結論
スルガ銀行は、静岡・神奈川を地盤に、住宅ローン、投資用不動産ローン、不動産ノンリコース融資で稼ぐ地方銀行だ。筆者の結論は割高である。2026年3月期の純利益は税負担が約2%と軽かったために膨らんでおり、標準の税率に直すと ROE は8%弱にとどまる。今の値段は、その膨らんだ利益を土台にしている。
立て直しは本物だ。シェアハウス(アパマン)問題の調停は2026年3月に終わり、旧来の不動産ローンの比率は4割から25%へ下がった。金利のある世界では利ざやが広がり、中期経営計画は2028年度の ROE 11%以上を掲げる。経費率も50%台前半まで下がった。筆者は、この計画の7割ほどは実現すると見る。
それでも割高と見るのは、資本コストを大きく超える会社になれないからだ。資産の7割が不動産関連に偏り、過去には最終赤字と PBR 0.3倍台を経験している。景気が崩れれば、いちばん先に痛むのはこの偏りだ。自己資本比率も実質10%と厚くない。
確率で重みづけた本質価値は、今の時価総額を下回る。計画どおりに進む強気の筋書きでも、今の値段にようやく届く程度だ。会社は変わった。ただ、変わったことは、すでに値段に入っている。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、スルガ銀行を「ずっと持ちたい会社」とは言いにくい。事業は立ち直ったが、10年後も同じ強さで残る確信が持てない。不動産ローンという狭い市場に頼る構造は、景気の悪い年に弱い。
利益の見方が大事だ。2026年3月期の純利益340億円は、税負担が約2%と軽かった年のものだ。標準の税率で計算し直せば、ROE は8%弱になる。株主のものになる利益は、自己資本比率の実質10%を守る積み増しを引いて、利益のおよそ7割。資本コスト8%台の会社が、この ROE で稼ぐなら、払うべき値段は純資産の1倍前後になる。
今の値段は純資産の1.5倍近い。ここに安全域はない。強気の筋書き(中期経営計画どおり)が実現して、ようやく今の値段に届く。悪い年には、2020年前後のように PBR が0.3倍台まで沈んだ実績がある。
一方で、経営が資本の使い方を改め、自社株買いと政策保有株の売却で効率を上げる点は評価できる。値段がもっと低ければ、投資の対象になる会社だ。
何で稼ぐ会社か
スルガ銀行は静岡県沼津市に本店を置き、静岡・神奈川の店舗網を足場に、全国の個人・個人事業主・富裕層・法人へ貸し出す。預金は約3.2兆円、貸出は約2.4兆円で、預金の4分の1は貸出に回らず、国債・社債・株式などで運用される。
稼ぎの柱は4つの「プロフィットセンター」に分かれる。コミュニティバンクは静岡・神奈川で住宅ローン、無担保ローン、預かり資産を扱う。首都圏・広域バンクは、東京など主要都市の個人事業主や富裕層に、不動産に絡む融資と資産の相談を売る。ダイレクトバンクは、店舗を持たずネットで全国から預金とローンを集める。市場ファイナンス本部は、不動産ノンリコース融資(物件の収益だけを返済原資とする融資)や、買収資金を貸すLBOローン、債権の購入を担う。
貸出の中身は不動産に寄っている。2026年度の新規実行の計画では、不動産関連が約3,200億円、それ以外が約1,000億円だ。投資用不動産ローンは短期プライムレートに連動するため、金利が上がれば利息収入がそのまま増える。旧来の一棟収益ローン(築古・地方物件が多い)は、運用資産の約25%まで下がった。
そこへ第5の柱として「アライアンス事業」を加える。筆頭株主のクレディセゾンとは、保証、カード、住宅ローン、不動産金融で組み、預金の調達まで含めて深める計画だ。
筆者の推計では、利益の5割弱が不動産担保ローン、3割強が不動産ノンリコースなど債権系、残りが預金・有価証券・手数料の収益になる。人手のかかる個人向けより、債権系のほうが利益率は高い。
優良さと弱いところ
筆者の見立てでは、堀、つまり他社がまねできない強みは「中くらい」だ。強みは3つある。1つ目は、不動産に強い融資の目利きと富裕層の顧客網。2つ目は、店舗を持たず低コストで全国から預金を集められるデジタルの基盤。3つ目は、クレディセゾンの保証とカードを使える提携だ。
価格を決める力は、地方銀行としては強い。2025年3月期の総資金利ざやは0.70%で、地銀平均の0.24%を大きく上回った。ただし、これは高いリスクを引き受けた対価でもある。担保の築古・地方物件が多く、景気が悪くなると、利ざやの高さがそのまま貸し倒れの高さに変わる。
資本の使い方は、ここ3年で良くなった。自社株買いと配当で、2025年度は純利益の143%を株主へ戻した。政策保有株は2028年度末までに純資産の2.5%程度へ減らす。株価が低いうちに買い戻した点は評価できるが、自己資本比率の実質10%という低めの水準で運営するため、悪い年の余裕は厚くない。
どこが弱いか。シェアハウス問題の傷跡は消えていない。組織的な交渉を続ける債権が約600億円残る(保全率は100%)。事業の形も、不動産というひとつの市場に寄りすぎている。経費率は51%まで下がったが、利益の質はまだ地銀の標準に届かない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
地方銀行は、金利のある世界に入って最初の数年を迎えている。貸出金利は短期プライムレートに連動して先に上がり、預金金利は遅れて追う。このため預貸ざやは広がる。中期経営計画も、2027年4月に政策金利1.25%まで上がる前提を置く。この調査では短期金利が2%まで上がると置くので、利ざやはその分もう少し広がる。
ただし、追い風だけの業界ではない。人口は減り、静岡・神奈川でも住宅ローンの価格競争は続く。ネット銀行やフィンテックが預金を取りにくる。預金金利を上げて集めれば、せっかく広がった利ざやが縮む。地銀の業界では、規模を求める再編も進む。スルガのような中堅は、単独で規模を追うか、提携で補うかの選択を迫られる。
投資用不動産ローンの市場は、2018年の不正融資問題のあと小さくなった。静岡銀行、オリックス銀行、滋賀銀行などが主な貸し手だが、審査は全体に厳しくなった。この市場でスルガは、悪い評判と引き換えに、競合が離れた分のすき間を拾う立場にある。
循環でいえば、与信費用(貸し倒れの費用)は歴史的に低い水準にある。ここから景気が崩れれば、不動産に寄ったスルガの与信費用は、ほかの地銀より大きく跳ねる。10年後は金利が定常化し、与信コストが平均に戻った姿を考える必要がある。
資本政策と M&A
還元は厚くなった。配当は配当性向30%程度を目安に安定して出し、自社株買いは「機動的に」行う。2026年度は上限120億円の自社株買いに踏み切った。2025年度の還元は、自社株買い219億円を含めて純利益の約1.4倍に達した。
自己資本比率の実質10%という目標が、還元の限度を決める。貸出が増えれば、リスクの重さに応じて資本を積まねばならない。純利益のうち、使える還元の余地は7割台と筆者は見る。
政策保有株は、クレディセゾン株を除き、2028年度末までに純資産の2.5%程度へ減らす。約270億円の売却益が、今後数年の利益と還元の原資になる。ただし一回かぎりの収益で、続く力ではない。
M&Aの焦点はクレディセゾンだ。2023年に15.12%の株を取得して筆頭株主となり、2025年9月末で約17%を持つ。議決権の保有上限に関する取り決めがあり、完全子会社化に進む形ではない。それでも、TOB(株式公開買い付け)や地銀再編の対象になる可能性は、小さくないと筆者は見る。ただし、買収額の上乗せは筋書きに入れない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
スルガ銀行は、金利のある世界でもっとも利ざやが広がる地銀のひとつだ。貸出の大半が短期プライムレート連動で、金利が上がるとそのまま利息収入になる。預金は定期で8割、流動性預金で4割しか金利が追わない想定なので、広がる幅は大きい。
立て直しは終わった。シェアハウス問題の調停は2026年3月に終わり、旧来の不動産ローンの比率は4割から25%へ下がった。残った債権の保全率は100%だ。中期経営計画の2028年度ROE 11%は、標準の税率でも届く目標である。経費率も2022年の61%から51%まで下がり、さらに AI で3割の効率化を狙う。
クレディセゾンとの協業が預金調達と信販の両面で効けば、規模の小ささという弱みを補える。政策保有株の売却と自社株買いで、資本の使い方も変わった。2025年度には株主へ純利益の1.4倍を戻した。ROE が12%近くまで上がれば、PBR 1.5倍は正当化できる。株価が中計の開始から4倍以上になったのも、変化が本物だと市場が見たからだ。
慎重な見方
2026年3月期の利益は、税の軽さと与信費用の戻入に支えられた数字で、実力はもっと低い。標準の税率で ROE は8%弱だ。中期経営計画の経常525億円は、コア業務粗利益770億円から経費を引いた385億円を大きく上回る。残りは戻入や有価証券益に頼る前提と読める。
貸出の7割が不動産関連で、築古・地方の物件を含む。景気が崩れて不動産価格が下がれば、与信費用は一気に増える。預金金利を上げて集めれば、利ざやの広がりは遅れて食われる。自己資本比率は実質10%と薄く、悪い年に余裕がない。
過去には、最終赤字と PBR 0.3倍台を経験した。会社への信頼が戻る途中で、今の1.5倍という値段は、立て直しをすでに織り込んでいる。クレディセゾンの持株が約17%で上限に近づくことも、経営の独立と再編の両面で見通しを難しくする。地銀の再編が進む中で、規模で劣る会社が投資負担を背負う点も忘れられない。預金を預ける側は、シェアハウス問題を覚えている。信頼が戻る途中で再び傷がつけば、預金コストの上昇は避けられない。
どちらに重みを置いたか
どちらの主張にも根拠があるが、強いのは慎重な見方だ。利益の実力が標準税率で8%弱という点と、不動産への偏りという構造の点は、数字で動かしにくい。確率は悲観側にやや寄せた。10年の悲観に18%を置いた。強気の筋書きの確率は、計画どおりに進む場合として8〜10%にとどめた。それでも、10年の中立では ROE が資本コストをわずかに上回る程度で、計画の達成は織り込んでいない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,980 円3,333 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,357 円2,284 億円)。 今の値に割り戻すと 1,779 円2,993 億円、今との差 −34.6%、 期待の年率 +2.1%(資本コスト 8.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 3,143 円5,290 億円 | 1,727 円2,907 億円 | +79.1% | +6.0% | 390 円656 億円 |
| やや楽観 | 22% | 2,817 円4,741 億円 | 1,632 円2,746 億円 | +63.6% | +5.0% | 979 円1,647 億円 |
| 中立 | 30% | 2,459 円4,138 億円 | 1,457 円2,452 億円 | +44.0% | +3.7% | 1,175 円1,977 億円 |
| やや悲観 | 22% | 1,153 円1,940 億円 | 1,325 円2,230 億円 | −8.9% | −0.9% | 545 円917 億円 |
| 悲観 | 18% | 655 円1,102 億円 | 731 円1,230 億円 | −49.0% | −6.5% | 249 円420 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,980 円3,333 億円 | 1,357 円2,284 億円 | +22.8% | +2.1% | 3,338 円5,617 億円 |
今の株価時価総額 2,719 円4,576 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 8% 八ヶ岳モデルとセゾンの協業が実り、規模の弱みを克服する10年 利益 484 億円 · PBR 1.2 倍 · 株価時価総額 3,143 円5,290 億円
不動産ローンへの偏りを抑えつつ、貸出残高を物価並みに伸ばす。ダイレクトバンクとクレディセゾンの保証・カードが効いて、預金のコストが下がり、貸出の裾野が広がる。LBOローンや債権購入の新しい領域も、リスクを管理しながら育つ。金利は短期2%・長期3%で定常化し、利ざやは広がったまま残る。経費は物価で増えるが、AIによる効率化で率は50%程度に収まる。
純利益は500億円超、ROE は11%台で、この水準が長く続く。ただし10年後には、資本コストをはるかに超える状態は続かないと見て、倍率には余裕を持たせた。不祥事もなく、与信費用は景気の波を越えて低位にとどまる。自己資本比率の実質10%を守り、利益の約7割を株主へ返す。
- 不動産担保ローン等(個人・事業性):数量 1.8(貸出残高(兆円))× 価格 0.03(コア粗利ざや(残高に対する粗利益の率))→ 売上 549 億円・営業利益 340 億円。不動産担保ローン等:残高1.8兆円(名目)×粗利ざや3.05%、利益率62%
- 債権系(ノンリコース・LBO・債権投資):数量 1.5(運用残高(兆円))× 価格 0.02(コア粗利ざや)→ 売上 353 億円・営業利益 268 億円。債権系:残高1.5兆円(名目)×粗利ざや2.35%、利益率76%
- 預金・有価証券・手数料:数量 4.8(預金残高(兆円))× 価格 0.00(預金残高に対する収益率(有価証券・手数料の粗利益))→ 売上 199 億円・営業利益 90 億円。預金・有価証券・手数料:残高4.8兆円(名目)×粗利ざや0.42%、利益率45%
倍率:ROE10.8%・資本コスト8.5%・g3.0%から PBR=(ROE−g)÷(k−g)=1.42倍が式の目安。中期経営計画どおりに進む最良の姿。PBR1.184倍に置き、時価総額5,290億円(正当化PERの上限検査でも上限の87%)。
確率:計画の延長がそのまま実る筋書き。10年続けて不祥事を起こさず、不動産の波も越える必要があり、8%とした。
やや楽観 22% 計画の7〜8割を実現し、安定した地銀として定着する10年 利益 434 億円 · PBR 1.1 倍 · 株価時価総額 2,817 円4,741 億円
ROE は10%台で落ち着く。貸出は名目で年3%程度伸び、利ざやは金利上昇のぶん広がったまま残る。与信費用は景気の波を1〜2回越えても、年平均で貸出の0.1%以内に収まる。
クレディセゾンとの協業は、収益の柱の1つにはなるが、中心にはならない。旧来の不動産ローンは貸出の1割を下回り、ポートフォリオは分散が進む。ダイレクトバンクの預金が増え、預金調達のコストも抑えられる。純利益は450億円台に届く。資本の水準は実質10%を保ち、還元は利益の7割ほどで続く。シェアハウス問題は過去の話になり、信頼の回復が預金コストの低下にもつながる。
- 不動産担保ローン等(個人・事業性):数量 1.7(貸出残高(兆円))× 価格 0.03(コア粗利ざや(残高に対する粗利益の率))→ 売上 511 億円・営業利益 307 億円。不動産担保ローン等:残高1.72兆円(名目)×粗利ざや2.97%、利益率60%
- 債権系(ノンリコース・LBO・債権投資):数量 1.4(運用残高(兆円))× 価格 0.02(コア粗利ざや)→ 売上 324 億円・営業利益 243 億円。債権系:残高1.42兆円(名目)×粗利ざや2.28%、利益率75%
- 預金・有価証券・手数料:数量 4.6(預金残高(兆円))× 価格 0.00(預金残高に対する収益率(有価証券・手数料の粗利益))→ 売上 189 億円・営業利益 76 億円。預金・有価証券・手数料:残高4.55兆円(名目)×粗利ざや0.42%、利益率40%
倍率:ROE10.1%・資本コスト8.5%・g3.0%から PBR=(ROE−g)÷(k−g)=1.30倍が式の目安。計画の大半が実現する想定。PBR1.108倍に置き、時価総額4,741億円(正当化PERの上限検査でも上限の89%)。
確率:計画を割り引いて実現するという、現実的な強気。分散が進むという前提を考え、2割台に置いた。
中立 30% 中立:金利は定常化するが、資本コストをわずかに上回る程度の10年 利益 380 億円 · PBR 1.0 倍 · 株価時価総額 2,459 円4,138 億円
貸出は名目で緩やかに伸びる。利ざやは金利上昇で広がるが、預金競争で一部を戻す。人口減の静岡・神奈川では、数量の成長が物価並みにとどまる。コア粗利益は1,000億円ほどになり、経費は物価で増える。
与信費用は景気の波を1〜2回越える平均的な水準を見込む。純利益は400億円弱で、ROE は9〜10%。資本コスト8%台をわずかに上回る程度だ。自己資本比率の実質10%を守るため、利益の7割強を株主へ戻し、残りを貸出の成長に使う。クレディセゾンとの協業は一定の成果を出すが、規模の弱みを消すほどではない。政策保有株の売却益は数年で終わり、あとは本業の利ざやだけが利益を支える。
- 不動産担保ローン等(個人・事業性):数量 1.7(貸出残高(兆円))× 価格 0.03(コア粗利ざや(残高に対する粗利益の率))→ 売上 477 億円・営業利益 272 億円。不動産担保ローン等:残高1.65兆円(名目)×粗利ざや2.89%、利益率57%
- 債権系(ノンリコース・LBO・債権投資):数量 1.4(運用残高(兆円))× 価格 0.02(コア粗利ざや)→ 売上 297 億円・営業利益 214 億円。債権系:残高1.35兆円(名目)×粗利ざや2.20%、利益率72%
- 預金・有価証券・手数料:数量 4.3(預金残高(兆円))× 価格 0.00(預金残高に対する収益率(有価証券・手数料の粗利益))→ 売上 179 億円・営業利益 64 億円。預金・有価証券・手数料:残高4.3兆円(名目)×粗利ざや0.42%、利益率36%
倍率:ROE9.2%・資本コスト8.5%・g3.0%から PBR=(ROE−g)÷(k−g)=1.13倍が式の目安。計画の7割の実現。利益の質が標準より低く上限の約9割。PBR1.006倍に置き、時価総額4,138億円(正当化PERの上限検査でも上限の90%)。
確率:もっとも起こりやすい筋書き。構造的には資本コスト並みで、3割とした。
やや悲観 22% 利ざやが伸びず、規模の劣る中堅として競争に押される10年 利益 235 億円 · PBR 0.6 倍 · 株価時価総額 1,153 円1,940 億円
預金獲得の競争が続き、預金金利の追随が想定より速く、広がった利ざやが戻る。大手とネット銀行が個人・富裕層の取り合いに本格参入し、貸出の価格競争も強まる。
地銀の再編が進み、規模で劣るスルガは、システム・人材・AIへの投資負担で経費率が悪化する。与信費用も年平均で貸出の0.2%程度に増える。純利益は240億円ほどで、ROE は6%台。資本コストを下回る。還元は、資本を守るために利益の9割ほどまで上げても、金額は小さい。再編の話が出ても、条件は良くない。預金の流出を防ぐために、金利を上げざるをえない。
- 不動産担保ローン等(個人・事業性):数量 1.5(貸出残高(兆円))× 価格 0.03(コア粗利ざや(残高に対する粗利益の率))→ 売上 405 億円・営業利益 194 億円。不動産担保ローン等:残高1.5兆円(名目)×粗利ざや2.70%、利益率48%
- 債権系(ノンリコース・LBO・債権投資):数量 1.2(運用残高(兆円))× 価格 0.02(コア粗利ざや)→ 売上 224 億円・営業利益 139 億円。債権系:残高1.15兆円(名目)×粗利ざや1.95%、利益率62%
- 預金・有価証券・手数料:数量 3.8(預金残高(兆円))× 価格 0.00(預金残高に対する収益率(有価証券・手数料の粗利益))→ 売上 171 億円・営業利益 38 億円。預金・有価証券・手数料:残高3.8兆円(名目)×粗利ざや0.45%、利益率22%
倍率:ROE6.4%・資本コスト8.5%・g3.0%から PBR=(ROE−g)÷(k−g)=0.61倍が式の目安。不動産の与信コストで利益が目減りする筋書き。式の値より低く、稼ぐ力に近い水準で、PBR0.60倍に置き、時価総額1940億円(正当化PERの上限検査でも上限の70%)。
確率:大手・ネット銀行との競争激化と再編の遅れ。10年の間に景気の波が1度は来る前提で、2割台とした。
悲観 18% 不動産への偏りが再び傷口となり、構造的に負ける10年 利益 30 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 655 円1,102 億円
10年のうちに大きな不動産の下落と金利の急変が重なり、旧来の不動産ローンに新しい不動産ローンの傷みが加わる。再び不祥事や処分が起き、顧客の信頼が揺らぐ。預金は流出し、貸出の価格も下がる。経費は減らせず、与信費用が膨らむ。
利益はほぼゼロ、ROE は1%程度に落ちる。クレディセゾンとの提携は期待を下回り、もう優良な地銀とは呼べない。純資産は2,900億円まで目減りし、市場は純資産の4割以下でしか評価しない。前半は配当と自社株買いを、保有株や債券の売却で得た資金も使って払うが、傷みが表に出た後半は止める。そのうえで、評価損や減損が純資産をさらに削る。
- 不動産担保ローン等(個人・事業性):数量 1.3(貸出残高(兆円))× 価格 0.02(コア粗利ざや(残高に対する粗利益の率))→ 売上 262 億円・営業利益 47 億円。不動産担保ローン等:残高1.25兆円(名目)×粗利ざや2.10%、利益率18%
- 債権系(ノンリコース・LBO・債権投資):数量 0.8(運用残高(兆円))× 価格 0.02(コア粗利ざや)→ 売上 120 億円・営業利益 12 億円。債権系:残高0.8兆円(名目)×粗利ざや1.50%、利益率10%
- 預金・有価証券・手数料:数量 3.0(預金残高(兆円))× 価格 0.00(預金残高に対する収益率(有価証券・手数料の粗利益))→ 売上 105 億円・営業利益 0 億円。預金・有価証券・手数料:残高3.0兆円(名目)×粗利ざや0.35%、利益率0%
倍率:不動産の偏りが裏目に出る構造的な負けで、純利益は30億円とほぼ消える。稼ぐ力は小さいので、売れる資産で測る:減損後の自己資本2,900億円のうち、住宅ローンと有価証券の一部は簿価近くで売れるが、不動産関連は大きく値引きされ、約38%(1,102億円)が株主に残るとみた。
確率:不祥事の過去、不動産への偏り、規模の小ささ。いずれも構造のリスクで、悲観を厚めに18%とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
不動産担保ローン等(個人・事業性)
住宅ローン、投資用不動産ローン、無担保ローン、事業性ローンなど、個人・個人事業主・法人向けの貸出が生む収益。
| 数量貸出残高(兆円) | 価格コア粗利ざや(残高に対する粗利益の率) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.3 | 0.03 | 330 | 155 |
| 10 年後 中立 | 1.7 | 0.03 | 477 | 272 |
取り方:運用資産3.0兆円のうち個人・事業性の不動産担保ローンなどを約1.25兆円、コア粗利ざやを約2.6%とした。会社の開示するROA(粗利益ベース)は不動産関連で約2.3%、その他リテールで約4.7%。経費332億円は残高と人手に応じて割り振り、利益率を約47%と置いた(筆者の推計)。残高は名目で伸ばし、短期プライム連動の貸出は金利上昇でざやが広がるが、預金ベータ約40%と預金競争でその一部が戻ると見る。(点検 2026-10-19:数量は名目で置き、率に物価は掛けていない。中立の率は10年で+9%(物価倍率1.34倍の掛け算ではなく、事業・金利の置き方)。二重がけなし)
債権系(ノンリコース・LBO・債権投資)
不動産ノンリコース融資、大企業向けのLBOローン、コラボレーションローン(提携先のローン債権や特定社債の購入)。
| 数量運用残高(兆円) | 価格コア粗利ざや | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.0 | 0.02 | 190 | 135 |
| 10 年後 中立 | 1.4 | 0.02 | 297 | 214 |
取り方:債権系の運用残高を約1.0兆円、コア粗利ざやを約1.9%とした(開示ROA:ノンリコース約2.5%・大企業向け約1.9%・コラボ約1.6%の加重)。人手のかからない領域なので利益率は約70%と置いた(筆者の推計)。残高は名目で伸ばす。(点検 2026-10-19:数量は名目で置き、率に物価は掛けていない。中立の率は10年で+16%(物価倍率1.34倍の掛け算ではなく、事業・金利の置き方)。二重がけなし)
預金・有価証券・手数料
預金基盤(約3.2兆円)、有価証券運用(約4,100億円)、役務収益が生む収益。ネットと店舗の預金を集める調達力の裏返し。
| 数量預金残高(兆円) | 価格預金残高に対する収益率(有価証券・手数料の粗利益) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.2 | 0.00 | 133 | 31 |
| 10 年後 中立 | 4.3 | 0.00 | 179 | 64 |
取り方:預金残高約3.2兆円に対し、有価証券の利息配当、役務の手数料から資金調達の費用を引いたぶんを約0.42%とした。残りの粗利益133億円がここに入り、経費の残りを割り当てて利益率を約23%と置いた(筆者の推計)。預金の増減は人口と競争で決まり、名目で緩やかに伸びる。(点検 2026-10-19:数量は名目で置き、率に物価は掛けていない。中立の率は10年で+32%(物価倍率1.34倍の掛け算ではなく、事業・金利の置き方)。二重がけなし) (R23c 点検:率の10年の上昇を支える値上げの開示・金利などの事業の理由を、具体的な数字や出典つきで書けないので、楽観・やや楽観・中立は現在の0.416%の横ばいにした。やや悲観・悲観は据え置き。)
リスクと懸念
不動産市況の下落と与信費用の急増
貸出の約7割が不動産関連で、築古・地方の物件も残る。不動産価格が下がり金利が急に動くと、担保の評価が落ちて与信費用が一気に膨らむ。2026/03期は戻入が89億円あったが、これは続かない。実質与信費用の平常化だけで、利益が1〜2割動く。
利益の見かけと実力の差
2026/03期の純利益347億円は、税負担が約2%と軽い年のものだ。標準の税率に直すと ROE は7.8%。2027/03期の会社予想は320億円(ROE 9.9%)で、すでに減る前提だ。前年の数字を土台にすると、先の利益を過大に見ることになる。
預金競争による利ざやの縮小
ネット銀行・大手・地銀が預金金利を上げて集めれば、貸出の広がった利ざやは遅れて食われる。会社は流動性預金で金利の4割、定期で8割しか追わないと想定するが、競争が強まれば、この追随率は上がる。預金は仕入れなので、追随が1割上がるだけで利益に響く。
再び不祥事や規制の処分が起きるリスク
シェアハウスなどの不正融資問題では、2018〜19年に最終赤字(約970億円)と業務停止命令を受けた。組織的な交渉先の債権が約600億円残る。個別の紛争が再燃すれば、費用と信頼の両面で響く。信頼の回復には長い時間がかかる。
クレディセゾンへの依存と経営の自由度
筆頭株主として約17%を持ち、保証・カード・預金で協業を深める。成果が出れば強みになるが、不調なら期待外れになる。持株比率が上がれば、経営の独立性に影響する。再編の相手としての条件も、この関係に左右される。
資本の薄さ
自己資本比率は実質10%程度で運営する計画で、悪い年に使える余裕は厚くない。国内債券の100BPVはマイナス61億円と、金利の急上昇に弱い面もある。還元を厚くするほど、余裕は薄くなる。景気が崩れれば、資本を守るために還元を止めることになる。
規模の劣後と再編
地銀の再編が進む中で、預金3.2兆円という中堅の規模は、システム投資と人材の面で不利になりうる。規模を求める再編の相手になる場合、株主にとっての条件は見通しにくい。大手・ネット銀行との預金獲得競争でも、規模の差は響く。
今後の分かれ目
- 実質与信費用が年100億円を超える
- 利益は3割以上減り、ROE は6%台へ下がる。10年の悲観に近い筋書きの確率が上がり、本質価値は下に動く。
- 2028年度までに経常500億円超・ROE 11%以上を実質の利益で達成する
- 強気の筋書きの確率が上がる。標準の税率でも11%を超えれば、PBR 1.3〜1.5倍が正当化され、割高の度合いは小さくなる。
- 短期金利が2%に早く届き、預金の追随が遅れる
- 利ざやの広がりが前倒しされ、利益は上振れる。ただし預金競争の揺り戻しが10年の利益を抑える。
- クレディセゾンが持株を大きく買い増す(TOBを含む)
- 買収の上乗せで株価は上がりうるが、本質価値の評価は変わらない。筋書きでは考慮せず、変化は割安度の見直しとして読む。
- 不動産価格が大きく下がり、担保評価の見直しが広がる
- 投資用不動産ローンの新規実行が縮み、既存の貸出の与信費用が増える。利益の落ち込みは、他の地銀より大きく出る。
- 預金金利の追随率が想定を超えて上がる
- コア粗利益の伸びが計画を下回り、経費率が悪化する。10年の中立の利ざやは0.2%ほど縮み、純利益は2割減る。
見ておくもの
- 実質与信費用(通常発生・予防的引当・戻入)の内訳と、標準税率に直した純利益
- コア業務粗利益(770億円の計画)と、経費率(50%程度の計画)の進み具合
- 短期プライムレートと、預金金利の追随率(流動性預金40%・定期80%の想定との差)
- 不動産関連の新規実行額(2026年度計画3,170億円)と、旧・特定不動産領域の比率(25%)
- クレディセゾンの持株比率とアライアンス事業の収益、預金調達の実績
- 自己資本比率(実質10%目標)と、自社株買い・配当・政策保有株の売却の進み具合
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価を見ずに、10年後のROE・資本コスト8.5%(基本7.5%に品質+1.0%)・g3%からPBRを出し、ROEが資本コストを超える筋書きは正当化PERの上限(g4.5%・残る割合1/2)の約9割で置いた。ROEが資本コストを下回るやや悲観は稼ぐ力に近い水準、悲観は稼ぐ力が小さいので売れる資産の床(優良な貸出は簿価近く、不動産関連は大きな値引き)から置いた。中立の倍率を上限の9割にしたのは、2026/03期の税の軽さ・不動産への偏り・自己資本の薄さで利益の質が地銀の標準より低いため。銀行のROEは10%を超えた分を半分だけ数える決まりにも沿った。標準税率のROEと計画の7割の実現という前提から出した結果で、今の高いPBR(1.47倍)に寄せていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PBR 1.23→1.184 倍・やや楽観 PBR 1.14→1.108 倍・中立 PBR 1.02→1.006 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。資本コストは基本7.5%に quality +1.0% を足した 8.5%(β・規模は使わない)。貸出の約7割が不動産関連で景気の悪化に先に痛み循環+0.5、貸出金利は市場で決まり値決め力+0.25、銀行の借金は仕入れで0、シェアハウス問題の傷は癒えたが旧来の不動産ローンへの偏りが残り寿命+0.25。合計+1.0%。