結論
東邦銀行は、福島県の預金と貸出の3分の1強を握る県内首位の地方銀行である。県と30市町村の指定金融機関を務め、県内企業の4割がメインバンクに選んでいる。筆者の結論は、事業の質は悪くないが、金利上昇による利益の伸びをすでに織り込んだ値段だ、というものだ。
稼ぎの源は単純だ。預かった6兆円の預金を、貸出と国債で運用する。日銀が政策金利を0.75%から2%へ上げていけば、日銀に置いた現金や変動金利の貸出の利回りが先に上がり、預金金利は遅れて追う。この利ざやの拡大で、2026年3月期に123億円だった純利益は、10年後の中立で240億円ほどまで伸びると見る。
伸びを抑えるのは人口と費用である。福島県の人口は170万人を割り、2040年には140万人台まで減る見通しだ。貸出の量は名目でも年2%ほどしか増えない。経費は物価で毎年膨らみ、人への投資も続く。
利益が倍近くになっても、自己資本が積み上がるため10年後のROEは7%台前半にとどまり、資本コストの8.5%に届かない。ROEが資本コストを下回る会社では、ためた利益は額面を下回る価値しかない。ここが割高と見る一番の理由だ。
中期経営計画は2029年度に純利益170億円・ROE7%を掲げ、足元ですでに前倒しで達成した。上振れの余地はある。ただし県内再編の絵はまだ描き切れていない。筆者は、10年後の価値は今の時価総額を3割台半ばほど下回ると見る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、東邦銀行は事業としては安定しているが、持ち続けたい会社とまでは言えない。県内の預金とメインバンクを3分の1から4割押さえる堀は本物で、10年後も残る。だが堀が稼ぎの質まで保証するわけではない。
株主のものになる利益、つまり営業で稼ぐ利益から資本の積み増しに回る分を引いた残りで見ると、銀行は不利である。稼いだ利益の大半は規制上の自己資本として積み上げる必要があり、配当に回せる分は限られる。10年で利益が倍になっても、自己資本も5割ほど増えて、ROEは7%台前半で止まる。
資本の使い方は評価が分かれる。配当性向40%への引き上げは前進だが、自己株買いがない。政策保有株の縮減で資金を捻出できても、その使い道が貸出と債券では収益性が低い。
安全域の観点でも、今の値段は物足りない。金利上昇の利益倍増が株価にすでに織り込まれているなら、10年後に利益が計画どおり出ても、買い手の取り分は資本コスト並みにすぎない。
県内で勝ち続ける力は評価する。しかし、人口が減る県で、ROEが資本コストに届かない銀行を、安全域なしで持つ理由は薄い。値段が3割半ば下がるまでは、観察の対象にとどめる。
何で稼ぐ会社か
東邦銀行は1941年創立の福島市の地方銀行で、持株会社を持たない単体の銀行である。総資産は6.7兆円、預金は6.2兆円、貸出は4.3兆円で、店舗は123、従業員は約2,000人を数える。県内の預金シェアは36%、貸出シェアは37%。帝国データバンクの調べで、県内企業のメインバンクとしての比率は4割に達する。
収益の柱は3つある。1つ目は事業性貸出と公共向け貸出。事業性貸出が約1.8兆円、県や市町村などへの公共貸出が約0.8兆円で、利ざやは薄い公共向けが残高を支える。2つ目は住宅ローンなどの個人貸出で、残高は約0.9兆円。3つ目は投資信託・保険・事業承継などの手数料で、預かり資産は1.25兆円と2年で倍増した。
貸出に使い切れない預金は、約1.3兆円の国債などと、日銀への預け金で運用する。預け金は約2兆円にのぼり、政策金利が上がるとそのまま利息が増える。預金が貸出より大きい銀行ほど、金利上昇の恩恵が大きい。
手数料の稼ぎ方は2025年10月に変わった。野村證券と包括提携し、約70人の出向者を受け入れて、県内7か所の専門拠点で預かり資産を売る体制に移った。福島復興の拠点づくりを担う国の研究機関(F-REI)とも連携協定を結び、地元企業の成長資金を取りにいく。
県内には競合として福島銀行と大東銀行がある。東邦銀行は2025年12月、大東銀行の株を2割近く取得した。県内の人口減少を前に、競合を保ちつつ連携する狙いと説明している。
優良さと弱いところ
最大の堀は、県内に張りめぐらせた拠点と指定金融機関の地位である。県内に80拠点を持ち、ATMは461台。県と30市町村の公金を扱うことで、給与振込口座は約40万件、年金口座は約17万件が手元に集まる。個人の決済口座を押さえている限り、預金は金利が上がっても逃げにくい。筆者はこの預金の粘りを、東邦銀行の財産と見る。
弱みは収益力の低さだ。2026年3月期のコア業務粗利益に対する経費の比率は約70%で、地銀の優等生には遠い。ROEは過去10年の中央値が3%にとどまり、資本コストを一度も上回っていない。利ざやが広がる局面でやっと5%台に乗った、というのが実力である。
財布の厚さにも注意がいる。自己資本比率は国内基準で11.7%と読める数字だが、簡易に見た自己資本の対総資産比は3%台と薄く、債券の評価損が自己資本を削りやすい。金利が上がる局面で評価損の残る債券を売り進める判断は、この脆さの裏返しでもある。
経営の規律は改善中だ。株主還元は配当性向30%の目安から2026年度以降は40%へ引き上げ、政策保有株式も連結純資産の10%未満へ縮める計画を掲げる。ただし自己株買いの方針はまだなく、資本を積み上げて利益率を薄める癖は残っている。県外へ打って出る戦略もなく、福島県の人口減少がそのまま事業の天井になる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
福島県の銀行業は、人口減少と金利上昇という逆向きの力が同時に働く市場だ。
県の人口は2026年7月で約170万人。2019年の県の推計では2040年に143万人前後まで減る。全国より速い減り方で、貸出の需要は物価の分しか伸びない。復興関連の資金需要は一巡し、F-REIや再生可能エネルギーの投資が新しい芽になるが、貸出全体を押し上げるほどの規模ではない。
一方、政策金利が2%へ向かえば、利ざやは構造的に広がる。短期の貸出は金利にすぐ連動し、預金の金利は遅れて追う。会社の説明でも、2025年度の資金利益は前年から77億円増えた。ただし預金は金利で動く性質が強まっており、預金の獲得競争で調達コストは上がり続ける。筆者は、利ざや拡大の取り分の4割ほどが預金金利に流れると置いた。
競争の形は県内3行である。東邦銀行が首位で、福島銀行と大東銀行が続く。2025年12月に東邦銀行が大東銀行の株を19.5%取得したが、大東銀行の経営陣は2026年5月に協議を否定した。県内統合の道筋は見えない。
全国では再編が加速し、2026年10月には東北でもプロクレアHD・岩手銀行・秋田銀行が統合協議に入った。再編先行組はシステム費を割り勘にして経費率を下げる。東邦銀行は単独で同じ効果を取れず、福島県内の1県3行の構図がしばらく続く点が重い。
資本政策と M&A
株主還元は2026年度から配当性向40%に引き上げた。2025年度の年間の配当総額は約42億円(配当性向34%)で、過去最高である。安定配当を基本とする銀行らしい方針で、自己株買いの方針はまだ示されていない。
資本政策の焦点は、積み上がる自己資本の使い道にある。PBR1倍に向けて取り組むと公言しているが、利益を倍にしても資本が同じ速さで増えればROEは上がらない。筆者は、還元の厚みこそ企業価値向上の分かれ目と見る。
M&Aは、大東銀行の株を2025年12月に19.5%取得した動きが目立つ。長期安定株主としての政策保有という位置づけで、支配権の取得は目的でない。ただ相手は話し合いを拒んでおり、持ち分は塩漬けになる可能性もある。
政策保有株式は連結純資産の10%未満にする目標である。2024年3月末は17.8%だった。売却で得た資金を貸出や債券、株主還元に回せば、資本効率は改善する。
東邦銀行自身が買収される確率は、kabufuの推計で10年以内17%とやや高め。時価総額が2,500億円台と小さく、ROEが低い県内首位行は、再編の受け皿にも対象にもなりうる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
金利が2%まで上がれば、日銀に預けた2兆円と変動金利の貸出が先に利息を稼ぎ、預金金利が遅れて追うため、利ざやは大きく広がる。会社は2025年度の純利益を前年の74億円から123億円へ押し上げ、2026年度目標を1年前倒しで達成した。計画の上方修正はこれで終わらず、会社自身が2029年度目標のさらなる引き上げを議論していると言う。
福島県の預金と貸出の36〜37%を握り、メインバンク比率は4割。県と30市町村の指定金融機関の地位は、他行がまねできない基盤である。野村證券との提携で預かり資産は1.25兆円と2年で倍増し、手数料収入の柱が育つ。
自己資本は薄く、配当性向を40%へ引き上げたことで、資本効率の改善にも前向きになった。政策保有株を連結純資産の10%未満へ縮めれば、さらに資金が浮く。県内再編が動けば、経費率の改善は一段と大きくなる。大東銀行の株を2割近く持つことは、その布石として読める。10年の間に利ざやの拡大が定着し、ROEが10%を超える姿は十分に描ける。
慎重な見方
ROEは過去10年で一度も資本コストを上回っていない。2026年3月期の5.7%は、金利が上がった追い風の結果にすぎず、その追い風は預金金利の追随で薄まっていく。預金の獲得競争が強まれば、取り分は思ったより小さくなる。
福島県の人口は2040年に140万人台まで減る。貸出の量は物価の分しか伸びず、競合の福島銀行・大東銀行との県内競争で利ざやを削る場面もある。大東銀行は2026年5月に協議を否定しており、県内再編の期待は空振りに終わる公算がある。
経費は物価と人への投資で毎年膨らむ。野村證券への出向者受け入れ、DX、賃上げ。コア業務粗利益に対する経費の比率は約70%で、金利上昇による利益増の多くが経費に吸い込まれる。債券は評価損を抱え、金利がさらに上がれば自己資本比率が一段と傷む。
株主還元は配当性向40%どまりで、自己株買いがない。利益の6割は社内に残り、自己資本は積み上がる。資本が増えればROEは上がらず、ためた利益は額面を下回る価値しかない。今の値段は、利益が倍になる前提ですでに売られている。
どちらに重みを置いたか
強気の言い分は筋が通るが、ROEが資本コストに届かないという一点で、慎重な見方が重い。利益が倍になっても、自己資本の積み上がりで倍率は上がらず、10年後の値段は今の時価総額に届かない公算が高い。
確率は慎重側に寄せた。楽観とやや楽観を合わせて3割台半ば、やや悲観と悲観を合わせても3割台半ばにとどめたのは、金利上昇の追い風が現実に数字に表れているからである。県内の人口減少と預金の獲得競争が悪い方向に出る筋書きの確率は、同領域の他行並みの1割強とした。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,018 円2,544 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 322 円804 億円)。 今の値に割り戻すと 664 円1,660 億円、今との差 −29.9%、 期待の年率 +3.5%(資本コスト 8.5%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 1,947 円4,867 億円 | 552 円1,380 億円 | +163.9% | +10.2% | 250 円625 億円 |
| やや楽観 | 24% | 1,476 円3,690 億円 | 472 円1,180 億円 | +105.7% | +7.5% | 468 円1,169 億円 |
| 中立 | 31% | 1,120 円2,799 億円 | 304 円759 億円 | +50.3% | +4.2% | 441 円1,103 億円 |
| やや悲観 | 22% | 449 円1,122 億円 | 202 円505 億円 | −31.3% | −3.7% | 143 円358 億円 |
| 悲観 | 13% | 177 円442 億円 | 112 円280 億円 | −69.5% | −11.2% | 38 円94 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,018 円2,544 億円 | 322 円804 億円 | +41.4% | +3.5% | 1,339 円3,348 億円 |
今の株価時価総額 947 円2,367 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 10% 楽観:利ざやの定着と県内再編の両取りでROE11%へ 利益 369 億円 · PER 13.2 倍 · 株価時価総額 1,947 円4,867 億円
短期金利2%が早めに定着し、預け金と変動金利の貸出の利回りが一気に上がる。預金は決済口座の粘りで金利の追随が緩やかで、利ざやは大きく広がる。野村證券との提携で預かり資産は3倍近くに育ち、手数料が柱になる。
大東銀行との連携が資本提携に進み、システムと店舗の統合で経費が下がる。県内の過当競争も和らぎ、貸出の利ざやを維持しやすくなる。政策保有株の縮減で出た資金を貸出と自社株買いに回し、資本の積み上がりを抑える。
福島復興の産業投資が貸出需要を押し上げ、県内の貸出は名目で年3%台半ばで伸びる。この道筋なら、ROEは11%台に乗る。
- 事業性・公共貸出:数量 3.7(事業性・公共貸出残高(兆円))× 価格 1.5%(貸出利ざや(%))→ 売上 562 億円・営業利益 309 億円。残高3.7兆円(名目)× 利ざや1.52%、利益率55%
- 個人貸出:数量 1.2(個人貸出残高(兆円))× 価格 1.5%(貸出利ざや(%))→ 売上 171 億円・営業利益 77 億円。残高1.18兆円(名目)× 利ざや1.45%、利益率45%
- 資産運用・役務:数量 2.9(預かり資産+法人ソリューション取扱高(兆円))× 価格 0.7%(実効手数料率(%))→ 売上 197 億円・営業利益 65 億円。残高2.9兆円(名目)× 手数料率0.68%、利益率33%
倍率:事業の純利益 369 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.2% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.2 倍。全体の PER 13.19 倍、時価総額 4,867 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:金利上昇が想定どおり進み、預金金利への取られ方も小さく、大東銀行との連携まで進む筋書き。同領域の楽観より少し低い1割とした。ROEが資本コストを一度も超えていない実績と、福島の人口減が重く、上振れを厚くは見ない。
やや楽観 24% やや楽観:中計の上方修正が続き、ROE9%台へ 利益 299 億円 · PER 12.3 倍 · 株価時価総額 1,476 円3,690 億円
短期金利2%が定着し、貸出の利ざやは広がるが、預金獲得競争で調達コストも上がる。野村證券との提携は計画どおり進み、預かり資産は2倍超の2.6兆円になる。
福島県内の貸出は名目で年2.5%ほど伸びる。住宅ローンは人口減で弱いが、事業性貸出と公共貸出が支える。経費は物価と賃上げで増えるが、DXの効果で経費率は60%台前半に下がる。
大東銀行との連携は協力にとどまり、統合の効果は出ない。それでも利益は10年で2.4倍になる。政策保有株の縮減で浮いた資金は貸出と自社株買いに振り向けられ、自己資本の積み上がりが抑えられるため、ROEは9%台に乗る。県内首位の顧客基盤が崩れず、預金の粘りが利ざやを守る、金利上昇の追い風を素直に受ける10年である。
- 事業性・公共貸出:数量 3.5(事業性・公共貸出残高(兆円))× 価格 1.4%(貸出利ざや(%))→ 売上 500 億円・営業利益 255 億円。残高3.5兆円(名目)× 利ざや1.42%、利益率51%
- 個人貸出:数量 1.1(個人貸出残高(兆円))× 価格 1.4%(貸出利ざや(%))→ 売上 150 億円・営業利益 61 億円。残高1.11兆円(名目)× 利ざや1.35%、利益率41%
- 資産運用・役務:数量 2.6(預かり資産+法人ソリューション取扱高(兆円))× 価格 0.6%(実効手数料率(%))→ 売上 166 億円・営業利益 51 億円。残高2.6兆円(名目)× 手数料率0.64%、利益率31%
倍率:事業の純利益 299 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.5% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.3 倍。全体の PER 12.34 倍、時価総額 3,690 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:金利が2%へ上がる基本の道筋で、経費の増加を利ざやが少し上回る。会社が2029年度目標のさらなる引き上げを議論しており、現実味がある。同領域のやや楽観とほぼ同じ確率。
中立 31% 中立:利ざや拡大は定着、人口減が天井になる10年 利益 238 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 1,120 円2,799 億円
短期金利2%が定着し、貸出の利ざやは今より0.4%前後広がる。預金は決済口座の粘りで金利の追随が緩やかだが、獲得競争で調達コストは上がり続ける。福島県の人口が140万人台へ向かう中、貸出の量は名目で年2%台前半にとどまる。
手数料の柱は野村證券との提携で育ち、預かり資産は2兆円台へ増える。県内の1県3行の構図は続き、大東銀行との連携は協力の段階で止まる。政策保有株の縮減は進むが、売却資金は貸出と債券に回り、収益の押し上げは小さい。
経費は物価に合わせて増え、経費率は60%台に下がる程度。利益は10年で2倍近くになるが、自己資本も5割ほど積み上がり、ROEは7%台前半で止まる。県内首位の地位は変わらないが、資本効率で突き抜けられない銀行のままである。
- 事業性・公共貸出:数量 3.4(事業性・公共貸出残高(兆円))× 価格 1.3%(貸出利ざや(%))→ 売上 436 億円・営業利益 205 億円。残高3.35兆円(名目)× 利ざや1.30%、利益率47%
- 個人貸出:数量 1.1(個人貸出残高(兆円))× 価格 1.3%(貸出利ざや(%))→ 売上 131 億円・営業利益 50 億円。残高1.05兆円(名目)× 利ざや1.25%、利益率38%
- 資産運用・役務:数量 2.4(預かり資産+法人ソリューション取扱高(兆円))× 価格 0.6%(実効手数料率(%))→ 売上 141 億円・営業利益 39 億円。残高2.35兆円(名目)× 手数料率0.60%、利益率28%
倍率:事業の純利益 238 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.3% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 2,799 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:短期金利2%・長期3%が定着し、県内の与信費用も景気を1〜2周してならした水準に戻る、最も重みを置く中心の筋書き。ROEが資本コストに届かない実績が重く、慎重側に寄せて最大の確率とした。
やや悲観 22% やや悲観:預金競争で利ざやが伸びず、ROE5%止まり 利益 129 億円 · PER 8.7 倍 · 株価時価総額 449 円1,122 億円
短期金利は2%へ上がるが、預金は金利で動く性質が強まり、預金金利の追随が早い。貸出も県内3行の競争で値下げ圧力がかかり、利ざやの拡大は今の半分程度にとどまる。
県の人口減が速まり、貸出は名目でも年1%台しか伸びない。野村證券との提携で預かり資産は増えるが、出向者の人件費が重く、役務の利益は小さい。経費は物価で膨らみ、経費率はほとんど下がらない。
大東銀行への出資は塩漬けになり、再編の効果は出ない。債券の評価損の処理で自己資本も傷む。利益は倍まで届かず、ROEは4〜5%にとどまる。配当は維持しても自己株買いには回せず、資本が積み上がるだけで、金利上昇の追い風を稼ぎに変えきれない10年になる。県内首位の座は守るが、利益の質は地味なままである。
- 事業性・公共貸出:数量 3.1(事業性・公共貸出残高(兆円))× 価格 1.1%(貸出利ざや(%))→ 売上 347 億円・営業利益 118 億円。残高3.1兆円(名目)× 利ざや1.12%、利益率34%
- 個人貸出:数量 1.0(個人貸出残高(兆円))× 価格 1.1%(貸出利ざや(%))→ 売上 100 億円・営業利益 28 億円。残高0.95兆円(名目)× 利ざや1.05%、利益率28%
- 資産運用・役務:数量 1.8(預かり資産+法人ソリューション取扱高(兆円))× 価格 0.5%(実効手数料率(%))→ 売上 88 億円・営業利益 18 億円。残高1.75兆円(名目)× 手数料率0.50%、利益率20%
倍率:10年後のROE4.4%(純利益129億円÷自己資本2,920億円)はk8.50%以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、PERは1÷k=11.8倍までが上限。預金競争で利ざやが伸びず、人口減と合わせて稼ぎが資本コストに届かない構造。上限の7.4割に置き、8.7倍。
確率:預金獲得競争が激しく、利ざやの拡大が想定の半分にとどまる筋書き。福島の人口減が速く、大東銀行・福島銀行との県内競争も続く。同領域のやや悲観と同水準。
悲観 13% 悲観:県内に閉じた銀行が稼ぐ力を失う10年 利益 52 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 177 円442 億円
10年のどこかで世界的な信用収縮が起き、福島県内の与信費用が急増する。人口減が想定を超えて速まり、県内の貸出需要そのものが縮む。預金は金利を払って守るしかなく、貸出の利ざやは県内競争で削られる。
野村證券との提携は預かり資産を増やすが、期待した収益化に至らない。大東銀行への出資は評価損になり、債券の評価損と合わせて自己資本を減らす。
再編の波に乗れず、単独のまま規模の経済も働かない。経費率は下がらず、稼ぐ力は資本コストを大きく下回る。公的資本の議論こそ出ないが、地方銀行としての存在意義が問われる。
- 事業性・公共貸出:数量 2.9(事業性・公共貸出残高(兆円))× 価格 0.8%(貸出利ざや(%))→ 売上 222 億円・営業利益 49 億円。残高2.85兆円(名目)× 利ざや0.78%、利益率22%
- 個人貸出:数量 0.8(個人貸出残高(兆円))× 価格 0.8%(貸出利ざや(%))→ 売上 64 億円・営業利益 10 億円。残高0.8兆円(名目)× 利ざや0.80%、利益率15%
- 資産運用・役務:数量 1.3(預かり資産+法人ソリューション取扱高(兆円))× 価格 0.4%(実効手数料率(%))→ 売上 56 億円・営業利益 4 億円。残高1.25兆円(名目)× 手数料率0.45%、利益率8%
倍率:ROE 2.4% が k 8.50% 以下で、ためた利益は額面を下回る価値。PER は 1÷k = 11.8 倍が上限で、目減りは ROE÷k = 0.28 に比例するので、上限 × 0.60 × 0.9 で 6.4 倍になる。ただし利益が出て配当を続ける筋書きで、自己資本の 0.2 倍を割る値(倒産に近い時のもの)にはしない。0.2 倍に相当する 8.5 倍を下限とし、8.5 倍に置いた。やや悲観の 8.7 倍より低い。信用収縮と人口減で稼ぎが資本コストを大きく下回る構造的な負け。債券・出資の評価損で自己資本を減らしている。
確率:リーマン級の信用収縮に、福島の人口減の加速、債券の評価損、県内競争の激化が重なる複合の悪材料。10年という期間で、ROEが資本コストを一度も超えていない実績から、同領域より厚めの1割強とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
事業性・公共貸出
福島県内の法人・事業性貸出と、県・市町村向けの公共貸出。県の指定金融機関として公共向けが残高を支える。
| 数量事業性・公共貸出残高(兆円) | 価格貸出利ざや(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.8 | 0.9% | 248 | 99 |
| 10 年後 中立 | 3.4 | 1.3% | 436 | 205 |
取り方:FY25平残で事業性1.81兆円と公共貸出0.83兆円(政府向け除く)、期末で貸出金4.25兆円なので政府向けも含め2.75兆円とおいた。利ざやは、利ざやの薄い公共向け(約0.4%)と事業性(約1.2%)を平均して0.90%とした。経費・与信費用を引いた営業利益率は4割。コア業務粗利益に対する経費の比率が約70%と重く、同業の8359より低い。預金ベータ(預金金利が政策金利に付いていく割合)は地銀共通の40%。(点検 2026-10-19:数量は名目、率に物価は掛けていない。利ざやの広がりは預金ベータ40%の金利要因)
個人貸出
住宅ローン・消費者ローン。福島県の住宅着工は減っているが、保証料率の細分化などで残高が伸びた。
| 数量個人貸出残高(兆円) | 価格貸出利ざや(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.9 | 1.0% | 84 | 25 |
| 10 年後 中立 | 1.1 | 1.3% | 131 | 50 |
取り方:FY25平残の個人ローン0.86兆円に期末の積み上げを加え0.88兆円。住宅ローン中心で固定金利が多く、利ざやは0.95%とおいた。営業利益率は3割。人口減で残高の伸びは弱い。預金ベータ40%を前提にした。(点検 2026-10-19:数量は名目、率に物価は掛けていない)
資産運用・役務
投資信託・保険・事業承継などの手数料。野村證券との包括提携(2025年10月)で、預かり資産の販売体制が変わった。
| 数量預かり資産+法人ソリューション取扱高(兆円) | 価格実効手数料率(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.4 | 0.5% | 77 | 23 |
| 10 年後 中立 | 2.4 | 0.6% | 141 | 39 |
取り方:預かり資産残高1.25兆円(2024年3月は0.65兆円)に、事業承継・M&A等の取扱高0.15兆円を足して1.40兆円。役務取引等利益は78億円で、実効手数料率0.55%とおいた。野村證券からの出向者約70人の人件費がかかるため営業利益率は3割。預かり資産はお金の量なので名目で伸ばし、手数料率は率なので物価で上げない。(点検 2026-10-19:数量は名目で、手数料率は物価で上げていない)
リスクと懸念
人口減少が貸出の天井になる
福島県の人口は2040年に140万人台まで減る見通しで、全国より速い。住宅ローンと事業性貸出の需要は物価の分しか伸びず、県内シェアが3分の1強と高いため、他県へ出て稼ぐ余地も小さい。単独で規模を作れないまま、固定費の重さだけが残る恐れがある。
預金の獲得競争で利ざやの取り分が縮む
政策金利が2%に向かう中、預金は金利で動く資金に変わる。ネット銀行や県内他行の預金金利が上がれば、東邦銀行も追随せざるを得ない。預金が貸出より1.9兆円も大きい銀行では、預金金利が1%上がるだけで年数百億円の調達コスト増になる。
債券の評価損が自己資本を削る
有価証券約1.3兆円の多くは国債などの円建債券で、金利が上がるほど評価損が膨らむ。会社は評価損のある債券の売却を進めているが、売却損は利益を削る。自己資本は総資産比3%台と薄く、金利が想定以上に上がると資本比率を傷つける。
経費の重さが利益増を吸い込む
コア業務粗利益に対する経費の比率は約70%で、初任給と賃上げ、DX投資、野村證券からの出向者約70人の費用が重なる。物価が毎年3%上がる世界では、経費の増え方が収益の増え方を上回るリスクが続く。利ざやの拡大が経費に食われると、ROEは上がらない。
県内再編の不発
東邦銀行は大東銀行の株を19.5%持つが、相手は2026年5月に協議を否定した。福島銀行を含む1県3行の過当競争が続けば、統合の効果で経費を下げる同業に差をつけられる。出資は長期安定株主としての保有で、収益には貢献しない塩漬けになる可能性がある。
信用コストの急増
地域の中小企業は人口減と人手不足の影響を受けやすい。金利上昇で資金繰りが悪化すれば、与信費用が急増する。会社の計画は信用コストを抑える前提で、景気後退期にこの前提が崩れると、純利益は一気に減る。
今後の分かれ目
- 日銀が短期金利を2%へ計画より速く引き上げたら
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。預金金利への追随の速さを決算で確認し、利ざやの拡大が預金に流れていないかを見る。
- 預金金利の引き上げ競争が県内で激化し、調達コストが急増したら
- やや悲観・悲観に重みを移す。預金の流出入と、定期預金の積み上がり方を見る。
- 大東銀行との間で資本提携か業務提携が正式に動いたら
- 統合の経費削減を中立から楽観に寄せて見直す。協議が否定され続けるなら、出資は塩漬けと見て変えない。
- 自己株買いを含む総還元性向の引き上げが示されたら
- 自己資本の積み上がりが抑えられ、ROEが中立より上振れる。確率を楽観側へ寄せる。
- 債券の評価損が拡大し、自己資本比率が大きく下がったら
- 悲観側の確率を上げる。売却損の処理と、増資を迫られる可能性まで見る。
- 福島県内の与信費用が四半期で急増したら
- どの業種で増えたかを確認し、やや悲観・悲観に重みを移す。
見ておくもの
- 日銀の政策金利と、東邦銀行の貸出・預金の利回りの推移
- 預金残高と定期預金の金利水準、県内3行の預金シェア
- 野村アライアンスの預かり資産残高と役務利益
- 大東銀行との提携の動きと県内再編
- 配当性向・自己株買いの方針と政策保有株の縮減の進み具合
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価を見ずに決めた。楽観・やや楽観・中立は10年後のROEとk 8.5%(基本7.5%+quality 1.0%。借金は自己資本比率3.2%で+0.25%)・g 4.0%から利益ベースの正当化PERの上限を出し、その9〜9.4割に置いた(下限は1÷k=11.8倍)。中立はROEがk以下なのでPERは1÷k=11.8倍が上限で、ROE÷kに近い上限の9割の10.6倍(k の quality と別の理由では引かない)。やや悲観・悲観はROEがk以下で、稼ぐ力の弱さから8.7倍・8.5倍に置き(悲観はROE÷kに比例して目減りさせた値で、やや悲観より低い)、過去のPBRや今の倍率は根拠にしていない。今のPERは約21倍で、中立の10年後を大きく上回るが、それは金利上昇の利益倍増がすでに株価に入っていることの表れと見て、倍率は動かしていない。kが1%高い(9.5%)と中立のPERは10.6倍から9倍台前半に下がる。2028年3月期から新リース会計基準が適用されるが、10年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に quality +1.0% を足して k 8.5%(決まり v2。β・規模は使わない。内訳は quality_why)。銀行は預金が仕入れなので利払いの式は当てはめず、利ざやで扱う。個別のリスク(大東銀行との県内統合の行方、債券の評価損)は k に足さず、確率と筋書きで表す。事業は傾いていないので extra は 0。同じ地方銀行の8359と同じ物差しで、差は quality の4部品だけにした。