結論
いよぎんホールディングスは、愛媛県内のメインバンクシェア57.5%を持つ伊予銀行の持株会社だ。確率で重みづけた本質価値は今の時価総額(約10,061億円)に対し10年で−8.9%、ほぼ適正と見る。資本コストは8.25%で、10年後の利益だけで測っている。
最大の特色は船舶金融だ。今治市を中心とする日本最大の海事都市を背景に、海事産業向けの貸出は1兆6,304億円、貸出全体の26.9%にのぼる。担保の評価や海運市況の読みに専門知識が要り、他の地銀はまねしにくい。この堀は、愛媛の人口減に縛られない貸出を生む。県内でも、メインバンクを選ぶ企業の6割近くが伊予銀行だ。
気になるのは資本効率だ。2026年3月期の純利益は742億円、ROEは8.5%と、資本コストをわずかに上回る程度にとどまる。自己資本が8,777億円と厚く、10年後も中立でROEは9%ほどまでしか上がらない。事業の質は高いが、値段に安全域は見えない。
愛媛銀行との経営統合は2027年4月をめどに基本合意しているが、比率は未公表で成立していない。この分析は今のいよぎんHDだけで書いている。統合が成立すれば、船舶金融の強者連合という見方もある一方、収益性の低い銀行を取り込む重さが出る。その見方は、リスクと分かれ目の欄に書いた。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見ると、事業は好ましい。船舶金融は専門知識と担保の特殊性という堀を作り、愛媛の人口減から貸出の一部を切り離す。県内の顧客基盤も厚い。
気になるのは資本効率だ。自己資本が8,777億円と厚く、ROEは8.5%にとどまる。利益が育っても、自己資本の積み上がりが重く、ROEは10年後も9%前後だ。還元を厚くする余地はあるが、会社の目標は総還元性向50%以上までで、資本を大きく戻す計画ではない。
予測のしやすさは中程度だ。利ざやは読みやすいが、海運市況と与信費用が景気で大きく振れる。確率で重みづけた本質価値は今の時価総額に対し−8.9%で、今の値段は本質価値をやや上回り、安全域は薄いと見る。良い事業を、安全域の薄い値段で持つことになる。
愛媛銀行との統合は、成立すれば規模は得られるが、収益性の低い銀行を取り込む重さがある。その見方は統合が決まってから置き直す。
何で稼ぐ会社か
伊予銀行による愛媛県内の法人・個人向け融資と預金業務が収益の土台で、県内企業のメインバンクシェア57.5%(取引社数1万966社)を握る。事業は大きく3つに分かれる。法人向けは一般の事業性融資に加え、今治市を中心とする造船・海運・舶用機器の集積地(日本最大の海事都市)を背景に、愛媛県の船主の約7割と取引する船舶金融(シップファイナンス部)を特色とする。海事産業向け融資残高は1兆6,304億円・貸出全体の26.9%(2025年度)にのぼり、国内では地方銀行で最大規模だ。船舶融資は船の担保評価・海運マーケットの知識など専門性が高く、他の地銀が後発で参入するのは難しい。
個人向けは住宅ローンを中心とする愛媛県内のリテール業務で、店舗網による粘着性の高い預金確保を重視する。資産運用・ソリューションでは投資信託・保険等の預かり資産業務(残高は2025年度1兆83億円・2026年度目標1兆620億円)に加え、M&Aアドバイザリー等の非金利収益の強化を進めている。
愛媛銀行との経営統合は2027年4月をめどに基本合意しているが、手法や比率は未公表で成立していない。この分析は今のいよぎんHD単独で測っている。
優良さと弱いところ
最大の堀は、今治市という日本最大の海事都市を背景にした船舶金融での国内トップクラスの地位である。船の担保評価や海運市況の読みには専門知識と長年の取引実績が要り、他地銀が短期間で同じ地位を築くのは難しい。愛媛県内でもメインバンクシェア57.5%と高い顧客基盤を持つ。
弱点は三つある。一つ目は資本効率だ。自己資本が厚く、ROEは8.5%(2026年3月期)と資本コストをわずかに上回る程度で、10年後も中立で9%前後にとどまる。二つ目は集中だ。船舶金融は海運市況の循環に左右される。三つ目は人口だ。愛媛県は2050年に2020年比で29%減る見通し(社人研)で、県内の貸出量は伸びにくい。
経営の規律は改善傾向にある。総還元性向50%以上を目標に掲げ、政策保有株式は中期経営計画の期間中に250億円(残存簿価の35%相当)減らす。一方、2026年の株主総会では、議長の運営方法をめぐる個人株主の提案に取締役会が反対した。実害は小さいが、少数株主との対話には改善の余地がある。
筆者は、船舶金融の堀を高く買う。ただ堀の広さと、払う値段の安全域は別の話だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
日本の銀行業は2024年の政策金利解除以降「金利のある世界」の初期にあり、短期金利が2%へ向かう過程で預貸ざやが構造的に広がっている。地方の貸出需要そのものは人口減で伸びが鈍く、量でなく価格(利ざや)で稼ぐ局面が続く。
地方銀行の最大の構造要因は再編だ。「1県1行」への動きが進み、千葉銀行と千葉興業銀行、しずおかFGと名古屋銀行が経営統合で基本合意した。いよぎんHDと愛媛銀行の統合(2027年4月めど)もこの流れの一つだ。日本経済新聞は「船舶融資の強者連合」と評している。
船舶金融は、一般的な地域貸出の人口減リスクをある程度相殺できる。ただ、造船・海運の山谷という別の循環を抱える。資産運用の分野は、NISAの拡充と高齢化に伴う相続需要が追い風で、公募投信の残高は2026年6月末に359兆円と過去最高になった。
10年後は短期2%・長期3%が定着する。県境をまたぐ再編が進むほど、単独で残る銀行は規模の差で不利になる面もある。その中で地方銀行の差は、利ざやの広がりと、人口減で縮む量をどこで補うかで決まる。
資本政策と M&A
株主還元は中期経営計画で総還元性向50%以上を目標にする。政策保有株式(上場株式)は、中期経営計画の期間中に250億円(残存簿価の35%相当)減らす方針で、2025年度に85億円を減らし、2026年度はさらに加速する計画だ。配当は2027年3月期に、前期から3分の1ほど増やす予定である。
愛媛銀行とは、2027年4月をめどに経営統合する方針を発表している。いよぎんHDが持株会社として愛媛銀行を傘下に加える形だが、統合の手法や愛媛銀行の資本の取り込み方は未公表で、成立していない。成立すれば、県内メインバンクシェアは76.1%、総資産は12兆円規模になる。この分析は統合を織り込まず、単独で測っている。
ガバナンスは監査等委員会設置会社で、独立社外取締役が3分の1以上を占める。TOB(株式公開買い付け)の標的になる可能性は低いと見る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
船舶金融という専門性の高い事業で国内トップクラスの地位を持つことが、いちばんの強みだ。海事産業向けの貸出は1兆6,304億円で、愛媛県の船主の約7割と取引する。新燃料船への切り替えや環境規制への投資という、構造的な需要を取り込む余地がある。しかも海外の船主向けは、愛媛の人口減とは無関係に伸びる。
短期金利が2%へ向かう過程で、法人・個人の貸出利ざやは構造的に広がる。会社は2027年3月期の純利益目標を770億円に引き上げ、2026年3月期は742億円と急回復した。県内メインバンクシェア57.5%の顧客基盤は、貸出先を失う心配が小さく、値上げも通りやすい。
政策保有株式の縮減と、総還元性向50%以上の方針は、資本効率の改善につながる。手数料の面でも、NISAの定着と相続需要が預かり資産を押し上げる。再編が進む業界で、専門性と地盤を両方持つ側に立てることは大きい。
経費も物価並みに抑えやすい。店舗網はあるが、デジタル化で窓口の負担は軽くなる。船舶金融の担当者は少数精鋭で、固定費が重くならない。
慎重な見方
今の利益は、金利の追い風と売却益で膨らんだ水準だ。2026年3月期の純利益742億円は前期比で4割近く増えたが、ならした稼ぐ力はこれより低い。
問題は資本効率だ。自己資本が8,777億円と厚く、ROEは8.5%にとどまる。利益が育っても、自己資本の積み上がりが重く、10年後のROEは9%前後と、資本コストを大きくは超えない。
船舶金融は堀であると同時に、集中リスクでもある。貸出全体の26.9%が海事産業向けで、世界的な海運不況が来れば、他の地方貸出より下振れが大きい。愛媛の人口は2050年に3割減る見通しで、県内の貸出量は伸びない。
今の株価は業績の上方修正をすでに織り込んでおり、伸びが物価並みにとどまるだけで割高に見える。ガバナンスの面でも、2026年の株主提案への対応に、少数株主との対話の課題が見える。
手数料も安心できない。投資信託や保険の販売は、市況が悪くなれば一気に細る。利ざや、手数料、売却益のどれもが、いまの追い風に乗った数字だと見るのが慎重な見方である。
どちらに重みを置いたか
船舶金融の堀と地盤という事業の強さは、強気の見方のほうが説得力がある。一方で、資本効率が資本コストの近辺にとどまること、海事金融への集中、人口減で量が伸びないことは、慎重な見方の指摘が重い。事業の質は高いが、値段は利益の伸びと自己資本の厚さで決まる。中立に最も重みを置き、悪い側(やや悲観と悲観の合計)を10年で32%とした。統合の成否は確率に入れていない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,973 円1.42 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,595 円4,555 億円)。 今の値に割り戻すと 3,324 円9,494 億円、今との差 +2.5%、 期待の年率 +7.3%(資本コスト 8.3%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 8,378 円2.39 兆円 | 2,341 円6,686 億円 | +230.5% | +12.7% | 1,286 円3,674 億円 |
| やや楽観 | 25% | 6,830 円1.95 兆円 | 2,000 円5,712 億円 | +172.3% | +10.5% | 2,207 円6,306 億円 |
| 中立 | 31% | 5,408 円1.54 兆円 | 1,723 円4,923 億円 | +119.9% | +8.2% | 2,211 円6,315 億円 |
| やや悲観 | 20% | 2,498 円7,135 億円 | 1,099 円3,140 億円 | +10.9% | +1.0% | 719 円2,055 億円 |
| 悲観 | 12% | 699 円1,998 億円 | 498 円1,423 億円 | −63.1% | −9.5% | 144 円411 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,973 円1.42 兆円 | 1,595 円4,555 億円 | +102.5% | +7.3% | 6,567 円1.88 兆円 |
今の株価時価総額 3,243 円9,264 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 12% 金利が高く定着し、海事金融と手数料がともに伸びる 利益 1,689 億円 · PER 14.2 倍 · 株価時価総額 8,378 円2.39 兆円
短期金利2%・長期3%が定着し、貸出の利ざやは高い水準で安定する。船舶金融は新燃料船への切り替えや環境規制の投資を取り込み、国内トップクラスの地位をさらに固める。海外の船主向けは愛媛の人口と無関係に伸びるので、県内の貸出の細りを補って余りある。事業承継やM&A、資産運用の手数料も育ち、政策保有株の縮減で浮いた資金は自社株買いに回る。純利益は1,700億円近くに育ち、ROEは12%近くまで届く。愛媛銀行との統合の有無は、この筋書きの前提に入れていない。単独で見ても、地方銀行の中で資本効率の高い側に立つ姿である。海事金融の堀が10年先も続くかどうかが、この上振れの分かれ目になる。
- 法人貸出(海事金融含む):数量 6.8(法人・事業性貸出残高(兆円))× 価格 2.9%(貸出利ざや(%))→ 売上 1,976 億円・営業利益 1,423 億円。単体:残高等 6.8 兆円 × 率 2.90%、利益率 72%
- 個人貸出:数量 3.4(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.8%(貸出利ざや(%))→ 売上 616 億円・営業利益 406 億円。単体:残高等 3.4 兆円 × 率 1.80%、利益率 66%
- 資産運用・ソリューション:数量 2.0(預かり資産残高+ソリューション取扱高(兆円))× 価格 0.9%(実効手数料率等(%))→ 売上 176 億円・営業利益 134 億円。単体:残高等 2.0 兆円 × 率 0.90%、利益率 76%
倍率:事業の純利益 1,689 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.9% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.2 倍。全体の PER 14.17 倍、時価総額 23,933 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:金利が高く定着し、海事金融の需要も強い上振れ。海運市況は循環するので、全部がそろう筋書きは起きにくく12%にとどめる。
やや楽観 25% 利ざやが広がり、海事金融が県内の細りを補う 利益 1,455 億円 · PER 13.4 倍 · 株価時価総額 6,830 円1.95 兆円
短期金利が想定どおりに上がり、貸出の利ざやは広い水準が続く。愛媛県内の貸出量は人口減で細るが、船舶金融が全国・海外の船主向けで底堅く伸び、全体の残高は名目で伸びる。資産運用と法人向けの役務は、NISAの定着と相続需要を取り込む。経費は物価並みに抑えられ、与信費用は平時の水準にとどまる。純利益は1,460億円ほど、ROEは10%台前半。県内の地盤と船舶金融の専門性は10年先も続き、地方銀行の標準よりやや良い姿になる。ただ、守る市場が縮む中で資本効率を大きく上げるまでには至らない。船舶金融の専門性は守られ、県内の地盤も崩れない。ただ、守る市場が縮む中で資本効率を大きく上げるまでには至らない。
- 法人貸出(海事金融含む):数量 6.1(法人・事業性貸出残高(兆円))× 価格 2.8%(貸出利ざや(%))→ 売上 1,690 億円・営業利益 1,183 億円。単体:残高等 6.1 兆円 × 率 2.75%、利益率 70%
- 個人貸出:数量 3.1(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.7%(貸出利ざや(%))→ 売上 540 億円・営業利益 351 億円。単体:残高等 3.1 兆円 × 率 1.72%、利益率 65%
- 資産運用・ソリューション:数量 1.7(預かり資産残高+ソリューション取扱高(兆円))× 価格 0.9%(実効手数料率等(%))→ 売上 154 億円・営業利益 116 億円。単体:残高等 1.7 兆円 × 率 0.90%、利益率 75%
倍率:事業の純利益 1,455 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.4% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.4 倍。全体の PER 13.41 倍、時価総額 19,512 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:金利が想定どおりに進み、海事金融も底堅い。地方銀行の標準よりやや良い筋書きとして25%を置く。
中立 31% 金利は定着し、人口減が量を抑えて利益は緩やかに伸びる 利益 1,227 億円 · PER 12.6 倍 · 株価時価総額 5,408 円1.54 兆円
10年のあいだに短期金利2%・長期金利3%が定着し、貸出の利ざやは高めの水準で安定する。愛媛県の人口は減り、個人向けの貸出は名目でも年2%の伸びにとどまる。法人向けは船舶金融が支えて年3%。与信費用は景気を1〜2周してならした水準に戻る。政策保有株の縮減は終わり、売却益は繰り返せない一時の利益として外れる。純利益は1,230億円ほど、ROEは9%で、資本コストをわずかに上回る。愛媛銀行との統合が成立した場合の姿は、この筋書きに含めていない。統合は成立すれば効果も摩擦も別に生まれるので、別の話として扱う。県内のメインバンクの6割近くを握る地盤は保たれ、船舶金融も底堅い。
- 法人貸出(海事金融含む):数量 5.2(法人・事業性貸出残高(兆円))× 価格 2.7%(貸出利ざや(%))→ 売上 1,389 億円・営業利益 972 億円。単体:残高等 5.2 兆円 × 率 2.65%、利益率 70%
- 個人貸出:数量 2.8(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.6%(貸出利ざや(%))→ 売上 441 億円・営業利益 282 億円。単体:残高等 2.8 兆円 × 率 1.60%、利益率 64%
- 資産運用・ソリューション:数量 1.5(預かり資産残高+ソリューション取扱高(兆円))× 価格 0.9%(実効手数料率等(%))→ 売上 133 億円・営業利益 98 億円。単体:残高等 1.5 兆円 × 率 0.90%、利益率 74%
倍率:事業の純利益 1,227 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.0% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.6 倍。全体の PER 12.59 倍、時価総額 15,448 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:短期2%・長期3%が定着し、与信費用も景気をならした水準に戻る。人口減で量は伸びない。最も重みを置く中心の筋書きで31%。
やや悲観 20% 海運の鈍化と人口減で、利ざやの拡大が目減りする 利益 654 億円 · PER 10.9 倍 · 株価時価総額 2,498 円7,135 億円
金利の正常化は進むが、愛媛県の人口減が想定より速く、法人・個人の貸出量の伸びが鈍る。世界の海運市況が鈍って、船舶金融の成長も止まり、新燃料船への投資も先送りされる。預金の確保に費用がかかり、預金金利が貸出金利に追いつく速さも速い。与信費用は平均より高めに推移する。純利益は650億円ほど、ROEは5%台に落ちる。地盤は守られ危機にはならないが、優良とは呼べない水準にとどまる。資産運用の手数料も市況の悪化で鈍り、自社株買いの余力は小さい。配当は据え置きにとどまる。海事金融という専門性の高い事業は残るが、その伸びが止まれば、県内の人口減を補う力が失われる。
- 法人貸出(海事金融含む):数量 4.4(法人・事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.9%(貸出利ざや(%))→ 売上 844 億円・営業利益 490 億円。単体:残高等 4.4 兆円 × 率 1.90%、利益率 58%
- 個人貸出:数量 2.3(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.4%(貸出利ざや(%))→ 売上 314 億円・営業利益 176 億円。単体:残高等 2.3 兆円 × 率 1.35%、利益率 56%
- 資産運用・ソリューション:数量 1.3(預かり資産残高+ソリューション取扱高(兆円))× 価格 0.9%(実効手数料率等(%))→ 売上 106 億円・営業利益 66 億円。単体:残高等 1.2 兆円 × 率 0.85%、利益率 62%
倍率:10年後のROE5.2%(純利益654億円÷自己資本12615億円)はk8.25%以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、PERは1÷k=12.1倍までが上限。筋書きは「海運の鈍化と人口減で、利ざやの拡大が目減りする」。上限の9割に置き、10.91倍。
確率:人口減と海運の鈍化が重なり、与信費用も重い。構造的に負けるほどではないが、20%を置く。
悲観 12% 海運の構造不況と人口減が重なり、貸出の質と量が同時に崩れる 利益 206 億円 · PER 9.7 倍 · 株価時価総額 699 円1,998 億円
世界的な信用収縮が10年のどこかで起き、愛媛県内の与信費用が急増する。人口減が想定を超えて加速し、県内の貸出需要そのものが縮む。船舶金融は海運市況の構造的な悪化(新燃料船への投資の遅れ、海運会社の業績悪化)で貸出の質が落ち、国内トップクラスの堀が裏目に出る。有価証券の評価損も重なる。純利益は210億円まで落ち、ROEは2%前後になる。減配や資本の積み増しを迫られ、再編の相手を探す立場に戻る。10年の途中までは利益が出て配当も払われるが、終盤には優良な地方銀行とは見られなくなる。還元の合計には、途中までの利益から払った分を含む。
- 法人貸出(海事金融含む):数量 3.7(法人・事業性貸出残高(兆円))× 価格 0.8%(貸出利ざや(%))→ 売上 278 億円・営業利益 111 億円。単体:残高等 3.7 兆円 × 率 0.75%、利益率 40%
- 個人貸出:数量 2.0(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 0.6%(貸出利ざや(%))→ 売上 115 億円・営業利益 48 億円。単体:残高等 2.0 兆円 × 率 0.58%、利益率 42%
- 資産運用・ソリューション:数量 1.0(預かり資産残高+ソリューション取扱高(兆円))× 価格 0.4%(実効手数料率等(%))→ 売上 35 億円・営業利益 15 億円。単体:残高等 1.0 兆円 × 率 0.35%、利益率 42%
倍率:10年後のROE2.1%(純利益206億円÷自己資本9700億円。有価証券の評価損と与信費用で自己資本は流れより低い)はk8.25%以下なので、PERは1÷k=12.1倍までが上限。筋書きは「海運の構造不況と人口減が重なり、貸出の質と量が同時に崩れる」。稼ぐ力が細っていく構造から上限の8割に置き、9.70倍。今の自己資本8,777億円に対する倍率は約0.23倍。稼ぐ力から出した値で、自己資本の何割という置き方はしていない。
確率:リーマン級の信用収縮、人口減の加速、海運市況の構造的な悪化が10年のどこかで重なる想定。海事金融への集中が裏目に出るので、12%を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
法人貸出(海事金融含む)
伊予銀行による愛媛県内の法人・事業性融資と、今治市を中心とする国内有数の規模を持つ船舶金融(海事金融)による全国・海外船主向け貸出。
| 数量法人・事業性貸出残高(兆円) | 価格貸出利ざや(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.9 | 2.1% | 819 | 532 |
| 10 年後 中立 | 5.2 | 2.7% | 1,389 | 972 |
取り方:貸出金残高6.16兆円(2026年3月末)のうち法人・事業性向けを約6割強の3.9兆円とおいた。このうち海事産業向け融資残高は1兆6,304億円・貸出全体の26.9%(2025年度)を占め、愛媛県の船主の約7割と取引する。船舶金融は専門性と担保の特殊性から参入障壁が高く、一般的な法人貸出より利ざやが厚いとみて、法人貸出全体の利ざやを2.1%とおいた。 【2026-10-19 確認】数量は名目、率は物価を掛けていない(率は金利・手数料などの事業の理由でだけ動かす)。(点検 2026-10-19・R23b:数量は名目で置き、率に物価は掛けていない。利ざやの広がりは、短期金利が今の 1% 前後から 2% へ上がる間に貸出の金利がほぼ全部上がり、預金の金利は預金ベータ 40%(地銀共通の置き方)だけ上がる、という金利正常化によるもの(中立は 10 年で +0.55%。物価では上げていない)。二重がけなし)
個人貸出
愛媛県内の住宅ローンを中心とする個人向け貸出。
| 数量個人向け貸出残高(兆円) | 価格貸出利ざや(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.3 | 1.2% | 271 | 163 |
| 10 年後 中立 | 2.8 | 1.6% | 441 | 282 |
取り方:貸出金残高6.16兆円の残り約4割を個人向け2.26兆円とおき、住宅ローン中心の利ざやを1.2%とした。 【2026-10-19 確認】数量は名目、率は物価を掛けていない(率は金利・手数料などの事業の理由でだけ動かす)。(点検 2026-10-19・R23b:数量は名目で置き、率に物価は掛けていない。利ざやの広がりは、短期金利が今の 1% 前後から 2% へ上がる間に貸出の金利がほぼ全部上がり、預金の金利は預金ベータ 40%(地銀共通の置き方)だけ上がる、という金利正常化によるもの(中立は 10 年で +0.40%。物価では上げていない)。二重がけなし)
資産運用・ソリューション
投資信託・保険等の預かり資産業務と、M&Aアドバイザリー等の非金利収益。
| 数量預かり資産残高+ソリューション取扱高(兆円) | 価格実効手数料率等(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.0 | 0.9% | 90 | 63 |
| 10 年後 中立 | 1.5 | 0.9% | 133 | 98 |
取り方:預かり資産残高(2025年度1兆83億円・2026年度目標1兆620億円)とソリューション取扱高の合計を概算1.0兆円、実効手数料率を0.9%とおいた。 【2026-10-19 確認】数量は名目、率は物価を掛けていない(率は金利・手数料などの事業の理由でだけ動かす)。(点検 2026-10-19・R23b:数量は名目で置き、率に物価は掛けていない。手数料率は値上げの開示がないので、10 年を通して中立・楽観とも 0.9% の横ばいに置いた(やや悲観・悲観は競争で下がる)。二重がけなし)
リスクと懸念
資本効率の低さ(ROEが資本コストの近辺)
自己資本が8,777億円と厚く、ROEは8.5%(2026年3月期)で資本コストの8.25%をわずかに上回る程度だ。利益が育っても、自己資本の積み上がりが重く、10年後もROEは9%前後と、資本コストを大きくは超えない。還元を厚くしない限り、利益の伸びは1株の価値に届きにくい。
船舶金融(海事金融)の市況循環リスク
海事産業向け融資残高1兆6,304億円・貸出全体の26.9%という船舶金融への高い依存は、国内トップクラスの堀であると同時に、世界的な海運・造船市況の循環(船賃の山谷、新燃料船への投資サイクル、環境規制対応)に業績が左右されやすいという固有のリスクでもある。海運市況が悪化すれば他の地方銀行より下振れが大きくなりうる。
信用コストの急増
金利上昇が進む過程では愛媛県内の中小企業の資金繰りが悪化しやすく、与信費用が増える。リーマン級の信用収縮が起きれば保有する株式・債券の評価損も重なり、資本とROEが一時的に大きく傷む。信用コストは好況期に低く抑えられがちなため、今の低水準がそのまま続くと見るのは危うい。
愛媛県内の人口減少と貸出需要の縮小
愛媛県は2050年に2020年比で約29%の人口減が見込まれ(社人研)、法人・個人向け貸出の量の伸びは鈍い。県内メインバンクシェアはすでに57.5%と高く、さらなる拡大の余地は限られる。成長は利ざやと船舶金融・非金利収益に依存する度合いが強い。
政策保有株式売却の遅れ
政策保有株式の売却は取引先との関係維持の観点から急には進められない面があり、中期経営計画期間中に250億円(残存簿価の35%相当)減らす目標が遅れれば資本効率の改善ペースも鈍る。取引先企業との関係悪化を避けながら進める難しさが常に伴う。
少数株主とのガバナンス上の摩擦
2026年6月の定時株主総会では、取締役会議長の運営方法等をめぐり個人株主から株主提案が出され、取締役会が反対を決議した。実害は小さいが、少数株主との対話や取締役会の説明の充実度には改善の余地がある。
愛媛銀行との統合(成立すれば)
愛媛銀行との経営統合は2027年4月をめどに基本合意しているが、手法・比率は未公表で、成立していない。成立すれば県内メインバンクシェアは76.1%、総資産は12兆円規模になる一方、愛媛銀行の収益性は低いとみられ、統合直後は合算ROEが薄まりうる。システム統合の費用も先に出る。この分析は統合を織り込んでいないので、成立すれば筋書きを置き直す。
今後の分かれ目
- 愛媛銀行との統合の比率・手法が公表され、成立が決まったら
- 愛媛銀行の自己資本・利益・株の交換比率から、今の株主の取り分を計算し直す。単独の筋書きは使えなくなる。収益性の低い銀行を取り込む希薄化と、システム統合の費用を確かめてからだ。
- 日銀が短期金利を2%へ向けて計画より速いペースで上げたら
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。愛媛県内の貸出利ざやの拡大ペースと、預金金利の付き方を決算で確かめる。
- 愛媛県内の与信費用が四半期で急増したら
- やや悲観・悲観側に重みを移す。中小企業のどの業種で信用コストが増えたかを確認する。
- 世界的な海運・造船市況が悪化し、船舶金融の融資の質が悪化したら
- 船舶金融という堀の裏側のリスクが表面化したとみて、悲観側の確率を上げる。
- 総還元性向が50%を大きく超える水準へ引き上げられたら
- 自己資本の積み上がりが抑えられ、ROEが上がる。利益の伸びが同じでも、10年後の倍率の見方が変わるので、筋書きを置き直す。
- 政策保有株式の売却が中期経営計画の目標(250億円削減)を上回って進んだら
- 資本効率の改善が速いとみて、楽観側の確率をやや上げる。売却益は繰り返せない一時の利益として分けて見る。
見ておくもの
- 日銀の政策金利・愛媛県内の貸出利ざやの推移
- 海事産業向け融資残高・船舶金融の質(世界の海運市況)
- 愛媛県内の与信費用(信用コスト)の推移
- 総還元性向の水準と、自己資本の積み上がり(ROEの推移)
- 愛媛銀行との経営統合(2027年4月めど)の手法・比率の公表と成立
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価を見ずに決めた。ROEがk(8.25%=基本7.5%+quality +0.75%)を超える楽観・やや楽観・中立は、g 4.0%から利益ベースの正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)を出し、その9.5・9.2・9.5割、下限の1÷k=12.1倍を割らない範囲に置いた。中立もROE9%台でkを上回るので、同じ式で出した。やや悲観・悲観はROEがk以下なので、PERは1÷k=12.1倍が上限で、その9割・8割に置いた。悲観の利益は、貸出の利ざやが競争で縮み与信費用が重い構造から、ROE約2%に置き、過去の底値や今の倍率は根拠にしていない。愛媛銀行との統合は未成立なので織り込んでいない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.45→14.17 倍・やや楽観 PER 12.34→13.41 倍・中立 PER 12.07→12.59 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に quality +0.75% を足して k 8.25%(決まり v2。β・規模は使わない。内訳と理由は quality_why)。銀行は預金が仕入れなので利払いの式は当てはめず、利ざやで扱う。個別のリスクは k に足さず、確率と筋書きで表す。事業は傾いていないので上乗せ(extra)は 0。同じ地方銀行どうしで同じ物差しを使い、差は quality の4部品だけで出している。