結論
南都銀行は、奈良県で唯一の地方銀行である。県内の貸出と預金の約5割を握り、メインバンクにする企業は6割に達する。小さな池で、群を抜いて大きな魚だ。
筆者は、今の値段をやや割高と見る。ただし価値は今の値段に届かず、安全域はない。金利上昇の追い風は本物だが、それを打ち消す重しが三つある。奈良の人口減、重い経費、大阪での預金不足だ。
追い風から見る。短期金利が2%に向かう間、貸出の金利は預金の金利より速く上がる。会社は2026年5月、2028年3月期の純利益の目標を180億円から300億円以上へ引き上げた。足元は170億円だから、2年で7割以上の増益を見込む計画だ。
問題は、その先である。奈良は人口の減りが全国でも速い。県内の法人貸出はすでに漸減している。会社は大阪を第二の地元に育てているが、貸出の約4割が大阪なのに、法人預金は2割弱しかない。貸す力は伸びても、預かる力が追いついていない。
経費の重さも残る。経費率は中間期で67%台と、地銀の中でも重い。再編で規模を得れば変わりうるが、それは相手と条件しだいだ。確率で重みづけた10年後の価値は、今の時価総額を1割ほど下回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず事業の寿命を見る。銀行は預金という安い仕入れで稼ぐ事業で、奈良の5割の基盤は、10年後も大きくは崩れない。寿命は長い。
次に、オーナーとして持ち続けたいかを問う。ここで引っかかるのが経費率だ。稼ぎの7割近くが経費に消える銀行は、金利の追い風が止まると利益が伸びない。追い風を受けて高い利益を出す年が続いても、それは経営の力の成果とは限らない。
資本の使い方は、この数年で改善した。配当性向40%と自社株買いを掲げ、政策保有株の縮減に取り組む。自己資本は規制の枠の中で厚く持つ。方向は正しいが、実績はこれからだ。
過去10年のROEの中央値は4%ほどで、資本コストを稼げない時期が長かった。足元は5.7%、会社予想は10%まで上がるが、金利の効果が大きい。金利は経営の腕ではなく天気だ。
安全域は厚くない。確率で重みづけた10年後の価値は、今の時価総額を1割ほど下回る。価値は今の値段を下回り、安全域があるとは言えない。筆者なら、もう少し深い割安が出るまで待つ。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、預金で集めたお金を貸し、運用して得る利ざやだ。預金は約5.9兆円、貸出は約4.5兆円、有価証券は約1.6兆円ある(2025年9月末)。お金を預かる力が、この銀行のいちばんの土台である。2026年3月期の経常利益は248億円で、前の期より26%増えた。純利益は170億円だ。
貸出は二つに分かれる。法人向けは、奈良の中小企業と、第二の地元と位置づける大阪の企業が相手だ。個人向けは、奈良での住宅ローンが中心になる。貸出に比べて預金が多く、預貸率は約76%と低い。余ったお金は有価証券に回る。貸出の約4割は大阪にある。奈良の貸出が漸減する一方、大阪は着実に増えている。
貸出に回らないお金は、国債や地方債などの有価証券で運用する。金利が上がる局面では、低利回りの債券を高利回りに入れ替えるほど、運用の稼ぐ力が上がる。
もう一つの柱が、預かり資産と手数料だ。投資信託・保険の販売や、法人向けの事業承継・M&Aの仲介がここに入る。奈良は高齢の資産家が多く、相続や資産の活用の需要がある。金利に頼らない稼ぎとして、会社が育てたい領域だ。
開示にセグメント別の損益はないため、ここでは貸出残高に利ざやと手数料を掛けた粗利益で四つに分けた。数字は筆者の推定である。
優良さと弱いところ
最大の堀、つまり他社がまねできない強みは、奈良で築いた圧倒的な地位だ。県内の貸出と預金の約5割、メインバンクの社数の6割を持つ。2位の大和信用金庫と3位の奈良中央信用金庫は、どちらもメインバンクの6%台にとどまる。県内で南都銀行に代わる存在はない。ただし資本の効率は低かった。ROEは過去10年の中央値で4%ほどにとどまる。
この地位は、預金の安さに表れる。県内の個人と法人から集まる預金は、他行よりも金利に敏感でない。金利が上がる局面で、預金の金利を低く抑えやすい。地銀として値決めに強いのは、この点だ。
弱みも同じくらい明確だ。まず、経費率の重さである。中間期は67%台で、中計は55%未満を掲げる。次に、奈良という市場の小ささと、人口減の速さだ。県内の貸出は伸びない。
そして規模である。サイバー対策とシステムの投資は、規模が小さいほど重い。頭取の石田諭氏自身が、この投資を自行の規模で続ける持続性に自信を持ちきれないと語っている。
筆者は、堀はあっても広がらない銀行と見る。資本の効率の低さを、金利の追い風でどこまで埋められるかが問われる。守りは強いが、攻める力は大阪での成否にかかっている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
日本の銀行は、2024年の政策金利の引き上げで「金利のある世界」に入った。短期金利が2%に向かう間、貸出の金利は預金の金利より先に上がる。預金は動きの鈍い個人のお金が多く、金利の追随が遅れる。この差が、地銀の利益を押し上げる。
一方で、量は伸びない。奈良の人口は減り続け、事業所も減る。全国の貸出の伸びは、大企業と都市部に偏っている。地銀の中でも、奈良のような地方の県は貸出の量が伸びにくい。量を追えない分、利ざやで稼ぐ局面が続く。
近畿は競争が厳しい。大阪の法人取引は、メガバンクと大阪の地銀が分け合う。大阪で預金を集めるには、貸出と組み合わせた取引の深さが要る。奈良は信用金庫の力も強く、貸出で価格競争を仕掛けられやすい。
業界の最大の構造変化が再編だ。千葉銀行と千葉興業銀行、しずおかフィナンシャルグループと名古屋銀行が統合で基本合意した。近畿でも、池田泉州ホールディングスと滋賀銀行が接近していると報じられ、次の焦点は南都銀行と紀陽銀行とされた。
預金をめぐる競争も変わる。ネット銀行や大手が預金の金利を上げて顧客を集めれば、地銀も預金を守るために金利を上げる場面が出る。預金ベータ、つまり預金の金利が政策金利に追随する割合が高まれば、利ざやの広がりは小さくなる。
規模を持つ地銀ほど、システムと本部の費用を分け合える。小さな単独の地銀は、費用の重さで苦しくなる。二極化が進む中で、南都銀行は規模の小さい側に立つ。
資本政策と M&A
還元は2025年3月に変わった。配当性向40%を目安に、自社株買いは機動的に行う方針だ。自己資本比率の目標を11〜12%に置き、余る分は株主に返す姿勢が見える。2026年3月期から株式を5分割し、投資しやすい形にもした。
政策保有株は、保有の意義を検証したうえで縮減する。自己資本比率のコントロールとあわせ、2025年度の下期以降の重点とされた。売れば取引先との関係に響くため、急には進まない。
経営統合は選択肢として開かれている。頭取は、地域のためなら自行より大きいグループとの統合もあると語る。ただし、南都銀行だけが得をする統合は避け、1+1が2.5や3になる統合なら進めたいとする。花火だけ先に打つ統合はしないとも述べた。
過去には関西アーバン銀行との統合協議が破談になった。kabufuの推計では、10年以内にTOBや買収を受ける確率は約15%で、小さくない。再編の主役になるか、受け皿になるかは、相手と条件で決まる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
金利の追い風は、まだ初期だ。短期金利は2%へ向けて上がる途中にあり、預金の金利は貸出の金利より遅れて動く。会社が2026年5月に目標を引き上げたのは、まだ織り込みきれていないからだ。2028年3月期に純利益300億円以上、ROE8.5%以上、経費率55%未満という目標は、金利が2%まで上がれば超えられる。
県内の地位は動かない。貸出と預金の約5割、メインバンクの6割を持ち、2位の信用金庫は6%台だ。この基盤から出る預金は、金利に敏感でなく安い。大阪では貸出が伸びており、法人預金が付き始めれば調達の弱さも消える。
再編の選択肢もある。頭取は、自行より大きいグループとの統合を排除していない。費用を分け合える規模を得れば、経費率は大きく下がる。kabufuの推計でも、買収を受ける確率は10年で約15%ある。そうなれば、株主は上乗せ価格を得る。
還元も厚くなる。配当性向40%に自社株買いが乗れば、自己資本比率の枠の中で利益の大半を返せる。地銀の中で、これから最も変わる銀行の一つだ。2026年3月期の純利益は前の期より26%増え、勢いはすでに数字に出ている。
慎重な見方
追い風は一巡する。利ざやの広がりは数年で出尽くし、その後に残るのは奈良の人口減だ。県内の法人貸出はすでに漸減しており、個人向けも細る。大阪は競争が激しく、貸出は伸びても預金が付かない。法人貸出の約4割を大阪で持ちながら、法人預金は2割弱だ。
経費率は67%台で重い。中計は55%未満を掲げるが、賃上げとシステム投資は止まらない。頭取自身が、小さな規模で投資を続ける持続性に自信を持ちきれないと語っている。目標の達成は金利に頼る部分が大きく、経営の改善とは限らない。
自己資本は薄い。純資産比率は4%台で、有価証券は約1.6兆円ある。金利が上がれば含み損が出て、自己資本を削る。与信費用も歴史的に低い今が続く保証はない。2009年3月期には赤字になった。
再編にも期待しすぎるのは危うい。過去には統合協議が破談になった。統合しても、株式の交換比率で株主の取り分は薄まる。今の値段は、中計の達成をすでに織り込んでいる。達成しても、その先に伸びる材料は乏しい。
どちらに重みを置いたか
追い風の大きさは強気の見方が正しい。ただし、その先の奈良の縮みと経費の重さは、慎重な見方の指摘が重い。奈良で地位が高いほど、地域が縮むことの影響を受ける。確率は中立に3割を置いた。
金利と県内の地位という強みは確かだが、それは人口減という弱みの上に立っている。悲観の側は、人口減の速さと規模の小ささを重く見て、やや厚めの14%とした。楽観は、再編と大阪の成功が重なる必要があり、1割にとどめた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,491 円3,912 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 858 円1,347 億円)。 今の値に割り戻すと 1,737 円2,729 億円、今との差 −0.9%、 期待の年率 +6.7%(資本コスト 8.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 4,919 円7,726 億円 | 1,308 円2,055 億円 | +255.2% | +13.5% | 623 円978 億円 |
| やや楽観 | 23% | 3,686 円5,790 億円 | 1,093 円1,716 億円 | +172.6% | +10.5% | 1,099 円1,726 億円 |
| 中立 | 30% | 2,825 円4,438 億円 | 920 円1,445 億円 | +113.6% | +7.9% | 1,124 円1,765 億円 |
| やや悲観 | 23% | 1,026 円1,612 億円 | 590 円926 億円 | −7.8% | −0.8% | 372 円584 億円 |
| 悲観 | 14% | 482 円758 億円 | 456 円717 億円 | −46.4% | −6.1% | 131 円206 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,491 円3,912 億円 | 858 円1,347 億円 | +91.0% | +6.7% | 3,349 円5,259 億円 |
今の株価時価総額 1,753 円2,753 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 大阪の預金戦略と地銀再編が噛み合う10年 利益 538 億円 · PER 14.4 倍 · 株価時価総額 4,919 円7,726 億円
短期金利2%、長期金利3%が定着し、貸出の利ざやは広がったまま安定する。大阪府の法人貸出は伸び続け、同時に法人預金も取り込む。貸出に見合う預金が付けば、調達の弱さが消える。
再編も実る。近畿で規模の大きい地銀グループと一緒になり、システムと本部の費用を分け合う。経費の実質の伸びは止まり、経費率は50%を切る水準まで下がる。統合で主導権争いが起きず、顧客の混乱もない。
奈良では人口減のペースが緩み、県内の5割のシェアはそのまま収益に残る。預かり資産は相続と資産形成の追い風を受けて大きく伸びる。自己資本は還元を厚くしても規制の枠に収まり、利益は積み上がる。
地銀として最良の10年だが、すべてが同時にうまくいく必要がある。
- 事業性貸出:数量 2.7(事業性貸出の平均残高(兆円・実質))× 価格 2.3%(残高あたりの粗利益率(利ざや+手数料、%)× 物価指数)→ 売上 604 億円・営業利益 354 億円。残高 2.65 兆円(実質)× 粗利益率 1.70%(物価指数 1.34 倍を乗せた価格)、利益率 59%
- 個人向け貸出:数量 1.8(個人向け貸出の平均残高(兆円・実質))× 価格 1.9%(残高あたりの粗利益率(利ざや+手数料、%)× 物価指数)→ 売上 356 億円・営業利益 172 億円。残高 1.83 兆円(実質)× 粗利益率 1.45%(物価指数 1.34 倍を乗せた価格)、利益率 48%
- 有価証券運用:数量 1.6(運用資産の平均残高(兆円・実質))× 価格 1.9%(残高あたりのキャリー収益率(調達費用控除後、%)× 物価指数)→ 売上 311 億円・営業利益 278 億円。残高 1.60 兆円(実質)× 粗利益率 1.45%(物価指数 1.34 倍を乗せた価格)、利益率 89%
- 預かり資産・手数料:数量 2.0(預かり資産残高(兆円・実質))× 価格 0.9%(残高あたりの手数料率(%)× 物価指数)→ 売上 190 億円・営業利益 111 億円。残高 2.02 兆円(実質)× 粗利益率 0.70%(物価指数 1.34 倍を乗せた価格)、利益率 58%
倍率:事業の純利益 538 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.8% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.4 倍。全体の PER 14.36 倍、時価総額 7,726 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:再編で規模を得て、大阪の取引が預金の厚みを伴うまで育ち、人口減の逆風も小さく済む前提がそろう姿で、確度は高くない。10年のうちに崩れる局面が混ざると見て1割にとどめた。
やや楽観 23% 大阪が伸び、経費の重さが少しずつ軽くなる10年 利益 437 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 3,686 円5,790 億円
中計の目標が達成され、その後も短期金利の2%への上昇が貸出の利ざやを押し広げる。大阪の法人貸出は着実に伸び、預金の取り込みも進む。奈良は漸減するが、大阪の増加が上回る。
経費はシステム投資と賃上げで増えるが、店舗の集約と事務の効率化で物価の伸び以下に抑える。経費率は50%台前半に下がる。他行とのシステムの共同利用など、統合に至らない提携は進む。奈良の個人向けは人口減で細るが、住宅ローンの利ざやは金利の上昇で少し回復する。
有価証券は低利回りの債券が入れ替わり、運用の稼ぐ力が高まる。預かり資産も、県内の高齢の資産家と大阪の顧客の両方から積み上がる。還元は配当性向40%を土台に、自社株買いが続く。
- 事業性貸出:数量 2.6(事業性貸出の平均残高(兆円・実質))× 価格 2.2%(残高あたりの粗利益率(利ざや+手数料、%)× 物価指数)→ 売上 564 億円・営業利益 299 億円。残高 2.55 兆円(実質)× 粗利益率 1.65%(物価指数 1.34 倍を乗せた価格)、利益率 53%
- 個人向け貸出:数量 1.8(個人向け貸出の平均残高(兆円・実質))× 価格 1.9%(残高あたりの粗利益率(利ざや+手数料、%)× 物価指数)→ 売上 333 億円・営業利益 138 億円。残高 1.78 兆円(実質)× 粗利益率 1.40%(物価指数 1.34 倍を乗せた価格)、利益率 41%
- 有価証券運用:数量 1.6(運用資産の平均残高(兆円・実質))× 価格 1.9%(残高あたりのキャリー収益率(調達費用控除後、%)× 物価指数)→ 売上 295 億円・営業利益 260 億円。残高 1.55 兆円(実質)× 粗利益率 1.42%(物価指数 1.34 倍を乗せた価格)、利益率 88%
- 預かり資産・手数料:数量 1.9(預かり資産残高(兆円・実質))× 価格 0.9%(残高あたりの手数料率(%)× 物価指数)→ 売上 166 億円・営業利益 82 億円。残高 1.88 兆円(実質)× 粗利益率 0.66%(物価指数 1.34 倍を乗せた価格)、利益率 49%
倍率:事業の純利益 437 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.0% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍。全体の PER 13.25 倍、時価総額 5,790 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:2028年3月期の中計(純利益300億円以上)が達成され、その後も金利上昇の恩恵が残る。再編は成就しなくても、システムの共同利用などで費用が軽くなる。業界の上位レンジに近い想定。
中立 30% 中立:金利は定着し、奈良の5割の基盤が利益を支える 利益 355 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 2,825 円4,438 億円
10年の間に短期金利は2%、長期金利は3%で落ち着く。預金金利が貸出金利ほど上がらないため、貸出と有価証券の利ざやは広がったまま残る。2028年3月期の純利益300億円という中計の目標は、ほぼ達成される。
その先の伸びは緩やかになる。奈良の人口減で個人向け貸出は実質で細り、法人貸出も奈良の漸減を大阪の増加がかろうじて埋める程度だ。物価の分だけ残高は名目で増えるが、利益を押し上げる力は弱い。
経費は賃上げとシステム投資で、物価をやや上回って増える。店舗の集約が追いつかず、経費率は50%台で止まる。与信費用は平均的な水準に戻る。
還元は配当性向40%に自社株買いを足し、利益の5割半ばを株主に戻す。自己資本は貸出の増えに合わせて膨らむ。県内5割のシェアは動かず、特別な上振れも下振れもない10年になる。
- 事業性貸出:数量 2.5(事業性貸出の平均残高(兆円・実質))× 価格 2.1%(残高あたりの粗利益率(利ざや+手数料、%)× 物価指数)→ 売上 530 億円・営業利益 255 億円。残高 2.47 兆円(実質)× 粗利益率 1.60%(物価指数 1.34 倍を乗せた価格)、利益率 48%
- 個人向け貸出:数量 1.7(個人向け貸出の平均残高(兆円・実質))× 価格 1.8%(残高あたりの粗利益率(利ざや+手数料、%)× 物価指数)→ 売上 314 億円・営業利益 111 億円。残高 1.74 兆円(実質)× 粗利益率 1.35%(物価指数 1.34 倍を乗せた価格)、利益率 35%
- 有価証券運用:数量 1.5(運用資産の平均残高(兆円・実質))× 価格 1.9%(残高あたりのキャリー収益率(調達費用控除後、%)× 物価指数)→ 売上 285 億円・営業利益 249 億円。残高 1.52 兆円(実質)× 粗利益率 1.40%(物価指数 1.34 倍を乗せた価格)、利益率 87%
- 預かり資産・手数料:数量 1.7(預かり資産残高(兆円・実質))× 価格 0.8%(残高あたりの手数料率(%)× 物価指数)→ 売上 143 億円・営業利益 56 億円。残高 1.73 兆円(実質)× 粗利益率 0.62%(物価指数 1.34 倍を乗せた価格)、利益率 39%
倍率:事業の純利益 355 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.5% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 4,438 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:短期2%・長期3%が定着し、与信費用も景気を1〜2周してならした水準に戻る。奈良の人口減と経費の重さは続くが、県内5割の基盤は崩れない。最も重みを置く中心の筋書き。
やや悲観 23% 大阪が実らず、奈良の細りが加速する10年 利益 166 億円 · PER 9.7 倍 · 株価時価総額 1,026 円1,612 億円
短期金利は上がるが、利ざやの広がりは競争で削られる。大阪の法人貸出は金利の安さで取る展開になり、預金は付かない。奈良では法人貸出が漸減を超えて縮み、住宅ローンも人口減で細る。
経費は思うように減らない。システムとサイバー対策の投資は止められず、店舗を畳むペースは地域の反発で遅れる。再編の話は出ては消え、規模の経済を得られない。
与信費用は、奈良の中小企業の資金繰りが悪化する中で平均を上回る。有価証券の入れ替えでは含み損を抱え、自己資本の増え方も鈍る。
県内の5割のシェアは残るが、市場そのものが小さくなる。ROEは資本コストに届かない水準で、還元は配当性向40%を守るのが精いっぱいになる。
- 事業性貸出:数量 2.2(事業性貸出の平均残高(兆円・実質))× 価格 1.9%(残高あたりの粗利益率(利ざや+手数料、%)× 物価指数)→ 売上 436 億円・営業利益 151 億円。残高 2.24 兆円(実質)× 粗利益率 1.45%(物価指数 1.34 倍を乗せた価格)、利益率 35%
- 個人向け貸出:数量 1.5(個人向け貸出の平均残高(兆円・実質))× 価格 1.6%(残高あたりの粗利益率(利ざや+手数料、%)× 物価指数)→ 売上 248 億円・営業利益 38 億円。残高 1.54 兆円(実質)× 粗利益率 1.20%(物価指数 1.34 倍を乗せた価格)、利益率 15%
- 有価証券運用:数量 1.5(運用資産の平均残高(兆円・実質))× 価格 1.7%(残高あたりのキャリー収益率(調達費用控除後、%)× 物価指数)→ 売上 256 億円・営業利益 218 億円。残高 1.47 兆円(実質)× 粗利益率 1.30%(物価指数 1.34 倍を乗せた価格)、利益率 85%
- 預かり資産・手数料:数量 1.5(預かり資産残高(兆円・実質))× 価格 0.8%(残高あたりの手数料率(%)× 物価指数)→ 売上 112 億円・営業利益 22 億円。残高 1.50 兆円(実質)× 粗利益率 0.56%(物価指数 1.34 倍を乗せた価格)、利益率 20%
倍率:10年後のROE3.9%(純利益166億円÷自己資本4,254億円)。ROEはk8%以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、PERは1÷k=12.5倍までが上限。この筋書きは貸出が実質で縮み、長期の成長 g は3%に落ちると置いた。競争と費用の重さで稼ぐ力が鈍る姿。上限の7.8割に置き、9.71倍。還元を会社の方針(55%)に合わせたため自己資本が厚くなった。
確率:奈良の人口減が計画より速まり、大阪では大手・他地銀との競争に押されて預金が付かない。再編に乗れず費用の重さが残る。10年という長さでは、この程度の停滞は普通に起きうると見た。
悲観 14% 構造的に負け、奈良の縮みと費用の重さが資本効率を壊す10年 利益 90 億円 · PER 8.4 倍 · 株価時価総額 482 円758 億円
10年のどこかで景気が大きく悪化し、奈良の中小企業の与信費用が急増する。同時に人口減が想定を超えて進み、県内の貸出の需要そのものが縮む。
ネット銀行や大手に預金を奪われ、貸出に見合う預金を保てない。高い金利で預金を集めれば、利ざやが削られる。大阪は預金が付かないまま、貸出だけが競争で薄い利ざやに落ちる。
経費はシステムとサイバー対策で下がらず、収益だけが細る。再編の相手を見つけられず、単独で費用を背負い続ける。債券の入れ替えでも多額の損が出て、自己資本は減損の分だけ削られる。
県内5割のシェアは残るが、稼ぐ力は資本コストを大きく割り込む。もう優良な地銀とは見なされず、還元も縮む。
10年の前半は中計の利益が出るため、還元の合計はその前半の利益で払った形になる(10年の利益の累計は約1,300億円で、還元はその5割半ば)。
- 事業性貸出:数量 1.9(事業性貸出の平均残高(兆円・実質))× 価格 1.8%(残高あたりの粗利益率(利ざや+手数料、%)× 物価指数)→ 売上 346 億円・営業利益 91 億円。残高 1.91 兆円(実質)× 粗利益率 1.35%(物価指数 1.34 倍を乗せた価格)、利益率 26%
- 個人向け貸出:数量 1.3(個人向け貸出の平均残高(兆円・実質))× 価格 1.4%(残高あたりの粗利益率(利ざや+手数料、%)× 物価指数)→ 売上 185 億円・営業利益 −3 億円。残高 1.31 兆円(実質)× 粗利益率 1.05%(物価指数 1.34 倍を乗せた価格)、利益率 -2%
- 有価証券運用:数量 1.4(運用資産の平均残高(兆円・実質))× 価格 1.5%(残高あたりのキャリー収益率(調達費用控除後、%)× 物価指数)→ 売上 210 億円・営業利益 176 億円。残高 1.36 兆円(実質)× 粗利益率 1.15%(物価指数 1.34 倍を乗せた価格)、利益率 84%
- 預かり資産・手数料:数量 1.4(預かり資産残高(兆円・実質))× 価格 0.7%(残高あたりの手数料率(%)× 物価指数)→ 売上 94 億円・営業利益 14 億円。残高 1.35 兆円(実質)× 粗利益率 0.52%(物価指数 1.34 倍を乗せた価格)、利益率 15%
倍率:10年後のROE2.3%(純利益90億円÷自己資本3,993億円)。ROEはk8%以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、PERは1÷k=12.5倍までが上限。この筋書きは貸出が実質で縮み、長期の成長 g は2%に落ちると置いた。構造的に負けて優良でなくなった姿。上限の6.7割に置き、8.42倍。還元を会社の方針(55%)に合わせたため自己資本が厚くなった。
確率:奈良の人口減の加速、ネット銀行への預金流出、与信費用の急増、再編からの取り残しが重なる構造的な負け。県の人口減が全国でも速く、規模も小さいため、他の地銀よりやや重く1割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
事業性貸出
奈良の中小企業と、第二の地元と位置づける大阪の企業への貸出。公共向けを含む。
| 数量事業性貸出の平均残高(兆円・実質) | 価格残高あたりの粗利益率(利ざや+手数料、%)× 物価指数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.6 | 1.2% | 293 | 103 |
| 10 年後 中立 | 2.5 | 2.1% | 530 | 255 |
取り方:貸出残高は2025年9月末で約4.5兆円。開示の内訳は見ておらず、事業性・公共向けを約57%の2.55兆円、個人向けを残りの1.93兆円と置いた(推定)。粗利益率は貸出の利ざやと法人向け手数料を合わせて1.15%とした。経費を約190億円割り振って利益103億円。残高は今の値段のままの実質で置き、物価の分は価格の指数(10年1.34倍)に入れる。短期金利が1%前後から2%へ上がる間に、預金ベータ(預金金利が追随する割合)を40%と置くと、中立の法人の利ざやは10年で約0.45%広がる。 【2026-10-19 確認】数量は実質、価格は率×物価指数(1.34倍)で置く。物価は数量でなく価格側にだけ入れ、二重がけなし。
個人向け貸出
奈良を中心とする住宅ローンなどの個人向け貸出。
| 数量個人向け貸出の平均残高(兆円・実質) | 価格残高あたりの粗利益率(利ざや+手数料、%)× 物価指数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.9 | 1.0% | 183 | 43 |
| 10 年後 中立 | 1.7 | 1.8% | 314 | 111 |
取り方:個人向け貸出を1.93兆円(推定)、粗利益率を住宅ローンの薄い利ざやを含めて0.95%と置いた。経費約140億円を割り振って利益43億円。住宅ローンは固定金利が多く、金利上昇の恩恵が法人より遅れ、中立の利ざやの広がりは10年で約0.40%。残高は実質で、奈良の人口減により中立で10年0.9倍と置いた。 【2026-10-19 確認】数量は実質、価格は率×物価指数(1.34倍)で置く。物価は数量でなく価格側にだけ入れ、二重がけなし。
有価証券運用
国債・地方債・外債などの運用。金利上昇で低利回りの債券を入れ替える。
| 数量運用資産の平均残高(兆円・実質) | 価格残高あたりのキャリー収益率(調達費用控除後、%)× 物価指数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.6 | 0.9% | 144 | 119 |
| 10 年後 中立 | 1.5 | 1.9% | 285 | 249 |
取り方:有価証券は2025年9月末で約1.6兆円。調達費用を引いたあとの運用の稼ぎを0.9%と置いた(推定)。経費約25億円を引いて利益119億円。債券の入れ替えが進めば10年でこの稼ぎは約0.5%広がる。株式等の売却益は一度きりなので、この部門に入れず全社の調整に入れた。 【2026-10-19 確認】数量は実質、価格は率×物価指数(1.34倍)で置く。物価は数量でなく価格側にだけ入れ、二重がけなし。
預かり資産・手数料
投資信託・保険の販売、事業承継・M&Aの仲介などの手数料業務。
| 数量預かり資産残高(兆円・実質) | 価格残高あたりの手数料率(%)× 物価指数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.5 | 0.7% | 100 | 40 |
| 10 年後 中立 | 1.7 | 0.8% | 143 | 56 |
取り方:預かり資産と取扱高の合計を1.5兆円、手数料等の収入を約100億円と置いた(推定)。手数料率は低コスト商品への流れで緩やかに下がる。経費約60億円を引いて利益40億円。残高は相続と資産形成の需要で、中立は実質で10年1.15倍。 【2026-10-19 確認】数量は実質、価格は率×物価指数(1.34倍)で置く。物価は数量でなく価格側にだけ入れ、二重がけなし。
リスクと懸念
奈良の人口減と貸出需要の縮み
奈良県は人口減と高齢化が全国でも速い。県内の法人貸出はすでに漸減している。個人向け貸出も実質では細る。県内の5割のシェアは守れても、市場が小さくなれば稼ぎの総額は伸びにくい。大阪の増加で埋め切れるかが分かれ目だ。人口の減りは10年で止まらないと見るのが自然である。
経費率の重さとシステム投資
2025年度の中間期のOHR(経費率)は67%台で、地銀の中でも重い。中計は55%未満を掲げるが、サイバー対策とシステムの投資は今後も増える。頭取自身が、小さな規模でその投資を続けられるかに自信を持ちきれないと語っている。規模で劣る銀行ほど、1行あたりの負担が重くなる。
大阪での預金不足
法人貸出の約4割が大阪だが、法人預金は2割弱にとどまる。貸出に見合う預金が付かなければ、調達を高い金利に頼ることになる。大阪は大手・他地銀との競争が最も激しく、利ざやも削られやすい。預金の不足は貸出の伸びの足かせにもなる。
金利上昇による有価証券の含み損と自己資本の薄さ
有価証券は約1.6兆円で、国債・地方債が多い。金利が上がれば含み損が出て、自己資本を削る。純資産比率は4%台と低く、評価損が出るとROEは良くても資本の余裕が乏しくなる。規制上の自己資本比率の目標は11〜12%で、評価損が出れば還元の原資も細る。
与信費用の正常化
今の与信費用は歴史的な低さにある。金利が上がる局面では、奈良の中小企業の資金繰りが悪化しやすい。景気が崩れれば、与信費用は一気に増える。2009年3月期には赤字になった実績がある。今の低い水準を前提に利益を置くのは危うい。
再編の実行リスク
経営統合は費用の削減余地を広げるが、主導権争いや統合作業の遅れで効果が出ない例もある。過去に関西アーバン銀行との統合協議が破談になった経緯があり、相手選びと条件によっては株主の取り分が薄まる。統合の失敗は、悲観の筋書きの一部だ。
今後の分かれ目
- 短期金利が2%に向けて計画より速く上がり、預金の追随が遅れたら
- 利ざやの広がりが早まるため、楽観・やや楽観の筋書きの確率を上げてよい。決算の預貸金利回り差で確かめる。
- 大阪の法人貸出が伸びる一方で、法人預金が付かない状態が続いたら
- 預金の弱さが調達の費用を押し上げる。大阪戦略の採算を疑い、やや悲観側に重みを移す。
- 近畿の大きな地銀グループと経営統合の協議に入ったら
- 経費の削減余地は広がるが、株式の交換比率と統合の実行が価値を左右する。条件を確かめるまで確率は動かさない。
- 奈良県内の法人貸出の減りが速まったら
- 県内の5割のシェアが収益を支える前提が崩れる。やや悲観・悲観の確率を上げる。
- OHR(経費率)が中計の55%未満に向けて下がり続けたら
- 経費の重さが解けているので、中立の利益を上方に直し、楽観側の確率をやや上げる。
- 与信費用が連続して急増したら
- 景気の悪化か奈良の中小企業の傷みを示すため、悲観側に重みを移す。業種の偏りを確かめる。
見ておくもの
- 預貸金の利回り差と、預金金利の追随の速さ
- 大阪の法人貸出と法人預金の残高の差(預貸の釣り合い)
- OHR(経費率)が中計の55%未満に向けて下がるか
- 奈良県内の法人貸出の減り方と、与信費用の推移
- 近畿の地銀再編の動き(池田泉州HD・滋賀銀行・紀陽銀行との関係)
- 政策保有株の縮減の進み方と、有価証券の評価損益
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価を見ずに決めた。楽観・やや楽観・中立は10年後のROEとk 8%(基本7.5%+quality)・g 4.0%から利益ベースの正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)の上限を出し、その9.7・9.5・9.3割に置いた(中立は経費率の重さと奈良の人口減で最も低い割合。ROEがk以上なので下限の1÷k=12.5倍を割らない水準)。やや悲観・悲観はROEがk以下で、貸出が実質で縮む筋書きなので、gを3%・2%に落として同じ式で上限を出し、その9割・8割に置いた。悲観のPBRが低いのは、稼ぎの薄い構造的な負けを置いたため。含み益の額は開示で確かめられず、床には足していない。悲観の利益は、預金の流出と与信費用、重い経費からROE約3%に置き、過去の底値や今の倍率は根拠にしていない。kが1%高い(9%)と、10年の中立のPERは11.6倍から10.3倍に下がる。10年後の数字は今と同じ形(銀行なので利払いではなく、利ざやと経費で置いた形)でそろえ、新しいリース会計基準の影響は小さいので入れていない。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に quality +0.5% を足して k 8%(決まり v2。β・規模は使わない。内訳と理由は quality_why)。銀行は預金が仕入れなので利払いの式は当てはめず、利ざやで扱う。個別のリスク(経費率の重さ・大阪の預金不足・再編の実行)は k に足さず、確率と筋書きで表す。事業は傾いていないので上乗せ(extra)は 0。同じ地方銀行どうしで同じ物差しを使い、差は quality の4部品だけで出している。滋賀銀行(+0.25%)より高いのは、奈良の人口減が速い点を寿命に入れたため。