結論
共同印刷は、週刊少年ジャンプを創刊号から刷ってきた老舗の印刷会社である。ただ、今の成長の芯は漫画ではなく、化粧品や歯みがきのチューブだ。筆者の結論は割高。本業の利益が小さいまま、株価が持ち合い株と高い配当で支えられているからだ。
2026 年 3 月期の売上は 982 億円、営業利益は 21 億円にとどまる。純利益は 39.6 億円と大きく見えるが、持ち合い株の売却益 34 億円が押し上げた。これを除いたならした純利益は 18 億円前後で、ROE は 3% に届かない。
事業は 3 つある。出版・商業印刷は赤字で、紙の需要が細り続ける。データプリントや IC カードの情報セキュリティは、官公庁向けと交通系 IC カードの落ち込みで、利益が 4 割減った。伸びているのはチューブや軟包装の生活・産業資材だけだ。国内のラミネートチューブで首位の座を使い、ベトナムとインドネシアに広げている。
資本政策は、低い PBR に追われる形で動いている。持ち合い株を純資産の 27% から 15% 未満へ減らし、配当は純資産の 3.5% を目安に払う。2025 年末には発行済み株の 10.4% を消却した。方向はよい。ただ、配当は利益より重く、株を売った益で穴を埋めている。売る株が減れば、利益で払うしかなくなる。
10 年後の中立は、営業利益が 34 億円、ROE が 4% 台だ。資本コスト 8.75% に届かない会社の値打ちは、利益の 10 倍弱が上限である。売却予定の持ち合い株の手取りを足しても、時価総額は今を下回る。会社が掲げる 2034 年度の営業利益 120 億円に届く筋書きもあるが、確率は 1 割に満たないと見る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、見たいのは「持ち続けたい事業か」だ。共同印刷は、そうとは言いにくい。
利益を生む力は小さい。12 年のうち営業利益率が 3.5% を超えた年はなく、ROE は資本コストを大きく下回り続けた。設備投資は年 50 億円近くかかり、減価償却も 58 億円ある。営業の現金の多くが設備に消えるので、手元に残る利益(オーナー利益)はさらに薄い。
一方で、足元の資産は厚い。持ち合い株の含み益は税引き後で約 99 億円、現金は借入より多い。資産の裏づけがあるので、悲観の筋書きでも倒れにくい。ここは評価できる。
資本の配り方は改善の途上にある。持ち合い株を売り、配当と自社株買いに回すのは筋が通る。だが、売却益で配当を払う形は長く続かない。大事なのは、売って浮いた資金が、チューブの増設のような ROIC(投下資本利益率)8% 以上の使い道に向かうかどうかである。会社自身が示す ROIC は 1.6%(2024 年度)にとどまる。
筆者の結論は、資産が厚い安全域はあるが、成長の根は細いというものだ。今の株価は、その安全域より先を織り込んでいる。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は 3 つの柱と、小さな不動産・物流である。
情報コミュニケーション(売上 323 億円)は出版と商業印刷の部門だ。集英社の週刊少年ジャンプを 1968 年の創刊から受け、コミックスや児童書に強い。カタログ、店頭販促の什器、統合報告書の制作も請ける。この部門は営業赤字が続く。紙の出版が減るなかで、不採算の雑誌から手を引き、デジタルコミックやイベント企画などの非印刷に重心を移している。
情報セキュリティ(売上 305 億円)は、顧客情報の印刷から封入・発送までを一手に請けるデータプリントと、その周辺事務を丸ごと受けるビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO、業務の外部受託)が主力だ。ほかに、交通系 IC カード、宝くじ、特急券の用紙がある。交通系 IC カードは首位のシェアだ。2026 年 3 月期は官公庁向けのデータプリントと IC カードが減り、営業利益は 11 億円と 4 割減った。
生活・産業資材(売上 332 億円)は、ラミネートチューブ(化粧品、歯みがき、医薬、食品向け)、ブローボトル、紙器、軟包装、医薬品や電子部品向けの高機能フィルムである。営業利益は 15 億円で、全社でいちばん稼ぐ。ベトナムとインドネシアに工場を持つ。
最後に、その他(売上 22 億円)。2022 年に小石川の旧本社地を日鉄興和不動産へ 75 年の定期借地で貸した。受け取った前払い分は長期前受金(164 億円)として負債に載る。2026 年 3 月期に 2.3 億円減っており、筆者はこれが毎年収益に振り替わっているとみる。現金が入らない利益である。
優良さと弱いところ
優良さは、事業ごとに大きく違う。筆者は、この会社に強い堀(他社がまねできない強み)があるとは言えないと見る。
堀に近いのは 2 つだ。ラミネートチューブは国内首位で、化粧品メーカーの品質要求に応えてきた実績がある。交通系 IC カードと特急券用紙は、鉄道会社との長い取引と製造の許可に守られる。ただ、前者は大日本印刷、凸版、武内プレスと競り合い、後者は IC カードのスマートフォン移行で需要が細る。
堀がないのは出版と商業印刷だ。営業利益率が 1% を切る年が多く、2026 年 3 月期は赤字だった。BPO とデータプリントも、官公庁の入札で値段を決められる。過去 10 年の ROE の中央値は 2.5% で、資本コストを大きく下回ってきた。営業利益率は 12 年間で 3.5% を超えていない。
経営の動きは、目に見えて前向きになった。不採算の工場を閉め、雑誌の赤字案件から撤退し、持ち合い株を減らし、自社株を買って消却した。前の中計(営業利益 31 億円)は 23 億円で終わったが、ROE の目標は売却益のおかげで達成した。利益で稼ぐ力がついたのではない点が、いちばん弱い。
財務は堅い。自己資本比率は 52.7% で、現金が借入を上回る。倒産の心配はなく、時間を稼げる会社だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の印刷市場は 1991 年の 8.9 兆円から縮み、2024 年は 6.3 兆円ほどだ。出版も商業印刷も、紙の部数が減るのが止まらない。印刷の大手は凸版(TOPPAN)と大日本印刷で、この 2 社も半導体材料に軸足を移している。共同印刷は、その下に位置する中堅だ。
情報コミュニケーションの市場は、筆者の推計で約 1.6 兆円。実質では年に 3% 前後縮むと見る。カタログと情報誌は大きく減り、IR 分野と店頭販促だけがやや強い。
情報セキュリティの市場は約 1.2 兆円。データプリントは、行政と金融のペーパーレス化で細る。BPO は、健康経営の支援や口座開設アプリなどで伸びる分野もあるが、人の手間で売る仕事は AI エージェントに置き換えられやすい。この部門で筆者が最も気にするのは、そこだ。IC カードは、スマートフォン決済へ移る流れがある。
生活・産業資材の市場は、国内とアジアで約 1.1 兆円と置く。国内のラミネートチューブは、調査会社の見立てで年 1% 前後の伸びだ。世界のチューブ包装は年 5% 台で伸びるとされ、アルビア、エッセルプロパックなどの大手が競う。東南アジアは化粧品の需要が伸びるので、共同印刷の拠点には追い風がある。ただ、国内で価格を転嫁し切れていない点は課題だ(2026 年 3 月期は転嫁の遅れと受注価格の下落で利益が減った)。
業界全体として、紙は減り、包装は増える。印刷会社の価値は、包装にどれだけ資本を移せるかで決まる。
資本政策と M&A
還元の柱は DOE(純資産配当率)3.5% だ。2026 年 3 月期の配当総額は 21 億円ほど、次期は 22 億円強を予想する。ならした純利益を上回る水準だ。
自社株は、2025 年 11 月に 10 億円を上限に取得を決め、実際は 9.6 億円を買った。同年 12 月に発行済み株の 10.4%(348 万株)を消却している。同じ時期に、DIC の退職給付信託などが 192 万株を売り出した。需給の重しを自社株買いでならした形だ。
持ち合い株は、上場 23 銘柄で 174 億円、純資産の 27% を占める(リクルート 44 億円、SCREEN 38 億円、清水建設 19 億円など)。会社は 2027 年度までに 15% 未満(約 98 億円以下)にすると公表した。今期は 8 銘柄を 41 億円で売った。含み益の税引き後は約 99 億円ある。
株主優待は QUO カードで、200 株以上の株主に年 2 回出る。費用の開示がないため、株主 12,849 人から筆者が推計し、年 0.8 億円ほどと見る。10 年分を還元に足した。
M&A は、東南アジアと産業用包材を中心に探る方針で、10 年で成長投資 430 億円のうち一部を充てる。大型の買収実績はない。株主には、東京インキ(7.2%)と DIC の信託がいる。10 年以内の TOB の確率は 28% との推計もあるが、有力な買い手の名前は出ていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
生活・産業資材が、これから会社の姿を変える。国内のラミネートチューブは首位で、化粧品向けの高付加価値品に入れ替えるほど価格是正が進む。インドネシアの工場は増設が続き、東南アジアの化粧品需要を取り込む。産業用包材と機能性フィルムが加われば、この部門だけで売上は今の倍になり、営業利益率は 8% 台に上がる。
情報系は、赤字の雑誌から手を引いたことで出血が止まった。BPO は、健康経営の支援や口座開設アプリで伸び、官公庁向けの落ち込みを埋める。IC カードの減りは、乗車券やスマートフォン向けサービスで補える。2022 年の借地契約で受け取った 164 億円の前受金が、財務を支えている。増設の資金も出せる。
資本政策も変わった。持ち合い株が純資産の 15% 未満になれば、浮いた資金で配当と自社株買いが続き、ROE は 8% に近づく。2025 年末に発行済み株の 10.4% を消却したのは、経営が資本効率を本気で見ている証拠だ。会社の長期目標である 2034 年度の営業利益 120 億円に近づけば、利益は今の 5 倍になる。PBR が 0.7 倍にとどまる今の評価は、この変化を織り込んでいない。
慎重な見方
会社の計画は、いつも未達に終わってきた。前の中計は営業利益 31 億円を掲げて 23 億円で終わり、今期の営業利益は 21 億円と減っている。今期の ROE の達成も、本業ではなく持ち合い株の売却益のおかげだ。売る株が減れば、その手は使えない。
出版・商業印刷はまだ赤字で、紙の需要が細る速さは計画より速いかもしれない。情報セキュリティも、官公庁と IC カードの 2 本柱が同時に崩れた。BPO は、AI エージェントが人の手間を代わりに担う分野で、値下げ圧力が強まる。
成長の芯のチューブも、国内は大日本印刷、凸版、武内プレスと競り合う。海外は、アルビアなど世界大手が先にいる。価格転嫁の遅れは、国内でさえ解決していない。会社自身が示す ROIC は 1.6% で、増設を重ねても資本コストを超えられる保証はない。
配当は純資産の 3.5% と手厚いが、ならした利益のほぼ全部を使う。業績が崩れれば減配に追い込まれる。そのとき、配当で支えられている株価の根拠が失われる。資産の厚みはあるが、PBR 0.7 倍はすでにその分を織り込んでいる。
どちらに重みを置いたか
強気の主張は、チューブの成長と持ち合い株の整理という確かな事実に支えられている。だが、その事実が会社全体の利益を数倍にするところまでは、実績が示していない。慎重な見方の方が強いと判断し、確率を悲観側に寄せた。中立は、チューブの成長が印刷の縮小を少し上回る姿で、営業利益は 34 億円。資産の厚みがあるので悲観でも大きくは崩れないが、利益の質は上がらないと見る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,370 円379 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 852 円236 億円)。 今の値に割り戻すと 1,152 円319 億円、今との差 −32.7%、 期待の年率 +2.6%(資本コスト 8.8%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 3,712 円1,027 億円 | 1,475 円408 億円 | +203.1% | +11.7% | 363 円100 億円 |
| やや楽観 | 18% | 2,339 円647 億円 | 1,157 円320 億円 | +104.3% | +7.4% | 629 円174 億円 |
| 中立 | 35% | 1,372 円380 億円 | 871 円241 億円 | +31.1% | +2.7% | 785 円217 億円 |
| やや悲観 | 25% | 539 円149 億円 | 672 円186 億円 | −29.2% | −3.4% | 303 円84 億円 |
| 悲観 | 15% | 495 円137 億円 | 448 円124 億円 | −44.9% | −5.8% | 142 円39 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,370 円379 億円 | 852 円236 億円 | +29.8% | +2.6% | 2,222 円615 億円 |
今の株価時価総額 1,711 円473 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.8% を下回るほど割高。
楽観 7% 生活・産業資材が倍になり、会社の長期目標に近づく 利益 76 億円 · PER 12.8 倍 · 株価時価総額 3,712 円1,027 億円
生活・産業資材が、会社の計画どおり今の倍の規模になる。国内のチューブは化粧品向けの高付加価値品へ入れ替わり、価格是正が進む。インドネシアとベトナムは増設を重ね、東南アジアの化粧品需要を取り込む。産業用包材と機能性フィルムも新しい柱になる。営業利益率は 8% 台半ばに上がる。
情報系は、赤字の雑誌から手を引いて出血が止まる。BPO は健康経営の支援や金融向けのアプリで伸び、官公庁向けの落ち込みを埋める。AI エージェントを使って自社の BPO を効率化できる点も効く。IC カードの減りは乗車券と決済サービスで補う。
持ち合い株は純資産の 15% 未満になり、売却代金は配当と自社株買い、そして海外の増設に回る。ROE は 10% を超える。営業利益は 99 億円まで伸びるが、会社が掲げる 2034 年度の 120 億円には届かない。
- 情報コミュニケーション:数量 27.5(国内の出版・商業印刷・関連サービスの実質規模 × 当社のシェア(十億円・2026 年の値段))× 価格 1.30(値段の指数(今=1.00。物価込みの名目))→ 売上 357 億円・営業利益 13 億円。市場の縮みは緩やかで、シェア維持。IR・コンテンツ中心で利益率 3.5%
- 情報セキュリティ:数量 29.0(国内のデータプリント・BPO・カード・証券類の実質規模 × 当社のシェア(十億円・2026 年の値段))× 価格 1.34(値段の指数(今=1.00。物価込みの名目))→ 売上 388 億円・営業利益 27 億円。BPO とヘルスケアで数量をほぼ保つ。利益率 7%(前々期並み)
- 生活・産業資材:数量 59.7(国内とアジアのチューブ・紙器・軟包装・機能性フィルムの実質規模 × 当社のシェア(十億円・2026 年の値段))× 価格 1.34(値段の指数(今=1.00。物価込みの名目))→ 売上 800 億円・営業利益 68 億円。数量 1.8 倍(増設と産業用包材)、価格は物価並み。利益率 8.5%
倍率:事業の純利益 75 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.7% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)60 億円。全体の PER 12.83 倍、時価総額 1,027 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:チューブの増設、産業用包材への参入、BPO の伸びがそろって成功し、持ち合い株の整理も進むという、複数の成功が連続する筋書き。会社の計画は過去に未達が続いたので、1 割を切る確率にとどめた。
やや楽観 18% 中計どおりに進み、ROE が 7% 台に乗る 利益 52 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 2,339 円647 億円
生活・産業資材は、チューブを化粧品向けに入れ替えて価格を是正し、インドネシアで増設を続ける。数量は 1.45 倍になり、営業利益率は 7% に届く。
情報セキュリティは、BPO の伸びがデータプリントの減りをほぼ打ち消す。営業利益率は 6% に戻る。情報コミュニケーションは、不採算の工場と雑誌を整理し終えて黒字になる。
持ち合い株は 15% 未満にそろい、その後も縮減が続く。配当は DOE 3.5% を保ち、自社株買いが加わる。営業利益は 66 億円まで伸びる。会社の中計(2027 年度に営業利益 45 億円)より 10 年遅れて、その先の水準へ届く姿だ。ROE は資本コストにあと一歩届かない。
- 情報コミュニケーション:数量 24.3(国内の出版・商業印刷・関連サービスの実質規模 × 当社のシェア(十億円・2026 年の値段))× 価格 1.28(値段の指数(今=1.00。物価込みの名目))→ 売上 310 億円・営業利益 8 億円。市場縮小・シェア微減、不採算を整理して利益率 2.5%
- 情報セキュリティ:数量 26.8(国内のデータプリント・BPO・カード・証券類の実質規模 × 当社のシェア(十億円・2026 年の値段))× 価格 1.30(値段の指数(今=1.00。物価込みの名目))→ 売上 349 億円・営業利益 21 億円。BPO が伸び、数量 0.88 倍。利益率 6%
- 生活・産業資材:数量 48.1(国内とアジアのチューブ・紙器・軟包装・機能性フィルムの実質規模 × 当社のシェア(十億円・2026 年の値段))× 価格 1.34(値段の指数(今=1.00。物価込みの名目))→ 売上 645 億円・営業利益 45 億円。数量 1.45 倍(国内の入れ替えと海外増設)、利益率 7%
倍率:事業の純利益 51 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.9% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)60 億円。全体の PER 11.43 倍、時価総額 647 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中期経営計画の方向(チューブの高付加価値化、持ち合い株の整理、DOE 3.5%)が最終年度の目標には届かなくても、おおむね進む姿。実行の実績は弱いが、方向が明確なので 2 割弱を置いた。
中立 35% チューブの成長が、印刷の縮小を少し上回る 利益 29 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 1,372 円380 億円
出版・商業印刷は、紙の需要が実質で 4 割近く縮む。それでも不採算を切り、売上は 250 億円前後を保つ。営業利益は、赤字を脱して 2 億円のわずかな黒字になる。
情報セキュリティは、官公庁向けデータプリントと IC カードが細り、BPO の一部は AI エージェントに置き換わる。数量は実質 0.75 倍に落ちるが、健康経営や金融向けの BPO が下支えし、利益率は 4% 台を保つ。
生活・産業資材は、国内のチューブが年 1% 前後、インドネシアが年 7% 前後で伸び、数量は 1.1 倍になる。価格は転嫁の遅れが残り、物価をやや下回る。営業利益率は 5.5% に届く。
全社の営業利益は 34 億円で、今の 1.6 倍にとどまる。持ち合い株は 15% 未満にそろい、売却代金は借入の返済と自社株買いに回る。配当は DOE 3.5% を保つが、ROE は 4% 台で資本コストに届かない。優待(年 0.8 億円と推計)の受け取りも還元に含める。
- 情報コミュニケーション:数量 20.1(国内の出版・商業印刷・関連サービスの実質規模 × 当社のシェア(十億円・2026 年の値段))× 価格 1.25(値段の指数(今=1.00。物価込みの名目))→ 売上 251 億円・営業利益 2 億円。市場の縮みを不採算の切り捨てで受ける。シェア微減、利益率 0.8%
- 情報セキュリティ:数量 22.9(国内のデータプリント・BPO・カード・証券類の実質規模 × 当社のシェア(十億円・2026 年の値段))× 価格 1.25(値段の指数(今=1.00。物価込みの名目))→ 売上 286 億円・営業利益 12 億円。官公庁・IC カードが細り、BPO の一部が AI で置き換わる。数量 0.75 倍、利益率 4.2%
- 生活・産業資材:数量 37.2(国内とアジアのチューブ・紙器・軟包装・機能性フィルムの実質規模 × 当社のシェア(十億円・2026 年の値段))× 価格 1.30(値段の指数(今=1.00。物価込みの名目))→ 売上 483 億円・営業利益 27 億円。国内 1%・海外 7% の成長で数量 1.12 倍。価格は転嫁遅れで 1.30 倍。利益率 5.5%
倍率:事業の純利益 28 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.7% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)60 億円。全体の PER 11.43 倍、時価総額 380 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:出版・商業印刷の縮小は確実で、チューブの成長と持ち合い株の整理は進むが、利益は大きく伸びない。会社の計画は過去に未達が続いたことを踏まえ、最大の確率を置いた。
やや悲観 25% 印刷の縮小が速く、チューブの成長も止まる 利益 13 億円 · PER 8.7 倍 · 株価時価総額 539 円149 億円
出版・商業印刷は、実質で半分近くまで縮み、構造改革の費用がかさんで赤字に戻る。情報セキュリティは、官公庁の電子化と IC カードのスマートフォン移行で需要が減る。AI エージェントが事務作業の BPO を置き換え、値段が物価に追いつかない。利益率は 2.5% まで下がる。
生活・産業資材は、国内の競合(大日本印刷、凸版、武内プレス)との値下げ競争で、価格を転嫁できない。インドネシアは増設が遅れ、数量は国内の減りと相殺されて 0.95 倍にとどまる。営業利益率は 4%。
営業利益は 11 億円で、ほぼ今の半分になる。持ち合い株の売却益が減るなか、会社は DOE を維持しようとして、配当が利益を上回る年が続く。売却は進むが、代金の一部は赤字事業の再編に使われる。
- 情報コミュニケーション:数量 16.8(国内の出版・商業印刷・関連サービスの実質規模 × 当社のシェア(十億円・2026 年の値段))× 価格 1.18(値段の指数(今=1.00。物価込みの名目))→ 売上 198 億円・営業利益 −3 億円。数量 0.52 倍・値決め弱く、構造改革の費用もあって利益率 -1.5%
- 情報セキュリティ:数量 18.9(国内のデータプリント・BPO・カード・証券類の実質規模 × 当社のシェア(十億円・2026 年の値段))× 価格 1.15(値段の指数(今=1.00。物価込みの名目))→ 売上 217 億円・営業利益 5 億円。電子化・スマホ移行・AI 代替で数量 0.62 倍。利益率 2.5%
- 生活・産業資材:数量 31.5(国内とアジアのチューブ・紙器・軟包装・機能性フィルムの実質規模 × 当社のシェア(十億円・2026 年の値段))× 価格 1.22(値段の指数(今=1.00。物価込みの名目))→ 売上 384 億円・営業利益 15 億円。価格転嫁が進まず 1.22 倍。数量 0.95 倍、利益率 4%
倍率:事業の ROE 1.9% が k 8.75% 以下なので PER は 1÷k=12.1 倍まで。利益が小さく、稼ぐ力(純利益÷k)より倍率を抑える年。上限の 7 割強に置く。(上限の約 72% の 8.7 倍)
確率:紙の縮みが計画より速く、AI による BPO の置き換えが早まり、チューブの価格転嫁も進まない。過去の計画の未達と、今期すでに情報セキュリティが 4 割減益になった事実を重く見て、2 割台半ばを置いた。
悲観 15% 本業で稼げず、持ち合い株の売却で延命する 利益 4 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 495 円137 億円
紙の需要が実質で 6 割まで縮み、情報コミュニケーションは赤字が止まらない。官公庁向けのデータプリントは電子化され、交通系 IC カードはスマートフォンに移る。AI エージェントが BPO の事務を担い、値段は物価の半分も上がらない。
生活・産業資材は、国内で大日本印刷や凸版に化粧品の大口顧客を取られる。ベトナムとインドネシアの増設は、世界大手のアルビアなどとの競争で稼働が上がらず、減損が出る。
営業利益はゼロに落ちる。配当は DOE の目安を守れず、半分近くまで減らす。持ち合い株の売却代金で赤字を埋め、純資産は減損で 580 億円台に減る。もはや優良な印刷会社ではなく、資産の厚みだけで評価される会社になる。
- 情報コミュニケーション:数量 12.9(国内の出版・商業印刷・関連サービスの実質規模 × 当社のシェア(十億円・2026 年の値段))× 価格 1.10(値段の指数(今=1.00。物価込みの名目))→ 売上 142 億円・営業利益 −2 億円。数量 0.40 倍・シェア低下、赤字が続く
- 情報セキュリティ:数量 15.2(国内のデータプリント・BPO・カード・証券類の実質規模 × 当社のシェア(十億円・2026 年の値段))× 価格 1.05(値段の指数(今=1.00。物価込みの名目))→ 売上 160 億円・営業利益 2 億円。電子化・スマホ移行・AI 代替で数量半減、利益率 1%
- 生活・産業資材:数量 24.9(国内とアジアのチューブ・紙器・軟包装・機能性フィルムの実質規模 × 当社のシェア(十億円・2026 年の値段))× 価格 1.10(値段の指数(今=1.00。物価込みの名目))→ 売上 274 億円・営業利益 6 億円。大口顧客を失い数量 0.75 倍、価格 1.10 倍、利益率 2%
倍率:構造的に負けた筋書きで、稼ぐ力(事業の純利益 3.5 億円 ÷ k)は 42 億円ほどにとどまる。床は売れる資産で見て、今の自己資本 652.6 億円に 0.21 倍を掛けた。内訳は持ち合い株の時価 175 億円の税引き後 132 億円と純現金 28 億円で、退職給付の純負債の税引き後 23 億円を引いた約 137 億円。土地・工場は数えない。ROE が k 以下で稼ぐ力より売れる資産が大きいため、後者を採った。
確率:出版・商業印刷、データプリント、IC カードの縮みが同時に速まり、BPO が AI で置き換わり、国内外のチューブも競合に取られる、構造的に負ける姿。実行途上の変化が多く、持ち合い株の売却益を除くと利益が薄い現状から、15% を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
情報コミュニケーション
出版印刷(週刊少年ジャンプなど)、一般商業印刷(カタログ・情報誌・店頭販促)、オリジナルコンテンツ、IR 支援。
| 数量国内の出版・商業印刷・関連サービスの実質規模 × 当社のシェア(十億円・2026 年の値段) | 価格値段の指数(今=1.00。物価込みの名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 32.3 | 1.00 | 323 | −2 |
| 10 年後 中立 | 20.1 | 1.25 | 251 | 2 |
取り方:市場の規模は筆者の推計で約 1.6 兆円(実質)。国内の印刷市場 6.3 兆円のうち、出版・商業印刷・コンテンツの領域。売上 323.4 億円を割るとシェアは約 2.0%。営業損失 2.2 億円。数量は市場×シェアの実質取扱額、価格は物価込みの値段の指数。
情報セキュリティ
データプリント、BPO(業務の外部受託)、交通系 IC カード、宝くじ・乗車券の用紙、小口決済システム。
| 数量国内のデータプリント・BPO・カード・証券類の実質規模 × 当社のシェア(十億円・2026 年の値段) | 価格値段の指数(今=1.00。物価込みの名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 30.5 | 1.00 | 305 | 11 |
| 10 年後 中立 | 22.9 | 1.25 | 286 | 12 |
取り方:市場の規模は筆者の推計で約 1.2 兆円(実質)。データプリント・BPO・IC カード・証券類の国内市場。売上 304.8 億円を割るとシェアは約 2.5%。営業利益 11.3 億円(利益率 3.7%)は前期の 19.6 億円から 42% 減。BPO と事務を伴うデータプリントが売上の 6 割ほどで、AI エージェント代替の影響を受ける型。
生活・産業資材
ラミネートチューブ、ブローチューブ・ボトル、紙器、軟包装、医薬品・電子部品向けの高機能フィルム。ベトナム・インドネシアに工場。
| 数量国内とアジアのチューブ・紙器・軟包装・機能性フィルムの実質規模 × 当社のシェア(十億円・2026 年の値段) | 価格値段の指数(今=1.00。物価込みの名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 33.2 | 1.00 | 332 | 15 |
| 10 年後 中立 | 37.2 | 1.30 | 483 | 27 |
取り方:市場の規模は筆者の推計で約 1.1 兆円(実質)。国内のチューブ(首位)・紙器・軟包装と、アジアのチューブ市場。売上 331.7 億円を割るとシェアは約 3.0%。営業利益 15.2 億円(利益率 4.6%)は前期比 26% 増。
リスクと懸念
出版・商業印刷の縮小と赤字
情報コミュニケーションは売上 323 億円で営業赤字が続く。カタログと情報誌の減り方が大きく、コミックスの好調でも補えない。縮みが構造改革より速ければ、再編費用が膨らみ、会社全体の利益を押し下げる。
官公庁・交通系 IC カードの落ち込み
情報セキュリティの営業利益は 2026 年 3 月期に 4 割減った。官公庁向けのデータプリントが減り、交通系 IC カードもスマートフォンへ移っている。この 2 本柱が同時に細ると、全社の利益の約半分が揺らぐ。
AI エージェントによる BPO の代替
BPO や事務を伴うデータプリントは人の手間で売る仕事で、AI エージェントが置き換えやすい。情報セキュリティの数量を 10 年で 0.75 倍と置き、悲観では半分にした。成果で課金できる新しい契約に移れなければ、値段も物価に追いつかない。
持ち合い株の売却益に頼った還元
配当は年 22 億円ほどで、ならした純利益を上回る。2026 年 3 月期の最終利益と ROE は売却益 34 億円で押し上げられた。純資産の 15% 未満にそろえたあとは売る株が減り、本業の利益だけで配当を払うことになる。
チューブの価格転嫁と競合
成長の芯であるチューブは、国内では大日本印刷、凸版、武内プレスと競る。2026 年 3 月期は、一部製品で価格転嫁が遅れ、受注価格も下がった。海外では世界大手のアルビアなどが先行し、増設した工場の稼働が上がらない恐れがある。
計画未達の常習と需給
前の中計は営業利益 31 億円の目標が 23 億円で終わった。今の中計は 2027 年度(2028 年 3 月期)に 45 億円を掲げるが、2027 年 3 月期の会社予想は 25 億円だ。DIC の信託や東京インキなど安定株主の売却は、需給の重しになりうる。
今後の分かれ目
- 生活・産業資材の営業利益率が 6% を超えて定着したら
- チューブの価格是正と海外の増設が実を結んだ証拠。中立の営業利益率を上げ、楽観側の確率を厚くする。
- 情報セキュリティの営業利益が 15 億円を超えて戻ったら
- 官公庁・IC カードの落ち込みが一服した証拠。BPO の伸びが AI 代替を上回るなら、数量の見通しを上方に直す。
- 持ち合い株の売却が止まり、本業の利益で配当を払い切れなくなったら
- 減配の可能性が高まる。還元を引き下げ、やや悲観側の確率を上げる。
- 売却代金が高収益の増設や買収に回り、ROIC が 8% に近づいたら
- 資本の使い方が変わった証拠。資本コストを超える ROE の筋書きの確率を上げる。
- 出版・商業印刷の赤字が拡大し、工場閉鎖が続いたら
- 縮みが計画より速い。やや悲観の確率を上げ、情報コミュニケーションの数量を下げる。
- 有力な買い手による TOB が出たら
- 資産の厚み(持ち合い株と純現金)が評価される。ただし買収の値段は、本質価値と別に考える。
見ておくもの
- 生活・産業資材の営業利益率と、インドネシア・ベトナムの増設の稼働
- 情報セキュリティの営業利益(官公庁向けデータプリント・IC カード・BPO)
- 持ち合い株の残高(純資産対比 15% 未満の達成)と、売却益の水準
- 配当(DOE 3.5%)と、本業の利益で払えているか
- 2028 年 3 月期の営業利益(会社目標 45 億円。2027 年 3 月期の予想は 25 億円)
倍率と資本コストの決め方
今の時価総額 470 億円や PBR 0.7 倍を見る前に、3 つのセグメントを市場規模 × シェアで積み上げ、10 年後の利益と資本コスト 8.75% から倍率を決めた。中立は ROE が 4% 台で資本コストに届かず、倍率は式の上限(1÷k)の 8 割に置いた。持ち合い株は、会社が数字で公表した縮減目標の分(手取り約 60 億円)だけ別に足し、残りは配当を利益に残した。借地の前受金の取り崩し(現金が入らない年 2 億円強)は営業利益から外した。結果は今の時価総額を 3 割強下回った。今の株価が倍でも半分でも、この数字は動かない。新リース会計基準の影響は小さく(リース負債は 13 億円)、10 年後の数字は今と同じ形で置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.3→12.83 倍・やや楽観 PER 10→11.43 倍・中立 PER 9.7→11.43 倍)。
資本コスト 8.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。