結論
セブン銀行は、セブン-イレブンの店先にある ATM で稼ぐ銀行である。利用者が 1 回おろすたびに、提携銀行から手数料が入る。国内の設置は 2.8 万台を超え、年間の利用は 11 億件を超えた。
筆者の結論は、いまの値段は先の成長を織り込みすぎている、というものだ。ファミリーマートが ATM をこの会社に切り替える。4 年で約 1.6 万台という大きな追い風だが、設置のたびに機械代と運営費が先に出る。利益が 2020 年 3 月期の水準に戻る頃には、資本コストをわずかに上回る程度の収益性に落ち着くとみる。
稼ぎの源は単純だが、利益率は見た目ほど高くない。国内 ATM の売上のうち、機械の減価償却、現金の補充、通信、保守が大半を食う。2026 年 3 月期は、クレジットカード事業の減損で純利益が 135 億円まで落ちた。今期の会社予想は 200 億円で、そのうち約 40 億円は ATM の耐用年数を 5 年から 7 年に延ばした会計の効果である。
海外は米国・インドネシア・フィリピンで伸びているが、まだ利益は小さい。リテール(口座・ローン・後払い・カード)は赤字に近く、立て直しの途中にある。
ファミマ分が積み上がる 10 年後でも、利益は一時要因を除いた今の 1.8 倍ほどにとどまる。事業は悪くない。ただ、買う値段が高すぎる。それが筆者の見立てである。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社を「現金の通行料所」として見る。道路に車が増えれば通行料は増える。ただし、道路を作る費用と維持費は先に出る。会社の価値は、通行料の総額ではなく、そこから費用と再投資を引いた手取りで決まる。
手取りの利益、いわゆるオーナー利益は、見かけの利益より小さい。ATM は耐用年数が 7 年とされる機械であり、減価償却の分だけ設備投資を続けなければ事業が維持できない。ファミマ向けの 1.6 万台は、その傾向をさらに強める。
筆者がこの事業に感じる魅力は、利用 1 件あたりの手数料という、シンプルで予測しやすい稼ぎの形にある。反対に、慎重に見る点は、ROE が資本コストを大きく超えないことである。成長のために資本を入れても、株主の手取りは増えにくい。
安全域、つまり値段に見合う余裕は薄い。今の値段は、会社の予想や市場の期待を織り込んでいる。筆者の見立てでは、10 年後に利益が今の 1.8 倍に育っても、払う値段の割に株主へ戻るお金は大きくない。
持ち続けたいかと問われれば、事業は残る。ただ、強い堀と高い資本効率が両立する会社ではない。割安で買えた時だけ、価値のある事業だと考える。
何で稼ぐ会社か
稼ぎ頭は国内の ATM 事業である。2026 年 3 月末で 28,536 台、その 8 割強がセブン-イレブンの店内にある。年間の利用は 11.2 億件、1 台あたり 1 日約 109 件。銀行の ATM としては桁違いに多く使われている。
収益は、利用 1 件ごとの手数料である。手数料は提携する金融機関から入り、1 件の平均で百円余りになる。この会社は多くの銀行・信販会社と契約して、口座の出し入れの窓口を引き受けている。金融機関の ATM を丸ごと受託する共同運営も、39 社 508 台に広がった。
費用の構造が、この事業の肝である。セブン-イレブン・ジャパンへの設置手数料は年 158 億円で、国内 ATM の売上の 12% ほど。比率は意外に軽い。重いのは機械の償却、現金の補充と警備輸送、通信、保守で、台数に比例して増える。売上が台数ほど伸びなければ、利益はすぐ薄くなる。
海外 ATM は、米国で約 1.2 万台、インドネシアで約 9 千台、フィリピンで約 4 千台、マレーシアで立ち上げ中である。米国ではスピードウェイ系の店舗にも約 3,400 台が入った。年間の利用は 5.3 億件に上るが、海外全体の経常利益はまだ 40 億円ほどだ。
リテールは、個人口座 350 万、預金 6,500 億円余りを持つ。個人ローンや後払いサービス(2026 年 3 月期の取扱高は 1,000 億円余り)を育てている。クレジットカード事業は会員が伸びず、約 80 億円の減損を出した。
つまり、利益のほぼ全部は国内 ATM が生み、海外が小さく足し、リテールが足を引っ張る。稼ぎの形は、金融というより、現金を扱う道路の通行料に近い。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、場所と台数にある。セブン-イレブンは全国に張り巡らされており、そこに自前の機械を置いている。1 台あたりの利用は 1 日約 109 件。ローソン銀行の約 56 件を大きく上回る。
ただし、その堀は金融の免許ではなく、店舗網と運営の経験でできている。利用が減ればすぐ利益に響く。筆者がいちばん気にするのは、支払い手段のキャッシュレス化である。ATM 利用は今は過去最高だが、1 台あたりの利用が横ばいから緩やかに減る前提は外せない。
価格を決める力は弱い。手数料は金融機関との契約で決まる。筆者は、交渉力の強い大手銀行が相手では、1 件あたりの単価が物価ほどには上がらないとみる。コストは物価で上がるので、価格が追いつかないと利益率が下がる。
資本効率は低い。ROE は 2026 年 3 月期で 4.8%、今期の予想でも 7% ほどである。2016 年 3 月期の 13% 台が最後の高水準である。配当は長く同じ額で据え置かれ、2026 年 3 月期の配当性向は 9 割に達した。
経営の資本配分には、功と罪がある。ファミマとの提携を獲得した動きは大きな功績だ。一方で、クレジットカード事業は減損に終わった。海外も、利益はまだ 40 億円ほどにとどまる。次の投資は、この教訓を踏まえて行われるはずだ。
支配する株主の構図も、読み方が要る。セブン&アイ系が議決権の約 3 分の 1、伊藤忠商事が約 2 割を持つ。ATM の 8 割強は親会社の店にあるため、設置の条件が変われば収益が動く。独立役員は 7 名おり、会社は戦略を独自に決めると説明する。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の ATM は、設置場所の淘汰が進んでいる。銀行の店舗と ATM は減り続け、セブン銀行の推計では、国内の ATM は毎年 3,000〜4,000 台ずつ減っている。現金を引き出す場所が減るほど、全国に店があるコンビニの ATM に利用が集まる。これが、セブン銀行の利用件数が過去最高を更新している理由の 1 つである。
コンビニ ATM は 3 社体制だった。セブン銀行が 1 日約 310 万件、ローソン銀行が約 80 万件、イーネット(ファミマなどに設置)が 50〜70 万件と推計される。1 台あたりでは、セブンが約 109 件、ローソンが約 56 件。1 台あたりの利用の差は、そのまま 1 台の採算の差になる。
ここに大きな転換が起きた。ファミマが、ATM をイーネットからセブン銀行に切り替える。4 年で約 1.6 万台。2026 年 6 月 1 日に設置が始まり、7 月末で 37 台。会社は今期 400〜500 台を見込み、後半に集中するとみている。イーネットは主力の設置先を失い、苦境に立つ。
一方で、構造の逆風は消えない。キャッシュレス決済は年々広がり、現金を使う場面は減る。長期では、1 台あたりの利用が下がる。ただし、現金を引き出す需要は、高齢者・外国人旅行者・災害時などに根強く残るため、急には崩れない。
海外の ATM は、現金文化の強い新興国で伸びる余地がある。インドネシアは約 9 千台、フィリピンは約 4 千台。現金が主役で、日本よりキャッシュレス化が遅い。ただ、現地の通貨と物価で稼ぎが決まるため、円で見た利益は小さくなりやすい。
競合には銀行の共同 ATM やゆうちょ銀行などがあるが、コンビニという最も便利な場所を押さえているのはセブン銀行である。差別化の源泉は、場所・台数・機能(現金チャージ、本人確認、行政手続きとの連携)の 3 つだ。
資本政策と M&A
資本政策は、配当が中心である。配当は 2022 年 3 月期から同じ額で動かず、配当性向は 40% 以上を目安にしている。純利益が落ちた 2026 年 3 月期は、実績の配当性向が 9 割に達した。増配の余地は、利益が戻るまで小さい。
自社株買いは、2025 年 6 月に大きく動いた。セブン&アイが持分法適用に移るのに合わせ、最大 2 億株・524 億円の枠で、親会社側の持ち株を引き取る形をとった。セブン-イレブン・ジャパンからは約 162 億円分を取得している。株主の構成を整える色合いが濃い。
設備投資は、これから重くなる。ファミマ向けの 1.6 万台を 4 年で置くには、機械代だけで数百億円規模が要ると筆者はみる。耐用年数の延長で、会計上の償却の負担は軽くなる。投資の回収が見えるまで、株主還元を厚くする余裕は乏しい。
M&A は、買う側の可能性がある。海外の ATM 網や決済・口座のサービス会社が候補になる。一方、買われる側の可能性は低くない。親会社に近いセブン&アイ、大株主の伊藤忠商事、ほかの金融グループが再編を仕掛ける筋書きがある。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ファミマ向けの 1.6 万台は、契約済みの確かな成長である。ここに現金の行き場が減る流れが重なる。銀行の店舗と ATM は毎年 3,000〜4,000 台ずつ消えており、コンビニの ATM に利用が集まる。セブン銀行の 1 台あたりの利用が 100 件を超えているのは、その証拠だ。
ファミマの 1.6 万台がローソン並み(1 日約 56 件)でも、年 3 億件を超える。セブンの機種は現金チャージや本人確認、行政手続きにも対応する。使える機能が多い ATM に、イーネットの利用者も流れる。件数が増えれば、機械の償却や保守という固定の費用が薄まり、利益率は上がる。
償却年数の延長で今期から約 40 億円の利益が上がるうえ、ファミマ分の採算も 2 年目以降に立ち上がる。海外は、米国の約 1.2 万台、東南アジアの約 1.3 万台が現金文化の中で広がる。金利が 2% まで上がれば、預金を運用する利ざやも広がる。
10 年後に利益が今の 3 倍に育つ筋書きは、無理のない足し算である。ROE が 12% に乗れば、資本効率の評価も変わる。
慎重な見方
稼ぎの源は現金の引き出しである。現金は長い目で使われなくなる。コード決済・カード・電子マネーが広がれば、1 台あたりの利用は下がる。いま過去最高なのは、銀行店舗の撤退という一時的な追い風が効いているからだ。
ファミマ向けの 1.6 万台は、設置するたびに機械代と運営費が先に出る。ファミマの店は 1 日の利用がセブンより少ないと考えられ、1 台あたりの採算は低い。ATM を増やして件数が伸びても、利益が増えるとは限らない。
価格は、金融機関との契約で決まる。大手銀行は手数料を抑えたい。人件費・現金輸送費が物価で上がる中、単価が据え置かれれば、利益率が削られる。国内の売上の 8 割強は、親会社の店舗に置いた機械が生む。条件を見直されれば反論しにくい。
クレジットカード事業は減損で、海外も利益が小さい。資本を入れても資本コストを大きく上回れない会社には、高い倍率を払うべきでない。
さらに、金利が上がる局面で、国債など債券の含み損が生じうる。銀行の収益は、ATM の外でも揺れる。
どちらに重みを置いたか
ファミマの契約と銀行店舗の撤退は、利用件数を押し上げる確かな材料である。ただ、1 台あたりの採算と価格の弱さ、キャッシュレスの長期の逆風は、強い反論になる。利益は伸びるが、資本コストを大きく上回る利益率までは届かないというのが筆者の見立てで、確率は中立を中心に、悲観側をやや厚くした。楽観の確率は 1 割に満たない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 362 円4,228 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 111 円1,298 億円)。 今の値に割り戻すと 239 円2,787 億円、今との差 −28.8%、 期待の年率 +3.5%(資本コスト 8.3%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 773 円9,031 億円 | 154 円1,800 億円 | +176.6% | +10.7% | 74 円866 億円 |
| やや楽観 | 20% | 584 円6,818 億円 | 141 円1,650 億円 | +116.2% | +8.0% | 145 円1,694 億円 |
| 中立 | 32% | 408 円4,763 億円 | 124 円1,450 億円 | +58.6% | +4.7% | 170 円1,988 億円 |
| やや悲観 | 25% | 156 円1,823 億円 | 98 円1,150 億円 | −24.1% | −2.7% | 64 円743 億円 |
| 悲観 | 15% | 92 円1,080 億円 | 41 円480 億円 | −60.2% | −8.8% | 20 円234 億円 |
| 加重平均 | 100% | 362 円4,228 億円 | 111 円1,298 億円 | +41.1% | +3.5% | 473 円5,525 億円 |
今の株価時価総額 335 円3,916 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 8% ファミマ 1.6 万台が成熟し、海外が育つ 利益 628 億円 · PER 14.4 倍 · 株価時価総額 773 円9,031 億円
ファミマの 1.6 万台が成熟し、1 台あたり 70 件に達する。国内の件数は 16 億件に届き、単価も物価並みに上がって利益率は 24% を保つ。キャッシュレスは進むが、現金の需要は高齢者・外国人旅行者・災害時を中心に根強く、現金の窓口としての価値が残る。
海外は米国と東南アジアで台数が 4 万台に迫り、海外だけで 180 億円の利益を稼ぐ。リテールも後払い・ローンが育って黒字が定着し、預金の運用益も金利 2% で厚くなる。連結の経常利益は 900 億円ほど、ROE は 12% に乗る。10 年後の利益は、一時要因を除いた今の水準の 3 倍に迫る。
- 国内 ATM:数量 16.0(国内 ATM の年間利用件数(億件))× 価格 142(1 件あたりの手数料収入(円。ATM 関連の収入は rev_factor 1.1 で上乗せ))→ 売上 2,499 億円・営業利益 600 億円。件数 × 単価、利益率
- 海外 ATM:数量 11.0(海外 ATM の年間利用件数(億件))× 価格 109(1 件あたりの収入(円換算、ドル円 150 円))→ 売上 1,199 億円・営業利益 180 億円。件数 × 単価、利益率
- リテール・カード・その他:数量 420(個人口座数(万口座))× 価格 2.15(1 口座あたりの年間収益(万円。ローン・後払い・カード・運用益を含む))→ 売上 903 億円・営業利益 130 億円。口座 × 1 口座収益、利益は金利の効きを含む
倍率:事業の純利益 628 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.3% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.4 倍。全体の PER 14.38 倍、時価総額 9,031 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:ファミマの利用が 70 件に届き、海外も育つ強い筋書き。ROE を 12% まで押し上げるには複数の条件が要るので 1 割弱。
やや楽観 20% 国内が伸び、海外とリテールが利益に加わる 利益 505 億円 · PER 13.5 倍 · 株価時価総額 584 円6,818 億円
国内の件数は 15 億件に増え、ファミマの利用は 1 台あたり 60 件台後半に落ち着く。単価は物価の 8 割ほどの伸びで、利益率は 22% を保つ。キャッシュレスによる利用の目減りは年 1% ほどにとどまる。
海外は台数が 3 万台台半ばに増え、利益は 130 億円台に乗る。リテールは黒字が定着し、預金の運用益も 2% の金利で下支えされる。連結の経常利益は 730 億円ほど、ROE は 10% を超える。強気に近い形で成長が続くが、ATM の更新投資は絶えず必要で、利益の多くはそこに回る。ファミマの設置が済んだあとも、台数を保つための取り替えが毎年発生する。機械の更新が一巡する 7 年目前後には、償却と更新費の両方が利益に重くのしかかる時期がくる。株主に戻せるお金は、利益の増え方ほどには増えない。
- 国内 ATM:数量 15.1(国内 ATM の年間利用件数(億件))× 価格 137(1 件あたりの手数料収入(円。ATM 関連の収入は rev_factor 1.1 で上乗せ))→ 売上 2,276 億円・営業利益 501 億円。件数 × 単価、利益率
- 海外 ATM:数量 10.0(海外 ATM の年間利用件数(億件))× 価格 105(1 件あたりの収入(円換算、ドル円 150 円))→ 売上 1,050 億円・営業利益 136 億円。件数 × 単価、利益率
- リテール・カード・その他:数量 400(個人口座数(万口座))× 価格 2.05(1 口座あたりの年間収益(万円。ローン・後払い・カード・運用益を含む))→ 売上 820 億円・営業利益 95 億円。口座 × 1 口座収益、利益は金利の効きを含む
倍率:事業の純利益 505 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.5% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.5 倍。全体の PER 13.5 倍、時価総額 6,818 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内が伸び、海外・リテールが加わる。ファミマ分の成熟は契約上確度が高い一方、ROE を 10% 台に乗せるには価格の持ち直しが要る。
中立 32% 利益は今の 1.8 倍に育つが、資本コストを少し上回る程度の収益性にとどまる 利益 386 億円 · PER 12.3 倍 · 株価時価総額 408 円4,763 億円
ファミマの 1.6 万台は予定どおり置き終わり、1 台あたりの利用は 60 件前後に落ち着く。国内の件数は 14.3 億件に増える。一方で、既存のセブンの設置は、キャッシュレスで少しずつ件数が減る。単価は物価の伸びに届かず、利益率は 19% に下がる。
海外は台数が 3 万台を超え、100 億円ほどの利益を稼ぐ。リテールは黒字が定着し、預金の運用益が支える。連結の経常利益は 560 億円ほどで、ROE は 8〜9%。事業は成長するが、機械の更新と補充の費用が絶えず出ていくため、株主にとっての手取りの伸びは限られる。
会社が掲げる回復の道筋を、おおむねたどる姿である。
- 国内 ATM:数量 14.3(国内 ATM の年間利用件数(億件))× 価格 132(1 件あたりの手数料収入(円。ATM 関連の収入は rev_factor 1.1 で上乗せ))→ 売上 2,076 億円・営業利益 394 億円。件数 × 単価、利益率。単価は提携銀行との契約で決まり、物価の全額は転嫁できず10年で1.25倍(物価は1.34倍)
- 海外 ATM:数量 9.0(海外 ATM の年間利用件数(億件))× 価格 102(1 件あたりの収入(円換算、ドル円 150 円))→ 売上 914 億円・営業利益 105 億円。件数 × 単価、利益率
- リテール・カード・その他:数量 380(個人口座数(万口座))× 価格 1.96(1 口座あたりの年間収益(万円。ローン・後払い・カード・運用益を含む))→ 売上 745 億円・営業利益 60 億円。口座 × 1 口座収益、利益は金利の効きを含む
倍率:事業の純利益 386 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.6% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.3 倍。全体の PER 12.34 倍、時価総額 4,763 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:件数は伸びるが、単価の弱さと費用の増加で ROE は 8〜9% にとどまる。強い見方と慎重な見方の落としどころ。
やや悲観 25% キャッシュレスが利用を削り、単価が据え置かれる 利益 207 億円 · PBR 0.7 倍 · 株価時価総額 156 円1,823 億円
キャッシュレス決済が広がり、セブンの既存の設置で 1 台あたりの利用が年 1.5〜2% 減る。ファミマ向けは置き終えたが、利用は 40 件台にとどまる。国内の件数は 12.8 億件、単価は金融機関に押されて物価の 6 割程度しか上がらず、利益率は 14% に落ちる。
海外も現地通貨の弱さで利益が 50 億円を下回る。リテールは小さな黒字をやっと保つ。連結の経常利益は 300 億円ほど。ROE は 5% 台と資本コストを下回り、売上が伸びても、株主の取り分は増えない。ファミマ向けに積み上げた機械が、思ったほど稼がないまま償却だけが残る。配当は据え置くのがやっとで、増配や自社株買いの余力はない。株式市場は、成長のない銀行として、低い倍率でこの会社を見るようになる。
- 国内 ATM:数量 12.8(国内 ATM の年間利用件数(億件))× 価格 120(1 件あたりの手数料収入(円。ATM 関連の収入は rev_factor 1.1 で上乗せ))→ 売上 1,690 億円・営業利益 237 億円。件数 × 単価、利益率
- 海外 ATM:数量 7.5(海外 ATM の年間利用件数(億件))× 価格 92(1 件あたりの収入(円換算、ドル円 150 円))→ 売上 690 億円・営業利益 48 億円。件数 × 単価、利益率
- リテール・カード・その他:数量 350(個人口座数(万口座))× 価格 1.70(1 口座あたりの年間収益(万円。ローン・後払い・カード・運用益を含む))→ 売上 595 億円・営業利益 15 億円。口座 × 1 口座収益、利益は金利の効きを含む
倍率:ROE5.7%・資本コスト8.2%・g3.0%から PBR=(ROE−g)÷(k−g)=0.51倍が式の目安。キャッシュレス化で件数が減りROEがk未満になる筋書き。稼ぐ力に近い水準で、PBR0.65倍に置き、時価総額1823億円(正当化PERの上限検査でも上限の73%)。
確率:キャッシュレスによる目減りと単価の据え置きは、10 年の間にはありうる流れで、強い反論になる。確率を慎重側に寄せた。
悲観 15% 構造的に負ける:現金離れと設置条件の悪化が重なる 利益 32 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 92 円1,080 億円
10 年のどこかで、キャッシュレス決済の普及が国内の利用を大きく削る。現金の引き出しは、ATM の機能の多さでは救えないほど減る。国内の件数は 10 億件を割り、単価も大手銀行に押されて物価に追いつかない。ファミマ向けの 1.6 万台の償却が重く、国内 ATM の利益率は 7% まで落ちる。
親会社系の店舗再編で設置の条件が悪化し、海外も赤字に沈む。リテールとカードの損失が続き、ROE は 1% 台。会社は優良ではなくなり、配当を削って自己資本を守る。一本足の ATM 事業を、別の柱が支える形にならなかった結果である。海外の拡大やリテールの再建に投じた資金は、利益を生まないまま減損に回る。市場は、現金離れが進む世の中で、この会社の使い道を厳しく見直す。
- 国内 ATM:数量 9.8(国内 ATM の年間利用件数(億件))× 価格 108(1 件あたりの手数料収入(円。ATM 関連の収入は rev_factor 1.1 で上乗せ))→ 売上 1,164 億円・営業利益 81 億円。件数 × 単価、利益率
- 海外 ATM:数量 5.0(海外 ATM の年間利用件数(億件))× 価格 82(1 件あたりの収入(円換算、ドル円 150 円))→ 売上 410 億円・営業利益 −5 億円。件数 × 単価、利益率
- リテール・カード・その他:数量 320(個人口座数(万口座))× 価格 1.50(1 口座あたりの年間収益(万円。ローン・後払い・カード・運用益を含む))→ 売上 480 億円・営業利益 −30 億円。口座 × 1 口座収益、利益は金利の効きを含む
倍率:キャッシュレス化と契約の喪失で利益がほぼ消える構造的な負け(純利益32億円)。稼ぐ力は小さいので、売れる資産で測る:減損後の自己資本2,700億円のうち、ATM設備は簿価を大きく割って売れ、口座基盤と海外事業の売却益を足して約40%(1,080億円)が株主に残るとみた。
確率:10 年のどこかで、現金離れや設置条件の悪化で構造的に負ける。ATM 事業は一本足で、別の収益の柱が育っていないため 15% と厚くした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内 ATM
セブン-イレブンを中心とするコンビニなどの ATM。利用 1 件ごとの手数料と、金融機関からの運営受託が収益。
| 数量国内 ATM の年間利用件数(億件) | 価格1 件あたりの手数料収入(円。ATM 関連の収入は rev_factor 1.1 で上乗せ) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 11.2 | 106 | 1,305 | 290 |
| 10 年後 中立 | 14.3 | 132 | 2,076 | 394 |
取り方:年間利用 11.22 億件、1 件の手数料単価 105.7(円)で受入手数料は約 1,186 億円。共同運営の受託などの ATM 関連収入を足して、国内 ATM の売上を約 1,305 億円と置いた。セグメント別の利益は開示されないため、単体の経常利益 266 億円と連結 301 億円から、海外 37 億円・リテールの赤字 25 億円を引いて国内 ATM を 290 億円と推定した。単価は金融機関との契約で決まり、物価の全額は転嫁しにくい(過去も単価は下がってきた)。中立は 3 年 1.06 倍・10 年 1.25 倍と、物価(1.09・1.34 倍)より低く置き、費用が物価で上がる分は利益率に入れた。(点検 2026-10-19:件数は実数(名目の金額ではない)で、単価は物価の全額転嫁をせず10年で+25%と置いた。二重がけなし)
海外 ATM
米国・インドネシア・フィリピン・マレーシアの ATM。現地の小売店・金融機関と組んで運営する。
| 数量海外 ATM の年間利用件数(億件) | 価格1 件あたりの収入(円換算、ドル円 150 円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 5.3 | 81 | 429 | 37 |
| 10 年後 中立 | 9.0 | 102 | 914 | 105 |
取り方:海外 ATM の総利用件数は 5.30 億件。米国の経常収益 273 億円、フィリピン 86 億円、インドネシアは今期第 1 四半期の収益 1.7 億円から年 66 億円ほどと置き、合計約 429 億円を件数で割って 1 件約 81(円)とした。経常利益は米国 24 億円・インドネシア 9 億円・フィリピン 4 億円の計約 37 億円。(点検 2026-10-19:件数は実数(名目の金額ではない)で、単価は物価の全額転嫁をせず10年で+25%と置いた。二重がけなし)
リテール・カード・その他
個人口座・預金・ローン・後払い・クレジットカード・電子マネーと、預金の運用。
| 数量個人口座数(万口座) | 価格1 口座あたりの年間収益(万円。ローン・後払い・カード・運用益を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 350 | 1.33 | 466 | −25 |
| 10 年後 中立 | 380 | 1.96 | 745 | 60 |
取り方:連結の経常収益 2,200 億円から国内 ATM の約 1,305 億円と海外 ATM の約 429 億円を引いた約 466 億円を、個人口座 350 万で割って 1 口座約 1.33 万円と置いた。連結の経常利益から ATM 2 つを引いた残りで、約 25 億円の赤字と推定。開示は無く、推定の幅は大きい。(点検 2026-10-19:口座数は実数(名目の金額ではない)で、1口座の収益は物価の掛け算ではなく置いた値。二重がけなし)
リスクと懸念
キャッシュレス化で現金の引き出しが減る
稼ぎの源は ATM の利用件数である。支払いのキャッシュレス化は止まらず、現金を使う場面は長い目で減る。今は銀行店舗の撤退が追い風になっているが、それが一巡すれば 1 台あたりの利用は下がりに転じうる。固定費の重い ATM 事業では、件数が減ると利益はそれ以上の割合で減る。
ファミマ向けの設置が重荷になる
4 年で約 1.6 万台を置くには、機械代・設置・現金補充の体制づくりが先に出る。ファミマの店のほうが 1 台あたりの利用が少なければ、増やすほど利益率が下がる。設置が遅れる、利用が想定を下回る、といった事態が重なると、投資の回収が見えにくくなる。
手数料の単価が物価に追いつかない
ATM の手数料は、金融機関との契約で決まる。大手銀行が単価の引き下げを求めれば、物価が上がる中でも単価は据え置かれやすい。人件費や輸送費が上がるほど、利益率は削られる。1 件あたりの単価の動きは、この会社の利益の最大の決め手の 1 つである。
親会社の店舗に依存する
国内の ATM の 8 割強は、セブン-イレブンの店内にある。設置の条件(支払う手数料など)が変われば、利益が動く。親会社の持ち株比率は下がったが、なお最大の取引先であり、店舗戦略の変更や合併・再編の影響を受けやすい。
リテールとカード事業の立て直しが遅れる
クレジットカード事業は 2026 年 3 月期に約 80 億円の減損を出した。個人ローンや後払いは貸倒れの費用がかさみやすい。ここが赤字のままなら、国内 ATM が稼いだ利益を食い続ける。立て直しの手立てが見えなければ、資本の使い方への評価が下がる。
海外事業の利益が育たない
米国・インドネシア・フィリピンで台数は増えているが、海外全体の経常利益は 40 億円ほどにとどまる。現地通貨と物価で稼ぎが決まるため、円では目減りしやすい。新規の国(マレーシア)への投資が先行し、採算が合わない期間が長引く恐れもある。
金利上昇で債券に含み損が出る
預金を国債などで運用する銀行として、金利が上がれば保有債券の評価額が下がる。利ざやは広がるが、資産の評価損が自己資本を一時的に削る。会社が持つ運用資産の構成と満期の管理が、利益ほどには注目されないリスクになる。
今後の分かれ目
- ファミマ向けの設置が計画どおり(今年 400〜500 台、4 年で 1.6 万台)進み、1 台あたりの利用が 50 件を超える
- 国内 ATM の件数が 12〜13 億件へ早く伸び、利益は会社の目指す水準に近づく。強気の筋書きの確率が上がる。
- ファミマの 1 台あたりの利用が 40 件台にとどまり、設置コストの回収が遅れる
- 件数は増えても利益率が下がり、利益の伸びが鈍る。慎重な筋書きが中心になる。
- 主要な銀行が手数料の引き下げを求め、1 件あたりの単価が下がる
- 物価で費用が上がる中、国内 ATM の利益率が数ポイント下がる。10 年後の利益が 2 割以上減りうる。
- キャッシュレス化が加速し、1 台あたりの利用が毎年 3% 以上減る
- 設置台数が増えても件数が伸びず、10 年後の売上は今の 1.3 倍程度にとどまる。倍率も低下する。
- リテール(カード・後払い・ローン)が黒字化し、その利益が年 50 億円を超える
- 国内 ATM への依存が下がり、資本効率が改善して ROE が 10% を超える。倍率が上がる。
- セブン&アイ・伊藤忠など大株主の再編で、ATM の設置条件や資本構成が変わる
- 利益の安定性が変わりうる。条件が悪化すれば悲観寄り、合併・TOB なら価格が動く。
見ておくもの
- 国内 ATM の 1 台あたり 1 日の利用件数(109 件前後)と、1 件あたりの手数料収入の推移
- ファミマ向け ATM の設置台数(今年 400〜500 台の計画)と、その 1 台あたりの利用件数
- ATM の減価償却の変更を除いた経常利益と、リテールセグメントの黒字化の時期
- 海外 ATM の利用件数(5.3 億件)と米国・東南アジアの経常利益
- 配当性向(40% 以上)と、増配・自社株買いの再開の有無
倍率と資本コストの決め方
倍率は今のPERを見ず、10年後のROEと資本コスト8.25%(基本7.5%に品質+0.75%)・g4.5%の式(RONIC=k+1/2×(ROE−k))から出した上限の約9割に置いた。利益の質(ATMの更新投資が続く・価格が弱い)を割り引き、10年中立のPERは約12倍に収まる。銀行ではあるが、収益の中心はATMの手数料で貸出の利ざやではないため、中立・楽観はPERで測った。やや悲観はROEがk未満なので稼ぐ力に近い純資産のPBR、悲観は稼ぐ力が小さいので売れる資産の床(ATM設備・口座基盤)から置いた。新リース会計基準(2028/03期)でATMの設置先との賃借がBSに載っても、数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)で置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.9→14.38 倍・やや楽観 PER 12.2→13.5 倍・中立 PER 11.1→12.34 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。資本コストは基本7.5%に quality +0.8% を足した 8.2%(β・規模は使わない)。ATMの手数料は景気に左右されにくく循環0、提携銀行との契約で手数料が決まり値決め力は弱く+0.25、銀行の借金は仕入れで0、キャッシュレス化の長期の逆風と親会社の店舗への依存で寿命+0.5。合計+0.75%。