結論
アリババ・グループは、中国の淘宝・天猫を中心とする電子商取引と、アリババクラウドを収益の柱とする企業である。筆者の結論は「事業の基盤は強いが、現在の時価総額には十分な安全域がなく、やや割高」である。中国最大級の商取引網とクラウド基盤は10年後も必要とされるだろう。しかし、その規模から生まれる利益が、株主の手元に残るとは限らない。
添付財務の直近期は売上1441億ドル、営業利益84億ドル、純利益149億ドルである。営業利益率は5.8%まで低下し、フリーキャッシュフローは71億ドルの赤字になった。純利益には投資評価損益など営業外の要素が含まれるため、これをそのまま将来の稼ぐ力とは見ない。2026年6月期の四半期決算でも、クラウド売上は45%増えた一方、全社営業利益は57%減少した。成長事業の好調さと、成長投資の重さが同時に表れている。
10年先の価値を左右するのは、中国ECの広告収益力、即時配送の赤字縮小、クラウドの投資回収である。中立では、ECの取扱数量が緩やかに伸び、クラウドは大きく成長するものの、競争のため利益率の回復は限定的と見る。2025年末基準の純利益149億ドルに対し、10年後の中立純利益は260億ドルを見込む。これは物価上昇を含んだ名目値であり、利益の実質的な改善は数字ほど大きくない。
5つの筋書きの確率を反映した10年後の時価総額は約3105億ドル、期間中の正味還元は約747億ドルとなる。資本コスト8.5%で現在に割り戻した価値は約1870億ドルで、添付台帳の時価総額2396億ドルを約22%下回る。中国ECの市場支配力だけでなく、増分投資が資本コストを超えるかを見なければならない。利益が伸びても、それ以上に資本を必要とするなら株主価値は増えない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、アリババの商取引基盤は10年後も必要とされるだろう。販売者が集まる場所、消費者が選ぶ場所、注文を処理する仕組みは簡単には失われない。クラウドも企業の基幹システムを支えており、AIの利用が増えるほど計算需要が大きくなる可能性がある。事業が10年後に消えているという見方には賛成しない。
しかし、必要とされる事業であることと、株主に高い利益をもたらすことは別である。過去には商取引の高い利益率が海外投資や物流事業の拡大を支えてきた。現在は即時配送の競争とAI設備投資が資金を吸収している。会社の持つ堀が強くても、その利益を次の競争に投入し続ければ、株主が自由に使える現金は少なくなる。直近のフリーキャッシュフロー赤字は、その問題を具体的に示している。
一方、経営が資本配分を変える余地は大きい。赤字の事業で拡大競争を続けるより、収益率の高い広告とクラウドへ資金を集中し、余剰資金を株主へ戻せば企業価値は改善する。過去に大きな自社株買いを実施した実績は評価できる。ただし2026年の増資と設備投資は、当面の優先順位が還元ではなく成長にあることを示している。
筆者が最も重視するのは、クラウドの成長が設備投資の増加を上回り、即時配送の損失が縮小し、全社の増分ROICが資本コスト8.5%を安定して超えるかである。中国の規制、VIE、海外上場という構造上の不確実性も残る。強い事業に価値を認めながらも、その不確実性に対して価格の安全域を求めたい。現在の時価総額は、そこまで低いとは判断できない。
何で稼ぐ会社か
収益の中心は中国の淘宝・天猫である。消費者には幅広い商品と購入履歴に基づく推薦を提供し、出店者からは広告料や取引関連サービスの対価を受け取る。主力の顧客管理収入は、検索広告、商品推薦、販売成果に応じた課金から生まれる。利用者が商品を探し、販売者が集まり、広告が売れるという循環が事業の基本構造だ。88VIPという高頻度購入者向け会員制度もあり、2026年6月末の会員数は約6400万人に達した。
中国の即時配送は、淘宝即時配送、旧Ele.me、盒馬などを通じて飲食、食料品、日用品を届ける。注文数を増やしても、配達員への報酬や顧客への割引が大きければ利益は残らない。2026年6月期には即時配送収入が45%増加した。経営陣は注文単価と配送効率の改善を説明しているが、規模の拡大そのものを収益力の証拠とはしない。
海外事業はアリエクスプレス、ラザダ、トレンディオールなどの小売と、Alibaba.comによる企業間取引から成る。中国国内の1688.comも卸売の重要な基盤である。海外小売には直販、販売手数料、広告、物流収入が混在するため、売上高だけでは利益率がわからない。2026年6月期にはアリエクスプレスが営業黒字を達成したと会社が報告したものの、海外事業全体が安定した高収益事業になったとはまだいえない。
クラウドでは、計算能力、ストレージ、データベース、AIモデル利用を主に使用量に応じて販売する。Qwenモデルと自社半導体を組み合わせ、AI学習と推論を企業に提供する。2026年6月期のAIクラウド・計算サービス売上は約71億ドルで前年同期比45%増だった。これとは別に、QwenアプリやQwenWorkを含むAI研究・アプリケーション事業がある。こちらはモデル開発費と推論費用が重く、2026年6月期には調整後EBITAで約20億ドルの損失を計上した。
残る事業には物流、医療、地図、娯楽、ゲームなどがある。菜鳥の物流施設や配送網は電子商取引を支えるが、外部向けの物流サービス自体は競争が厳しい。アント・グループの持分は重要な投資資産だが、連結売上ではなく持分法などを通じて損益に反映される。したがって、中国商取引、海外商取引、クラウド、AIアプリ、周辺事業を同じ利益率で評価することはできない。
優良さと弱いところ
最大の堀は、消費者と販売者が同時に集まる商取引網である。消費者は商品の品ぞろえ、配送、返品、会員特典によって利用を続け、販売者は顧客を獲得するために広告費を支払う。この関係は競合が短期間で再現しにくい。購買履歴、注文、評価、商品情報という独自データも蓄積される。クラウドでは、企業システムの移行費用と運用上の切り替え負担が堀になる。
ただし、中国ECの堀は無傷ではない。拼多多は低価格、抖音は動画による発見型購買、京東は自社物流と正規品への信頼で競争している。アリババの顧客管理収入は2026年6月期に7%減少し、販売者支援策の会計上の減収影響を除いても成長率は1%だった。利用者を多く抱えていても、販売者への広告単価を自由に引き上げられるわけではない。値決め力の証拠は、会員数より広告収入と取扱高の関係に表れる。
クラウドの優位性は比較的明確である。Omdiaによれば、2025年7〜9月期の中国本土クラウド基盤市場でアリババのシェアは36%で、華為の16%、騰訊の9%を上回った。2026年6月期にはAI関連製品がクラウド収入を押し上げ、調整後EBITAも増加した。ただし、大規模な設備投資が必要なため、クラウドは利用料だけでなく資本回収率で評価する必要がある。
資本効率には弱さが残る。添付財務の過去10年ROE中央値は14.2%だが、直近は9.7%である。事業拡大の過程で利益率が下がり、物流、即時配送、AI設備に資本が固定化された。強い商取引網があっても、経営が競争事業に資金を投入し続ければ増分ROICは資本コストを下回りうる。筆者は商取引網とクラウドの堀を強いと評価する一方、その堀が広がっているという判断にはまだ慎重である。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
中国の電子商取引は成長産業だが、成熟が進んでいる。中国国家統計局による2025年のオンライン小売売上は約15.97兆元で、前年比8.6%増だった。実物商品のオンライン小売は約13.09兆元、前年比5.2%増である。2026年1〜8月のオンライン小売も増加したが、伸びは前年より鈍化している。人口減少と消費者の節約志向を考えると、米国ECの成長率をそのまま中国に当てはめることはできない。
中国市場では拼多多、京東、抖音、快手が有力な競合である。2025年の取扱高については、調査機関や証券会社の推計でアリババ約32%、拼多多約21%、抖音約20%、京東約17%という見方がある。ただし、取引の重複、サービスの範囲、直販売上の扱いが異なるため、政府統計のオンライン小売額と各社GMVを直接足し合わせることはできない。中立では中国の実質オンライン取扱市場が10年間で約1.3倍になる一方、アリババのシェアは緩やかに低下すると考える。
即時配送では美団が最大の競争相手で、京東も市場を開拓している。業界全体の注文が増えても、割引と配達員報酬の負担が続けば利益率は低い。市場の成長余地は大きいが、経済的な魅力は広告型マーケットプレイスより劣る。海外ではアマゾン、ショッピー、テム、シーインが競争相手となる。海外事業は市場を拡大できる一方、関税、物流費、現地規制、顧客獲得費が成長の代償になる。
クラウド市場は性格が異なる。Omdiaによる2025年7〜9月期の中国本土クラウド基盤支出は約134億ドルで、前年同期比24%増加した。アリババは首位だが、華為、騰訊、百度、通信事業者が増設を進めている。AI学習と推論の需要が設備を満たせば高い投資収益率が期待できる。しかし大手が同時に供給を増やせば、計算単価の低下と償却負担が利益を圧迫する。
AIエージェントは中国商取引の入口も変えうる。商品検索や広告表示を経ずに、エージェントが商品の比較と注文を行うようになれば、広告収益率は低下するかもしれない。一方、店舗、決済、物流、返品という実際の商取引基盤は残るため、プラットフォーム全体が不要になるとは考えない。価値が変わりやすいのは検索画面の広告と業務アプリであり、配送と計算基盤ではない。
資本政策と M&A
アリババは過去10年で商取引から得た資金を、物流、クラウド、海外事業、買収に大量に再投資してきた。菜鳥の物流網、ラザダなど海外事業への投資、アント・グループへの持分投資が代表例である。規模は拡大したが、商取引の高い利益率を維持できなかった。2024年には菜鳥の香港上場計画を取り下げ、物流をグループ内に残す判断をした。非中核の百貨店・小売資産は売却し、現在はAIとクラウドに投資の重心を移している。
株主還元の実績はある。添付財務では2021〜2024年の自社株買いが大きく、2023年から配当も実施した。しかし直近の自社株買いは減少した。2026年6月期の買い戻し額は約1.6億ドルで、過去の大規模還元と比べて小さい。2025年9月末時点の自社株買い承認残高は約191億ドルで、有効期限は2027年3月だったが、承認枠は実行の約束ではない。2026年度の通常配当は総額約25億ドルと会社が説明している。
最大の変化はAI設備投資である。2026年6月期だけで設備投資は約100億ドルに達した。会社は3年間で3800億元以上をAI・クラウド基盤へ投じる方針を示している。さらに2026年8月には香港で約800億香港ドル、約102億米ドルの新株発行を完了した。資金は計算基盤とデータセンターの増設に使う予定である。この増資は既に成立したため、将来の正味株主還元から払い込み額を控除して扱う。
支配構造にも注意が必要だ。アリババはケイマン諸島の持株会社で、中国国内の規制事業の一部はVIE契約を通じて支配している。さらにアリババ・パートナーシップには取締役候補を指名する強い権限がある。普通株は原則1株1議決権でも、少数株主が経営方針を変更できる力は限られる。大規模投資と増資を監督する立場の株主として、この点を割り引いて考える必要がある。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
中国の消費がオンラインへ移る流れは終わっていない。淘宝・天猫には商品供給、広告、配送、会員制度が集まり、販売者が別のプラットフォームへ完全移行するのは難しい。競合の拼多多や抖音が市場を広げても、アリババは品質と品ぞろえを重視する顧客を維持できる。88VIPの会員数が増加していることは、その粘り強さを示す。広告の費用対効果が改善すれば、取扱高の伸びが小さくても顧客管理収入は増えうる。
即時配送の損失は先行投資の性格が強い。2026年6月期には売上が45%増加し、会社は注文単価と配送効率の改善を説明した。店舗と配送網が一定の規模に達し、顧客獲得のための割引を減らせば、利益率は大きく改善する可能性がある。海外事業もアリエクスプレスの黒字化を出発点に、物流効率を改善できる。現在の低い全社営業利益率を永続的な弱さと決めつけるのは早い。
さらにクラウドには大きな成長余地がある。2026年6月期の売上成長率45%と調整後EBITAの増加は、AI需要が収益に転換し始めた証拠である。中国のクラウド基盤で首位の規模を持ち、自社半導体とQwenを組み合わせれば、単なる計算能力の販売から付加価値の高いサービスへ広がる。大規模投資の回収が進めば、増分利益は大きい。AI関連製品の収入が既に開示されているため、クラウドについては単なる期待だけの成長ではない。
大規模な買収を重ねなくても、既存の商取引基盤とクラウドが育てば利益は増える。設備投資が落ち着いた後には、自社株買いを再開する余地もある。優良な商取引基盤を持つ企業が投資期に低収益となっていることは、長期株主にとって利益回復の機会になりうる。
慎重な見方
商取引網の規模は大きいが、値決め力は弱まっている。2026年6月期の顧客管理収入は減収となり、補助金の会計上の影響を除いても小幅な増加にとどまった。拼多多は価格、抖音は商品の発見、京東は物流を武器に顧客と販売者を奪っている。販売者が複数のプラットフォームで商売することは難しくなくなり、アリババだけに広告費を集中させる理由は薄れている。
即時配送はさらに危うい。注文数が増えるほど配送網が効率化する利点はあるが、美団や京東も巨額の資金を投入している。割引が続けば、需要が増えても利益は出ない。飲食配送は顧客にとって価格差がわかりやすく、独占的な料金を設定しにくい。高い利益率を持つ広告事業が、赤字の配送事業を支える構造から抜け出せない可能性がある。
クラウドの売上成長率は高いが、投資回収はまだ証明されていない。2026年6月期の設備投資は約100億ドルで、同四半期のクラウド調整後EBITAを大幅に上回った。華為や騰訊もAI基盤を増設しており、計算需要が予想より弱ければ単価競争が起きる。半導体の世代交代も速い。設備の償却と更新費用が重くなれば、売上が増えてもオーナー利益は残らない。
AIエージェントは広告と業務ソフトにも影響する。検索画面を経ずに買い物が行われれば広告枠の価値が下がり、席課金の業務アプリには代替圧力がかかる。アリババは自社のQwenを使えるが、モデル開発と推論の費用も負担する。既存事業を守るためにAI投資を続けるなら、増分資本利益率は低くなりうる。
最後に、少数株主の権利が弱い。VIE契約、取締役指名権、中国の規制、海外上場に伴う地政学上の制約がある。2026年には大型増資も実施された。商取引とクラウドが成長しても、株主が受け取る現金が増えなければ、事業の成長は投資家の利益にならない。
どちらに重みを置いたか
商取引網とクラウドが10年後も重要であるという点では、強い見方に分がある。中国クラウドでの首位の地位と、既に計上されているAI関連収入は評価できる。ただし、利益率と資本配分については慎重な見方が強い。即時配送の赤字、AI設備投資の急増、2026年の増資は、利益が株主へ戻るまでに大きな資本を必要とすることを示している。
確率は楽観10%、やや楽観19%、中立32%、やや悲観25%、悲観14%とした。慎重側の合計39%は、AIエージェント代替そのものを何重にも数えたものではない。中国ECの価格競争、設備投資の回収失敗、規制と資本配分の不確実性を反映している。10年価値は現在の時価総額を約22%下回り、結論はやや割高となる。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 129.15 ドル3,105 億ドル(+ 還元の換算額還元の合計 31.05 ドル747 億ドル)。 今の値に割り戻すと 77.77 ドル1,870 億ドル、今との差 −20.7%、 期待の年率 +5.7%(資本コスト 8.5%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 285.92 ドル6,875 億ドル | 66.55 ドル1,600 億ドル | +259.5% | +15.8% | 35.25 ドル847 億ドル |
| やや楽観 | 19% | 188.41 ドル4,530 億ドル | 51.99 ドル1,250 億ドル | +145.2% | +10.9% | 45.68 ドル1,098 億ドル |
| 中立 | 32% | 125.67 ドル3,022 億ドル | 32.44 ドル780 億ドル | +61.3% | +5.5% | 50.60 ドル1,217 億ドル |
| やや悲観 | 25% | 80.30 ドル1,931 億ドル | 15.39 ドル370 億ドル | −2.4% | −0.3% | 23.92 ドル575 億ドル |
| 悲観 | 14% | 31.94 ドル768 億ドル | 2.08 ドル50 億ドル | −65.3% | −10.3% | 4.76 ドル114 億ドル |
| 加重平均 | 100% | 129.15 ドル3,105 億ドル | 31.05 ドル747 億ドル | +63.4% | +5.7% | 160.20 ドル3,852 億ドル |
今の株価時価総額 98.04 ドル2,357 億ドル(2026-10-30)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 10% 楽観:ECの堀を守り、クラウド投資が高収益へ転換する 利益 490 億ドル · PER 13.7 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 285.92 ドル6,875 億ドル
中国のオンライン商取引市場は実質で約3割拡大し、淘宝・天猫はおおむね現在のシェアを維持する。拼多多の低価格路線と抖音の動画販売は続くが、アリババは会員制度、商品供給、購入履歴を使い、品質と利便性で顧客を維持する。顧客管理収入の実効単価も上がり、広告収益は現在の約2倍となる。販売者への補助金を減らしても流出は限定的で、広告事業の高い利益率が保たれる。
即時配送は注文数と単価の改善が進み、配送網の稼働率が高まる。美団との競争は続くが、価格だけで顧客を奪う段階から移り、小幅ながら利益が出る。海外商取引はアリエクスプレスとラザダが物流費を抑え、営業利益率を改善する。周辺事業も整理が進み、赤字事業の売却や縮小によって資本効率が上がる。
クラウドでは、中国の実質計算需要が大きく伸び、首位の規模を維持する。Qwenと自社半導体が利用され、クラウドの売上は約1018億ドル、営業利益率は23.5%まで改善する。AIアプリ自体は大きな収益源にならず、操作画面・席課金の代替圧力を受けるが、クラウドの利用増が損失を補う。設備投資の回収が進み、資本コストを上回る増分利益が確保される。
10年間の純利益累計は約3196億ドルで、正味還元1600億ドルを実施する。2026年に成立した増資の払い込みを控除しても、設備投資が落ち着いた後は多額の自社株買いと配当が可能になる。余剰現金は100億ドルから200億ドルへ増え、残る利益は成長設備と運転資本に再投資される。
- 中国EC・広告と顧客管理:数量 15,600(中国ECにおける当社GMVの実質取扱高(億ドル))× 価格 0.06(取扱高に対する顧客管理収入率)→ 売上 983 億ドル・営業利益 482 億ドル。市場の実質拡大とシェア維持。広告収益率の改善で単価は現在の約1.56倍。
- 中国EC・直販と通常物流:数量 15,600(中国ECの実質GMVを用いた販売・物流活動量の代理指標(億ドル))× 価格 0.02(活動量当たりの直販・通常物流売上係数)→ 売上 278 億ドル・営業利益 6 億ドル。直販・物流は成長するが、利益率は低く抑える。
- 中国即時配送・近隣小売:数量 460(年間注文数の推定(億件))× 価格 1.06(注文1件当たりの実効売上(ドル))→ 売上 488 億ドル・営業利益 7 億ドル。配送効率と注文単価が改善し、薄い黒字を実現する。
- 海外商取引・国内卸売:数量 8,000(越境・卸売の実質取扱活動量(億ドル、推定))× 価格 0.09(取扱活動量当たりの実効売上係数)→ 売上 720 億ドル・営業利益 40 億ドル。海外GMVの拡大と物流効率化で利益率5.5%。
- AIクラウド・計算基盤:数量 1,850(中国本土クラウド基盤市場の実質支出額(億ドル))× 価格 0.55(市場に対する当社売上比率・実効単価指数)→ 売上 1,018 億ドル・営業利益 239 億ドル。中国AIクラウドの首位を守り、投資回収率が改善する。
- AI研究・エージェントアプリ:数量 1,550(有料利用者換算のID数(万ID、推定))× 価格 135(有料利用者換算ID当たり年間売上(ドル))→ 売上 21 億ドル・営業利益 −7 億ドル。席型のAIアプリは代替圧力が残り、楽観でも実質数量は現在以下。
- 物流・医療・地図・娯楽等:数量 190(物流配送件数相当の複合活動量(億件、推定))× 価格 3.25(複合活動量当たり売上換算額(ドル))→ 売上 618 億ドル・営業利益 15 億ドル。物流・医療・地図事業の効率化と不採算事業の整理。
倍率:資本コストk8.5%、10年後以降の名目g2.5%。事業ROEは余剰現金と対応利息を除いた約16.6%。強い堀の残存割合2/3によりRONICは約13.9%。正当化PERは(1−g÷RONIC)÷(k−g)×(1+g)で約14.0倍となる。クラウドと広告の高収益が続く楽観なので、その約98%に当たる13.7倍を採用する。2035年時点の全社利益成長率は10%未満へ減速すると考えるため、終価に追加の高成長期間を重ねない。GAAP純利益490億ドルから余剰現金200億ドルの税引後受取利息相当2.8億ドルを除き、事業価値へPERを適用した後、現金200億ドルを額面で足す。
確率:中国ECのシェア維持、即時配送の黒字化、クラウドの高い投資回収率が同時に成立する筋書き。既存事業の強さには根拠があるが、AIへの大型投資の回収まで順調に進む確率は1割程度と考える。
やや楽観 19% やや楽観:ECの広告収益が持ち直し、クラウドが利益の柱になる 利益 354 億ドル · PER 12.4 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 188.41 ドル4,530 億ドル
中国のオンライン市場は着実に拡大するが、拼多多と抖音に一部の取扱高を奪われる。それでも淘宝・天猫は幅広い商品と会員制度により主力顧客を維持し、広告収入は増加する。広告単価は物価におおむね沿って上がるが、販売者への補助金が必要なため実質的な値上げ幅は小さい。直販と通常物流は売上を増やすものの、営業利益率は低いままである。
即時配送は美団との競争で黒字化が遅れる。ただし注文数の増加と配送効率化により、損失は現在より大幅に縮む。海外ではアリエクスプレスを中心に物流コストが低下し、海外小売・卸売の営業利益が安定する。菜鳥などの周辺事業では、資本効率を重視した整理が進む。
クラウドは中国企業のAI導入とデータ処理の増加を取り込み、売上が約867億ドルへ成長する。華為と騰訊の追い上げはあるが、基幹システムの移行費用と自社半導体による原価改善が利益を守る。営業利益率は18.5%となり、クラウドが全社利益の重要な柱になる。QwenWorkなどの席型業務アプリではAIエージェント代替により数量が減り、AIアプリ部門はなお小幅な赤字となる。
10年間の純利益累計は約2516億ドルとなる。正味還元は1250億ドルで、設備投資と還元を両立する。純現金は大きく積み上げず、期末余剰現金は170億ドルとする。中国の制度面で大きな変更はなく、VIEの経済的利益が持株会社に継続して帰属する。
- 中国EC・広告と顧客管理:数量 14,600(中国ECにおける当社GMVの実質取扱高(億ドル))× 価格 0.06(取扱高に対する顧客管理収入率)→ 売上 847 億ドル・営業利益 381 億ドル。中国ECシェアは小幅低下。広告単価はほぼ物価並み。
- 中国EC・直販と通常物流:数量 14,600(中国ECの実質GMVを用いた販売・物流活動量の代理指標(億ドル))× 価格 0.02(活動量当たりの直販・通常物流売上係数)→ 売上 252 億ドル・営業利益 3 億ドル。直販と通常物流は低利益率のまま成長する。
- 中国即時配送・近隣小売:数量 420(年間注文数の推定(億件))× 価格 0.96(注文1件当たりの実効売上(ドル))→ 売上 403 億ドル・営業利益 −18 億ドル。注文は増えるが競争が続き、完全黒字化には至らない。
- 海外商取引・国内卸売:数量 7,300(越境・卸売の実質取扱活動量(億ドル、推定))× 価格 0.09(取扱活動量当たりの実効売上係数)→ 売上 635 億ドル・営業利益 17 億ドル。海外販売量の拡大と物流の効率化による利益改善。
- AIクラウド・計算基盤:数量 1,700(中国本土クラウド基盤市場の実質支出額(億ドル))× 価格 0.51(市場に対する当社売上比率・実効単価指数)→ 売上 867 億ドル・営業利益 160 億ドル。中国クラウド基盤で首位を維持し、営業利益率18.5%。
- AI研究・エージェントアプリ:数量 1,400(有料利用者換算のID数(万ID、推定))× 価格 134(有料利用者換算ID当たり年間売上(ドル))→ 売上 19 億ドル・営業利益 −12 億ドル。席型AIアプリの数量は0.875倍、価格は1.12倍。
- 物流・医療・地図・娯楽等:数量 185(物流配送件数相当の複合活動量(億件、推定))× 価格 3.15(複合活動量当たり売上換算額(ドル))→ 売上 583 億ドル・営業利益 −3 億ドル。周辺事業の採算は改善するが、利益貢献は限定的。
倍率:k8.5%、長期g2.5%。現金とその利息を除いた事業ROEは約13.4%で、強い堀の残存割合2/3からRONICは約11.7%。10年目の利益に対応する正当化PERは約13.5倍。クラウドの設備更新とECの価格競争が残るため、その約92%の12.4倍を採用した。GAAP純利益354億ドルから余剰現金170億ドルの利息相当2.38億ドルを除き、PERを掛けて現金170億ドルを加算する。
確率:中国ECのシェアを大きく失わず、海外事業と即時配送の損益が改善する展開。クラウド成長の実績を踏まえると十分考えられるが、設備投資の高い回収率を10年維持するには競争上の不確実性が残る。
中立 32% 中立:クラウドは成長するが、ECの競争が利益回復を抑える 利益 260 億ドル · PER 11.2 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 125.67 ドル3,022 億ドル
中国のオンライン市場は10年間で実質約1.3倍へ拡大する。しかし拼多多、抖音、京東との競争により、淘宝・天猫の市場シェアは現在の約32%から28%程度へ下がる。プラットフォームから顧客が一斉に離れることはないが、販売者は複数の販路を利用する。広告の価格は物価におおむね沿って上昇し、顧客管理収入は764億ドルとなる。広告の営業利益率は43%で、現在の強さをある程度維持する。
即時配送では美団と京東の競争が続く。注文数は増えるが補助金と配達員報酬の負担が重く、営業赤字が残る。海外事業はアリエクスプレスの効率化が進み、営業黒字を確保するが、アマゾンやショッピーとの競争によって高利益率にはならない。物流・医療・地図などの周辺事業も売上を増やす一方、資本を多く必要とする。
クラウドの実質需要は10年間で約2.5倍へ拡大する。アリババは中国市場で首位の規模を保つが、華為、騰訊、通信事業者との競争で値決め力は限定的となる。クラウド売上は798億ドル、営業利益率は16%まで改善する。AIエージェント需要はクラウドにとって追い風だが、席型のQwenWorkなどは代替され、AIアプリの有料利用者換算数量は現在の0.75倍となる。広告の入口にもAIの影響が生じるが、購買履歴と配送網を持つ基盤は残る。
全社営業利益は325億ドル、GAAP純利益は260億ドルとなる。10年間の純利益累計は約2046億ドルで、正味還元780億ドルを差し引いた自己資本は約2801億ドルとなる。余剰現金は130億ドルとし、期間中の利益の相当部分はAI設備、物流、運転資本に再投資される。
- 中国EC・広告と顧客管理:数量 13,650(中国ECにおける当社GMVの実質取扱高(億ドル))× 価格 0.06(取扱高に対する顧客管理収入率)→ 売上 764 億ドル・営業利益 329 億ドル。中国オンライン市場実質1.3倍、当社シェア32%から28%へ低下。
- 中国EC・直販と通常物流:数量 13,650(中国ECの実質GMVを用いた販売・物流活動量の代理指標(億ドル))× 価格 0.02(活動量当たりの直販・通常物流売上係数)→ 売上 227 億ドル・営業利益 2 億ドル。販売量は小幅増加。直販の原価負担で営業利益率1%。
- 中国即時配送・近隣小売:数量 384(年間注文数の推定(億件))× 価格 0.92(注文1件当たりの実効売上(ドル))→ 売上 353 億ドル・営業利益 −32 億ドル。注文数量2.4倍、単価は1.33倍。配送競争で赤字継続。
- 海外商取引・国内卸売:数量 6,500(越境・卸売の実質取扱活動量(億ドル、推定))× 価格 0.09(取扱活動量当たりの実効売上係数)→ 売上 553 億ドル・営業利益 8 億ドル。海外EC市場の実質成長を取り込むが、物流費と競争で低採算。
- AIクラウド・計算基盤:数量 1,550(中国本土クラウド基盤市場の実質支出額(億ドル))× 価格 0.52(市場に対する当社売上比率・実効単価指数)→ 売上 798 億ドル・営業利益 128 億ドル。中国クラウドの実質市場が約2.5倍、シェアは大きく変わらない。
- AI研究・エージェントアプリ:数量 1,200(有料利用者換算のID数(万ID、推定))× 価格 129(有料利用者換算ID当たり年間売上(ドル))→ 売上 15 億ドル・営業利益 −14 億ドル。AIエージェント代替の席型。数量0.75倍、単価1.08倍、長期gは0%以下。
- 物流・医療・地図・娯楽等:数量 170(物流配送件数相当の複合活動量(億件、推定))× 価格 3.12(複合活動量当たり売上換算額(ドル))→ 売上 530 億ドル・営業利益 −11 億ドル。物流・周辺サービスは拡大するが、資本負担が利益率を抑える。
倍率:k8.5%、長期名目g2.5%。現金と対応利息を除いた事業ROEは約9.7%となり、資本コストを小幅に上回る。強い堀の残存割合2/3によるRONICは約9.3%。式(1−g÷RONIC)÷(k−g)×(1+g)による正当化PERは約12.5倍である。中国ECの競争とクラウドの設備更新負担を考慮し、上限の約90%に相当する11.2倍とした。ROEが高いから成長するとは考えず、gは市場数量・シェア・価格から独立に決めた。時価総額はGAAP純利益260億ドルから現金130億ドルの税引後利息相当1.82億ドルを差し引き、11.2倍を適用した後に現金130億ドルを足す。
確率:中国ECの市場拡大とシェア低下が併存し、即時配送は赤字縮小、クラウドは成長するものの資本効率の改善が限定的な展開。直近の四半期決算と競争環境から最も自然な道筋と考える。
やや悲観 25% やや悲観:中国ECの広告単価が伸びず、クラウドの資本効率も低下する 利益 193 億ドル · PER 9.6 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 80.30 ドル1,931 億ドル
中国のオンライン市場は拡大するが、淘宝・天猫のシェアは低下する。拼多多は低価格商品を、抖音は動画を通じた購入を伸ばし、販売者は広告費を複数の媒体へ分散する。アリババは補助金を使って顧客を維持するため、顧客管理収入の実効単価は物価ほど上がらない。広告事業は依然として利益を生むが、以前のような価格決定力はない。
即時配送は注文が増えても赤字から抜け出せない。美団と京東が競争を続け、配送員報酬、注文割引、顧客獲得費が利益を削る。海外事業も関税と配送費の負担から損益均衡にとどまる。周辺事業では物流網の固定費が残り、売上を増やしても大きな利益にはならない。
クラウドの実質市場は成長するものの、華為、騰訊、通信事業者の供給拡大によって計算単価が下がる。自社半導体による原価優位は限定的で、営業利益率は15.5%にとどまる。Qwenの開発費と推論費用も続き、AIアプリは黒字化しない。AIエージェントが購買の入口を一部握るため、広告の値決め力にも圧力がかかる。
全社営業利益は240億ドル、純利益は193億ドルとなる。10年間の純利益累計は約1711億ドルだが、競争に必要な投資を多く残す。正味還元は370億ドルへ減少し、期末の余剰現金は90億ドルにとどまる。経営は事業の支配力を維持しても、資本コストを十分に上回る新規投資ができない会社になる。
- 中国EC・広告と顧客管理:数量 12,800(中国ECにおける当社GMVの実質取扱高(億ドル))× 価格 0.05(取扱高に対する顧客管理収入率)→ 売上 650 億ドル・営業利益 280 億ドル。競合にシェアを奪われ、広告の実効単価は物価を下回る伸び。
- 中国EC・直販と通常物流:数量 12,800(中国ECの実質GMVを用いた販売・物流活動量の代理指標(億ドル))× 価格 0.02(活動量当たりの直販・通常物流売上係数)→ 売上 198 億ドル・営業利益 0 億ドル。商品販売と通常物流は競争で損益均衡。
- 中国即時配送・近隣小売:数量 320(年間注文数の推定(億件))× 価格 0.80(注文1件当たりの実効売上(ドル))→ 売上 256 億ドル・営業利益 −32 億ドル。配達競争と割引が続き、営業赤字が残る。
- 海外商取引・国内卸売:数量 5,700(越境・卸売の実質取扱活動量(億ドル、推定))× 価格 0.08(取扱活動量当たりの実効売上係数)→ 売上 439 億ドル・営業利益 0 億ドル。海外ECは競争・関税・物流費で損益均衡。
- AIクラウド・計算基盤:数量 1,200(中国本土クラウド基盤市場の実質支出額(億ドル))× 価格 0.48(市場に対する当社売上比率・実効単価指数)→ 売上 576 億ドル・営業利益 89 億ドル。クラウド市場は拡大するが、単価下落と過剰設備が利益を圧迫。
- AI研究・エージェントアプリ:数量 1,180(有料利用者換算のID数(万ID、推定))× 価格 121(有料利用者換算ID当たり年間売上(ドル))→ 売上 14 億ドル・営業利益 −14 億ドル。席型AIアプリの数量は0.74倍となり、研究開発赤字が続く。
- 物流・医療・地図・娯楽等:数量 160(物流配送件数相当の複合活動量(億件、推定))× 価格 2.82(複合活動量当たり売上換算額(ドル))→ 売上 451 億ドル・営業利益 −9 億ドル。周辺事業の設備・物流固定費が残る。
倍率:k8.5%。10年後の自己資本ROEは約6.7%、現金を除いた事業ROEも約6.9%で資本コストを下回る。増分投資に超過収益を期待できないため、PERは1÷kの約11.8倍を上限とし、その内側の9.6倍とした。強い堀の一部が残っても、利益率の悪化と投資効率の低下が続く。中立の11.2倍より低い。現金90億ドルの税引後利息相当1.26億ドルをGAAP純利益193億ドルから除き、9.6倍を掛けた後に現金を額面で加える。
確率:拼多多と抖音の競争、即時配送の長期赤字、クラウドの設備投資過多が一部重なる筋書き。現在の減益と大規模投資から見て無視できず、4分の1の確率を認める。
悲観 14% 悲観:ECの堀が大きく削られ、AI投資と配送競争が資本を消耗する 利益 63 億ドル · PBR 0.5 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 31.94 ドル768 億ドル
中国のオンライン商取引は存続するが、購入の入口が抖音やAIエージェントに移り、拼多多が低価格市場を広げる。淘宝・天猫は商品供給と既存顧客を維持するものの、取扱高シェアを大きく失う。販売者は広告費を削減し、アリババは補助金や手数料の引き下げで残った顧客を守る。実効広告単価は物価に追いつかず、顧客管理収入の実質価値が大きく低下する。
即時配送は美団や京東との消耗戦となる。注文数が増えても単価は上がらず、赤字が構造的に残る。海外事業ではテム、ショッピー、アマゾンとの競争に敗れ、物流費と関税が収益を圧迫する。菜鳥などの物流設備にも過剰能力が残り、一部の設備と投資資産を減損または売却する。経営が大型買収を行わなくても、過去の設備投資が株主資本を拘束する。
クラウドでは華為と通信事業者が低価格の計算基盤を拡大し、アリババのシェアと単価が低下する。AI向け設備は世代交代が早く、償却と更新負担が増える。Qwenの業務アプリは汎用AIエージェントに代替され、有料利用者換算収入は現在の約半分になる。モデル開発費と推論費用は残り、AIアプリの赤字が継続する。
全社営業利益は76億ドル、純利益は63億ドルに低下する。純利益累計は減損や売却を含む期間の低収益を反映し約1061億ドルとした。正味還元は50億ドルに縮小し、期末の余剰現金も50億ドルとなる。帳簿上の自己資本が残っても、VIEの換金制約とのれん・設備の低い回収率から額面の資産価値を期待しない。現在の純現金と売却可能資産を保守的に見た床を基準に、会社全体の価値を評価する。
- 中国EC・広告と顧客管理:数量 10,000(中国ECにおける当社GMVの実質取扱高(億ドル))× 価格 0.05(取扱高に対する顧客管理収入率)→ 売上 470 億ドル・営業利益 155 億ドル。中国ECのシェア喪失と広告収益率低下で、堀が大幅に縮小。
- 中国EC・直販と通常物流:数量 10,000(中国ECの実質GMVを用いた販売・物流活動量の代理指標(億ドル))× 価格 0.01(活動量当たりの直販・通常物流売上係数)→ 売上 145 億ドル・営業利益 −7 億ドル。直販と通常物流は価格競争で赤字。
- 中国即時配送・近隣小売:数量 240(年間注文数の推定(億件))× 価格 0.68(注文1件当たりの実効売上(ドル))→ 売上 163 億ドル・営業利益 −41 億ドル。即時配送は補助金・配送費負担が続き、構造赤字。
- 海外商取引・国内卸売:数量 4,400(越境・卸売の実質取扱活動量(億ドル、推定))× 価格 0.07(取扱活動量当たりの実効売上係数)→ 売上 286 億ドル・営業利益 −16 億ドル。海外ECは競争と関税・物流費で赤字。
- AIクラウド・計算基盤:数量 850(中国本土クラウド基盤市場の実質支出額(億ドル))× 価格 0.43(市場に対する当社売上比率・実効単価指数)→ 売上 361 億ドル・営業利益 29 億ドル。クラウドはシェア低下と設備過剰で利益率8%。
- AI研究・エージェントアプリ:数量 850(有料利用者換算のID数(万ID、推定))× 価格 119(有料利用者換算ID当たり年間売上(ドル))→ 売上 10 億ドル・営業利益 −10 億ドル。AIエージェント代替により席型収入は約半分へ縮小。
- 物流・医療・地図・娯楽等:数量 150(物流配送件数相当の複合活動量(億件、推定))× 価格 2.60(複合活動量当たり売上換算額(ドル))→ 売上 390 億ドル・営業利益 −12 億ドル。物流・周辺事業の固定費と資産減損が重い。
倍率:ROEは約2.5%でk8.5%を大幅に下回り、持続的な超過利益がないため利益成長を前提とした高いPERは認めない。現在の自己資本1535.7億ドルのうち、規制事業の換金制約、のれん、過剰設備、持分投資の処分損を考慮して約半分を回収可能と評価する資産価値方式とした。PBR0.5倍は市場の過去の底値ではなく、事業が構造的に敗北した時の資産回収率に基づく。時価総額は現在の自己資本1535.7億ドル×0.5倍=767.85億ドル。純現金は資産の床に含めており、重複して加算しない。
確率:拼多多・抖音へのシェア喪失、クラウドの設備過剰、規制や地政学上の制約が重なる構造的な敗北。中国の巨大商取引基盤が完全に消える可能性は低いため、倒産ではなく低収益化と資産価値の毀損を想定し14%とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億ドル。
中国EC・広告と顧客管理
淘宝・天猫の出店者向け広告、販売促進、成果報酬、顧客管理サービス。自社プラットフォームの広告枠であり、広告制作代理店とは異なる。
| 数量中国ECにおける当社GMVの実質取扱高(億ドル) | 価格取扱高に対する顧客管理収入率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 12,000 | 0.04 | 484 | 260 |
| 10 年後 中立 | 13,650 | 0.06 | 764 | 329 |
取り方:2026年3月期20-Fの顧客管理収入は3439億元である。添付の全社売上1441.2億ドルを正本とするため、会社開示の事業構成比を用いて約484億ドルへ換算した。取扱高12000億ドルは2025年のアリババGMV約8.3兆元という外部推計をドル換算した概数であり、会社公表の確定GMVではない。収入率4.0%はこの取扱高に対する実効収益率。営業利益260億ドルは広告の高い粗利率と共通費用を考慮した推計で、会社開示の単独利益ではない。中国EC市場と競合シェアはGoldman Sachsの2025年推計を参照。https://www.aastocks.com/en/usq/quote/stock-news-content.aspx?id=NOW.1450948&symbol=BABA
中国EC・直販と通常物流
天猫超市、天猫国際などの商品直販、通常配送、関連サービス。売上を総額で認識する取引があるため、広告より利益率が低い。
| 数量中国ECの実質GMVを用いた販売・物流活動量の代理指標(億ドル) | 価格活動量当たりの直販・通常物流売上係数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 12,000 | 0.01 | 149 | −3 |
| 10 年後 中立 | 13,650 | 0.02 | 227 | 2 |
取り方:20-Fの中国EC直販・物流等の収入1055億元を基礎に、添付の全社売上へ合わせた事業別換算額を用いた。自社直販の注文数・平均販売単価は一括開示されないため、中国ECの取扱活動量を代理数量とし、実効売上係数を計算した。これは直販商品の手数料率ではなく、直販売上と物流売上を含む売上係数である。営業利益は仕入原価と物流費を負担する低採算構造を反映した推定値。
中国即時配送・近隣小売
淘宝即時配送、旧Ele.me、盒馬などの飲食・食料品・日用品の即時配送。配達料金、広告、直販売上から収入を得る。
| 数量年間注文数の推定(億件) | 価格注文1件当たりの実効売上(ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 160 | 0.69 | 111 | −85 |
| 10 年後 中立 | 384 | 0.92 | 353 | −32 |
取り方:20-Fの2026年3月期即時配送収入785億元を基礎に、添付財務へ換算した。会社は通年注文数と全事業統一の注文単価を開示していない。2025年に淘宝即時配送の日次注文が4000万件を超えたとの報道などから、事業拡大途中の通年換算160億件を推定した。0.69ドルは補助金、物流サービス、直販売上を混ぜた実効収入で、消費者の支払総額ではない。営業損失は中国ECセグメントの投資負担から分離した推定額。数量・単価とも不確実性が高い。
海外商取引・国内卸売
AliExpress、Lazada、Trendyol、Alibaba.com、1688.comによる小売・卸売。販売手数料、広告、会費、直販、物流から収入を得る。
| 数量越境・卸売の実質取扱活動量(億ドル、推定) | 価格取扱活動量当たりの実効売上係数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 3,500 | 0.07 | 240 | −3 |
| 10 年後 中立 | 6,500 | 0.09 | 553 | 8 |
取り方:20-Fの海外商取引売上1442億元と中国国内卸売263億元を合計し、添付全社売上に対する比率で約240億ドルとした。取扱高・注文数は各プラットフォームで開示範囲が異なるため、越境取引、国内卸売、直販を含む活動量3500億ドルを仮定した。価格は実効収益率であり、純粋な販売手数料率ではない。利益は海外事業の調整後EBITAがほぼ損益均衡に近づいた開示を参考に推定した。
AIクラウド・計算基盤
アリババクラウドの計算、保存、データベース、AIモデル利用、推論基盤、自社半導体関連サービス。主に使用量に応じて課金する。
| 数量中国本土クラウド基盤市場の実質支出額(億ドル) | 価格市場に対する当社売上比率・実効単価指数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 610 | 0.37 | 223 | 20 |
| 10 年後 中立 | 1,550 | 0.52 | 798 | 128 |
取り方:2026年3月期のクラウド売上1581億元を、添付財務の全社売上に合わせて約223億ドルへ換算した。Omdiaの2025年7〜9月期中国本土クラウド基盤支出134億ドルを年率換算し、2026年までの実質成長を加えて市場610億ドルと推計した。実効売上比率36.5%はOmdiaのアリババシェア36%を基準とするが、海外事業やサービス範囲の違いがあるため厳密な中国国内市場シェアと同一ではない。営業利益は開示のクラウド調整後EBITAとGAAP費用の違いを考慮した。https://omdia.tech.informa.com/pr/2026/feb/mainland-chinas-cloud-infrastructure-market-accelerates-to-24percent-growth-in-q3-2025
AI研究・エージェントアプリ
Qwenモデル、Qwenアプリ、QwenWorkなどのAIアプリケーション。業務画面や利用IDに依存する部分にはAIエージェント代替の圧力がある。
| 数量有料利用者換算のID数(万ID、推定) | 価格有料利用者換算ID当たり年間売上(ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1,600 | 119 | 19 | −41 |
| 10 年後 中立 | 1,200 | 129 | 15 | −14 |
取り方:2026年6月期に初めて独立して開示されたAI Labs and Applicationsの四半期収入33.38億元、約4.92億ドルを年率換算し、約19億ドルの事業規模を推定した。添付の基準年度では周辺事業からの参考的な組み替えであり、正式な通年セグメント開示ではない。会社は有料ID数やQwenWork単独売上を開示していないため、1600万有料ID当量と年額119ドルは収入を表現するための仮定である。2026年6月期の調整後EBITA損失約20億ドルを踏まえ、研究開発と推論費用の大きな赤字を見込んだ。AIエージェント代替の席・操作画面型に分類し、中立数量0.75倍、価格1.08倍とする。
物流・医療・地図・娯楽等
菜鳥の物流、アリババヘルス、高徳地図、デジタル娯楽、ゲームなど。物流、直販、医療サービス、広告など収益モデルが混在する。
| 数量物流配送件数相当の複合活動量(億件、推定) | 価格複合活動量当たり売上換算額(ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 150 | 2.26 | 339 | −22 |
| 10 年後 中立 | 170 | 3.12 | 530 | −11 |
取り方:20-FのAll Others売上2544億元を添付財務基準へ換算した約358億ドルから、AI研究・アプリの概算19億ドルを分離した。菜鳥の配送量を中心に中国の物流市場と周辺サービスを活動量150億件相当で表現したが、医療や地図など異なる単位の事業をまとめているため、2.26ドルは実際の荷物単価ではない。会社は統一数量を開示せず、この代理指標の予測精度は低い。All Others全体の調整後EBITA損失にはAI開発費も含まれるため、AI事業の赤字を分離した後の残余営業損益を推定した。
リスクと懸念
中国ECのシェア低下と広告収益率の悪化
淘宝・天猫は巨大な顧客基盤を持つが、拼多多は低価格、抖音は動画、京東は物流の信頼性で競争している。販売者が複数の媒体を利用すれば、アリババの広告単価は上げにくくなる。2026年6月期の顧客管理収入は補助金の会計上の影響を受け、実質的な成長も鈍かった。GMVが増えても広告収益率が下がるなら、営業利益の成長は限定的となる。
AI設備投資の回収失敗
2026年6月期の設備投資は約100億ドルで、AI向けデータセンターと半導体の増設が中心である。中国クラウド市場には華為、騰訊、通信事業者が参加しており、供給能力が需要を上回ると計算単価が下がる。半導体の更新も速い。売上成長が減価償却と維持投資に追いつかなければ、会計上の利益が出ても株主が自由に使える現金は増えない。
即時配送の補助金競争
淘宝即時配送は注文数を増やしているが、美団と京東も市場を争う。注文数が増えても配達員報酬、配送網の稼働費、割引、広告宣伝費が大きければ赤字は残る。広告型の商取引とは違い、実際に商品を届けるための費用を負担する。高収益の顧客管理収入が配送事業を長期間支える構造になれば、連結ROICは低下する。
AIエージェント代替
QwenWorkなどの業務アプリは、人が画面を操作し、利用IDや席に対して料金を払う仕組みを一部含む。この部分はAIエージェントが業務を直接実行することで代替される可能性が高い。広告もAIが商品を選ぶと検索画面の価値が下がる。一方、商品供給、配送、決済、クラウド基盤そのものは簡単には代替されない。中立では席型アプリの利用数量を10年で0.75倍とし、価格上昇も物価より低く抑えている。
中国の規制・VIE・地政学
アリババのADR保有者はケイマン諸島の持株会社を通じて事業利益に参加する。中国で外国資本の保有が制限される事業は、VIEという契約上の支配形態を利用している。中国の規制変更や資金移動制限、米中関係の悪化は株主への現金移転を難しくする可能性がある。先端半導体の輸出規制もクラウド設備の能力と調達費用を左右する。
少数株主の権利と資本配分
アリババ・パートナーシップには取締役候補の指名権があり、外部株主が資本配分を変えさせる力は限られる。2026年8月には約102億ドルの新株発行が完了した。既存株主にとって、成長投資の利益が増資や株式報酬による希薄化を上回ることが必要になる。利益率の低い事業へ再投資を続ければ、企業規模が拡大しても株主の取り分は増えない。
GAAP利益とフリーキャッシュフローの乖離
添付の直近財務では純利益149億ドルに対してフリーキャッシュフローが71億ドルの赤字であり、株主が使える現金は会計利益より大きく少ない。投資評価益や売却損益もGAAP純利益を変動させる。2026年6月期には売上が増えた一方で利益が減少した。AI設備の償却、株式報酬、維持投資、少数株主利益を無視して調整後利益だけを資本化すると、本質価値を過大評価する。
今後の分かれ目
- 中国ECの顧客管理収入が補助金調整後で3年間、年5%以上成長し、販売者向け収益率も改善したら
- 淘宝・天猫の値決め力が想定より強いと判断する。中国ECのシェア低下を緩やかにし、やや楽観の確率を上げる。
- 即時配送が四半期ベースで黒字化し、その後も補助金を減らして営業黒字を維持したら
- 物流規模の経済が利益へ転換した証拠となる。中立の営業利益を引き上げ、資本の追加投入を減らせる。
- クラウド売上の成長が設備投資の伸びを上回り、営業利益率が20%以上で安定したら
- AI投資の増分ROICが資本コストを超えている可能性が高まる。楽観側の利益と確率を引き上げる。
- クラウドの成長率が10%未満へ急減し、設備償却と維持投資が増加したら
- 大型設備投資の回収失敗を疑い、やや悲観と悲観の確率を引き上げる。売上成長より営業利益と現金創出を重視する。
- QwenWorkなど業務アプリの有料利用者数が減り、AIアプリ損失が続いたら
- AIエージェント代替による操作画面・席課金型事業の縮小が進んだと判断する。AIアプリの数量と長期成長率をさらに下げる。ただしクラウド基盤まで同じ比率で減らさない。
- 中国当局がVIEに関わる支配契約や国外への利益移転を大幅に制限したら
- 事業が存続しても海外株主が受け取れる利益は減る。悲観側の確率を上げ、現金と保有資産の回収可能価値を見直す。
- 設備投資が安定した後に正味株主還元が年間100億ドルを超え、フリーキャッシュフローも黒字で持続したら
- 株主の取り分が回復したと判断する。純利益の質と余剰現金の戻り方を改善し、中立の本質価値を引き上げる。
見ておくもの
- 淘宝・天猫の顧客管理収入の伸び、補助金による減収影響、GMVに対する実効広告収益率
- 88VIP会員数と淘宝の月間活動顧客数、購入頻度、競合に対する中国ECシェア
- 即時配送の注文数、平均注文額、1注文当たり損益、配送効率
- アリババクラウドの外部売上成長率、AI関連売上、GAAP営業利益と調整後EBITA
- クラウド設備投資額、減価償却、設備稼働率、増分ROIC
- QwenWorkなどの有料利用者数、AIアプリ売上、AI推論費用と損失
- GAAP純利益と営業キャッシュフローの差、フリーキャッシュフロー、株式報酬控除後の正味還元
- 追加増資・転換証券・配当・自社株買いの実行額、VIEと中国規制の変更
倍率と資本コストの決め方
添付財務の売上1441.2億ドル、営業利益83.8億ドル、純利益149.1億ドル、自己資本1535.7億ドルを基準値とした。2026年3月期20-Fと2026年6月期決算はセグメント構成・数量・競争環境の確認に使用し、添付の財務総額を勝手に置き換えていない。会社は3月決算だが、添付台帳の年度表記に合わせて2025/12から2035/12までの10年で表示する。
セグメントの売上は実質の数量と名目価格から求め、利益率を事業の競争構造から考えた。調整額で本社費、株式報酬、部門間消去、減損等を考慮し、GAAP利益へ結び付けた。10年間の自己資本は各筋書きの純利益累計と正味還元から繰り越した。余剰現金は事業利益から受取利息相当を除いてから額面で加え、悲観のPBRによる資産床では現金を重複して足していない。
倍率は現在・過去・同業のPERやPBRから決めず、資本コスト8.5%、長期成長率、事業ROE、堀の残存割合による正当化PERから決めた。中国特有の規制とVIEのリスクは資本コストに上乗せせず、筋書きと確率で表した。AIエージェント代替は該当セグメントの数量・価格と長期成長率に織り込み、寿命リスクとして二重計上していない。
2026年8月の新株発行は既に成立している。今後の正味還元では株式報酬と新株発行の払い込みを控除する。Web時価総額2479億ドルと添付台帳2396億ドルには、増資後の株数時点の違いを中心に約3.5%の差がある。比較の現在価値は添付台帳を正本とした。算出された期待現在価値は約1870億ドル、台帳時価総額との差は約マイナス22%であり、現在の株価に合わせるための倍率調整はしていない。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 5% + β — × 5%。米国株の共通基準8.0%にqualityの+0.5%を加え、資本コストは8.5%。βや現在の市場倍率は使わない。中国の政策、VIE、増資、即時配送の競争は個別の筋書きと確率で扱う。純現金があり継続企業としての存続が差し迫って危険な状況ではないため、distressによる上乗せはしない。