結論
ブシロードは、トレーディングカードゲーム(TCG)を主力に、ライブ、グッズ、スマホゲームを一社で回すエンタメ会社だ。筆者の結論は「割高」で、10 年の価値は今の時価総額を 4 割半ば ほど下回る。利益が当たり外れに寄りやすく、株主への還元もまだ薄いからだ。
稼ぎの柱はカードだ。2026 年 6 月期の TCG 売上は約 264 億円で、全体の半分近くを占める。海外が 114 億円まで育ち、新作のパルワールドのカードは売上の 65% を米国が占めるという。ここは確かに強い。
一方で、利益の厚みは薄い。営業利益は 47 億円で、売上に対して 8% だ。利益がほぼ消えた年が二度ある(2021 年と 2024 年)。今期予想の純利益 42 億円も、為替差益などの営業外の上積みを含む。新日本プロレスは 2026 年 6 月末にテレビ朝日とサイバーエージェントへ売った。利益がほとんど出ていない子会社を手放した形で、身軽にはなったが、稼ぐ力が増えたわけではない。
会社は 2030 年に営業利益 120〜150 億円を掲げる。2023 年に立てた計画は最終年度の営業利益を 133 億円としたが、今期の予想は 53 億円だ。筆者はその 3 分の 2 ほどしか見ない。中立の 10 年後は営業利益が 90 億円ほどで、倍率は 12 倍前後。配当性向が 1 割に満たない間は、稼ぎが株主に届きにくい。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見ると、ブシロードは「当たれば強いが、予測しにくい会社」だ。いちばん気にするのは、10 年後もこの事業が今より強いかどうかだ。カードの遊び手の網は積み上がる。ただし、パルワールドのような一つの大ヒットが利益を大きく動かす構造は、10 年先を見通すのを難しくする。わかりにくい事業には安全域を厚く取るのが、この見方の基本だ。
次に、株主のものになる利益、つまり事業に再投資した後に残るお金の量だ。ブシロードは稼いだ利益の 9 割を会社に残している。それ自体は成長に使うなら悪くないが、残した利益が高い稼ぎを生まないと、ROE は薄まる。今の ROE は 16% でも、手元の資本が増えれば 10% 前後へ下がるのが自然な姿だ。
経営の資本の使い方は、まだ判断の材料が少ない。新日本プロレスを 7 倍の値で売り切った点は評価できるが、2023 年の中期計画は最終年度の営業利益 133 億円に対し、今期予想は 53 億円にとどまる。社長が代わる時期でもあり、規律が定着したかは数年見る必要がある。
安全域は、今の値段にはほとんどない。筆者は、この会社を好きなIPの会社として見ることと、10 年持つ価値があるかを見ることは別だと考える。
何で稼ぐ会社か
ブシロードの稼ぎは五つの事業から成る。いちばん大きいのがカードだ。ヴァイスシュヴァルツ、カードファイト!! ヴァンガード、シャドウバース エボルヴ、そして 2026 年に世界同時発売したパルワールド オフィシャルカードゲームを、自社で企画して販売する。2026 年 6 月期の TCG 売上は国内 149 億円、海外 114 億円。海外比率は 43% で、今期は初めて 5 割を超える見通しだ。国内と海外あわせて、公認店は約 4,300 店ある。
二つ目はグッズ・フィギュア・プライズなどの MD で、通期 91 億円台。三つ目はライブだ。バンドリ!は 2026 年 6 月期に年間 25.7 万人を動員し、前年の約 15.4 万人から大きく増えた。グループ全体のライブ有料来場者は 98 万人になる。四つ目はスマートフォンゲームで、新作『BanG Dream! Our Notes』が今期のもう一つの期待材料だ。五つ目が新日本プロレスを中心にしたスポーツだったが、2026 年 6 月 30 日に全株をテレビ朝日ホールディングスとサイバーエージェントに 36 億円で売った。売却前の新日本は売上が約 48 億円で営業利益は約 2 億円と、利益がほぼ出ていなかった。
つまり、カードで稼いだ利益を、ライブやゲームの新しい IP の立ち上げに回す会社だ。ただし事業別の営業利益は開示されておらず、どの事業がどれだけ稼いでいるかは外から測りにくい。この分析では組み替えの推定値を使っている(notes に根拠)。
社長は 2026 年 9 月の株主総会後に、根本雄貴氏が引き継ぐ予定だ。創業者の木谷高明氏は引き続き関わる。
優良さと弱いところ
ブシロードの堀、つまり他社がまねしにくい強みは、カードの世界的な遊び手の網と、自社で作る IP の数だ。一方で、その堀は任天堂ほど深くない。理由は三つある。
一つ目は、カードの市場が競争の激しい世界だということだ。国内のトレカ市場は 2025 年度に約 3,400 億円(日本玩具協会)と、5 年で約 3 倍になった。その主役はポケモンカードやワンピースカード、遊戯王だ。ブシロードの国内シェアは 4% ほどで、勝ち筋は大手と正面から戦うことではなく、ヴァイスやヴァンガードの熱心な遊び手を守り、パルワールドのような新しい作品を海外で当てることにある。
二つ目は、利益の振れの大きさだ。営業利益率は過去 8 年で 1% から 10% の間を動き、純利益は 2021 年に赤字、2024 年は 8 億円まで落ちた。自己資本利益率(ROE)は直近 16% でも、過去 8 年の中央値は 13% だ。
三つ目は、人への依存だ。木谷氏は 2025 年に保有株の一部(400 万株)をポケットペアとアニメイトグループのアコスに売り、支配株主から外れた。社長も交代する。創業者の目利きで当てる会社から、仕組みで回す会社へ移る途中にある。
財務は悪くない。自己資本比率は 46%、純現金が 64 億円ある。借金で危うくなる会社ではない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
TCG の市場は、この数年で急に大きくなった。日本玩具協会によると、国内のトレカ市場は 2020 年度の約 1,100 億円から 2025 年度の約 3,384 億円へ膨らんだ。世界の市場は調査会社によって 84 億ドルから 147 億ドルまで見積もりがばらつく。民間調査では、世界は 2035 年までに今の 2 倍近くへ伸びるとの見方がある(Global Market Insights)。
ただし、この数年の伸びには投機の熱が混じる。木谷氏自身も、価格が定価の 2 倍になる状況は「望ましくない」と語っている。シンガポールでは購入者の約 6 割が転売目的だったという。ブシロードはヴァイスの箱の値段を下げて対処した。熱が冷めれば、市場は伸びが鈍る可能性がある。
競合は、ポケモンカードのポケモン、ワンピースカードのバンダイナムコ、遊戯王のコナミ、デュエル・マスターズのタカラトミーなどだ。上位は強い IP を一つ持ち、そこに集中している。ブシロードは IP を複数持つが、一つ一つの規模は小さい。
ライブとゲームの市場は成熟している。バンドリ!は長く続く看板だが、音楽ライブの新しい大型 IP を立ち上げるのは難しい。スマートフォンゲームは新作が当たる確率が低く、既存タイトルのサービス終了も続く。
世界の遊びの時間をめぐる競争も続く。カードは紙という特性で、ゲーム機やスマートフォンとは遊ぶ場面が違う。そこがカードの強みで、ブシロードもそこに集中している。
資本政策と M&A
株主への還元は薄い。2026 年 6 月期の配当の配当性向は 7% 台だった。来期は配当を増やす予想だが、予想純利益に対してなお 1 割ほどだ。2022 年に初めて配当を出した時、会社は純利益の 1 割程度を還元する方針に変えた。その水準から大きくは動いていない。自己株式の消却は行っている。
買収では、新日本プロレスが代表例だ。新日本は 2012 年に 5 億円で取得し、2026 年に 36 億円で売った。取得額の 7 倍だが、14 年かけた成果だ。営業利益はほとんど出ていなかった。カードは海外展開(マレーシアと中国に現地法人)を進めている。
株主構成は特殊だ。信託銀行が名義上の最大株主(約 29%)で、創業者の木谷氏は個人で約 6%、資産管理会社で約 13%を持つ。木谷氏は 2025 年に保有株を一部売り、支配株主ではなくなった。パルワールドの開発元のポケットペアが株主に加わったことは、カードの提携を考える上で見ておく点だ。
買収される側としては、kabufu の推計で 10 年以内の TOB の確率が 17.6% と出ている。ただし、筆者は公表資料から TOB の兆しは確かめられていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
カードは世界で伸びる。パルワールドのカードは第 1 弾と第 2 弾で出荷が 1,100 万パックを超える見通しで、売上の 65% を米国が占める。米国でヴァイスやヴァンガードを広げる足場にもなる。TCG の海外売上は 114 億円で、今期は初めて 5 割を超える。プレイヤーは 25 万人から 34 万人へ 1 年で 4 割近く増え、会社の 2030 年目標の 50 万人も見えてくる。
ライブとゲームも伸びている。バンドリ!の年間動員は 15 万人から 26 万人に増え、新作『アワーノーツ』は事前登録がグローバルで 160 万人に届いた。ライブ来場者は全体で 98 万人だ。
構造も変わった。新日本プロレスを売って、利益の出ない事業を切り離し、カードとIPに集中できる。売却で得た 36 億円は、カードの海外展開に使える。社長が根本氏に代わることで、創業者の勘に頼らない運営に移る。2030 年の営業利益 120〜150 億円は、売上 1,000 億円規模に届けば無理のない数字だ。TCG の市場そのものも、国内で 5 年で 3 倍になった。
慎重な見方
ブシロードの利益は、細い。営業利益率は 8% で、過去 8 年の間に 1% まで落ちた年もある。2023 年に立てた中期計画は、最終年度の営業利益を 133 億円としたが、今期の予想は 53 億円だ。2030 年の目標もまた、売上を倍にして利益を 3 倍にする話で、実績からは遠い。
パルワールドは一つの作品で、米国の売上が 65% を占める。人気は 2 年で冷める可能性がある。会社自身も、木谷氏が「急に失速することもあり得る」と述べている。ヴァイスとヴァンガードは一度失速している。海外の店頭では購入者の約 6 割が投機だった。
配当性向は 7% 台で、株主に届く利益は少ない。今期予想の純利益 42 億円は、為替差益などの営業外を含み、営業利益 53 億円から単純に出る額より厚い。2026 年 6 月期の純利益 46 億円も、新日本プロレス株の売却益を含む。
創業者は持ち株を一部売り、社長も代わる。ポケモンカードやワンピースカードのような巨大 IP と戦う世界で、規模の小さい会社が勝ち続けるのは楽ではない。
どちらに重みを置いたか
強気の見方で本物なのは、カードの海外が育っていることと、新日本を手放して身軽になったことだ。慎重な見方で強いのは、利益の薄さと、一つのヒットに寄る構造、そして株主への還元の薄さだ。会社の目標は過去に大きく外れており、割り引いて見る。
物価込みで積み上げても、10 年の営業利益は 90 億円ほどで、倍率は 12 倍前後にとどまる。今の値段は、パルワールドのような好調が続くことを織り込んでいるように見える。確率は、慎重な見方が強いと判断して、やや悲観と悲観を合わせて 4 割とした。同じ領域の会社より厚い。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/06 期)
確率で加重した株価時価総額 527 円709 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 119 円160 億円)。 今の値に割り戻すと 312 円420 億円、今との差 −42.5%、 期待の年率 +1.8%(資本コスト 8.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 1,196 円1,609 億円 | 216 円290 億円 | +160.0% | +10.0% | 113 円152 億円 |
| やや楽観 | 20% | 915 円1,231 億円 | 169 円228 億円 | +99.7% | +7.2% | 217 円292 億円 |
| 中立 | 32% | 648 円871 億円 | 130 円175 億円 | +43.2% | +3.7% | 249 円335 億円 |
| やや悲観 | 25% | 134 円180 億円 | 97 円130 億円 | −57.6% | −8.2% | 58 円77 億円 |
| 悲観 | 15% | 51 円69 億円 | 15 円20 億円 | −87.8% | −19.0% | 10 円13 億円 |
| 加重平均 | 100% | 527 円709 億円 | 119 円160 億円 | +19.0% | +1.8% | 646 円869 億円 |
今の株価時価総額 543 円731 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 8% パルワールドが世界の定番になり、米国と日本で二本柱 利益 110 億円 · PER 14.6 倍 · 株価時価総額 1,196 円1,609 億円
パルワールドのカードは米国の定番になり、遊ぶ人が世界で増え続ける。ヴァイスシュヴァルツとヴァンガードも東アジアと北米で店と大会の網が広がり、カード全体で遊ぶ人は 55 万人に届く。会社が掲げる 50 万人を超える姿だ。
カードの利益率は 25% に乗る。海外の販売を自社の現地法人で直接さばく割合が高まり、卸への依存が薄れるためだ。バンドリ!は新作『アワーノーツ』が定着し、ライブ来場は年 100 万人を大きく超える。グッズとゲームもIPの広がりに引っ張られる。
本社費は規模に応じて増えるが、売上の伸びがそれを上回る。営業利益は 160 億円近くになり、会社の 2030 年目標をやや遅れて達成する。経営が株主への還元を引き上げ、配当性向は 4 割台に乗る。ただ、この筋書きは、ヒットが何度も続くことを前提にしている。
- トレーディングカードゲーム(TCG):数量 55.0(TCG プレイヤー数(万人))× 価格 105,500(プレイヤー 1 人あたりの TCG 売上(円、名目))→ 売上 580 億円・営業利益 145 億円。プレイヤー 55 万人×価格 1.36 倍、営業利益率 25%
- MD(グッズ・フィギュア・プライズ):数量 900(販売点数(万点、推定))× 価格 2,100(1 点あたりの売上(円、名目))→ 売上 189 億円・営業利益 23 億円。900 万点×価格 1.38 倍、営業利益率 12%
- ライブ・メディア:数量 135(ライブ有料来場者数(万人)に換算した規模)× 価格 15,000(来場者 1 人あたりの収入(円、名目))→ 売上 202 億円・営業利益 26 億円。来場 135 万人相当×1.40 倍、営業利益率 13%
- デジタルゲーム:数量 150(アクティブ利用者数(万人、推定))× 価格 8,500(利用者 1 人あたりの年間売上(円、名目))→ 売上 128 億円・営業利益 13 億円。利用者 150 万人×1.46 倍、営業利益率 10%
倍率:事業の純利益 110 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.9% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.6 倍。全体の PER 14.63 倍、時価総額 1,609 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:パルワールドの人気が長続きし、ヴァイスやヴァンガードも海外で伸び、新作ゲームも当たる三つが重なる必要がある。会社の目標(2030 年に営業利益 120〜150 億円)は過去の計画が大きく未達だったため割り引き、確率は同じ領域の会社より低い 8% とした。
やや楽観 20% カードの海外が育ち、IP も広がる安定成長 利益 85 億円 · PER 14.2 倍 · 株価時価総額 915 円1,231 億円
カードは海外の比率が 5 割に乗り、遊ぶ人は 48 万人まで増える。パルワールドは第 1 弾の熱が冷めた後も、第 2 弾以降で一定の層を保つ。ヴァイスとヴァンガードは箱の値段を抑えた施策が効き、転売で離れた層も戻る。
ライブはバンドリ!の動員が伸び、新しい音楽 IP が一つ育つ。グッズも海外のイベント販売が増える。ただし、どの事業も会社の目標には届かない。営業利益は 120 億円台で、売上の 11% 前後だ。
社長が根本氏に代わり、経営は分散型の運営へ進む。配当性向は 4 割ほどになり、自社株買いも小幅に続く。カードの収益性は高いまま保たれ、規模が大きくなる分だけ安定感が増す。大ヒットがなくても届く、現実的に良い方の筋書きだ。
- トレーディングカードゲーム(TCG):数量 48.0(TCG プレイヤー数(万人))× 価格 105,000(プレイヤー 1 人あたりの TCG 売上(円、名目))→ 売上 504 億円・営業利益 121 億円。プレイヤー 48 万人×価格 1.35 倍、営業利益率 24%
- MD(グッズ・フィギュア・プライズ):数量 800(販売点数(万点、推定))× 価格 2,080(1 点あたりの売上(円、名目))→ 売上 166 億円・営業利益 18 億円。800 万点×価格 1.37 倍、営業利益率 11%
- ライブ・メディア:数量 120(ライブ有料来場者数(万人)に換算した規模)× 価格 14,800(来場者 1 人あたりの収入(円、名目))→ 売上 178 億円・営業利益 21 億円。来場 120 万人相当×1.38 倍、営業利益率 12%
- デジタルゲーム:数量 130(アクティブ利用者数(万人、推定))× 価格 8,000(利用者 1 人あたりの年間売上(円、名目))→ 売上 104 億円・営業利益 8 億円。利用者 130 万人×1.37 倍、営業利益率 8%
倍率:事業の純利益 85 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.5% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.1 倍。全体の PER 14.15 倍、時価総額 1,203 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:カードの海外比率が 5 割に乗り、ライブも安定して来場者を増やす姿。実現しても営業利益率は 2 割に届かず、会社目標の約 8 割にとどまる。大型ヒットは要らないが、複数の手が少しずつ当たる必要があるので 20%。
中立 32% ヒットの波を均して、堅実なカード会社に落ち着く 利益 62 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 648 円871 億円
カードは世界で緩やかに伸び、遊ぶ人は 42 万人になる。パルワールドは主要作の一つとして残るが、ヒットの波を均すと、毎年の売上は今期予想の水準を少しずつ上回る程度だ。ヴァイスとヴァンガードは国内で安定し、海外でじわじわ増える。
ライブとゲームは、バンドリ!が長寿の看板として続く一方、新規の大型 IP は出にくい。MD は IP の広がりに沿って伸びる。新日本プロレスを手放したことで、売上は 50 億円ほど軽くなり、利益率は上がる。
営業利益は 90 億円ほどで、売上の 11% 弱だ。本社費も物価で増えるため、利益率は大きくは上がらない。還元は、投資に回す分を優先して 3 割台半ばにとどまり、手元の資本が少し厚くなる。堅実だが、驚きのない会社になる。
- トレーディングカードゲーム(TCG):数量 42.0(TCG プレイヤー数(万人))× 価格 104,700(プレイヤー 1 人あたりの TCG 売上(円、名目))→ 売上 440 億円・営業利益 97 億円。プレイヤー 42 万人×価格 1.35 倍、営業利益率 22%
- MD(グッズ・フィギュア・プライズ):数量 700(販売点数(万点、推定))× 価格 2,050(1 点あたりの売上(円、名目))→ 売上 144 億円・営業利益 14 億円。700 万点×価格 1.35 倍、営業利益率 10%
- ライブ・メディア:数量 110(ライブ有料来場者数(万人)に換算した規模)× 価格 14,400(来場者 1 人あたりの収入(円、名目))→ 売上 158 億円・営業利益 16 億円。来場 110 万人相当×1.34 倍、営業利益率 10%
- デジタルゲーム:数量 120(アクティブ利用者数(万人、推定))× 価格 7,800(利用者 1 人あたりの年間売上(円、名目))→ 売上 94 億円・営業利益 7 億円。利用者は横ばい 120 万人×1.34 倍、営業利益率 7%
倍率:事業の純利益 62 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.5% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍。全体の PER 13.32 倍、時価総額 826 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:営業利益は今期予想の 53 億円から緩やかに伸びる。過去 8 年の中央値の営業利益率 8% を少し上回る程度に収まる姿で、最も多くの道筋が通る。慎重な見方の方が強いと見て、確率は 3 割強にとどめた。
やや悲観 25% ヒットが一巡し、競合に押されて利益が細る 利益 16 億円 · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 134 円180 億円
パルワールドの人気は第 2 弾以降で落ち着き、世界のカード市場でポケモンカードやワンピースカードに押される。ヴァイスとヴァンガードも、転売の熱が冷めたあとは新規の遊び手が増えず、プレイヤーは今の 34 万人あたりで止まる。
カードの利益率は 15% まで下がる。広告と大会の費用は減らせず、卸との値引き競争も続くためだ。ゲームは新作が思うように育たず、既存タイトルのサービス終了も重なって、赤字すれすれになる。
本社費は物価分だけ増え、営業利益は 20 億円台にとどまる。2021 年や 2024 年のように、利益がほぼ消える年が出る。還元は利益に応じて小さくなり、手元の現金も新作投資と在庫で使われる。優良な会社の姿からは、はっきり後退する。
- トレーディングカードゲーム(TCG):数量 33.0(TCG プレイヤー数(万人))× 価格 100,900(プレイヤー 1 人あたりの TCG 売上(円、名目))→ 売上 333 億円・営業利益 50 億円。プレイヤーは今並みの 33 万人×価格 1.30 倍、営業利益率 15%
- MD(グッズ・フィギュア・プライズ):数量 600(販売点数(万点、推定))× 価格 1,950(1 点あたりの売上(円、名目))→ 売上 117 億円・営業利益 8 億円。600 万点×1.29 倍、営業利益率 7%
- ライブ・メディア:数量 90.0(ライブ有料来場者数(万人)に換算した規模)× 価格 13,000(来場者 1 人あたりの収入(円、名目))→ 売上 117 億円・営業利益 7 億円。来場 90 万人相当×1.21 倍、営業利益率 6%
- デジタルゲーム:数量 90.0(アクティブ利用者数(万人、推定))× 価格 7,000(利用者 1 人あたりの年間売上(円、名目))→ 売上 63 億円・営業利益 1 億円。利用者 90 万人×1.20 倍、営業利益率 2%
倍率:事業の ROE 3.7% が k 8.5% を下回るので PER の上限は 1÷k の約 11.8 倍まで。利益の質は低く、上限の 8 割の 9.5 倍。
確率:カードは世界で競争が激しく、パルワールドの人気も一巡する可能性が高い。2021 年と 2024 年に利益がほぼ消えた前例があり、小さな会社でヒットに頼る構造は変わらないので、やや悲観の確率を 25% と厚くした。
悲観 15% ヒットの谷が続き、赤字の会社に戻る 利益 −25 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 51 円69 億円
カードの二大看板であるヴァイスシュヴァルツとヴァンガードが世代交代に失敗し、パルワールドの人気も続かない。遊ぶ人は 25 万人まで縮み、卸と店の取り分が増える。カードの利益率は 5% まで落ち、他の事業も赤字を出す。
社長交代後の方針の混乱や、創業者の持ち株の動きが重なり、ライブとゲームは新しい IP が出ず、バンドリ!の動員も減る。本社費を削っても、営業利益は赤字に沈む。
会社は事業を絞り、資産を売って食いつなぐ。配当は手元の現金と資産の売却で、細く続けるのがやっと。2021 年に営業利益が 3 億円まで落ちた時よりも、構造が悪い。残るのは純現金と、ブランドの値打ちが落ちたカード事業だ。
- トレーディングカードゲーム(TCG):数量 25.0(TCG プレイヤー数(万人))× 価格 89,200(プレイヤー 1 人あたりの TCG 売上(円、名目))→ 売上 223 億円・営業利益 11 億円。プレイヤー 25 万人×価格 1.15 倍、営業利益率 5%
- MD(グッズ・フィギュア・プライズ):数量 400(販売点数(万点、推定))× 価格 1,800(1 点あたりの売上(円、名目))→ 売上 72 億円・営業利益 0 億円。400 万点×1.19 倍、利益ほぼゼロ
- ライブ・メディア:数量 70.0(ライブ有料来場者数(万人)に換算した規模)× 価格 11,500(来場者 1 人あたりの収入(円、名目))→ 売上 80 億円・営業利益 −2 億円。来場 70 万人相当×1.07 倍、小幅の赤字
- デジタルゲーム:数量 40.0(アクティブ利用者数(万人、推定))× 価格 6,000(利用者 1 人あたりの年間売上(円、名目))→ 売上 24 億円・営業利益 −2 億円。利用者 40 万人×1.03 倍、赤字
倍率:赤字で優良さを失う筋書きなので PBR。稼ぐ力は無く、床は純現金 64 億円ほど。今の自己資本 287 億円に 0.24 倍を掛け、純現金とほぼ同額に置いた。
確率:カードの二大看板が弱り、新しい柱も育たず、規模の小さい会社が固定費だけ残る姿。社長交代と創業者の持ち株の動きもあり、一度崩れると立て直しに時間がかかる。同領域の会社より厚く 15% を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
トレーディングカードゲーム(TCG)
ヴァイスシュヴァルツ、カードファイト!! ヴァンガード、シャドウバース エボルヴ、パルワールド オフィシャルカードゲームの製造と販売。国内と海外の店舗・大会網を持つ。
| 数量TCG プレイヤー数(万人) | 価格プレイヤー 1 人あたりの TCG 売上(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 34.0 | 77,600 | 264 | 55 |
| 10 年後 中立 | 42.0 | 104,700 | 440 | 97 |
取り方:2026 年 6 月期の TCG 売上は国内 149.3 億円+海外 114.5 億円=約 264 億円、プレイヤーは会社開示の 34 万人。売上をプレイヤー数で割った額が価格。コレクターや店頭在庫の分も含む割り算なので、1 人が使う額そのものではない。人数は実質、1 人あたりの売上は物価込みの名目。営業利益は開示が無く、全社の営業利益から本社費を引いた推定。
MD(グッズ・フィギュア・プライズ)
IP のグッズ、フィギュア、ゲームセンター向けのプライズの企画と販売。
| 数量販売点数(万点、推定) | 価格1 点あたりの売上(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 600 | 1,517 | 91 | 9 |
| 10 年後 中立 | 700 | 2,050 | 144 | 14 |
取り方:MD の年間売上は 91 億円台と会社が説明。1 点あたり平均千数百円と仮定して点数を推定した(開示なし)。営業利益は推定で、利益率は 1 割弱とみる。
ライブ・メディア
バンドリ!などの音楽ライブ・舞台、アニメなどメディアコンテンツ、ライブ周辺の収入。
| 数量ライブ有料来場者数(万人)に換算した規模 | 価格来場者 1 人あたりの収入(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 98.0 | 10,714 | 105 | 10 |
| 10 年後 中立 | 110 | 14,400 | 158 | 16 |
取り方:ライブ有料来場者は会社開示の 98 万人。ライブとメディアの売上を 105 億円と推定(第 4 四半期の売上の 4 倍から換算)し、来場者数で割った額を価格にした。メディアは来場者に紐づけて均した推定値。営業利益は推定。
デジタルゲーム
『BanG Dream! ガルパ』などスマートフォンゲームの運営と、新作『アワーノーツ』の開発。
| 数量アクティブ利用者数(万人、推定) | 価格利用者 1 人あたりの年間売上(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 120 | 5,833 | 70 | 5 |
| 10 年後 中立 | 120 | 7,800 | 94 | 7 |
取り方:デジタルゲームの売上は第 4 四半期が 13 億円で前年より減少。通期は約 70 億円と推定し、利用者を 120 万人と仮定して 1 人あたりを出した(開示なし)。営業利益は推定で薄い。
リスクと懸念
パルワールド頼みと米国依存
パルワールドのカードは売上の 65% が米国で、第 1 弾だけで出荷が数百万パックに達した。第 2 弾以降が続かなければ、今期の増益の柱が崩れる。木谷氏自身が「急に失速することもあり得る」と話しており、単一作品とひとつの国への偏りは大きい。
投機の熱が冷めた後の需要
国内のトレカ市場は 5 年で約 3 倍になったが、価格の高騰や転売の熱が混じる。シンガポールでは購入者の約 6 割が転売目的だったという。熱が冷めれば、遊び手でない購入者が抜け、出荷が数年で大きく落ちる可能性がある。
利益の薄さと振れ
営業利益率は過去 8 年で 1% から 10% の間を動き、2021 年に純損失、2024 年は営業利益 9 億円まで落ちた。固定費の本社費や広告費が重く、売上が数割動くと利益がほぼ消える。会社の 2030 年目標(営業利益 120〜150 億円)は、2023 年の計画が最終年度の予想で大きく届かない前例から、そのままは信じない。
経営の交代と創業者の持ち株
2026 年 9 月に根本雄貴氏が社長に就く。木谷氏は 2025 年に 400 万株を売って支配株主から外れた。創業者の目利きで当てる運営から、仕組みで回す運営へ移る過程で、資本政策や IP の選び方が変わる可能性がある。
新作ゲームとライブの当たり外れ
新作『BanG Dream! Our Notes』の売上は会社も「水物」と見て、予想は保守的だ。既存タイトルにはサービスを終えるものもある。ライブは動員が急に伸びたが、新しい大型 IP を次々立ち上げるのは難しく、バンドリ!への依存が残る。
巨大 IP との競争
ポケモンカード、ワンピースカード、遊戯王といった巨大 IP が市場の大半を握る。ブシロードの国内シェアは 4% ほどで、競合が値下げや新作の連発で攻めれば、店頭の棚と遊び手を奪われる。広告と大会の費用は、勝ち負けにかかわらず出ていく。
為替と原価
TCG は海外販売の比率が高い。2026 年 6 月期の経常利益が営業利益を 12 億円上回ったのは、為替差益などの営業外収益が大きい。この前提は 150 円で固定したが、円高になれば営業外の上積みが消え、純利益は計画を下回る。
今後の分かれ目
- パルワールドのカードの第 2 弾・第 3 弾も、第 1 弾に近い出荷と米国での大会参加が続いたら
- 楽観・やや楽観の筋書きの確率を上げてよい。カードの利益率が 2 割を保てるかも合わせて見る。
- ヴァイスシュヴァルツとヴァンガードの国内出荷が 2 年続けて前年を割ったら
- やや悲観に重みを移す。投機が抜けた後の本当の遊び手の数が、見かけより少ないことを示す。
- 営業利益が 2 期続けて 60 億円を超え、配当性向も 3 割以上に引き上げられたら
- 中立の確率を上げ、倍率の見方も上へ直す。稼ぎが株主に届く形になったということだ。
- 『BanG Dream! Our Notes』が長く続く看板になり、ライブ動員が 120 万人を超えたら
- ライブ・メディアの利益率を上方に直す。カード以外にも柱ができ、利益の振れが和らぐ。
- 新社長の下で、買収や大型投資を発表し、現金が大きく減ったら
- 資本の使い方を再点検する。2023 年の計画のように目標が届かなければ、悲観側の確率を上げる。
- 円高が 2 割ほど進んで続いたら
- 営業外の為替差益が消え、純利益の前提を下げる。
見ておくもの
- パルワールド第 2 弾・第 3 弾の出荷パック数と米国での大会参加者数
- TCG 売上の海外比率と、ヴァイス・ヴァンガードの国内出荷の前年比
- 営業利益率(今期予想は約 9%)と、営業外収益の中身
- 配当性向と自社株買いの規模
- 新社長の経営方針と、創業者の持ち株の動き
倍率と資本コストの決め方
倍率は、事業の ROE から式 (1−g÷RONIC)÷(k−g) で出した。k は 8.5%(基本 7.5% に、当たり外れの循環と寿命の上乗せ 1%)。中立は ROE が k をわずかに上回るので、下限の 1÷k に近い 12 倍に置いた。今の PER や同業の PER は倍率に使っていない。10 年後の自己資本は、還元の薄さを反映して今の 2 倍超まで積み上がるため、ROE は今より低くなる。新リース会計基準で数字の形が変わる点は、今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。最後に今の株価と比べて、はっきり割高と出た。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13→14.63 倍・やや楽観 PER 12.4→14.15 倍・中立 PER 12→13.32 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。