は35%と、人件費の比重が高いため低い。 【2026-10-19 確認】数量は名目、率は物価を掛けていない(率は金利・手数料などの事業の理由でだけ動かす)。
リスクと懸念
資本の薄さと与信費用
公的資金を返した今、単純な自己資本比率は5%台だ。景気が悪化して与信費用が増え、保有債券に評価損が出れば、配当を削って資本を守るしかない。薄い資本は、好況ではROEを押し上げ、不況では傷の深さになる。
東京での価格競争
東京はメガバンク・信金・信組・ネット銀行が重なる最も競争の厳しい市場だ。きらぼしのシェアは1割に届かず、貸出金利を自分で決められない。利ざやの拡大分が、競合への値引きと預金金利の引き上げで目減りする恐れがある。
預金金利の追随と預金流出
短期金利が2%まで上がる間、預金金利が付いていく割合が想定を超えれば、利ざやの拡大は小さくなる。預金を守るための金利引き上げは、都内のように乗り換えの選択肢が多い市場で起きやすい。
株主との関係と再編の不確実さ
2026年6月の総会で、定款変更の賛成率は67.75%と、特別決議の基準をわずかに上回っただけだった。ありあけキャピタルは約8%を持ち、資本政策や再編の提案がありうる。統合の相手や条件によっては、価値を壊す再編も起こりうる。
保有債券・株式の評価損
預金のうち貸出に回らない分は、国債・地方債・外債などで運用する。金利が上がる局面では債券の評価損が出て、薄い自己資本を直接削る。含み損の大きさは、金利が落ち着くまで資本の余裕を左右する。
システム投資と人件費の増加
物価と賃金が毎年3%上がる世界では、人件費とシステムの維持費も毎年同じペースで増える。規模の小さい銀行は、この負担を薄く広く分けられない。デジタル専業のUI銀行の育成にも先行投資がかかる。
今後の分かれ目
- 短期金利が2%に向けて計画より速く上がり、預金金利の追随が遅いまま推移したら
- 貸出利ざやの拡大が想定より早く出るので、楽観側の確率を上げてよい。決算の貸出利回りと預金利回りの差で確かめる。
- 東京都内の貸出利ざやが、メガバンクの攻勢で縮み始めたら
- 価格を決める力が弱いという見方が裏づけられる。やや悲観・悲観側の確率を上げ、利ざやの拡大幅を下方修正する。
- 他行や信金との統合が正式に発表され、統合比率や費用が明らかになったら
- 統合の相手が優良で費用が見合うなら楽観側へ、きらぼしが薄まる形なら中立の価値を見直す。システム統合の費用と時期が分かれ目になる。
- 景気が悪化して与信費用が急増し、配当が削られたら
- 資本の薄さが現実の傷になる。悲観側へ重みを移し、自己資本比率の水準が回復するまでは中立の確率を下げる。
- 次の中期経営計画で、自己資本比率の目標と還元の方針が示されたら
- 目標が高く還元が低ければ、資本の積み増しに時間がかかる。目標が現実的で還元が厚ければ、中立の価値を押し上げる。
- ありあけキャピタルの保有が1割を超え、株主提案を出したら
- 経営の自由度が下がり、再編が前倒しになる。結果が優良な相手との統合なら楽観側、経営の混乱を招くなら悲観側に重みを移す。
見ておくもの
- 貸出利回りと預金利回りの差(預貸ざやの推移)
- 東京都内の貸出残高と、メガバンクへの借り換え状況
- 与信費用と保有債券の評価損益
- 自己資本比率と、次の中期経営計画(2027年春公表予定)の資本・還元の目標
- ありあけキャピタルの保有比率と、統合・再編の発表
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価を見ずに決めた。楽観・やや楽観・中立は、10年後のROEとk8.3%(基本7.5%+quality+0.8%)・g4.0%から、利益ベースの正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)の上限を出し、その9.5・9.2・9割に置いた。ROEがkを超えるので、中立の下限は1÷k=12.0倍とした。やや悲観・悲観は、稼ぐ力と今の自己資本から置き、悲観は稼ぐ力(純利益÷k)に ROE÷k を掛けて目減りさせた 6.5 倍に置いた(やや悲観の 9.5 倍より低い)。今の値段は、今期の純利益424億円の10.5倍で、10年の筋書きの結果とは独立に置いた。リース会計(新リース会計基準)は、店舗を借りる影響が銀行では小さく、10年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.36→14.06 倍・やや楽観 PER 12.43→13.52 倍・中立 PER 11.63→12.92 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%にquality+0.8%を足してk8.3%。銀行は預金が仕入れなので利払いの式は当てはめず、利ざやで扱う。薄い自己資本、再編、株主との関係といった個別のリスクはkに足さず、筋書きと確率で表した。横浜FG・千葉銀行(+0.5%)より高いのは、東京での値決め力が弱く、規模が小さいため。