結論
武蔵野銀行は、埼玉県を地盤とする地方銀行である。筆者の見立ては、今の値段は10年先の価値とほぼ同じ、というものだ。一番の理由は、金利のある世界で変わる利益の水準が、まだ今の決算に出きっていないことにある。
稼ぎの源は貸出の利ざやだ。貸出は4兆円超、預金は5兆円超あり、預金のほうが多い。日銀の利上げで、この余裕が利益に変わる。会社は今期の純利益を195億円と見込み、来期は234億円まで増える見通しだ。
中計「MCP 2/3」は、4年後に純利益300億円・ROE10%以上を掲げる。筆者は、利ざやの追い風を全部は織り込まず、10年後の中立でROEを9%と見る。過去10年のROEは4%ほどにとどまっていた。そこから見れば大きな改善だ。
不安は2つある。県内には貸出が2倍を超えるりそなが控え、預金の取り合いで利ざやの一部は預金者へ渡る。もう1つは信用コストで、今の低さは長く続かない。単純な自己資本比率は5%と薄く、評価損が重なる局面には弱い。
資本政策は、ためる経営から返す経営へ変わりつつある。配当性向40%、自社株買い、政策保有株の圧縮が進めば、資本効率の改善が価値に織り込まれていく。進まなければ、この安さは当然の値段だったことになる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、武蔵野銀行は「よい事業を、資本を使いきれない会社が持っている」例だ。預金は5兆円超あり、貸出を伸ばせば利ざやで稼げる。地盤の埼玉は大きく、人口の減り方も穏やかだ。事業そのものは、10年後も残る。
問題は資本の使い方だ。過去10年のROEは資本コストを大きく下回り、ためた利益が価値を生んでこなかった。筆者が見たいのは、中計の約束が実際の行動に変わるかどうかだ。政策保有株を売った資金を、貸出の拡大と還元に回せば、オーナー利益(株主の手に残る利益)は増える。
もう1つは、堀の広さだ。県内には2倍の規模のりそながいる。値段を自分で決める力は弱い。だから筆者は、利ざやの追い風を全部は織り込まない姿を中立に置く。
安全域は、規制上の自己資本比率が10%台で、悲観でも資本が厚い点にある。ただし、単純な自己資本比率は5%と薄く、債券の評価損と信用コストが重なる局面には弱い。持ち続けたいと思えるのは、値段が中立の価値を十分に下回る時に限られる。
何で稼ぐ会社か
武蔵野銀行は、埼玉県を主な地盤に、法人と個人の両方へ貸し出す地方銀行だ。貸出残高は4兆3千億円、預金は5兆2千億円ある。稼ぎの源は、貸出の利息と預金の利息の差、つまり利ざやだ。そこに投資信託や保険の手数料、有価証券の運用益が加わる。
法人向けは県内の中小企業が中心になる。事業承継やM&Aの仲介、ストラクチャードファイナンス(案件ごとに返済の原資を組み立てる融資)に力を入れ、利息だけに頼らない稼ぎ方へ広げている。個人向けは住宅ローンが柱で、相続や資産形成の相談を通じて預かり資産を積み上げている。
集めた預金のうち貸出に回りきらない分は、国債や株式などの有価証券で運用する。有価証券は1兆円弱まで減らしてきた。取引先の株を持つ政策保有株は、純資産の16〜22%(資料で数字に幅がある)にあたり、中計で15%未満へ下げる計画だ。
外とのつながりも稼ぎの土台になる。千葉銀行とは包括提携(千葉・武蔵野アライアンス)を結び、互いに株を持ち合う。地方銀行が集まるTSUBASAアライアンスにも加わり、システムや商品を共同で使う。2026年4月から始まった中計「MCP 2/3」は、4年後に純利益300億円・ROE10%以上を目標に掲げる。
優良さと弱いところ
武蔵野銀行の堀、つまり他社がまねしにくい強みは、埼玉という大きな市場での地元の根の深さにある。県の人口は700万人を超え、首都圏の中でも減り方は穏やかだ。中小企業と個人の取引を県内に広く持ち、預金は貸出より1兆円近く多い。預金が潤沢なことは、金利が上がる局面で安く資金を集められる強みになる。
ただし、筆者は「県内の1位」ではないことを重く見る。県内の貸出は埼玉りそな銀行が約8.8兆円と、武蔵野銀行の2倍を超える(2023年3月末)。大企業との取引や預金の取り合いで、りそなの規模に勝つのは難しい。信用金庫の埼玉縣信用金庫も個人と小企業を厚く押さえる。2番手は上に追いつくより、下に抜かれない努力を求められる位置だ。
資本効率は低い。ROEは過去10年で2〜6%にとどまり、中央値は4%ほどだった。資本をためすぎた時期が長い。この点は、2026年の中計で還元を厚くし、政策保有株を減らす方針に変わり始めた。
経営の規律は、改善の途上だ。配当性向の目標は40%、自社株買いの枠は上限100億円と、還元の姿勢は前向きになった。一方で、中計の純利益300億円は今期の2倍にあたる。計画どおりに進むかは、これから数年の実績で確かめる必要がある。
筆者が最も評価するのは、預金が貸出を1兆円近く上回る点だ。この余裕があるから、金利が上がる局面でも預金金利を急いで上げる必要が小さい。逆に、これが崩れた時に何が起きるかも、あとで具体的に考える。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
地方銀行は、30年続いた超低金利の時代を抜け、「金利のある世界」に入った。日銀は2024年にマイナス金利をやめ、短期金利は2%へ向かう。この前提では、変動金利の貸出はほぼ全部、預金は4割ほどが金利の上昇に付いていく。利ざやは広がり、地銀の利益は構造的に増える。
その利ざやを、銀行どうしが預金の取り合いで奪い合う。金利の高いネット銀行や証券会社へ預金が流れれば、預金金利を上げざるをえない。広がった利ざやのどれだけが銀行に残るかは、預金の粘りで決まる。武蔵野銀行は預金が貸出を大きく上回り、この点では有利だ。
埼玉の貸出市場は、りそなグループが約6割(りそな、武蔵野、埼玉縣信金の3行の比)を握る。都内に近い南部は競争が激しく、北部と西部は人口が伸びにくい。貸出は全国で年5%近く伸びているが、地方の中小企業は年1〜3%にとどまるのが普通だ。
業界は再編の途上にある。千葉銀行と千葉興業銀行、しずおかFGと名古屋銀行などが統合に動いた。再編の進んだグループは、システム費と店舗の費用を下げられる。武蔵野銀行は千葉銀行と提携してはいるが、統合は否定されており、独立のまま規模の不利を埋める道を選んでいる。
デジタルの面でも変化は大きい。ネット銀行や証券会社が、預金と資産運用の入り口を奪いつつある。地銀は店舗に頼らず、相続や事業承継のように人が付き添う相談で差をつける道を探している。
資本政策と M&A
資本政策は、ためる経営から返す経営へ変わりつつある。配当は累進(減らさず、増やす)を基本に、配当性向は40%を目標にする。自社株買いも機動的に行い、2026年3月に上限100億円の枠を設けた。政策保有株は2030年3月末までに純資産比15%未満へ下げ、浮いた資金を貸出や投資に回す。
自己資本比率(規制)は10.5%程度を目安にする。資本の厚みを保ちながら、中計で戦略投資に138億円、人材投資に年8億円を投じる。リスクアセットは今の1.3兆円から1.56兆円へ増やし、貸出の伸びで稼ぐ力を高める計画だ。
M&Aは、これまで大きな買収はない。地方銀行の再編では、千葉銀行との持ち合い提携が受け皿の候補になりうる。ただし両行は統合を否定してきた。kabufuの推定では、10年以内にTOB(株式の公開買付け)などで買われる確率は2割ほどある。この可能性は確率の中で考え、買収プレミアムは中立の筋書きに入れない。
還元の点検(P3 2026-10-19):配当性向40%目標の累進配当+自社株買い機動的(100億円枠)。中立の約52%は方針に合わせた値で、直さず。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
短期金利が2%まで上がる間に、変動金利の貸出はほぼ全部が上へ付いていく。武蔵野銀行は預金が貸出を1兆円近く上回り、その預金は地元の給与口座や年金口座で粘りが強い。広がる利ざやの多くを手元に残せる。
今期の経常利益の予想はすでに上方修正され、純利益は195億円、来期は234億円と見込まれる。中計の300億円は、貸出が年3〜4%で伸びれば前倒しで届く。事業承継やM&Aの手数料、相続の預かり資産といった利息以外の稼ぎも、戦略投資に138億円を投じて育てる。
資本政策も変わる。政策保有株を減らして浮いた資金を、配当性向40%と自社株買いで戻す。自己資本が膨らまないのでROEは10%を超えて上がる。千葉銀行との提携が深まれば、システム費の共同利用で経費率が下がる。さらに、再編の受け皿としてTOBの可能性もあり、その確率は2割ほどある。
県内2番手の座は固い。りそなの預金の動きを拾い、人口の伸びる南部で貸出を増やせれば、ROEは13%近くまで届く。
慎重な見方
りそなは県内の貸出の6割に近いシェアを握り、大企業の取引と預金で武蔵野銀行より有利だ。預金が足りなくなればネット銀行や証券会社へ流れ、預金金利を上げざるをえない。広がるはずの利ざやは、預金者に渡る。
経費も物価で膨らむ。人への投資とシステム更新を重ねる中計は、経費率の改善をむしろ遅らせる。貸出の伸びは人口減で2%台にとどまり、中計の300億円は遠い。過去10年のROEは中央値で4%と、資本コストの半分に届いていない。
信用コストは今が低すぎる。景気の後退が来れば与信費用は数倍になりうる。債券の評価損と政策保有株の下落が重なれば、自己資本は簡単に削れる。単純な自己資本比率は5%と薄い。
買収の期待も危うい。千葉銀行との提携は統合を否定しており、TOBの話は出ていない。プレミアムの期待は価値の根拠にならない。
還元の話にも注文がつく。中計は配当性向40%を掲げるが、利益が計画に届かなければ、配当は据え置きか減る。市場の評価は、約束ではなく実績に付く。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうが少し強い。強気の見方は、利ざやの広がりを手元に残せることを前提にするが、預金の取り合いは金利上昇の局面ほど激しくなるのが普通だ。資本効率の低さも過去10年の実績で、中計の約束だけでは消せない。一方、預金の厚さと埼玉の市場の大きさは本物で、悲観の確率を大きく上げる理由はない。このため、強気側の確率は同じ領域の下限の10%に置き、やや慎重と悲観を合わせて37%と、領域の平均より少し重く見た。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,379 円4,250 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,293 円1,255 億円)。 今の値に割り戻すと 2,908 円2,822 億円、今との差 +13.9%、 期待の年率 +8.3%(資本コスト 8.0%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 7,352 円7,134 億円 | 1,812 円1,758 億円 | +258.8% | +13.6% | 916 円889 億円 |
| やや楽観 | 23% | 6,534 円6,341 億円 | 1,652 円1,603 億円 | +220.5% | +12.4% | 1,883 円1,827 億円 |
| 中立 | 30% | 4,945 円4,799 億円 | 1,385 円1,344 億円 | +147.8% | +9.5% | 1,899 円1,843 億円 |
| やや悲観 | 24% | 2,337 円2,268 億円 | 991 円962 億円 | +30.3% | +2.7% | 799 円775 億円 |
| 悲観 | 13% | 742 円720 億円 | 606 円588 億円 | −47.2% | −6.2% | 175 円170 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,379 円4,250 億円 | 1,293 円1,255 億円 | +122.1% | +8.3% | 5,672 円5,505 億円 |
今の株価時価総額 2,554 円2,479 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 強気:計画を上回り、埼玉でりそなに次ぐ存在感を固める 利益 485 億円 · PER 14.7 倍 · 株価時価総額 7,352 円7,134 億円
日銀が政策金利を想定より早く引き上げ、貸出の利ざやが広がる。預金は千葉銀行との提携や地元の給与口座で安く集まり続け、貸出は年3〜4%で伸びる。事業承継やM&A、ストラクチャードファイナンスなどの手数料も育ち、利息に頼らない稼ぎが厚くなる。経費は共通システムの利用で抑えられ、中計の純利益300億円を前倒しで超える。政策保有株の圧縮で浮いた資金は貸出と自社株買いに回り、自己資本が増えにくい。県内でりそなに次ぐ2番手の座は固まり、千葉銀行との関係が資本の面でも深まる余地が出る。ROEは10年後に11%台半ばまで上がる。有価証券の運用益も金利の上昇で増え、与信費用は低いまま推移する。相続を機に、埼玉の資産家層から預かり資産が増える。
- 法人貸出:数量 3.7(法人・事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.6%(貸出から得る利ざや(%、経費を除く粗利))→ 売上 580 億円・営業利益 359 億円。残高 3.74 兆円(名目)× 率 1.55%、営業利益(経常ベースの配分)率 62%
- 個人貸出:数量 2.3(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.5%(貸出から得る利ざや(%、経費を除く粗利))→ 売上 338 億円・営業利益 189 億円。残高 2.33 兆円(名目)× 率 1.45%、営業利益(経常ベースの配分)率 56%
- 資産運用・有価証券・手数料:数量 4.7(預かり資産+有価証券運用残高の合計(兆円))× 価格 1.0%(実効収益率(%、経費を除く粗利))→ 売上 479 億円・営業利益 290 億円。残高 4.65 兆円(名目)× 率 1.03%、営業利益(経常ベースの配分)率 61%
倍率:事業の純利益 485 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.4% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.7 倍。全体の PER 14.71 倍、時価総額 7,134 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中計の純利益300億円を上回るには、貸出の伸びと預金の安さの両方が続く必要がある。会社の今期予想が計画の前倒しで進んでいるので、1割は置く。
やや楽観 23% やや強気:中計をほぼ達成し、利ざやの追い風を取り込む 利益 445 億円 · PER 14.3 倍 · 株価時価総額 6,534 円6,341 億円
中計の目標にほぼ届く10年になる。短期金利は2%で落ち着き、貸出の利ざやは法人も個人も広がる。人口の減る地域でも、東京に近い南部の需要が全体を支える。資産運用や相続、事業承継の手数料が、経費の増加をおおむね補う。与信費用は景気の一巡で平均に戻り、大きな損失は出ない。配当性向40%に自社株買いを重ね、還元は純利益の5割強になる。千葉銀行との提携はシステムや商品の共同利用で実を結び、経費率が少しずつ下がる。ROEは10%台半ばまで上がるが、規制資本の制約から、それ以上は伸びにくい。有価証券は円金利債への入れ替えが進み、運用益が安定して積み上がる。相続や事業承継の相談件数も増え、手数料の収入が伸びる。
- 法人貸出:数量 3.7(法人・事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.6%(貸出から得る利ざや(%、経費を除く粗利))→ 売上 568 億円・営業利益 344 億円。残高 3.67 兆円(名目)× 率 1.55%、営業利益(経常ベースの配分)率 61%
- 個人貸出:数量 2.3(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.4%(貸出から得る利ざや(%、経費を除く粗利))→ 売上 328 億円・営業利益 177 億円。残高 2.29 兆円(名目)× 率 1.43%、営業利益(経常ベースの配分)率 54%
- 資産運用・有価証券・手数料:数量 4.6(預かり資産+有価証券運用残高の合計(兆円))× 価格 1.0%(実効収益率(%、経費を除く粗利))→ 売上 456 億円・営業利益 264 億円。残高 4.56 兆円(名目)× 率 1.00%、営業利益(経常ベースの配分)率 58%
倍率:事業の純利益 445 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.6% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.3 倍。全体の PER 14.25 倍、時価総額 6,341 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:今期の経常利益予想が上方修正され、計画の道筋に乗っている。この筋書きには中立よりやや軽い確率を置く。
中立 30% 中立:金利は定着し、中計は少し遅れて届く 利益 363 億円 · PER 13.2 倍 · 株価時価総額 4,945 円4,799 億円
短期金利2%・長期金利3%が定着する。貸出は埼玉の人口の伸び悩みで年3%前後に落ち着くが、利ざやは広がる。一方で預金の取り合いは続き、広がった利ざやの一部は預金者に渡る。経費も物価並みに増え、人への投資とシステム更新が重なる。与信費用は景気の一巡でならした水準に戻る。中計の300億円は少し遅れて届き、10年後の純利益はその先の緩やかな成長にとどまる。千葉銀行との提携は実務の協力にとどまり、統合は起きない。政策保有株は計画どおり減り、還元が増える。ROEは9%まで上がるが、そこで頭打ちになる。有価証券の運用益は金利の上昇でゆるやかに増える。預かり資産や事業承継の手数料も、標準的な伸びで積み上がる。
- 法人貸出:数量 3.5(法人・事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.5%(貸出から得る利ざや(%、経費を除く粗利))→ 売上 530 億円・営業利益 301 億円。残高 3.54 兆円(名目)× 率 1.50%、営業利益(経常ベースの配分)率 57%
- 個人貸出:数量 2.2(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.4%(貸出から得る利ざや(%、経費を除く粗利))→ 売上 298 億円・営業利益 144 億円。残高 2.21 兆円(名目)× 率 1.35%、営業利益(経常ベースの配分)率 48%
- 資産運用・有価証券・手数料:数量 4.4(預かり資産+有価証券運用残高の合計(兆円))× 価格 1.0%(実効収益率(%、経費を除く粗利))→ 売上 425 億円・営業利益 229 億円。残高 4.38 兆円(名目)× 率 0.97%、営業利益(経常ベースの配分)率 54%
倍率:事業の純利益 363 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.0% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.2 倍。全体の PER 13.22 倍、時価総額 4,799 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:金利が2%で定着し、与信費用が景気の一巡で平均に戻る。最も重みを置く中心の筋書き。
やや悲観 24% やや慎重:預金競争と経費増で利益が伸び悩む 利益 216 億円 · PER 10.5 倍 · 株価時価総額 2,337 円2,268 億円
預金の取り合いが長引き、利ざやの広がりは業種の物差しの7割ほどにとどまる。物価で人件費・システム費が増え、経費率が思うように下がらない。貸出は年2%台の伸びで、りそなや信用金庫との競争で、金利の低い案件も増える。与信費用は景気後退期に一度大きく膨らむ。政策保有株の圧縮は進むが、評価益が消える分を自己資本が埋めきれない。千葉銀行との提携は、実務の協力にとどまる。純利益は今より4割ほど増えるだけで、ROEは5%台後半にとどまる。資本コストを下回る期間が長く続き、市場からは資本効率を問われ続ける。手数料の収入は伸びるが、利息の減った分を埋めるほどではない。人への投資を削れば将来の成長が止まるため、経費も切りにくい。
- 法人貸出:数量 3.3(法人・事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.4%(貸出から得る利ざや(%、経費を除く粗利))→ 売上 448 億円・営業利益 219 億円。残高 3.25 兆円(名目)× 率 1.38%、営業利益(経常ベースの配分)率 49%
- 個人貸出:数量 2.0(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.3%(貸出から得る利ざや(%、経費を除く粗利))→ 売上 255 億円・営業利益 101 億円。残高 2.04 兆円(名目)× 率 1.25%、営業利益(経常ベースの配分)率 40%
- 資産運用・有価証券・手数料:数量 4.0(預かり資産+有価証券運用残高の合計(兆円))× 価格 0.9%(実効収益率(%、経費を除く粗利))→ 売上 364 億円・営業利益 168 億円。残高 3.96 兆円(名目)× 率 0.92%、営業利益(経常ベースの配分)率 46%
倍率:10年後のROE5.9%(純利益216億円÷自己資本3,692億円)。ROEはk8%以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、PERは1÷k=12.5倍までが上限。上限の8.4割に置き、10.5倍。還元を会社の方針(52%)に合わせたため自己資本が厚くなった。
確率:預金の取り合いが長引く、経費の増加が利ざやの改善を食う、といった筋書きは現実味が高い。ROEが過去に4%台だった会社なので、中立より重く見る。
悲観 13% 悲観:県内で押され、資本効率が戻らない 利益 72 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 742 円720 億円
10年のどこかで信用収縮が起き、与信費用が膨らむ。債券の評価損も重なり、利益が資本を削る年が出る。県内ではりそなが預金と大企業を、信用金庫が個人と小企業を握り、武蔵野銀行は金利の低い案件を拾う側に回る。人口減で貸出は伸びず、経費は物価で増え続ける。千葉銀行との提携も実を結ばない。戦略投資は収益化せず、のれんと投資の減損が出る。自己資本の厚みで生き延びるが、稼ぐ力は資本コストを大きく下回る。経営の独立を保てるかが問われ、再編の受け皿を探す段階に入る。それでも、買収の値段に期待はしない。預かり資産の手数料も、ネット証券との競争で率が下がる。株主への還元は、資本を守るために配当にとどまり、自社株買いは止まる。
- 法人貸出:数量 2.7(法人・事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.2%(貸出から得る利ざや(%、経費を除く粗利))→ 売上 328 億円・営業利益 99 億円。残高 2.73 兆円(名目)× 率 1.20%、営業利益(経常ベースの配分)率 30%
- 個人貸出:数量 1.7(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.1%(貸出から得る利ざや(%、経費を除く粗利))→ 売上 187 億円・営業利益 33 億円。残高 1.70 兆円(名目)× 率 1.10%、営業利益(経常ベースの配分)率 18%
- 資産運用・有価証券・手数料:数量 3.3(預かり資産+有価証券運用残高の合計(兆円))× 価格 0.9%(実効収益率(%、経費を除く粗利))→ 売上 290 億円・営業利益 94 億円。残高 3.30 兆円(名目)× 率 0.88%、営業利益(経常ベースの配分)率 32%
倍率:10年後のROE2.4%(純利益72億円÷自己資本3,034億円)。ROEはk8%以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、PERは1÷k=12.5倍までが上限。上限の8.0割に置き、10倍。還元を会社の方針(52%)に合わせたため自己資本が厚くなった。
確率:県内でりそなと信用金庫に挟まれ、人口減と有価証券の評価損が重なる筋書き。10年という長さで1割強は置く。同じ領域の会社と同水準。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
法人貸出
埼玉県内の中小企業を中心とする法人・事業性融資と、事業承継・M&A・ストラクチャードファイナンス関連。
| 数量法人・事業性貸出残高(兆円) | 価格貸出から得る利ざや(%、経費を除く粗利) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.6 | 1.1% | 273 | 115 |
| 10 年後 中立 | 3.5 | 1.5% | 530 | 301 |
取り方:貸出残高4.31兆円のうち法人・事業性向けを約6割の2.6兆円と推定し、利ざやを1.05%とした。営業利益は銀行のため経常利益の配分で、経費と与信費用を引いた後の姿。預金ベータ(政策金利の上げに預金金利が付いていく割合)を40%とすると、短期金利が1%前後から2%へ上がる間に、中立の利ざやは10年で+0.45%広がる(利ざやは率なので物価では上がらない)。残高は名目で伸び、中立で年3.1%(物価3%+実質0.1%、地元の人口減を含む)。 【2026-10-19 確認】数量は名目、率は物価を掛けていない(率は金利・手数料などの事業の理由でだけ動かす)。
個人貸出
住宅ローンと、地主・資産家向けの不動産関連融資を中心とする個人向け貸出。
| 数量個人向け貸出残高(兆円) | 価格貸出から得る利ざや(%、経費を除く粗利) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.7 | 1.0% | 162 | 55 |
| 10 年後 中立 | 2.2 | 1.4% | 298 | 144 |
取り方:貸出残高の残り約4割を個人向け1.7兆円と推定し、住宅ローン等の利ざやを0.95%とした。預金ベータ40%で、中立の利ざやは10年で+0.40%広がる。残高は名目で伸び、中立で年2.7%(物価3%、地元の人口減を含む)。 【2026-10-19 確認】数量は名目、率は物価を掛けていない(率は金利・手数料などの事業の理由でだけ動かす)。
資産運用・有価証券・手数料
投資信託・保険等の預かり資産、有価証券の運用益、事業承継・M&A等の手数料収入。
| 数量預かり資産+有価証券運用残高の合計(兆円) | 価格実効収益率(%、経費を除く粗利) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.0 | 0.9% | 270 | 135 |
| 10 年後 中立 | 4.4 | 1.0% | 425 | 229 |
取り方:有価証券約1兆円と預かり資産・手数料の対象残高約2兆円の合計3.0兆円を推定し、実効収益率を0.90%とした(開示が無いため推定)。預かり・運用残高は名目で伸び、中立で年3.9%。収益率は率なので物価では上がらない。 【2026-10-19 確認】数量は名目、率は物価を掛けていない(率は金利・手数料などの事業の理由でだけ動かす)。
リスクと懸念
預金の流出と預金金利の上昇
金利が上がる局面では、預金がネット銀行や証券会社へ動く。預金金利を上げれば、広がるはずの利ざやが縮む。武蔵野銀行は預金が貸出より多く強みだが、この前提が崩れれば利益の伸びが鈍る。預金の動きは決算に数字で出るので、四半期ごとの預金残高と調達金利を追う価値がある。
埼玉県内でのりそなとの競争
県内の貸出は埼玉りそな銀行が武蔵野銀行の2倍を超える。大企業の取引や預金の取り合いで、規模の差は価格の面でも出る。2番手が低い金利で案件を取れば、利ざやの広がりは見込みより小さくなる。特に法人向けは、大口の案件ほどりそなやメガバンクと競う場面が増える。
信用コストの急増
今の与信費用は歴史的に低い。景気の後退期には、中小企業向けの貸倒れが数倍に増える。リーマン級の収縮なら、利益が数年分消えることもありうる。単純な自己資本比率は5%と薄い。貸倒れは景気の後退から遅れて出るので、今の低さを安心の材料にしにくい。
債券と政策保有株の評価損
金利が上がると債券の評価額は下がり、株価の下落は政策保有株を直撃する。自己資本の一部は評価益で成り立っており、反転すれば資本が減る。政策保有株の圧縮が遅れる点も気になる。評価損は一時的な動きでも、規制資本の計算に響く場面がある。
経費の増加と戦略投資の不発
中計は戦略投資に138億円、人材投資に年8億円を投じる。物価による人件費の上昇も続く。投資が収益に変わらなければ、経費率の目標(コアOHR55%以下)は届かない。のれんの減損も起きうる。計画の経費は先に出て、収益は後から付く。この時間差が数年の利益を削る。
人口の減少と貸出の伸び悩み
埼玉は首都圏の中では減り方が穏やかだが、北部と西部は減少が進む。貸出は年3%前後に落ちる見込みで、今期の2倍の純利益は貸出の量ではなく利ざやと手数料に頼る。量が足りなければ届かない。貸出が伸びない場合、利ざやを広げる以外に打つ手が少なくなる。
政策保有株の売却と取引先との関係
売却は取引先との関係維持の面から急げない。2030年3月末の目標が遅れれば、資本効率の改善も遅れる。売却益は一時的で、本来の稼ぐ力ではない。売却のペースは、取引先の反応と市場の株価の両方に左右される。
今後の分かれ目
- 短期金利が計画より速く2%へ上がり、預金金利の上昇が緩やかなら
- 強気の確率を上げてよい。貸出の利ざやと純利益の予想が、中計の目標に向けて前倒しで上がるかを決算で確かめる。
- 預金の流出が続き、預金金利が貸出より速く上がるなら
- 利ざやの広がりは小さくなり、やや慎重・悲観側の確率を上げる。預金残高の前年比と調達金利を見る。
- 埼玉県内の与信費用が四半期で急増したら
- 悲観側へ寄せる。同時に債券の評価損も重なっていないかを確認する。
- 政策保有株の売却が前倒しで進み、自社株買いが追加されたら
- 自己資本が膨らまず、ROEの上がり方が速くなる。中立の見方は強気側へ寄る。
- 千葉銀行との提携が資本や共通システムの面で深まったら
- 経費率の改善が確かになる。ただし統合が示されるまでは、買収プレミアムは筋書きに入れない。
- 戦略投資の収益が計画を下回り、のれんの減損が出たら
- 経営の資本配分に疑いが出る。中立の確率を下げ、やや慎重側へ寄せる。
見ておくもの
- 日銀の政策金利と、預金金利・貸出金利の差(利ざや)の推移
- 埼玉県内の貸出残高と預金残高の伸び(りそな・信用金庫との比較)
- 与信費用と、債券・政策保有株の評価損益
- 中計 MCP 2/3 の進み具合(純利益300億円・ROE10%以上・コアOHR55%以下)
- 政策保有株の売却の進み(純資産比15%未満)と自社株買いの追加
- 千葉銀行との提携の深まり(資本・システム)
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価を見ずに決めた。楽観〜中立は、10年後のROEとk 8%(基本7.5%+quality 0.5%)・g 4.0%から利益ベースの正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)の上限を出し、その9.5・9・8.5割に置いた。やや悲観と悲観はROEがk以下のため、PERは1÷k=12.5倍を上限に、稼ぐ力から出した。10年後の数字は、会社が示す想定政策金利1.25%ではなく、短期2%・長期3%の前提で組んだ。銀行の営業利益は経常利益(税前)で置いた。今の時価総額と比べたのは最後だけである。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.98→14.71 倍・やや楽観 PER 12.83→14.25 倍・中立 PER 12.5→13.22 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%にquality +0.5%を足してk 8%(決まりv2。β・規模は使わない)。銀行は預金が仕入れなので利払いの式は当てはめず、利ざやで扱う。個別のリスク(りそなとの競争・資本効率の低さ・戦略投資の実行)はkに足さず、筋書きと確率で表す。事業は傾いていないので上乗せは0。同じ地方銀行どうしで、横浜FG・千葉銀行と同じquality +0.5%。