結論
十六FG は、岐阜県の企業の約 3 分の 1 のメインバンクを握る十六銀行を中核とする地方銀行グループだ。筆者の結論は「ほぼ妥当」。金利の追い風は本物だが、岐阜の人口減が利益の伸びを抑え、今の値段はその両方をすでに織り込んでいる。
追い風は短期金利の上昇だ。貸出の利ざやが広がり、会社は 2028 年 3 月期に純利益 350 億円以上を目指す(2026 年 7 月に上方修正)。それでも今の ROE は 6% に届かず、資本コストの 8.25% を下回る。ROE が 8〜9% 台に乗って、ようやく純資産並みの値段が正当化される水準だ。
逆風は地元の人口だ。岐阜県は 2050 年までに約 4 分の 1 の人口を失う見通しで、中部 3 県でいちばん減りが大きい。貸出残高は物価並みに伸びるのがやっとで、実質では横ばいと筆者は見る。
打つ手は愛知県側にある。企業数も人口も岐阜を大きく上回る隣県で、りそなとの提携を使って顧客を取りにいく。うまく行けば上、岐阜に閉じたままなら下だ。確率で重みづけた本質価値は、今の時価総額(約4,530億円)に対し10年で−8.4%、「適正」と見る(資本コスト8.25%、10年の筋書きだけで測る)。安全域は薄いが、割安と言えるほど安くもない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、まず問うのは「この銀行を 10 年持ち続けたいか」だ。岐阜県内の首位という事業は、10 年後にも残る。ただし、人口が減る県の銀行の利益が、物価を超えて伸びる理由は乏しい。
次に、株主のものになる利益を見る。銀行は利益のかなりを自己資本として積まないと貸出を伸ばせない。今は ROE が 5.8% と資本コストより低く、利益を積んでも、積んだ額ほどには価値が増えない。10 年後の ROE は 8% 台半ばと見るので、積んだお金が資本コストを少し上回って稼ぐ姿になる。
経営の資本配分は、方向としては正しい。政策保有株を減らし、利益の伸びに合わせて還元を増やす。一方で、愛知側の投資は、買った資産の価値が確かめにくい。ここは経営の腕に頼る部分だ。
最後に安全域だ。今の値段は純資産とほぼ同じ水準で、ROE の改善をかなり織り込んでいる。金利が想定どおりに上がれば妥当、上がらなければ割高、という構図で、割安と言える余裕は薄い。筆者は、この会社を「確実に勝てる安さ」とは見ない。強い地盤を持つ普通の地銀だが、今の値段ではやや高く、安全域を取って持つ銘柄だ。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、地元の企業と家計にお金を貸し、預金を集める昔ながらの銀行業だ。十六銀行は 1877 年に岐阜市で創業した。2026 年 3 月末の単体で貸出金は 5.1 兆円、預金は 6.4 兆円。149 の店舗を持ち、行員は約 1,600 人だ。
岐阜は製造業の県だ。製造品出荷額は 5.6 兆円(2021 年)で、自動車部品や機械、アパレルなど中小の工場が多い。こうした企業の運転資金と設備資金が、法人貸出の中心になる。住宅ローンを中心とする個人貸出がその次だ。預かった預金の一部は国債や株式などの有価証券で運用する。この運用益も、銀行の利益の大きな柱だ。
貸出以外の稼ぎには、投信・保険の販売、決済・為替、法人向けのM&A仲介がある。傘下に十六TT証券(出資比率 60%)、十六リース、十六カード、十六電算デジタルサービスを持つ。2023 年には日本M&Aセンターホールディングスと共同で、事業承継を手がけるNOBUNAGAサクセションを立ち上げた。
岐阜銀行は 2010 年に株式交換で子会社にし、2012 年に十六銀行へ吸収合併した。持株会社への移行は 2021 年 10 月だ。2024 年 2 月にはりそなHDとリテール分野で戦略的に提携し、りそなが作った銀行アプリを 2025 年春から使っている。ここでは貸出を法人・個人に分け、有価証券運用、預かり資産・手数料と合わせた 4 つで事業を見る。
優良さと弱いところ
この銀行の堀(他社がまねできない強み)は、岐阜県内のシェアだ。県内企業のメインバンクとしての比率は 33.6%(東京商工リサーチ、2024 年)で首位。県の預金・貸出の 3 割前後を握るとされる。支店網と取引の歴史が厚く、地元企業は銀行を簡単に替えない。
ただし、この堀は「守りの堀」だ。広げる余地は小さい。県内の貸出需要そのものが人口とともに細るからだ。もう 1 つの地元行、大垣共立銀行との競り合いも続く。岐阜県内は寡占に近いが、価格(貸出金利)を一方的に決められるほどではない。
資本効率はまだ弱い。2026 年 3 月期の ROE は 5.8% で、資本コストを下回る。過去 5 年の ROE は 4〜5% 台が続いた。堀はあっても、儲け方が地味だった。今回の金利上昇が、その状況を初めて動かしている。
経営の資本配分は、ここ数年で規律が増した。政策保有株の連結純資産に対する比率は 18.7%(2025 年 3 月末)で、20% 未満の目標を達成した。簿価でも 2028 年 3 月末までに約 25% 減らす。還元は総還元性向 25% 以上を基本とし、自社株買いも始めた。
弱点は 2 つある。1 つは単体でも岐阜という 1 つの県に収益が集中していること。もう 1 つは、有価証券の含み損益が自己資本を揺らすこと。2025 年 3 月期は、債券の値下がりで評価益が 516 億円減った。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
地方銀行は、量が細り価格が上がる業界だ。人口と企業の数が減り、貸出の量は実質では伸びない。一方で、短期金利が 2% へ向かうと、貸出の利ざやは確実に広がる。量の停滞を価格で補う構図が、これからの 10 年を決める。
十六FG の足元は、その入口にいる。2026 年 3 月期の純利益は 274 億円で前の期より 31% 増えた。4〜6 月期も純利益は 24% 増で、通期予想の 300 億円は達成が見込まれる。利益が増えても ROE が低いのは、純資産が 4,700 億円と、利益に比べて厚いからだ。
岐阜の外では、再編が進んでいる。千葉銀行と千葉興業銀行、しずおかFG と名古屋銀行が経営統合で基本合意した。1 県 1 行に近づく流れの中で、システムや店舗を共通化できた会社ほど経費率が下がる。十六FG の池田社長は、統合は縁とタイミングがあれば排除しないが、自分から進める考えはないと 2024 年 1 月に語った。
競争相手は、同じ岐阜の大垣共立銀行だ。愛知県では、メインバンクの首位は三菱UFJ銀行(約 19%)で、十六銀行は上位に入っていない。岐阜と愛知を合わせた中京圏は、企業数が多く、地元の大手銀行が手薄だ。ここに食い込めるかが 10 年の分かれ目になる。
業界全体の構造は、再編が進んだグループと、単独で規模が働かないグループの二極化だ。十六FG は県内の首位という強みがあるぶん、今は急いで統合する必要がない。しかし 10 年先まで単独のまま、とは限らない。
資本政策と M&A
資本配分のかじは、利益の伸びに合わせて還元を厚くする方向へ切られている。総還元性向 25% 以上が基本方針だが、2027 年 3 月期の配当予想は純利益の約 3 割にあたる。加えて 2025 年 11 月には上限 30 億円の自社株買いを決めた。
政策保有株の縮減は順調だ。連結純資産比 18.7% は、20% 未満という目標を達成した水準だ。売って得た資金は、利回りの高い貸出や債券、自社株買いへ回る。売却益は一度きりなので、利益の柱とは見ない。
M&A の実績は、岐阜銀行の統合(2010〜12 年)が中心だ。同じ県内で店舗とシステムを重ねる合併は、統合の効果が出やすい。今後は、県外への広がりが焦点になる。NOBUNAGAサクセションやりそなとの提携は、規模が小さく、資本の大きな出ていきは伴わない。
再編の可能性は小さくない。りそなとは 2024 年に、将来の資本提携も視野に入れた業務提携を結んでいる。kabufu の推定では、10 年以内に買収・TOB が起きる確率は約 15% だ。買われる側に回れば、上乗せ価格(プレミアム)が株主に入る。ただし、筋書きの価値にはこの上乗せを織り込んでいない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
短期金利が 2% へ上がる間に、法人・個人の貸出利ざやは構造的に広がる。会社は 2027 年度の純利益目標を 350 億円以上に引き上げ、2032 年度には 600 億円以上を掲げた。足元の 4〜6 月期も純利益が 24% 増えており、計画が控えめだと言える土台がある。
岐阜県内の首位という地位は動かない。メインバンクの比率は 33.6% で、県内の中小企業は簡単に取引銀行を替えない。貸出先の質も、岐阜の製造業が支える安定したもので、金利が上がっても与信費用が急増する形になりにくい。
さらに、成長の種が 2 つある。1 つは愛知県で、企業数も人口も岐阜を大きく上回る隣県だ。地元の大手銀行が手薄な中で、りそなのアプリと法人向けのサービス、M&A仲介(NOBUNAGAサクセション)を使って顧客を増やせる。もう 1 つは、りそなとの資本提携や再編だ。統合が実現すれば、システムと店舗の共通化で経費率が大きく下がり、ROE は 10% 台に届く。
政策保有株を減らして、その資金を貸出・債券・自社株買いに回すので、資本効率は自分の力で上がる。今の ROE は、金利が上がりきる前の姿にすぎない。利益が増えれば、いまの値段は 10 年後にはずっと安く見える。
慎重な見方
金利が上がる効果は、銀行ごとの差が小さい。利ざやが広がる恩恵は、どの地銀にも及ぶ。つまり市場はすでに、利ざや拡大を値段に入れている。今の純資産並みの値段は、計画どおりの利益が出て初めて妥当になる水準で、余裕がない。
岐阜県は、中部 3 県でいちばん人口が減る。2050 年までに約 4 分の 1 が減るという推計がある。貸出残高は物価並みに伸びても、実質では縮む。人口が減れば、住宅ローンも事業の資金需要も細り、貸出のシェア争いは、限られたパイの奪い合いになる。
愛知進出は、期待ほど進まない可能性が高い。愛知のメインバンクの首位は三菱UFJ銀行で、地元の名古屋銀行も、しずおかFG との統合で力を増す。後発の十六銀行が、メインバンクの座を取るのは簡単ではなく、貸出の積み上がりは価格競争で薄い利ざやになりやすい。
有価証券の評価損も怖い。2025 年 3 月期は、債券の値下がりで評価益が 516 億円減った。金利がさらに上がると、含み益が目減りして自己資本を削る。ROE が上がる前に、自己資本が減る局面もありうる。
最後に、統合の選択肢が狭まる。同業が次々と統合する中で、十六FG が単独のまま規模で劣り、経費率の差が開くおそれがある。
どちらに重みを置いたか
利益の伸びという面では強気の見方が正しい。ただ、その伸びは市場もほぼ知っており、岐阜の人口減が長く効く点で慎重な見方に分がある。そこで確率は中立に最も厚く置き、楽観とやや楽観を合わせて 4 割弱、やや悲観と悲観を合わせて 3 割強とした。愛知の開拓と再編という上振れの種がある一方、悲観は景気後退の底と構造的な負けの 2 つが重なるため、確率を軽くしなかった。結果として、10 年の本質価値は今の時価総額を1割弱下回る「適正」になる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,720 円6,588 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,041 円1,845 億円)。 今の値に割り戻すと 2,384 円4,223 億円、今との差 +1.9%、 期待の年率 +7.4%(資本コスト 8.3%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 11% | 6,303 円1.12 兆円 | 1,477 円2,616 億円 | +232.6% | +12.8% | 856 円1,516 億円 |
| やや楽観 | 24% | 5,015 円8,882 億円 | 1,263 円2,236 億円 | +168.4% | +10.4% | 1,507 円2,668 億円 |
| 中立 | 29% | 4,184 円7,411 億円 | 1,114 円1,973 億円 | +126.5% | +8.5% | 1,537 円2,721 億円 |
| やや悲観 | 23% | 2,316 円4,102 億円 | 826 円1,462 億円 | +34.3% | +3.0% | 723 円1,280 億円 |
| 悲観 | 13% | 592 円1,048 億円 | 485 円859 億円 | −54.0% | −7.5% | 140 円248 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,720 円6,588 億円 | 1,041 円1,845 億円 | +103.6% | +7.4% | 4,762 円8,433 億円 |
今の株価時価総額 2,339 円4,142 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 11% りそなとの連携が愛知の収益に結びつく10年 利益 816 億円 · PER 13.7 倍 · 株価時価総額 6,303 円1.12 兆円
短期金利は 2% で落ち着き、貸出の利ざやは今より広い水準で定着する。りそなとの提携は資本の結びつきへ進み、システムや店舗の共通化で経費の伸びが物価より低く抑えられる。愛知の貸出残高は、岐阜の人口減を補って余りある伸びを見せる。
法人向けのM&A仲介や海外進出支援など、手数料の稼ぎも増える。政策保有株の縮減で浮いた資金は、貸出と自社株買いに回る。10 年後の純利益は 816 億円、ROE は 10.9% と、地銀の上位に並ぶ。ただし、人口減という地域の制約は消えないので、倍率は上限の少し下にとどめる。
- 法人・事業性貸出:数量 4.4(法人・事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.7%(貸出利ざや(%))→ 売上 719 億円・営業利益 457 億円。残高 4.4 兆円(名目)× 利ざや 1.65%、利益率 64%
- 個人貸出:数量 2.9(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.4%(貸出利ざや(%))→ 売上 405 億円・営業利益 244 億円。残高 2.9 兆円(名目)× 利ざや 1.42%、利益率 60%
- 預かり資産・ソリューション:数量 3.4(預かり資産・取扱高(兆円))× 価格 1.3%(実効手数料率(%))→ 売上 442 億円・営業利益 235 億円。取扱高 3.4 兆円(名目)× 率 1.30%、利益率 53%
- 有価証券運用:数量 2.4(有価証券残高(兆円))× 価格 1.7%(運用の純ざや(%))→ 売上 413 億円・営業利益 347 億円。残高 2.4 兆円(名目)× 純ざや 1.70%、利益率 84%
倍率:事業の純利益 816 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.9% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.7 倍。全体の PER 13.68 倍、時価総額 11,163 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:愛知の開拓とりそなとの連携が、同時に当たる筋書きは確率が低い。会社が 2032 年度の目標を 600 億円以上に上げた意気込みはあるが、1 割強とした。
やや楽観 24% 岐阜の足場と愛知の上積みで ROE 9% 台へ 利益 688 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 5,015 円8,882 億円
利ざやは中立より少し広い水準で定着し、手数料収入も伸びる。愛知の開拓は、りそなとの提携を軸に、岐阜の人口減の半分ほどを補う。10 年後の純利益は 688 億円、ROE は 9.5% になる。
岐阜県内の首位は続き、貸出先の質も保たれる。経費は物価並みに増えるが、アプリと法人向けサービスの普及で人手のかかる業務が減り、利益率はわずかに上がる。還元は純利益の 4 割台後半に高まる。資本コストをはっきり超える ROE を、市場は長期で評価する。ただ、人口の細る県の銀行である以上、倍率が地銀の最上位まで上がることはない。
- 法人・事業性貸出:数量 4.2(法人・事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.6%(貸出利ざや(%))→ 売上 658 億円・営業利益 393 億円。残高 4.2 兆円(名目)× 利ざや 1.57%、利益率 60%
- 個人貸出:数量 2.8(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.4%(貸出利ざや(%))→ 売上 376 億円・営業利益 214 億円。残高 2.8 兆円(名目)× 利ざや 1.36%、利益率 57%
- 預かり資産・ソリューション:数量 3.1(預かり資産・取扱高(兆円))× 価格 1.3%(実効手数料率(%))→ 売上 387 億円・営業利益 177 億円。取扱高 3.1 兆円(名目)× 率 1.25%、利益率 46%
- 有価証券運用:数量 2.4(有価証券残高(兆円))× 価格 1.6%(運用の純ざや(%))→ 売上 378 億円・営業利益 311 億円。残高 2.4 兆円(名目)× 純ざや 1.60%、利益率 82%
倍率:事業の純利益 688 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.5% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍。全体の PER 12.91 倍、時価総額 8,882 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:金利と手数料の上振れ、愛知の一定の成功が重なる筋書きで、4 分の 1 弱とした。
中立 29% 金利は落ち着き、岐阜首位の強さが続く 利益 603 億円 · PER 12.3 倍 · 株価時価総額 4,184 円7,411 億円
短期金利は 2%、長期は 3% で落ち着き、利ざやは広がったあとで定着する。貸出は岐阜で物価並みに増え、実質ではほぼ横ばいが続く。愛知の積み上げで、人口減は補える。
経費は物価並みの 3% で増え、利益率は 3 年後から変わらない。10 年後の純利益は 603 億円、ROE は 8.5% になる。県内首位の強みが、その利益を守る。会社が長期ビジョンで掲げる 2032 年度の 600 億円以上に、この線は近い。再編は起きても起きなくても、中立の線には含めない。地元の景気が平均並みで、与信費用も普通の水準に収まる、いちばん素直な 10 年だ。
- 法人・事業性貸出:数量 4.0(法人・事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.5%(貸出利ざや(%))→ 売上 605 億円・営業利益 340 億円。残高 4.0 兆円(名目)× 利ざや 1.50%、利益率 56%
- 個人貸出:数量 2.7(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.3%(貸出利ざや(%))→ 売上 349 億円・営業利益 187 億円。残高 2.7 兆円(名目)× 利ざや 1.30%、利益率 54%
- 預かり資産・ソリューション:数量 2.8(預かり資産・取扱高(兆円))× 価格 1.2%(実効手数料率(%))→ 売上 346 億円・営業利益 136 億円。取扱高 2.8 兆円(名目)× 率 1.23%、利益率 39%
- 有価証券運用:数量 2.3(有価証券残高(兆円))× 価格 1.5%(運用の純ざや(%))→ 売上 354 億円・営業利益 287 億円。残高 2.3 兆円(名目)× 純ざや 1.53%、利益率 81%
倍率:事業の純利益 603 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.5% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.3 倍。全体の PER 12.29 倍、時価総額 7,411 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:10 年は不確実性が大きく、中立でも 3 割弱にとどめた。人口減の県の銀行という前提から、楽観側にはあまり寄せていない。
やや悲観 23% 人口減が貸出を削り、ROE が資本コストに届かない 利益 376 億円 · PER 10.9 倍 · 株価時価総額 2,316 円4,102 億円
岐阜の人口減が想定より早く貸出を削り、残高は物価の伸びに届かず、実質では縮む。預金の獲得競争で、利ざやの広がりは中立の 7 割ほどにとどまる。愛知の開拓も、メインバンクの壁に阻まれて限定的になる。
経費は物価並みに増えるので、利益率は上がらない。10 年後の純利益は 376 億円、ROE は 5.8% と、資本コストに届かない。この水準では、積み上げた自己資本が資本コストを稼げず、市場は純資産に届かない値段をつける。統合の話が出ても、規模で劣る側として条件は厳しくなる。利益は今より増えるが、増えた利益の大半を自己資本として積む必要があり、株主の手元には残りにくい。
- 法人・事業性貸出:数量 3.7(法人・事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.4%(貸出利ざや(%))→ 売上 511 億円・営業利益 241 億円。残高 3.7 兆円(名目)× 利ざや 1.37%、利益率 47%
- 個人貸出:数量 2.5(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.2%(貸出利ざや(%))→ 売上 290 億円・営業利益 125 億円。残高 2.5 兆円(名目)× 利ざや 1.18%、利益率 43%
- 預かり資産・ソリューション:数量 2.6(預かり資産・取扱高(兆円))× 価格 1.2%(実効手数料率(%))→ 売上 294 億円・営業利益 80 億円。取扱高 2.6 兆円(名目)× 率 1.15%、利益率 27%
- 有価証券運用:数量 2.2(有価証券残高(兆円))× 価格 1.4%(運用の純ざや(%))→ 売上 298 億円・営業利益 229 億円。残高 2.2 兆円(名目)× 純ざや 1.35%、利益率 77%
倍率:10年後のROE5.8%(純利益376億円÷自己資本6,472億円)。ROEはk8.25%以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、PERは1÷k=12.1倍までが上限。上限の9.0割に置き、10.91倍。還元を会社の方針(45%)に合わせたため自己資本が厚くなった。
確率:人口減と預金競争は、ほぼ確実に効く。想定より重くなる確率を、楽観側より厚く、2 割強とした。
悲観 13% 地域の細りと再編の波に乗れず、優良さを失う 利益 108 億円 · PER 9.7 倍 · 株価時価総額 592 円1,048 億円
構造的に負ける姿だ。岐阜の人口は 2050 年へ向けて大きく減り、貸出は実質で縮み続ける。ネット銀行やメガバンクとの預金競争で、預金金利が上がる割合は高まり、利ざやの拡大は止まる。愛知の開拓は、メインバンクの壁を崩せず、採算に合わない貸出が残る。
人件費とシステム費は物価で増え続け、与信費用も重い。配当は、政策保有株などの売却益を使って守る。10 年後の純利益は 64 億円まで縮み、ROE は 1.4% になる。統合の波にも乗れず、経費率の差が開く。優良な銀行という前提が崩れ、市場は純資産の半分を割る値段をつける。それでも、県内の預貸の 3 割前後を握る基盤と、含み益込みの純資産が床になる。
- 法人・事業性貸出:数量 3.3(法人・事業性貸出残高(兆円))× 価格 1.1%(貸出利ざや(%))→ 売上 365 億円・営業利益 95 億円。残高 3.3 兆円(名目)× 利ざや 1.10%、利益率 26%
- 個人貸出:数量 2.2(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.0%(貸出利ざや(%))→ 売上 210 億円・営業利益 44 億円。残高 2.2 兆円(名目)× 利ざや 0.95%、利益率 21%
- 預かり資産・ソリューション:数量 2.1(預かり資産・取扱高(兆円))× 価格 1.0%(実効手数料率(%))→ 売上 210 億円・営業利益 −4 億円。取扱高 2.1 兆円(名目)× 率 1.00%、利益率 -2%
- 有価証券運用:数量 2.0(有価証券残高(兆円))× 価格 1.0%(運用の純ざや(%))→ 売上 200 億円・営業利益 131 億円。残高 2.0 兆円(名目)× 純ざや 1.00%、利益率 66%
倍率:10年後のROE2.1%(純利益108億円÷自己資本5,215億円)。ROEはk8.25%以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、PERは1÷k=12.1倍までが上限。筋書きは「地域の細りと再編の波に乗れず、優良さを失う」。上限の8.0割に置き、9.7倍。還元を会社の方針(45%)に合わせたため自己資本が厚くなった。
確率:10 年のうちに、構造的に負ける形(人口減の加速・統合に乗れない・預金流出)になる確率を 1 割強とした。景気後退も重なりうるため、5% 未満にはしない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
法人・事業性貸出
岐阜の製造業を中心とする中小企業・事業性の貸出と、自治体向けの貸出。愛知県の法人取引の開拓もここに入る。
| 数量法人・事業性貸出残高(兆円) | 価格貸出利ざや(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.0 | 1.1% | 315 | 118 |
| 10 年後 中立 | 4.0 | 1.5% | 605 | 340 |
取り方:十六銀行の貸出残高 5.1 兆円(2026 年 3 月、単体)のうち、事業性と自治体向けを約 6 割の 3.0 兆円と置いた(内訳は開示が粗いので推定)。利ざやは 1.05% と置いた。短期金利が今の 1% 前後から 2% へ上がる間に、変動金利の貸出はほぼ全部が上がり、預金は預金ベータ(預金金利が政策金利に付いていく割合)40% だけ上がる。固定金利や定期預金の遅れも含め、中立で利ざやは 3 年で +0.27%、10 年で +0.45% 広がると置いた(率なので物価では上がらない)。残高は名目で、中立で年 3.0%(物価 3% に、愛知の伸びと岐阜の人口減が相殺して実質ゼロ)。 【2026-10-19 確認】数量は名目、率は物価を掛けていない(率は金利・手数料などの事業の理由でだけ動かす)。
個人貸出
住宅ローンを中心とする個人向けの貸出。岐阜の人口減の影響が最も出やすい部分。
| 数量個人向け貸出残高(兆円) | 価格貸出利ざや(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.1 | 0.9% | 189 | 68 |
| 10 年後 中立 | 2.7 | 1.3% | 349 | 187 |
取り方:貸出の残り 2.1 兆円(住宅ローン・消費者ローンなど。推定)。利ざやは 0.90% と置いた。住宅ローンは固定が多く、変動の貸出より利ざやの広がりが遅いので、中立で 3 年 +0.24%、10 年 +0.40% と置いた。残高は名目で、中立で年 2.5%(物価 3% から、人口減の分を実質 −0.5%)。 【2026-10-19 確認】数量は名目、率は物価を掛けていない(率は金利・手数料などの事業の理由でだけ動かす)。
預かり資産・ソリューション
投信・保険の販売、決済・為替、十六TT証券・十六リース、M&A仲介(NOBUNAGAサクセション)などの手数料・サービス収入。
| 数量預かり資産・取扱高(兆円) | 価格実効手数料率(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.9 | 1.2% | 218 | 62 |
| 10 年後 中立 | 2.8 | 1.2% | 346 | 136 |
取り方:決済・為替、投信・保険の販売、十六TT証券、十六リース、M&A 仲介などの手数料・サービス収入を、取扱高(預かり資産と取扱高の合計 1.9 兆円。役務収益の規模から逆算した推定で、開示値ではない)に対する実効の率 1.15% で割り戻した。取扱高は名目で、中立で年 4.0%(物価 3% に預かり資産の積み上がり)。率は物価では上がらない。 【2026-10-19 確認】数量は名目、率は物価を掛けていない(率は金利・手数料などの事業の理由でだけ動かす)。
有価証券運用
預金の一部で運用する国債・地方債・社債・株式などの有価証券。政策保有株の縮減もここで進む。
| 数量有価証券残高(兆円) | 価格運用の純ざや(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.9 | 1.2% | 228 | 178 |
| 10 年後 中立 | 2.3 | 1.5% | 354 | 287 |
取り方:有価証券残高は、総資産 7.4 兆円と貸出 5.1 兆円から約 1.9 兆円と推定した(開示の内訳は使っていない)。調達費用を引いたあとの運用の純ざやを 1.20% と置いた。債券は満期のたびに高い金利で入れ替わるが、預金金利も上がるので、中立で 3 年 +0.10%、10 年 +0.33%。残高は名目で年 2.0%(政策保有株の縮減を織り込む)。 【2026-10-19 確認】数量は名目、率は物価を掛けていない(率は金利・手数料などの事業の理由でだけ動かす)。
リスクと懸念
岐阜の人口減が貸出を削る
岐阜県は 2050 年までに約 4 分の 1 の人口を失う推計で、中部 3 県でいちばん減りが大きい。生産年齢人口の減りはもっと速い。住宅ローンも事業の資金需要も細り、貸出残高は物価並みに伸びても実質では縮む。県内の首位という地位があっても、パイそのものが小さくなる。
預金競争で利ざやの広がりが想定より小さくなる
利ざやの拡大は、預金金利が政策金利にどれだけ付いていくか(預金ベータ)で決まる。ネット銀行やメガバンクが預金金利を引き上げれば、地銀も追随を迫られる。預金ベータが想定の 40% を超えて 50〜60% になれば、利ざやの広がりは中立の筋書きの半分ほどに減る。
信用コストの戻り
今の与信費用は、低い水準にある。金利が上がると、借入の負担が増えて中小企業の返済が苦しくなる。岐阜の製造業は自動車部品などで景気の影響を受けやすく、景気後退が来れば与信費用が急に増える。今の低い水準が続くとは見ない方がよい。
有価証券の評価損と政策保有株
2025 年 3 月期は、債券の値下がりで評価益が 516 億円減った。金利がさらに上がれば、債券の含み損益が自己資本を揺らす。政策保有株は売却を進めているが、株価が崩れれば含み益が減り、自己資本を通じて貸出の余力にも響く。
愛知の開拓が収益に結びつかない
愛知県は企業数も人口も岐阜を大きく上回るが、メインバンクの首位は三菱UFJ銀行で、地元の名古屋銀行もしずおかFG との統合で力を増す。後発の十六銀行が高い利ざやを取れる顧客を増やせるとは限らず、貸出を積んでも薄い利ざやになりやすい。
再編の波に取り残される
千葉、静岡・名古屋など、地銀の統合が相次いでいる。統合した銀行はシステムと店舗を共通化し、経費率を下げる。十六FG が単独のまま規模で劣れば、経費率の差が開く。りそなとの提携が資本の結びつきに進む場合も、条件次第で株主の利益が薄まりうる。
今後の分かれ目
- 日銀の利上げが想定より速く進み、貸出利ざやの広がりが計画を上回ったら
- 楽観・やや楽観の筋書きの確率を上げてよい。法人・個人の利ざやが決算でどれだけ広がったかを確認する。
- 預金金利の引き上げ競争が強まり、預金の流出が目立ったら
- やや悲観側へ確率を移す。預金ベータが想定を超えるかどうかを決算の資金利益で確かめる。
- 岐阜県内の与信費用が四半期で急に増えたら
- 悲観側の重みを増やす。どの業種(自動車部品・機械・アパレル)で増えているかを確認する。
- りそなとの提携が資本提携や統合へ進んだら
- 経費率の改善が見込めるので、10 年の楽観側へ寄せる。ただし、株主への条件(比率・上乗せ)で見方が変わる。
- 愛知の貸出残高が計画を超えて積み上がり、利ざやも保たれたら
- 愛知の開拓が当たりつつあると見て、やや楽観・楽観の確率を上げる。薄い利ざやで貸出だけ増えているなら評価しない。
- 債券や株式の評価損が膨らみ、自己資本が目減りしたら
- ROE の改善が遅れると見て、やや悲観・悲観の確率を上げる。資本配分(自社株買い)が止まるかも確認する。
見ておくもの
- 岐阜・愛知別の貸出残高と、貸出利ざやの推移
- 預金金利(預金ベータ)と預金残高の動き
- 与信費用と、岐阜の製造業の景況
- 有価証券の評価損益と、政策保有株の縮減の進み具合
- りそなとの提携の深まり方(資本提携・統合の有無)
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価を見ずに決めた。楽観・やや楽観・中立は10年後のROEとk 8.25%(基本7.5%+quality +0.75%)・g 4.0%から利益ベースの正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)の上限を出し、その9.5・9・8.8割に置いた(下限は1÷k=12.1倍)。やや悲観・悲観はROEがk(8.25%)以下なので、PERは1÷k=12.1倍が上限で、その9・8割に置いた。悲観の利益は貸出の利ざやが競争で縮み与信費用が重い構造から、自己資本に対するROE約2%に置き、過去の底値や今の倍率は根拠にしていない。kが1%高い(9.25%)と10年の中立のPERは10.8倍から9.5倍に下がる。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.99→13.68 倍・やや楽観 PER 12.5→12.91 倍・中立 PER 12.12→12.29 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β 0.82 × 5% + 規模 0.50%。基本7.5%に quality +0.75% を足して k 8.25%(決まり v2。β・規模は使わない。内訳と理由は quality_why)。銀行は預金が仕入れなので利払いの式は当てはめず、利ざやで扱う。個別のリスク(人口減による貸出量の停滞)は k に足さず、確率と筋書きで表す。事業は傾いていないので上乗せ(extra)は 0。同じ地方銀行どうしで同じ物差しを使い、差は quality の4部品だけで出している。