結論
岩手銀行は、岩手県の貸出の47%を握る県内首位の地方銀行である。2026年10月に、秋田銀行と、青森みちのく銀行の親会社プロクレアHDとの経営統合を協議すると発表した。筆者の結論は、稼ぐ力は上向いているが、資本コストにはまだ届かない銀行だ、というものだ。
稼ぎの源は単純だ。預かった3.4兆円の預金を、貸出と国債で運用する。日銀が政策金利を2%へ上げれば、変動金利の貸出と日銀預け金の利回りが先に上がり、預金金利は遅れて追う。2026年3月期に89億円だった純利益は、10年後の中立で190億円ほどまで伸びると見る。
伸びを削るのは人口と費用だ。岩手県の人口は2015年からの5年で5.4%減り、減り方は全国で2番目に速かった。貸出の量は物価の分しか伸びにくい。費用は物価で膨らみ、システム投資も重い。利益がほぼ倍になっても自己資本は3割積み上がり、ROEは7%台で止まる。
統合は追い風になりうる。3行で総資産は13兆円を超え、東北最大になる。ただし持株会社方式で、店舗の統廃合も当面は検討していない。費用削減が実際に効くかは、これからの協議次第だ。
今の値段は、金利上昇による利益の伸びをすでに先取りしている。確率で重みづけした価値は、今の時価総額を2割ほど下回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、岩手銀行は堀が本物で、稼ぎの質がまだ足りない会社だ。県内の貸出シェア47%は、10年先も崩れにくい。だが、堀があることと、株主の取り分が増えることは別の話である。
銀行は、利益の多くを規制上の自己資本として積み増す必要がある。10年で利益がほぼ倍になっても、自己資本も3割ほど増え、ROEは7%台で止まる。積み増しを引いた株主のものになる利益は、見かけの利益より小さい。
資本の使い方は、前向きに変わった。配当性向40%以上と累進配当は評価できる。自社株買いも機動的に使う方針だ。ただ、債券の損切りで28億円の損を出したように、運用には改善の余地がある。
統合は、費用を下げる点で価値を生みうる。しかし統合比率が決まる前に、その効果を値段に足し込むのは危うい。筆者は、統合の果実は中立では半分しか数えないのが筋と考える。
最後は安全域だ。確率で重みづけした本質価値は、今の時価総額を2割ほど下回る。値段に安全域はない。
何で稼ぐ会社か
岩手銀行は盛岡市に本店を置く、岩手県の地方銀行である。持株会社を持たず、銀行本体が上場している。総資産は3.9兆円、預金は3.4兆円ほどになる。県内の貸出シェアは47%で、前の中期経営計画の開始前から5ポイント上がった。県内企業のメインバンクの比率も、5割を目標に掲げる。
稼ぎの柱は4つある。1つ目は法人・公共向けの貸出で、地元の中小企業、県と市町村、そして成長分野のストラクチャードファイナンス(案件ごとに返済の原資を組み立てる融資)が入る。2つ目は住宅ローンなどの個人貸出。3つ目は投資信託・保険・為替・公金の手数料。4つ目は預金の運用で、安く集めた預金を国債や預け金に回した差が稼ぎになる。
足元の特徴は、金利への敏感さだ。貸出のうち変動金利か1年以内に金利が変わるものが約6割を占め、政策金利が上がるほど貸出の利息が先に増える。2026年度の貸出利息は344億円と、前年より67億円増える見通しだ。一方、預金利息も50億円増える。
役務の面では、2026年度から大和証券との協業を始める。地域での預かり資産を、両社合計で2030年度末に1兆円へ増やす目標だ。法人側ではM&A・事業承継の支援を伸ばし、取扱件数100件を掲げる。
再編の面では、秋田銀行と2021年から包括提携を続けてきた。2026年10月には、青森みちのく銀行のグループを加えた3行統合の協議に入った。
優良さと弱いところ
最大の堀は、県内の貸出シェア47%と、メインバンクとしての厚みだ。県内企業の取引を半分近く押さえる銀行は、貸出の値段を競争だけで決められにくい。筆者はこの地位を、岩手銀行の財産と見る。前の中期経営計画の期間で、シェアは約5ポイント上がった。
弱みは収益力の低さだ。ROEは過去10年の中央値が2.4%で、資本コストを一度も超えていない。2026年3月期の4.7%でも、まだ届かない。経費率は2025年度に初めて50%台まで下がったが、2026年度は費用が増えて60%台前半に戻る見通しだ。
財布の薄さにも注意がいる。自己資本の総資産に対する比率は5%と低い。規制上の自己資本比率は11%台で足りているが、債券の評価損や与信費用が重なると、余裕の薄さが出る。2025年度は債券の損切りで28億円の損が出た。
持ち株の面では、会社は政策保有株について、合理性が認められない銘柄の売却を進める方針を掲げる。ただし縮減の額と期限は、確かめられた範囲では示されていない。
経営の規律は、配当性向を40%以上に引き上げ、累進配当(減らさない配当)を採るなど、前向きに変わった。ただ、成果が数字に表れ始めたばかりの段階だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
岩手県の銀行業は、人口減少と金利上昇という、逆向きの力が同時に働く市場だ。
県の人口は2020年の国勢調査で121万人、5年で5.4%減った。減り方は全国で2番目に速い。社人研の推計では、2040年に96万人ほどになる。住宅ローンも事業性貸出も、量は物価の分しか伸びにくい。復興需要は一巡し、半導体や再エネの設備投資など新しい芽はあるが、貸出全体を押し上げるほどではない。
一方、政策金利が2%へ向かえば、利ざやは構造的に広がる。貸出は金利にすぐ連動し、預金は遅れて追う。ただ、預金をめぐる獲得競争はすでに始まっている。県内には岩手銀行のほかに東北銀行と北日本銀行があり、ネット銀行も預金金利で攻める。調達費用がどこまで上がるかが、利ざや拡大の幅を決める。
再編は北東北でいちばん大きな動きだ。2026年10月、秋田銀行、青森みちのく銀行を傘下に持つプロクレアHD、岩手銀行が、2028年4月の経営統合を目指すと発表した。総資産は合計で13.3兆円となり、七十七銀行の10.4兆円を上回る。3行は2000年からATMの相互開放で組み、2003年には商談会の会社を共同で作ってきた。
統合の目的は、システム投資と専門人材の負担を分け合い、規模で費用を下げることだ。公表された範囲では、統合比率も役員構成も、まだ決まっていない。県内に残る2行の動きも、これで変わる可能性がある。
資本政策と M&A
還元は厚くなる方向だ。2025年11月に配当性向の目安を30%から40%以上へ上げ、累進配当(減らさない配当)を導入した。自社株買いは、市場と業績を見て機動的に行う方針である。
自己資本は、規制上の連結の比率で10〜11%の範囲に保つ。会社はこの範囲で、貸出などリスクの大きい資産を増やし、収益を取りにいく。残高を伸ばすほど自己資本が要るので、還元の余地は利益の伸びと表裏になる。
M&Aの中心は、北東北3行の統合だ。2021年からの秋田銀行との提携が土台になった。持株会社の本社は盛岡市に置く方向で検討されている。岩手銀行は3行のうち総資産で2番目に大きいが、統合比率が示されていない以上、今の株主の持ち分がどう変わるかはわからない。
政策保有株は、合理性のない銘柄の売却を進める方針である。売却益と配当の変化は、利益の振れ幅として残る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
金利は2%へ上がり、岩手銀行はその恩恵を、同業より濃く受ける。貸出の6割が変動金利か1年以内に金利が変わる型で、2026年度の貸出利息は前年より67億円増える。預金利息の増加は50億円にとどまる。利ざやの拡大が、数字にすでに出始めている。
県内の貸出の47%を握り、さらに5割を目指す。メインバンクの厚い会社は、値上げに応じてもらいやすい。岩手の人口は減るが、シェアが上がる銀行は、パイが縮んでも量を保てる。ストラクチャードファイナンスは県外の案件も取り込み、人口に縛られない貸出の柱になる。
中期経営計画は、2028年度に純利益130億円・ROE6%、2032年度に純利益180億円・ROE7.5%を掲げる。金利の前提は、2026年12月の0.25%の利上げ1回にすぎない。政策金利が2%まで上がるなら、この目標は保守的だ。
統合も上振れの種になる。3行で13兆円を超え、東北最大になる。システムの共通化と専門人材の共有で、費用は物価の伸びを下回る。大和証券との協業で預かり資産が育てば、役務も厚くなる。ROEが9%台に乗れば、10年後の倍率は今より一段高い。
慎重な見方
金利の追い風は、預金の獲得競争で削られる。預金は金利で動く資金に変わった。県内には東北銀行と北日本銀行がいて、ネット銀行も預金金利で攻める。預金に払う金利が増えれば、貸出利息の増加はそのぶん消える。2026年度の資金利益は374億円と、ほぼ横ばいの予想だ。利ざやの拡大は、まだ利益に届いていない。
県の人口は2040年に96万人ほどへ減る見通しだ。県内シェアが5割に近い銀行は、他の銀行から奪える貸出が残り少ない。ここからの量は物価の分しか伸びない。シェアを50%に上げる目標も、競合の反撃で重くなる。
収益力の実績は弱い。ROEは過去10年の中央値が2.4%で、資本コストを一度も超えていない。自己資本比率も5%と薄く、債券の損切りで28億円の損が出た。与信費用も2026年度は増える予算だ。
統合は、費用を下げるより先に、統合作業の費用を生む。システムを一つにまとめる投資は大きく、店舗の統廃合は当面検討されていない。統合比率も未定で、岩手銀行の株主の取り分が薄まる恐れもある。ROEが資本コストを超えない限り、倍率は上がらない。
どちらに重みを置いたか
金利の追い風は本物で、県内のシェアの厚みは10年先も残る。この点では強気の言い分に分がある。だが、預金の獲得競争で追い風が削られる動きはすでに数字に出ており、人口減少と自己資本の薄さも消えない。
統合は費用を下げる方向に働くが、比率が決まる前に中立へ足し込むのは危うい。確率は中立にいちばん厚く置き、ROEが資本コストに届かない実績を重く見て、慎重側へやや寄せた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,774 円1,918 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,000 円691 億円)。 今の値に割り戻すと 1,928 円1,333 億円、今との差 −6.2%、 期待の年率 +6.3%(資本コスト 8.3%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 4,810 円3,325 億円 | 1,476 円1,020 億円 | +205.9% | +11.8% | 629 円435 億円 |
| やや楽観 | 23% | 3,752 円2,594 億円 | 1,193 円825 億円 | +140.7% | +9.2% | 1,137 円786 億円 |
| 中立 | 31% | 3,296 円2,279 億円 | 1,085 円750 億円 | +113.2% | +7.9% | 1,358 円939 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,471 円1,017 億円 | 788 円545 億円 | +10.0% | +1.0% | 542 円375 億円 |
| 悲観 | 12% | 458 円317 億円 | 434 円300 億円 | −56.6% | −8.0% | 107 円74 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,774 円1,918 億円 | 1,000 円691 億円 | +83.6% | +6.3% | 3,774 円2,609 億円 |
今の株価時価総額 2,055 円1,421 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 10% 統合と金利上昇が重なり、ROEが10%近くに乗る10年 利益 255 億円 · PER 13.0 倍 · 株価時価総額 4,810 円3,325 億円
政策金利は2%に定着し、貸出の利ざやは0.5%ほど広がる。岩手銀行は県内の貸出シェアを5割台まで高め、ストラクチャードファイナンスも県外へ広げる。
3行の統合は2028年4月に実現し、システムの共通化と専門人材の共有で、費用は物価の伸びを大きく下回る。大和証券との協業で預かり資産は1兆円を超え、手数料も厚くなる。
与信費用は景気の山で低く抑えられ、政策保有株の売却で自己資本も効率的に回る。10年後の純利益は250億円台に達し、ROEは10%近くになる。北東北で最も効率の高い銀行の一つになる。
岩手の人口は減り続けるが、県外のストラクチャードファイナンスと県内の事業承継の取り込みで、貸出の量は名目で年3%台後半まで伸びる。統合新会社の本社は盛岡に置かれ、岩手銀行は3行の中で主導権を握る。
- 法人・公共貸出:数量 2.0(法人・公共貸出平残(兆円))× 価格 1.7%(貸出利ざや(粗利益ベース・%))→ 売上 344 億円・営業利益 155 億円。残高 2.00 兆円(名目)× 率 1.72%、利益率 45%
- 個人貸出:数量 0.7(個人貸出平残(兆円))× 価格 1.6%(貸出利ざや(粗利益ベース・%))→ 売上 108 億円・営業利益 41 億円。残高 0.70 兆円(名目)× 率 1.55%、利益率 38%
- 預かり資産・役務:数量 1.2(預かり資産残高(兆円))× 価格 0.8%(役務利益率(残高比・%))→ 売上 92 億円・営業利益 29 億円。残高 1.15 兆円(名目)× 率 0.80%、利益率 32%
- 預金運用・市場:数量 4.5(預金等平残(兆円))× 価格 0.6%(運用ざや(預金調達費用控除後・%))→ 売上 276 億円・営業利益 132 億円。残高 4.45 兆円(名目)× 率 0.62%、利益率 48%
倍率:事業の純利益 255 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.7% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.0 倍。全体の PER 13.04 倍、時価総額 3,325 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:政策金利2%の定着、県内シェア50%超え、3行統合の費用削減がすべて計画を上回る必要があり、確度は高くない。
やや楽観 23% 金利と統合が計画どおり進み、ROEが資本コスト付近へ届く10年 利益 214 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 3,752 円2,594 億円
政策金利が2%に届き、貸出利息の増加が預金利息の増加を上回る状態が続く。県内シェアは5割を超えるところまで伸びる。
統合は進み、システム費用の共通化が少しずつ効く。店舗の統廃合は限られるが、人員は業務改革で50人以上を成長分野へ回せる。預かり資産は大和証券との協業で8,500億円の目標に届く。
与信費用は景気を1〜2周してならした水準に戻る。純利益は210億円台に乗り、ROEは8%台前半。資本コストにやっと届く水準で、会社の長期目標にほぼ沿う10年になる。
預金の獲得競争は続くが、決済口座と給与・年金口座の粘りで、預金金利の追随は緩やかに抑えられる。政策保有株の売却は進み、資金は貸出と短期債に回る。県内2行との共存の形も、大きくは崩れない。
- 法人・公共貸出:数量 1.9(法人・公共貸出平残(兆円))× 価格 1.6%(貸出利ざや(粗利益ベース・%))→ 売上 307 億円・営業利益 129 億円。残高 1.87 兆円(名目)× 率 1.64%、利益率 42%
- 個人貸出:数量 0.7(個人貸出平残(兆円))× 価格 1.5%(貸出利ざや(粗利益ベース・%))→ 売上 102 億円・営業利益 36 億円。残高 0.68 兆円(名目)× 率 1.50%、利益率 35%
- 預かり資産・役務:数量 1.1(預かり資産残高(兆円))× 価格 0.8%(役務利益率(残高比・%))→ 売上 84 億円・営業利益 24 億円。残高 1.08 兆円(名目)× 率 0.78%、利益率 28%
- 預金運用・市場:数量 4.3(預金等平残(兆円))× 価格 0.6%(運用ざや(預金調達費用控除後・%))→ 売上 251 億円・営業利益 113 億円。残高 4.32 兆円(名目)× 率 0.58%、利益率 45%
倍率:事業の純利益 214 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.2% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 2,594 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:政策金利2%と県内シェアの拡大は、会社の中期経営計画の方向と一致する。統合の効果を半分織り込み、2番目の厚みに置く。
中立 31% 中立:利ざや拡大は定着、人口減が天井になる10年 利益 188 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 3,296 円2,279 億円
短期金利2%が定着し、貸出の利ざやは今より0.4%ほど広がる。預金は決済口座の粘りで追随が緩やかだが、獲得競争で調達コストは上がり続ける。岩手の人口が減る中、貸出の量は名目で年2〜3%にとどまる。
3行統合は2028年に実現するが、持株会社の下で3行が並ぶ形で、費用削減は緩やかに効く程度。大和証券との協業で預かり資産は1兆円へ向かうが、手数料率は低下し、役務の伸びは貸出に劣る。
費用は物価に合わせて増える。利益は10年で2倍近くになるが、自己資本も3割ほど積み上がり、ROEは7%台前半で止まる。県内首位の地位は守るが、資本効率で突き抜けられない銀行のままである。
- 法人・公共貸出:数量 1.8(法人・公共貸出平残(兆円))× 価格 1.6%(貸出利ざや(粗利益ベース・%))→ 売上 283 億円・営業利益 113 億円。残高 1.79 兆円(名目)× 率 1.58%、利益率 40%
- 個人貸出:数量 0.7(個人貸出平残(兆円))× 価格 1.5%(貸出利ざや(粗利益ベース・%))→ 売上 96 億円・営業利益 33 億円。残高 0.66 兆円(名目)× 率 1.46%、利益率 34%
- 預かり資産・役務:数量 1.0(預かり資産残高(兆円))× 価格 0.8%(役務利益率(残高比・%))→ 売上 78 億円・営業利益 21 億円。残高 1.02 兆円(名目)× 率 0.76%、利益率 27%
- 預金運用・市場:数量 4.2(預金等平残(兆円))× 価格 0.5%(運用ざや(預金調達費用控除後・%))→ 売上 233 億円・営業利益 100 億円。残高 4.24 兆円(名目)× 率 0.55%、利益率 43%
倍率:事業の純利益 188 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.3% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 2,279 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:短期金利2%・長期3%が定着し、与信費用も景気を1〜2周してならした水準に戻る、最も重みを置く筋書き。ROEが資本コストに届かない実績が重く、慎重側へ寄せて最大の確率とした。
やや悲観 24% やや悲観:預金の獲得競争と人口減で利ざやの果実が削られる10年 利益 113 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 1,471 円1,017 億円
短期金利は2%まで上がるが、預金の獲得競争で調達コストが先に上がり、利ざやの拡大は想定の半分ほどにとどまる。岩手の人口は想定を超えて減り、貸出の量は名目でも伸びが鈍る。
3行統合は実現するものの、システムの統合費用が重く、費用削減は小さい。県内に残る2行との預金の奪い合いも続く。与信費用は景気の谷で増え、債券の評価損も重なる。
純利益は110億円ほどにとどまり、ROEは5%を割る。資本コストに遠く届かない、稼ぐ力の弱い銀行になる。
会社は2028年度のROE6%の目標を、10年のあいだ一度も守れない。配当性向は保つが、自社株買いは債券の評価損で控え、自己資本の積み増しに回る。統合後も店舗網の見直しは進まず、経費率は60%台のまま下がらない。
- 法人・公共貸出:数量 1.6(法人・公共貸出平残(兆円))× 価格 1.4%(貸出利ざや(粗利益ベース・%))→ 売上 221 億円・営業利益 73 億円。残高 1.60 兆円(名目)× 率 1.38%、利益率 33%
- 個人貸出:数量 0.6(個人貸出平残(兆円))× 価格 1.3%(貸出利ざや(粗利益ベース・%))→ 売上 77 億円・営業利益 21 億円。残高 0.59 兆円(名目)× 率 1.30%、利益率 27%
- 預かり資産・役務:数量 0.9(預かり資産残高(兆円))× 価格 0.7%(役務利益率(残高比・%))→ 売上 61 億円・営業利益 12 億円。残高 0.90 兆円(名目)× 率 0.68%、利益率 20%
- 預金運用・市場:数量 4.0(預金等平残(兆円))× 価格 0.5%(運用ざや(預金調達費用控除後・%))→ 売上 184 億円・営業利益 63 億円。残高 4.00 兆円(名目)× 率 0.46%、利益率 34%
倍率:10年後のROE4.7%(純利益113億円÷自己資本2,380億円)は k 8.25% を大きく下回る。PER上限の1÷k=12.1倍は使わず、稼ぐ力の弱さから9.0倍に置いた。今の自己資本1,947億円に対する倍率は約0.5倍になる。
確率:岩手の人口減が想定より速く、預金金利の追随が早まり、統合も期待ほどの費用削減に至らない。10年という期間では十分に起こりうるので2番目に厚い。
悲観 12% 悲観:県内に閉じ、統合も実らず稼ぐ力を失う10年 利益 36 億円 · PER 8.8 倍 · 株価時価総額 458 円317 億円
10年のどこかで世界的な信用収縮が起き、地元の中小企業の与信費用が急増する。人口減が想定を超えて速まり、県内の貸出需要そのものが縮む。預金は金利を払って守るしかなく、利ざやは県内の競争で削られる。
3行統合は統合比率や主導権をめぐって難航し、システム投資の負担だけが残る。債券と政策保有株の評価損で自己資本も傷む。
費用は物価で増え続けるのに、収益は伸びない。純利益は40億円を割り、ROEは2%を割る。地方銀行としての存在意義が問われる。
預かり資産の協業は思うように収益化せず、手数料は伸びない。システム投資の負担は3行の合計で膨らみ、岩手銀行の取り分は主導権の弱さから小さくなる。10年の終わりには、再編の次の相手を探す立場になっている。
- 法人・公共貸出:数量 1.2(法人・公共貸出平残(兆円))× 価格 1.0%(貸出利ざや(粗利益ベース・%))→ 売上 112 億円・営業利益 27 億円。残高 1.18 兆円(名目)× 率 0.95%、利益率 24%
- 個人貸出:数量 0.4(個人貸出平残(兆円))× 価格 0.9%(貸出利ざや(粗利益ベース・%))→ 売上 39 億円・営業利益 5 億円。残高 0.43 兆円(名目)× 率 0.90%、利益率 14%
- 預かり資産・役務:数量 0.7(預かり資産残高(兆円))× 価格 0.5%(役務利益率(残高比・%))→ 売上 32 億円・営業利益 4 億円。残高 0.65 兆円(名目)× 率 0.50%、利益率 12%
- 預金運用・市場:数量 3.4(預金等平残(兆円))× 価格 0.3%(運用ざや(預金調達費用控除後・%))→ 売上 88 億円・営業利益 24 億円。残高 3.40 兆円(名目)× 率 0.26%、利益率 27%
倍率:ROE 1.8% が k 8.25% 以下で、ためた利益は額面を下回る価値。PER は 1÷k = 12.1 倍が上限で、目減りは ROE÷k = 0.22 に比例するので、上限 × 0.60 × 0.9 で 6.5 倍になる。自己資本の 0.2 倍に相当するのは 11.2 倍だが、やや悲観より低く置くため 8.8 倍にとどめた。やや悲観の 9.0 倍より低い。構造的に負けた筋書き。店舗不動産や政策保有株の売却益は、額を確かめられず床に足していない。
確率:リーマン級の信用収縮、人口減の加速、預金の流出、統合の頓挫が10年のどこかで重なる複合の悪材料。県内の貸出シェアが高く、統合の見込みもあるので、他の地銀と同じ1割台前半にとどめる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
法人・公共貸出
岩手県内の事業性貸出、ストラクチャードファイナンス、県・市町村向けの公共貸出。県内貸出シェア47%の中心。
| 数量法人・公共貸出平残(兆円) | 価格貸出利ざや(粗利益ベース・%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.4 | 1.1% | 156 | 60 |
| 10 年後 中立 | 1.8 | 1.6% | 283 | 113 |
取り方:貸出平残は2028年度に2兆円という会社の目標(個人ローン5,700億円を含む)と、貸出利息の2026年度予想344億円から、法人・公共を1.38兆円と置いた(推定)。価格は貸出利息から預金の調達費用を引いた後の利ざやと役務を足した粗利益の率。粗利益は全体で約408億円(経費241億円÷単体OHR59%)。そこから経費と与信費用を配分した利益を60億円とした。(点検 2026-10-19:数量は名目で置き、率に物価は掛けていない。中立の率は10年で+40%(物価倍率1.34倍の掛け算ではなく、事業・金利の置き方)。二重がけなし) (R23c 点検:率の上昇の理由)短期金利が今の1%前後から2%へ+1ポイント上がる前提。貸出金利は先に上がり、預金金利は預金ベータ換算で約55%だけ追うので、中立の率は10年で1.13%→1.58%(+0.45ポイント)。住宅ローンは固定が多く広がりは遅い。
個人貸出
住宅ローンなどの個人向け貸出。給与振込・年金口座を軸にした県内の個人取引。
| 数量個人貸出平残(兆円) | 価格貸出利ざや(粗利益ベース・%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.5 | 1.1% | 56 | 18 |
| 10 年後 中立 | 0.7 | 1.5% | 96 | 33 |
取り方:個人ローン平残は2028年度に5,700億円という目標から逆算し、今を0.52兆円と置いた(推定)。利ざやは法人よりやや薄く1.08%とした。(点検 2026-10-19:数量は名目で置き、率に物価は掛けていない。中立の率は10年で+35%(物価倍率1.34倍の掛け算ではなく、事業・金利の置き方)。二重がけなし) (R23c 点検:率の上昇の理由)短期金利が今の1%前後から2%へ+1ポイント上がる前提。貸出金利は先に上がり、預金金利は預金ベータ換算で約62%だけ追うので、中立の率は10年で1.08%→1.46%(+0.38ポイント)。住宅ローンは固定が多く広がりは遅い。
預かり資産・役務
投資信託・保険の販売、為替・公金手数料、M&A・事業承継支援などの手数料収益。大和証券との協業が2026年度から始まる。
| 数量預かり資産残高(兆円) | 価格役務利益率(残高比・%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.7 | 0.8% | 55 | 12 |
| 10 年後 中立 | 1.0 | 0.8% | 78 | 21 |
取り方:預かり資産は2028年度末に8,500億円という目標から、今を0.70兆円と置いた(推定)。役務収益は為替・公金手数料も含むので、残高に対する率として0.79%と置いた。(点検 2026-10-19:数量は名目で置き、率に物価は掛けていない。率は10年でほぼ横ばい。二重がけなし)
預金運用・市場
預金平残3.4兆円を、国債・預け金・株式・投信で運用する部門。預金の安い調達と運用利回りの差が稼ぎになる。
| 数量預金等平残(兆円) | 価格運用ざや(預金調達費用控除後・%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.4 | 0.4% | 142 | 52 |
| 10 年後 中立 | 4.2 | 0.5% | 233 | 100 |
取り方:預金等の平残3兆3,854億円(2026/03期)に、有価証券利息配当金(2026年度予想140億円)と預け金の運用益から預金利息を引いた粗利益を、率0.42%として置いた。貸出を除く粗利益の残りの142億円を預金残高で割った。(点検 2026-10-19:数量は名目で置き、率に物価は掛けていない。中立の率は10年で+31%(物価倍率1.34倍の掛け算ではなく、事業・金利の置き方)。二重がけなし) (R23c 点検:率の上昇の理由)短期金利が今の1%前後から2%へ+1ポイント上がる前提。満期を迎えた低利回りの債券が高い利回りに入れ替わる一方、預金コストは預金ベータ換算で約87%だけ追うので、中立の率は10年で0.42%→0.55%(+0.13ポイント)。
リスクと懸念
預金の獲得競争で利ざやの取り分が縮む
政策金利が2%へ向かう中、預金は金利で動く資金に変わる。県内の東北銀行・北日本銀行やネット銀行が預金金利を上げれば、岩手銀行も追わざるを得ない。預金が貸出より大きい銀行では、調達費用の上昇が貸出利息の増加を打ち消す。2026年度の資金利益が横ばい予想なのは、その表れだ。
岩手県の人口減少が貸出の天井になる
岩手県の人口は2015年からの5年で5.4%減り、2040年には96万人ほどになる見通しだ。住宅ローンも事業性貸出も、量は物価の分しか伸びにくい。貸出シェアが5割に近い銀行は、他の銀行から奪える分も少ない。縮む市場でシェアを守る勝負になり、規模の不利が経費率に出る。
統合の実行と持ち分の希薄化
3行統合は、システム統合の費用と手間が先に出る。統合比率は未定で、岩手銀行の株主の持ち分がどう変わるかはわからない。持株会社方式で店舗の統廃合も当面検討されないため、費用削減の効き方も読みにくい。統合が頓挫した場合は、単独で人口減と向き合うことになる。
与信費用の増加と債券の評価損
物価高、人手不足、中東情勢などから、2026年度の与信費用は増える予算だ。利上げ局面では、地元の中小企業の借入負担も重くなる。2025年度は債券の損切りで28億円の損を出した。自己資本の総資産に対する比率は5%と薄く、評価損と与信費用が重なると、ROEが一気に落ちる。
資本効率が上がらないまま還元が先行する
配当性向40%以上の累進配当と、機動的な自社株買いは評価できる。ただ、自己資本比率の範囲を10〜11%に保ちながら貸出を増やすため、還元と成長の両立には限りがある。稼ぐ力が還元に追いつかないまま、株主還元だけが増えると、積み増しの余地が減って守りが薄くなる。
預かり資産の収益化の遅れ
大和証券との協業は2026年度に始まったばかりだ。会社は預かり資産関連の手数料を、初年度は前期並みと見込む。保険手数料率の低下で、2025年度は預かり資産関連の収益がむしろ減った。目標の1兆円に残高が届いても、手数料率が下がれば収益は伸びない。
今後の分かれ目
- 日銀が短期金利を2%へ計画より速く引き上げたら
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。決算で、貸出利息の増加が預金利息の増加を上回り続けているかを確認する。
- 県内の預金金利の引き上げ競争が激化し、資金利益が減ったら
- やや悲観・悲観に重みを移す。預金残高と定期預金の積み上がり方、東北銀行・北日本銀行の預金金利を見る。
- 3行統合の統合比率と費用削減の目標が示されたら
- 削減額が大きく、岩手銀行の持ち分が保たれるなら、楽観側の確率を上げる。逆に持ち分が大きく薄まる比率なら、価値の見積りを下げる。
- 統合協議が破談になったら
- 単独でのROE改善に戻るため、中立の費用の削減を弱める。ただし破談の理由が岩手銀行側の事情かどうかも見る。
- 県内シェアが50%を超えるペースで伸びたら
- 値決め力が上がる材料として、quality の見直しと楽観側の確率の引き上げを検討する。
- 与信費用が計画を超えて増え、不良債権比率が上がったら
- 悲観側の確率を上げる。業種別の延滞と、債券の評価損の動きを併せて確認する。
見ておくもの
- 日銀の政策金利と、貸出利息・預金利息の増減(資金利益の推移)
- 県内の貸出シェア(目標50%)と、メインバンク比率(目標50%)
- 3行統合の統合比率・役員構成・費用削減の目標
- 連結ROE(2028年度目標6%以上)と、単体OHRの推移
- 与信費用の水準と、債券・政策保有株の損益
- 大和証券との協業による預かり資産残高の伸び
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価を見ずに決めた。k は 7.5% に quality +0.75% を足した 8.25%、g は 4.0%。10年後の中立は、ROEが7%台で k 以下なので PER は 1÷k の12.1倍までが上限で、その8.5割の10.3倍。やや楽観は ROE が k に近く上限の9割、楽観は ROE が9%台で正当化 PER(約13倍)の9割に置いた。やや悲観・悲観は ROE が k を大きく下回る構造的な負けとして、稼ぐ力の弱さから9.0倍・8.8倍に置いた(悲観は ROE÷k に比例して目減りさせ、やや悲観より低い 8.8 倍。時価総額は稼ぐ力÷k=約420億円の内側)。過去のPBR(0.17〜0.6倍)や今の倍率、同業の倍率は根拠にしていない。今のPERは約18倍、PBRは0.8倍だが、10年後の中立の倍率は動かしていない。k を1%上げて9.25%にすると、PER の上限は1÷k=10.8倍に下がり、その8.5割で9.2倍になる。銀行は店舗を借りて営むが、リースの影響は軽く、新リース会計の形の変化は10年後の数字に入れていない。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に quality +0.75% を足して k 8.25%(決まり v2)。地方銀行どうしで同じ物差しを使い、岩手の人口減の速さを寿命に、シェアの高さを値決め力に入れた。個別のリスク(統合の実行など)は k に足さず、確率で表した。事業は傾いていないので上乗せ(extra)は0。