結論
山口フィナンシャルグループは、山口銀行・もみじ銀行・北九州銀行の 3 行を束ねる地方銀行グループだ。貸出は約 9 兆円で、中国・北九州では最大級の規模がある。筆者の結論は、やや割高である。安全域は厚くない。
稼ぎの中心は貸出の利ざやだ。短期金利が 2% に向かえば、貸出の利回りは預金コストより先に上がる。会社は今期の純利益を 450 億円と見ており、前期より 4 割ほど増える。5 年後の目標は 600 億円、ROE(自己資本に対する利益の割合)は 8% 程度だ。
弱みも見ておきたい。山口県は人口の減り方が速く、貸出の量は伸びにくい。3 つの地盤に分かれた体制は、経費を重くしてきた。2022 年 3 月期には、含み損の債券を整理して最終赤字になった。
筆者は、中立でも ROE は 7% 台後半どまりと見る。同業の上位には届かない。10 年後の値打ちは今の値段より 1 割強低い(−11.8%)。一方、悲観の筋書きでは今の半分を割る。上振れの根拠は、勘定系システムの統一による経費の減少と、再編に動ける土台にある。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、筆者がオーナーとして持ちたいのは、10 年後も同じ稼ぎが続く会社だ。山口 FG は山口県の顧客基盤という堀があり、事業が消える心配は小さい。ここは評価できる。
問題は、株主のものになる利益の質だ。銀行の利益は、与信費用と債券の損益で毎年ぶれる。ここ 4 年の純利益は 180 億円から 350 億円の間を動いた。ならした稼ぐ力は、今の予想 450 億円より低い可能性がある。
資本の使い方は、良い方向に変わった。自社株買いと増配に傾き、成長を無理に買いにいっていない。一方、地域企業への出資は経験の浅い分野で、損失の出方が読みにくい。
安全域は広くない。今の値段は、利ざやの改善がほぼ計画どおり進むことを織り込む。外れたときの下げは大きい。確信度は中程度にとどまる。筆者なら、大きくは持たず、値段が下がったときに少し持つ程度にとどめる。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの土台は、3 つの銀行による貸出と預金だ。山口銀行は山口県の最大手で、東京商工リサーチのメインバンク調査では 9 年連続の首位と報じられている。県内シェアは 6 割ともいわれる。もみじ銀行は広島、北九州銀行は北九州市を地盤にする。人口の多い広島と北九州が、山口県の細りを補う形だ。
事業は 4 つに分けて見る。第 1 は法人・公共向けの貸出で、残高は 6 兆円ほどと推定する。第 2 は個人向けの貸出で、住宅ローンが主役だ。第 3 は有価証券の運用で、残高は 2 兆円ほど。預金の余りを国債や外債に回して稼ぐ。第 4 は投信・保険・決済・事業承継の手数料だ。
近年の力点は第 4 にある。地域企業に貸すだけでなく、出資を加えて経営に入り込む「同舟共命型」を掲げる。受け皿は、子会社 4 社を 2025 年に統合した YMFG グロースパートナーズだ。一方で、保険ひろばをほけんの窓口グループへ譲るなど、軸から外れた事業は整理している。
総資産は 13 兆円超、預金は約 11 兆円。預金が貸出より大きく、余った資金が有価証券に回る。このため、債券の相場と売却損益が決算を揺らしやすい。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねしにくい強みは、山口県内の顧客基盤だ。県内の企業と自治体との取引は深く、乗り換えは起きにくい。預金も粘る。筆者が最も評価するのはここだ。
ただし、堀は県境で薄まる。広島ではひろぎんホールディングス傘下の広島銀行、北九州ではふくおかフィナンシャルグループ傘下の福岡銀行や西日本シティ銀行と競う。いずれも挑戦者の立場で、利ざやを守る力は強くない。
資本効率は低い。ROE は 5% 前後で、同業の上位に届かない。2022 年 3 月期には、含み損の外債と投信を売って最終赤字に沈んだ。有価証券を厚く持つ構造が、利益をぶらす。
経営の足並みにも課題があった。2021 年には、新銀行構想をめぐってトップの解任・辞任に至る内紛があり、構想は中止された。今の体制は 2020 年就任の社長のもと、3 行の勘定系システムの統一(2029 年 1 月予定)とグループ経営の効率化を進める。改善の途上で、結論を出すには早い。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
地方銀行は、30 年続いた低金利が終わり、稼ぎ方が変わる局面にいる。短期金利は 2% へ向かい、10 年国債は 3% で落ち着く前提だ。貸出の利回りは上がり、預金の利息も上がる。差し引きの利ざやは広がる。ただし預金の利息をどこまで上げるかは、銀行同士の競争で決まる。
量の側は逆風だ。山口県の人口は全国より速く減る。広島と北九州は踏みとどまるが、増えはしない。実質の貸出は横ばいか微減が普通で、成長は利ざやと手数料から来る。
業界の最大のテーマは再編だ。千葉銀行と千葉興業銀行、しずおかフィナンシャルグループと名古屋銀行が統合で基本合意するなど、「1 県 1 行」へ向かう動きが速い。規模が増えれば、システム費や店舗の費用が薄まる。再編に乗れない単独の銀行は、経費率が下がらず苦しくなる。
山口 FG は、この再編に自ら動ける位置にいる。3 行の勘定系を 2029 年 1 月に統一する計画で、投資は 80 億円、運用費は 3 割減る見込みだ。他の地銀を受け入れやすい土台になる、と報じられている。
循環の位置は、利上げの初期から中盤だ。与信費用はまだ低い。景気が崩れれば、中小企業向け貸出の不良化と債券の評価損が同時に利益を削る。
資本政策と M&A
株主還元は、強まる方向にある。中期経営計画は累進配当、つまり減らさずに増やす配当を掲げ、配当性向を 2029 年度までに 50% 程度へ引き上げる。自社株買いは前期に 150 億円、今期は上限 100 億円で、7 年連続になる。今期の配当は前期より 5 割ほど増える見込みだ。
筆者はこの方針を歓迎する。自己資本が厚い割に稼ぎが小さい会社は、利益を返す方が株主の取り分は増える。ただし返しすぎれば、債券の含み損に耐える力が落ちる。自己資本比率は単純計算で 5% 台しかない。
M&A は二面ある。買い手に回る道と、再編の波に飲まれる道だ。勘定系の統一は前者の準備に見える。会社の外から見た 10 年以内の買収・TOB の確率は、kabufu の試算で 14.5% だ。事業の整理は進み、子会社 4 社の統合と保険ひろばの譲渡が済んだ。政策保有株は、2022 年 3 月末の簿価の 2 割強を 2024 年 3 月までに減らした。
2026年4月〜7月の自己株式取得(前期枠の残り約29億円と今期枠100億円、計約129億円)は実行済みで、株数に反映した。この分は10年の還元に入れていない。今期の枠は使い切った。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
短期金利が 2% に向かう世界は、銀行に追い風だ。貸出の利回りは速く上がり、預金の利息は遅れて上がる。その差が利ざやになる。山口 FG は貸出が約 9 兆円と大きく、利ざやが 0.1% 広がるだけで、年に 90 億円ほど利益が増える。
今期の予想純利益は 450 億円で、前期の 330 億円から大きく増える。前期は調達費用の先行と債券の売却損が利益を押し下げた。その一過性が消えるだけで、利益は戻る。中計の 600 億円は、地盤が小さく伸びれば届く水準だ。
構造の改善も続く。3 行の勘定系を統一すれば、運用費は 3 割減る。法人営業を 300 名超増やす投資は、手数料を伸ばす。配当性向を 50% へ上げ、自社株買いも続けるので、ROE の改善は還元からも来る。
最後に再編がある。システムを揃えた山口 FG は、他行を受け入れやすい。地銀の再編は規模の利益を生みやすく、PBR が 1 倍の今は、その上振れに値段が付いていない。
慎重な見方
金利上昇の恩恵は、預金の利息の上昇で削られる。山口 FG は預金が貸出より大きく、預金コストに敏感だ。実際、前期は資金調達費用の増加で経常利益が 14% 減った。利ざやが計画どおり広がる保証はない。
量の側は弱い。山口県は人口減が速く、貸出需要は縮む。広島と北九州は競合が強く、広島銀行や福岡銀行に価格で勝ちにくい。利ざやを守るために貸出の条件を緩めれば、与信費用が増える。
有価証券を 2 兆円持つ構造は、金利が上がるたびに含み損の不安を抱える。2022 年 3 月期の赤字は、その整理で起きた。同じことが再び起きないとは言えない。
ROE は 5% 前後で、計画の 8% でも同業の上位より低い。2021 年には内紛でトップが去るなど、ガバナンスが揺れた過去もある。地域企業への出資は、景気が悪化すれば損失を生む。
今期予想でも PER は 14 倍台で、利益の質に比べて割安とは言えない。
どちらに重みを置いたか
利益が今期予想へ戻る点は、一過性の剥落で説明がつき、強気の見方が強い。しかし中計の 600 億円の先と、8% を超える ROE は、人口減と預金競争のせいで確かではなく、ここは慎重な見方に分がある。そこで確率は、楽観をやや薄くし、やや悲観と悲観を同業より厚くした。今の値段は本質価値より 1 割強高く、総合はやや割高に出る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,211 円8,485 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,652 円3,328 億円)。 今の値に割り戻すと 3,017 円6,079 億円、今との差 −2.1%、 期待の年率 +6.6%(資本コスト 8.3%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 11% | 6,520 円1.31 兆円 | 2,376 円4,788 億円 | +188.6% | +11.2% | 979 円1,972 億円 |
| やや楽観 | 24% | 5,536 円1.12 兆円 | 2,036 円4,103 億円 | +145.7% | +9.4% | 1,817 円3,662 億円 |
| 中立 | 30% | 4,470 円9,005 億円 | 1,693 円3,412 億円 | +100.0% | +7.2% | 1,849 円3,725 億円 |
| やや悲観 | 22% | 3,011 円6,066 億円 | 1,299 円2,618 億円 | +39.8% | +3.4% | 948 円1,910 億円 |
| 悲観 | 13% | 1,247 円2,512 億円 | 828 円1,668 億円 | −32.7% | −3.9% | 270 円543 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,211 円8,485 億円 | 1,652 円3,328 億円 | +90.2% | +6.6% | 5,863 円1.18 兆円 |
今の株価時価総額 3,082 円6,209 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 11% 再編の中心に立ち、経費率が大きく下がる 10 年 利益 981 億円 · PER 13.4 倍 · 株価時価総額 6,520 円1.31 兆円
短期金利 2%・長期金利 3% が定着し、貸出の利ざやは高い水準で安定する。勘定系の統一で運用費は 3 割減り、OHR は 40% 台の後半まで下がる。他行との提携が進み、システムの共用による規模の利益が出る。YMFG グロースパートナーズの出資は成功例を積み、手数料が貸出と並ぶ柱になる。配当性向は 50% を超え、ROE は 10% 台に乗る。広島と北九州で取り込んだ顧客が、山口県の細りを大きく上回る。この筋書きでは、山口 FG は「中国・九州北部の再編の核」として評価され、同業の優等生と並ぶ。経営の資本配分も改善し、増配と自社株買いが利益の大半を株主へ返す。
- 法人・公共向け貸出:数量 6.0(法人・公共向け貸出残高(実質・兆円。今の値段のまま))× 価格 1.8%(貸出利ざや(%)× 物価の指数(残高の物価上昇分を含む名目))→ 売上 1,085 億円・営業利益 636 億円。残高(実質)6.00 兆円 × 名目の利ざや・料率 1.81%、利益率 59%
- 個人向け貸出:数量 2.9(個人向け貸出残高(実質・兆円))× 価格 1.6%(貸出利ざや(%)× 物価の指数)→ 売上 456 億円・営業利益 222 億円。残高(実質)2.91 兆円 × 名目の利ざや・料率 1.57%、利益率 49%
- 有価証券運用:数量 2.2(有価証券残高(実質・兆円))× 価格 1.5%(運用の利ざや(%)× 物価の指数)→ 売上 336 億円・営業利益 257 億円。残高(実質)2.24 兆円 × 名目の利ざや・料率 1.50%、利益率 77%
- 預り資産・ソリューション:数量 3.9(手数料の基になる取扱高(預り資産・決済・ソリューション合計、実質・兆円))× 価格 1.3%(実効手数料率(%)× 物価の指数)→ 売上 516 億円・営業利益 306 億円。残高(実質)3.88 兆円 × 名目の利ざや・料率 1.33%、利益率 59%
倍率:事業の純利益 981 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.3% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.4 倍。全体の PER 13.39 倍、時価総額 13,136 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:利ざやの定着、勘定系の統一による経費減、他行を取り込む再編の成功が、すべてそろう場合。会社の計画を大きく超えるので 1 割ほど。
やや楽観 24% 計画どおり進み、ROE が 10% を超える 利益 879 億円 · PER 12.7 倍 · 株価時価総額 5,536 円1.12 兆円
利ざやは高めの水準で定着し、中計の 600 億円を早めに超える。経費率は統一したシステムで下がり、OHR は 48% 前後になる。手数料は預り資産の増加で伸び、広島と北九州は踏みとどまる。山口県の貸出は減るが、利ざやと手数料の伸びが吸収する。再編の話は出るが、大型の統合には至らない。ROE は 9% 台に乗る。成長は派手ではないが、利ざやと手数料の両輪が回る、安定した銀行になる。自己資本は薄く、返しながら ROE を上げる形で、資本の使い方が評価される。手数料は預り資産の増加と事業承継・M&A の仲介で伸び、貸出の利ざやの伸びが鈍る年も下支えする。地域企業への出資は、全体でみれば小さな黒字になる。
- 法人・公共向け貸出:数量 5.9(法人・公共向け貸出残高(実質・兆円。今の値段のまま))× 価格 1.8%(貸出利ざや(%)× 物価の指数(残高の物価上昇分を含む名目))→ 売上 1,044 億円・営業利益 592 億円。残高(実質)5.94 兆円 × 名目の利ざや・料率 1.76%、利益率 57%
- 個人向け貸出:数量 2.9(個人向け貸出残高(実質・兆円))× 価格 1.5%(貸出利ざや(%)× 物価の指数)→ 売上 433 億円・営業利益 197 億円。残高(実質)2.85 兆円 × 名目の利ざや・料率 1.52%、利益率 46%
- 有価証券運用:数量 2.2(有価証券残高(実質・兆円))× 価格 1.4%(運用の利ざや(%)× 物価の指数)→ 売上 312 億円・営業利益 233 億円。残高(実質)2.17 兆円 × 名目の利ざや・料率 1.44%、利益率 75%
- 預り資産・ソリューション:数量 3.6(手数料の基になる取扱高(預り資産・決済・ソリューション合計、実質・兆円))× 価格 1.3%(実効手数料率(%)× 物価の指数)→ 売上 469 億円・営業利益 259 億円。残高(実質)3.62 兆円 × 名目の利ざや・料率 1.29%、利益率 55%
倍率:事業の純利益 879 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.1% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.7 倍。全体の PER 12.69 倍、時価総額 11,154 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中計の延長線で、利ざやと手数料が着実に伸びる姿。中立と並んで厚くする。
中立 30% 中立:利ざやは定着し、ROE は 8% 台にとどまる 利益 743 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 4,470 円9,005 億円
短期金利 2%・長期金利 3% が定着し、貸出の利ざやは高めで安定する。山口県の貸出は 1 割弱減り、広島と北九州は横ばいだ。勘定系の統一で経費の伸びは抑えられるが、人件費の上昇で打ち消される部分も大きい。手数料は預り資産の増加で伸びる。与信費用は景気の 1〜2 周を経て平均に戻る。純利益は 740 億円ほどで、ROE は 7% 台後半。配当性向は会社の計画どおり 50% 程度に達し、自社株買いを足して同業の中位として続く。同業の中位という位置づけで、割安にも割高にもならない収れんの姿だ。物価が上がる分、貸出残高と手数料は名目で膨らむが、経費も同じだけ増える。実質の稼ぐ力は大きく変わらない。
- 法人・公共向け貸出:数量 5.8(法人・公共向け貸出残高(実質・兆円。今の値段のまま))× 価格 1.7%(貸出利ざや(%)× 物価の指数(残高の物価上昇分を含む名目))→ 売上 978 億円・営業利益 515 億円。残高(実質)5.82 兆円 × 名目の利ざや・料率 1.68%、利益率 53%
- 個人向け貸出:数量 2.8(個人向け貸出残高(実質・兆円))× 価格 1.4%(貸出利ざや(%)× 物価の指数)→ 売上 404 億円・営業利益 163 億円。残高(実質)2.79 兆円 × 名目の利ざや・料率 1.45%、利益率 40%
- 有価証券運用:数量 2.1(有価証券残高(実質・兆円))× 価格 1.4%(運用の利ざや(%)× 物価の指数)→ 売上 292 億円・営業利益 211 億円。残高(実質)2.13 兆円 × 名目の利ざや・料率 1.37%、利益率 72%
- 預り資産・ソリューション:数量 3.3(手数料の基になる取扱高(預り資産・決済・ソリューション合計、実質・兆円))× 価格 1.3%(実効手数料率(%)× 物価の指数)→ 売上 409 億円・営業利益 202 億円。残高(実質)3.25 兆円 × 名目の利ざや・料率 1.26%、利益率 49%
倍率:事業の純利益 743 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.9% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 9,005 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:利ざやの広がりと人口減の逆風が相殺し、中計の水準に落ち着く中心の筋書き。
やや悲観 22% 預金競争が続き、規模の劣位が表に出る 利益 556 億円 · PER 10.9 倍 · 株価時価総額 3,011 円6,066 億円
預金の獲得競争が続き、貸出の利ざやは中立ほど広がらない。山口県の貸出は 1 割前後減り、広島・北九州も競争で利ざやが削られる。再編に乗れず、システムの統一の効果は人件費の上昇に食われる。債券の整理損も時おり出る。純利益は 560 億円ほどで、ROE は資本コストを下回る 6% 台にとどまる。優良な地銀とはいえない位置になる。配当は守られるが、成長の物語は薄れ、市場の評価は資本コスト並みに落ち着く。経費の物価上昇に収入の伸びが追いつかない。預り資産の手数料は伸びるが、貸出の利ざやの目減りを埋めるには足りない。統合を持ちかけられても、条件は良くない。
- 法人・公共向け貸出:数量 5.6(法人・公共向け貸出残高(実質・兆円。今の値段のまま))× 価格 1.6%(貸出利ざや(%)× 物価の指数(残高の物価上昇分を含む名目))→ 売上 876 億円・営業利益 414 億円。残高(実質)5.64 兆円 × 名目の利ざや・料率 1.55%、利益率 47%
- 個人向け貸出:数量 2.7(個人向け貸出残高(実質・兆円))× 価格 1.3%(貸出利ざや(%)× 物価の指数)→ 売上 358 億円・営業利益 117 億円。残高(実質)2.70 兆円 × 名目の利ざや・料率 1.33%、利益率 33%
- 有価証券運用:数量 2.1(有価証券残高(実質・兆円))× 価格 1.3%(運用の利ざや(%)× 物価の指数)→ 売上 264 億円・営業利益 183 億円。残高(実質)2.09 兆円 × 名目の利ざや・料率 1.26%、利益率 69%
- 預り資産・ソリューション:数量 2.9(手数料の基になる取扱高(預り資産・決済・ソリューション合計、実質・兆円))× 価格 1.2%(実効手数料率(%)× 物価の指数)→ 売上 347 億円・営業利益 140 億円。残高(実質)2.88 兆円 × 名目の利ざや・料率 1.21%、利益率 40%
倍率:10年後のROE6.3%(純利益556億円÷自己資本8,865億円)は k8.25% 以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、PERは1÷k=12.1倍までが上限。競争や統合の遅れで稼ぐ力が鈍る姿。上限の9.0割に置き、10.91倍。今の自己資本6,682億円に対する倍率は0.91倍。稼ぐ力から出した値で、自己資本の何割という置き方はしていない。
確率:預金の利息の上昇が重く、再編でも出遅れる。同業の中で見劣りする、起こりやすい下振れとして 2 割強。
悲観 13% 構造的に負け、資本効率が戻らない 10 年 利益 259 億円 · PER 9.7 倍 · 株価時価総額 1,247 円2,512 億円
10 年のどこかで世界的な信用収縮が起き、与信費用と債券の評価損が同時に出る。山口県の人口減は想定を超えて加速し、貸出需要が縮む。広島と北九州では競合に押され、利ざやを守れない。再編に乗れず、システムの統一も効果が薄い。地域企業への出資は損失を出す。純利益は 260 億円ほどで、ROE は 4% 弱にとどまる。もう優良な地銀ではなくなっている。この筋書きでは再編の際に買われる側に回る可能性もあるが、そのときの値段は安い。配当は減らしにくく、自己資本が少しずつ削れていく。債券は含み損を抱えたまま、整理するかどうかで経営が揺れる。事業承継や地域再生の出資も、景気の悪化で回収が遅れる。
- 法人・公共向け貸出:数量 5.3(法人・公共向け貸出残高(実質・兆円。今の値段のまま))× 価格 1.3%(貸出利ざや(%)× 物価の指数(残高の物価上昇分を含む名目))→ 売上 706 億円・営業利益 257 億円。残高(実質)5.28 兆円 × 名目の利ざや・料率 1.34%、利益率 36%
- 個人向け貸出:数量 2.6(個人向け貸出残高(実質・兆円))× 価格 1.2%(貸出利ざや(%)× 物価の指数)→ 売上 301 億円・営業利益 67 億円。残高(実質)2.55 兆円 × 名目の利ざや・料率 1.18%、利益率 22%
- 有価証券運用:数量 2.0(有価証券残高(実質・兆円))× 価格 1.0%(運用の利ざや(%)× 物価の指数)→ 売上 206 億円・営業利益 127 億円。残高(実質)2.02 兆円 × 名目の利ざや・料率 1.02%、利益率 62%
- 預り資産・ソリューション:数量 2.4(手数料の基になる取扱高(預り資産・決済・ソリューション合計、実質・兆円))× 価格 1.1%(実効手数料率(%)× 物価の指数)→ 売上 264 億円・営業利益 69 億円。残高(実質)2.38 兆円 × 名目の利ざや・料率 1.11%、利益率 26%
倍率:10年後のROE3.7%(純利益259億円÷自己資本6,973億円)は k8.25% 以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、PERは1÷k=12.1倍までが上限。構造的に負けて優良でなくなった姿。上限の8.0割に置き、9.70倍。今の自己資本6,682億円に対する倍率は0.38倍。稼ぐ力から出した値で、自己資本の何割という置き方はしていない。
確率:リーマン級の信用収縮に加え、人口減の加速・再編での取り残し・債券や出資の損失が重なる。同業より厚めの 13% に置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
法人・公共向け貸出
山口・広島・北九州の企業と自治体への貸出。山口銀行・もみじ銀行・北九州銀行の事業性融資と、成長支援(エクイティ・ソリューション)の入り口。
| 数量法人・公共向け貸出残高(実質・兆円。今の値段のまま) | 価格貸出利ざや(%)× 物価の指数(残高の物価上昇分を含む名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 6.0 | 1.0% | 570 | 225 |
| 10 年後 中立 | 5.8 | 1.7% | 978 | 515 |
取り方:2026/03 末の貸出残高は約 9.0 兆円(3 行合算)。うち法人・公共向けを 3 分の 2 の 6.0 兆円と推定し、預金などの調達費用を引いた実質の利ざやを 0.95% とした。残高の内訳は開示を確かめていない推定。利益は経費と与信費用を引いた後の貢献を推定(2026-10-18)。(点検 2026-10-19:数量は実質・率は物価指数を掛ける形(B)。名目の数量に物価を重ねてはいない。利ざやの広がり分は金利要因)
個人向け貸出
住宅ローンを中心とする個人向け貸出。山口県の下関・山口・周南、広島市周辺、北九州の世帯が相手。
| 数量個人向け貸出残高(実質・兆円) | 価格貸出利ざや(%)× 物価の指数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.0 | 0.9% | 270 | 90 |
| 10 年後 中立 | 2.8 | 1.4% | 404 | 163 |
取り方:個人向け(住宅ローン中心)を 3 分の 1 の 3.0 兆円、利ざやを 0.90% と推定。山口県は人口減が早く、広島・北九州の世帯向けが伸びを支える。内訳は推定。利益は経費を引いた後の貢献(2026-10-18)。(点検 2026-10-19:数量は実質・率は物価指数を掛ける形(B)で二重がけなし)
有価証券運用
預金の余りで買う国債・外債・投信などの運用。調達コストを引いた運用の利ざやが稼ぎで、売却損益が利益をぶらす。
| 数量有価証券残高(実質・兆円) | 価格運用の利ざや(%)× 物価の指数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.1 | 0.8% | 170 | 110 |
| 10 年後 中立 | 2.1 | 1.4% | 292 | 211 |
取り方:有価証券残高は 2.13 兆円(2026/03 末、報道の集計)。国債・外債・投信の利回りから預金などの調達費用を引いた運用の利ざやを 0.80% と推定。前期の債券売却損は、このセグメントではなく調整の欄に入れた(2026-10-18)。(点検 2026-10-19:数量は実質・率は物価指数を掛ける形(B)で二重がけなし)
預り資産・ソリューション
投信・保険の販売、決済、事業承継・M&A・ファンドなどの手数料の仕事。YMFG グロースパートナーズが中心。
| 数量手数料の基になる取扱高(預り資産・決済・ソリューション合計、実質・兆円) | 価格実効手数料率(%)× 物価の指数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.5 | 0.9% | 230 | 80 |
| 10 年後 中立 | 3.3 | 1.3% | 409 | 202 |
取り方:個人の預り資産は 0.62 兆円(報道の集計)。これに法人の決済・事業承継・ファンドなどの取扱高を足し、手数料の基になる取扱高を 2.5 兆円と推定。実効の手数料率 0.92% を掛けた。内訳は推定(2026-10-18)。(点検 2026-10-19:数量は実質・率は物価指数を掛ける形(B)で二重がけなし)
リスクと懸念
預金の利息が上がり、利ざやが伸びない
山口 FG は預金が貸出より大きく、預金コストに敏感だ。前期は資金調達費用の増加で経常利益が 14% 減った。広島や北九州で預金の獲得競争が強まれば、貸出の利回りが上がっても利ざやは広がらない。会社の計画の前提が崩れるのが最大のリスクだ。
山口県の人口減と貸出需要の縮小
堀の源である山口県は、人口の減り方が全国より速い。企業の数も減り、実質の貸出は横ばいか微減になりやすい。広島・北九州の伸びで補えなければ、量の側から利益が細る。広島と北九州は踏みとどまるが、増えはしない。県内シェアが高い分、取れる市場がもう小さいことも重い。
債券の評価損・売却損
有価証券は 2 兆円超で、預金の余りで買った債券が多い。金利が急に上がれば、含み損が自己資本を削り、整理の売却損が利益を押し下げる。2022 年 3 月期の最終赤字と、前期の売却損がその例だ。債券の持ち高は預金の余りの受け皿で、簡単には減らせない。
景気後退による与信費用の急増
与信費用は今は低い。リーマン級の不況が来れば、中小企業向け貸出の不良化が一気に進む。地域企業にリスクを共有する出資を広げているので、損失が貸出以外にも広がる恐れがある。貸出の質だけでなく、取引先の株式や出資の評価も同時に傷む点が、通常の不況より重い。
3 行体制の経費と、システム統一の失敗
3 つの銀行に分かれた体制は、経費を重くしてきた。勘定系の統一は 2029 年 1 月の稼働で、投資は 80 億円、運用費は 3 割減る計画だ。移行で障害や遅れが出れば、効果の実現が後ろにずれる。統一後も、3 行のブランドと店舗網は残すため、全体の経費の減り方は限られる。
ガバナンスの揺れ
2021 年に、新銀行構想をめぐってトップの解任・辞任に至る内紛があった。現体制は 2020 年就任の社長が率いて落ち着いているが、再編や出資の大きな判断が続く局面で、過去の揺れが再び出ないかは見ておく必要がある。
再編の波に乗り遅れる
「1 県 1 行」への再編が進み、大型の統合が相次ぐ。山口 FG が受け身に回れば、規模で劣る単独グループとして経費率が下がりにくい。逆に買い手に回って高い値段で買えば、価値を壊すリスクもある。再編の相手探しは相手任せの面もあり、時間がかかるほど選択肢が減る。
今後の分かれ目
- 日銀の利上げが速まり、貸出の利回りが預金コストより先に上がったら
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。四半期の利ざやで確かめる。
- 預金の利息の引き上げ競争が広島・北九州で激しくなり、資金調達費用が増え続けたら
- やや悲観側に重みを移す。前期の減益の再現を警戒する。
- 債券の評価損が膨らみ、売却による整理が再び出たら
- 利益の質の評価を下げ、悲観側の確率を上げる。ROE 8% の達成は遠のく。
- 勘定系の統一が予定どおり進み、他の地銀との提携・統合が具体化したら
- 経費率の改善と規模の利益を織り込み、楽観側の筋書きを厚くする。ただし買う値段が高ければ価値を壊す。
- 景気後退で与信費用が急増したら
- 悲観の筋書きに近づく。純資産の床(PBR 0.4 倍前後)と、配当・自社株買いの縮小を確かめる。
- 配当性向の引き上げと自社株買いが計画を上回って続いたら
- ROE の改善を前倒しで見てよい。ただし資本の厚みが薄くなりすぎないかを見る。
見ておくもの
- 日銀の政策金利と、3 行の貸出の利ざや・資金調達費用の推移
- 与信費用の水準と、有価証券の評価損益・売却損益
- 中期経営計画の進み具合(純利益 600 億円・ROE 8% 程度・OHR 50% 程度)
- 勘定系システム統一(2029 年 1 月)の進捗と、他行との提携・統合の動き
- 配当性向(50% 程度へ)と自社株買いの規模
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価を見ずに決めた。楽観・やや楽観・中立は10年後のROEとk 8.25%(基本7.5%+quality)・g 4.0%から利益ベースの正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)の上限を出し、その9.5・9・8.5割に置いた(下限は1÷k=12.1倍。利ざやの改善で稼ぐ力が戻る)。やや悲観・悲観はROEがk以下なので、PERは1÷k=12.1倍が上限で、その9割・8割に置いた。悲観の利益は貸出の利ざやが競争で縮み与信費用が重い構造からROE約2%に置き、過去の底値や今の倍率は根拠にしていない。kが1%高い(9.25%)と10年の中立のPERは11.2倍から9.9倍に下がる。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.72→13.39 倍・やや楽観 PER 11.42→12.69 倍・中立 PER 10.79→12.12 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β 0.73 × 5% + 規模 0.50%。基本7.5%に quality +0.75% を足して k 8.25%(決まり v2。β・規模は使わない。内訳と理由は quality_why)。銀行は預金が仕入れなので利払いの式は当てはめず、利ざやで扱う。個別のリスク(3行体制の経費の重さと低い ROE)は k に足さず、確率と筋書きで表す。事業は傾いていないので上乗せ(extra)は 0。同じ地方銀行どうしで同じ物差しを使い、差は quality の4部品だけで出している。
同じ業種(銀行業)の AI 分析
読んだ資料
- YMFG 中期経営計画(2025 年度〜2029 年度)山口フィナンシャルグループ
- 山口FG、新中計で5年後純利益600億円 累進配当も導入(日本経済新聞)
- 〔決算〕山口FG、連結純利益6.6%減=26年3月期(時事通信)
- 【2026年3月期 本決算】山口フィナンシャルグループ(8418)今期の予想と株主還元(あたの投資ノート)
- 山口銀行、もみじ銀行、北九州銀行の勘定系システムを統合、マルチバンク基盤を2029年1月稼働へ(IT Leaders)
- 日本IBM、山口FGのマルチバンク化による勘定系システムの統合を支援
- 山口FG、赤字135億円に 2022年3月期修正、15年ぶり2回目(中国新聞)
- 山口フィナンシャルグループ(Wikipedia)
- 山口FG増収増益/25年3月期 貸出金利息増などで(宇部日報・山口新聞)