結論
富山第一銀行は、富山県で北陸銀行に次ぐ2位の地方銀行だ。筆者の結論は、今の値段は本質価値に比べて割高、というものだ。最大の理由は利益の質にある。
2026年3月期の純利益は150億円で過去最高だった。しかし本業の稼ぎを示すコア業務純益は112億円で、差の大半は株式の売却益など繰り返せない利益である。頭取自身も、有価証券運用への依存が高まったと認めている。
金利の上昇は追い風だ。貸出の利ざやは広がり、有価証券も高い利回りに入れ替わる。筆者は10年後の中立の純利益を180億円と見る。会社が掲げる連結160億円(2033年3月期)より少し高い。
ただ、自己資本が重い。株式の含み益を含めて約2,000億円あり、利益を積んでも10年後のROEは7%に届かない。資本コストの8%台を下回る会社では、ためた利益が額面どおりの価値にならない。
県内の貸出市場は人口とともに伸びにくい。メインバンクのシェアは北陸銀行の5割弱に対し、富山第一は1割台半ばだ。2026年9月には八十二長野銀行と業務提携し、基幹システムも同行のものへ移す。単独で生きるか、再編に加わるか。その分かれ道が10年の確率を決める。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、見るのは「10年後も持ち続けたい会社か」である。この銀行は、地元に根を張る事業としては続く。ただ、持ち続けて資本が増える会社かと問われると、答えは慎重になる。
理由は2つある。1つ目は、利益の質だ。直近の純利益の3割ほどは繰り返せない売却益などで、そのまま10年先に延ばせない。本業の稼ぎ(コア業務純益)が金利とともに伸びる分だけを、オーナーの利益と見るべきだ。
2つ目は、資本の使い方だ。自己資本は約2,000億円と厚く、その一部は株式の含み益である。含み益は相場が崩れれば消える。この資本に対するROEが資本コストを下回る限り、会社が利益を積むほど、持ち分あたりの価値は薄まる。
安全域も見ておきたい。楽観の筋書きでも、今の時価総額に対する10年後の期待は大きくない。悪い筋書きでは、人口減と首位行との差で利ざやが縮み、有価証券の損も重なる。損失の幅の方が大きい。
結論として、筆者は今の値段に安全域を感じない。事業そのものは悪くない。値段が先に走っている。
何で稼ぐ会社か
富山県を地盤とする銀行で、稼ぎ口は大きく4つある。
1つ目は法人貸出だ。県内の中小企業を中心に事業資金を貸す。東京商工リサーチの調査(2025年3月末)では、県内企業のメインバンクとしてのシェアは13.7%で、北陸銀行の48.7%に次ぐ2位。3位は富山銀行の7.6%だ。2つ目は個人貸出で、住宅ローンが中心になる。
3つ目が有価証券運用だ。2026年3月末の貸出金は1兆330億円、有価証券は5,560億円。運用資産が貸出の半分を超える。債券のほか株式や投資信託も持ち、ここから出る利息・配当と売買益が、利益の大きな部分を占めてきた。
4つ目は手数料である。投資信託や保険などの預かり資産の販売に加え、事業承継・M&A・ビジネスマッチングといったコンサルティングを伸ばしたい考えだ。2023年に決めた10年の長期ビジョンも、コンサルの強化とグループ会社のM&Aによる人材の厚みを掲げる。
預金を集めて貸す点は他の地銀と変わらない。違いは、貸出より運用で稼ぐ割合が高いことだ。頭取は2026年3月期の決算で、金利上昇の恩恵を取り込める業態へ変えたいと述べた。運用依存から貸出と手数料へ重心を移せるか。それがこの会社の経営課題である。
連結の自己資本比率は約12%と厚く、2026年3月期の自己資本は約2,000億円だった。グループ会社を使ったM&Aで人材とコンサル機能を補う方針だが、稼ぎの中心はあくまで銀行本体である。
優良さと弱いところ
筆者は、この銀行の堀(他社がまねできない強み)を「中の上」と見る。強い堀とまでは言えない。
強みは地元の顧客基盤だ。県内で長く取引してきた企業が多く、メインバンクのシェアは13.7%で2位を保つ。前年からはほぼ横ばいで、すぐに崩れる様子はない。一方、首位の北陸銀行は5割近くを握る。値段を決める力は首位が持ち、2位は競争に合わせる側だ。
弱みは利益の質だ。2026年3月期は含み益の実現などで経常利益が膨らんだ。コア業務純益は112億円で、本業の実力はこちらである。会社は2025年に、自己資本を積むため含み益を計画的に実現したと説明している。必要な動きではあるが、毎年は繰り返せない。
資本の使い方は改善中だ。配当性向を約30%から35%以上に引き上げ、自社株買いも機動的に行う方針を2025年に示した。評価できる。ただ、自己資本は約2,000億円と厚く、ROEは7.6%どまりだ。余った資本をどう使うかは、まだ答えが出ていない。
持ち合いの影も残る。大株主には北陸銀行(3.1%)と福井銀行(2.8%)が並ぶ。地元の銀行どうしの持ち合いであり、資本効率の面では重しになる。
経営の姿勢は、2023年に10年の長期ビジョンを掲げ、3年ごとの中期計画をやめた点に表れている。将来像から逆算する方式で、目標は2026年5月に、単体80億円から連結160億円へ引き上げられた。目標を上げたのは前向きだが、中身は金利上昇に乗る部分が大きい。経営の腕を測るには、運用益を除いた本業の伸びを見る必要がある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
銀行業は「金利のある世界」の入口にいる。短期金利が2%まで上がる前提では、貸出の利ざやは広がる。預金の金利は遅れて上がるからだ。地方銀行の法人貸出で10年に+0.45%、個人で+0.40%というのが、業界の標準的な見方である。
ただし、量は伸びにくい。富山県も人口が減り、事業所数も減っていく。2026年6月末の貸出金は、3月末から約160億円減った。需要の弱さと、運用から貸出へ軸足を移す途中の動きが重なった結果とみられる。筆者は貸出の伸びを年3%(物価3%に地元の人口減を差し引いた程度)で置く。
競争の形は2つある。1つは県内の首位、北陸銀行(ほくほくFG)との差だ。シェア48.7%の相手に正面から勝つのは難しい。もう1つは再編である。千葉銀行と千葉興業銀行、しずおかFGと名古屋銀行、群馬銀行と第四北越FGと、県をまたぐ統合が続く。八十二長野銀行は静岡銀行・山梨中央銀行と「富士山・アルプス アライアンス」を組み、2026年9月に富山第一との提携を発表した。
手数料の分野は追い風だ。NISAの定着で預かり資産は伸びる。ただ、手数料率は低コスト商品に押されて少しずつ下がる。銀行どうしの競争に加え、ネット証券も相手になる。
10年の勝ち負けは、再編に乗る側か乗れない側かで分かれる。規模が小さい銀行は、システム費用の重さが収益を圧迫する。富山第一が八十二長野銀行のシステムに移るのは、その費用を抑える手でもある。
資本政策と M&A
株主還元は、配当性向35%以上に自社株買いを組み合わせる方針だ。2025年4月に約30%から引き上げた。2026年3月期は純利益の約35%を配当に回した。自社株の保有は2026年3月末で約146万株と、まだ小さい。
資本政策の最大の論点は、自己資本の重さと使い道である。含み益の実現で資本を積んだ後も、ROEは資本コストを下回る。筆者は、自社株買いを増やして自己資本を絞らない限り、ROEは大きく上がらないと見る。ただし銀行は規制の資本を守る必要があり、無理は利かない。
M&Aは、グループ会社を使った人材・コンサル機能の補強が中心だ。大型の買収で規模を取る動きは見えない。一方、2026年9月に八十二長野銀行と業務提携し、2030年1月にシステムを同行のものへ移す。資本関係は発表に含まれていない。経営の独立は保つとしている。
買われる側になる可能性はゼロではない。kabufuの推定では、10年以内にTOBなどで買収される確率は14.9%だ。ただ、再編では株式交換で経営統合する形が多く、買収価格が割増しになるとは限らない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
金利が2%へ向かえば、この銀行は最も恩恵を受ける部類に入る。貸出は変動金利が多く、先に利息が上がる。有価証券も、利回りの低い古い債券が満期を迎えて高い利回りへ入れ替わる。2027年3月期の第1四半期、単体のコア業務純益は49億円と前年同期比で約26%伸びた。3年連続の過去最高だ。
株式の売却益が減っても、本業の積み上げで補える。コア業務純益は2026年3月期に112億円と17%伸びており、金利がまだ途中であることを考えると、勢いは続く。会社の目標(連結160億円)は低すぎる。
県内2位の地位は固い。メインバンクのシェアは13.7%でほぼ横ばいだ。取引先への深い入り込みが、貸出の利ざやを守る。コンサルとM&Aの機能を強め、手数料も増やす。
八十二長野銀行との提携は、システム費用の削減と地域をまたぐ営業の双方で効く。独立を保ちながら、再編の利点だけを取れる。自社株買いで自己資本を絞れば、ROEは10%近くまで上がる。含み益の資本は、それ自体が厚い安全域でもある。
県内の企業は設備投資を続けている。2026年3月期の決算でも、業務効率化の設備投資に伴う貸出金利息の増加が利益を押し上げた。地元の取引先が成長する限り、貸出の量も利ざやも、人口減の逆風を一部は打ち消せる。
慎重な見方
2026年3月期の利益は、見かけよりずっと弱い。経常利益の209億円のうち、本業はコア業務純益の112億円で、残りは株式の売却益などだ。頭取も運用依存の高まりを課題と認めた。2027年3月期の純利益予想は130億円で、会社自身が14%の減益を見込む。
貸出は伸びていない。2026年6月末の貸出金は、3月末より約160億円減った。県内は人口が減り、首位の北陸銀行が48.7%を握る。2位の13.7%は、値段で勝てる位置ではない。預金の金利は上がり、利ざやの拡大は思ったほど残らない恐れがある。
自己資本は約2,000億円と厚いが、その一部は株式の含み益だ。相場が崩れれば、資本も、売却益という利益源も同時に傷む。ROEが資本コストを下回る会社は、どれだけ利益を積んでも、価値は帳簿ほど増えない。
再編も安心材料ではない。八十二長野銀行との提携は資本を伴わない。統合になれば、株式交換で薄まる側に回る可能性もある。県をまたぐ大型統合が続くなか、単独の中堅行はシステム費用の重さで競争力を落としやすい。今の値段は、記録的な決算の最も良い所を織り込んでいる。
長期ビジョンの目標改定にも注意がいる。連結160億円という数字は、2026年3月期の実績150億円とほとんど変わらない。10年かけて10億円しか増やさない目標であり、会社自身が、金利上昇でも利益は大きく伸びないと見ている可能性がある。
どちらに重みを置いたか
本業の稼ぎが金利とともに伸びる点では、強気の見方に分がある。ただ、自己資本が重く、中立のROEが資本コストに届かない点で、慎重な見方が強い。倍率を上げる材料が乏しいからだ。
そこで確率は、やや慎重な側に寄せた。楽観は10%と薄く、やや悲観を24%、悲観を14%とした。悲観は、運用の損と首位行との差の両方が10年のどこかで重なる筋書きに置いた。
中立の確率は3割にとどめた。10年の間には利益の山谷が混ざり、ちょうど中立の水準で推移する年は少ない。強気の見方が当たれば楽観・やや楽観に、慎重な見方が当たればやや悲観・悲観に振れる。両者の言い分は拮抗しているが、倍率を支える資本効率の面で慎重な見方が一歩強い。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,038 円1,849 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,147 円698 億円)。 今の値に割り戻すと 2,139 円1,302 億円、今との差 −34.8%、 期待の年率 +2.5%(資本コスト 8.3%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 5,104 円3,106 億円 | 1,596 円971 億円 | +104.3% | +7.4% | 670 円408 億円 |
| やや楽観 | 22% | 4,218 円2,567 億円 | 1,388 円845 億円 | +70.9% | +5.5% | 1,233 円751 億円 |
| 中立 | 30% | 3,564 円2,169 億円 | 1,223 円744 億円 | +45.9% | +3.9% | 1,436 円874 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,798 円1,094 億円 | 978 円595 億円 | −15.4% | −1.7% | 666 円405 億円 |
| 悲観 | 14% | 710 円432 億円 | 575 円350 億円 | −60.8% | −8.9% | 180 円109 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,038 円1,849 億円 | 1,147 円698 億円 | +27.6% | +2.5% | 4,185 円2,547 億円 |
今の株価時価総額 3,280 円1,996 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 10% 金利の追い風とコンサルの伸びが10年そろう 利益 254 億円 · PER 12.2 倍 · 株価時価総額 5,104 円3,106 億円
短期金利2%、長期金利3%が定着し、法人・個人の貸出の利ざやが広がり切る。会社の見立てを上回る形で、貸出の量も年3.8%ほどのペースで伸びる。運用から貸出と手数料へ重心が移り、コンサル・M&Aが育って、手数料の稼ぎが2倍近くになる。八十二長野銀行との提携が営業とシステム費用の両面で効き、経費の増え方が物価より緩やかになる。自社株買いも進み、自己資本を絞ってROEは9%近くに達する。県内の2位の位置は守られ、再編では独立を保ったまま利点だけを取る。10年の間に大きな信用事故がなく、株式相場も崩れない、全部がうまくいく姿である。それでもROEが2桁に届かないところに、この銀行の自己資本の重さが表れる。
- 法人貸出:数量 0.9(法人・事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.9%(貸出の預貸ざや(%))→ 売上 179 億円・営業利益 125 億円。残高 0.94 兆円(名目)× 利ざや 1.90%、利益率 70%
- 個人貸出:数量 0.5(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.7%(貸出の預貸ざや(%))→ 売上 84 億円・営業利益 48 億円。残高 0.51 兆円(名目)× 利ざや 1.65%、利益率 57%
- 有価証券運用:数量 0.7(有価証券残高(兆円))× 価格 2.9%(運用ざや(利息配当+売買益-調達費用、%))→ 売上 191 億円・営業利益 172 億円。残高 0.66 兆円(名目)× 運用ざや 2.90%、利益率 90%
- 手数料・コンサル:数量 0.7(預かり資産残高(兆円))× 価格 1.2%(実効手数料率(%))→ 売上 83 億円・営業利益 33 億円。残高 0.72 兆円(名目)× 手数料率 1.15%、利益率 40%
倍率:事業の純利益 254 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.6% が k 8.30% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.2 倍。全体の PER 12.23 倍、時価総額 3,106 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:金利、貸出の量、コンサルの育成、株式相場、与信費用のすべてが10年間うまく噛み合う前提で、確度は高くない。運用依存が高いほど、全部が揃う確率は低くなる。
やや楽観 22% 貸出の利ざやが広がり、運用依存が薄まる 利益 213 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 4,218 円2,567 億円
利ざやは中立より広がり、貸出も年3.4%程度で伸びる。運用の比率は下がり、貸出とコンサル・預かり資産の収益が厚くなる。県内の設備投資が続き、取引先の成長が貸出を支える。2033年3月期の会社目標(連結160億円)を、10年目には大きく超えて着地する。八十二長野銀行との提携は営業の連携にとどまるが、システム移行で経費の伸びは抑えられる。自社株買いも続けるが、自己資本は厚く、ROEは7%台半ばにとどまる。再編は他行のものを遠くから見る形で、富山第一は独立を保つ。楽観には届かないが、業界の見通しの上位レンジに近い、手堅く良い10年だ。成長の鍵は、貸出の量を落とさずに預かり資産とコンサルを積み増せるかにある。その進み方が、楽観との差になる。
- 法人貸出:数量 0.9(法人・事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.7%(貸出の預貸ざや(%))→ 売上 156 億円・営業利益 105 億円。残高 0.90 兆円(名目)× 利ざや 1.73%、利益率 67%
- 個人貸出:数量 0.5(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.5%(貸出の預貸ざや(%))→ 売上 75 億円・営業利益 40 億円。残高 0.50 兆円(名目)× 利ざや 1.50%、利益率 53%
- 有価証券運用:数量 0.6(有価証券残高(兆円))× 価格 2.7%(運用ざや(利息配当+売買益-調達費用、%))→ 売上 173 億円・営業利益 154 億円。残高 0.64 兆円(名目)× 運用ざや 2.70%、利益率 89%
- 手数料・コンサル:数量 0.7(預かり資産残高(兆円))× 価格 1.1%(実効手数料率(%))→ 売上 73 億円・営業利益 26 億円。残高 0.66 兆円(名目)× 手数料率 1.10%、利益率 35%
倍率:事業の純利益 213 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.4% が k 8.30% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.0 倍。全体の PER 12.05 倍、時価総額 2,567 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:金利の追い風が想定どおり働き、貸出とコンサルが伸びる、業界の見通しの上位レンジに近い想定。2位行としての地位を保てれば現実的で、中立よりやや薄く置く。
中立 30% 中立:利ざやは広がるが、量と資本効率が伸びない 利益 180 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 3,564 円2,169 億円
10年の間に短期金利2%・長期金利3%が定着し、貸出の利ざやは中立の幅で広がる。県内の人口減で貸出の量は年2〜3%の伸びにとどまる。有価証券の運用は、利回りが上がる一方で売却益は細り、全体の稼ぎは今とほぼ同じ水準で推移する。コンサルと預かり資産が少しずつ増え、手数料は伸びるが利益への寄与は限られる。経費は物価並みに増え、システム移行の効果はそれを少し緩める程度だ。与信費用は景気の循環を経て平常の水準へ戻る。純利益は180億円に達するが、自己資本もそれに合わせて厚くなり、ROEは7%に届かない。北陸銀行との差も、八十二長野銀行との関係も、10年で大きくは動かない。会社の長期目標(連結160億円)には届く水準で、可もなく不可もない10年である。
- 法人貸出:数量 0.9(法人・事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.6%(貸出の預貸ざや(%))→ 売上 140 億円・営業利益 90 億円。残高 0.87 兆円(名目)× 利ざや 1.60%、利益率 64%
- 個人貸出:数量 0.5(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.4%(貸出の預貸ざや(%))→ 売上 66 億円・営業利益 33 億円。残高 0.49 兆円(名目)× 利ざや 1.35%、利益率 50%
- 有価証券運用:数量 0.6(有価証券残高(兆円))× 価格 2.6%(運用ざや(利息配当+売買益-調達費用、%))→ 売上 161 億円・営業利益 142 億円。残高 0.62 兆円(名目)× 運用ざや 2.60%、利益率 88%
- 手数料・コンサル:数量 0.6(預かり資産残高(兆円))× 価格 1.1%(実効手数料率(%))→ 売上 64 億円・営業利益 19 億円。残高 0.61 兆円(名目)× 手数料率 1.05%、利益率 30%
倍率:事業の純利益 180 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.4% が k 8.30% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.0 倍。全体の PER 12.05 倍、時価総額 2,169 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:短期金利2%・長期金利3%が定着し、与信費用が景気循環をならした水準に戻る中心の筋書き。ただし、10年の途中に利益の山谷が混ざるため、確率は3割にとどめる。
やや悲観 24% 首位行との差と人口減で、成長が鈍る 利益 114 億円 · PER 9.6 倍 · 株価時価総額 1,798 円1,094 億円
貸出の伸びは年2%強まで落ちる。首位の北陸銀行が県内の大口取引を握り、2位行は金利競争に付き合って利ざやの広がりを預金金利の上昇で削られる。有価証券は、運用の巧拙にばらつきが出て、売却益は細り、期間損益も出る。手数料の育成は計画より遅れる。八十二長野銀行との提携は営業の連携にとどまり、費用の削減効果も小さい。与信費用は中立より重く、利益は伸びずに今より低い水準を行き来する。純利益は100億円台前半にとどまり、自己資本は厚いまま残る。ROEは4%台で、資本コストを大きく下回る。株主への還元は、自己資本の厚さを理由に続くが、利益が細るぶん総額は減る。再編の波にも乗れず、静かに競争力を失っていく10年である。
- 法人貸出:数量 0.8(法人・事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.4%(貸出の預貸ざや(%))→ 売上 107 億円・営業利益 60 億円。残高 0.79 兆円(名目)× 利ざや 1.35%、利益率 56%
- 個人貸出:数量 0.4(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.2%(貸出の預貸ざや(%))→ 売上 50 億円・営業利益 20 億円。残高 0.44 兆円(名目)× 利ざや 1.15%、利益率 40%
- 有価証券運用:数量 0.6(有価証券残高(兆円))× 価格 2.3%(運用ざや(利息配当+売買益-調達費用、%))→ 売上 135 億円・営業利益 115 億円。残高 0.60 兆円(名目)× 運用ざや 2.25%、利益率 85%
- 手数料・コンサル:数量 0.5(預かり資産残高(兆円))× 価格 1.0%(実効手数料率(%))→ 売上 49 億円・営業利益 11 億円。残高 0.52 兆円(名目)× 手数料率 0.95%、利益率 22%
倍率:10年後のROE4.3%(純利益114億円÷自己資本2,636億円)。ROEはk8.3%以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、PERは1÷k=12.0倍までが上限。競争で稼ぐ力が鈍る姿。運用益のぶれも残り、利益の質は中立より低い。上限の8.0割に置き、9.6倍。還元を会社の方針(45%)に合わせたため自己資本が厚くなった。
確率:首位行との差、人口減、預金競争が重なって利ざやの広がりが削られ、運用益も細る想定。ROEが資本コストを下回る会社の姿としてもっとも起きやすく、確率を厚めに置いた。
悲観 14% 構造的に負け、運用の損と利ざやの縮みが重なる 利益 48 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 710 円432 億円
リーマン級の信用収縮が起き、与信費用が急増する。同時に株式相場が崩れ、含み益で膨らんだ自己資本が約500億円目減りし、売却益という利益源も消える。人口減が速まって、貸出の量は伸びず、首位の北陸銀行や広域の統合行が県内の優良な取引先を取りにくる。預金の競争も厳しく、利ざやの広がりは大半が預金金利の上昇に食われる。コンサルは育たず、手数料も縮む。八十二長野銀行との関係は実を結ばず、単独では経費の重さが残る。もう優良な銀行ではなく、利益は50億円を割る水準で、ROEは3%にも届かない。配当は維持されても自社株買いは止まり、再編では弱い立場で条件を呑む側に回る。含み益という厚みが消えた銀行の、稼ぐ力そのものが問われる姿である。
- 法人貸出:数量 0.7(法人・事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.1%(貸出の預貸ざや(%))→ 売上 68 億円・営業利益 34 億円。残高 0.65 兆円(名目)× 利ざや 1.05%、利益率 50%
- 個人貸出:数量 0.4(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 0.9%(貸出の預貸ざや(%))→ 売上 32 億円・営業利益 11 億円。残高 0.36 兆円(名目)× 利ざや 0.90%、利益率 35%
- 有価証券運用:数量 0.6(有価証券残高(兆円))× 価格 1.9%(運用ざや(利息配当+売買益-調達費用、%))→ 売上 105 億円・営業利益 86 億円。残高 0.55 兆円(名目)× 運用ざや 1.90%、利益率 82%
- 手数料・コンサル:数量 0.4(預かり資産残高(兆円))× 価格 0.9%(実効手数料率(%))→ 売上 36 億円・営業利益 6 億円。残高 0.40 兆円(名目)× 手数料率 0.90%、利益率 18%
倍率:10年後のROE2.6%(純利益48億円÷自己資本1,836億円)はk8.3%以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、PERは1÷k=12.0倍までが上限。構造的に負けて優良でなくなった姿。利益が谷で、売買益に支えられた部分が消えており、永続する利益の質はいちばん低い。上限の7.5割に置き、9.00倍。 今の自己資本1,986億円に対する倍率は0.22倍。稼ぐ力から出した値で、自己資本の何割という置き方はしていない。
確率:信用収縮、株式相場の崩れ、首位行と広域統合行への顧客流出が10年のどこかで重なる想定。運用依存で相場の影響が大きい銀行なので、地銀の標準よりやや高めの確率を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
法人貸出
富山県内の中小企業を中心とする法人・事業性融資。メインバンクのシェアは13.7%で県内2位。
| 数量法人・事業性貸出残高(兆円) | 価格貸出の預貸ざや(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.7 | 1.2% | 75 | 41 |
| 10 年後 中立 | 0.9 | 1.6% | 140 | 90 |
取り方:2026年3月末の貸出金1兆330億円のうち、法人・事業性を約63%の0.65兆円と推定した(内訳は開示を見ていない)。預貸ざやは1.15%と置いた。残高はお金の量なので名目で伸ばし、中立は年3.0%(物価3%に富山県の人口減を引いた程度)。ざやは率なので物価では上がらず、短期金利が今の1%前後から2%へ上がる間に、預金の金利は40%だけ付いていくため、中立で10年に+0.45%広がると置いた(地方銀行の共通の物差し)。 【2026-10-19 確認】数量は名目、率は物価を掛けていない(率は金利・手数料などの事業の理由でだけ動かす)。
個人貸出
住宅ローンを中心とする個人向け貸出。
| 数量個人向け貸出残高(兆円) | 価格貸出の預貸ざや(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.4 | 1.0% | 36 | 14 |
| 10 年後 中立 | 0.5 | 1.4% | 66 | 33 |
取り方:貸出金のうち個人向けを約37%の0.38兆円と推定した。住宅ローンの預貸ざやを0.95%と置いた。残高は中立で年2.5%(地元の人口減を含む)。ざやは10年で+0.40%広がると置いた(地方銀行の共通の物差し)。経費が重く、利益率は法人より低い。 【2026-10-19 確認】数量は名目、率は物価を掛けていない(率は金利・手数料などの事業の理由でだけ動かす)。
有価証券運用
債券・株式・投資信託の運用。利息・配当と、売却益・解約益で稼ぐ。
| 数量有価証券残高(兆円) | 価格運用ざや(利息配当+売買益-調達費用、%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.6 | 3.1% | 170 | 150 |
| 10 年後 中立 | 0.6 | 2.6% | 161 | 142 |
取り方:2026年3月末の有価証券残高5,560億円。経常利益209.9億円からコア業務純益112億円を引いた約100億円が運用益などの上乗せと見て、売買益等を約75億円(残高の約1.35%)、繰り返せる利息配当の純ざやを約1.7%と推定した。合計の運用ざやは3.05%。開示で分けた数字ではなく推定である。 【2026-10-19 確認】数量は名目、率は物価を掛けていない(率は金利・手数料などの事業の理由でだけ動かす)。
手数料・コンサル
預かり資産(投資信託・保険)の販売手数料と、M&A・事業承継などのコンサルティング収益。
| 数量預かり資産残高(兆円) | 価格実効手数料率(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.4 | 1.1% | 44 | 11 |
| 10 年後 中立 | 0.6 | 1.1% | 64 | 19 |
取り方:預かり資産残高を0.40兆円、コンサルを含めた実効手数料率を1.1%と推定した(開示は見ていない)。預かり資産はお金の量なので名目で伸ばし、中立は年4.0%(物価3%に資産形成の実質分)。手数料率は低コスト商品の流れで緩やかに下がると置く。 【2026-10-19 確認】数量は名目、率は物価を掛けていない(率は金利・手数料などの事業の理由でだけ動かす)。
リスクと懸念
運用益への依存
利益の大きな部分が株式の売却益や投資信託の解約益など、繰り返せない運用益で成り立っている。頭取も依存の高まりを課題と認めた。株式相場が崩れると、売却益が消えるうえ含み益の自己資本も減り、利益と資本が同時に傷む。2027年3月期の純利益予想も、14%の減益である。
首位行との差と人口減
県内企業のメインバンクとして北陸銀行が48.7%を握り、富山第一は13.7%で2位。人口と事業所の減少が続くなか、良い取引先の取り合いは首位が有利である。貸出金は2026年6月末に3月末から約160億円減っており、量の伸びが細ると利ざやの広がりを打ち消す。
預金競争による利ざやの縮み
金利が上がる局面では、預金の金利も遅れて上がる。ネット銀行や他県の大手との競争が強まれば、預金金利の上昇は想定の40%より大きくなる。貸出の利ざやの広がりが食われ、中立の見通しの1割〜2割を失えば、純利益は数十億円の単位で動く。預金の確保は、地方の銀行にとって金利以外に店舗網と信頼で守る領域でもあり、ここで負けると回復に時間がかかる。
再編の置いていかれ・薄まり
地方銀行は県をまたぐ統合が続いている。八十二長野銀行との提携は資本を伴わず、経営の独立を保つ形だ。統合の流れから外れると、システム費用など規模の重さが残る。逆に統合に参加する場合、株式交換の比率次第では既存株主の持ち分が薄まる。どちらに転んでも、再編は価値を押し上げる確かな材料にはなりにくい。
与信費用の正常化
与信費用は今、歴史的に低い水準にある。金利が上がると、借り手の利払いが重くなり、中小企業の資金繰りが悪化する。景気の循環で費用が平常の水準に戻るだけで、利益の数十億円が消える。10年の間に、リーマン級の信用収縮が1回来る前提で見るべきである。会社の貸出は中小企業が中心で、景気の悪化は取引先の倒産に直結する。
自己資本の重さとROE
自己資本は約2,000億円で、1年で約460億円増えた。利益の残りだけでは説明できず、株式などの含み益が増えた分が大きいとみられる。含み益は相場しだいで減り、ROEは資本コストを下回る。自社株買いで絞らない限り、持ち分あたりの価値は上がりにくい。
システム移行の実行
2030年1月に、八十二長野銀行が開発した基幹系システムへ移行する。大がかりな移行は、費用の超過や稼働の遅れが出やすい。失敗すれば、費用の削減どころか、数年は経費が膨らむ。ここは筋書きの上下の幅に効く。移行の前後は、銀行本来の営業に回す人手も取られやすい。
今後の分かれ目
- 日銀が短期金利を2%へ向けて想定より速く上げたら
- 貸出の利ざやの広がりが速まる。楽観・やや楽観の確率を上げてよい。ただし預金金利の上がり方も同時に確認する。
- 株式相場が大きく崩れ、含み益が目減りしたら
- 自己資本が薄くなり、売却益という利益源も消える。悲観寄りの筋書きに確率を移す。ただし自己資本が減ればROEは上がるため、価値の下がり方は利益の落ち込みで測る。
- 自社株買いを大きく増やし、自己資本比率が下がったら
- ROEが上がる方向で、中立の自己資本の筋書きが変わる。利益が同じでも、持ち分あたりの価値は上がる。
- 貸出金の残高が数四半期にわたり減り続けたら
- 県内の需要の弱さか、首位行への流出を疑う。やや悲観の確率を上げる。
- 八十二長野銀行と資本を含む関係に進んだら
- 統合の可能性が高まる。株式交換の比率で、既存株主が得をするか薄まるかが決まるので、条件の開示を待つ。
- コンサル・M&Aの手数料が、2〜3年で目に見えて増えたら
- 運用依存から抜ける道筋が見えたことになる。手数料の筋書きを上げ、楽観側へ確率を寄せる。
見ておくもの
- 日銀の政策金利と、貸出の利ざや・預金金利の推移
- コア業務純益(投信解約損益を除く)の四半期ごとの推移
- 貸出金残高の増減と、メインバンクのシェア(東京商工リサーチ・帝国データバンクの調査)
- 株式売却益・投信解約益の額と、有価証券の評価損益
- 八十二長野銀行との提携の中身、システム移行の費用・進み具合
- 配当性向と自社株買いの実施額
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価を見ずに決めた。10年後のROEとk 8.3%(基本7.5%+quality 0.8%)から、利益ベースの正当化PERの上限を出した。ROEがk以下の筋書き(中立・やや楽観・やや悲観・悲観)は上限が1÷k=12.0倍で、その7.5〜9割に置いた。ROEがkを上回る楽観だけ式の上限(約12.8倍)の9.5割に置いた。今のコア業務純益と、利ざや拡大の標準的な幅から10年の利益を積んだ。直近の純利益に含まれる売却益は、繰り返さない前提で外した。自己資本は今の1,986億円に10年の利益と還元差を足して流した。kが1%高い(9.3%)と、中立のPERは10.2倍から9.1倍に下がる。(形の注記)基準の変更:新リース会計基準(2028/03期〜)は銀行の店舗賃借を載せるが、利益はほぼ変わらず、ここでは今と同じ形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.64→12.23 倍・やや楽観 PER 10.8→12.05 倍・中立 PER 10.2→12.05 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%にquality +0.8%を足してk 8.3%(決まりv2。βと規模は使わない)。銀行は預金が仕入れなので利払いの式は当てはめず、利ざやで扱う。個別のリスク(運用の損・再編)はkに足さず、筋書きと確率で表す。事業は傾いておらず上乗せは0。同じ地方銀行と同じ物差しで、差はqualityの4部品だけで出した。