結論
CCIグループは、石川県で預金・貸出とも過半に近いシェアを握る北國銀行の持株会社だ。旧社名は北國フィナンシャルホールディングスで、2025年10月に改称した。筆者の結論は、今の値段はやや割高、というものだ。最大の理由は、利益の水準がまだ低く、値段が先に走っていることにある。
稼ぎの形が、ほかの地方銀行と少し違う。預金は4.8兆円あるのに、貸出は3兆円しかない。余った資金は国債や投資信託、日銀への預け金で運用している。金利が上がれば預け金と債券の利息が増える。ただし債券の一部は短期の借入で持っており、調達費用も同時に上がる。恩恵は一気には出ない。
2026年3月期の純利益は126億円。経常収益は1,671億円に膨らんだが、株式の売却益と債券の売却損が両建てで入った結果だ。会社は株式の売却益で、利回りの低い円債を入れ替えている。見かけの数字に惑わされない方がよい。
10年の中立では、純利益は300億円弱、ROEは8%ほどにとどまる。資本コストの8.5%をわずかに下回る程度だ。新事業の黒字化と、自社開発の勘定系システムの外販が当たれば上振れる。外れれば、重い固定費だけが残る。安全域は厚くない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、この会社を持ち続けたいかを考えた。答えは、値段次第、になる。
よい点は、地盤の強さだ。石川県で過半のシェアがあり、預金の仕入れ先が安定している。金利が上がれば、貸出と運用の両方で利息が増える。事業の土台は厚い。
気になる点は、利益の質だ。2026年3月期の経常収益は、株式売却益と債券売却損が両建てで膨らんだ。ならした稼ぐ力は、見かけより小さい。有価証券が自己資本の約8倍もあり、評価損が出れば一気に資本が痛む。オーナー利益、つまり株主が自由に使える利益は、まだ薄い。
資本の使い方も、評価が割れる。自社システムの外販やスポーツ事業は、成功すれば大きいが、失敗の可能性も同じくらいある。他行株への出資は、銀行が本業の資本を使って行う分、筆者は慎重に見る。
安全域の面では、確率で重みづけた本質価値は今の時価総額を下回る。値段は、新事業の成功をある程度先取りしている。筆者は、今の値段では安全域が足りないと見る。
何で稼ぐ会社か
北國銀行は、石川県の企業の過半をメインバンクとして取り込む地域の首位行だ。東京商工リサーチの調べでは、石川県内のシェアは54%に達する。富山と福井を含む北陸3県でも2位で、1位の北陸銀行を追う。
収益の柱は3つある。1つ目は貸出だ。事業性貸出が足もとで急に伸び、貸出残高は1年で16%増えた。2つ目は市場運用だ。預金のうち貸出に回らない分と日銀への預け金で、合わせて3兆円強を運用する。債券の利息だけで貸出の利息に迫る規模がある。3つ目は手数料やカード、リース、コンサルティングなどの非金利の稼ぎだ。
ここに、会社が「新事業」と呼ぶ領域が重なる。システム開発、地域通貨、投資、スポーツ・エンタテインメントだ。2026年2月には、金沢のプロスポーツ事業を担う2社を子会社にした。新事業の収益は2026年3月期に143億円で、2029年3月期に209億円へ増やす計画だ。
中核の売り物は自社開発の勘定系システム「BankWill」だ。2027年1月の稼働を予定し、他の金融機関へ売る構想がある。地方銀行が自前でシステムを作るのは珍しい。成功すれば銀行の枠を超える稼ぎ口になる。
優良さと弱いところ
優良さの核は、石川県での圧倒的な地盤だ。県内の企業の半分超がメインバンクに選ぶ。預金も厚く、預貸率は6割強にとどまる。貸出を伸ばす余地が大きいのは強みだ。堀、つまり他社がまねできない強みは、顧客との長い取引と地元の信頼にある。一方、北陸銀行が県内でも2割近いシェアを持ち、価格だけで勝てる市場ではない。
弱みは資本の薄さと、資産の使い方の荒さだ。簡易の自己資本比率は3.7%で、有価証券は自己資本の約8倍ある。2025年3月期は評価損で包括利益が大きなマイナスになった。株式や外債、投信の運用で利益が振れやすい。ROEは過去5年、3〜5%台にとどまっている。
経営の特色は、新しいことに挑む速さだ。勘定系を自前で作り、地域通貨を出し、スポーツ事業まで手を広げる。筆者は、この姿勢を事業の厚みにつながる芽と見る一方、銀行の本業の利益で食いつなげるうちに結果を出せるかが問われると考える。
資本配分は、配当性向40%程度に自社株買いを足す方針だ。ただし自己資本が薄いので、還元を増やせる余地は他行より小さい。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
地方銀行の追い風は、金利が上がることだ。短期金利が2%へ向かう間、貸出金利は早く上がり、預金金利は遅れてついてくる。この差が利ざやを広げる。北國銀行は預け金が1.4兆円と厚く、短期金利の上昇がそのまま利息に乗る。
ただし追い風の効き方は、持っている資産の中身で決まる。同行の債券は利回りが1%台前半と低い。満期が来るたびに3%近い新しい債券へ入れ替わるので、利息は年ごとに増える。会社は株式の売却益で低利の債券を売り、損を先に出して利回りの高い円債へ替えている。入れ替えが終わるほど、先の利息は厚くなる。
逆風は、人口減と預金の取り合いだ。北陸3県の人口は減り、貸出の量は伸びにくい。2022年末には、北陸銀行と北國銀行が普通預金の金利を相次いで引き上げた。預金を守るための金利競争は、今後も続く。能登半島地震と豪雨の影響が残る地域もあり、与信費用は景気が悪い時に膨らみやすい。
業界では再編が進む。千葉銀行と千葉興業銀行、しずおかFGと名古屋銀行が統合で合意した。北國銀行は北陸の首位行で、買われる側というより、システムを提供する側に回ろうとしている。同社はすでに岩手銀行や琉球銀行などの株を保有していると報じられており、ここがどう動くかは読みにくい。
資本政策と M&A
株主還元は、配当性向40%程度に、機動的な自社株買いを足す方針だ。2026年3月期の配当性向は41%で、2027年3月期も配当を増やす予想だ。自己株式は期中で約120万株減り、消却も進めている。
資本の使い方は、2つの顔を持つ。本業では、貸出と預け金の運用で資本を使う。新事業では、システムやスポーツ事業に投資する。2026年3月期には、のれん償却を9億円出した。新事業の収益は2029年3月期に209億円の計画だが、2026年3月期の達成率は67%にとどまった。
出資の動きも目立つ。岩手銀行、琉球銀行、武蔵野銀行、宮崎銀行、山梨中央銀行、福井銀行の株を取得したと報じられた。会社は「純投資」と説明する。資本の薄い会社が他行株に資金を置くことの是非は、議論の余地がある。
自社が買われる可能性は低いとみる。簡易の自己資本比率は薄いが、石川県での地盤は厚い。推定では、10年内のTOBの確率は15%弱だ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
金利が上がるほど利息は増え、地盤の強い会社ほど恩恵が大きい。短期金利が2%、長期金利が3%で落ち着けば、日銀への預け金1.4兆円は金利の高い資産に変わる。満期を迎える債券は、3%近い新しい債券に置き換わる。会社は株式の売却益を使って債券入れ替えを始めており、これが済めば利息の伸びは一段と加速する。
貸出も伸びる余地が大きい。預貸率は6割強と低い。事業性貸出は市場金利に連動する形が増え、利ざやが広がりやすい。2026年3月期に貸出が16%増えた勢いが続けば、10年後の貸出は1.5倍に届く。
新事業は、銀行の外に稼ぎ口を作る。自社開発の勘定系システムBankWillは、2027年1月の稼働後、他の地銀への外販が始まる。地方銀行は人手不足とシステム更新費に悩む。安く使える仕組みが広がれば、受け皿になれる。地域通貨の登録者は15万人を超え、決済データを貸出や手数料につなげることもできる。
会社は、2029年3月期に純利益210億円を計画する。計画が当たれば、2028年3月期にROE8%に届く。10年後はさらに高い水準を狙える。資本の薄さは、利益が増えるほど解消される。今の値段は、その入り口にすぎない。
慎重な見方
金利上昇の恩恵は、思ったほど残らない。預金は他行との奪い合いで金利が上がり、調達費用が増える。債券入れ替えは、売却損を出す一方で、利回りが改善するまでに時間がかかる。2026年3月期の経常利益は、株式の売却益に助けられた分が大きい。これはくり返せる利益ではない。
資本が薄いことは、いちばんの弱点だ。有価証券は自己資本の約8倍ある。金利がもう一段上がれば、債券の評価損が膨らむ。2025年3月期には、評価損で包括利益が大きく落ち込んだ。同じことが起これば、配当や自社株買いを増やす余地が消える。
新事業は、計画の達成率が67%にとどまった。システム開発費は先に出ていき、外販先が決まる保証はない。地銀が自前で作ったシステムを、他行が使うかどうかは別の話だ。スポーツ事業は景気に左右されやすく、のれんの重さも残る。他行株への出資も、関係を悪くすれば逆効果になる。
石川県は人口が減る。能登の復興は時間がかかり、与信費用は景気が悪くなると膨らみやすい。今の時価総額は、計画の達成を先に織り込んでいる。計画が少し遅れるだけで、割高に見える水準だ。
どちらに重みを置いたか
金利の追い風が地盤の強い会社に効くことは確かで、その点は強気の見方に分がある。ただ、利益の水準がまだ低く、資本が薄く、新事業の成否も見えない。この3つは、慎重な見方の指摘が重い。確率は中立にもっとも厚く置き、悲観の側を楽観よりやや厚くした。外販の成功と運用の振れという両極のばらつきを、やや楽観と悲観の両側に反映した。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,635 円3,599 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 471 円1,036 億円)。 今の値に割り戻すと 1,078 円2,372 億円、今との差 −4.0%、 期待の年率 +6.5%(資本コスト 8.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 3,242 円7,135 億円 | 752 円1,656 億円 | +255.6% | +13.5% | 399 円879 億円 |
| やや楽観 | 24% | 2,352 円5,176 億円 | 591 円1,301 億円 | +162.0% | +10.1% | 706 円1,555 億円 |
| 中立 | 31% | 1,629 円3,586 億円 | 468 円1,031 億円 | +86.8% | +6.4% | 650 円1,431 億円 |
| やや悲観 | 22% | 889 円1,956 億円 | 353 円776 億円 | +10.5% | +1.0% | 273 円601 億円 |
| 悲観 | 13% | 354 円780 億円 | 238 円523 億円 | −47.3% | −6.2% | 77 円169 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,635 円3,599 億円 | 471 円1,036 億円 | +87.5% | +6.5% | 2,106 円4,635 億円 |
今の株価時価総額 1,123 円2,472 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 金利の追い風に外販と新事業が重なる10年 利益 476 億円 · PER 15.0 倍 · 株価時価総額 3,242 円7,135 億円
短期金利2%、長期金利3%が定着し、預け金と債券の利回りが一気に上がる。預金金利の追随は遅く、利息の差が大きく開く。事業性貸出は市場金利に連動する形が増え、貸出残高は1.5倍に近づく。自社開発の勘定系BankWillは2027年に稼働し、他の地方銀行へ複数行で外販が決まる。システム、地域通貨、スポーツ事業といった新事業は黒字が定着し、銀行の利ざやに頼らない稼ぎ頭になる。株式の売却益で債券を入れ替える作業も終わり、運用資産は利回りの高い円債とプライベートアセットに置き換わる。純利益が増えるため、資本は厚くなり、配当と自社株買いにも厚く回せる。地方銀行の再編では、システムを提供する側として存在感を高める。
- 貸出:数量 4.5(貸出残高(兆円、期末))× 価格 1.6%(貸出の実効利ざや(%。預金の調達費用を引いた後))→ 売上 702 億円・営業利益 400 億円。量 4.53 兆円 × 率 1.55%、営業利益率 57%
- 市場運用:数量 3.9(運用資産(兆円、有価証券+現金預け金+コールローン))× 価格 1.2%(運用の純ざや(%。利息収入から調達費用を引いた値))→ 売上 450 億円・営業利益 419 億円。量 3.91 兆円 × 率 1.15%、営業利益率 93%
- 手数料・新事業:数量 5.8(取扱高(兆円。預かり資産・決済・リースなどの合算の目安))× 価格 0.6%(実効の収益率(%))→ 売上 346 億円・営業利益 89 億円。量 5.78 兆円 × 率 0.60%、営業利益率 26%
倍率:事業の純利益 476 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.0% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.0 倍。全体の PER 14.99 倍、時価総額 7,135 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:短期2%・長期3%の定着に、勘定系の外販と新事業の黒字化まで重なる前提で、すべてが噛み合う確度は高くない。
やや楽観 24% 預け金と債券の利回りが順調に上がる10年 利益 374 億円 · PER 13.8 倍 · 株価時価総額 2,352 円5,176 億円
短期金利2%、長期金利3%への定常化が計画どおり進む。貸出は石川の地盤を生かして年3.8%で伸び、預け金と債券の利回りは入れ替えのたびに上がる。BankWillは稼働後、少数の金融機関に外販される。新事業の収益は、2029年3月期の計画に近い水準へ育つ。預金の取り合いで調達費用は上がるが、地盤の強さで高い預金金利を最小限にとどめる。株式の売却益による債券入れ替えは数年で終わり、運用の利息が着実に増える。配当と自社株買いは、利益の5割ほどを安定して続ける。大きな買収や失敗はなく、強みがそのまま数字に出る10年になる。
- 貸出:数量 4.4(貸出残高(兆円、期末))× 価格 1.5%(貸出の実効利ざや(%。預金の調達費用を引いた後))→ 売上 653 億円・営業利益 353 億円。量 4.41 兆円 × 率 1.48%、営業利益率 54%
- 市場運用:数量 3.8(運用資産(兆円、有価証券+現金預け金+コールローン))× 価格 1.1%(運用の純ざや(%。利息収入から調達費用を引いた値))→ 売上 408 億円・営業利益 377 億円。量 3.81 兆円 × 率 1.07%、営業利益率 92%
- 手数料・新事業:数量 5.4(取扱高(兆円。預かり資産・決済・リースなどの合算の目安))× 価格 0.6%(実効の収益率(%))→ 売上 304 億円・営業利益 51 億円。量 5.42 兆円 × 率 0.56%、営業利益率 17%
倍率:事業の純利益 374 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.9% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.8 倍。全体の PER 13.84 倍、時価総額 5,176 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中期経営戦略の方向が10年おおむね実現し、債券入れ替えが予定どおり進む想定。金利の追い風が最も素直に出る筋書き。
中立 31% 中立:金利は定常化し、石川の地盤が利益を支える 利益 286 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 1,629 円3,586 億円
短期金利2%、長期金利3%が10年のうちに定着する。貸出は石川の地盤を軸に年3.6%で伸び、預け金と債券の利回りも入れ替わりで上がる。ただし預金の取り合いで調達費用も上がり、利ざやの広がりは一部が削られる。与信費用は景気の循環を1〜2周してならした水準に戻る。BankWillは稼働するが、外販は限られる。新事業の収益は育つが、固定費が重く、利益への寄与は小さい。債券入れ替えは終わり、運用の利息は着実に増える。配当と自社株買いは利益の5割ほどを続ける。石川の首位行という立場は変わらず、特別な上振れも下振れもない10年になる。
- 貸出:数量 4.3(貸出残高(兆円、期末))× 価格 1.4%(貸出の実効利ざや(%。預金の調達費用を引いた後))→ 売上 609 億円・営業利益 312 億円。量 4.29 兆円 × 率 1.42%、営業利益率 51%
- 市場運用:数量 3.7(運用資産(兆円、有価証券+現金預け金+コールローン))× 価格 1.0%(運用の純ざや(%。利息収入から調達費用を引いた値))→ 売上 375 億円・営業利益 344 億円。量 3.75 兆円 × 率 1.00%、営業利益率 92%
- 手数料・新事業:数量 5.1(取扱高(兆円。預かり資産・決済・リースなどの合算の目安))× 価格 0.5%(実効の収益率(%))→ 売上 264 億円・営業利益 17 億円。量 5.08 兆円 × 率 0.52%、営業利益率 6%
倍率:事業の純利益 286 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.0% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.54 倍、時価総額 3,586 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:短期2%・長期3%が定着し、貸出は地盤の強さで伸びるが、預金の取り合いで利ざやの広がりは一部が削られる。最も重みを置く中心の筋書き。
やや悲観 22% 預金の取り合いと与信費用で利益が伸び悩む 利益 184 億円 · PER 10.6 倍 · 株価時価総額 889 円1,956 億円
金利は定常化するが、預金の取り合いが計画より激しくなり、調達費用の上がり方が利息の増え方に近づく。石川の人口減と能登の復興の遅れで、貸出の伸びは鈍る。与信費用は平均より重い水準が続く。BankWillの外販は決まらず、開発費の償却だけが残る。スポーツ事業などの新事業は赤字が続き、のれんの一部を減損する。債券入れ替えは進むが、売却損が重く、利息の増える速度が遅れる。配当は維持するが、自社株買いは抑える。預貸率が低いまま貸出が伸びず、運用の利息に頼る姿が続く。地銀の再編でも提供側に回れず、システムは自行だけで使う道具にとどまる。石川の首位という強みだけでは、利益の伸びの鈍さを補えない10年になる。
- 貸出:数量 4.1(貸出残高(兆円、期末))× 価格 1.4%(貸出の実効利ざや(%。預金の調達費用を引いた後))→ 売上 550 億円・営業利益 260 億円。量 4.08 兆円 × 率 1.35%、営業利益率 47%
- 市場運用:数量 3.6(運用資産(兆円、有価証券+現金預け金+コールローン))× 価格 0.9%(運用の純ざや(%。利息収入から調達費用を引いた値))→ 売上 323 億円・営業利益 293 億円。量 3.59 兆円 × 率 0.90%、営業利益率 91%
- 手数料・新事業:数量 4.7(取扱高(兆円。預かり資産・決済・リースなどの合算の目安))× 価格 0.5%(実効の収益率(%))→ 売上 236 億円・営業利益 0 億円。量 4.72 兆円 × 率 0.50%、営業利益率 0%
倍率:10年後のROE5.8%(純利益184億円÷自己資本3,170億円)はk8%以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、PERは1÷k=11.8倍までが上限。上限の8.5割に置き、10.63倍。稼ぐ力から出した値で、自己資本の何割という置き方はしていない。
確率:預金金利の追随が計画より早く、与信費用も平均より重くなる。新事業の収益化が遅れる。10年のうち数年は起こりうる想定。
悲観 13% 運用の損と新事業の失敗が重なり、資本が痛む10年 利益 83 億円 · PER 9.4 倍 · 株価時価総額 354 円780 億円
長期金利がもう一段上がり、債券と株式に大きな評価損が出る。同時に、能登の復興の遅れと景気の悪化で与信費用が急に増える。簡易の自己資本比率は薄く、評価損と与信費用が重なって、資本の余裕が一気に失われる。配当を守るために自社株買いは止まり、貸出の伸びも抑える。BankWillの外販先は決まらず、新事業も撤退や減損に追い込まれる。預金は金利の高い他行やネット銀行に流れ、調達費用だけが上がる。石川県内でも、北陸銀行や信用金庫との預金競争に押され、貸出の質を落として量を守る場面が出る。石川の首位という立場は残るが、稼ぐ力が資本コストを大きく下回る、苦しい10年になる。
- 貸出:数量 3.3(貸出残高(兆円、期末))× 価格 1.1%(貸出の実効利ざや(%。預金の調達費用を引いた後))→ 売上 372 億円・営業利益 128 億円。量 3.32 兆円 × 率 1.12%、営業利益率 34%
- 市場運用:数量 3.3(運用資産(兆円、有価証券+現金預け金+コールローン))× 価格 0.6%(運用の純ざや(%。利息収入から調達費用を引いた値))→ 売上 196 億円・営業利益 168 億円。量 3.26 兆円 × 率 0.60%、営業利益率 86%
- 手数料・新事業:数量 4.0(取扱高(兆円。預かり資産・決済・リースなどの合算の目安))× 価格 0.4%(実効の収益率(%))→ 売上 181 億円・営業利益 14 億円。量 4.03 兆円 × 率 0.45%、営業利益率 8%
倍率:10年後のROE3.0%(純利益83億円÷自己資本2,793億円)はk8%以下なので、ためた利益は額面未満の価値で、PERは1÷k=11.8倍までが上限。上限の8.0割に置き、9.4倍。稼ぐ力から出した値で、自己資本の何割という置き方はしていない。
確率:債券・株式の評価損に能登の与信費用と新事業の失敗が重なり、資本が痛む複合的な悪材料。簡易の自己資本比率が薄く、10年では相応の確率を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
貸出
北國銀行による石川・富山などの事業性貸出と個人向け貸出(住宅ローンなど)。
| 数量貸出残高(兆円、期末) | 価格貸出の実効利ざや(%。預金の調達費用を引いた後) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.0 | 1.0% | 308 | 120 |
| 10 年後 中立 | 4.3 | 1.4% | 609 | 312 |
取り方:期末の貸出金3.02兆円に、実効の利ざや1.02%(貸出利息357億円÷期中平均の残高2.8兆円≒1.28%から、預金の調達費用0.17%などを引いた値)をかけ、308億円とした。経費を配賦した営業利益は120億円と推定した(開示はない)。貸出残高は名目の量なので、中立では年3.6%(物価3%+実質+0.6%)で伸ばす。預貸率が6割強と低く、事業性貸出を増やす方針がある分、地銀の中立(年3.0〜3.5%)よりやや高く置いた。利ざやは預金ベータ(預金金利が政策金利に追う割合)を40%とし、中立で10年に+0.40%広がるとした。(点検 2026-10-19:数量は名目、率に物価は掛けていない。利ざやは預金ベータの金利要因のみ)
市場運用
有価証券(国債・外債・投信・株式)と日銀への預け金などの運用。預金のうち貸出に回らない分と、レポなど短期の借入が資金源。
| 数量運用資産(兆円、有価証券+現金預け金+コールローン) | 価格運用の純ざや(%。利息収入から調達費用を引いた値) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.3 | 0.6% | 199 | 178 |
| 10 年後 中立 | 3.7 | 1.0% | 375 | 344 |
取り方:有価証券1.88兆円と現金預け金などを合わせた運用資産3.26兆円に、純ざや0.61%をかけて199億円とした。有価証券利息271億円・預け金利息38億円・コール利息20億円の合計から、レポ(債券貸借の担保金)とコールの調達費用と、余った預金の調達費用を引いた推定値。経費の配賦は小さく(21億円)、営業利益は178億円と置いた。運用資産は預金の増えと貸出の伸びの差で決まり、中立では10年で1.15倍。純ざやは、債券の利回りが1.4%から2.4%へ入れ替わりで上がり、短期の調達費用も1%上がる差し引きで、+0.39%とした。(点検 2026-10-19:数量は名目、率に物価は掛けていない)
手数料・新事業
決済・カード・投信販売などの手数料、リース、コンサルティング、システム開発、地域活性化(スポーツ事業を含む)の収益。
| 数量取扱高(兆円。預かり資産・決済・リースなどの合算の目安) | 価格実効の収益率(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.5 | 0.5% | 175 | 15 |
| 10 年後 中立 | 5.1 | 0.5% | 264 | 17 |
取り方:役務取引等の純収益87億円に、リース・カード・コンサルティング・新事業の収益88億円を足した175億円を、取扱高の目安3.5兆円と実効率0.50%で表した(取扱高は推定で、開示はない)。直接かかる費用が大きく、営業利益は15億円と推定した。取扱高は名目の量で、中立では10年で1.45倍(物価1.34倍+NISA・決済の伸び)。率はデジタル化で下がる圧力があり、0.52%とほぼ横ばいに置いた。(点検 2026-10-19:数量は名目で物価を含む。率は物価を掛けていない)
リスクと懸念
預金の取り合いで、金利上昇の恩恵が削られる
北陸では、北陸銀行と北國銀行が2022年末に普通預金の金利を相次いで引き上げた。預金は4.8兆円と厚いが、公金預金が減る局面もあった。短期金利が2%に近づくほど、預金金利の追随が早まり、調達費用が利息の増え方に近づく。強気の見方が置く利ざやの広がりは、この競争で一部が消える。
有価証券の評価損と入れ替えの失敗
有価証券は1.9兆円で、自己資本の約8倍ある。2025年3月期は評価損で包括利益が大きなマイナスになった。会社は株式の売却益で、低利の円債を入れ替えているが、長期金利がさらに上がれば、保有債券に評価損が出る。入れ替えが想定より長引けば、利息の増える速度も落ちる。
自己資本の薄さが還元を縛る
簡易の自己資本比率は3.7%で、規制上の比率とは別だが、薄いことに変わりはない。貸出を伸ばすほど資本が要り、配当と自社株買いに回せる額が減る。評価損が出れば、還元を止めざるをえない。中期経営戦略の還元方針(配当性向40%程度に自社株買い)は、利益が計画どおり出ることが前提だ。
新事業と他行株出資の収益化
新事業の収益は、2026年3月期の達成率が67%だった。システム、地域通貨、スポーツ事業は固定費が先に出る。2026年2月に子会社にしたスポーツ2社は、景気に左右されやすい。他行株への出資は純投資と説明されているが、関係を悪くすれば、システム外販の足を引っ張りかねない。
北陸の人口減と能登の復興
石川・富山・福井は人口が減り、貸出の量は伸びにくい。能登半島地震と豪雨の影響が残る地域では、事業者の返済条件の変更が続く。与信費用は、2026年3月期で65億円と貸出比0.2%だが、景気が悪くなれば急に増えうる。地盤が強くても、地域全体の縮みには逆らえない。
BankWillの稼働遅れと外販の不確実性
自社開発の勘定系システムは、2027年1月の稼働を予定する。以前の予定は2026年度で、時期はずれた。金融機関の基幹システムは、一度止まると影響が大きい。稼働後に障害が出れば、自行の信用が傷むうえ、外販も止まる。外販の販売体制は未定で、契約はまだ公表されていない。
今後の分かれ目
- 日銀が計画より早く短期金利を2%へ上げたら
- 預け金と短期の貸出の利息が早く増えるので、楽観側の確率を上げる。預金金利の追随の速さも、決算で同時に確かめる。
- 預金金利の引き上げ競争が激しくなり、預金が他行へ流れたら
- 調達費用が利息の増え方に近づくので、やや悲観の確率を上げる。預金残高と預金利息の推移を見る。
- BankWillが2027年1月に予定どおり稼働し、他の金融機関との契約が決まったら
- 新事業の収益が計画に近づくと見て、楽観側に重みを移す。契約先の数と、その規模を確認する。
- 長期金利が急に上がり、有価証券の評価損が膨らんだら
- 自己資本が痛むので、悲観側の確率を上げる。評価差額金と、債券入れ替えの進み方を確認する。
- スポーツ・エンタテインメント事業や他行株で大きな損失・減損が出たら
- 資本配分への信頼が揺らぐので、悲観側に重みを移す。のれんの償却額と、新事業の赤字幅を見る。
- 北陸で地銀の再編や、システムを共同で使う動きが具体化したら
- 北國銀行が提供側に回れるかが分かれ目になる。楽観側の前提を見直す。
見ておくもの
- 日銀の政策金利と、北國銀行の預金利息・貸出利息の推移
- 有価証券の評価差額金と、債券入れ替えの進み方
- BankWillの稼働(2027年1月)と外販先の数
- 新事業収益(2029年3月期に209億円の計画)の達成率
- 自己資本の厚みと、配当・自社株買いの実績
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価を見ずに決めた。中立は10年後のROEとk 8%(基本7.5%+quality 1.0%)・g 4.0%から利益ベースの正当化PERの上限を出した。ROEがkとほぼ同じなので、下限の1÷k=11.8倍に近い値を置いた。楽観・やや楽観は上限の9.5割・9.4割。やや悲観・悲観はROEがk以下で、PERは1÷kが上限、その8.5割と8割に置いた。過去の底値や今の倍率は根拠にしていない。この会社は数字の組み立てが推定を多く含む(貸出・運用・手数料への配賦は開示がない)ので、利益の水準そのものに不確かさが残る。kが1%高い(9.5%)と、10年の中立のPERは約10倍に下がる。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.86→14.99 倍・やや楽観 PER 11.82→13.84 倍・中立 PER 11.65→12.54 倍・やや悲観 PER 10→10.63 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に quality +1.0% を足して k 8%(決まり v2)。個別のリスク(新事業・他行株出資・システム外販の実行)は k に足さず、確率と筋書きで表す。事業は傾いていないので上乗せ(extra)は 0。同じ地方銀行の中で、有価証券が厚く資本が薄い会社は quality を高めに置いた。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 8.00%。