結論
百十四銀行は、香川県の企業のほぼ半分をメインバンクに持つ地方銀行である。高松に本店を置き、香川では預金も貸出も 3 割台半ばのシェアを握る。もう一つの顔が、瀬戸内の海運を相手にした船舶金融だ。筆者の結論は、事業の質は高いが、10 年後の稼ぐ力に対して今の値段は少し高い、というものだ。
稼ぎの中心は貸出の利ざやである。短期金利が 2% へ上がれば、貸出金利が預金金利より速く動き、ざやは広がる。2025 年度の純利益は 188 億円と過去最高だったが、ROE は 5% 台にとどまる。中期経営計画は 2028 年度に純利益 350 億円、ROE 8% を掲げた。
ただ、足元は軽くない。香川県の人口は 5 年で 4.5% 減った。貸出の 6 割強はすでに県外にあり、地元だけでは伸びない。自己資本は薄く、株式の含み益が支えている。相場が崩れれば、この支えは先に削れる。
10 年後の中立では、純利益は今の約 2 倍になる。それでも自己資本が厚くなり、ROE は 7% 台にとどまる。資本コストの 8.25% に届かない会社は、利益を積み上げても価値が 1 対 1 では増えない。筆者は、今の時価総額は 10 年後の中立の価値を上回ると見る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の目で見ると、問われるのは 3 点だ。事業が 10 年後も強いか、稼いだ利益が株主のものになるか、払う値段に余裕があるか。
事業は強い。香川県でメインバンクを半数近く押さえ、船舶金融という専門の稼ぎ口を持つ。この基盤は、10 年後も崩れにくい。
利益の質には注意がいる。銀行の利益は貸出の量よりも、ざやと与信費用で決まる。ざやは金利の上昇で広がるが、与信費用は不況で一気に膨らむ。海運向けの貸出が 1 割強あることは、海運市況が崩れた時の弱点にもなる。
資本の使い方は、まだ評価が定まらない。政策保有株の圧縮は進んだが、自己資本は薄く、還元は控えめだ。利益の大半を内部に残しても、ROE が資本コストに届かなければ、残した利益は、残した額と同じ価値にならない。
安全域は、今の値段では薄い。中立でも 10 年後の ROE は 7% 台で、資本コストの 8% 台に届かない。株の含み益という資産はあるが、すでに純資産に入っており、二重には数えられない。筆者は、事業は好ましいが、払う値段に余裕がないと見る。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの土台は、香川県の法人と個人への融資と、預金の受け入れだ。県内の店舗は 95 店で、東京商工リサーチの調べでは、県内企業の 47.4% が百十四銀行をメインバンクにしている。2 位の香川銀行は 18.4% で、差は大きい。
ただ、貸出の 6 割強は県外にある。愛媛・岡山・広島・兵庫・福岡など瀬戸内沿いの広域エリアが 1.3 兆円、東京・大阪・愛知の大都市圏が 0.95 兆円だ。香川県内は 1.45 兆円にとどまる。人口が減る地元を守りつつ、外の大きな市場で貸出を積む二段構えである。
もう一つの柱が船舶金融だ。海事産業向けの貸出は 5,320 億円で、地方銀行では 7 位、世界でも 38 位に入る。瀬戸内は造船と海運の集積地で、船主や造船会社との付き合いは古い。外国為替の売買益も、地方銀行の中で 3 位である。
収益は 4 つに分かれる。法人貸出と個人貸出の利ざや、有価証券と日銀預け金の運用益、そして手数料だ。預り資産では、2027 年 3 月期中に野村證券との提携が始まる。ベトナムにコンサルティング会社を持ち、事業承継やスタートアップに投資するファンドも作った。ただ、収益の大半はいまも利ざやで、非金利の柱はまだ細い。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、香川県での顧客の厚さだ。企業の約半分がメインバンクに選ぶため、情報が集まり、貸出の条件で競り負けにくい。預金も県内に厚い基盤があり、金利が上がっても預金金利を低めに抑えやすい。
ただ、この堀は県内にしか効かない。県外の貸出は、他の地方銀行やメガバンクと条件を競う市場だ。船舶金融は専門性が高い反面、貸出が大口に偏りやすい。
資本の厚さは、強みとは言えない。連結の自己資本比率は 10.4% で、格付会社は、同じ格付の地方銀行の中ではやや低めと見ている。自己資本の中身も、株式の含み益が大きい。株式の評価益は 1,316 億円あり、相場が崩れれば薄くなる。
経営の規律は改善している。政策保有株、つまり取引関係のために持つ株は、前の中計で目標を上回って減らした。2028 年度末には、純資産に対する比率を 20% 未満へ下げる計画だ。ただ、配当性向の目標は 40% 以上にとどまり、自社株買いは小さい。還元の姿勢は、同業の上位行ほど強くない。
筆者がいちばん気にするのは、利益の質だ。2025 年度の利益には、株式の売却益が 100 億円超入っている。一方で債券の損切りが 92 億円あった。稼ぐ力そのものは、表面の数字より小さい。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
地方銀行は、金利のある世界に入った。2024 年に政策金利の引き上げが始まってから、貸出金利は預金金利より先に動く。預金から集めた資金で貸す銀行は、ざやが広がる。筆者は、地方銀行の稼ぐ力は 10 年かけて構造的に高まると見る。
ただし、恩恵は一直線には来ない。百十四銀行の貸出のうち、変動金利は 49% で、残りの 51% は固定金利だ。固定は借り換えの時期が来るまで金利が上がらない。預金の方は、政策金利を 0.5 ポイント上げる局面で、普通預金の金利が 0.2 ポイント上がる想定だ。上がり始めは、預金のコストが先に出る。
地元の需要は細る。香川県の人口は 2020 年から 2025 年に 4.5% 減り、過去最大の落ち込みだった。2050 年には 2024 年比で約 2 割減る見込みである。貸出残高は物価の分だけ名目では伸びても、実質の需要は縮む。だから百十四銀行は県外へ貸出を広げてきた。
競合は 3 つある。県内の香川銀行、県外四国の伊予銀行、大都市圏のメガバンクだ。四国では、いよぎんホールディングスと愛媛銀行が、2027 年 4 月を目途に経営統合する。再編が進めば、規模で劣る銀行は経費で不利になる。
業界の分かれ目は、再編に乗れるか、単独でも経費率を下げられるかである。百十四銀行は資金量 4.8 兆円で、今のところ単独で進む。DX に約 200 億円を投じて省人化を進め、浮いた人手をコンサルティングへ回す計画だ。ここが効かなければ、利ざやの追い風を、経費の増加が食ってしまう。
資本政策と M&A
資本政策の焦点は、株の持ち合いの解消と、還元の厚みだ。百十四銀行の政策保有株は、みなし保有を含めて時価で約 1,670 億円ある。連結純資産に対する比率は 3 割台半ばで、これを 2028 年度末までに 20% 未満へ下げる。前の中計では、簿価で 96 億円を減らし、目標の 60 億円を超えた。
売却で出る資金の使い道が、価値を分ける。貸出に回せば利ざやを稼ぐ。自社株買いに回せば、ROE が上がる。ただ、配当性向の目標は 40% 以上にとどまり、自社株買いの規模は示されていない。2025 年度の総還元は 77 億円で、純利益の約 4 割だった。自社株買いは 11 億円と小さい。
M&A は大きなものがない。国内では地方銀行の再編が進むが、百十四銀行が買う側にも買われる側にもなる動きは見当たらない。kabufu の推計では、10 年以内の TOB・買収の確率は 16.7% だ。野村證券との提携は、資本を使わずに預り資産を増やす狙いである。
規制上の自己資本比率は 10.4% で、中計は 11.5〜12.5% を目標にする。利益の多くを内部に残す前提で、株主への配分は限られる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
香川県の寡占は、金利上昇の恩恵をいちばん受けやすい形だ。企業の約半分をメインバンクに持つ銀行は、貸出金利を上げても顧客を失いにくい。預金は個人と地元企業の粘着性の高いお金で、金利を上げる速さを抑えられる。貸出の約半分は変動金利で、残りの固定金利も借り換えで入れ替わっていく。
利益が伸びる材料はほかにもある。会社は 2028 年度に純利益 350 億円、ROE 8% を目指し、資金利益は 467 億円から 660 億円へ増える計画だ。その前提の政策金利は 1.25% で、2% まで上がる世界はさらに上を見込める。政策保有株を売った資金で自社株買いを進めれば、ROE はもっと上がる。
株式の含み益は 1,316 億円(税引き前)あり、時価総額の 4 割に当たる。この厚みは、不況でも自己資本を守る。船舶金融は大口だが、貸出先は手元資金が厚く、ほぼ全額が正常先だと格付会社は見る。与信費用の比率も 10bp 程度と低い。
さらに、再編の波は四国にも来ている。いよぎんと愛媛銀行の統合が決まり、単独の百十四銀行にも、組む選択肢が広がる。条件のよい相手を選べば、経費率を大きく下げられる。野村證券との提携で預り資産が増えれば、手数料収入にも厚みが出る。
慎重な見方
利ざやの追い風は、経費の増加に食われる。会社の計画でも、経費は 2026 年度に 39 億円増える見込みだ。DX 投資 200 億円と人件費 50 億円の増加が、続けてのしかかる。利益が増えても、経費率は思うほど下がらない。
地元の需要は細る。香川県の人口は 5 年で 4.5% 減り、過去最大の落ち込みだった。県内の貸出は 1.45 兆円で、貸出全体の 4 割に満たない。残りは県外で、他行やメガバンクと条件を競う市場であり、ざやの上乗せは難しい。
自己資本が薄い。調整後のコア資本比率は 8% 台半ばで、同じ格付の地方銀行の中ではやや低い。貸出を 4 兆円に増やせばリスクアセットが膨らみ、資本を食う。株式の評価益 1,316 億円は、相場が崩れれば消える。
船舶金融は強みだが、集中でもある。海運向け貸出は 5,320 億円で、全体の 14% を占める。海運市況が崩れれば、大口の 1 社の不調が全体に響く。
最後に、ROE が資本コストを下回り続ける点が重い。10 年後の中立でも 7% 台にとどまる。資本コストに届かない会社は、利益の約 12 倍が価値の上限になる。
どちらに重みを置いたか
利ざやの追い風と香川の基盤は本物で、強気の言い分に分がある。ここは認める。ただ、自己資本の薄さ、人口減、経費の増加が重なり、10 年後の ROE は資本コストに届かない。この点を重く見て、中立に最も重みをおき、慎重な側をやや厚めにした。
利益が 2 倍になっても、資本コストを超えなければ、株主にとっての価値は利益の約 12 倍で頭打ちになる。そこで、強気の確率は 3 割台にとどめた。海運と株式の含み損益という尾が実在するため、悲観の確率も 13% 残した。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,187 円3,609 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,269 円1,437 億円)。 今の値に割り戻すと 2,296 円2,600 億円、今との差 −13.7%、 期待の年率 +5.3%(資本コスト 8.3%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 5,051 円5,720 億円 | 1,540 円1,744 億円 | +147.6% | +9.5% | 659 円746 億円 |
| やや楽観 | 23% | 4,335 円4,909 億円 | 1,465 円1,659 億円 | +117.9% | +8.1% | 1,334 円1,511 億円 |
| 中立 | 30% | 3,842 円4,351 億円 | 1,394 円1,579 億円 | +96.7% | +7.0% | 1,571 円1,779 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,867 円2,115 億円 | 1,213 円1,374 億円 | +15.7% | +1.5% | 739 円837 億円 |
| 悲観 | 13% | 646 円731 億円 | 530 円600 億円 | −55.8% | −7.8% | 153 円173 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,187 円3,609 億円 | 1,269 円1,437 億円 | +67.4% | +5.3% | 4,456 円5,046 億円 |
今の株価時価総額 2,662 円3,014 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 10% 金利が早く定着し、再編と売却資金の使い方も当たる 利益 462 億円 · PER 12.4 倍 · 株価時価総額 5,051 円5,720 億円
金利が計画より早く 2% に届き、貸出のざやが大きく広がる。固定金利の貸出は借り換えのたびに高い金利へ入れ替わる。預金は粘着性の高い地元のお金が中心で、預金金利は想定ほど上がらない。法人貸出は瀬戸内・関西・中国で年 3.5% 伸び、貸出は 5 兆円を超える。
政策保有株の売却資金は自社株買いに回り、自己資本が膨らまずに ROE は 8% を超える。船舶金融は市況に恵まれ、海運向けの貸出はほぼ全額が正常先のまま推移する。与信費用は低い水準が続く。
野村證券との提携で預り資産が増え、手数料収入に厚みが出る。DX で浮いた人手がコンサルティングに回り、経費率は 50% を割る。四国の再編を横目に、単独でも収益力を高められた 10 年になる。
- 法人貸出:数量 4.3(法人・公共向け貸出残高(兆円))× 価格 1.4%(預貸金利息差(%、預金の利払い控除後))→ 売上 619 億円・営業利益 303 億円。残高 4.3 兆円 × ざや 1.43%、利益率 49%
- 個人貸出:数量 0.8(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.3%(預貸金利息差(%、預金の利払い控除後))→ 売上 108 億円・営業利益 45 億円。残高 0.85 兆円 × ざや 1.28%、利益率 42%
- 市場運用:数量 2.6(運用資産残高(兆円、有価証券+預け金))× 価格 1.3%(運用利回り(%、外貨調達費用控除後))→ 売上 329 億円・営業利益 263 億円。運用 2.6 兆円 × 利回り 1.25%、利益率 80%
- 役務・為替・その他:数量 7.7(顧客残高(兆円、預金+預り資産))× 価格 0.3%(残高あたり非金利収益率(%))→ 売上 232 億円・営業利益 63 億円。顧客残高 7.7 兆円 × 率 0.30%、利益率 27%
倍率:事業の純利益 462 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.6% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.4 倍。全体の PER 12.38 倍、時価総額 5,720 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:短期金利の 2% 到達が早く、県外の貸出が伸び続け、政策保有株の売却資金が自社株買いに向かう。それに与信費用の低位が重なる必要があり、全部がそろう確率は低い。
やや楽観 23% 中計の方向がほぼ実現し、ROE が 8% 近くまで届く 利益 405 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 4,335 円4,909 億円
中期経営計画の方向がおおむね実現する。貸出は年 3% 台で伸び、ざやは短期金利 2% の定着で広がる。変動金利が貸出の半分にとどまるため、広がり方は他の地方銀行よりやや緩い。
政策保有株は純資産比 20% 未満へ減り、売却資金は貸出と自社株買いに回る。DX で省人化が進み、経費の伸びは物価並みに収まる。与信費用は年 0.1% 台で、景気の山谷をならした水準に落ち着く。
野村證券との提携で預り資産が伸び、手数料収入は増える。ただ、県内の人口減で地元の貸出は伸びず、成長の担い手は県外だ。ROE は 8% 近くまで上がるが、資本コストには届かない。
- 法人貸出:数量 4.2(法人・公共向け貸出残高(兆円))× 価格 1.4%(預貸金利息差(%、預金の利払い控除後))→ 売上 575 億円・営業利益 273 億円。残高 4.2 兆円 × ざや 1.36%、利益率 48%
- 個人貸出:数量 0.8(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.2%(預貸金利息差(%、預金の利払い控除後))→ 売上 102 億円・営業利益 41 億円。残高 0.83 兆円 × ざや 1.23%、利益率 40%
- 市場運用:数量 2.6(運用資産残高(兆円、有価証券+預け金))× 価格 1.2%(運用利回り(%、外貨調達費用控除後))→ 売上 298 億円・営業利益 235 億円。運用 2.6 兆円 × 利回り 1.16%、利益率 79%
- 役務・為替・その他:数量 7.4(顧客残高(兆円、預金+預り資産))× 価格 0.3%(残高あたり非金利収益率(%))→ 売上 208 億円・営業利益 50 億円。顧客残高 7.4 兆円 × 率 0.28%、利益率 24%
倍率:事業の純利益 405 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.9% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 4,909 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:貸出 4 兆円・ROE 8% を掲げる中計の方向が、金利の追い風でおおむね実現する筋書き。会社が示す感応度と JCR の見立て(コア業務純益は堅調)が根拠で、楽観より厚くおく。
中立 30% 中立:金利は定常化するが、ROE は資本コストに届かない 利益 359 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 3,842 円4,351 億円
短期金利 2%・長期金利 3% が定着し、貸出のざやは 10 年で 0.4 ポイント広がる。香川県の貸出は人口減で伸びず、広域の瀬戸内圏と大都市圏が成長を担う。貸出は年 3% で増え、5 兆円に届く。
有価証券は高い金利への入れ替えが進み、運用利回りが上がる。政策保有株は 20% 未満まで圧縮され、売却益は 2028 年度ごろまでに出尽くす。以降の純利益に、売却益は入らない。
経費は賃上げと DX の償却で増えるが、収益の伸びの方が大きく、経費率は 5 割台に下がる。与信費用は年 0.12% で、海運や中小企業の一時的な悪化は吸収できる。
純利益は今の約 2 倍になるが、自己資本も厚くなり、ROE は 7% 台にとどまる。
- 法人貸出:数量 4.1(法人・公共向け貸出残高(兆円))× 価格 1.3%(預貸金利息差(%、預金の利払い控除後))→ 売上 537 億円・営業利益 247 億円。残高 4.1 兆円 × ざや 1.30%、利益率 46%
- 個人貸出:数量 0.8(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.2%(預貸金利息差(%、預金の利払い控除後))→ 売上 95 億円・営業利益 36 億円。残高 0.81 兆円 × ざや 1.18%、利益率 38%
- 市場運用:数量 2.5(運用資産残高(兆円、有価証券+預け金))× 価格 1.1%(運用利回り(%、外貨調達費用控除後))→ 売上 276 億円・営業利益 215 億円。運用 2.5 兆円 × 利回り 1.10%、利益率 78%
- 役務・為替・その他:数量 7.2(顧客残高(兆円、預金+預り資産))× 価格 0.3%(残高あたり非金利収益率(%))→ 売上 195 億円・営業利益 43 億円。顧客残高 7.2 兆円 × 率 0.27%、利益率 22%
倍率:事業の純利益 359 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.2% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 4,351 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:短期 2%・長期 3% が定着し、与信費用が景気の山谷をならした水準に戻る、最も重みをおく筋書き。会社の予想(2027 年 3 月期 210 億円)と計画(2029 年 3 月期 350 億円)の間で、計画の達成度を 7 割程度と見た。
やや悲観 24% 人口減と信用コストで、利ざやの追い風が薄れる 利益 218 億円 · PER 9.7 倍 · 株価時価総額 1,867 円2,115 億円
香川県の人口減が速まり、県内の貸出が縮む。県外では他行との競争が強まり、貸出の条件が悪くなる。ざやは広がるが、広がる幅は想定の半分ほどで、貸出は年 2% しか伸びない。
不況が一度来て、与信費用が年 0.25% 前後まで上がる。海運市況の悪化で、大口の貸出先に不良化が出る。株式の評価益は縮み、資本の余裕が減る。
DX の費用は先に出るが、人員の削減が計画ほど進まず、経費率は 6 割を超えたままだ。手数料収入も、競争で伸び悩む。
利益は増えても資本が増えない形で、ROE は 5% 前後にとどまる。
- 法人貸出:数量 3.7(法人・公共向け貸出残高(兆円))× 価格 1.1%(預貸金利息差(%、預金の利払い控除後))→ 売上 419 億円・営業利益 168 億円。残高 3.7 兆円 × ざや 1.12%、利益率 40%
- 個人貸出:数量 0.7(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 1.0%(預貸金利息差(%、預金の利払い控除後))→ 売上 76 億円・営業利益 25 億円。残高 0.73 兆円 × ざや 1.04%、利益率 33%
- 市場運用:数量 2.4(運用資産残高(兆円、有価証券+預け金))× 価格 0.9%(運用利回り(%、外貨調達費用控除後))→ 売上 220 億円・営業利益 154 億円。運用 2.4 兆円 × 利回り 0.92%、利益率 70%
- 役務・為替・その他:数量 6.8(顧客残高(兆円、預金+預り資産))× 価格 0.3%(残高あたり非金利収益率(%))→ 売上 170 億円・営業利益 24 億円。顧客残高 6.8 兆円 × 率 0.25%、利益率 14%
倍率:10 年後の ROE 4.8%(純利益 218 億円 ÷ 自己資本 4,500 億円)は k 8.25% を大きく下回り、PER は 1 ÷ k = 12.1 倍が上限。稼ぐ力が資本コストに届かない構造の姿なので、上限の 8 割に置き、9.7 倍。今の自己資本 3,844 億円に対する倍率は 0.55 倍。稼ぐ力から出した値で、自己資本の何割という置き方はしていない。
確率:香川県の人口減が速く、県外の貸出も競争で条件が悪化し、与信費用が上がる。10 年のうちに景気の悪化が 1 回はある前提で、慎重に見る側にやや厚くおく。自己資本比率がやや低く、悪化の余裕が乏しい点も反映した。
悲観 13% 構造的に負け、海運と株式の損失で資本が傷む 利益 86 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 646 円731 億円
世界の海運市況が崩れ、5,000 億円を超える海事向け貸出のうち、大口の数社が不良化する。同時に不況で県内外の中小企業の倒産が増え、与信費用が年 0.5% を超える年が続く。
株式相場が下がり、評価益が消える。債券にも評価損が出て、純資産が厚みを失う。自己資本比率を守るため、貸出を増やせず、配当も絞る。
香川県の人口減は止まらず、地元の貸出は縮む。県外では、より規模の大きい銀行や再編後の銀行に条件で負け、ざやが薄くなる。DX の投資は回収できず、経費率も下がらない。
利益は今を大きく下回り、ROE は 2% 台に沈む。もう優良な地方銀行ではなくなっている。
- 法人貸出:数量 3.3(法人・公共向け貸出残高(兆円))× 価格 0.8%(預貸金利息差(%、預金の利払い控除後))→ 売上 271 億円・営業利益 81 億円。残高 3.3 兆円 × ざや 0.82%、利益率 30%
- 個人貸出:数量 0.7(個人向け貸出残高(兆円))× 価格 0.8%(預貸金利息差(%、預金の利払い控除後))→ 売上 50 億円・営業利益 11 億円。残高 0.66 兆円 × ざや 0.75%、利益率 22%
- 市場運用:数量 2.0(運用資産残高(兆円、有価証券+預け金))× 価格 0.9%(運用利回り(%、外貨調達費用控除後))→ 売上 170 億円・営業利益 102 億円。運用 2.0 兆円 × 利回り 0.85%、利益率 60%
- 役務・為替・その他:数量 5.5(顧客残高(兆円、預金+預り資産))× 価格 0.2%(残高あたり非金利収益率(%))→ 売上 116 億円・営業利益 6 億円。顧客残高 5.5 兆円 × 率 0.21%、利益率 5%
倍率:10 年後の ROE 2.5%(純利益 86 億円 ÷ 自己資本 3,400 億円)は k 8.25% を大きく下回り、PER は 1 ÷ k = 12.1 倍が上限。構造的に負けて優良でなくなった姿なので、上限の 7 割に置き、8.5 倍。自己資本は株式の評価益の消滅と債券の評価損、減損で今から約 440 億円減らした。
確率:海運市況の崩れ・不況・株式の下落が重なり、地元の需要も縮む構造的な負け。海運向け貸出が 14%、株式の評価益が自己資本の約 3 割あり、一度に傷む経路が実在するため、5% を超える確率をおく。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
法人貸出
香川県内と瀬戸内・関西・大都市圏の中小企業・大企業・公共向け貸出。船舶金融(海事産業向け 5,320 億円)を含む。
| 数量法人・公共向け貸出残高(兆円) | 価格預貸金利息差(%、預金の利払い控除後) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.1 | 0.9% | 276 | 116 |
| 10 年後 中立 | 4.1 | 1.3% | 537 | 247 |
取り方:単体の貸出 3.70 兆円のうち、中小企業 1.99 兆・大中堅 0.86 兆・公共 0.22 兆の計 3.07 兆円を法人とおいた。預貸金利息差は貸出利息 460 億円から預金等利息 127 億円を引いた 333 億円で、期末残高の 3.70 兆円に対し約 0.90% になる。個人への配分を引いて法人 0.90% とした。経費 349 億円は収益に応じて配賦し、貸出の利益率を 42% とおいた。(点検 2026-10-19:数量は名目で置き、率に物価は掛けていない。中立の率は10年で+44%(物価倍率1.34倍の掛け算ではなく、事業・金利の置き方)。二重がけなし) (R23c 点検:率の上昇の理由)短期金利が今の1%前後から2%へ+1ポイント上がる前提。貸出金利は先に上がり、預金金利は預金ベータ換算で約60%だけ追うので、中立の率は10年で0.90%→1.30%(+0.40ポイント)。住宅ローンは固定が多く広がりは遅い。
個人貸出
住宅ローンを中心とする個人向け貸出。
| 数量個人向け貸出残高(兆円) | 価格預貸金利息差(%、預金の利払い控除後) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.6 | 0.9% | 54 | 16 |
| 10 年後 中立 | 0.8 | 1.2% | 95 | 36 |
取り方:個人向け貸出は 0.63 兆円(うち住宅ローン 0.60 兆円)。住宅ローンは競争が強く、ざやを 0.85% と法人よりやや低くおいた。営業と保証のコストが重く、利益率は 30%。(点検 2026-10-19:数量は名目で置き、率に物価は掛けていない。中立の率は10年で+39%(物価倍率1.34倍の掛け算ではなく、事業・金利の置き方)。二重がけなし) (R23c 点検:率の上昇の理由)短期金利が今の1%前後から2%へ+1ポイント上がる前提。貸出金利は先に上がり、預金金利は預金ベータ換算で約67%だけ追うので、中立の率は10年で0.85%→1.18%(+0.33ポイント)。住宅ローンは固定が多く広がりは遅い。
市場運用
有価証券(国債・地方債・社債・株式・投信・外債)と日銀預け金の運用。
| 数量運用資産残高(兆円、有価証券+預け金) | 価格運用利回り(%、外貨調達費用控除後) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.0 | 0.7% | 135 | 101 |
| 10 年後 中立 | 2.5 | 1.1% | 276 | 215 |
取り方:有価証券 1.06 兆円と日銀預け金 約 0.9 兆円(預け金利息 47 億円と今の政策金利からの推定)の計 1.96 兆円。有価証券利息 116 億円と預け金利息 47 億円から外貨調達費用 約 28 億円を引いた約 135 億円を、運用資産で割って 0.69% とした。預金の利払いは貸出側に入れてあるので、ここでは引かない。(点検 2026-10-19:数量は名目で置き、率に物価は掛けていない。中立の率は10年で+59%(物価倍率1.34倍の掛け算ではなく、事業・金利の置き方)。二重がけなし)
役務・為替・その他
決済・為替・投信と保険の販売・法人コンサルティングの手数料、外国為替売買益。
| 数量顧客残高(兆円、預金+預り資産) | 価格残高あたり非金利収益率(%) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 5.3 | 0.3% | 133 | 16 |
| 10 年後 中立 | 7.2 | 0.3% | 195 | 43 |
取り方:預金 4.88 兆円と預り資産 0.44 兆円の計 5.32 兆円を顧客残高とし、役務取引等利益 77 億円とその他業務利益(債券損益を除く)57 億円の計 134 億円を割って 0.25%。人手のかかる業務で、経費配賦後の利益率は 12%。(点検 2026-10-19:数量は名目で置き、率に物価は掛けていない。中立の率は10年で+8%(物価倍率1.34倍の掛け算ではなく、事業・金利の置き方)。二重がけなし)
リスクと懸念
人口減による地元の貸出需要の縮小
香川県の人口は 2020 年から 2025 年に 4.5% 減り、過去最大の落ち込みだった。2050 年には 2024 年比で約 2 割減る見込みである。県内の貸出は全体の 4 割に満たないが、利益率の高い基盤はここにある。地元の需要が縮めば、県外での競争に頼る度合いが強まり、ざやの上乗せが難しくなる。
海運向け貸出の集中
海事産業向けの貸出は 5,320 億円で、貸出全体の 14% を占める。貸出先の多くは手元資金が厚く、今はほぼ全額が正常先だ。ただ、海運市況は景気の波が大きい。市況が長く崩れれば、大口の貸出先に不良化が出て、与信費用が一度に膨らむ。船舶は担保になるが、市況が悪いと価値も下がる。
株式の含み益に頼る自己資本
株式の評価益は 1,316 億円あり、自己資本の約 3 割に当たる。相場が大きく崩れれば、評価益は消え、純資産と自己資本比率が下がる。政策保有株を売っても、含み益が実現するだけで、資本が厚くなるわけではない。自己資本比率が低めの銀行にとって、この揺れは重い。
金利上昇のざやが想定より広がらない
貸出の 51% は固定金利で、借り換えまで金利が上がらない。預金金利は、競争で想定より早く上げざるを得ないこともある。2025 年度は預金等利息が 61 億円増えた。ざやの広がりが想定の半分にとどまれば、10 年後の利益は、中立の見立てを 2 割以上下回る。
DX と人件費による経費の増加
中計は、約 200 億円のシステム投資と、約 50 億円の人件費・人的資本投資の増加を見込む。2026 年度の経費は、前年より 39 億円増える計画だ。DX の効果が出る前に費用が先行し、省人化も計画ほど進まなければ、経費率は 6 割を超えたままになる。
再編の波に乗り遅れる可能性
四国では、いよぎんホールディングスと愛媛銀行が 2027 年 4 月を目途に経営統合する。統合後の銀行は、経費とシステムで有利になり、県外の貸出でも競合として強くなる。百十四銀行は単独で進むが、規模で劣れば、同じ貸出条件でも収益で見劣りする。
戦略的な新事業の収益化
ベトナムのコンサルティング会社、投資専門子会社、地域活性化の事業会社は、いずれも立ち上げたばかりだ。コンサルティングの手数料は伸びているが、銀行全体の収益に占める割合はまだ小さい。投資が回収できなければ、経費だけが残る。
今後の分かれ目
- 政策金利が計画より速く 2% へ向かい、貸出のざやの広がりが決算で確認できたら
- 中計の ROE 8% の達成が現実味を帯びる。楽観側の確率を上げてよい。
- 与信費用が 2 期続けて貸出の 0.25% を超えたら
- 海運か中小企業のどこで増えたかを確認し、やや悲観・悲観側に確率を移す。
- 政策保有株の売却資金で、大規模な自社株買いが発表されたら
- 自己資本を抑えて ROE が上がる経路が確かになる。ROE が資本コストに近づき、中立の見立てを上げる材料になる。
- 百十四銀行が他行との経営統合に動いたら
- 経費率の改善と、規模の経済が期待できる。統合比率と、のれん・システム統合費用を確認して、楽観・悲観のどちらに効くかを見直す。
- 海運市況が大きく崩れ、大口の貸出先に不良化が出たら
- 悲観側に確率を移し、自己資本の毀損を前提に見直す。
- 株式相場が大きく下がり、評価益が半分以下になったら
- 自己資本の薄さが表に出る。貸出の伸びが抑えられ、中立の ROE を下げる。
見ておくもの
- 短期金利と、貸出のざや(預貸金利回り差)の推移
- 与信費用と、海運向け貸出の質
- 政策保有株の売却進捗と、自社株買いの規模
- 連結自己資本比率(目標 11.5〜12.5%)と、株式・債券の評価損益
- 経費の伸びと、DX による省人化の進み具合
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価を見ずに決めた。中立は 10 年後の ROE 7.2% が k 8.25%(基本 7.5% + quality +0.75%)以下なので、PER の上限は 1 ÷ k = 12.1 倍で、その 8.5 割(10.3 倍)に置いた。やや楽観は 9 割、楽観は ROE が k を超えるため正当化 PER の 9.9 割(12.2 倍)。やや悲観・悲観は稼ぐ力が k に届かない構造なので、1 ÷ k の 8 割・7 割に置いた。悲観の利益は、海運と株式の損失、人口減の構造から ROE 2.5% とし、過去の底値や今の倍率は根拠にしていない。k が 1% 高い(9.25%)と、中立の PER は 10.3 倍から 9.2 倍に下がる。10 年後の数字は、家賃を営業費用に含む今の形のままで、リース会計の変更は影響しない(銀行で店舗の賃借は小さい)。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.2→12.38 倍・やや楽観 PER 10.9→12.12 倍・中立 PER 10.3→12.12 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +0.75% を足して k 8.25%(決まり v2。β・規模は使わない。内訳と理由は quality_why)。銀行は預金が仕入れなので利払いの式は当てはめず、利ざやで扱う。個別のリスク(船舶金融の集中・株式の含み損益)は k に足さず、確率と筋書きで表す。事業は傾いていないので上乗せ(extra)は 0。同じ地方銀行どうしで同じ物差しを使い、差は quality の 4 部品だけで出している。