結論
エクスペディア・グループは、ホテル・航空券・パッケージ・レンタカーを売るオンライン旅行会社(OTA)の世界大手で、自社ブランド(エクスペディア・ホテルズドットコム・ヴルボ)の B2C と、他社に旅行在庫を卸す B2B(ラピッド API)の 2 本柱である。2025 年の取扱高は 1,196 億ドル、売上 147 億ドル、営業利益 19 億ドル(営業利益率 12.7%)、GAAP 純利益 13 億ドル。2026 年 4〜6 月期は取扱高 +12%(B2C +8%・B2B +21%)、売上 +14%、調整後 EBITDA 率 25.9% と加速し、通期の見通しも取扱高 +8〜9%、EBITDA 率 +1.5〜1.75 ポイントに引き上げられた。
積み方は、B2C・B2B・トリバゴの 3 つに分け、「取扱高(市場 × シェア)× テイクレート(物価で上がる)」で 10 年を置いた。中立では B2C が年 +2.2%(市場の実質 +2.5% からシェアを毎年 0.3 ポイントずつ譲る)、B2B が年 +6.5%(実質)で、売上は 10 年後に 298 億ドル(今の約 2 倍)、営業利益率は 19% 前後へ上がり、純利益は 44 億ドル。倍率は資本コスト 9.0%(基本 8.0% + quality +1.0%)の利益ベースの正当化 PER(RONIC = k + 1/2 ×(筋書きの ROE − k)で、資本コストを超える稼ぎは先で薄れる。上限 16.2 倍)の 8 割にあたる約 12.9 倍、時価総額は約 562 億ドルとなる。
懸念は 3 つ。第 1 に、グーグル・OpenAI の AI が旅行の入口を握り、旅行会社が売上の約 5 割に近い販売・マーケ費を払い続けるか、入口を奪われるか(自社の 10-K も脅威と明記)。第 2 に、B2B の大口提携先への依存。第 3 に、旅行の景気敏感さ(2020 年は売上が半分以下、2008〜09 年は株価 −76%)。この 3 つは k に足さず、やや悲観 25%・悲観 13% の確率と、悲観の深さで表した。総合の差は -5% で適正。結論は計算が決める。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず 10 年後もこの事業が存在し今より強いかを問う。オンライン旅行は 2000 年代から続く成熟した事業で、旅行需要そのものは消えない。ただし堀の広がり方は事業ごとに違う。B2B は他社の裏側に入り込み、切り替えの手間が大きいので堀が広がる。B2C は規模と会員制が堀になる一方、ブッキングのような「ブランドへ直接来る客」の強さはなく、検索広告とグーグルへの依存が堀を細くする。AI が入口を握る未来では、規模のある旅行会社は「裏方として生き残る」ほうが現実的で、その場合は B2B の価値が上がる。
オーナー利益(株主に残る利益)は、GAAP 純利益(株式報酬を費用にした値)から、成長に要る元手の積み増しを引いて見る。2025 年の純利益 13 億ドルは法務・整理・出資の評価損で押し下げられており、正常な水準は 17〜18 億ドル程度とみる。FCF 31 億ドルは預り金の増加と株式報酬の戻しを含むので、そのまま使わない。
資本配分は、自社株買いと配当を続け、買収は小さい。株価が上がった 2025 年末の PBR は 29 倍と高く、割高な局面で買い戻した年がある点は割り引く。安全域は、中立の 10 年後に純利益が 3 倍強になる想定に対し、悲観では利益が今の水準にとどまり、自己資本が小さく純現金もほぼゼロなので、床は低い。予測しやすさは普通(旅行は景気に敏感で AI の入口が読めない)なので、確信度は中くらいに下げて確率を悲観側へ厚く置いた。
何で稼ぐ会社か
売上は 3 つの塊でできている。(1) B2C(2025 年の売上 94.7 億ドル、取扱高 839 億ドル、売上は取扱高の約 11.3%):エクスペディア・ホテルズドットコム・ヴルボ(バケーションレンタル)の自社サイトとアプリで、泊まる・飛ぶ・借りるを売る。宿泊が中心で、売上は予約時(代理店モデル)か泊まった時(販売モデル)に計上される。広告・メディア収入(ホテルなどが払う広告、年約 7.6 億ドル)も含む。(2) B2B(売上 48.4 億ドル、取扱高 357 億ドル、テイクレート 13.6%):銀行のポイント交換サイト・航空会社・旅行代理店・企業の出張手配・オンライン小売に、エクスペディアの在庫と決済を API(ラピッド API)で卸す。20 四半期連続で二桁成長しており、2026 年 4〜6 月期は取扱高 +21%、売上 +23%。(3) トリバゴ(売上 4.2 億ドル):ホテルの料金比較サイト。
費用の中心は販売・マーケ費(2025 年に約 74 億ドル、売上の約 5 割)で、検索広告・比較サイト・提携先への手数料に使う。会員制度(ワン・キー)と直接来る客(取扱高の約 3 分の 2)を増やし、マーケ費の比率を下げることが利益率改善の鍵である。2025 年の調整後 EBITDA は 35 億ドル(率 23.8%)、うち B2C が 28.0 億ドル(率 29.5%)、B2B が 12.6 億ドル(率 26%)。2026 年 4〜6 月期は B2C の EBITDA 率が 33.2% まで上がった。
設備投資は売上の約 5%(開発費中心)で軽く、お客から先に代金を預かる「販売モデル」のため運転資金はマイナスで、FCF(2025 年 31 億ドル)が純利益(13 億ドル)を大きく上回る。ただし FCF には株式報酬の戻し(4 億ドル)と預り金の増加が入っているので、そのまま株主のものとは見ない。
優良さと弱いところ
堀は 3 つある。第 1 は規模と在庫:世界の宿泊・航空の在庫と決済を 1 つの基盤に束ね、B2B で他社にも卸すので、ホテルとの交渉力と開発費の分散が効く。第 2 は会員(ワン・キー)と直販の厚み:取扱高の約 3 分の 2 が直接来る客で、検索広告への依存はブッキング・ホールディングス(Booking Holdings)より高いものの、改善の途中にある。第 3 は B2B の仕組み:金融機関のポイントや航空会社のサイトの裏側に入り込むと切り替えの手間が大きい。
資本効率は高い。設備が軽く運転資金がマイナスなので、事業の投下資本に対する利益率は 30% 台と見る。自己資本は 13 億ドルと小さく ROE は 100% に達するが、自社株買いの累積で縮んだ結果であり、事業の強さではない(式の ROE には使わない)。経営は 2022 年に就任したアリアナ・ゴリン CEO が、ヴルボとホテルズドットコムの組織を直して 2025 年末までに両ブランドを成長に戻した。マーケ費の効率化でも成果が出ている。
弱点は 4 つ。(1) 営業利益率 12.7% は、ブッキングの 3 割台に比べて低く、マーケ費の重さが残る。(2) AI のエージェント機能で自社が後れを取っていると経営陣自身が認めている。(3) 大口の B2B 提携先への依存(一部の提携先の販促増が伸びを押し上げた)。(4) 株式報酬と買収・法務の費用が GAAP 利益を削る(2025 年は法務・税の引当 1.9 億ドル、整理費用 1.1 億ドル、出資の評価損 1.7 億ドル)。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
世界の宿泊は年約 60 億泊で、オンライン予約は約半分。航空券を含む旅行全体のオンライン予約市場は年 +4〜6%(実質 +2〜3%)で伸びるのが基本で、旅行の実質需要は物価ほどは落ちず、景気の山と谷で大きく振れる。1 泊の単価は物価並み(年 +3.5%)で上がる。
競合は 4 つの筋。第 1 にブッキング・ホールディングス(宿泊の約 12 億泊、営業利益率 3 割台。欧州で圧倒的に強く、直販比率が高い)。エクスペディアの 2025 年の泊数は約 4.2 億泊で、ブッキングの 3 分の 1 強。第 2 にエアビーアンドビー(Airbnb。民泊の最大手でヴルボと競合)。第 3 にホテルチェーンの直販(マリオット・ヒルトンの会員制)。第 4 にトリップ・ドット・コム(Trip.com)などアジアの旅行会社とグーグル(ホテル検索と AI による予約代行)。B2B では他の在庫卸業者とも競う。
構造の変化は AI の入口で、グーグルは「エージェント予約」を始め、提携先にエクスペディア・ブッキング・マリオットなどを入れた。ChatGPT の広告枠にもエクスペディアは早く参加した。エクスペディアの AI 経由の流入は今は 1.5% 未満だが、会社は伸びが速いと説明する。入口が AI に移れば、旅行会社は「広告を払う側」か「裏方」に回る危険がある。循環では、2026 年は旅行の需要が堅く加速中(ただし中東の紛争と航空券の高騰で 7〜9 月期の取扱高の伸びは +5〜7% へ減速の見通し)。景気後退が来れば旅行は最初に予算を削られる。
資本政策と M&A
還元の中心は自社株買い:2025 年に約 17〜19 億ドル(フリーキャッシュフローの半分強)、2026 年 1〜6 月に 10.6 億ドル。株数は 2019 年から約 1 割減った。配当は 2026 年 3 月に 20% 上げて四半期 0.48 ドルとなり、時価総額に対する配当の利回りは約 0.7%。株式報酬は年約 4 億ドルで、自社株買いのかなりの部分はこの穴埋めに使われ、正味の還元はその分だけ小さい。
財務は、現金 67 億ドルに対し借金 55 億ドル(2026 年 6 月末。取引先の預り金や拘束された現金を除く)で、純負債はほぼゼロ。借り換えは新しい金利になるが、純負債がほぼゼロなので利益への影響は小さい。
M&A は小粒の補完が中心で、大型の買収は当面ない。2025〜26 年は AI の会話型の旅行計画アプリ「レイラ(Layla)」の買収や、B2B の追加の買収が出た。トリバゴは約 6 割を持つ子会社で、広告収入は伸びている(4〜6 月期 +48%)が小さい。バリュー投資の観点では、買収で価値を壊さず、自社株買いを割高で買わないことが資本配分の評価点になる。 なお、決算期末後に実行済みの自社株買い 10.6 億ドル(10-Q・2026 年 1〜6 月)は、今の株数(時価総額)に反映済みなので、10 年の還元(payout_oku)からは除いてある。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
エクスペディアは、世界の宿泊・航空の在庫を 1 つに束ねた数少ない規模の会社で、B2B(ラピッド API)は金融機関のポイント交換サイト・航空会社・旅行代理店の裏側に入り込んで 20 四半期連続の二桁成長を続けている。2026 年 4〜6 月は取扱高 +12%、売上 +14%、調整後 EBITDA +23%(率 25.9%、B2C は 33.2%)と加速し、通期見通しも引き上げられた。ヴルボとホテルズドットコムも 2025 年末に成長に戻った。
数量では、オンライン旅行は年 +4〜6% で伸び、B2B は年 +6〜10%(実質)、B2C は直販と会員制でシェアを守る。価格では物価が 10 年で 1.41 倍になり、テイクレートも広告と会員で上げられる。営業利益率は今の 12.7%(2026 年は 14% 台)から、マーケ費の効率化と AI による顧客対応の自動化で B2C 22〜28%・B2B 19〜23% に上がる。AI の入口でもグーグルと OpenAI の提携先に入り、AI の「裏方」として B2B の価値が上がる。式どおりに数えると PER 約 20〜23 倍で、利益が 10 年で 3〜5 倍になる。
慎重な見方
今の PER 27 倍は、利益率の大きな改善を先に織り込んでいる。営業利益率 12.7% は、ブッキング(3 割台)やエアビーアンドビー(約 2 割)に比べて低く、マーケ費が売上の約 5 割という重さは簡単には下がらない。2026 年の改善は 2025 年に出た費用削減の効果が一巡すると鈍り、7〜9 月期は取扱高 +5〜7% と減速する。
AI の入口はもっと深刻で、自社の 10-K が「エージェント型 AI が競争を激しくする」と脅威に明記した。AI で後れを取っていると経営陣も認めており、入口を握るグーグルや OpenAI は旅行会社に広告費を払わせる。B2B も大口提携先に偏り、一部の提携先の販促増で伸びた面が大きい(その提携先が自前化すれば伸びが落ちる)。ヴルボは民泊でエアビーアンドビーに押され、ホテルズドットコムは存在感が薄い。景気後退が来れば、旅行は最初に削られ、2020 年は売上が半分以下、2008〜09 年の株価は −76% だった。10 年後、テイクレートが下がり利益率が 15% 前後で止まれば、純利益は 27 億ドル(今の 2 倍)、PER 17 倍で時価総額は 465 億ドルにとどまる。
どちらに重みを置いたか
事業の勢い(B2B の二桁成長と B2C の利益率改善)は確かで、利益ベースで数えた 10 年の中立は今の時価総額を大きく上回る。一方、AI の入口と大口の B2B 提携先への依存、景気の敏感さは本物の脅威で、強気に偏らず、やや悲観 25%・悲観 13% と悲観側を合計で 4 割近くまで厚くした(業界ノートの悲観より厚い)。ただし資本コスト 9.0% と、資本コストを超える稼ぎが先で薄れる利益ベースの倍率(中立は正当化 PER 16.2 倍の 8 割で約 12.9 倍)では、10 年の中立の年率は +8% 前後で資本コストに届かず、総合は適正(差 -5%)に出たので、そのまま結論にした。倍率は強気の言い分に寄せず利益ベースの式にして、懸念は確率と利益の落ち込みに入れている。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 449.85 ドル541 億ドル(+ 配当配当と自社株買いの合計 119.85 ドル144 億ドル)。 今の値に割り戻すと 267.92 ドル322 億ドル、今との差 −10.2%、 期待の年率 +6.7%(資本コスト 9.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 882.28 ドル1,061 億ドル | 148.39 ドル178 億ドル | +245.3% | +13.2% | 92.76 ドル112 億ドル |
| やや楽観 | 21% | 650.79 ドル782 億ドル | 142.57 ドル171 億ドル | +165.8% | +10.3% | 166.61 ドル200 億ドル |
| 中立 | 32% | 467.88 ドル563 億ドル | 133.42 ドル160 億ドル | +101.4% | +7.3% | 192.42 ドル231 億ドル |
| やや悲観 | 25% | 273.08 ドル328 億ドル | 97.65 ドル117 億ドル | +24.2% | +2.2% | 92.68 ドル111 億ドル |
| 悲観 | 13% | 121.44 ドル146 億ドル | 72.70 ドル87 億ドル | −35.0% | −4.2% | 25.24 ドル30 億ドル |
| 加重平均 | 100% | 449.85 ドル541 億ドル | 119.85 ドル144 億ドル | +90.9% | +6.7% | 569.70 ドル685 億ドル |
今の株価時価総額 298.49 ドル359 億ドル(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.0% を下回るほど割高。
楽観 9% 楽観:B2B が AI の裏方として伸び、直販と会員で入口の変化も守る 利益 73 億ドル · PER 14.6 倍 · 株価時価総額 882.28 ドル1,061 億ドル
10 年後、グーグル・OpenAI などの AI の窓口にエクスペディアが「信頼できる予約先」として深く組み込まれ、B2B(ラピッド API)が AI のエージェントや金融機関・航空会社の旅行サイトの裏方として取扱高を年 +10.5%(実質)で伸ばす。B2C は会員(ワン・キー)と直販の比率の高さで年 +3.8% を保ち、広告・会員の収入でテイクレートも上がる。ヴルボとホテルズドットコムの立て直しが効き、ブッキングとのシェア差が縮む。営業利益率は B2C 28%・B2B 23% まで上がる(マーケ費が売上の約 5 割から下がり、AI で顧客対応の費用が減る)。B2C の取扱高は名目 1717 億ドル(今の約 2.05 倍)、売上 200 億ドル。B2B は取扱高 名目 1367 億ドル(今の約 3.8 倍)、売上 185 億ドル。トリバゴ・その他は売上 9 億ドル。売上は合計 394 億ドルで今の約 2.7 倍(年 +9.3%)。営業利益は 95 億ドル(営業利益率 24.0%)、純利益は 73 億ドル。自社株買いと配当は、株式報酬による株の増加分を引いた正味で 10 年に約 178 億ドル。倍率は正当化 PER 16.2 倍の 9.0 割にあたる 14.6 倍に置いた。
- B2C 旅行予約(エクスペディア・ホテルズドットコム・ヴルボなどの自社ブランド):数量 1,218(取扱高(億ドル、2025 年の値段に直した実質)= 世界のオンライン旅行の予約額 × シェア(推定 約 1 割台前半))× 価格 16.4%(取扱高に対する売上の比率(テイクレート 約 11.3%)× 物価指数(10 年 1.41 倍))→ 売上 200 億ドル・営業利益 56 億ドル。B2C 取扱高 名目 1717 億ドル
- B2B(ラピッド API・旅行会社・銀行ポイント・航空会社向けの旅行基盤):数量 970(取扱高(億ドル、2025 年の値段に直した実質)= 提携先(主にホテル在庫の卸)の予約額)× 価格 19.1%(取扱高に対する売上の比率(テイクレート 約 13.6%)× 物価指数)→ 売上 185 億ドル・営業利益 43 億ドル。B2B 取扱高 名目 1367 億ドル
- トリバゴ(ホテルの比較サイト)・その他の広告:数量 154(トリバゴ経由で比較・送客されるホテル予約額(億ドル、実質、推定))× 価格 5.6%(送客額に対する広告収入の比率(約 4%)× 物価指数)→ 売上 9 億ドル・営業利益 1 億ドル。トリバゴ 送客・広告
倍率:上限の正当化 PER 16.2 倍に対し、14.6 倍(9.0 割)に置いた。中立の 8.0 割に、利益の質がよい分を上乗せした(楽観 +1.0 割)。上限の中身は g 4.0%、RONIC 20.8%(k 9.00% + 残る割合 0.50 ×(事業の ROE − k))、moat は 普通。式は (1−g÷RONIC)÷(k−g)。事業の ROE 32.7%(帳簿の自己資本 ROE(その筋書きの純利益 ÷ 自己資本))。時価総額は、書いた純利益 73 億ドル × 14.6 倍で 1061 億ドル。純負債と利払いは純利益に入っているので、借金はさらに引かない。
確率:B2B の高成長が 10 年続き、AI の窓口でも裏方として選ばれる展開。ブッキング・エアビーアンドビーが先行する中で、エクスペディアは「AI で後れを取っている」と自ら認めており(決算説明)、実現のハードルは高い。確率は約 1 割。
やや楽観 21% やや楽観:B2B の伸びが続き、B2C はヴルボの立て直しで市場並み以上 利益 57 億ドル · PER 13.8 倍 · 株価時価総額 650.79 ドル782 億ドル
10 年後、B2B が年 +8.5%(実質)で伸び続け、B2C は年 +3.0%。AI の窓口はグーグルとの提携で一部を取られるものの、直販と会員の比率の高さで入口の変化を吸収する。広告収入は伸びるがテイクレートは横ばい。ヴルボ・ホテルズドットコムは持ち直す。営業利益率は B2C 25%・B2B 21%。B2C の取扱高は名目 1589 億ドル(今の約 1.89 倍)、売上 181 億ドル。B2B は取扱高 名目 1139 億ドル(今の約 3.2 倍)、売上 154 億ドル。トリバゴ・その他は売上 8 億ドル。売上は合計 344 億ドルで今の約 2.3 倍(年 +8.0%)。営業利益は 74 億ドル(営業利益率 21.5%)、純利益は 57 億ドル。自社株買いと配当は、株式報酬による株の増加分を引いた正味で 10 年に約 171 億ドル。倍率は正当化 PER 16.2 倍の 8.5 割にあたる 13.8 倍に置いた。
- B2C 旅行予約(エクスペディア・ホテルズドットコム・ヴルボなどの自社ブランド):数量 1,127(取扱高(億ドル、2025 年の値段に直した実質)= 世界のオンライン旅行の予約額 × シェア(推定 約 1 割台前半))× 価格 16.1%(取扱高に対する売上の比率(テイクレート 約 11.3%)× 物価指数(10 年 1.41 倍))→ 売上 181 億ドル・営業利益 45 億ドル。B2C 取扱高 名目 1589 億ドル
- B2B(ラピッド API・旅行会社・銀行ポイント・航空会社向けの旅行基盤):数量 808(取扱高(億ドル、2025 年の値段に直した実質)= 提携先(主にホテル在庫の卸)の予約額)× 価格 19.1%(取扱高に対する売上の比率(テイクレート 約 13.6%)× 物価指数)→ 売上 154 億ドル・営業利益 32 億ドル。B2B 取扱高 名目 1139 億ドル
- トリバゴ(ホテルの比較サイト)・その他の広告:数量 140(トリバゴ経由で比較・送客されるホテル予約額(億ドル、実質、推定))× 価格 5.6%(送客額に対する広告収入の比率(約 4%)× 物価指数)→ 売上 8 億ドル・営業利益 0 億ドル。トリバゴ 送客・広告
倍率:上限の正当化 PER 16.2 倍に対し、13.8 倍(8.5 割)に置いた。中立の 8.0 割に、利益の質がよい分を上乗せした(やや楽観 +0.5 割)。上限の中身は g 4.0%、RONIC 20.9%(k 9.00% + 残る割合 0.50 ×(事業の ROE − k))、moat は 普通。式は (1−g÷RONIC)÷(k−g)。事業の ROE 32.9%(帳簿の自己資本 ROE(その筋書きの純利益 ÷ 自己資本))。時価総額は、書いた純利益 57 億ドル × 13.8 倍で 782 億ドル。純負債と利払いは純利益に入っているので、借金はさらに引かない。
確率:B2B が 20 四半期連続の二桁成長を続けていて、ヴルボ・ホテルズドットコムも 2025 年末に成長へ戻った。事業の勢いは確か。AI の入口で提携先に入っている点も追い風。2 割強まで厚くした。
中立 32% 中立:B2B が年 +6.5%、B2C は市場並みに少しシェアを譲る 利益 44 億ドル · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 467.88 ドル563 億ドル
10 年後、B2C は市場の伸び(実質 +2.5%)からシェアが毎年 0.3 ポイントずつ削られて年 +2.2%、B2B は大口提携先の開拓で年 +6.5%(今の +21% からゆっくり落ちる)。グーグルの AI がチャットで旅行を組み立てる流れは進むが、エクスペディアも提携先に入り、直接来る客(取扱高の約 3 分の 2)と会員制がその代わりを務める。B2B はホテル在庫の卸でテイクレートが低い大口の比率が上がり、B2B のテイクレートは 3% 下がる。営業利益率は B2C 22%・B2B 19%(今の 2026 年の水準から、マーケ費の効率化で B2C がさらに 4 ポイント上がる)。B2C の取扱高は名目 1470 億ドル(今の約 1.75 倍)、売上 166 億ドル。B2B は取扱高 名目 945 億ドル(今の約 2.6 倍)、売上 124 億ドル。トリバゴ・その他は売上 7 億ドル。売上は合計 298 億ドルで今の約 2.0 倍(年 +6.6%)。営業利益は 56 億ドル(営業利益率 19.0%)、純利益は 44 億ドル。自社株買いと配当は、株式報酬による株の増加分を引いた正味で 10 年に約 160 億ドル。倍率は正当化 PER 16.2 倍の 8.0 割にあたる 12.9 倍に置いた。
- B2C 旅行予約(エクスペディア・ホテルズドットコム・ヴルボなどの自社ブランド):数量 1,043(取扱高(億ドル、2025 年の値段に直した実質)= 世界のオンライン旅行の予約額 × シェア(推定 約 1 割台前半))× 価格 15.9%(取扱高に対する売上の比率(テイクレート 約 11.3%)× 物価指数(10 年 1.41 倍))→ 売上 166 億ドル・営業利益 37 億ドル。B2C 取扱高 名目 1470 億ドル
- B2B(ラピッド API・旅行会社・銀行ポイント・航空会社向けの旅行基盤):数量 671(取扱高(億ドル、2025 年の値段に直した実質)= 提携先(主にホテル在庫の卸)の予約額)× 価格 18.5%(取扱高に対する売上の比率(テイクレート 約 13.6%)× 物価指数)→ 売上 124 億ドル・営業利益 24 億ドル。B2B 取扱高 名目 945 億ドル
- トリバゴ(ホテルの比較サイト)・その他の広告:数量 127(トリバゴ経由で比較・送客されるホテル予約額(億ドル、実質、推定))× 価格 5.6%(送客額に対する広告収入の比率(約 4%)× 物価指数)→ 売上 7 億ドル・営業利益 0 億ドル。トリバゴ 送客・広告
倍率:上限の正当化 PER 16.2 倍に対し、12.9 倍(8.0 割)に置いた。新しく投じる資本の稼ぎは先で薄れるので 8.0 割に置いた。上限の中身は g 4.0%、RONIC 20.9%(k 9.00% + 残る割合 0.50 ×(事業の ROE − k))、moat は 普通。式は (1−g÷RONIC)÷(k−g)。事業の ROE 32.7%(帳簿の自己資本 ROE(その筋書きの純利益 ÷ 自己資本))。時価総額は、書いた純利益 44 億ドル × 12.9 倍で 562 億ドル。純負債と利払いは純利益に入っているので、借金はさらに引かない。
確率:業界ノートの中立(宿泊の泊数 年 +5〜6%・単価は物価並み)から、B2C は成熟してシェアを少しずつ譲り、B2B は大口提携先で伸びる分を積んだ。2 人の議論の落としどころで最も確率が高い。
やや悲観 25% やや悲観:AI の入口に手数料を払う側に回り、利益率が上がりきらない 利益 27 億ドル · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 273.08 ドル328 億ドル
10 年後、グーグルの AI 検索と OpenAI のチャットが旅行の計画から予約までを握り、ブッキング・エアビーアンドビーとともに入口の手数料(広告)を払わされる側に回る。B2C は年 +0.8%、B2B は大口提携先の一部が自前化・競合への乗り換えで年 +4%。テイクレートは B2C −4%・B2B −7%。営業利益率は B2C 18%・B2B 15%(マーケ費が下がらず、AI の費用が増える)。B2C の取扱高は名目 1281 億ドル(今の約 1.53 倍)、売上 139 億ドル。B2B は取扱高 名目 746 億ドル(今の約 2.1 倍)、売上 94 億ドル。トリバゴ・その他は売上 6 億ドル。売上は合計 239 億ドルで今の約 1.6 倍(年 +4.5%)。営業利益は 35 億ドル(営業利益率 14.8%)、純利益は 27 億ドル。自社株買いと配当は、株式報酬による株の増加分を引いた正味で 10 年に約 117 億ドル。倍率は正当化 PER 16.1 倍の 7.5 割にあたる 12.1 倍に置いた。
- B2C 旅行予約(エクスペディア・ホテルズドットコム・ヴルボなどの自社ブランド):数量 908(取扱高(億ドル、2025 年の値段に直した実質)= 世界のオンライン旅行の予約額 × シェア(推定 約 1 割台前半))× 価格 15.3%(取扱高に対する売上の比率(テイクレート 約 11.3%)× 物価指数(10 年 1.41 倍))→ 売上 139 億ドル・営業利益 25 億ドル。B2C 取扱高 名目 1281 億ドル
- B2B(ラピッド API・旅行会社・銀行ポイント・航空会社向けの旅行基盤):数量 529(取扱高(億ドル、2025 年の値段に直した実質)= 提携先(主にホテル在庫の卸)の予約額)× 価格 17.8%(取扱高に対する売上の比率(テイクレート 約 13.6%)× 物価指数)→ 売上 94 億ドル・営業利益 14 億ドル。B2B 取扱高 名目 746 億ドル
- トリバゴ(ホテルの比較サイト)・その他の広告:数量 104(トリバゴ経由で比較・送客されるホテル予約額(億ドル、実質、推定))× 価格 5.6%(送客額に対する広告収入の比率(約 4%)× 物価指数)→ 売上 6 億ドル・営業利益 0 億ドル。トリバゴ 送客・広告
倍率:上限の正当化 PER 16.1 倍に対し、12.1 倍(7.5 割)に置いた。中立(8.0 割)より 0.5 割低くした。利益の質が悪い筋書きだからだ。上限の中身は g 4.0%、RONIC 20.5%(k 9.00% + 残る割合 0.50 ×(事業の ROE − k))、moat は 普通。式は (1−g÷RONIC)÷(k−g)。事業の ROE 32.0%(帳簿の自己資本 ROE(その筋書きの純利益 ÷ 自己資本))。時価総額は、書いた純利益 27 億ドル × 12.1 倍で 328 億ドル。純負債と利払いは純利益に入っているので、借金はさらに引かない。
確率:AI の入口で手数料を払わされ、ブッキング・エアビーアンドビーとのシェア争いでも後手に回る展開。同社の 10-K が自らエージェント型 AI を脅威と書いたこと、B2B の大口提携先への依存、規制(EU のデジタル市場法)を見て、中立に近い 25% まで厚くした。
悲観 13% 悲観:不況と AI の入口の喪失で価格を決める力を失う 利益 12 億ドル · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 121.44 ドル146 億ドル
10 年後、リーマン級の景気後退に加え、AI のエージェントが入口を完全に握り、旅行会社(OTA)はホテルの直販と AI の裏側の「配管」に近づく。B2C は年 −1.5% で縮み、B2B は大口提携先の離脱で年 +1.2%、テイクレートは B2C −10%・B2B −12%。もう優良企業でなく、価格を決める力を失っている。営業利益率は B2C 12%・B2B 10%。B2C の取扱高は名目 1017 億ドル(今の約 1.21 倍)、売上 103 億ドル。B2B は取扱高 名目 567 億ドル(今の約 1.6 倍)、売上 68 億ドル。トリバゴ・その他は売上 5 億ドル。売上は合計 176 億ドルで今の約 1.2 倍(年 +1.6%)。営業利益は 16 億ドル(営業利益率 8.9%)、純利益は 12 億ドル。自社株買いと配当は、株式報酬による株の増加分を引いた正味で 10 年に約 87.4 億ドル。倍率は稼ぐ力の式(純利益 ÷ 資本コスト 9.0% を成長で調整した利益ベースの値)で約 12.1 倍に置き、今や過去の PER には寄せていない。
- B2C 旅行予約(エクスペディア・ホテルズドットコム・ヴルボなどの自社ブランド):数量 721(取扱高(億ドル、2025 年の値段に直した実質)= 世界のオンライン旅行の予約額 × シェア(推定 約 1 割台前半))× 価格 14.3%(取扱高に対する売上の比率(テイクレート 約 11.3%)× 物価指数(10 年 1.41 倍))→ 売上 103 億ドル・営業利益 12 億ドル。B2C 取扱高 名目 1017 億ドル
- B2B(ラピッド API・旅行会社・銀行ポイント・航空会社向けの旅行基盤):数量 403(取扱高(億ドル、2025 年の値段に直した実質)= 提携先(主にホテル在庫の卸)の予約額)× 価格 16.8%(取扱高に対する売上の比率(テイクレート 約 13.6%)× 物価指数)→ 売上 68 億ドル・営業利益 7 億ドル。B2B 取扱高 名目 567 億ドル
- トリバゴ(ホテルの比較サイト)・その他の広告:数量 85.1(トリバゴ経由で比較・送客されるホテル予約額(億ドル、実質、推定))× 価格 5.6%(送客額に対する広告収入の比率(約 4%)× 物価指数)→ 売上 5 億ドル・営業利益 0 億ドル。トリバゴ 送客・広告
倍率:式どおり:g 1.5%(g はこの筋書きの数量と価格から置いた)、ROE 30.2%(帳簿の自己資本 ROE(その筋書きの純利益 ÷ 自己資本))、k 9.00%。(1−g÷RONIC)÷(k−g) の値は来年の利益に対する倍率なので、10 年目の利益には ×(1+g) で 12.1 倍。RONIC = k + 残る割合 0.50 ×(事業の ROE − k)= 19.6%。上限の正当化 PER 15.9 倍の 7.6 割で、上限の内側。10 年目の利益の伸びは年 10% 未満なので 1 段。時価総額は、書いた純利益 12 億ドル × 12.1 倍で 146 億ドル。
確率:リーマン級の不況に加え、10 年の間に AI のエージェントが入口を握り旅行会社の位置づけが「配管」になる構造的な負け。2008〜09 年に株価が −76%、2020 年は赤字で、旅行は景気に最も敏感。確率は 13% と厚めに置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億ドル。
B2C 旅行予約(エクスペディア・ホテルズドットコム・ヴルボなどの自社ブランド)
個人客向けの宿泊・航空券・パッケージ・レンタカー・アクティビティの予約と、その上に乗る広告・会員の収入。取扱高に対する売上(テイクレート)は約 11.3%。
| 数量取扱高(億ドル、2025 年の値段に直した実質)= 世界のオンライン旅行の予約額 × シェア(推定 約 1 割台前半) | 価格取扱高に対する売上の比率(テイクレート 約 11.3%)× 物価指数(10 年 1.41 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 839 | 11.3% | 95 | 15 |
| 10 年後 中立 | 1,043 | 15.9% | 166 | 37 |
取り方:2025 年の B2C 取扱高 838.7 億ドル(決算発表)、B2C 売上 94.7 億ドルを割って 11.3%。営業利益は B2C の調整後 EBITDA 28.0 億ドルから減価償却・株式報酬・整理費用などを引いて約 15 億ドルと推定(営業利益率 15.8%)。売上=取扱高×テイクレート×1。
B2B(ラピッド API・旅行会社・銀行ポイント・航空会社向けの旅行基盤)
他社(金融機関のポイント交換サイト・航空会社・旅行会社・企業の出張手配・オンライン小売)に、エクスペディアの宿泊と航空の在庫と決済を API で卸す事業。
| 数量取扱高(億ドル、2025 年の値段に直した実質)= 提携先(主にホテル在庫の卸)の予約額 | 価格取扱高に対する売上の比率(テイクレート 約 13.6%)× 物価指数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 357 | 13.6% | 48 | 6 |
| 10 年後 中立 | 671 | 18.5% | 124 | 24 |
取り方:2025 年の B2B 取扱高 357.2 億ドル、B2B 売上 48.4 億ドル(テイクレート 13.6%)。営業利益は B2B の調整後 EBITDA 12.6 億ドル(率 26%)から減価償却・株式報酬などを引いて約 6.4 億ドルと推定(営業利益率 13.2%)。
トリバゴ(ホテルの比較サイト)・その他の広告
ホテルの料金比較サイト「トリバゴ」の広告収入(子会社。株式の約 6 割を保有)。エクスペディア自身の広告・メディア収入(年約 7.6 億ドル)は B2C と B2B の売上に含まれる。
| 数量トリバゴ経由で比較・送客されるホテル予約額(億ドル、実質、推定) | 価格送客額に対する広告収入の比率(約 4%)× 物価指数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 104 | 4.0% | 4 | 0 |
| 10 年後 中立 | 127 | 5.6% | 7 | 0 |
取り方:2025 年のトリバゴの売上 4.17 億ドル(決算発表)を、送客額に対する広告収入の比率 4% として送客額 約 104 億ドルと推定(開示がなく逆算)。調整後 EBITDA は 0.2 億ドルで、償却を引くと営業損益はほぼゼロ。
リスクと懸念
AI の入口が旅行会社を飛ばす(最大の構造リスク)
グーグルの AI(エージェント予約)や OpenAI のチャットが旅行の計画から予約までを握ると、旅行会社は広告費を払い続けるか、「裏方の配管」に回る。同社の 10-K は初めてエージェント型 AI を脅威と明記し、経営陣も AI で後れを取っているかもしれないと認めている。AI 経由の流入は今 1.5% 未満だが、入口が移れば直接来る客(取扱高の約 3 分の 2)の優位が崩れる。
B2B の大口提携先への依存
B2B は取扱高 +21% と伸びているが、一部の大口提携先(金融機関・航空会社)の販促増が伸びを押し上げた。提携先が自前のホテル在庫を持つ、競合(ブッキング・トリップ・ドット・コム)へ乗り換える、販促を絞ると、B2B の伸びが急に落ちる。契約の期間と更新の条件は開示が薄い。
旅行は景気に最も敏感
2020 年は売上が半分以下になり営業赤字、2008〜09 年は株価が山から −76%、2022 年の利上げでも −55%。広告費・人件費・提携先への手数料は固定的で、需要が落ちると営業利益率が急に下がる。中東の紛争・航空券の高騰・米国の低所得層の弱さで、2026 年 7〜9 月期の取扱高の伸びは +5〜7% へ減速する見通し。
ブッキング・エアビーアンドビーとのシェア争い
ブッキングは直販比率と利益率(3 割台)が高く、欧州では圧倒的。エアビーアンドビーは民泊で泊数が 10% 伸びている。エクスペディアはヴルボ(民泊)でエアビーアンドビーに押され、ホテルズドットコムもブランド力が弱い。シェアを毎年 0.3 ポイント譲る中立が、1 ポイントになると利益が大きく下がる。
規制と法務(EU のデジタル市場法・料金パリティ・宿泊税の訴訟)
EU のデジタル市場法でゲートキーパー(最大手)に指定された場合、価格の優遇や比較の扱いを制限される。宿泊税の訴訟や消費者保護の罰金が続き、2025 年は法務・税の引当で 1.9 億ドルの費用が出た。料金パリティ(他の販路より安く売らない約束)の禁止が広がると、直販の強いブッキングが相対的に有利になる。
株式報酬と、割高な時の自社株買い
株式報酬は年約 4 億ドルで、純利益(GAAP)の約 3 割に当たる。調整後の利益や EBITDA は株式報酬を戻しているため、割安に見える。自社株買いが株価の高い局面で積み上がると、時価総額が小さい会社には痛手になる。2025 年末の PBR は 29 倍と高く、自己資本が小さい分だけ財務の柔軟さも小さい。
今後の分かれ目
- グーグル・OpenAI の AI 経由の予約が総取扱高の 1 割を超え、ブッキングが優先されたら
- 直接来る客の優位が崩れ、マーケ費が下がらず、テイクレートが下がる。やや悲観・悲観の確率を上げ、B2C の営業利益率を 18% 以下に置く。
- 大口の B2B 提携先(金融機関・航空会社)が契約を更新せず、自前化・競合へ移ったら
- B2B の伸びが年 +4% 以下に落ち、2026 年の成長の大半が剥がれる。B2B の営業利益率の上昇も止まり、中立の利益が 2〜3 割下がる。
- B2C の取扱高が 4〜6 月期の +8% 以上を保ち、EBITDA 率が 33% を超え続けたら
- マーケ費の効率化が構造的で、中立の利益率(B2C 22%)が保守的だったことになる。楽観・やや楽観の確率を上げる。
- リーマン級の景気後退で旅行の予約が 2 割以上落ちたら
- 営業利益は正常時の 2〜3 割に落ち、赤字の四半期も出る。悲観の筋書き(谷の PER)に近づくが、純現金と借金の期限の長さで存続は保たれる。
- 自社株買いが株価の高い局面で純利益の 8 割を超え続けたら
- 純現金が薄くなり、景気後退期の柔軟さが落ちる。正味の還元を引き下げ、悲観の床を下げる。
- 大型の買収(B2B・ホテル予約の競合)を発表したら
- 買収の価格と成長の見込みを見る。資本配分の評価を下げ、PER の高い買収なら中立の g・ROE を下げて再計算する。
見ておくもの
- B2C・B2B の取扱高の伸びと、為替を除いた泊数の伸び
- B2C・B2B それぞれの調整後 EBITDA 率とマーケ費の対売上比率
- AI 経由の流入の比率と、グーグル・OpenAI の予約機能での表示の扱い
- B2B の大口提携先の動き(契約更新・新規・自前化)
- ヴルボとホテルズドットコムの成長率
- ブッキング・エアビーアンドビーの泊数の伸びとシェア
- 株式報酬を差し引いた正味の還元と純現金
- 旅行の景気指標(航空・ホテルの予約・米国の低所得層の消費)
倍率と資本コストの決め方
今の PER 27 倍・時価総額 347 億ドルを見る前に、B2C・B2B・トリバゴの 3 つに分け、取扱高(市場 × シェア、実質)× テイクレート(物価で上がる)で売上と利益を積んだ。倍率は k 9.0%(基本 8.0% + quality +1.0%)・g 2.5〜4.5%(物価 3.5% + 市場の実質 × シェア)・筋書きの ROE(純利益 ÷ 自己資本で 30〜33%)の利益ベースの正当化 PER(RONIC = k + 1/2 ×(筋書きの ROE − k)で、資本コストを超える稼ぎは先で薄れる)の 7〜9 割で、10 年目の利益に ×(1+g) を掛けた。今の帳簿の ROE 100% は自社株買いの累積で縮んだ自己資本が作った値なので使わなかった。結果は 適正(差 -5%)で、悲観・やや悲観を合計で 3〜4 割と厚く置き、式の外の割り引きは入れていない。調整後の EBITDA や EPS は使わず GAAP の純利益で積み、株式報酬は費用とした。10 年の価値が営業利益率 12.7% から 19% への上昇に偏っている点が最大の不確実さ。
資本コスト 9.0% = 無リスク金利 5% + β 1.27 × 5%。資本コスト k = 基本 8.0% + quality +1.0% = 9.0%(v2。株価の揺れ(β)は使わない)。旅行は景気で振れ、集客を検索大手に頼る。AI や競合による個別のリスクは k に足さず、確率と筋書きの手数料率で表した。extra は 0。