結論
日本M&Aセンターホールディングスは、中小企業の事業承継を中心にM&Aをまとめる国内最大手の仲介会社だ。成約すれば報酬が入る。経費の大半は人件費で、営業利益率は4割近い。
筆者の結論は「ほぼ適正」である。事業の質は高いが、件数が伸びないことと、手数料への社会の目が厳しくなっていることが、上振れの力を抑えている。
2022年の売上前倒し計上の発覚以降、審査を厳しくしたため、成約件数はむしろ減った。会社は件数を追わず、1件あたりの売上を引き上げる路線に切り替えた。利益は過去最高圏に戻ったが、土台となる件数はまだ戻っていない。
10年の見立ては単純だ。後継者のいない経営者は増え続けるが、仲介会社も増え、国は手数料の開示と利益相反の規律を求めている。件数は人口減とコンサルタントの人数で頭打ちになり、売上は物価と1件の大型化で伸びる。この売上の伸びのほとんどは値段の上昇であって、取り扱う数の拡大ではない。
財務は無借金で、売上の約7割に当たる純現金がある。還元は配当性向7割台と厚い。ただし景気が悪くなればM&Aの買い手が慎重になり、件数が一気に細る。強みも弱みも、すべて「人」と「信頼」に集まった会社である。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず「稼いだ利益を株主が自由に使えるか」を見る。この会社は設備も在庫もほとんど要らない。利益の大部分が配当と自社株買いに回り、残りが現金として積み上がる。オーナー利益と純利益の差が小さい、数少ない事業だ。
問題は、その利益が10年先も続くかである。事業の中核は、経営者の一生に一度の決断を手伝うという仕事だ。信頼がすべてで、その信頼は2022年の不祥事で一度傷ついた。今は審査を厳しくして再建の途上にある。
堀は広くない。案件の入口である会計事務所と信用金庫の網は強いが、仲介そのものは誰でも始められる。値段、つまり手数料率を自分で決める力は、規制と競争のもとで弱まる方向にある。筆者は、この点を最も重く見ている。
資本の使い方は評価できる。借金に頼らず、買収で価値を壊した経歴もなく、利益を株主に返している。
安全域はどうか。中立で10年後の価値が今の水準を少し上回る程度で、割安と呼べるほどの余裕はない。わからないことが2つある。件数が回復するのか、手数料への規制がどこまで進むのか。この2つが見えるまで、確信は持てない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は成約報酬だ。会社を売りたい経営者と買いたい会社を引き合わせ、契約がまとまった時に報酬を受け取る。報酬は取引の大きさに応じた段階式(レーマン方式)で、小さな案件ほど料率が高い。
売り手の多くは、後継者のいない中小企業だ。会社は全国に1,111の地域M&Aセンターと呼ばれる会計事務所のネットワークと、223の信用金庫との提携を持つ。ここから案件の種が集まる。買い手候補は3万社を超える名簿に載っている。
人の力が収益を決める。専門コンサルタントは626名。1人が1年にこなせる案件には限りがあるため、件数は人数と経験で決まる。営業体制は最近、案件の種類ごとの担当制に改められた。
報酬の振れ幅は大きい。1件の売上は、数千万円から億円を超える案件まで開く。近年は中堅規模の案件を重んじ、1件の平均売上は上がる傾向にある。このほか、ファンドを通じた投資の収益や周辺サービスが少しある。ファンドの売却益が出る期は純利益が押し上がるが、毎年は続かない。
費用の中心は人件費と賃料だ。コンサルタントの給与は物価で上がり、売上が落ちた年でも簡単には減らせない。この固定費の重さが、景気の谷で利益を大きく削る。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねしにくい強みは、案件の入口と買い手の名簿にある。地域の会計事務所と信用金庫が、売りたい経営者を紹介してくれる。この網は一朝一夕には作れず、新規参入者が最初に突き当たる壁だ。買い手の名簿の厚みも、成約までの速さと確度を高める。
ブランドも効く。事業を手放す経営者にとって、一生に一度の決断だ。上場する最大手に頼みたいという心理は強い。
ただし堀は思うほど深くない。仲介は参入の壁が低く、銀行や会計事務所系、独立系の小さな会社が増えた。M&Aキャピタルパートナーズは大型案件に絞って成功し、ストライクも金融機関との連携で実績を積んでいる。
もう一つの弱点は信頼だ。2022年に、過去5年間で83件の売上を前倒しで計上していたことが明らかになった。目標達成のための早期成約という構図で、仲介業の根本にある利益相反の問題を突いた。その後、審査を厳しくして立て直したが、件数の減少はその代償でもある。
資本効率は申し分ない。ROEは過去10年で20%台を保ち、借金もない。工場も在庫も要らず、稼いだ利益のほとんどを株主に返せる事業だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内のM&Aは、2025年に過去最多の5,115件となった。取引金額は約35.7兆円だ。背景には経営者の高齢化と後継者難がある。この需要は10年先も消えない。
ただし、会社が伸びる余地は需要ほど大きくない。M&A支援機関として登録された事業者は、2,781件に達した。仲介会社が増えれば、1社あたりの取り分は薄まる。大手の件数が前期より減ったのも、この競争と、売り手が慎重になった影響が重なった結果だ。
規制の風向きも変わった。中小企業庁の中小M&Aガイドラインは、2024年に第3版となり、手数料と提供業務の開示、利益相反の禁止事項が具体化された。手数料に上限をかける規制ではないが、料率を高く保つことは難しくなる。仲介会社が売り手と買い手の両方から報酬を取る構造は、これからも批判の的になる。
技術の面では、生成AIが案件の発掘と企業価値の見積もりを効率化する。これは仲介会社にとって追い風にも向かい風にもなる。事務が減れば利益率は上がるが、売り手が自分で買い手を探せる世界では、仲介の価値そのものが薄れる。
景気の影響も無視できない。買い手の資金繰りが悪くなると、成約件数は景気後退期に3〜4割落ちうる。
資本政策と M&A
還元は厚い。配当性向60%を目安に掲げ、2026年3月期の配当性向は73.7%に達した。2023年には70億円の自社株買いも実施している。純利益のほとんどを返す設計で、事業にお金がほとんど要らないことの表れだ。
手元の現金と投資は、純額で約350億円ある。時価総額の2割弱にあたる。うち運転資金と税金・賞与の支払いに備える分を除いた約250億円を、事業に要らない現金とみる。
買収は大型のものを繰り返すタイプの会社ではない。成長の源は買収ではなく、コンサルタントの人数と生産性だ。ファンドへの出資を通じた投資も手がけるが、規模は小さい。
2026年4月に、中間持株会社のJ-Capitalを設立した。投資事業を分離して束ねる動きとみられるが、詳細は確かめられていない。
親子上場や持ち合いの懸念は見当たらず、買収される側になる可能性はkabufuのモデルで10年以内に約18%と見積もられている。M&Aの仲介会社自身がM&Aの対象になるという皮肉な構図だが、人が資産の会社を買うのは難しい。
10 年の還元は、配当性向 60% 目安に対し直近 74% の実績に近い、純利益の合計の 8 割弱。余った現金 250 億円には手を付けない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
後継者のいない中小企業は、これから10年でさらに増える。経営者の高齢化は止まらず、事業承継のM&Aは増え続ける需要の波に乗っている。日本M&Aセンターは、1,111の地域M&Aセンターと223の信用金庫という、他社が持たない入口を押さえている。買い手候補の名簿も3万社を超え、案件の質と速さで他社を引き離せる。
2022年の不祥事の後に審査を厳しくしたのは、むしろ強みになる。売り手に「安心して任せられる会社」と選ばれるのは、信頼を立て直した最大手だ。件数が減ったのは、数を追う路線をやめたからであり、1件あたりの売上は上がり、利益は過去最高に達した。件数を戻す余地が残っている。
生成AIは追い風でもある。案件の発掘や企業価値の見積もりといった下準備の手間が減れば、1人のコンサルタントがこなせる件数が増え、利益率はさらに上がる。
財務は無借金で、現金が厚い。還元は性向7割台で、景気が悪くなっても配当を守れる。10年のうちに件数が1,900件へ回復し、中堅案件の大型化で1件の売上が1.45倍に伸びれば、利益は今の2.5倍に近づく。
慎重な見方
仲介会社は急増している。登録された支援機関は2,781件を数え、銀行や会計事務所系が次々に入ってくる。参入の壁が低い事業で、大手の優位は件数の減少として表れている。前期も成約は減った。
手数料への批判は、これから強まる。売り手と買い手の両方から報酬を取る構造は利益相反として疑われ続ける。2024年のガイドライン改訂は、手数料と提供業務の開示を求めた。上限規制までは進んでいないが、売り手が料率を比べて値切る時代に入る。1件の売上の伸びが、物価の上昇に追いつかない恐れがある。
人に頼る事業の弱さもある。626名のコンサルタントの人件費は、物価で上がる固定費だ。件数が減れば、利益率は急速に落ちる。景気後退で買い手の資金繰りが悪化すれば、件数は3〜4割落ちる。
2022年の売上前倒し計上は、仲介業の信頼を損なう出来事だった。再発すれば、ブランドそのものが傷つく。生成AIが案件発掘を安価にすれば、仲介の価値は薄まる。件数が現状のまま止まり、手数料が下がれば、利益は今より小さくなる。
どちらに重みを置いたか
事業の質では強気の見方が優勢だ。入口の網、無借金、厚い還元は確かな強みである。だが慎重な見方の指摘も的を射ている。件数が戻らず、手数料への圧力が続くという2点は、10年の利益の伸びを数と値段の両面から削る。
確率は中立に厚く置き、悲観をやや重く置いた。売上の伸びの大半は物価で、取り扱う数の拡大ではないからだ。手数料規制の行方は読めず、悲観の筋書きでは、利益率が1割台まで落ちる。総合では本質価値が今の時価総額と近く、適正の範囲に入る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,413 円4,483 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 381 円1,210 億円)。 今の値に割り戻すと 990 円3,142 億円、今との差 +58.8%、 期待の年率 +11.1%(資本コスト 7.0%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 2,567 円8,147 億円 | 591 円1,874 億円 | +406.6% | +17.6% | 316 円1,002 億円 |
| やや楽観 | 22% | 2,021 円6,412 億円 | 469 円1,488 億円 | +299.3% | +14.9% | 548 円1,738 億円 |
| 中立 | 36% | 1,668 円5,294 億円 | 402 円1,275 億円 | +232.1% | +12.8% | 745 円2,365 億円 |
| やや悲観 | 21% | 468 円1,486 億円 | 285 円904 億円 | +20.8% | +1.9% | 158 円502 億円 |
| 悲観 | 11% | 113 円358 億円 | 134 円426 億円 | −60.4% | −8.8% | 27 円86 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,413 円4,483 億円 | 381 円1,210 億円 | +187.8% | +11.1% | 1,794 円5,693 億円 |
今の株価時価総額 623 円1,978 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 件数が戻り、中堅の大型案件で利益が膨らむ 利益 316 億円 · PER 25.3 倍 · 株価時価総額 2,567 円8,147 億円
審査強化の痛みが抜け、成約件数が年1,900件まで回復する。地域の会計事務所と信用金庫の網が案件を送り続け、生成AIが発掘と見積もりの手間を減らして、コンサルタント1人の件数が増える。中堅案件の比率が上がり、1件の売上は物価を上回って1.45倍に伸びる。手数料規制は開示の範囲にとどまり、料率は崩れない。営業利益率は4割近くを保つ。同業の増加は分散を招くが、信頼を立て直した最大手に案件が集まる構図が戻る。還元は配当性向を維持し、現金を積み上げず返し続ける。案件の入口と信頼という二つの強みが、10年を通じて同時に働いた最良の姿である。この筋書きでは、会社は「件数」と「単価」の両方で成長する、数少ない仲介会社として評価され続ける。
- M&A仲介(事業承継型が中心):数量 1,900(年間の成約件数(件))× 価格 0.63(1件あたりの売上(億円・名目))→ 売上 1,204 億円・営業利益 458 億円。成約1900件 × 1件0.634億円、売上1204億円、営業利益率38%
倍率:事業の純利益 312 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 53.6% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 30.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 25.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 25.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)250 億円。全体の PER 25.27 倍、時価総額 8,147 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:件数の回復と1件の大型化が同時に起きる必要があり、手数料規制も弱い場合に限る。連続して噛み合う確率は低い。
やや楽観 22% 件数が回復し、1件の売上も上がる 利益 247 億円 · PER 25.0 倍 · 株価時価総額 2,021 円6,412 億円
件数は1,650件まで戻り、1件の売上は物価を少し上回って1.38倍になる。中堅案件の比率の上昇で単価は保たれ、手数料の開示義務は料率を大きくは動かさない。コンサルタントの生産性は上がるが、人件費も物価で上がるため、営業利益率は36%台にとどまる。競合は増え続けるものの、入口の網と信頼で最大手の地位は維持される。ファンドの売却益が毎期出るわけではないが、本業の利益は伸びる。還元は性向を維持し、現金は余り続ける。中立より一段よい10年だが、手数料と競争の重しは外れない。審査強化後の再成長が、数年遅れで形になる筋書きである。中立より一段よい10年だが、手数料と競争の重しは外れない。
- M&A仲介(事業承継型が中心):数量 1,650(年間の成約件数(件))× 価格 0.60(1件あたりの売上(億円・名目))→ 売上 995 億円・営業利益 363 億円。成約1650件 × 1件0.603億円、売上995億円、営業利益率36.5%
倍率:事業の純利益 244 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 48.5% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 27.7%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 25.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 25.0 倍 + 余った現金(戻り方込み)250 億円。全体の PER 24.97 倍、時価総額 6,330 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:審査の厳格化が一巡して件数が戻る可能性は十分にある。ただし規制と競合の圧力は残り、強気ほどは噛み合わないとみる。
中立 36% 件数は緩やかに増え、値段は物価並みに上がる 利益 202 億円 · PER 24.8 倍 · 株価時価総額 1,668 円5,294 億円
件数は年1,450件と今より26%増える。後継者難の需要は強いが、コンサルタントの数と登録事業者の増加が伸びを抑える。1件の売上は物価並みの1.34倍になる。中堅案件の増加による押し上げを、手数料の開示と値引き圧力が打ち消す形だ。人件費も物価で上がり、営業利益率は今よりわずかに低い35%に落ち着く。審査の強化で不祥事は起きず、会社の事業は安定して続く。ファンド益は平均すると小さく、純利益の伸びは売上並みとなる。還元は性向を保つ。大きな成功も失敗もなく、信頼を保ったまま人の力で稼ぎ続ける10年である。大きな成功も失敗もなく、信頼を保ったまま人の力で稼ぎ続ける10年である。利益は物価の分と少しの数量増で伸びる。
- M&A仲介(事業承継型が中心):数量 1,450(年間の成約件数(件))× 価格 0.59(1件あたりの売上(億円・名目))→ 売上 849 億円・営業利益 297 億円。成約1450件 × 1件0.586億円、売上849億円、営業利益率35%
倍率:事業の純利益 198 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 46.0% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 26.5%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 24.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 24.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)250 億円。全体の PER 24.8 倍、時価総額 5,173 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:需要は強いが、競合と規制が伸びを抑える。件数は人数に縛られ、1件の売上は物価並みの伸びに収まる、いちばん素直な筋書き。
やや悲観 21% 件数が伸びず、手数料に圧力がかかる 利益 116 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 468 円1,486 億円
件数は1,150件のまま伸びず、競合に案件を取られる。売り手が複数の仲介会社の料率を比べ、値引きが広がり、1件の売上は1.2倍にとどまる。物価の上昇に届かず、人件費の上昇がそのまま利益を削る。営業利益率は29%に落ち、利益は今より小さくなる。景気の谷が来れば、一時的に件数が3割落ちる局面もある。それでも事業は続き、還元は減らしながら続けられる。現金は積み上がらず、買収や投資の失敗で食われる分を見込む。大手の地位は保つが、成長の勢いは失われ、伸びるのは物価の分だけという10年になる。大手の地位は保つが、成長の勢いは失われ、伸びるのは物価の分より小さい10年になる。件数を追えば質が落ち、質を守れば件数が伸びない、というジレンマが続く。
- M&A仲介(事業承継型が中心):数量 1,150(年間の成約件数(件))× 価格 0.52(1件あたりの売上(億円・名目))→ 売上 603 億円・営業利益 175 億円。成約1150件 × 1件0.524億円、売上603億円、営業利益率29%
倍率:ROE 14.1%(現金の利息を除く事業の純利益÷自己資本)。k 7%。RONIC=k+残る割合1/2×(ROE−k)=13.5%。g 4%から正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)=15.6倍。伸びと堀の持ちを低く見て、上限の7.00割(PER 10.03倍)に置いた。余った現金187.5億円(今の0.75倍)は帳簿の値のまま足した。
確率:競合の急増と手数料の開示が続けば、件数は横ばい、1件の売上は物価を下回る。起きやすい筋書きなので、やや重めに置いた。
悲観 11% 規制と競争で構造的に稼ぐ力を失う 利益 30 億円 · PER 8.2 倍 · 株価時価総額 113 円358 億円
手数料の透明化と値下げ圧力で料率が下がり、1件の売上は今の水準のまま止まる(物価の上昇分を失う)。両面から報酬を取る構造への批判が訴訟や行政の指導に発展し、信頼が傷つく。件数は750件まで減る。生成AIが案件の発掘を安くし、売り手が買い手を自分で探せるようになる。626名規模のコンサルタントの人件費と賃料は固定費として残るため、営業利益率は15%まで下がる。会社は存続するが、もはや高収益の最大手ではなく、普通の人材サービス会社として評価される。還元は利益の減少に合わせて縮み、積み上げた現金の一部は事業の立て直しに使われる。
- M&A仲介(事業承継型が中心):数量 750(年間の成約件数(件))× 価格 0.44(1件あたりの売上(億円・名目))→ 売上 328 億円・営業利益 49 億円。成約750件 × 1件0.437億円、売上328億円、営業利益率15%
倍率:ROE 3.3%(現金の利息を除く事業の純利益÷自己資本)が k 7% 以下なので、伸びても価値は増えず、RONIC=5.8%は使わない。正当化PERは1÷k=11.8倍。稼ぐ力(純利益÷k)から出し、その7.00割(PER 8.23倍)に置いた。余った現金は半分の125億円(今の0.5倍)を帳簿の値で足した。
確率:手数料への規制強化、利益相反の訴訟、不祥事の再発、AIによる中抜きが重なる複合の筋書き。単独でも起きうるが、重なる確率は低い。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
M&A仲介(事業承継型が中心)
中小企業の事業承継を中心にM&Aを仲介し、成約時に成功報酬を受け取る。ファンド運用益や周辺サービスの小さな収益も含める。
| 数量年間の成約件数(件) | 価格1件あたりの売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,150 | 0.44 | 503 | 188 |
| 10 年後 中立 | 1,450 | 0.59 | 849 | 297 |
取り方:成約件数は開示が追えないため推定。2025年3月期は1,078件、1件あたりM&A売上3,960万円。2026年3月期の売上503億円を1,150件×0.437億円(4,370万円、中堅案件の増加で上昇)と置いた。ファンド運用益や周辺サービスもこの中に含める。数量は件数(実質)、物価の分は1件あたりの売上に入れる。営業利益188億円は実績。
リスクと懸念
手数料の開示と規制
中小M&Aガイドライン第3版は手数料と提供業務の開示を求め、利益相反の禁止を具体化した。上限規制まで進まなくても、売り手が料率を比べて値切るようになれば、1件の売上の伸びが物価に追いつかず、利益率が構造的に縮む。
成約件数の停滞
審査の厳格化で件数は2025年3月期に1,078件へ減った。1件の売上は上がったが、土台の件数が戻らなければ、売上の伸びは値段の上昇だけに頼る。コンサルタントの人数が限界で、増やすほど人件費が固定費として重くなる。
信頼の毀損の再発
2022年に過去5年で83件の売上前倒し計上が明らかになった。仲介は信頼が命の事業で、同種の問題や、譲渡企業の資産流出といった不祥事が再発すれば、ブランドと案件の入口である会計事務所・信用金庫との関係が傷つく。
競合の急増
登録された支援機関は2,781件に達した。大型案件に絞るM&Aキャピタルパートナーズ、金融機関連携のストライク、銀行・会計事務所系が入り乱れる。入口の網は強いが、仲介自体は参入が容易で、人材の引き抜きも起きやすい。
景気後退と買い手の慎重化
買い手の資金調達が難しくなると、成約が止まり、件数が3〜4割落ちうる。報酬は成約した時にしか入らず、人件費と賃料は固定的に残る。利益は件数の落ち込み以上に減る。
ファンド収益のぶれ
2027年3月期の第1四半期は、ファンドの売却益で純利益が3割以上増えたが、営業利益は減った。投資の収益は毎年は続かない。純利益の伸びを事業の稼ぐ力と取り違えない必要がある。
今後の分かれ目
- 成約件数が2期連続で前年を上回り、1件の売上も上がったら
- 中立から強気寄りに確率を移す。審査強化の後の再成長が本物だったことを示す。
- 金融庁や中小企業庁が手数料に上限や明示の義務を設けたら
- やや悲観・悲観の確率を上げる。料率が下がると、1件の売上の伸びが物価に届かなくなる。
- 譲渡企業とのトラブルや売上計上の不備が再び表面化したら
- 信頼の毀損として悲観の確率を上げる。案件の入口との関係が揺らぐ。
- 生成AIで案件の発掘と企業価値の見積もりの手間が大きく減ったら
- コンサルタント1人あたりの件数が増え、利益率が上がる。強気の筋書きに寄る。
- 景気後退で買い手の資金調達が細ったら
- 件数が3〜4割落ちる谷として、やや悲観の筋書きに近づく。固定費が重く利益は大きく減る。
- 同業が大型の買収やTOBで統合を進めたら
- 規模の優位が薄れる。逆に自社が買われる側に回る場合は、事業の価値より人材流出の可否を確かめる。
見ておくもの
- 四半期の成約件数と1件あたりの売上
- コンサルタント数と1人あたりの成約件数
- 中小M&Aガイドラインの改訂と手数料に関する行政の動き
- M&A支援機関の登録数と同業大手の件数の推移
- ファンド売却益を除いた営業利益率
倍率と資本コストの決め方
倍率は式から決めた。資本コストは基本7.5%に質の上乗せ1.0%を足した8.5%、長期の成長率は4%、残る割合は並みの1/2で正当化PERを出し、中立はその7.5割に置いた。利益の波とファンド益の混在、手数料への圧力を考え上限すれすれにはしていない。今の株価と今のPERは倍率に使っていない。数量は成約件数で実質、物価は1件あたりの売上の側に入れ、二重には掛けていない。事務所の賃借は営業費用に入る固定費で、悲観の利益率に織り込んだ(今と同じ家賃を費用に入れる形でそろえ、新リース会計基準で数字の形が変わる点は10年後の置き方に影響させていない)。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 15.59→25.27 倍・やや楽観 PER 13.85→24.97 倍・中立 PER 12.42→24.8 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。