結論
ローランドは、電子ドラムのV-Drums、ギター用機器のBOSS、電子ピアノやシンセサイザーで世界の演奏者に選ばれる電子楽器メーカーである。筆者の結論は「割安」だ。米国の主要分野で首位を握る製品力を評価しつつ、買収先の不振と音楽機器市場の弱さも織り込むと、長期価値は現在の時価総額を約4割上回る。
2025年12月期の売上高は約1,010億円、営業利益は94億円だった。純利益が22億円に落ちたのは、米国のドラムメーカーDWの減損や税効果の見直しが重なったためであり、その数字を永久の稼ぐ力とは見ない。ただし、かつて掲げた中期目標を達成できなかったことまで一時的な会計処理として片付けるべきではない。
今後10年の追い風は、住宅事情に合う静かな電子楽器、新興国の演奏人口、楽器購入後もつながるクラウドサービスである。反対に、趣味の需要は景気と流通在庫で揺れ、メーカーは常に新製品を開発しなければ選ばれなくなる。中立では2035年に売上約1,548億円、純利益113億円を見込む。
5つの筋書きの確率を合わせ、資本コストで現在へ割り戻した価値は約1,397億円となる。時価総額約997億円との差は大きいが、これを確かな安値と呼ぶには、DWの採算改善と実際の現金創出を見届ける必要がある。最も重要なのは、ブランドを維持するための投資を差し引いて、株主にいくら現金が残るかだ。
バリュー投資の観点から
長く持つ株主の見方で最初に確かめたいのは、10年後も人が楽器を弾き、そのときローランドを選ぶ理由が残るかである。音楽を作るソフトは変わっても、打鍵の感触や電子ドラムの静かさ、BOSSの音を好む人は残る。演奏体験の価値は、流行のアプリだけに依存する事業より長持ちすると考える。米国での高シェアと音源技術には支払う価値がある。
次は利益ではなく、オーナーの手元に残る現金を確かめる。2025年の営業キャッシュフローは約137億円あったが、設備投資にも約60億円を使った。新本社建設が一巡すれば投資は軽くなりうる。ただし、楽器メーカーは新音源、金型、ソフト、販売店支援を更新し続けなければならない。今の設備の償却費は物価で勝手に増えない一方、将来の更新工事は高くなる。会計上の利益が増えても現金が同じだけ増えるとは限らない。
経営の資本配分には合格点をまだ与えられない。DW買収は新市場への挑戦として理解できるが、買収代金に見合う収益を守れず減損した。今後も会社を大きくすることではなく、投じた一円が資本コスト以上を生むことを条件にすべきだ。クラウドの顧客基盤が育っても、ソフト売上が全体のごく一部である間は大きな値段を付けない。
今の値段は、不確かな事業に高い将来成長を払わせる水準ではない。それでも安全域があるという見方は、成熟した電子楽器市場で適度な数量増と価格転嫁が続き、株主への利益還元が守られることを条件とする。DWの失敗が繰り返されるなら、この評価は引き下げる。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は、家庭とステージ、制作現場で使う電子楽器である。2025年の製品別売上は鍵盤楽器272億円、管打楽器294億円、ギター関連機器251億円だった。この3分野で全体の約8割を占める。電子ピアノは鍵盤の感触と静音性、電子ドラムは打感と音源、ギター用機器は演奏者が求める音色を売っている。
鍵盤では電子ピアノと持ち運びやすいキーボードを、管打楽器ではV-Drumsや電子管楽器、買収したDWのアコースティックドラムを扱う。ギター関連ではBOSSのエフェクターとアンプが中心だ。販売先は各国の楽器小売店や電子商取引事業者が多く、最終需要を生むのは個人の趣味、教育、プロの演奏活動である。流通業者が在庫を絞れば、演奏者の需要が横ばいでもメーカー出荷は落ちる。
クリエーション関連機器・サービスは2025年に131億円を売り、シンセサイザー、音楽制作機器、Roland Cloudを含む。クラウドは過去の音源やソフトを繰り返し販売できるが、単独売上高は開示されていない。分析上はクラウドの推定売上10億円をこの枠から分けているが、これは開示された独立事業の実績ではない。映像音響機器は31億円、その他も31億円である。
会社の会計上の報告セグメントは電子楽器事業の一つだけである。ここで製品群を分けるのは、電子ピアノの単価とギター用ペダルの単価を一緒にすると、10年後の需要の形が見えなくなるからだ。地域売上の9割超が海外で、北米が最大の市場となる。海外で名の通ったブランドを持つ一方、関税、物流費、流通在庫の調整が利益を大きく左右する。
優良さと弱いところ
ローランドの堀、つまり競合が簡単には奪えない強みは、演奏した瞬間に分かる製品の手触りと音、それを長く磨いてきたブランドである。会社推計では米国の電子ドラムとギターエフェクター、シンセサイザーで首位、電子ピアノで2位に位置する。特にBOSSの定番機器は、初心者からプロまで同じ名前を知るため、販売店の棚にも残りやすい。
ただし、これは乗り換えを禁じる仕組みではない。奏者は次の買い替えでヤマハ、コルグ、カシオ、Alesis、Line 6を選べる。価格を大きく上げ続けても離反されない証拠は十分ではなく、米国での高シェアを世界共通の独占と取り違えてはならない。長年の音源技術と販売網は再現に時間がかかるが、製品の魅力は研究開発を止めれば徐々に消える。
事業の採算には本物の強さがある。2021年の営業利益率は約14%まで上がり、2025年も関税負担がある中で9%台を維持した。2025年のROICは中期計画資料で15.2%とされ、資本コストを上回る。新本社や基幹システムが稼働し、クラウド利用者が増えれば追加投資の利回りを高める余地がある。だが、2022年に取得したDWでは期待した相乗効果が出ず、多額の減損を迫られた。これは買収の目利きが常に正しいわけではない証拠だ。
ブランドの優位は維持されるが、堀が自動的に広がるとは見ない。消費者の移り気と短い製品更新周期にさらされるため、強い技術を持つ普通の競争企業として評価する。高い自己資本利益率が過去に出たことを、未来の利益成長の理由に使わない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
世界の楽器産業は急成長産業ではない。NAMMによる2024年の米国楽器市場は約82.7億ドルで、販売額は前年を下回った。コロナ禍の巣ごもり需要の反動は長引き、ローランドの前中期計画も世界市場が予想より弱かったために未達となった。一方、同社の資料による米国の過去10年の動きでは、電子ドラムの売上は年率約6.5%、電子ピアノは約2.8%伸び、アコースティック型からの置き換えが進んだ。
競争の地図は製品ごとに異なる。電子ピアノはヤマハ、カシオ、河合楽器と競い、電子ドラムはAlesis、ヤマハと争う。ギター用機器にはFender、Line 6、Positive Grid、シンセサイザーと制作にはコルグ、Arturia、Native Instrumentsがいる。電子ドラムやBOSSの米国シェアは魅力的だが、他国で同じ数字が通用するとは限らない。世界全体の同一定義の製品別市場シェアは公表されていない。
比較のため、同業の品目別売上と米国の品目構成から、世界の年間市場を出荷額換算で粗く見積もると、電子鍵盤が約2,000〜3,000億円、電子・生ドラムが約1,200〜2,000億円、ギター周辺機器が約1,000〜1,600億円、音楽制作・シンセ分野が約2,000〜3,500億円となる。これは独立した世界統計ではなく、数量の上限とシェアを考えるための推定範囲である。これを仮の分母にしたローランドの売上比率は、おおむね鍵盤1割前後、ドラム2割弱、ギター周辺2割弱であり、世界の確定シェアではない。
10年先は成熟した米欧の数量を大幅に伸ばさず、電子化による置換とインド・中南米などの需要増を加える。販売単価は年3%の物価上昇を基本とするが、初級機やソフトには値下げ圧力がかかる。生成AIは演奏を学ぶ道具にもなれば、既成の音源や制作ソフトを安く代替する脅威にもなる。ただし、電子ドラムを叩く行為やペダルを踏む体験そのものは、業務ソフトの席をAIエージェントに置き換える類型とは異なる。
資本政策と M&A
資本配分で最も重い事実は、2022年の米国DW買収が期待どおりの利益を生まなかったことだ。2025年には同社に関して約39億円の減損損失を出し、関連する税効果の見直しも含めて純利益を約56億円押し下げた。2014年の経営陣による非公開化を経て2020年に再上場した会社であり、過去の再編を理由に将来の買収価格を価値へ上乗せすることはしない。
新しい2026〜2028年の中期計画は、2028年の売上高1,200億円、営業利益144億円、営業利益率12%、純利益102億円を目指す。ROIC18%以上、ROE20%以上も目標だ。株主還元は3年間累計の総還元性向50%、配当の下限目標をDOE5%と明示する。計画上の営業キャッシュフロー310億円から、既存事業投資75億円と戦略投資30億円、借入返済75億円を配分する構想である。
2024年には58億円の自己株式を買い戻し、2025年は純利益を超える配当を維持した。自社株買いの効果は既に現在の株数に反映されており、将来の還元にもう一度足さない。今後の株主還元は原則として期間利益の約半分に連動し、苦しい時期は減配や買い戻し停止もありうる。株主優待はない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
電子楽器は既に存在する楽器を単に置き換えるだけの商品ではない。夜間も練習でき、住まいに置けて、録音にも直結するため、これまで演奏を諦めていた人を新しい顧客にできる。米国で電子ドラムが長期間成長してきたことは、需要創造が机上の話ではない証拠だ。ローランドにはV-Drums、BOSS、シンセサイザーという複数の入り口があり、ジャンルの変化にも対応できる。
演奏者が楽器を買って終わる関係から、使い方や音源を継続して届ける関係へ移れれば、次の楽器も同じブランドを選ぶ確率が高まる。2025年のRoland Cloud有料利用者の指標は18.6万人で、新中期計画は30万人を目指す。ただし、この指標は定期課金者と年間の単品購入者の合計である。接続対応楽器や直販の拡大が実際の継続利用につながれば、追加の利益は製造工場の増設ほど大きな投資を必要としない。
新本社と業務基盤への投資が一巡し、米国の関税負担への対処も進めば、売上の増加以上に利益が戻る可能性がある。2028年の営業利益144億円という目標は、過去の最高利益率より低い水準のため、途方もない奇跡を必要とするわけではない。さらに新興国で販売店と直営接点が増えれば、世界の演奏人口の裾野を捉えられる。
2025年のDWの大幅減損は痛いが、将来に同じ金額の減損を繰り返すと決まったわけではない。赤字を縮めて高級ドラムのブランド価値を生かせれば、買収の傷は限定的で済む。借入は極端に重くなく、利益の約半分を株主に配りながら研究開発を続ける余力がある。
慎重な見方
前中期計画を振り返れば、経営陣が示した成長の絵を額面どおりに受け取る危険が分かる。2025年に目指していた売上高は1,232億円、営業利益は179億円だった。実際には市場の在庫調整と中国需要の鈍化、米国関税で大きく下振れた。会社が市場をつくると唱えても、購入を決めるのは世界の消費者と小売店である。
DWの問題は一度の会計上の減損だけではない。アコースティックドラムに広げれば顧客も販売網も増えるという仮説が、買収後の営業赤字で試された。買収時に期待した相乗効果を実現できないまま、資本と経営人材を使い続けている。2025年に純利益が大きく減っても配当を維持したことは株主への誠実さと見ることもできるが、弱い業績のままでは借入返済や製品投資を圧迫する。
電子化という市場の追い風も、全社の利益保証ではない。ヤマハとカシオは入門機を安く供給でき、Alesisは電子ドラムで価格を攻める。BOSSの音を忠実に再現するソフトや安価なデジタル機器が増えれば、単価を物価どおりに上げることすら難しくなる。生成AIは音楽制作で必要な機器や有料音源の数を減らし、Roland Cloudの課金率を抑えるかもしれない。
米国を中心に海外売上が9割を超えるため、関税、輸送、ドルで調達する部品の影響は小さくない。円安が永久に利益を押し上げる前提も置けない。製品寿命が短いと、棚卸資産が陳腐化し、値引きと評価損が重なる。10年後にブランドは残っても、株主のために十分な利回りを稼げない企業になっている筋書きを軽視すべきではない。
どちらに重みを置いたか
本業の音と演奏体験に関する強みは確かで、米国の複数カテゴリーで高いシェアを維持している。したがって、構造的な衰退を既定とせず、中立を最も厚くし、上側の確率を下側よりわずかに大きくした。ただし、DW買収の失敗と前中計の未達は明白であり、悲観の可能性を小さく扱わない。価値の差が大きいのは現在の株価に合わせなかった結果だ。2028年に示された利益率と、還元を支える現金の両方が実現するかで見立ては変わる。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 8,012 円2,128 億円(+ 還元の換算額還元の合計 1,734 円460 億円)。 今の値に割り戻すと 3,927 円1,043 億円、今との差 +7.1%、 期待の年率 +11.6%(資本コスト 10.8%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 16,081 円4,270 億円 | 2,636 円700 億円 | +410.7% | +20.0% | 2,246 円596 億円 |
| やや楽観 | 23% | 11,378 円3,021 億円 | 2,147 円570 億円 | +269.0% | +15.8% | 3,111 円826 億円 |
| 中立 | 34% | 8,572 円2,276 億円 | 1,845 円490 億円 | +184.2% | +12.5% | 3,542 円941 億円 |
| やや悲観 | 20% | 2,373 円630 億円 | 1,130 円300 億円 | −4.4% | −0.5% | 701 円186 億円 |
| 悲観 | 11% | 696 円185 億円 | 640 円170 億円 | −63.5% | −11.9% | 147 円39 億円 |
| 加重平均 | 100% | 8,012 円2,128 億円 | 1,734 円460 億円 | +165.9% | +11.6% | 9,746 円2,588 億円 |
今の株価時価総額 3,665 円973 億円(2026-11-02)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 12% 電子楽器化が世界で加速し直販とクラウドが育つ 利益 200 億円 · PER 21.1 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 16,081 円4,270 億円
電子ピアノは2029年以降も練習人口を開拓し、インドや中南米で販売店が増える。鍵盤楽器の出荷は35万台、ドラムは34万セットに拡大する。BOSSは音色と操作性を磨き、低価格の模倣品を退けて145万台を販売する。米国の主要製品で保つ高いシェアを、新興国でも着実に獲得する。
Roland Cloudの有料利用者と単品購入者の合計は80万人に増え、音源とレッスン支援への支出が続く。接続対応楽器が当たり前になり、購入後も顧客とつながることでブランドの選択率が高まる。映像機器も配信需要を取り込む。DWは高級ドラムの採算改善に成功し、買収費用が再び大きな減損になることはない。
研究開発への投資は続くが、販売規模が大きくなるにつれて利益率は過去最高圏へ近づく。費用には人件費の物価上昇と新本社の償却も含まれる。株主還元を続けながら財務の余裕も増え、2035年の純利益は200億円に届く。
- 鍵盤楽器:数量 35.0(万台(出荷の製品換算、推計))× 価格 15(万円/台(メーカー売上実現単価、名目))→ 売上 539 億円・営業利益 97 億円。電子化と新興国の普及により出荷35万台。平均単価は現在の約1.47倍。
- 管打楽器・電子ドラム・DW:数量 34.0(万台・万セット(ドラム等の複合製品換算、推計))× 価格 20(万円/セット(メーカー売上実現単価、名目))→ 売上 681 億円・営業利益 112 億円。電子ドラムとDWの高級製品が成長。34万セット換算、平均単価は約1.50倍。
- BOSS・ギター関連機器:数量 145(万台(エフェクター・アンプ合算換算、推計))× 価格 3.04(万円/台(メーカー売上実現単価、名目))→ 売上 441 億円・営業利益 93 億円。BOSSの製品更新が成功。145万台、平均単価は約1.45倍。
- シンセサイザー・制作機器:数量 21.0(万台(制作ハードウェア換算、推計))× 価格 12(万円/台(メーカー売上実現単価、名目))→ 売上 250 億円・営業利益 50 億円。シンセサイザーと制作機器が市場を拡大。21万台、単価は約1.48倍。
- Roland Cloud・音源サービス:数量 80.0(万人/年(有料利用者+単品購入者、会社KPI))× 価格 0.99(万円/人・年(認識売上の平均、名目、推計))→ 売上 80 億円・営業利益 28 億円。有料利用者と単品購入者の合算80万人。高付加価値音源が普及し平均売上が増える。
- 映像音響機器:数量 3.3(万台(映像機器の製品換算、推計))× 価格 17(万円/台(メーカー売上実現単価、名目))→ 売上 56 億円・営業利益 8 億円。映像配信機器の出荷3.3万台、平均単価は約1.40倍。
- その他・付属品:数量 68.0(万件(周辺品・付属品の販売換算、推計))× 価格 0.87(万円/件(名目・推計))→ 売上 59 億円・営業利益 9 億円。付属品等68万件換算、単価は約1.40倍。
倍率:2035年ROE約18.2%を資本コスト6.75%に比べ、moat=normalとして超過利回りの半分を残すと増分RONICは約12.5%。2035年以降の名目成長率gは3.25%(k−g=3.5%)であり、正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)≒21.14倍。楽観はこの正当化上限をそのまま採用し、市場のPERを参照していない。2025年の減価償却費約26億円に対し2035年は更新投資の償却増で約43億円を営業費用に含め、本社共通費と直販・研究開発関連費は約106億円まで増加するとみる。
確率:海外の演奏人口が予想以上に広がり、米国の高シェアを維持したまま新興国で普及し、DWも黒字化する必要がある。魅力的だが連続した成功が要るため12%。
やや楽観 23% 製品更新と新興国の販売増で成長が続く 利益 146 億円 · PER 20.1 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 11,378 円3,021 億円
電子ピアノと電子ドラムは住宅事情に合う演奏体験として定着する。米欧の売れ行きは落ち着いても、インド・中南米の成長が数量を補う。鍵盤31.5万台、ドラム30万セットへ出荷が増え、BOSSは定番商品と新しいアンプの両方で支持を保つ。製品単価には物価上昇が反映される。
Roland Cloudの利用者指標は60万人に達する。機器を買った人が同社の音源を使い続ける仕組みは育つが、ソフト売上は依然として本業全体を動かすほど大きくない。DWの赤字縮小と物流・関税対策が進み、成長の取り分が営業利益に残る。前中期計画のような急な市場失速は繰り返さない。
直販比率が高まる一方、販売店との関係は維持する。新本社などの更新投資を賄いながら半分前後の利益還元を続け、純利益は146億円に達する。顧客を囲い込めるわけではないため、絶えず新製品を出す費用も必要になる。
- 鍵盤楽器:数量 31.5(万台(出荷の製品換算、推計))× 価格 15(万円/台(メーカー売上実現単価、名目))→ 売上 462 億円・営業利益 79 億円。出荷31.5万台、平均単価は現在の約1.40倍。
- 管打楽器・電子ドラム・DW:数量 30.0(万台・万セット(ドラム等の複合製品換算、推計))× 価格 19(万円/セット(メーカー売上実現単価、名目))→ 売上 569 億円・営業利益 88 億円。電子ドラムの普及とDWの採算改善。30万セット、平均単価約1.42倍。
- BOSS・ギター関連機器:数量 132(万台(エフェクター・アンプ合算換算、推計))× 価格 2.89(万円/台(メーカー売上実現単価、名目))→ 売上 382 億円・営業利益 76 億円。BOSSの支持を維持。132万台、平均単価は現在の約1.38倍。
- シンセサイザー・制作機器:数量 18.5(万台(制作ハードウェア換算、推計))× 価格 11(万円/台(メーカー売上実現単価、名目))→ 売上 207 億円・営業利益 39 億円。制作ハード18.5万台、平均単価約1.39倍。
- Roland Cloud・音源サービス:数量 60.0(万人/年(有料利用者+単品購入者、会社KPI))× 価格 0.86(万円/人・年(認識売上の平均、名目、推計))→ 売上 52 億円・営業利益 15 億円。有料利用者等60万人。接続楽器との連携で課金売上が伸びる。
- 映像音響機器:数量 2.8(万台(映像機器の製品換算、推計))× 価格 16(万円/台(メーカー売上実現単価、名目))→ 売上 45 億円・営業利益 6 億円。映像機器2.75万台、平均単価約1.34倍。
- その他・付属品:数量 60.0(万件(周辺品・付属品の販売換算、推計))× 価格 0.83(万円/件(名目・推計))→ 売上 50 億円・営業利益 7 億円。付属品等60万件換算、平均単価約1.34倍。
倍率:2035年ROE約15.3%、資本コスト6.75%。超過利回りの半分が残る通常の堀ではRONICが約11.0%となる。名目長期成長率gは3.25%で、正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)≒20.14倍。やや楽観は正当化上限をそのまま採用する。減価償却費は2025年約26億円から2035年約37億円へ増え、物価上昇と直販拡大を含む共通費は約94億円を見込む。
確率:主力製品のブランド力、新中計の直販・電子化施策、DWの改善余地は実在する。すべての施策が大成功する前提までは要らないため23%。
中立 34% 電子化の波を取り込みつつ競争は続く 利益 113 億円 · PER 19.2 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 8,572 円2,276 億円
先進国の演奏人口は大きく増えないが、電子ピアノは夜間練習、電子ドラムは省スペースという実用性で需要を保つ。鍵盤の出荷は29万台、ドラムは27万セットへ緩やかに増える。BOSSは競合と価格を争いながらも定番製品の地位を守り、出荷125万台となる。電子化の進みが伸びの源であり、人口だけから需要を推計しない。
中国の教育向け需要は戻り切らず、インドと中南米の拡大が穴を埋める。Roland Cloudの有料利用者と単品購入者の合計は45万人になるが、楽器の買い替えほど収益への貢献は大きくない。DWの採算は改善し、追加の大規模買収をしない。会社は直販・接続機器を着実に広げるが、独占的な顧客基盤にはならない。
人件費や販売費は物価上昇に応じて増え、本社共通費も軽くはならない。古い設備の償却は取得原価のままで、新しい設備の更新では高くなる。借入の借り換えで税前約2億円の追加金利負担を見込む。2035年の営業利益は約173億円、純利益は113億円となり、株主への還元と利益の留保を両立する。
- 鍵盤楽器:数量 29.0(万台(出荷の製品換算、推計))× 価格 14(万円/台(メーカー売上実現単価、名目))→ 売上 407 億円・営業利益 64 億円。鍵盤29万台、平均単価は現在の約1.34倍。物価上昇と緩やかな数量増。
- 管打楽器・電子ドラム・DW:数量 27.0(万台・万セット(ドラム等の複合製品換算、推計))× 価格 18(万円/セット(メーカー売上実現単価、名目))→ 売上 483 億円・営業利益 71 億円。電子ドラムの市場拡大。27万セット換算、平均単価約1.34倍。
- BOSS・ギター関連機器:数量 125(万台(エフェクター・アンプ合算換算、推計))× 価格 2.81(万円/台(メーカー売上実現単価、名目))→ 売上 351 億円・営業利益 66 億円。BOSSのシェアはほぼ維持。125万台、平均単価約1.34倍。
- シンセサイザー・制作機器:数量 17.0(万台(制作ハードウェア換算、推計))× 価格 11(万円/台(メーカー売上実現単価、名目))→ 売上 183 億円・営業利益 32 億円。制作機器17万台、平均単価約1.34倍。
- Roland Cloud・音源サービス:数量 45.0(万人/年(有料利用者+単品購入者、会社KPI))× 価格 0.85(万円/人・年(認識売上の平均、名目、推計))→ 売上 38 億円・営業利益 9 億円。有料利用者等45万人。高機能サービスによる単価上昇を一部見込むが、ソフト競争も残る。
- 映像音響機器:数量 2.5(万台(映像機器の製品換算、推計))× 価格 16(万円/台(メーカー売上実現単価、名目))→ 売上 40 億円・営業利益 4 億円。数量2.5万台で横ばい。競争により平均単価の伸びは物価以下。
- その他・付属品:数量 55.0(万件(周辺品・付属品の販売換算、推計))× 価格 0.83(万円/件(名目・推計))→ 売上 46 億円・営業利益 6 億円。付属品等55万件換算、平均単価約1.34倍。
倍率:2035年ROEは113÷871で約13.0%、資本コストは6.75%。超過利回りが半分残るため増分RONICは約9.86%となる。名目長期成長率gは3.25%(k−g=3.5%)で、正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)≒19.16倍。中立はこの上限をそのまま採用した。減価償却費は2025年約26億円の既存設備取得原価を維持しつつ、新設備分で2035年約35億円とする。共通費は現在の推定約56億円に物価3%と新規投資の費用を反映して約80億円。税前約2億円の借り換え利息増を純利益に反映する。
確率:世界市場は成熟しても電子ドラム・電子ピアノの置換と新興国需要は残る。前中計未達を踏まえ、急成長ではなく堅実な数量増と通常の費用を中心に置くため34%。
やや悲観 20% 販売価格の転嫁に苦しみ買収先の不振が残る 利益 38 億円 · PER 14.0 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 2,373 円630 億円
欧米では楽器販売店の統合と価格競争が進み、電子ピアノの客層は広がりにくくなる。鍵盤出荷は24.5万台、ドラムは21万セットに減る。BOSSは定番機器のブランドを保つが、安価なデジタル模倣機器に押されて販売台数が落ちる。名目単価は物価並みに上げられず、利益率も低下する。
中国の需要減少が長引き、インド等の新規販売網は既存市場の弱さを補えない。Roland Cloudの利用者指標は30万人にとどまり、単品の音源購入額も細る。DWの営業赤字は縮まるものの、事業全体の収益改善を足止めする。販売数量が減っても本社費と研究開発費をすぐには削れない。
営業利益は約66億円、純利益は38億円まで落ちる。借入返済と必要な製品投資を優先し、株主への還元も利益の減少に合わせて縮む。ブランドは存続しても、新たな設備と販促に使う資本の利回りは低く、株主の価値を強く増やす会社ではなくなる。
- 鍵盤楽器:数量 24.5(万台(出荷の製品換算、推計))× 価格 13(万円/台(メーカー売上実現単価、名目))→ 売上 328 億円・営業利益 39 億円。鍵盤24.5万台、平均単価は現在の約1.28倍。実質的な値下げ圧力。
- 管打楽器・電子ドラム・DW:数量 21.0(万台・万セット(ドラム等の複合製品換算、推計))× 価格 17(万円/セット(メーカー売上実現単価、名目))→ 売上 362 億円・営業利益 36 億円。ドラム21万セット換算、単価約1.29倍。DWの低採算が続く。
- BOSS・ギター関連機器:数量 111(万台(エフェクター・アンプ合算換算、推計))× 価格 2.60(万円/台(メーカー売上実現単価、名目))→ 売上 288 億円・営業利益 43 億円。ギター関連111万台、平均単価約1.24倍。廉価品との競争。
- シンセサイザー・制作機器:数量 14.0(万台(制作ハードウェア換算、推計))× 価格 10(万円/台(メーカー売上実現単価、名目))→ 売上 141 億円・営業利益 17 億円。制作ハード14万台、単価約1.25倍。
- Roland Cloud・音源サービス:数量 30.0(万人/年(有料利用者+単品購入者、会社KPI))× 価格 0.63(万円/人・年(認識売上の平均、名目、推計))→ 売上 19 億円・営業利益 2 億円。有料利用者等30万人。利用拡大の一方、低価格プランへの移行が進む。
- 映像音響機器:数量 2.2(万台(映像機器の製品換算、推計))× 価格 15(万円/台(メーカー売上実現単価、名目))→ 売上 32 億円・営業利益 2 億円。映像機器2.2万台、平均単価約1.20倍。
- その他・付属品:数量 47.0(万件(周辺品・付属品の販売換算、推計))× 価格 0.75(万円/件(名目・推計))→ 売上 35 億円・営業利益 3 億円。付属品等47万件換算、平均単価約1.21倍。
倍率:2035年のROEは38÷686で約5.5%であり、資本コスト6.75%を下回る。超過成長を価値と数えない稼ぐ力の上限1÷k=14.81倍より低い14.0倍を、価格競争とDW不振で競争力が低下した収益の持続性から選ぶ。過去や同業の市場PERは参照しない。減価償却費は2025年の約26億円から2035年約29億円へ増え、共通費は物価上昇を反映した約76億円が固定的に残る。
確率:世界の楽器需要は景気敏感で前中計が大幅未達となった。DWの採算悪化や低価格機種との競争が部分的に続く場合を現実的な下振れとして20%。
悲観 11% 技術の差別化を失い電子楽器の利益が消える 利益 −6 億円 · PBR 0.5 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 696 円185 億円
低価格の電子楽器とソフト音源の品質が向上し、演奏者がローランドの製品に追加料金を払う理由が薄れる。高価格帯もヤマハや新興メーカーに侵食され、鍵盤の出荷は19万台、ドラムは15万セットに落ちる。BOSSは知られた名前として残るが、販売台数は85万台まで減り、価格転嫁にも失敗する。
DWは立て直せず、人材と投資を消耗する。Roland Cloudは生成AIによる音楽制作支援と安価な競合ソフトに挟まれ、有料利用は16万人へ縮む。米国の関税や物流網の変化が新たな負担になり、中国・新興国への販路拡大も遅れる。販売数量が減っても研究開発、販売網、本社の固定費は残る。
2035年の営業利益は数億円、最終損益は小幅赤字となる。配当は大きく減額され、成長投資も限定される。ブランドと一部の土地建物には売却価値が残るものの、積み上げた自己資本のすべてが少数株主へ戻るわけではない。帳簿の無形資産を床に数えず、現金・売掛金・在庫・設備の換金価値を重視する。
- 鍵盤楽器:数量 19.0(万台(出荷の製品換算、推計))× 価格 12(万円/台(メーカー売上実現単価、名目))→ 売上 223 億円・営業利益 22 億円。鍵盤19万台。名目単価は現在の約1.12倍で物価上昇を大きく下回る。
- 管打楽器・電子ドラム・DW:数量 15.0(万台・万セット(ドラム等の複合製品換算、推計))× 価格 15(万円/セット(メーカー売上実現単価、名目))→ 売上 224 億円・営業利益 20 億円。ドラム15万セット換算。DWの不振と電子ドラムのシェア低下。
- BOSS・ギター関連機器:数量 85.0(万台(エフェクター・アンプ合算換算、推計))× 価格 2.31(万円/台(メーカー売上実現単価、名目))→ 売上 196 億円・営業利益 25 億円。BOSSの販売台数85万台。廉価機器に押され単価は物価を下回る。
- シンセサイザー・制作機器:数量 10.0(万台(制作ハードウェア換算、推計))× 価格 8.68(万円/台(メーカー売上実現単価、名目))→ 売上 87 億円・営業利益 8 億円。制作ハード10万台。代替ソフトへの需要流出。
- Roland Cloud・音源サービス:数量 16.0(万人/年(有料利用者+単品購入者、会社KPI))× 価格 0.54(万円/人・年(認識売上の平均、名目、推計))→ 売上 9 億円・営業利益 0 億円。有料利用者等16万人。価格競争で平均単価は現在並み、営業利益は出ない。
- 映像音響機器:数量 1.7(万台(映像機器の製品換算、推計))× 価格 13(万円/台(メーカー売上実現単価、名目))→ 売上 22 億円・営業利益 1 億円。映像機器1.7万台、単価は約1.08倍。
- その他・付属品:数量 37.0(万件(周辺品・付属品の販売換算、推計))× 価格 0.68(万円/件(名目・推計))→ 売上 25 億円・営業利益 2 億円。付属品等37万件換算、単価は約1.10倍。
倍率:純利益が小幅赤字でPERは不適切。2025年末の現在の自己資本410.8億円の45%に当たる約185億円を10年後の価値とする。過去の市場PBRの安値ではなく、現預金・売掛金・在庫・固定資産を換金し全負債を返済した清算余力を参考にした。2035年に残る自己資本471億円をそのまま床には使わない。現有設備の償却額を物価で膨らませず2035年の全社償却費は約27億円とし、事業縮小しても本社費・研究開発費に約75億円の固定的な負担が残る。
確率:本業の音源技術と米国ブランドがあるため必然ではないが、DWの失敗が示す資本配分の弱さに製品競争と需要縮小が重なる可能性を11%認める。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
鍵盤楽器
電子ピアノ、ポータブルキーボードなど。住宅向けの練習、学校、プロの演奏で使う。
| 数量万台(出荷の製品換算、推計) | 価格万円/台(メーカー売上実現単価、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 26.0 | 10 | 272 | 38 |
| 10 年後 中立 | 29.0 | 14 | 407 | 64 |
取り方:2025年有報の鍵盤楽器売上272.23億円を正とする。会社は台数を開示していないため、電子ピアノとポータブル鍵盤の製品構成および販売価格帯からメーカー平均実現単価約10.47万円、出荷約26万台を逆算した推定で、実数ではない。参考市場は電子鍵盤の世界出荷約2000〜3000億円という競合売上からの粗い仮説で、当社の取り分は約1割。2025年の製品別営業利益も非開示で、配賦による分析値である。
管打楽器・電子ドラム・DW
V-Drums、電子管楽器、米DWのアコースティックドラム。住宅向けとプロ向けを併せ持つ。
| 数量万台・万セット(ドラム等の複合製品換算、推計) | 価格万円/セット(メーカー売上実現単価、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 22.0 | 13 | 294 | 38 |
| 10 年後 中立 | 27.0 | 18 | 483 | 71 |
取り方:2025年の管打楽器売上293.64億円は会社開示。電子ドラムやDWのドラムセット等を平均約13.35万円の製品換算22万セットと仮定した。数量と単価の実数・電子とアコースティックの内訳は非開示。世界の電子・生ドラム市場は同業品目売上から約1200〜2000億円の仮説で、当社取り分は約2割弱。2025年DWの赤字と共通費を全社調整へ含めるため、ここでの営業利益はあくまで配賦推計。
BOSS・ギター関連機器
BOSSエフェクターとギターアンプなど。専用の音色と奏者の使い勝手が強み。
| 数量万台(エフェクター・アンプ合算換算、推計) | 価格万円/台(メーカー売上実現単価、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 120 | 2.10 | 251 | 45 |
| 10 年後 中立 | 125 | 2.81 | 351 | 66 |
取り方:会社開示の2025年ギター関連売上251.49億円を正とする。比較的安価なエフェクターと高額なアンプの製品構成からメーカー平均約2.10万円、台数120万台と置く推計で、実際の販売数量は非開示。米国ではBOSSエフェクターがカテゴリー首位級だが世界一律シェアではない。世界のギター周辺機器市場は約1000〜1600億円と仮置きし、当社取り分は約2割弱。
シンセサイザー・制作機器
シンセサイザー、DJ機器、音楽制作コントローラーなど。Roland Cloudの推計部分を除く。
| 数量万台(制作ハードウェア換算、推計) | 価格万円/台(メーカー売上実現単価、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 15.0 | 8.04 | 121 | 21 |
| 10 年後 中立 | 17.0 | 11 | 183 | 32 |
取り方:会社の2025年「クリエーション関連機器&サービス」の総売上130.60億円から、非開示のRoland Cloud相当を分析上10.00億円だけ仮に分離し、ハード部分120.60億円とした。平均約8.04万円、15万台は製品ミックスからの仮説で実出荷ではない。世界のシンセ・DJ・音楽制作市場を約2000〜3500億円と粗く推定し、当社のハード取り分は約4〜6%。推定売上と配賦利益を開示実績と取り違えない。
Roland Cloud・音源サービス
楽器音源・制作ソフト・関連サービスの有料利用。楽器購入者を継続収益につなぐ。
| 数量万人/年(有料利用者+単品購入者、会社KPI) | 価格万円/人・年(認識売上の平均、名目、推計) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 18.6 | 0.54 | 10 | 2 |
| 10 年後 中立 | 45.0 | 0.85 | 38 | 9 |
取り方:中期計画では2025年のPaid Userが18.6万人。定期契約者と年間単品購入者の合算であり、継続課金会員18.6万人と同義ではない。クラウド売上は独立開示がなく、クリエーション全体130.60億円のうち10億円をクラウド相当とした分析上の仮定。従って単価0.54万円/人・年も実績ARPUではなく逆算値。2028年の会社目標は30万人。業務SaaSの席課金・AIエージェント代替の型には当たらない。
映像音響機器
業務用映像切り替え機器、映像配信機器など。主力楽器以外の小規模製品群。
| 数量万台(映像機器の製品換算、推計) | 価格万円/台(メーカー売上実現単価、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 2.5 | 12 | 31 | 3 |
| 10 年後 中立 | 2.5 | 16 | 40 | 4 |
取り方:2025年映像音響機器売上30.57億円を基準とする。業務用スイッチャー等の製品単価から2.5万台、平均12.23万円とした換算推計。販売台数と営業利益は非開示であり、世界映像機器市場のごく小さいニッチ事業として数量は中立横ばいとする。
その他・付属品
周辺機器、その他製品売上。小口機器の複合換算。
| 数量万件(周辺品・付属品の販売換算、推計) | 価格万円/件(名目・推計) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 50.0 | 0.62 | 31 | 4 |
| 10 年後 中立 | 55.0 | 0.83 | 46 | 6 |
取り方:2025年有報の「その他」売上30.97億円を正とする。付属品とその他の売上件数は未開示で、1件約6194円の製品換算50万件という説明用の仮説。数量は実質の取引件数、価格は名目単価を表す。2025年の営業利益は分析上の配賦値である。
リスクと懸念
DW買収の資本損失が再発する
2022年に取得した米国DWは計画した相乗効果を出せず、2025年に約39億円の減損を記録した。減損は現金流出そのものではないが、買収時に見込んだ稼ぐ力が誤っていたことを示す。立て直しの投資がさらに必要になれば、電子楽器本業で生んだ現金が新製品や配当に回らず、長期の株主価値を傷つける。
楽器市場の成熟と流通在庫
ローランドが2023〜2025年の中期計画で予想した市場回復は実現しなかった。楽器店やネット販売会社が在庫を減らす時、消費者の演奏意欲が直ちに失われなくてもメーカーの出荷は落ちる。家庭の趣味への支出は金利と雇用の悪化で後回しにされやすく、増産や新製品のタイミングを外すと値引きで在庫を処分することになる。
価格競争と奏者の乗り換え
電子ドラムはAlesisやヤマハ、鍵盤はヤマハ・カシオ、制作機器はコルグやArturiaなど競争相手が明確だ。BOSSやV-Drumsのブランドは強いが、顧客が契約によって囲い込まれているわけではない。廉価品の技術が進めば入門機での値上げが難しくなり、高級機の機能差も縮む。市場シェアだけで将来の利益率を保証することはできない。
北米関税・貿易政策と調達負担
海外売上が9割超で、北米は最も大きい市場である。2025年は米国関税政策の影響が会社資料で約25億円の営業利益負担として示された。分析ではドル円を150円に固定しているが、実際には為替変動、関税率の変更、生産拠点の移管費用が重なる可能性がある。関税対策として製造や物流網を組み直すほど資本が必要になる。
生成AIと音楽制作ソフトの競争
本業の電子楽器は人月型サービスや業務用席課金SaaSではなく、AIエージェントが直接代替する型には当たらない。それでもRoland Cloudの音源、音楽制作機器、練習支援には生成AIや無償ソフトの圧力が及ぶ。ソフト利用者数が増えても課金単価が下がる可能性があり、音源ソフトの売上を楽器本体と同じ価格決定力で評価しない。
棚卸資産・借入とリースの固定費
2025年末の棚卸資産は約273億円あり、売れ残りと陳腐化で損失が出る余地がある。純有利子負債は約63億円と過大ではないが、短期金利2%・借り換え3.5%の前提では金融費用が増える。拠点賃借や店舗のリースも固定的な支払約束であり、売上が落ちた時に在庫・家賃・研究開発費が同時に重荷になる。
計画目標と株主還元の両立
新中期計画は2028年に売上1,200億円、営業利益144億円、ROIC18%以上を目指すが、前計画は未達だった。総還元性向50%とDOE5%の方針は株主には明確でも、利益が低迷したまま固定的な配当を維持すれば内部留保や負債返済を圧迫する。目標の達成より、更新投資後の現金がどれだけ株主に戻ったかを継続して確認すべきだ。
今後の分かれ目
- 2028年に営業利益144億円とROIC18%以上を同時に達成し、その後も利益率が落ちなければ
- 新製品と直販への投資が資本コストを超える収益を生んだ証拠となる。中立からやや楽観側へ確率を移す。ただし利益だけでなく、運転資金と設備投資後の現金も確認する。
- DWが2028年までに営業利益率6%超へ回復し、追加の減損を出さなければ
- 買収の傷が広がらないと判断できる。管打楽器の利益率と資本配分への信頼を上げ、悲観側の確率を下げる。
- 電子ドラム・BOSSの米国シェアが連続して落ち、製品単価も物価を下回れば
- ブランドの堀が削られたとみなし、対象製品の出荷台数と利益率を引き下げる。やや悲観・悲観の重みを増す。
- Roland Cloudの有料利用者指標が30万人を超えても、関連売上の伸びが確認できなければ
- 単品購入者を含む利用者数だけでは収益の質を裏付けられないと判断する。クラウドの単価と長期収益率を引き下げる。
- 新興国売上の成長が2026〜2028年計画の年率12%に近づき、欧米販売の減少を埋めれば
- 人口増に依存しない新たな演奏者層の獲得と考え、鍵盤・ドラムの数量前提を上げる。
- 在庫の増加に売上が追いつかず、営業キャッシュフローが投資と配当を継続的に下回れば
- 帳簿利益が株主の現金にならないと判断し、資本還元と自己資本の流れを再計算する。借入の増加が続けば下側の筋書きを厚くする。
- 米国関税による営業利益負担が2025年の約25億円を超える水準で定着すれば
- 価格に十分転嫁できなかった証拠として北米向け利益率を下げる。生産移管の追加投資も更新費用と利払いに反映する。
見ておくもの
- 米国MI SalesTrak等による電子ドラム、ギターエフェクター、電子ピアノの製品別シェアと価格の推移
- DW単独の営業利益率と減損・追加投資の有無(2028年目標6%超)
- Roland CloudのPaid User、Subscriber、ソフト売上比率を別々に確認
- 2026〜2028年の営業利益144億円・売上1,200億円・ROIC18%以上の進捗
- 新興国売上成長率の会社目標年率12%に対する実績、直販比率と接続型楽器比率
- 棚卸資産の売上比率、営業キャッシュフロー、設備投資、配当・自社株買い合計
- 米国関税による営業利益への負担と価格転嫁率、借入の金利
- 顧客が生成AIの音楽制作機能を採用する状況と制作ハード・クラウドへの影響
倍率と資本コストの決め方
2025年の製品別売上は有報の数値を使い、非開示の出荷台数とメーカー単価は各製品の価格帯から推定した。数量は実質、単価は名目で2035年まで延ばし、物価3%を二重計上していない。資本コスト6.75%とROE、超過利回りが半分残るRONICから長期PERを決め、現在・過去の市場PERやPBRは参照しなかった。10年後は株主還元を利益の流れと整合させ、悲観は帳簿全額でなく換金資産を床とした。減価償却は既存設備の簿価基準を守り、新規設備の高い更新価格だけを追加した。新リース基準で2028年12月期以降は表示が変わるが、2035年の利益は旧基準の家賃費用ベースでそろえる。
資本コスト 10.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。無リスク金利3%と株式リスクプレミアム4.5%による基本7.5%に、事業の質による合計−0.75ポイントを加えた6.75%。β・規模プレミアムは採用しない。