結論
西日本フィナンシャルホールディングスは、福岡県を地盤とする地方銀行グループである。中核の西日本シティ銀行は県内の貸出で 2 位、首位の福岡銀行を追う立場が長い。結論は「やや割高」だ。金利のある世界で稼ぐ力は戻っているが、株価はその回復をかなり織り込んでいる。
稼ぎの源は貸出の利ざやである。2026 年 3 月期の純利益は 401 億円と過去最高になった。貸出金利回りが上がるのに、預金に払う利率の上がり方は緩く、預貸ざやは約 1.03% まで広がった。新しい中期経営計画は、2029 年 3 月期に純利益 600 億円、ROE 9% 程度を掲げる。筆者は、この計画はほぼ達成されると見る。
弱みもはっきりしている。福岡では福岡銀行が強く、メガバンクやネット銀行も入ってくる。預金に競争が及べば、ざやの広がりは見込みより小さくなる。ざやの広がりは、同業の標準より小さいとみる。自己資本比率は総資産比で 4.5% と薄く、債券の評価損にも弱い。
中立の 10 年後は、純利益 810 億円、ROE 8.5% である。割安と言えるのは、計画どおりに進んだ時だけで、厚い安全域はない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「良くなりつつある普通の銀行」だ。持ち続けたいほどの強い堀はない。ただ、福岡という成長の続く土地で 2 位の地位を持ち、利ざやが追い風になっている。
筆者が見るのは、株主に残る利益の質である。銀行は貸出を増やせば資本が要る。純利益のうち、成長に必要な資本を除いた分が本当の配当原資だ。西日本シティの自己資本比率は薄く、成長に回せる余裕は大きくない。還元性向 40% 程度は、この制約の中での現実的な線だと見る。
もう 1 つは、安全域である。今の PER は 16 倍、PBR は 1 倍をわずかに超える。計画が達成されれば、PER は 11 倍まで下がる。つまり、計画どおりに進んで初めて割安と呼べる値段だ。計画が崩れた場合の下値は PBR 0.4 倍台まで見ておく必要がある。
10 年後も事業は残り、いまより稼ぐ力は強いと考える。ただし堀は広がらない。本質価値は今の値段をやや下回る(−16.0%)。大きな安全域を求める人向けではない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの土台は、福岡県内の貸出と預金だ。西日本シティ銀行と長崎銀行を傘下に持ち、貸出金は 10 兆 2 千億円、預金は 10 兆 9 千億円に達する。与信の約 8 割が福岡県向けで、地域の景気がそのまま業績になる。
事業は大きく 4 つに分けて見られる。第 1 は法人向け貸出で、福岡市・北九州市を中心に中堅・中小企業と地方公共団体に貸す。第 2 は個人向けで、住宅ローンが中心だ。新計画は個人ローン残高 2.8 兆円を目標にしている。第 3 は預金で集めた余りを回す有価証券運用で、残高は 1.9 兆円ある。第 4 は預かり資産の販売、決済、カード、証券などの手数料事業だ。九州カードや西日本シティ TT 証券がここを担う。
グループには、2022 年に資本・業務提携した九州リースサービスもある。リースや信用保証を取り込み、貸出以外の稼ぎを増やす狙いだ。非銀行のグループ会社が利益に寄与する額は、新計画で 55 億円を見込んでいる。
本店機能は博多駅前にあり、新計画では駅前の複合ビルを使った地域振興を柱の 1 つに置く。従業員は連結で約 4,250 人、うち銀行は約 3,270 人である。
優良さと弱いところ
この会社の堀、つまり他社がまねしにくい強みは、福岡県の法人取引の厚みである。県内の貸出シェアは 2 割弱で、福岡銀行に次ぐ 2 位にいる。人口が増える福岡市に店と顧客を持つことが、地方銀行の中では恵まれた点だ。
ただし、その堀は広くない。シェアで首位に届かず、価格を決める力は福岡銀行より弱い。2004 年の合併後は重複店舗の整理に長く追われ、攻めに出るのが遅れた。資本効率を示す ROE は 2017 年以降 3〜6% 台で、資本コストを下回り続けてきた。
改善の兆しは数字に出ている。2026 年 3 月期は預貸ざやが約 0.1 ポイント広がり、純利益は 3 割伸びた。新計画は経費率を 60% から 50% 台前半へ下げるとしている。生成 AI で年間 20 万時間を減らす計画も、人件費が物価で上がる中では大事な対策だ。
筆者が気にする弱点は 3 つある。自己資本比率は総資産比で 4.5% と薄い。有価証券の評価損は資本を直接削る。政策保有株の上場分は約 990 億円あり、株価次第で純資産が動く。規制上の自己資本比率は 11.4% で、新計画はこれを 10% 台前半に保つ前提だ。貸出を伸ばせば、資本の余裕は少しずつ減る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
地方銀行は、30 年ぶりの金利のある世界に入った。短期金利が 2% へ向かえば、変動金利の貸出は先に上がり、預金金利は遅れて付いてくる。この時間差が、預貸ざやの広がりと利益の増加を生む。西日本シティ銀行も、2026 年 3 月期に貸出利回りが 0.25 ポイント上がり、預金利回りは 0.14 ポイントしか上がらなかった。
福岡の競争は、全国でも特に激しい。福岡銀行を中核とするふくおかフィナンシャルグループは、県内の貸出シェアで 25% 台と首位を占める。西日本シティ銀行は 18% 前後で、差は大きい。そこへメガバンクやネット銀行も預金を取りにくる。預金の獲得競争が強まれば、預金ベータ、つまり政策金利の上げに預金金利が付いていく割合が高くなる。
九州では再編も進んでいる。肥後銀行と鹿児島銀行は九州フィナンシャルグループになり、長崎では十八銀行と親和銀行が合流した。福岡県内の地銀は、福岡銀行と西日本シティ銀行の 2 強がなお変わらない。西日本シティ銀行は、規模の差を埋める道として、提携や統合の選択肢を残している。
業界の数量は、貸出と預かり資産の残高である。地元の人口が減る地域が多い中、福岡県は人の流入が続き、貸出の伸びは全国の地銀より高めに置ける。それでも名目の伸びは年 3% 台で、利益を押し上げる主役は残高よりざやだ。
資本政策と M&A
還元は、配当性向 40% 程度を目安とする。26 年 3 月期の配当性向は 41% だった。新計画は、機動的な自己株式取得も行うとする。ただし 26 年 3 月期の自社株買いはごくわずかで、実際の柱は配当である。
資本を厚くする道は 2 つある。1 つは政策保有株の圧縮だ。上場株式は約 600 銘柄、約 990 億円あり、毎年の検証で改善が見られないものは縮減する方針を掲げる。もう 1 つは利益の積み上げで、規制上の自己資本比率を 10% 台前半に保つ。
M&A は大型のものがなく、2022 年の九州リースサービスとの提携が目立つ程度だ。成長投資は 3 年で 170 億円を見込み、中心はシステムと店舗の再編である。
統合の可能性は消えない。九州では再編が進み、規模で劣る銀行の選択肢は限られてくる。kabufu の推計では、10 年以内に買収や TOB に至る確率は 13% 前後だ。西日本シティ銀行が買う側になる場合は、のれんと統合費用が資本を削る点が心配になる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
金利のある世界の恩恵は、まだ半分も出ていない。26 年 3 月期の貸出利回りは 1.23% だが、短期金利が 2% へ向かえば、変動金利の貸出はさらに上がる。預金に付いていく割合を 4 割とすれば、ざやは 10 年かけて広がり続ける。
福岡は人が増える街だ。県内の貸出は全国の地銀より高く伸び、2 位の西日本シティ銀行にもシェアを取る余地がある。博多駅前の新本店ビルを使った再開発や、One to One 型の提案営業で、法人・個人とも関係を深める。
経費率は 60% から 50% 台前半へ下がる計画で、生成 AI や店舗再編が効けば人件費の増加を吸収できる。政策保有株の売却で資本が厚くなり、自社株買いも出せる。中計の 600 億円は通過点で、ROE は 10% 超へ進む。九州で再編が起きれば、統合効果も上乗せになる。
もう 1 つ見逃せないのは、今の水準の低さだ。ROE が 9% を超えれば、市場は PER を 14 倍台に置き直す余地がある。計画の達成と同時に倍率も上がれば、株価は二重に報われる。福岡という成長市場で 2 位に付ける銀行が、地方銀行の平均に甘んじる理由は乏しい。
慎重な見方
広がったざやは、いつまでも続かない。福岡では福岡銀行が首位に立ち、メガバンクやネット銀行も預金を取りにくる。預金の金利は、貸出より遅れて、しかし確実に上がる。26 年 3 月期に 0.06% から 0.20% へ上がった預金利回りは、まだ途中だ。
自己資本比率は総資産比で 4.5% と薄い。有価証券 1.9 兆円に金利上昇の評価損が出れば、資本が削られる。与信費用は 75 億円と歴史的な低さで、景気が悪くなれば数倍に増えうる。
過去を振り返ると、ROE は 2017 年以降ずっと資本コストを下回ってきた。新計画の 600 億円は、純利益が 5 割増えるという強気の前提だ。福岡銀行に差をつけられた構図は、この 10 年変わっていない。今の PER 16 倍は、その計画をほぼ織り込んでいる。計画が少し遅れるだけで、株価は割高に変わる。
さらに、利ざやで稼ぐ銀行は、金利が下がる局面に弱い。日銀が利上げを止めたり戻したりすれば、追い風は止まる。残るのは薄い自己資本と、首位に届かない競争上の位置だけになる。
どちらに重みを置いたか
楽観の主張には根拠がある。ざやの追い風は本物で、福岡という市場にも恵まれている。ただ、慎重な見方が突く競争と資本の薄さも現実の弱点だ。
そこで、確率はやや慎重な側に寄せた。10 年では、楽観・やや楽観を合わせて 34%、やや悲観・悲観を合わせて 36% とした。結果はやや割高で、計画の達成を織り込んだ値段に安全域はない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 6,327 円8,813 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,828 円2,547 億円)。 今の値に割り戻すと 4,094 円5,702 億円、今との差 −5.8%、 期待の年率 +6.5%(資本コスト 8.3%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 9,563 円1.33 兆円 | 2,415 円3,363 億円 | +175.5% | +10.7% | 1,198 円1,668 億円 |
| やや楽観 | 24% | 8,284 円1.15 兆円 | 2,172 円3,025 億円 | +140.5% | +9.2% | 2,509 円3,495 億円 |
| 中立 | 30% | 7,159 円9,971 億円 | 1,956 円2,725 億円 | +109.6% | +7.7% | 2,735 円3,809 億円 |
| やや悲観 | 23% | 4,386 円6,110 億円 | 1,553 円2,163 億円 | +36.6% | +3.2% | 1,366 円1,903 億円 |
| 悲観 | 13% | 1,741 円2,425 億円 | 935 円1,302 億円 | −38.5% | −4.7% | 348 円485 億円 |
| 加重平均 | 100% | 6,327 円8,813 億円 | 1,828 円2,547 億円 | +87.6% | +6.5% | 8,156 円1.14 兆円 |
今の株価時価総額 4,348 円6,056 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 10% 福岡の成長と提携が結実する 10 年 利益 1,000 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 9,563 円1.33 兆円
福岡の成長と提携戦略がともに実り、規模の差を縮める 10 年になる。福岡市の人口と法人が増え続け、貸出は年 3.8% 前後で伸びる。短期 2%・長期 3% の金利が定着し、預貸ざやは今より 0.4 ポイント近く広がる。
預かり資産は新 NISA と相続の波に乗り、残高が 1.7 倍に増える。手数料収入が貸出の収益を補い、経費率は 40% 台前半まで下がる。システムを他の地銀と共同化して、固定費も抑える。
九州での再編や業務提携で、福岡県外にも貸出の裾野を広げる。純利益は 1,000 億円、ROE は 10% を超え、PBR は 1.5 倍台へ上がる。福岡銀行を追う 2 位から、利益水準では並ぶ位置へ進む。
- 法人貸出:数量 11.2(法人・公共向け貸出残高(兆円))× 価格 1.6%(貸出利ざや(%、預金コストを引いた後))→ 売上 1,776 億円・営業利益 840 億円。残高 11.24 兆円 × 率 1.58%、利益率 47%
- 個人貸出:数量 3.5(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.3%(貸出利ざや(%、預金コストを引いた後))→ 売上 455 億円・営業利益 153 億円。残高 3.45 兆円 × 率 1.32%、利益率 34%
- 有価証券・資金運用:数量 2.7(有価証券残高(兆円))× 価格 1.1%(運用の純ざや(運用利回り − 調達コスト、%))→ 売上 283 億円・営業利益 227 億円。残高 2.70 兆円 × 率 1.05%、利益率 80%
- 預かり資産・手数料事業:数量 2.4(預かり資産残高(兆円))× 価格 1.9%(役務利益 ÷ 預かり資産残高(%))→ 売上 452 億円・営業利益 209 億円。残高 2.38 兆円 × 率 1.90%、利益率 46%
倍率:事業の純利益 1,000 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.2% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍。全体の PER 13.32 倍、時価総額 13,320 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:福岡の成長と提携で規模の差が縮み、利ざやが長く高く保たれるという、最も良い形。堀が広がる 10 年を想定するため、確率は 1 割にとどめた。
やや楽観 24% 利ざやの高止まりと資産運用で安定成長 利益 900 億円 · PER 12.8 倍 · 株価時価総額 8,284 円1.15 兆円
利ざやの高止まりと資産運用が支える安定成長の 10 年だ。預貸ざやは今より 0.3 ポイント近く広く、貸出も年 3.6% 前後で伸びる。福岡の需要に加え、個人ローンの深掘りが効く。
預かり資産は 10 年で 1.6 倍に増え、手数料収入が全体の稼ぎの 1 割台半ばを占める。経費は物価で上がるものの、デジタル化と店舗の再編で経費率は 40% 台後半に下がる。与信費用は景気の 1〜2 回の波を経て、平均的な水準に収まる。
純利益は 900 億円、ROE は 9.3% に達する。資本コストを 2 ポイントほど上回る水準で、PER も 14 倍台半ばが保たれる。福岡で 2 位の地位は変わらないが、利益の質が上がったと評価される。
- 法人貸出:数量 10.9(法人・公共向け貸出残高(兆円))× 価格 1.5%(貸出利ざや(%、預金コストを引いた後))→ 売上 1,629 億円・営業利益 753 億円。残高 10.93 兆円 × 率 1.49%、利益率 46%
- 個人貸出:数量 3.4(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.2%(貸出利ざや(%、預金コストを引いた後))→ 売上 418 億円・営業利益 135 億円。残高 3.38 兆円 × 率 1.24%、利益率 32%
- 有価証券・資金運用:数量 2.6(有価証券残高(兆円))× 価格 1.0%(運用の純ざや(運用利回り − 調達コスト、%))→ 売上 257 億円・営業利益 203 億円。残高 2.62 兆円 × 率 0.98%、利益率 79%
- 預かり資産・手数料事業:数量 2.3(預かり資産残高(兆円))× 価格 1.8%(役務利益 ÷ 預かり資産残高(%))→ 売上 417 億円・営業利益 193 億円。残高 2.27 兆円 × 率 1.84%、利益率 46%
倍率:事業の純利益 900 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.3% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.8 倍。全体の PER 12.82 倍、時価総額 11,538 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:ざやの追い風と手数料事業の育成が両立する形。福岡の経済力を考えれば十分ありうるので、4 分の 1 弱を置いた。
中立 30% 中立:金利は定着し福岡 2 位の地位が続く 利益 810 億円 · PER 12.3 倍 · 株価時価総額 7,159 円9,971 億円
短期 2%・長期 3% の金利が定着し、福岡で 2 位の地位を保つ 10 年だ。預貸ざやは今より 0.2 ポイント前後広がったところで落ち着く。福岡銀行やネット銀行との預金競争で、ざやの広がりは同業の標準より小さい。
貸出は法人が年 3.3%、個人が年 2.8% で伸びる。預かり資産は年 4.5% で増える。経費は物価並みに上がるが、システム共通化と AI で経費率は 40% 台後半に下がる。与信費用は景気の波をならした水準の年 150 億円ほどだ。
純利益は 810 億円、ROE は 8.5%。資本コストを 1.4 ポイント上回る程度で、突出した稼ぐ力はない。再編や大型の M&A は起こらず、単独で歩む。福岡の経済力に支えられた、無理のない着実な 10 年だ。
- 法人貸出:数量 10.6(法人・公共向け貸出残高(兆円))× 価格 1.4%(貸出利ざや(%、預金コストを引いた後))→ 売上 1,491 億円・営業利益 687 億円。残高 10.65 兆円 × 率 1.40%、利益率 46%
- 個人貸出:数量 3.3(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.2%(貸出利ざや(%、預金コストを引いた後))→ 売上 382 億円・営業利益 120 億円。残高 3.29 兆円 × 率 1.16%、利益率 32%
- 有価証券・資金運用:数量 2.5(有価証券残高(兆円))× 価格 0.9%(運用の純ざや(運用利回り − 調達コスト、%))→ 売上 229 億円・営業利益 179 億円。残高 2.55 兆円 × 率 0.90%、利益率 78%
- 預かり資産・手数料事業:数量 2.2(預かり資産残高(兆円))× 価格 1.8%(役務利益 ÷ 預かり資産残高(%))→ 売上 386 億円・営業利益 178 億円。残高 2.17 兆円 × 率 1.78%、利益率 46%
倍率:事業の純利益 810 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.5% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.3 倍。全体の PER 12.31 倍、時価総額 9,971 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:短期 2%・長期 3% の定着と、与信費用の平均化を前提にした中心の姿。福岡の競争は構造的に続くため、特別な上振れも下振れも置かない。
やや悲観 23% 預金競争でざやが縮み、経費が重い 利益 560 億円 · PER 10.9 倍 · 株価時価総額 4,386 円6,110 億円
預金競争で利ざやが縮み、経費の重さが残る 10 年だ。福岡でネット銀行や他行が預金を取りにくる。預金金利は貸出より速く上がり、ざやは今の水準から 0.1 ポイント程度しか広がらない。
貸出の伸びは年 2% 弱に落ち、与信費用は景気の悪化を 1 度挟んで年 200 億円近くに増える。人件費は物価で上がり、システム更新の費用も重い。経費率の改善は 50% 台後半で止まる。
純利益は 560 億円、ROE は 6.4% と資本コストを下回る。『計画の 600 億円が天井だった』と見られ、PBR は 0.75 倍に落ち着く。破綻はせず配当も続くが、成長の物語は終わる。
- 法人貸出:数量 9.2(法人・公共向け貸出残高(兆円))× 価格 1.3%(貸出利ざや(%、預金コストを引いた後))→ 売上 1,183 億円・営業利益 470 億円。残高 9.24 兆円 × 率 1.28%、利益率 40%
- 個人貸出:数量 2.9(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.1%(貸出利ざや(%、預金コストを引いた後))→ 売上 302 億円・営業利益 78 億円。残高 2.85 兆円 × 率 1.06%、利益率 26%
- 有価証券・資金運用:数量 2.3(有価証券残高(兆円))× 価格 0.8%(運用の純ざや(運用利回り − 調達コスト、%))→ 売上 187 億円・営業利益 138 億円。残高 2.28 兆円 × 率 0.82%、利益率 74%
- 預かり資産・手数料事業:数量 1.8(預かり資産残高(兆円))× 価格 1.7%(役務利益 ÷ 預かり資産残高(%))→ 売上 309 億円・営業利益 126 億円。残高 1.82 兆円 × 率 1.70%、利益率 41%
倍率:10年後のROE6.4%(純利益560億円÷自己資本8,812億円)。ROEはk8.25%以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、PERは1÷k=12.1倍までが上限。筋書きは「預金競争でざやが縮み、経費が重い」。上限の9.0割に置き、10.91倍。還元を会社の方針(45%)に合わせたため自己資本が厚くなった。
確率:ROE が長く資本コストを下回ってきた過去があり、福岡では強い首位が存在する。この形になる確率は 4 分の 1 弱と見て、やや悲観を厚めにした。
悲観 13% 構造的に負け、福岡 2 位の地位も揺らぐ 利益 250 億円 · PER 9.7 倍 · 株価時価総額 1,741 円2,425 億円
構造的に負け、福岡 2 位の地位も揺らぐ 10 年だ。ネット銀行と大手が預金と若年層の取引を奪い、西日本シティ銀行は預金金利の引き上げで収益を削られる。福岡銀行との差は広がり、法人取引でも劣勢になる。
貸出は伸びず、金利の追い風も預金コストに食われる。システム投資に多額を使っても効果が出ず、経費率は 60% 近くに張り付く。景気の悪化も重なり、与信費用は急増する。九州で再編が進む中、統合の交渉でも弱い立場に置かれる。
純利益は 250 億円、ROE は 3% 台。優良な地銀とは言えなくなり、PBR は 0.42 倍まで下がる。ただし政策保有株の含み益と資本規制の厚みが、さらなる下落を防ぐ。
- 法人貸出:数量 7.7(法人・公共向け貸出残高(兆円))× 価格 1.0%(貸出利ざや(%、預金コストを引いた後))→ 売上 732 億円・営業利益 213 億円。残高 7.70 兆円 × 率 0.95%、利益率 29%
- 個人貸出:数量 2.5(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 0.8%(貸出利ざや(%、預金コストを引いた後))→ 売上 196 億円・営業利益 21 億円。残高 2.45 兆円 × 率 0.80%、利益率 11%
- 有価証券・資金運用:数量 2.0(有価証券残高(兆円))× 価格 0.6%(運用の純ざや(運用利回り − 調達コスト、%))→ 売上 120 億円・営業利益 78 億円。残高 2.00 兆円 × 率 0.60%、利益率 65%
- 預かり資産・手数料事業:数量 1.4(預かり資産残高(兆円))× 価格 1.4%(役務利益 ÷ 預かり資産残高(%))→ 売上 196 億円・営業利益 67 億円。残高 1.40 兆円 × 率 1.40%、利益率 34%
倍率:10年後のROE3.4%(純利益250億円÷自己資本7,400億円)は k8.25% 以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、PERは1÷k=12.1倍までが上限。筋書きは「構造的に負け、福岡 2 位の地位も揺らぐ」。上限の8割に置き、9.70倍。今の自己資本6,169億円に対する倍率は0.39倍。稼ぐ力から出した値で、自己資本の何割という置き方はしていない。
確率:構造的に負ける姿として、10 年では 1 割強を置いた。福岡の競争と資本の薄さを考え、同業の標準よりやや厚めにしている。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
法人貸出
福岡県を中心とする中堅・中小企業・地方公共団体向けの貸出。西日本シティ銀行と長崎銀行の事業性融資。
| 数量法人・公共向け貸出残高(兆円) | 価格貸出利ざや(%、預金コストを引いた後) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 7.7 | 1.2% | 924 | 333 |
| 10 年後 中立 | 10.6 | 1.4% | 1,491 | 687 |
取り方:貸出金 10.24 兆円(2026/03 末)のうち、個人ローン約 2.5 兆円(新計画の目標 2.8 兆円から逆算した筆者の推定)を除いた約 7.7 兆円を法人・公共向けとした。利ざやは、貸出金利回り 1.23%(国内 1.21%)から預金・調達コストを引いた実質で 1.20% と置いた(資金利益 約 1,302 億円から有価証券の分を除いた合計に合わせた推定)。同領域の標準(預金ベータ 40%、3 年 +0.27%・10 年 +0.45%)より広がり幅を小さく置く:2026/03 期に預貸ざやが約 0.1 ポイント既に広がり、福岡は預金競争が強いため。残高はお金の量で名目 3.3%(物価 3% + 福岡の実質成長)で伸びる。 【2026-10-19 確認】数量は名目、率は物価を掛けていない(率は金利・手数料などの事業の理由でだけ動かす)。
個人貸出
住宅ローンを中心とする個人向け貸出。新計画で個人ローン残高 2.8 兆円を目標にする。
| 数量個人向け貸出残高(兆円) | 価格貸出利ざや(%、預金コストを引いた後) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.5 | 1.0% | 250 | 60 |
| 10 年後 中立 | 3.3 | 1.2% | 382 | 120 |
取り方:個人向けを約 2.5 兆円(新計画の 2029 年目標 2.8 兆円から逆算した推定)、利ざやを住宅ローン中心で 1.0% と置いた。法人より薄く、経費もかかるので利益率は低い。残高は名目 2.8%(物価 3% + 実質 0%、福岡の人口増と全国の人口減の差を含む)で伸ばす。ざやの広がり幅は同領域の標準(3 年 +0.24%・10 年 +0.40%)より小さく、3 年 +0.12%・10 年 +0.16% と置く(法人と同じ理由)。 【2026-10-19 確認】数量は名目、率は物価を掛けていない(率は金利・手数料などの事業の理由でだけ動かす)。
有価証券・資金運用
預金の余りを国債・債券・株式・投信で回す運用と、日銀預け金などの資金運用。
| 数量有価証券残高(兆円) | 価格運用の純ざや(運用利回り − 調達コスト、%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.9 | 0.7% | 127 | 100 |
| 10 年後 中立 | 2.5 | 0.9% | 229 | 179 |
取り方:有価証券 1.91 兆円(2026/03 末)に、運用利回りから調達コストを引いた純ざや 0.67% を掛けた。資金利益 約 1,302 億円のうち貸出の分を除いた残りで合わせた(有価証券利息配当金 約 391 億円から預金・借用金のコストを引いた実質)。残高は預金の伸びに合わせて名目 3%。再投資利回りが上がるので純ざやは 10 年で 0.90% へ。 【2026-10-19 確認】数量は名目、率は物価を掛けていない(率は金利・手数料などの事業の理由でだけ動かす)。
預かり資産・手数料事業
投資信託・保険の販売、決済、カード、証券などグループ会社の手数料収入。
| 数量預かり資産残高(兆円) | 価格役務利益 ÷ 預かり資産残高(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.4 | 1.9% | 266 | 116 |
| 10 年後 中立 | 2.2 | 1.8% | 386 | 178 |
取り方:役務収益 403 億円から役務費用を引いた純額を約 266 億円と置き、預かり資産 1.4 兆円(新計画の 2029 年目標 1.9 兆円から逆算した筆者の推定)で割った実効率 1.9% とした。カード・決済・証券・信託など預かり資産以外の手数料も同じ率に入れている。預かり資産は名目で年 4.5%(物価 3% + 新 NISA・相続の資産形成)で伸び、実効率は競争で少しずつ下がる。 【2026-10-19 確認】数量は名目、率は物価を掛けていない(率は金利・手数料などの事業の理由でだけ動かす)。
リスクと懸念
預金競争でざやが伸びない
福岡は金利に敏感な預金者が多く、福岡銀行やメガバンク、ネット銀行が預金を取りにくる。預金金利の上がり方が貸出より速くなれば、26 年 3 月期に約 1.03% まで広がった預貸ざやは頭打ちになる。この会社の利益増の大半はざやで、そこが崩れると計画の 600 億円は遠くなる。
与信費用の正常化
与信費用は 26 年 3 月期で 75 億円と、歴史的な低水準にある。福岡県向けが総与信の約 8 割を占めるので、地元の景気が悪くなれば影響は集中する。金利が上がる過程では、借り手の中小企業の利払いも増える。平時の水準に戻るだけでも年 100 億円を超える。
自己資本の薄さと債券の評価損
自己資本比率は総資産比で 4.5% と薄く、同業の中央値の 5.0% を下回る。有価証券は 1.9 兆円あり、金利が上がるほど債券の評価損は資本を直接削る。規制上の比率は 11% 台に収まるが、新計画はこれを 10% 台前半に保つ前提で、貸出の増加に資本の伸びが追いつかない場面がありうる。
福岡銀行との差が埋まらない
福岡県の貸出シェアは、福岡銀行が 25% 台、西日本シティ銀行が 18% 前後と見られ、差は長く動いていない。2004 年の合併後の整理に時間を取られ、攻めが遅れた経緯がある。新計画の One to One 型の提案営業が効かなければ、2 位のまま収益力で水をあけられる。
計画の達成が遅れる
新計画は純利益を 3 年で 5 割増やす強気の前提で、経費率も 60% から 50% 台前半へ下げる。システム投資を約 2 倍にし、サイバー要員も 2 倍強に増やすので、費用が先に出る。人件費は物価で上がり、効果が遅れれば経費率の改善は計画どおりに進まない。
政策保有株の価格変動
上場の政策保有株は約 600 銘柄、約 990 億円ある。毎年の検証で縮減する方針だが、株価が大きく下がれば純資産が目減りする。売却で出る益は一時的で、利益の質としては低い。計画の 600 億円にも、売却益の上乗せが入っている点に注意が要る。
再編に乗り遅れる
九州では肥後銀行と鹿児島銀行、十八銀行と親和銀行が合流した。福岡で 2 強の一角を占めるが、全国では中位にとどまる。規模の経済で劣る状態が続けば、システム投資の負担が重くなる。統合の話が出ても、条件で弱い立場に置かれる可能性がある。
今後の分かれ目
- 日銀が短期金利を 2% へ向けて計画より速く上げたら
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。貸出利回りが先に上がり、預金金利が遅れる時間差で預貸ざやが広がる。決算で預貸ざやの広がり幅を確認する。
- 預金利回りの上昇が貸出利回りの上昇を上回り、預貸ざやが縮んだら
- やや悲観の確率を上げる。福岡の預金競争が想定より強いということで、中計の 600 億円と ROE 9% は届きにくい。
- 与信費用が 150 億円を超え、福岡の中小企業の倒産が増えたら
- 景気の谷に入る合図。悲観の確率を上げ、債券の評価損と合わせて自己資本の減り方を点検する。
- 中計の 2 年目(2028 年 3 月期)に純利益が 550 億円を超え、経費率が 50% 台に入ったら
- 計画の達成確度が上がる。中立の確率を厚くし、やや楽観へ寄せる。
- 九州の他の地銀や福岡の企業との統合・提携が報じられたら
- 規模の差を埋める動きなので、条件次第で見方が変わる。のれんや株式交換での持ち分の希薄化がないかを必ず確認する。
- 政策保有株の縮減が進み、自社株買いが出たら
- 資本の質と 1 株の価値が上がる。ただし自己資本比率が薄い点は変わらないので、還元は 40% 台にとどまるとみる。
見ておくもの
- 預貸ざや(貸出利回り − 預金利回り)の四半期ごとの推移
- 与信費用と福岡県内の企業倒産件数
- 有価証券の評価損益と自己資本比率(国内基準・最終化ベース)
- 預かり資産残高と個人ローン残高(新計画の 1.9 兆円・2.8 兆円)
- 経費率(OHR)と経費の伸び(目標は 50% 台前半)
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価を見ずに決めた。楽観・やや楽観・中立は10年後のROEとk 8.25%(基本7.5%+quality +0.75%)・g 4.0%から利益ベースの正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)の上限を出し、その9.5・9・9.1割に置いた(下限は1÷k=12.1倍)。やや悲観・悲観はROEがk(8.25%)以下なので、PERは1÷k=12.1倍が上限で、その9・8割に置いた。悲観の利益は貸出の利ざやが競争で縮み与信費用が重い構造から、自己資本に対するROE約3%に置き、過去の底値や今の倍率は根拠にしていない。kが1%高い(9.25%)と10年の中立のPERは11.1倍から9.8倍に下がる。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.65→13.32 倍・やや楽観 PER 11.54→12.82 倍・中立 PER 11.14→12.31 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β 0.79 × 5% + 規模 0.50%。基本7.5%に quality +0.75% を足して k 8.25%(決まり v2。β・規模は使わない。内訳と理由は quality_why)。銀行は預金が仕入れなので利払いの式は当てはめず、利ざやで扱う。個別のリスク(福岡での競争と自己資本の薄さ)は k に足さず、確率と筋書きで表す。事業は傾いていないので上乗せ(extra)は 0。同じ地方銀行どうしで同じ物差しを使い、差は quality の4部品だけで出している。