結論
タペストリーは「コーチ」と「ケイト・スペード」を持つ米国のファッション・アクセサリー企業で、売上は 80 億ドル(2026 年 6 月期、+14%)、営業利益は 19 億ドル(利益率 23.9%)、純利益は 15 億ドル。売上の 86% がコーチ(69 億ドル、+24%、営業利益率 35.8%)、13% がケイト・スペード(11 億ドル、−10%、営業損失)である。2025 年 8 月にステュアート・ワイツマンを売却した。
コーチは Gen Z の新規客・タビー(Tabby)バッグ・中国の高成長で、売上が 2023 年の 67 億ドルから 80 億ドルへ増え、営業利益率は 17.7% から 23.9% まで上がった。会社は 2027 年 6 月期を売上 84〜85 億ドル(+5% 前後)、営業利益率 +0.5 ポイントと見て、FCF の約 17 億ドルをほぼ全額、配当と自社株買いで返す。一方、2013〜2016 年にもコーチは流行の山のあと売上と利益率が大きく落ちた。今回の利益率は過去 10 年の最高で、ここが評価の分かれ目である。
バリュー投資の観点では、10 年後もコーチは存在するが、ブランドの熱が 10 年続くとは限らず、堀は「資本の厚さ」でなく「ブランドの人気」に依存する。積み上げた中立の 10 年は売上 123 億ドル・営業利益率 23.5%・純利益 23 億ドルで、時価総額 348 億ドル(資本コスト 9.0% は基本 8.0% + quality 1.0%。利益ベースの正当化 PER は、帳簿の ROE が 40% 超なので ROIC から直した ROE で測り、10 年目の利益に対する上限 19.4 倍の 8 割の約 15.1 倍。今の約 1.4 倍)。配当と自社株買いを足した年率は +8% 前後で、資本コスト 9.0% をやや下回る。確率で重みをつけた期待は年 +6.8%、総合は適正(差 −2.9%)。利益率が過去 10 年の最高にある点を、悲観側の合計 40% で織り込んだ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、コーチは分かりやすい事業で、資産が軽く、成長に元手がほとんど要らない(ROIC はリース込みで約 50%)。値引きをせず値上げができるブランド力は、2026 年 6 月期の粗利益率 77.8% と営業利益率 23.9% に表れている。10 年後もコーチというブランドが存在する確率は高い。
ただし堀の性質が問題である。コーチの堀は、特許や規模でなく、「いま若者に人気がある」ことに支えられており、人気は流行で上下する。コーチは 2013〜2016 年に売上が減り、営業利益率が 30% 台から 10% 台へ落ちた経験がある。今回の改善は、値引きを減らす・商品を絞る・Gen Z に広告を出す手順の成果で、前回より経営の質が上がっているが、利益率が過去 10 年の最高にある点は同じ。堀が広がっているとは言い切れず、保たれているかどうかは数年見ないと確かめられない。
オーナー利益(再投資を引いた株主のものになる利益)は純利益の約 9 割(成長に元手がほとんど要らないため)。中立の 10 年は純利益 23 億ドル、利益ベースの上限 19.4 倍の 8 割(約 15.1 倍)で時価総額 348 億ドル。確信度は事業の存続には高く、利益率の持続には中くらい。安全域は、構造的な負けの筋書き(悲観)でも 10 年後の時価総額が今の約 28% は残ることと、ほぼ全額を返す還元(毎年 時価総額の約 7%)にある。
何で稼ぐ会社か
タペストリーの収益は 2 つのブランドで、どちらも「ハンドバッグ・小物(財布・小型革製品)・靴・衣料」を、直営(自社の店舗・アウトレット・自社サイト)と卸(百貨店・専門店・旅行小売)で売る形である。コーチ(69 億ドル)はハンドバッグと革小物が中心で、靴・衣料・メンズが残り(推定)。LVMH やケリングの高級品の下、マイケル・コースやケイト・スペードの上に位置する「アクセシブル・ラグジュアリー」である。
地域別の売上(ステュアート・ワイツマン除き、2026 年 6 月期)は北米 50.3 億ドル(+15%)、大中華圏 14.0 億ドル(+35%)、欧州 5.3 億ドル(+23%)、他アジア 4.4 億ドル(+13%)、日本 4.7 億ドル(−7%)。直営が主で、アウトレットとデジタルが顧客獲得の入口、卸は在庫と値引きを管理する場。2025 年 9 月の投資家説明会では、新規客に占める Gen Z が約 35% と示した。
コーチは近年、値引きを抑え、タビーなど「ヒーロー商品」へ商品を絞り、SNS を使って若者の客を取った。ケイト・スペードはこの手順をあとから当てはめている最中で、2026 年 6 月期は売上 −10%・営業損失(調整後 −0.3 億ドル)。製造は委託工場(ベトナム・インドネシア・中国など)で、関税の費用は 2026 年 6 月期に粗利益率を約 1.3 ポイント押し下げた。
売上は数量 × 価格で置く。数量は「アクセシブルとプレミアムの鞄・革小物・靴の世界市場(推定 約 1,000 億ドル、実質で年 +0.5%)× コーチのシェア(約 7%)」の販売点数、価格は平均販売単価(物価 3.5% の中立から、値引きと関税の転嫁で増減)。点数と単価は開示がなく、売上から逆算した推定である。
優良さと弱いところ
堀は「ブランドの人気と価格の決定力」である。粗利益率は 77.8%(2026 年 6 月期、還付込み。還付除きで 76.6%)と、直営中心のブランド品の中でも高く、これは値引きが少なく、直営で売る比率が高いから成り立つ。営業利益率 23.9% と ROIC の高さ(自己資本が自社株買いで小さく、帳簿の ROE は 220% に見えるが、リースを含む投下資本で見ても 50% 前後)は、資産が軽く、成長にほとんど元手が要らないことを示す。
弱いところが 3 つある。第 1 は、堀が「流行」に依存する点。2013〜2016 年にコーチは売上が大きく減り、営業利益率は 30% 台から 10% 台へ落ちた。今回の改善は、ヒーロー商品戦略で値引きを減らしたことによるが、ヒーロー商品が飽きられると逆回転する。第 2 は、事業が事実上コーチ 1 本(売上の 86%、営業利益の 100% 超)で、ケイト・スペードが足を引っ張っている点。第 3 は、自己資本が 7 億ドルまで小さくなり、自社株買いで株主資本を縮めてきたため、不況で利益が落ちると借金(リースを除いて 24 億ドル)の影響が強く出る点。
経営は、CEO のジョアン・クレボイザーのもとで値引きを減らし、広告を増やし、Gen Z を狙う手順を一貫して実行してきた。資本配分は、カプリの買収(約 85 億ドル、2024 年に FTC と裁判で阻止)が最大の疑問だが、阻止されたため損は出ず、その後は FCF を返す方針に戻った。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
アクセシブル・ラグジュアリーの市場は、物価に連動する価格の上昇(年 3.5%)と、実質ではほぼ横ばいの数量で名目 年 4% 前後と見る。消費者は二極化し、高所得層は株高と住宅高で買う一方、低所得層は食料・家賃の上昇で買い控える。Gen Z とミレニアルは 2030 年に高級品市場の 7 割を占める見込みで、会社はここを取りに行く。
競争は 3 層ある。上は LVMH(ルイ・ヴィトン)・ケリング(グッチ)・エルメス・プラダ(ミュウミュウ)で、高所得層の客と、若者に人気のブランドが同じ客層を狙う。同じ価格帯ではカプリ(マイケル・コース、2026 年 3 月期の売上 約 28.7 億ドル、−4.7%、前期 −14.4%)とラルフローレンが競り、マイケル・コースはコーチに客を取られた側である。下は中国の国産ブランドとアマゾンなどの類似品。
コーチは 2023〜2026 年にこの市場でシェアを取る側に回り、売上は 56 億ドル前後から 69 億ドルへ増えた。関税は会社が「20% 台半ばの水準が続き、前年と中立」と見る。2026 年に入り、ロイターは中東・欧州の高級品の需要が弱いと伝えたが、コーチは「影響なし」と説明する。コーチの熱がどこまで続くかが業界の大きな不確実性で、中国(+35%)は特に伸びが高く、反動のリスクも同じだけ大きい。
資本政策と M&A
還元の方針は、FCF をほぼ全額返す。2026 年 6 月期は 17 億ドル(配当 3.3 億ドル、自社株買い 13.5 億ドル、約 1,150 万株)、2027 年 6 月期も自社株買い 13.5 億ドルと、配当 16% 増の合計 約 17 億ドルを予定する。投資家説明会で示した還元計画を上回る勢い。自社株買いで株数は年 −5〜6% 減っており、自己資本は 7 億ドルまで縮んだ。
M&A は、カプリ(マイケル・コース・ヴェルサーチェ・ジミー・チュウ)の約 85 億ドルの買収が 2024 年に阻止され、そのあと買収より還元に戻った。2025 年 8 月にステュアート・ワイツマンを約 1 億ドルで売却した。今後の分かれ目はケイト・スペードで、立て直しが進まなければ売却・減損の可能性がある(のれんとブランドの減損 約 8.5 億ドルを計上済み)。大型買収は、阻止された経緯から近い将来は難しいと見る。
負債は借入 24 億ドル(総借入 ÷ 調整後 EBITDA 1.1 倍)、現金 11.5 億ドルで、純負債は 12 億ドル。2027 年 6 月期の純支払利息は約 0.55 億ドルと小さく、金利の変化(借り換えで約 5.75%)の影響は小さい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
コーチは「流行」でなく「ブランドの再生」である。値引きを減らし、アウトレットの在庫を絞り、ヒーロー商品(タビーなど)に商品を絞った結果、客単価と粗利益率が上がり、Gen Z の新規客が新規客の約 35% を占めるようになった。会社は 2027 年 6 月期の売上を 84〜85 億ドル、営業利益率を +0.5 ポイントと見て、これは 2025 年の投資家説明会で示した 2028 年の目標を 2 年前倒しで達成した後の見通しである。
中国は 2026 年 6 月期に +35% で 14 億ドル、欧州 +23%・他アジア +13% と、米国(+15%)より伸びが高い。この 3 地域はまだ店の数が少なく、10 年かけて店舗網とブランドの認知を広げられる。長期目標のコーチ 100 億ドル級は 2030 年代前半に達成する見込みで、これは年 +6〜7% に相当。ケイト・スペードもコーチの手順を当てはめれば 10 年で営業利益率 12% まで戻る。
こうした成長が続けば、営業利益率は全社で 29% 近く、10 年後の純利益は 38 億ドル、時価総額は 586 億ドル(今の約 2.4 倍)。これに還元 255 億ドルを足せば、年率は資本コストを大きく上回る。
慎重な見方
コーチの利益率 35.8% は、関税の還付(税前 約 1 億ドル)を含み、2013〜2016 年の落ち込みの前と同じ山に見える。当時もコーチは値引きを減らし、ブランドの格上げを進めていたが、売上は 4 年で約 2 割減り、営業利益率は 30% 台から 10% 台へ落ちた。2023 年の営業利益率は 17.7%、2020 年は 5.9%(コロナ)で、23.9% は過去 10 年の最高である。
Gen Z はブランドを飽きやすく、ミュウミュウ・プラダ・ラルフローレンのような別の「今年のブランド」へ移る。中国(+35%)は 2026 年の高い伸びのあと、国産ブランドの勢いと景気の影響を受けやすい。米国(売上の 63%)は、低所得層の消費が鈍れば、アウトレットの在庫が積み上がり、値引きが戻る。ケイト・スペードは立て直しを約束しながら遅れ、すでに減損をした。事業が実質コーチ 1 本で、ここが崩れると全社が崩れる。
自己資本は 7 億ドルまで小さくなり、自社株買いに依存した還元は、利益が落ちると続かない。10 年後に営業利益率 17.7%(2023 年と同じ)、売上は年 +2.5% 前後と置けば、純利益は 14 億ドル、時価総額は 193 億ドル(今の約 8 割)と、還元 131 億ドルを足しても年率は +3% 前後で、資本コスト 9% に届かない。
どちらに重みを置いたか
事業の質と今の勢い(ヒーロー商品・Gen Z・中国・資本の軽さ・FCF の還元)は強気の見方が勝ち、利益率が過去 10 年の最高にあることと、堀が流行に依存することは慎重な見方が勝つ。確率は 10 年で中立 32%、やや楽観 20%、楽観 8%、やや悲観 25%、悲観 15% とし、悲観側(やや悲観+悲観)を 40% と厚くした(NKE は 35%)。これは、コーチに前回の山と谷(2013〜2016 年)という実績があり、事業が 1 本足で、ケイト・スペードの足かせがあるため。楽観を 8% に抑えたのは、全社で営業利益率 29% 近くが 10 年続くには流行が冷めないことが必要なため。倍率は利益ベースで、中立の 10 年は約 15.1 倍(g 4%・k 9%・ROIC から直した ROE の正当化 PER ×(1+g) の 80%)。確率で重みをつけた期待は年 +6.8% で、結論は適正。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/12 期)
確率で加重した株価時価総額 152.74 ドル308 億ドル(+ 配当配当と自社株買いの合計 80.33 ドル162 億ドル)。 今の値に割り戻すと 116.73 ドル235 億ドル、今との差 +2.5%、 期待の年率 +7.4%(資本コスト 9.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 290.62 ドル586 億ドル | 126.55 ドル255 億ドル | +266.2% | +13.9% | 33.37 ドル67 億ドル |
| やや楽観 | 20% | 226.10 ドル456 億ドル | 105.71 ドル213 億ドル | +191.3% | +11.3% | 66.36 ドル134 億ドル |
| 中立 | 32% | 172.70 ドル348 億ドル | 88.34 ドル178 億ドル | +129.1% | +8.6% | 83.53 ドル168 億ドル |
| やや悲観 | 25% | 95.83 ドル193 億ドル | 65.01 ドル131 億ドル | +41.2% | +3.5% | 40.21 ドル81 億ドル |
| 悲観 | 15% | 33.65 ドル68 億ドル | 30.27 ドル61 億ドル | −43.9% | −5.6% | 9.59 ドル19 億ドル |
| 加重平均 | 100% | 152.74 ドル308 億ドル | 80.33 ドル162 億ドル | +104.6% | +7.4% | 233.07 ドル470 億ドル |
今の株価時価総額 113.92 ドル230 億ドル(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 楽観:コーチの熱が 10 年続き売上 162 億ドル 利益 38 億ドル · PER 15.4 倍 · 株価時価総額 290.62 ドル586 億ドル
コーチが「アクセシブル・ラグジュアリー」の枠を広げ、Gen Z と米国外の新規客を取り続ける 10 年。コーチの数量は 1.45 倍(市場 年 +1% + シェア 年 +2.5% 相当)、価格は 1.42 倍(物価並み)で、コーチの売上は 142 億ドル(会社の長期目標 100 億ドル級の 1.4 倍)。大中華圏と欧州の店が増え、ハンドバッグに加えて靴・衣料・メンズが柱になる。
営業利益率はコーチが 37%(FY26 の 35.8% より上)、ケイト・スペードは立て直しが成功して 12%、全社の営業利益は 47 億ドル(29.2%)。ブランドの熱が 10 年冷めないという前提なので、過去(2013〜2016 年)の山と谷を考えると強い仮定である。
- コーチ:数量 11,745(販売点数(万点:鞄・財布・靴・衣料の合計)= 世界のアクセシブル/プレミアムの鞄・靴・革小物市場 × コーチのシェア)× 価格 121(1 点あたりの平均販売単価(直営と卸の混合))→ 売上 142 億ドル・営業利益 53 億ドル。点数と平均単価の推定
- ケイト・スペード(ほか):数量 2,600(販売点数(万点)= 市場 × ケイト・スペードのシェア)× 価格 76(1 点あたりの平均販売単価)→ 売上 20 億ドル・営業利益 2 億ドル。点数と平均単価の推定
倍率:利益ベース:正当化 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g)。k 9.00%・g 4.0%(数量 2.5%+価格 1.5%(上限の 4%))・事業の ROE 99.0%(ROIC から直した値。帳簿の自己資本が薄く 40% 超)・moat 普通(残る割合 0.50)→ RONIC 54.0%、10 年目より先の正当化 PER 18.5 倍。10 年目の利益に ×(1+g) で上限 19.3 倍。ブランドの熱が続く側だが、1 本足で人気に依存するので上限の 80% に置き 15.4 倍。
確率:熱が 10 年続き、ケイト・スペードも回復する筋書きは重なる条件が多く 8%。
やや楽観 20% やや楽観:コーチが年 6% で伸び続ける 利益 30 億ドル · PER 15.3 倍 · 株価時価総額 226.10 ドル456 億ドル
コーチは 2028 年まで成長が続き、その後は高所得層と Gen Z の入れ替わりで需要を保つ。数量 1.28 倍・価格 1.41 倍でコーチの売上は 125 億ドル(年 +6%)。ケイト・スペードは値引きを減らして数量 1.10 倍まで戻し、営業利益率は 9% の小さな黒字に落ち着く。
営業利益率はコーチ 35%・全社 26.4%(営業利益 37 億ドル)。関税は転嫁でき、FY26 の粗利益率 77.8%(還付込み)に近い水準を保つ。中国・欧州のシェアが拡大し、成長は FY30 年代前半まで年 6% 前後、その後に g 4.25% へ落ちる。
- コーチ:数量 10,368(販売点数(万点:鞄・財布・靴・衣料の合計)= 世界のアクセシブル/プレミアムの鞄・靴・革小物市場 × コーチのシェア)× 価格 120(1 点あたりの平均販売単価(直営と卸の混合))→ 売上 125 億ドル・営業利益 44 億ドル。点数と平均単価の推定
- ケイト・スペード(ほか):数量 2,200(販売点数(万点)= 市場 × ケイト・スペードのシェア)× 価格 75(1 点あたりの平均販売単価)→ 売上 17 億ドル・営業利益 2 億ドル。点数と平均単価の推定
倍率:利益ベース:正当化 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g)。k 9.00%・g 4.0%(数量 2.5%+価格 1.5%(上限の 4%))・事業の ROE 89.7%(ROIC から直した値。帳簿の自己資本が薄く 40% 超)・moat 普通(残る割合 0.50)→ RONIC 49.4%、10 年目より先の正当化 PER 18.4 倍。10 年目の利益に ×(1+g) で上限 19.1 倍。熱が長く続く側だが、1 本足なので上限の 80% に置き 15.3 倍。
確率:コーチが年 6% で伸び続ける筋書き。ヒーロー商品戦略が続く前提で 20%。
中立 32% 中立:年 4〜5% の安定成長、利益率 23.5% 利益 23 億ドル · PER 15.1 倍 · 株価時価総額 172.70 ドル348 億ドル
FY27〜28 年は会社の見通し(売上 +5% 前後)の延長で、その後はコーチの需要が名目で年 4〜5% の安定成長に落ち着く。コーチは数量 1.12 倍(市場 年 +0.5% + シェア 年 +0.6%)、価格 1.40 倍(値上げは物価並み、平均単価はハンドバッグのミックスで支える)でコーチの売上は 108 億ドル(年 +4.6%)。ケイト・スペードは数量 1.00 倍・価格 1.36 倍で 15 億ドル弱、営業利益率 6% の小さな利益。
営業利益率はコーチ 33%(FY26 の 35.8%・還付除くと約 34.5% から少し下げる。関税の費用・人件費・広告費の増加を吸収しきれない分)、本社費は物価で増えて −7.7 億ドル。売上 123 億ドル・営業利益 29 億ドル(23.5%)・純利益 23 億ドル。g は 4.0%(市場の実質 +0.5%・シェア 0%・価格 +3.5%)。
- コーチ:数量 9,072(販売点数(万点:鞄・財布・靴・衣料の合計)= 世界のアクセシブル/プレミアムの鞄・靴・革小物市場 × コーチのシェア)× 価格 119(1 点あたりの平均販売単価(直営と卸の混合))→ 売上 108 億ドル・営業利益 36 億ドル。点数と平均単価の推定
- ケイト・スペード(ほか):数量 2,000(販売点数(万点)= 市場 × ケイト・スペードのシェア)× 価格 74(1 点あたりの平均販売単価)→ 売上 15 億ドル・営業利益 1 億ドル。点数と平均単価の推定
倍率:利益ベース:正当化 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g)。k 9.00%・g 4.0%(数量と価格で 4%)・事業の ROE 79.2%(ROIC から直した値。帳簿の自己資本が薄く 40% 超)・moat 普通(残る割合 0.50)→ RONIC 44.1%、10 年目より先の正当化 PER 18.2 倍。10 年目の利益に ×(1+g) で上限 18.9 倍。人気が保たれる側だが、流行の山のあとの前例があるので上限の 80% に置き 15.1 倍。
確率:最も確からしい。安定成長に落ち着く 32%。
やや悲観 25% やや悲観:熱が冷め、成長が物価を下回る 利益 14 億ドル · PER 13.5 倍 · 株価時価総額 95.83 ドル193 億ドル
コーチの熱が 2028 年ごろに頭打ちとなり、その後は成長が物価を下回る 10 年。数量は 0.98 倍(Gen Z の新規客は増えるが、2020 年代前半に増えた客が離れる)、価格は 1.36 倍(値引きと関税の転嫁の失敗で物価に届かない)。ケイト・スペードは数量 0.80 倍、営業利益率 0%(売却や閉店も視野)。
コーチの営業利益率は 28%(2013〜2016 年のように値引きと販路の広げすぎで 7 ポイント下がる)。全社の営業利益 18 億ドル(17.7%)、純利益 14 億ドル。g は 3.5%(市場の実質 +0.3%・シェア −0.3%・価格 +3.5%)。FY26 の営業利益率 23.9% は、会社が自分で言う「長期目標の 2 年前倒し達成」のあとにあたる山である点を重く見た。
- コーチ:数量 7,938(販売点数(万点:鞄・財布・靴・衣料の合計)= 世界のアクセシブル/プレミアムの鞄・靴・革小物市場 × コーチのシェア)× 価格 116(1 点あたりの平均販売単価(直営と卸の混合))→ 売上 92 億ドル・営業利益 26 億ドル。点数と平均単価の推定
- ケイト・スペード(ほか):数量 1,600(販売点数(万点)= 市場 × ケイト・スペードのシェア)× 価格 71(1 点あたりの平均販売単価)→ 売上 11 億ドル・営業利益 0 億ドル。点数と平均単価の推定
倍率:利益ベース:正当化 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g)。k 9.00%・g 3.5%(成長が鈍り 3.5%)・事業の ROE 58.6%(ROIC から直した値。帳簿の自己資本が薄く 40% 超)・moat 普通(残る割合 0.50)→ RONIC 33.8%、10 年目より先の正当化 PER 16.3 倍。10 年目の利益に ×(1+g) で上限 16.9 倍。熱が冷め値引きが増える側なので上限の 80% に置き 13.5 倍。
確率:流行が冷め、成長が物価を下回る。前例(2013〜2016 年)があり 25%。
悲観 15% 悲観:2013〜16 年の再来で構造的に負ける 利益 6 億ドル · PER 11.1 倍 · 株価時価総額 33.65 ドル68 億ドル
コーチが流行の山を越え、2013〜2016 年と同じ道をたどる。数量 0.80 倍(アクセシブル・ラグジュアリーの客がミュウミュウ・プラダ・ラルフローレン・中国の国産ブランドに移る)、価格 1.25 倍(ディスカウントで物価に届かない)。ケイト・スペードの数量は 0.55 倍まで縮み、営業利益率は −2%、減損か売却が続く。
コーチの営業利益率は 20%(2016 年の 16% 台よりは高い)、本社費を −5.5 億ドルまで絞っても全社の営業利益は 8 億ドル(10.7%)、純利益 6 億ドル。売上は 76 億ドルと今とほぼ同じ名目で、実質では 3 割減。
- コーチ:数量 6,480(販売点数(万点:鞄・財布・靴・衣料の合計)= 世界のアクセシブル/プレミアムの鞄・靴・革小物市場 × コーチのシェア)× 価格 107(1 点あたりの平均販売単価(直営と卸の混合))→ 売上 69 億ドル・営業利益 14 億ドル。点数と平均単価の推定
- ケイト・スペード(ほか):数量 1,100(販売点数(万点)= 市場 × ケイト・スペードのシェア)× 価格 65(1 点あたりの平均販売単価)→ 売上 7 億ドル・営業利益 0 億ドル。点数と平均単価の推定
倍率:利益ベース:正当化 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g)。k 9.00%・g 3.0%(成長が物価を下回り 3%)・事業の ROE 11.5%(ROIC から直した値。帳簿の自己資本が薄く 40% 超)・moat 普通(残る割合 0.50)→ RONIC 10.2%、10 年目より先の正当化 PER 11.8 倍。10 年目の利益に ×(1+g) で上限 12.1 倍。ブランドが構造的に負ける側なので上限の 80% は床の 1÷k(11.1 倍)を下回るので、1÷k に置く。
確率:ブランドの熱が戻らず構造的に負ける。コーチの前例と 1 本足の構造から 15%(NKE は 12%)。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億ドル。
コーチ
ハンドバッグ・革小物・靴・衣料。直営(店舗・アウトレット・デジタル)が主、卸が従。アクセシブル・ラグジュアリー。
| 数量販売点数(万点:鞄・財布・靴・衣料の合計)= 世界のアクセシブル/プレミアムの鞄・靴・革小物市場 × コーチのシェア | 価格1 点あたりの平均販売単価(直営と卸の混合) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/12 | 8,100 | 85 | 69 | 25 |
| 10 年後 中立 | 9,072 | 119 | 108 | 36 |
取り方:点数と単価は開示がなく推定。売上は開示の 69.15 億ドル(2026 年 6 月期、+24%)、営業利益は調整後 24.77 億ドル(35.8%)。世界の市場を約 1,000 億ドル、コーチのシェアを約 7% とみて点数を置き(8,100 万点)、平均単価は売上 ÷ 点数で逆算した。全社の営業利益には関税還付など一回限りの純プラス 0.49 億ドルが入るが、セグメントは調整後を使う。
ケイト・スペード(ほか)
ケイト・スペード ニューヨーク(ハンドバッグ・小物・衣料)。ステュアート・ワイツマン(2025 年 8 月に売却)の売上 0.15 億ドルも含む。
| 数量販売点数(万点)= 市場 × ケイト・スペードのシェア | 価格1 点あたりの平均販売単価 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/12 | 2,000 | 55 | 11 | 0 |
| 10 年後 中立 | 2,000 | 74 | 15 | 1 |
取り方:点数と単価は推定(開示なし)。売上は 10.75 億ドル(−10%)にステュアート・ワイツマン 0.15 億ドルを足した 10.9 億ドル。営業損益は調整後 −0.27 億ドル。値引きを減らす立て直しの途中で、数量が減っている。全社の営業利益 19.1 億ドルとの差 −5.4 億ドルは本社費など(adjust)。
リスクと懸念
コーチの流行が冷め、2013〜2016 年が再来する
コーチは 2013〜2016 年に売上が減り、営業利益率が 30% 台から 10% 台へ落ちた。2026 年 6 月期の利益率 23.9% は過去 10 年の最高で、ヒーロー商品(タビーなど)が飽きられれば値引きが戻る。悲観の筋書き(10 年)は、全社の営業利益率が 10% 台前半まで下がる。
中国の高い伸びの反動
大中華圏は 2026 年 6 月期に +35%(14 億ドル)、第 3 四半期は +61% と伸びが非常に高い。国産ブランドの勢いと景気の悪化で反動が出ると、売上の約 17% を占める地域が逆回転する。日本は −7% と、プロモーション削減で既に弱い。
ケイト・スペードの立て直しが進まない
2026 年 6 月期は売上 −10%(10.7 億ドル)、営業損失。のれんとブランドの減損 約 8.5 億ドルを計上済みで、立て直しが進まなければ追加の減損か売却が必要になり、事業はコーチ 1 本足(営業利益の 100% 超)になる。
関税の水準と還付の一回性
2026 年 6 月期は IEEPA 関税の還付(税前 約 1 億ドル)が営業利益に入った。関税の費用は粗利益率を約 1.3 ポイント押し下げた。会社は 2027 年 6 月期の関税を「20% 台半ばで前年と中立」と見るが、水準が上がれば利益が減り、転嫁できるかはコーチの価格決定力に依存する。
自己資本が小さく、還元が利益に依存する
自己資本は 7 億ドルまで縮み、借入は 24 億ドル(リース別)。毎年 17 億ドルを返す方針は FCF に依存し、不況で利益が落ちると自社株買いを止める必要が出る。株価が高い時に買った分は価値を壊す(2026 年 6 月期は約 1,150 万株を取得)。
米国の消費の二極化
米国は売上の約 63%。低所得層の消費が鈍ると、アウトレットと卸の販売が落ち、百貨店の在庫が積み上がる。コーチはアウトレットの比率が高く、景気に敏感な面がある。悲観の筋書きでは、売上が今とほぼ同じ名目に止まり、営業利益が 8 億ドルまで落ちる。
競合の価格帯の上昇
ミュウミュウ・プラダなど若者に人気のブランドが同じ客層を狙う。同じ客がコーチから上の価格帯へ移ると、コーチの「アクセシブル」の立ち位置が挟み撃ちになる。マイケル・コースは売上 −4.7% で、値引きの競争が戻る可能性がある。
今後の分かれ目
- 2027 年 6 月期の売上が 8% 以上伸び、営業利益率が 24.5% 以上になる
- ヒーロー商品戦略が構造的と分かり、楽観・やや楽観の確率を上げる。中立の 10 年の売上と利益率が上振れる。
- コーチの北米の既存店が 2 四半期続けてマイナスに転じる
- 流行の山のあとの下り坂と見て、やや悲観・悲観の確率を上げる。中立の 10 年の営業利益率 23.5% が下振れる。
- 大中華圏の伸びが +10% 以下に鈍る
- 売上の約 17% の高成長が止まり、10 年の数量(1.12 倍)を下げる。コーチの営業利益率の拡大の前提も崩れる。
- ケイト・スペードの売却・大幅な縮小の発表
- 全社の営業損益のノイズが消え、売上は 11 億ドル減るが営業利益はほぼ変わらない。事業はコーチ 1 本足で、時価総額への影響は小さい。
- 関税の水準が下がる(または IEEPA 関税の還付が追加される)
- 粗利益率が 1.3 ポイント近く戻り、営業利益率が 1.5 ポイント程度上がる。式の中立の純利益が約 6% 増える。
- 自社株買いの水準(年 13.5 億ドル)が下がる
- 利益の悪化か株価の高さが理由と読む。還元の合計が減るので、10 年の payout の前提を下げる。
見ておくもの
- コーチの売上の伸び(四半期)と北米・中国・欧州の地域別の伸び
- 営業利益率(還付を除く)と粗利益率、値引きの程度(アウトレットの比率)
- Gen Z の新規客の数と、新規客に占める比率
- ケイト・スペードの売上と営業損益、売却・減損の発表
- 関税の水準と還付の進み方
- 自社株買いの金額
- ミュウミュウ・プラダ・ラルフローレン・マイケル・コースの勢い(売上・価格)
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の PER に寄せず、利益ベースの正当化 PER(RONIC = k + 1/2 ×(事業の ROE − k))に k 9.0%(基本 8.0% + quality 1.0%)・g 3〜4%(上限 4%)・ROE(帳簿の ROE が 40% 超なので ROIC から直した値)を入れ、10 年目の利益に掛けるので ×(1+g)、その 8 割(中立で約 15.1 倍)に置いた。悲観は稼ぐ力(利益 ÷ k に近い 1÷k の床、約 11 倍)で、過去の谷の PER や業界の PER の水準には寄せていない。売上は数量 × 価格で積み上げ、2027 年 6 月期の見通しを起点に使った。今の株価を見て決めていない。
資本コスト 9.0% = 無リスク金利 5% + β — × 5%。k = 基本 8.0% + quality 1.0%。流行と景気に振れる消費財で cycle +0.5%、ブランドの人気に依存する値決めで pricing +0.25%、コーチ 1 本足で life +0.25%。純負債は時価総額の 1 割強で debt は 0。個別のリスク(コーチの流行・ケイト・スペード・中国・関税)は k に足さず、筋書きと確率で表した(悲観側を 40% と厚くした)。
同じ業種(一般消費財・サービス)の AI 分析
読んだ資料
- Tapestry, Inc. 2026 年度第 4 四半期・通期の決算発表(SEC 8-K 別紙 99.1)
- Tapestry 2026 年度 10-K(SEC)
- コーチが牽引し売上 80 億ドル(FashionUnited)
- Tapestry の 2026 年度の決算(The Industry Fashion)
- Tapestry の投資家説明会(Fortune 2025-09-10)
- 投資家説明会の目標(Yahoo Finance)
- Tapestry が通期見通しを上方修正(2026-05、Reuters 配信)
- Kate Spade の立て直しが遅れる(Webull)
- カプリ・ホールディングス 2026 年度決算(Business Wire)
- Tapestry の時価総額(Equibles)