結論
千葉興業銀行は、千葉県を地盤に貸出2.5兆円・預金3.0兆円を持つ地方銀行である。千葉銀行との経営統合が決まり、普通株は1対1で2027年4月に新しい持株会社へ移る。筆者の結論は、今の値段はやや割高。一番の理由は、金利上昇の追い風を織り込んでも、薄い自己資本が利益の持ち帰りを縛り、ROEが資本コストに届かないことだ。
稼ぎの源は貸出の利ざやだ。直近の預貸の利回り差は1.02%で、短期金利が2%へ上がれば広がる。筆者は10年後の純利益を、直近の86億円から170億円前後へ倍増すると見る。ただ貸出が伸びる間は、自己資本の比率を保つために利益の4割ほどを内部に残す必要がある。ROEは8%台にとどまる。
統合は株主にとって悪い話ではない。来期の1株の稼ぎは千葉銀行とほぼ同じで、1対1は利益で釣り合っている。優先株という重荷も片づく。ただ統合効果は両行合計で年120〜160億円(2031年度末)、千葉興銀の株主の持ち分は7.7%にすぎない。上積みは1割に届かない。
強気の筋書きでも、倍率は資本コストの手前に収まる。金利と統合の良い面は、今の値段にかなり入っていると筆者は見る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社を「ずっと持ち続けたい」とは言いにくい。理由は、稼ぐ力が資本コストを下回り続けた歴史と、薄い自己資本だ。
ただ、今は条件が違う。金利上昇で利ざやが広がり、優先株という重荷が消え、強い千葉銀行と同じ船に乗る。筆者はここまでは評価する。10年後に純利益が倍になり得ることは、数量と価格の積み上げから素直に出てくる。
それでも堀の広さは千葉銀行の足元にも及ばない。利益の相当な部分は、金利が決める偶然の利益だ。株主のものになる利益で見ると、貸出が伸びる間は利益の4割ほどを内部に残さないと資本比率を保てず、手元に渡るのは6割にとどまる。
安全域も薄い。確率で重みを付けた本質価値は、今の時価総額を2割弱下回る。安く買える会社ではなく、適正な値段を少し超えて払う会社だと筆者は見る。
何で稼ぐ会社か
本業は、千葉県内の中小企業と個人にお金を貸し、預金を集めることだ。2026年3月期の貸出金は2.5兆円、預金は3.0兆円。店は74あり、うち72が千葉県内、残る2つが都内にある。県外へ広げず、地元の取引先に深く入るやり方を続けてきた。
収益は3つの柱に分けて見られる。最大は中小企業向けの事業性貸出で、貸出の6割強を占めると筆者は推定する(開示は貸出全体のみ)。個人向けは住宅ローンが中心だが、直近は残高が減った。会社は中期経営計画で、競争の激しい住宅ローンから、収益性の高い事業性貸出へ資金を移す方針を示している。3つ目は投信・保険・コンサルティングの手数料で、年76億円ほど。団体信用保険料の増加で前期は8%減った。
貸出に回らない預金は、国債などの有価証券や日銀預け金で運用する。預金は貸出より5,000億円ほど多く、短期金利が上がるとこの運用の収益が増える。貸出の利ざやと並んで、金利上昇の恩恵を受ける部分だ。
中期経営計画「幸せデザイン 絆プロジェクト 2028」(2025〜27年度)は、2027年度に当期利益110億円以上、普通株ROE7%以上を掲げる。2026年3月期の純利益は86億円(前期比15%増)、2027年3月期の会社予想は96億円だ。地域商社「ちばくる」(2024年4月設立)など手数料の新しい芽もあるが、利益への寄与はまだ小さい。
優良さと弱いところ
堀は千葉銀行ほど広くない。千葉県内の貸出シェアは千葉銀行が約4割(同行の説明)を握り、千葉興銀は2番手以下に回る。貸出金利を自分で決められる立場ではなく、同じ地域で千葉銀行・京葉銀行・メガバンクと値段で競る。
それでも地元との結びつきは長い。1952年に県内の中小企業の資金不足を埋めるために設立された成り立ちで、法人の取引先の裾野は広い。住宅ローンでも地元の有力行の一つだが、直近は残高が減り、ネット銀行や大手に押されている。
最大の弱みは自己資本の薄さだ。自己資本比率は5.7%、中計の目標は8.5%以上と、余裕がない。2000年に公的資金600億円を受け、完済は2013年だった。つい最近も、優先株の償還で純資産が約240億円減っている。資本が薄いと、信用コストの悪化や債券の評価損に弱い。
収益力も低い。ROEは過去10年の中央値で4.0%、直近でも4.5%で、10年間ずっと資本コストを下回ってきた。実力で稼ぐというより、金利という外からの追い風に乗る会社だ。
筆者は、千葉銀行が筆頭株主になって統合へ進んだことを、単独では資本の厚みと収益性の改善に限界があるという判断の表れと読む。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
地方銀行は「金利のある世界」の入口にいる。日銀が利上げすると、貸出金利は先に上がり、預金金利は遅れて追う。この時間差が利ざやを広げる。短期金利が2%に届いて落ち着いた後、筆者は貸出の利ざやが今より0.4〜0.5ポイント広がると置く。
量の伸びは弱い。地方では人口も企業の数も減る。ただ千葉県は首都圏の東端にあり、全国の地方よりは人口の減り方が緩い。貸出残高は物価の伸びを含めて、年2〜3%台で伸びると見る。
業界を変える最大の力は再編だ。「1県1行」へ向けて、千葉銀行と千葉興銀、しずおかFGと名古屋銀行など統合が相次ぐ。店を残したままシステムを共通化する方式が広がり、規模の効果が出る側と出ない側で収益力の差が開いていく。千葉興銀は出る側に回った。
競争相手は増えている。住宅ローンではネット銀行と大手が低い金利で攻め、地方銀行の貸出金利を押し下げる。法人向けでは、大企業との取引を厚くした千葉銀行との競り合いが続く。一方、預かり資産の分野はNISAの拡充で残高が伸びる追い風がある。手数料率は下がるが、残高の伸びがそれを上回ると見る。
資本政策と M&A
資本政策は大きく動いている。優先株383億円のうち240億円を2026年4月に償還し、残りも2027年1月までに取得する方針だ。優先株は配当の負担が重く、普通株の価値を削っていた。これを片づける意味は大きい。
一方、普通株への還元はまだ薄い。2027年3月期の配当は前期の倍に増えるが、配当性向は1割強で、地銀の中でも低い。自己資本に余裕がなく、持株会社設立後に自己資本比率8%以上を確保するという条件があるためだ。
統合後は千葉銀行の方針に近づくと筆者は見る。千葉銀行は自己株買いを含めて還元を厚くしている。ただ資本の余裕が前提で、貸出が伸びる間は利益の4割ほどを内部に残す必要がある。
M&Aでは、千葉興銀は買う側ではなく、統合される側の株主として収益を得る立場だ。普通株の1対1の比率は固定で、千葉銀行の株価と離れた分の割安・割高は、新しい持株会社の株価に引き継がれる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
金利のある世界の恩恵は、利益の薄い銀行にこそ大きく出る。千葉興銀は預金が貸出より5,000億円ほど多く、短期金利が2%へ上がる分がそのまま運用の収益になる。貸出の利ざやも広がり、2027年度に当期利益110億円以上という会社目標は、金利が計画の前提より高ければ前倒しで届く。
統合の価値も軽く見るべきでない。合併ではなく持株会社の下で2ブランドを残す形で、店を畳まずにシステムを共通化する。両行合計の統合効果は2031年度末に年120〜160億円。システムを共通化するなら、規模の小さい側ほど削減の幅は大きくなりやすい。7.7%という按分は、むしろ控えめだ。
優先株の償還で配当の重荷が消え、統合後は千葉銀行並みに還元を厚くできる。1株の稼ぎは千葉銀行と並び、1株の自己資本は千葉銀行の1.5倍ある。
貸出の面でも、千葉興銀は直近で中小企業向けが伸び、預貸の利回り差が0.1ポイント改善した。事業性貸出への資金の移し替えが進むほど、同じ自己資本から稼げる利益が増える。コア業務純益が前期より1割増えた勢いは、金利の追い風を借りて続く。金利が定着すれば、10年後にROEが10%を超える世界は十分に現実味がある。
慎重な見方
金利上昇の利益は、競争の中で顧客に返っていく。住宅ローンはすでに残高が減り、ネット銀行と大手の低い金利に押されている。法人向けでも千葉銀行が大企業を押さえ、千葉興銀の貸出金利は上がりにくい。利ざやが想定の半分しか広がらなければ、10年後の純利益は100億円前後にとどまる。
薄い自己資本は、利益の出ない年に致命傷になる。自己資本比率の目標は8.5%とぎりぎりで、信用コストが膨らむか債券の評価損が出れば、配当の抑制か増資を迫られる。2009年3月期の赤字と、その後の希薄化の歴史が、薄い資本の壊れ方を示している。
統合も株主に有利とは限らない。1対1の比率は固定で、効果の大半は大きい側の千葉銀行に落ちる。効果が出る前にシステム統合の費用が先に出る。持ち分は7.7%しかなく、上積みは小さい。
ROEは10年後も資本コストに届かない。配当性向が低いまま利益を寝かせるほど、積み上がった利益の価値は額面を下回って目減りする。
どちらに重みを置いたか
強気の見方は金利と統合の追い風を正しく捉えているが、その効果はROEを8%台に押し上げるところまでで、資本コストの8.3%を超えない。慎重な見方が突く薄い資本と競争は、確率で厚く反映する必要がある。確率は中立に3割強を置き、ROEが資本コストに届かない2つの筋書き(やや悲観・悲観)に3割強を置いた。統合で独り立ちの失敗という尾は切れるため、悲観は1割にとどめた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,928 円1,683 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,175 円676 億円)。 今の値に割り戻すと 2,108 円1,212 億円、今との差 −13.3%、 期待の年率 +5.4%(資本コスト 8.3%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 11% | 5,086 円2,923 億円 | 1,559 円896 億円 | +173.3% | +10.6% | 731 円420 億円 |
| やや楽観 | 24% | 3,967 円2,280 億円 | 1,387 円797 億円 | +120.2% | +8.2% | 1,285 円738 億円 |
| 中立 | 32% | 3,052 円1,754 億円 | 1,279 円735 億円 | +78.2% | +5.9% | 1,386 円796 億円 |
| やや悲観 | 22% | 1,686 円969 億円 | 964 円554 億円 | +9.0% | +0.9% | 583 円335 億円 |
| 悲観 | 11% | 626 円360 億円 | 452 円260 億円 | −55.6% | −7.8% | 119 円68 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,928 円1,683 億円 | 1,175 円676 億円 | +68.8% | +5.4% | 4,103 円2,358 億円 |
今の株価時価総額 2,431 円1,397 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 11% 金利と統合が重なり、小さな地銀が資本コストを超えて稼ぐ10年 利益 232 億円 · PER 12.6 倍 · 株価時価総額 5,086 円2,923 億円
短期金利は計画より早く2%に届いて定着し、長期3%との差も保たれる。千葉興銀の貸出の利ざやは法人で1.6%、個人で1.5%近くまで広がり、預金の余りを運用する収益も増える。
統合では、2031年度に両行合計で年160億円の効果がほぼ満額で出る。システムの共通化が、規模の小さい千葉興銀にも十分に及ぶ。住宅ローンを絞って事業性貸出へ軸を移す戦略が軌道に乗り、法人向けの貸出は年3.8%の伸びを保つ。
優先株が片づいた後は、持株会社の下で千葉銀行並みに還元が厚くなる。自己資本は貸出の伸びに合わせて増えるが、10年後のROEは10%を超える。千葉県内の地位は、千葉銀行との2ブランド体制でむしろ強まる。
- 事業性貸出:数量 2.3(事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.6%(預貸の利ざや(%))→ 売上 376 億円・営業利益 158 億円。残高 2.32 兆円(名目)× 利ざや 1.62%、利益率 42%
- 個人貸出:数量 1.2(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.5%(預貸の利ざや(%))→ 売上 176 億円・営業利益 56 億円。残高 1.21 兆円(名目)× 利ざや 1.46%、利益率 32%
- 手数料・資産運用:数量 1.5(預かり資産+法人ソリューション取扱高(兆円))× 価格 0.9%(実効手数料率(%))→ 売上 132 億円・営業利益 46 億円。残高 1.47 兆円(名目)× 手数料率 0.90%、利益率 35%
- 市場運用(有価証券・日銀預け金):数量 1.1(運用資産残高(兆円))× 価格 1.3%(預金調達コスト控除後の運用ざや(%))→ 売上 149 億円・営業利益 75 億円。残高 1.15 兆円(名目)× 利ざや 1.30%、利益率 50%
倍率:10年後のROE10.4%(純利益232億円÷自己資本2237億円)。k 8.3%・g 4.0%、残る割合1/2でRONIC=k+1/2×(ROE−k)=9.34%、正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=13.29倍。金利の定着・統合効果・事業の転換が10年そろう最良の姿。上限の9.5割に置き、12.6倍。
確率:短期金利2%・長期3%の定着、統合効果の満額(両行合計で年160億円)、事業性貸出への転換の成功が10年ずっとそろう前提で、確度は高くない。
やや楽観 24% 統合効果が出て、ROEが資本コストへ近づく10年 利益 200 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 3,967 円2,280 億円
短期金利2%・長期3%への正常化が進み、貸出の利ざやは法人で1.55%、個人で1.4%まで広がる。住宅ローンから事業性貸出への切り替えもほぼ計画どおりに進む。
統合効果は両行合計で年140億円まで出て、千葉興銀の費用率が着実に下がる。預かり資産の分野でも、NISAの定着を追い風に取扱高が伸び、手数料の収益が増える。
優先株の整理で配当の重荷が消え、還元は千葉銀行に近い水準まで高まる。10年後のROEは9%台に乗り、資本コストにあと一歩のところまで来る。千葉県内の取引先との結びつきは変わらず、大きな崩れもない10年になる。
- 事業性貸出:数量 2.3(事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.6%(預貸の利ざや(%))→ 売上 350 億円・営業利益 135 億円。残高 2.26 兆円(名目)× 利ざや 1.55%、利益率 38%
- 個人貸出:数量 1.2(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.4%(預貸の利ざや(%))→ 売上 164 億円・営業利益 48 億円。残高 1.17 兆円(名目)× 利ざや 1.40%、利益率 29%
- 手数料・資産運用:数量 1.4(預かり資産+法人ソリューション取扱高(兆円))× 価格 0.9%(実効手数料率(%))→ 売上 119 億円・営業利益 38 億円。残高 1.40 兆円(名目)× 手数料率 0.85%、利益率 32%
- 市場運用(有価証券・日銀預け金):数量 1.1(運用資産残高(兆円))× 価格 1.3%(預金調達コスト控除後の運用ざや(%))→ 売上 141 億円・営業利益 66 億円。残高 1.12 兆円(名目)× 利ざや 1.25%、利益率 47%
倍率:10年後のROE9.2%(純利益200億円÷自己資本2176億円)。k 8.3%・g 4.0%、残る割合1/2でRONIC=k+1/2×(ROE−k)=8.75%、正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=12.62倍。計画どおりに近く進む姿。上限の9.0割に置き、11.4倍。
確率:中計の方向が10年おおむね守られ、統合効果が下限と上限の間の上寄りで出る。業界見通しの上位レンジに近い想定。
中立 32% 中立:金利は定常化し、利益は倍になるが資本の薄さが還元を縛る 利益 172 億円 · PER 10.2 倍 · 株価時価総額 3,052 円1,754 億円
短期金利2%・長期3%が定着し、貸出の利ざやは法人で1.5%、個人で1.35%まで広がる。貸出の残高は法人で年3.3%、個人で年2.3%と、人口の減りを物価の伸びで補う程度に伸びる。
統合効果は両行合計で年100億円にとどまり、千葉興銀の株主の取り分は小さい。住宅ローンの競争は続き、収益性の改善は思ったほど進まない。
利益は直近の倍の170億円前後になる。ただ貸出が増えるぶん自己資本の比率を保つ必要があり、利益の4割ほどを内部に残すため、ROEは8%強にとどまる。千葉県内の地位は変わらず保たれるが、堀が広がることもない。
- 事業性貸出:数量 2.2(事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.5%(預貸の利ざや(%))→ 売上 332 億円・営業利益 116 億円。残高 2.21 兆円(名目)× 利ざや 1.50%、利益率 35%
- 個人貸出:数量 1.1(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.4%(預貸の利ざや(%))→ 売上 155 億円・営業利益 40 億円。残高 1.15 兆円(名目)× 利ざや 1.35%、利益率 26%
- 手数料・資産運用:数量 1.3(預かり資産+法人ソリューション取扱高(兆円))× 価格 0.8%(実効手数料率(%))→ 売上 109 億円・営業利益 33 億円。残高 1.33 兆円(名目)× 手数料率 0.82%、利益率 30%
- 市場運用(有価証券・日銀預け金):数量 1.1(運用資産残高(兆円))× 価格 1.2%(預金調達コスト控除後の運用ざや(%))→ 売上 134 億円・営業利益 59 億円。残高 1.11 兆円(名目)× 利ざや 1.20%、利益率 44%
倍率:10年後のROE8.2%(純利益172億円÷自己資本2098億円)は k 8.3% 以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、PERは1÷k=12.05倍までが上限。利益は倍になるが、貸出の伸びに合わせて自己資本も厚くなる姿。上限の8.5割に置き、10.2倍。
確率:金利が定着し、与信費用も景気を1〜2周した後の平均に戻る。統合効果は両行合計で年100億円(目標の下限と上限の中間やや下)。最も重みを置く中心の筋書き。
やや悲観 22% 競争で利ざやが想定の半分しか広がらず、ROEが5%台にとどまる 利益 102 億円 · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 1,686 円969 億円
金利は2%へ上がるが、住宅ローンはネット銀行と大手に押され、法人向けでも千葉銀行との競り合いが続く。貸出金利の引き上げが顧客に伝わりきらず、利ざやの広がりは想定の半分にとどまる。
統合の効果は目標の半分の年50億円ほどで、システム統合の費用が先に出るため、効果が表れるのも遅い。人口の減りが想定より速く、貸出の伸びも鈍る。
利益は100億円前後で伸び悩み、ROEは5%台にとどまる。それでも配当は維持され、千葉銀行と同じ持株会社の傘下にいることで、資本の不安は表に出ない。ただ、資本コストに届かない事業になる。
- 事業性貸出:数量 2.0(事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.3%(預貸の利ざや(%))→ 売上 261 億円・営業利益 73 億円。残高 2.01 兆円(名目)× 利ざや 1.30%、利益率 28%
- 個人貸出:数量 1.0(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.2%(預貸の利ざや(%))→ 売上 120 億円・営業利益 23 億円。残高 1.04 兆円(名目)× 利ざや 1.15%、利益率 19%
- 手数料・資産運用:数量 1.2(預かり資産+法人ソリューション取扱高(兆円))× 価格 0.7%(実効手数料率(%))→ 売上 88 億円・営業利益 20 億円。残高 1.19 兆円(名目)× 手数料率 0.74%、利益率 23%
- 市場運用(有価証券・日銀預け金):数量 1.0(運用資産残高(兆円))× 価格 1.0%(預金調達コスト控除後の運用ざや(%))→ 売上 104 億円・営業利益 38 億円。残高 1.04 兆円(名目)× 利ざや 1.00%、利益率 37%
倍率:10年後のROE5.3%(純利益102億円÷自己資本1929億円)は k 8.3% 以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、PERは1÷k=12.05倍までが上限。競争で利ざやの広がりが鈍る姿。上限の7.9割に置き、9.5倍。
確率:住宅ローンと法人の両方で競争が続き、利ざやの広がりが想定の半分にとどまる。統合効果も目標の半分。10年という期間ではこうした鈍い年が相応に混ざる。
悲観 11% 構造的に負け、信用コストと競争で資本効率が戻らない10年 利益 40 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 626 円360 億円
10年のどこかで、世界的な信用収縮と地元企業の資金繰り悪化が重なり、与信費用が急増する。保有する債券の評価損も出て、自己資本比率の目標である8.5%を割る。
住宅ローンは流出が続き、事業性貸出でも千葉銀行に取引を奪われる。貸出の利ざやは今の水準を下回り、預金の余りの運用も振るわない。統合効果は出ず、システム統合の費用だけが残る。
利益は40億円ほどまで落ち、配当も抑えられる。それでも千葉銀行と同じ持株会社の傘下で、破綻や大幅な増資は避けられる。優良な地銀としての姿は失われ、資本コストを大きく下回る低い収益が続く10年になる。
- 事業性貸出:数量 1.8(事業性貸出残高(兆円))× 価格 0.9%(預貸の利ざや(%))→ 売上 159 億円・営業利益 32 億円。残高 1.77 兆円(名目)× 利ざや 0.90%、利益率 20%
- 個人貸出:数量 0.9(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 0.8%(預貸の利ざや(%))→ 売上 73 億円・営業利益 7 億円。残高 0.92 兆円(名目)× 利ざや 0.80%、利益率 10%
- 手数料・資産運用:数量 1.0(預かり資産+法人ソリューション取扱高(兆円))× 価格 0.6%(実効手数料率(%))→ 売上 65 億円・営業利益 10 億円。残高 1.04 兆円(名目)× 手数料率 0.62%、利益率 15%
- 市場運用(有価証券・日銀預け金):数量 1.0(運用資産残高(兆円))× 価格 0.8%(預金調達コスト控除後の運用ざや(%))→ 売上 77 億円・営業利益 22 億円。残高 0.96 兆円(名目)× 利ざや 0.80%、利益率 29%
倍率:10年後のROE2.4%(純利益40億円÷自己資本1700億円)は k 8.3% 以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、PERは1÷k=12.05倍までが上限。構造的に負けて優良でなくなった姿。今の自己資本1,926億円に対する倍率は0.2倍前後で、稼ぐ力から出した値であり、自己資本の何割という置き方はしていない。上限の7.5割に置き、9.0倍。
確率:リーマン級の信用収縮、住宅ローンのさらなる流出、統合の遅れが重なる。千葉銀行と同じ持株会社に入るので、単独の存続リスクは小さく、悲観の確率は他の地銀より低めの1割。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
事業性貸出
千葉県内の中小企業・地方公共団体向けを中心とする事業性貸出(法人向けコンサルティングを含む)。
| 数量事業性貸出残高(兆円) | 価格預貸の利ざや(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.6 | 1.1% | 168 | 54 |
| 10 年後 中立 | 2.2 | 1.5% | 332 | 116 |
取り方:貸出金2.515兆円(2026年3月末)のうち事業性向けを約6割の1.60兆円とおいた(開示は貸出全体のみで、内訳は推定)。預貸の利回り差1.02%を事業性1.05%・個人0.95%に割り振った。預金ベータ(政策金利の上げに預金金利が付いていく割合)は地銀の40%。短期金利が2%へ上がる間に、変動金利の貸出はほぼ全部上がり、預金は4割だけ上がるので、法人の利ざやは3年で+0.27%、10年で+0.45%広がると置く(率は物価では上がらない)。残高はお金の量なので名目で伸びる:中立で年3.3%(物価3%+実質+0.3%、地元の人口減を含む)。
個人貸出
住宅ローンを中心とする個人向け貸出。直近は残高が減っている。
| 数量個人向け貸出残高(兆円) | 価格預貸の利ざや(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.9 | 1.0% | 87 | 21 |
| 10 年後 中立 | 1.1 | 1.4% | 155 | 40 |
取り方:貸出の残り約4割を個人向け0.915兆円とおいた(推定。住宅ローンは2023年6月時点で8,232億円とする解説があり、その後減少)。利ざやは0.95%。個人の利ざやは預金ベータ40%で3年+0.24%、10年+0.40%広がると置く。残高は中立で年2.3%(物価3%に人口減と、会社が収益性の低い住宅ローンを絞る方針を重ねる)。
手数料・資産運用
投資信託・保険の販売、法人向けコンサルティング、事業承継などの役務収益(預かり資産残高に連動)。
| 数量預かり資産+法人ソリューション取扱高(兆円) | 価格実効手数料率(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.9 | 0.9% | 76 | 23 |
| 10 年後 中立 | 1.3 | 0.8% | 109 | 33 |
取り方:役務取引等利益76億円(2026年3月期)に合うよう、取扱高0.90兆円×実効手数料率0.85%と置いた(逆算の推定)。預かり資産はお金の量なので名目で伸びる:中立で年4.0%(物価3%+NISAなどの資産形成)。手数料率は率なので物価では上がらず、低コスト商品への流れで緩やかに下がると置く。
市場運用(有価証券・日銀預け金)
貸出に回らない預金の運用。国債などの有価証券と日銀預け金。預金は貸出より約5,000億円多い。
| 数量運用資産残高(兆円) | 価格預金調達コスト控除後の運用ざや(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.9 | 0.9% | 74 | 29 |
| 10 年後 中立 | 1.1 | 1.2% | 134 | 59 |
取り方:預金3.05兆円+純資産−貸出2.52兆円−その他で、有価証券と日銀預け金を0.87兆円とおいた(推定)。調達コスト控除後の運用ざやは0.85%。残高は預金に連動して中立で年2.5%。短期金利2%・長期3%に定着すると、運用の利回りが調達コストより先に上がり、中立で10年後に1.20%まで広がると置く。
リスクと懸念
自己資本の薄さと信用コスト
自己資本比率は5.7%、中計の目標は8.5%以上。優先株の償還で余裕はさらに減った。景気が悪化して与信費用が膨らむか、債券の評価損が出れば、配当の抑制や増資を迫られる。2009年3月期の赤字と希薄化は、その前例だ。
統合の効果が小さい株主に回らない
統合効果は両行合計で年120〜160億円(2031年度末)とされるが、千葉興銀の株主の持ち分は7.7%。効果の大半は大きい千葉銀行に落ちる。システム統合の費用が先に出る点も、短期の利益を圧迫する。
住宅ローンの流出と競争
住宅ローンの残高は直近で減った。ネット銀行と大手が低い金利で攻め、利ざやの広がりを妨げる。事業性貸出への転換が遅れると、貸出全体の質が上がらない。
金利が想定どおりに上がらない
筆者は短期金利2%・長期3%の定着を前提にする。利上げが止まるか、預金金利が想定より速く上がれば、利ざやの広がりは小さくなる。利益の倍増という中立の筋書きの前提が崩れる。
債券・株式の評価損益
預金の余りを運用する有価証券は、長期金利の上昇で評価損が出やすい。その他有価証券評価差額金は直近で77億円の赤字から103億円の黒字に転じたが、金利と株価で大きく振れる。資本の薄い千葉興銀には重い。
統合後の資本・還元の方針が変わる
持株会社設立後に自己資本比率8%以上を確保するという条件がある。還元を厚くしたくても、貸出の伸びと資本比率の維持に利益が使われ、株主に回る分は小さくなる。方針が千葉銀行側の都合で決まる可能性もある。
今後の分かれ目
- 日銀が短期金利を2%へ向けて計画より速く上げたら
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。千葉興銀の預貸の利回り差が1.02%からどれだけ広がるかを決算で確認する。
- 預貸の利回り差が広がらず、貸出の伸びも鈍ったら
- やや悲観の確率を上げる。住宅ローンと事業性貸出のどちらで競争に負けているかを確認する。
- 持株会社設立後に自己資本比率が8%を下回る、あるいは配当が減らされたら
- 悲観側の筋書きの確率を上げる。債券の評価損と与信費用のどちらが原因かを見る。
- 統合効果の目標(2028年度末に年40〜60億円)が前倒しで達成されたら
- 楽観側の確率を上げてよい。費用削減が千葉興銀側にも及んでいるかを確認する。
- 持株会社が千葉銀行並みに自己株買いを含む総還元を打ち出したら
- 還元の見通しを引き上げ、中立の純資産の積み上がりを下げる。ROEの改善ペースが速まる。
- 地方銀行の再編がさらに進み、千葉県内でも他行との統合の動きが出たら
- 競争環境が変わる。千葉興銀の株主の持ち分と、統合後の規模の経済が変わるかを確認する。
見ておくもの
- 短期金利の推移と、千葉興銀の預貸の利回り差(2026年3月期は1.02%)
- 住宅ローン残高と事業性貸出残高の伸び
- 自己資本比率(目標8.5%以上、持株会社設立後は8%以上)と与信費用
- ちばフィナンシャルグループの統合効果の進み方(2028年度末に年40〜60億円)
- 持株会社の還元方針(配当性向・自己株買い)
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価を見ずに決めた。やや楽観〜楽観はROEがkを超えるので、正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)の上限(k 8.3%・g 4.0%・残る割合1/2)の9〜9.5割に置いた。中立はROEが8.2%でkのすぐ下にあり、上限は1÷k=12.0倍。ROEをkの下に置くために数字を寄せたのではなく、貸出の伸びに合わせて自己資本を厚くする流れから出た結果で、上限の8.5割に置いた。やや悲観・悲観は利益が薄く、上限の8割前後に置いた。悲観の利益は利ざやが縮み与信費用が重い構造から出し、過去の底値や今の倍率は使っていない。kが1%高い(9.3%)と、中立のPERは10.2倍から9倍台に下がる。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に quality +0.8%(循環0.5・借金0.3)を足して k 8.3%(決まり v2。β・規模は使わない)。銀行は預金が仕入れなので利払いの式は当てはめず、利ざやで扱う。同じ地方銀行の千葉銀行(8.0%)より0.3%高いのは、自己資本の薄さだけ。統合の実行・還元の転換といった個別のリスクは k に足さず、確率と筋書きで表す。事業は傾いていないので extra は 0。