結論
あいちフィナンシャルグループは、愛知県で三菱 UFJ 銀行に次ぐ 2 位のあいち銀行を持つ地方銀行グループだ。2025 年 1 月に愛知銀行と中京銀行が合併して生まれた。筆者の結論は、今の値段は先の利益に対して割高ということだ。いちばんの理由は、稼ぐ力がまだ資本コストに届いていないことにある。
2026 年 3 月期の ROE は 5% 台。中期経営計画の目標も 6% にとどまる。金利が上がれば貸出の利ざやは広がる。ただ名古屋は大手行・名古屋銀行・信用金庫が入り乱れる激戦地で、広がった分を預金金利と貸出競争に取られやすい。
統合の効果は本物だ。店舗は 154 から 114 へ減り、シナジーは 2030 年度に 100 億円以上を狙う。一方、2026 年 5 月に基本合意した三十三フィナンシャルグループとの統合は、9 月に解消された。規模を足して稼ぐ道は、いったん閉じた。
株価は 2026 年 3 月末から 4 割近く上がり、PBR は 1 倍を超えた。再編の期待が先に乗った値段だと筆者は見る。確率で重みづけた本質価値は、今の時価総額(約4,620億円)に対し10年で−47.9%、「割高」と見る(資本コスト8%、10年の筋書きだけで測る)。ただし再編の続報や政策保有株の売却益は上振れの芽で、悲観の確率は厚くしすぎていない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社を長く持ちたいかと問われれば、今の値段では持ちたくない。銀行は預金という借金で成り立つ商売で、資本が薄いほど判断の誤りが効く。あいち FG の自己資本比率は 6% で、政策保有株の値動きが純資産に直結する。
稼ぐ力は上向いている。合併のコストは一巡し、金利は上がり、店舗の削減が経費に効く。ただ、オーナーが手にできる利益は、再投資の必要を引いて 280 億円前後。時価総額 4,620 億円に対して、年 6% 台の利回りにとどまる。国債の利回りが 3% の世界では、この差は安全域として小さい。
持ち続けたいと思える条件は三つ。ROE が資本コストの 8% 前後を安定して超えること、政策保有株が計画どおりに減ること、再編が株主に有利な条件で進むこと。どれも途中にあり、まだ確かめられていない。筆者は、確かめられるまで待つほうが得だと考える。
一方で、割高の幅を恐れすぎない。県内 2 位の顧客基盤と合併の費用削減は、数字にならなくても着実に積み上がっていく。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの土台は、愛知県を中心とした中小企業向けの貸出と個人向けのローン、それに預金を集める業務だ。グループは 2022 年 10 月に愛知銀行と中京銀行の共同持株会社として発足し、2025 年 1 月に両行が合併してあいち銀行になった。基幹システムは 2024 年末に統合済みで、合併の事務の山は越えた。
規模は貸出金 4.9 兆円、預金 6.0 兆円、有価証券 1.3 兆円。東京商工リサーチの 2025 年調査では、愛知県でメインバンクとする企業数が 1 万 242 社、県内シェア 12.1% で、三菱 UFJ 銀行(22.9%)に次ぐ 2 位だった。名古屋銀行(10.7%)が 3 位で続く。
収益源は三つに分けられる。法人貸出は愛知のものづくり企業と地元の中小企業が相手で、残高が最も大きい。個人貸出は住宅ローンが中心。三つ目は有価証券の運用、投信・保険などの預かり資産、手数料で、金利が上がる局面では運用の利回りが効いてくる。
第 2 次中期経営計画(2025 年度〜2027 年度)のテーマは「銀行業を超えたトータルサポートグループ」。コンサルティング型の営業、店舗網の再構築、DX の三本柱で、システム投資は 3 年で約 150 億円。新会社の栄町リサーチ&コンサルティングを 2025 年 10 月に作り、2030 年度にはグループ会社の利益を全体の約 1 割にする構想を掲げる。
優良さと弱いところ
堀は地元の取引関係で、他の銀行より深いとは言いにくい。愛知は日本有数のものづくりの県で、貸出需要は底堅い。だが首位の三菱 UFJ 銀行は財務力で上回り、名古屋銀行・十六銀行・信用金庫が優良な顧客を取り合う。筆者はあいち銀行を、県内に厚い顧客を持つ 2 番手と見る。価格を決める力は強くない。
資本の使い方には課題が残る。ROE は 2026 年 3 月期で 5% 台と、資本コストを下回る。自己資本比率は 6% と薄い。政策保有株の時価は純資産の 26%(2025 年 9 月末)を占め、株価が崩れれば純資産が目減りする体質だ。2028 年度末までに 20% 未満へ下げる計画は、体質改善として評価できる。
良い点もある。合併後の経費削減は仕組みとして見えており、店舗の削減とシステム統合で 2027 年度に 80 億円以上のシナジーを見込む。社長の伊藤行記氏は三十三 FG との統合を解消した際、まず自社の体制強化に軸足を移すと語った。足元を固める姿勢は堅実だ。
2026 年 3 月期の利益 218 億円には株式売却益が含まれる。本業だけの稼ぎは、この数字より低いと見ておく。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
地方銀行は今、金利のある世界に入り、同時に再編の時代に入った。短期金利が 2% に向かえば、貸出金利は上がり、預金金利は遅れて上がる。その差が利ざやの拡大になる。ただ預金は他行・ネット銀行との取り合いで、預金金利の上げ幅は読みにくい。
名古屋圏は再編の最前線にある。2026 年 3 月、しずおかフィナンシャルグループと名古屋銀行が経営統合の基本合意を結んだ(2028 年 4 月をめど)。静岡銀行の力が名古屋銀行の顧客に届けば、愛知の 3 位が強くなる。十六 FG も県境を越えて愛知へ入っている。
あいち FG は 2026 年 5 月に三十三 FG(三重)と経営統合に基本合意したが、9 月に解消した。統合後の持株会社の方向性で折り合えなかったと発表された。三十三 FG の社長は、将来の再検討を完全には否定していない。再編の相手探しは終わっておらず、TOB・統合の話は今後も出る。
愛知の人口は全国に比べれば減り方が緩く、貸出の残高は名目で年 3% 台の伸びを置ける。物価と賃金が上がる局面では、経費も同じように増える。コストを抑えた銀行が勝つ。合併を終えたあいち FG は、そのコスト競争に今から入る。
資本政策と M&A
還元は総還元性向 30% 程度が目安で、年間配当には下限を設けている。2026 年 3 月期の配当は約 66 億円で、利益の約 3 割にあたる。自社株買いは柔軟に実施するとしているだけで、数値の目標はない。
資本の余裕は大きくない。連結自己資本比率(規制上)は 9% 程度を保つ方針で、第 3 次中計の最終年度(2030 年度)は 9.5% 程度をめざす。還元を増やす力は、政策保有株の売却益と本業の利益の伸びにかかっている。政策保有株は純資産比 20% 未満へ、2028 年度末までに減らす計画だ。
再編が最大の論点になる。三十三 FG との統合は 2026 年 9 月に解消したが、同じ東海で地銀の再編は続く。あいち FG が買う側になるなら、経営統合のたびに負担がかかる。買われる側になれば、プレミアムが付く可能性もある。ただ、持株会社の方向性で折り合えなかった経緯を見ると、条件を急がず、自社の足場固めを優先する姿勢がうかがえる。
2026 年 4 月 1 日には 1 株を 5 株にする株式分割を実施した。投資家の裾野を広げる動きだが、価値は変わらない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
金利が 2% へ向かえば、愛知の中小企業向け貸出の利ざやは確実に広がる。合併で店舗は 154 から 114 へ減り、システムも統合済みだ。経費が先に下がり、利ざやの拡大が後から乗る。この順番が利益を押し上げる。シナジーは 2027 年度に 80 億円以上、2030 年度に 100 億円以上と、会社が数字で約束している。
しかも中期経営計画の純利益 270 億円は、金利が想定を超えて上がった今の前提で置いた目標で、2026 年 5 月に 190 億円から引き上げられた。ROE6% は通過点にすぎない。政策保有株は純資産比 26% から 20% 未満へ下がり、売却益は還元と投資に回る。愛知は日本有数のものづくりの県で、貸出需要は他の地方より強い。
再編の主役になれる点も大きい。三十三 FG との統合は解消したが、規模を求める動きは止まらない。しずおか FG と名古屋銀行が組む今、あいち銀行が次の相手を選ぶ番だ。買い手としても買われる側としても、価値が上がる位置にある。三菱 UFJ 銀行に次ぐ県内 2 位の顧客基盤は、簡単には作れない資産だ。
慎重な見方
金利が上がっても、利ざやの拡大は名古屋では他の地域ほど残らない。三菱 UFJ 銀行、名古屋銀行、十六銀行、信用金庫が、預金と貸出の両方で値を競う。預金金利の上げ幅は読みにくく、広がった利ざやが預金に吸われる恐れがある。
ROE は 2026 年 3 月期で 5% 台。この利益には株式の売却益が含まれる。本業だけなら、これより低い。中期経営計画の ROE6% は、資本コストの 8% 前後に届かない。自己資本比率は 6% と薄く、政策保有株は純資産の 26% を占める。株価が崩れれば、純資産が一気に傷む。
三十三 FG との統合が 9 月に解消されたことも重い。規模を足す道が閉じ、単独で 100 億円のシナジーを出すしかなくなった。しずおか FG と名古屋銀行の統合で、愛知の競争は一段と厳しくなる。
それなのに、PBR は 1 倍を超えている。再編の期待で 4 割近く上がった値段は、期待が剥がれれば戻る。業績の裏づけがない上昇だった。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方の言い分が強い。利ざやの拡大は名古屋の競争に削られ、ROE は資本コストに届かない。統合の解消で規模の道が閉じたことも重い。ただ、合併の経費削減は数字で見える。このため確率は中立を中心に置き、悲観側を少し厚くした(楽観 10%、悲観 15%、10 年)。ただし合併の経費削減が名古屋の競争に全部消されるとは見ない。ROE が資本コストに届かない姿を中立に置き、そのうえで再編と売却益の上振れを楽観側に残した。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,635 円3,985 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 439 円1,070 億円)。 今の値に割り戻すと 1,056 円2,574 億円、今との差 −38.3%、 期待の年率 +1.9%(資本コスト 8.0%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 2,446 円5,963 億円 | 599 円1,460 億円 | +77.8% | +5.9% | 304 円742 億円 |
| やや楽観 | 22% | 2,174 円5,300 億円 | 527 円1,284 億円 | +57.8% | +4.7% | 594 円1,448 億円 |
| 中立 | 30% | 1,954 円4,763 億円 | 467 円1,138 億円 | +41.4% | +3.5% | 726 円1,770 億円 |
| やや悲観 | 23% | 1,181 円2,880 億円 | 328 円800 億円 | −11.8% | −1.3% | 347 円846 億円 |
| 悲観 | 15% | 361 円880 億円 | 318 円776 億円 | −60.3% | −8.8% | 102 円248 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,635 円3,985 億円 | 439 円1,070 億円 | +21.1% | +1.9% | 2,074 円5,056 億円 |
今の株価時価総額 1,712 円4,173 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 楽観:金利が上がり、統合の効果が出て、再編でも勝つ 利益 477 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 2,446 円5,963 億円
10 年の間に短期金利が 2% に定着し、愛知の貸出利ざやが広がる。統合の効果は 2030 年度に 100 億円を超え、経費率は大きく下がる。政策保有株は計画を超えて減り、浮いた資金は自社株買いに回る。グループ会社は利益の 1 割に育つ。愛知の製造業の強さが貸出を支え、再編でも主導権を握る。あいち FG は愛知で 2 位から 1 位をうかがう銀行になり、ROE は 7% 台半ばまで上がる。ただし ROE が資本コストを大きく超える姿は想定しない。政策保有株の売却益と本業の利益の両方が還元を支え、配当と自社株買いは利益の 4 割強に届く。市場は、資本の使い方が上手な銀行として倍率を高く置く。
- 法人貸出:数量 4.6(法人・事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.6%(貸出利ざや(%))→ 売上 720 億円・営業利益 310 億円。残高 4.65 兆円(名目)× 率 1.55%、利益率 43%
- 個人貸出:数量 2.4(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.4%(貸出利ざや(%))→ 売上 339 億円・営業利益 122 億円。残高 2.38 兆円(名目)× 率 1.42%、利益率 36%
- 有価証券運用・預かり資産・手数料:数量 4.6(運用資産+預かり資産(兆円))× 価格 1.3%(実効利回り・手数料率(%))→ 売上 570 億円・営業利益 245 億円。残高 4.56 兆円(名目)× 率 1.25%、利益率 43%
倍率:事業の純利益 477 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.5% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 5,962 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:規模を足す道が閉じ、単独でシナジーを出し切る必要があるため、1 割にとどめた。
やや楽観 22% やや楽観:経費率が下がり、ROE は 7% 台に乗る 利益 424 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 2,174 円5,300 億円
利ざやの拡大は標準より少し大きく、経費率は統合の効果で下がる。グループ会社が育ち、非金利収益の比率が上がる。政策保有株は計画どおり減り、純資産の質が改善する。再編は続き、あいち FG は有利な条件で提携先を得る。ROE は 7% に近づき、資本コストの水準に近づく。愛知の人口減は緩やかで、貸出残高は名目で年 3% 台の伸びを保つ。ただし、名古屋の競争は緩まず、利益率の大きな上昇は見込めない。政策保有株の売却益が還元を支え、配当と自社株買いは利益の 4 割ほどに達する。地銀の中では、改善が着実に評価される位置に立つ。
- 法人貸出:数量 4.5(法人・事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.5%(貸出利ざや(%))→ 売上 664 億円・営業利益 275 億円。残高 4.51 兆円(名目)× 率 1.47%、利益率 42%
- 個人貸出:数量 2.3(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.4%(貸出利ざや(%))→ 売上 318 億円・営業利益 110 億円。残高 2.34 兆円(名目)× 率 1.36%、利益率 34%
- 有価証券運用・預かり資産・手数料:数量 4.3(運用資産+預かり資産(兆円))× 価格 1.2%(実効利回り・手数料率(%))→ 売上 530 億円・営業利益 220 億円。残高 4.35 兆円(名目)× 率 1.22%、利益率 42%
倍率:事業の純利益 424 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.8% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 5,300 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:経費削減が効き、ROE が資本コストに近づく流れ。
中立 30% 中立:金利は定着し、統合の効果が出るが ROE は 6% 台 利益 381 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 1,954 円4,763 億円
短期金利は 2% に定着し、貸出利ざやは標準的に広がる。名古屋の競争と預金金利の上げが広がりを抑え、利ざやの拡大は他の地方銀行より小さい。統合の効果で経費率は下がるが、物価と賃金の上昇で経費が増え、利益率は大きく上がらない。純利益は 380 億円前後。政策保有株は計画どおり減り、還元は利益の 4 割弱まで高まる。自己資本は残高の伸びに合わせて積み、ROE は 6% 台前半にとどまる。再編は愛知を舞台に続くが、あいち FG は独立を保つ。政策保有株の売却益は一巡し、本業の利益で還元を支える形に移る。愛知の人口は緩やかに減り、貸出需要は物価の分だけ伸びる。県内 2 位の顧客基盤は保たれるが、他行を引き離す力はない。
- 法人貸出:数量 4.4(法人・事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.4%(貸出利ざや(%))→ 売上 620 億円・営業利益 248 億円。残高 4.43 兆円(名目)× 率 1.40%、利益率 40%
- 個人貸出:数量 2.3(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.3%(貸出利ざや(%))→ 売上 297 億円・営業利益 98 億円。残高 2.28 兆円(名目)× 率 1.30%、利益率 33%
- 有価証券運用・預かり資産・手数料:数量 4.1(運用資産+預かり資産(兆円))× 価格 1.2%(実効利回り・手数料率(%))→ 売上 497 億円・営業利益 199 億円。残高 4.14 兆円(名目)× 率 1.20%、利益率 40%
倍率:事業の純利益 381 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.2% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 4,762 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:利ざやの標準的な広がりと、競争による削り取りが釣り合う想定。
やや悲観 23% やや悲観:単独で規模の経済が働かない 利益 256 億円 · PER 11.3 倍 · 株価時価総額 1,181 円2,880 億円
名古屋の競争は 10 年たっても緩まない。しずおか FG と名古屋銀行の統合で、愛知の 3 位が強くなる。大手行・ネット銀行との預金の取り合いで、預金金利が上がる。あいち FG は単独で、経費の削減だけが頼りになる。人口減で貸出の伸びは名目 2% 台に落ち、与信費用は平均より重い。純利益は 250 億円台にとどまり、ROE は 5% を下回る。株主還元は配当の維持が精一杯で、PBR は 0.55 倍の評価になる。愛知の人口減は緩やかだが、住宅ローンと小口の貸出は競争で薄くなる。経費の削減は物価の上昇に追いつくのがやっとで、統合の効果は競争の中に消える。
- 法人貸出:数量 4.0(法人・事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.3%(貸出利ざや(%))→ 売上 509 億円・営業利益 173 億円。残高 3.98 兆円(名目)× 率 1.28%、利益率 34%
- 個人貸出:数量 2.0(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.2%(貸出利ざや(%))→ 売上 242 億円・営業利益 65 億円。残高 2.02 兆円(名目)× 率 1.20%、利益率 27%
- 有価証券運用・預かり資産・手数料:数量 3.8(運用資産+預かり資産(兆円))× 価格 1.2%(実効利回り・手数料率(%))→ 売上 433 億円・営業利益 143 億円。残高 3.76 兆円(名目)× 率 1.15%、利益率 33%
倍率:10年後のROE4.4%(純利益256億円÷自己資本5,877億円)は k8% 以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、PERは1÷k=12.5倍までが上限。競争や統合の遅れで稼ぐ力が鈍る姿。上限の9.0割に置き、11.25倍。今の自己資本4,307億円に対する倍率は0.67倍。稼ぐ力から出した値で、自己資本の何割という置き方はしていない。
確率:愛知の競争は構造的に厳しく、単独路線の限界が出る確率を厚めに置いた。
悲観 15% 悲観:構造的に負け、優良な銀行ではなくなる 利益 88 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 361 円880 億円
再編の波に乗れず、愛知の顧客を他行に奪われる。貸出残高は 10 年で減り、預金金利の上昇で利ざやは薄いままだ。与信費用は不況のたびに重くなり、統合のシナジーは競争で消える。株式の評価損や不良債権で、純資産は思うように増えない。純利益は 60 億円台に落ち、ROE は 2% に満たない。市場は、資本コストを稼げない銀行として PBR 0.4 倍で値付けする。再編の買い手にもなれず、買われる側としても安く扱われる。愛知の製造業が構造的に海外へ流れる場面があれば、貸出の縮みはさらに速くなる。配当は維持するが、純資産は思うように積み上がらない。
- 法人貸出:数量 3.0(法人・事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.0%(貸出利ざや(%))→ 売上 304 億円・営業利益 55 億円。残高 3.04 兆円(名目)× 率 1.00%、利益率 18%
- 個人貸出:数量 1.5(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.0%(貸出利ざや(%))→ 売上 142 億円・営業利益 14 億円。残高 1.50 兆円(名目)× 率 0.95%、利益率 10%
- 有価証券運用・預かり資産・手数料:数量 2.8(運用資産+預かり資産(兆円))× 価格 1.1%(実効利回り・手数料率(%))→ 売上 294 億円・営業利益 53 億円。残高 2.80 兆円(名目)× 率 1.05%、利益率 18%
倍率:10年後のROE2.1%(純利益88億円÷自己資本4,100億円)は k8% 以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、PERは1÷k=12.5倍までが上限。構造的に負けて優良でなくなった姿。上限の8.0割に置き、10.00倍。今の自己資本4,307億円に対する倍率は0.20倍。稼ぐ力から出した値で、自己資本の何割という置き方はしていない。悲観の利益は、貸出の利ざやが競争で縮み与信費用が重い構造から、自己資本に対するROE約2%(純利益88億円)に置いた。
確率:再編に乗れず優良でなくなる確率。人口減と薄い資本を考え、同じ領域の会社の下限(12〜14%)の上に置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
法人貸出
愛知県を中心とした中小企業・ものづくり企業向けの貸出。
| 数量法人・事業性貸出残高(兆円) | 価格貸出利ざや(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.2 | 1.1% | 336 | 128 |
| 10 年後 中立 | 4.4 | 1.4% | 620 | 248 |
取り方:貸出金 4.94 兆円のうち、法人・事業性向けを約 65% の 3.2 兆円と推定した(開示は貸出全体のみ)。利ざやは 1.05% と置いた。預金ベータ(政策金利の上げに預金金利が付いていく割合)は地銀の 40% を基準にしたが、名古屋は競争が激しく広がりが残りにくいので、中立の利ざやの拡大は 3 年で +0.20%、10 年で +0.35% と、同じ領域の会社(横浜 +0.27/+0.45%)より小さく置いた。残高は名目で年 3.3%(物価 3% + 愛知の実質 +0.3%)。(点検 2026-10-19:数量は名目、率に物価は掛けていない。利ざやの広がりは金利要因だけ)
個人貸出
住宅ローンを中心とした個人向け貸出。
| 数量個人向け貸出残高(兆円) | 価格貸出利ざや(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.7 | 1.0% | 174 | 52 |
| 10 年後 中立 | 2.3 | 1.3% | 297 | 98 |
取り方:貸出金の残り約 35% を個人向け 1.74 兆円と推定した。住宅ローンは固定金利が多く利ざやは薄く、1.00% と置いた。拡大幅は法人と同じ理由で 3 年 +0.18%、10 年 +0.30%(領域の標準は +0.24/+0.40%)。残高は名目で年 2.75%(物価 3% + 人口減 −0.25%)。(点検 2026-10-19:数量は名目、率に物価は掛けていない)
有価証券運用・預かり資産・手数料
有価証券の運用益、投信・保険などの預かり資産の手数料、グループ会社の収益。
| 数量運用資産+預かり資産(兆円) | 価格実効利回り・手数料率(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.8 | 1.2% | 336 | 134 |
| 10 年後 中立 | 4.1 | 1.2% | 497 | 199 |
取り方:有価証券 1.27 兆円と、投信・保険などの預かり資産(開示が乏しく推定 1.5 兆円)を合わせて 2.8 兆円、実効の利回り・手数料率を 1.2% と置いた。運用資産と預かり資産はお金の量なので、名目で年 4.0%(物価 3% + 実質の資産形成)。率は物価では上がらないので、中立は据え置き。(点検 2026-10-19:数量は名目、率に物価は掛けていない)
リスクと懸念
名古屋の預金・貸出競争
三菱 UFJ 銀行・名古屋銀行・十六銀行・信用金庫が、愛知で預金と貸出の両方を競う。2026 年 3 月にしずおか FG と名古屋銀行が統合の基本合意を結び、競争はさらに強まる。広がった利ざやが預金金利の上げに削られれば、金利上昇の恩恵は小さくなる。
統合の効果が出きらない
2027 年度に 80 億円以上、2030 年度に 100 億円以上のシナジーを目標とする。店舗は 154 から 114 へ減らす。顧客の離反や人材の流出で、効果が計画に届かないことがありうる。三十三 FG との統合解消で、規模を足す道は閉じた。
政策保有株と薄い資本
政策保有株の時価は純資産の 26%(2025 年 9 月末)。株価が崩れれば純資産が目減りし、自己資本比率 6% の薄さが響く。売却が遅れれば、純資産の質の改善も遅れる。2028 年度末までに 20% 未満へ下げる計画の進み方が分かれ目になる。
利益の質
2026 年 3 月期の純利益 218 億円には株式等損益の改善が含まれる。売却益が出なくなれば、本業だけの利益はこれより低い。市場が利益の質を見直せば、倍率が下がる。中計の ROE6% は資本コストを下回り、今の高い PBR を支えるには足りない。
信用コストの正常化
愛知は製造業の比率が高く、景気後退期には中小企業の与信費用が膨らむ。今の低い水準が続くと見るのは危うい。金利の上昇で、返済に苦しむ先も出てくる。リーマン級の不況では、評価損も重なり、薄い資本が一気に傷む。
再編の読みの外れ
統合の相手探しは終わっておらず、将来の再検討に含みを残す三十三 FG など、相手候補は残る。条件が悪い統合を選べば価値を壊し、選ばなければ孤立する。株価の再編期待が剥がれるリスクもある。待つ間に競合が先に動けば、交渉力も下がる。
今後の分かれ目
- 日銀が短期金利を 2% へ計画より速く上げたら
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。愛知の貸出利ざやが預金金利に削られず広がるかを決算で確かめる。
- 統合のシナジーが 2027 年度に 80 億円を超えたら
- 経費率の改善が本物だと判断でき、中立から楽観側へ確率を移す。
- しずおか FG と名古屋銀行の統合後に愛知の貸出金利が下がったら
- やや悲観・悲観へ確率を移す。優良な貸出先での金利競争が利益に効く。
- 三十三 FG など他の相手との統合が再び動いたら
- 条件によって見通しが変わる。買収プレミアムが付くなら上振れ、対等でも条件が悪ければ下振れ。
- 政策保有株の純資産比が 20% を割り、売却益が還元に回ったら
- 純資産の質が上がり、自社株買いの原資も増える。楽観側に重みを移してよい。
- 景気後退で与信費用が急に増えたら
- 悲観側に重みを移す。中小企業のどの業種で増えたかを確認する。
見ておくもの
- 日銀の政策金利と、愛知の貸出利ざや・預金金利の推移
- 統合のシナジー実現額(2027 年度 80 億円以上)と店舗数(114 拠点)
- 政策保有株の純資産比(2028 年度末までに 20% 未満)
- しずおか FG・名古屋銀行の統合後の愛知での動き
- 三十三 FG など再編の相手探しの動き
- 与信費用と株式等損益を除いた本業の利益
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価を見ずに決めた。楽観・やや楽観・中立は10年後のROEとk 8%(基本7.5%+quality)・g 0.0%から利益ベースの正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)の上限を出し、その9.5・9・8.5割に置いた(下限は1÷k=12.5倍。統合の宿題を終えて経費率が下がる)。やや悲観・悲観はROEがk以下なので、PERは1÷k=12.5倍が上限で、その9割・8割に置いた。悲観の利益は貸出の利ざやが競争で縮み与信費用が重い構造からROE約2%に置き、過去の底値や今の倍率は根拠にしていない。kが1%高い(9%)と10年の中立のPERは10.6倍から10.2倍に下がる。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.88→12.5 倍・やや楽観 PER 11.25→12.5 倍・中立 PER 10.62→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β 0.76 × 5% + 規模 0.50%。基本7.5%に quality +0.5% を足して k 8%(決まり v2。β・規模は使わない。内訳と理由は quality_why)。銀行は預金が仕入れなので利払いの式は当てはめず、利ざやで扱う。個別のリスク(合併の統合の宿題と低い ROE)は k に足さず、確率と筋書きで表す。事業は傾いていないので上乗せ(extra)は 0。同じ地方銀行どうしで同じ物差しを使い、差は quality の4部品だけで出している。